双極の理創造   作:シモツキ

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第百三十話 『つまらない』と『面白い』

 今日は、普段とは違う面子で…というか、千㟢に加えて綾袮さん、妃乃さんとも昼食を取った。とはいえ千㟢は言わずもがな、綾袮さんも休みの日は普通に一緒に食事をしてる訳で、そんな極端に特別な事が起こったって訳じゃない。学校で、って意味じゃ高校に入って以降は殆ど無かった事だから、至って普通って訳でもないけど…まぁ、今日は珍しい事があったなぁって程度の事。

 で、今は夕食後。夕飯を食べ、片付け……それからちょっと訓練中。

 

「…こんな感じ?」

「ううん、まだ甘い」

 

 護身用として携帯しているナイフに霊力を通す俺。それをラフィーネさん、フォリンさんの二人に見せると、二人は首を横に振る。

 元々訓練をする予定だった訳じゃない。けれど魔人との戦いがあったばかりだからか、自然と会話がその方向に進んでいって、訓練…というか、指導を受ける流れになった。

 

「うーん…俺としては、かなり詰め込んでるつもりなんだけど…」

「込め方が荒い」

「…そう?」

「そうですね。というか、考え方も間違っています。顕人さんは霊力量に長けているので、力任せのやり方をしてしまいがちなのは分かりますが」

 

 俺が今指導をされているのは、武器へ対する霊力の込め方。二人曰く、俺の込め方は雑らしい。

 

「いいですか顕人さん。霊力は武器の上限ギリギリまで込めた方が、当然斬れ味や強度が向上します。なので、詰め込むというのもまるっきり間違っている訳ではありませんが……そうですね、タンスを想像してみて下さい。…服を収納する棚は、タンスでいいんでしたよね…?」

「あ、うん。大丈夫」

「ありがとうございます。で、そのタンスですが、ぐちゃぐちゃに服を詰め込んだ場合と、きちんと畳んで入れた場合は、どちらの方がより多く入るか…という事です」

「…今の俺はぐちゃぐちゃに入れてるような状態、って事?」

「そう。もっと圧縮と収束をさせれば、入れられる霊力も増える」

 

 例えを出してくれたおかげで、すんなりと入ってくるフォリンさんの指導。二人の言葉を受け、ナイフを入れ物に見立てて霊力の圧縮と収束を意識するけど……

 

「…今度は、どう?」

「ちょっと良くなった。でもちょっとしか良くなってない」

「そ、そっか……」

 

 残念ながら、けれど当たり前と言えば当たり前ながら、そんなすぐには改善されなかった。

 とはいえ、二人の言っている事が間違っている訳はない。だから暫く霊力を込める練習をして……けれどやっぱり、多少良くなったの域を出られないまま時間が過ぎる。

 

「むむむ……」

「顕人君は、細かい調整はせずに少し位溢れちゃうのは気にしないで出力する、ってやり方をしてきたからねぇ。それが癖になっちゃってて、頭と身体でやろうとしてる事のズレが起きちゃってたりもするんじゃない?」

 

 俺が唸る中、聞こえてきたのは綾袮さんの声。実はさっきからいたんだけど、どうもここまではラフィーネさん達に任せるスタンスだったらしく、口を挟んできたのはこれが初めて。

 

「それは…うん、あるかも……」

「…綾袮はそう教えたの?」

「教えたっていうか、その方法に対して何も言わなかった…って感じかな。顕人君の霊力量なら多少ロスしちゃっても支障はないし、細かい調整で時間がかかるよりは、雑でも即霊力を込められる方が今の…じゃないね、これまでの顕人君には合ってるかなって。顕人君は積極的に接近戦を仕掛けるタイプじゃないしさ」

 

 言われてみればその通り。勿論多少の手解きやら基本的な説明やらは受けたけど、今の俺の込め方は自分で見つけ出したもの。…というより、これまで武器への霊力の込め方はこういうもんだと思っていたから、実はラフィーネさん達からの指摘は俺にとって内心驚きの事実だったりもする。

 

「…では、私達は不要…又はすべきではない事を教えてしまいましたか?」

「あ、ううん。それは大丈夫だよ。顕人君が努力を続けていればいつかは自分でも当たってた問題だと思うし、そうなれば早かれ遅かれ教える事になってたと思うからね。それに……」

『それに…?』

「二人が教えてくれるならその分わたしは楽になるし、不要どころか大助かりって感じだねっ!」

『…………』

 

 何の悪びれもなく、むしろ元気一杯にそう言い切る綾袮さんに対し、俺は勿論二人も呆れてしまっていた。そして同時に、俺等は思った。なんて先生だ、と。

 

「…え、と…霊力の圧縮や収束は適性や才能の面もあるので絶対とは言えませんが、練習を重ねれば今より良い状態になる筈です」

「うん。これからも練習するなら、わたしも協力する」

「二人共……ありがとう。なら、今日ももう少し頑張ってみるよ」

「顕人、その意気」

 

 その反面、ロサイアーズ姉妹の何と良い先生である事か(まぁ、適当な事言いつつもいつも綾袮さんはちゃんと俺の訓練に付き合ってくれるんだけど)。二人への感謝の念を抱きながら、そんな二人の気持ちを無駄にしない為にも頑張ろうと思い、俺は再びナイフへと霊力を込め……始めた瞬間、携帯が鳴った。

 

「おっと……ん?園咲さん…?…いつの間に俺のアドレスを…」

「連絡先は協会に提出してるでしょ?」

「あ、そういう事か…」

 

 ナイフの代わりに携帯を持ち、送られてきたメールを開封。すると最初に書いてあったのは、メアドをどうやって得たのか(綾袮さんの言う通りだった)の説明で、その下の本題は、少し前に頼んだ装備の強化が完了したという旨のもの。…そっか、提示されたプランに答えてから、特に連絡がなかったけど……遂に完成したのか…。

 

「何か用事?」

「用事っていうか…ま、そうだね。って訳で、明日は双統殿に行くとするよ」

「そっか、おやつは三百円までだよ?」

「遠足か!てかそのルール、割と現代じゃ徹底されてないからね?」

「え、そうなの!?」

 

 突っ込んだついでに補足すると、予想以上に綾袮さんは驚愕。そんなに驚く…?…と切り返そうかとも思ったけど…それは止めた。小中学校に行った事のない綾袮さんは知らなくても当然で……そこに軽い気持ちで切り返すのは、綾袮さんに悪いと思ったから。

 

「…こほん。そういう事だから、まぁ宜しく」

「あ、うん。…三百円じゃないんだ……」

「三百円に拘りますね…」

「…どうして三百円なの?」

「へ?…それは…うーん、何でだろう…」

 

 まだ気になってる様子の綾袮さんに、三百円である事に興味を示したラフィーネさん。そこから何故か、三百円である事の意義についての話になってしまい……俺の訓練は、遠足のおやつに取って代わられてしまうのだった。…びっくりだよ……。

 

 

 

 

 翌日。学校から家に帰った俺は鞄だけを置いて双統殿に向かい、指定された時刻の約十分前に技術開発部へと到着した。

 

(あー…ちょっとドキドキするなぁ……)

 

 緊張…というよりは、期待で心拍数が上がっている。ゲームを買った帰りのような、或いは包装を開けている最中のような、ちょっとしたドキドキ感。それを感じながら、俺は中へ。

 

「失礼しま「やぁ、待ってたよ」うわぁ!?」

 

 いつものように、俺は一声かけつつ扉を開けて……次の瞬間、ビビった。だって、扉の真ん前に園咲さんがいたんだから。

 

「あぁ、すまない。驚かせてしまったかな」

「あ、い、いえ…あの、何故ここに…?」

「いやなに、私も今廊下に出ようと思っていてね。丁度そこで君が来たのが分かったから、止まって待っていたのさ」

「は、はぁ……あ、すみません。ではお邪魔でしたね…」

「悪いね。数分で戻ってくるから、奥の私の部屋で待っていてくれ」

 

 そう言って園咲さんは部屋を出て、俺は言われた通りに奥の部屋へ。ソファに座って待っていると、言葉通りに数分程して園咲さんが戻ってくる。

 

「さて…今日君を呼んだ理由は、送ったメールの通りだ」

「はい。個人的な頼みを引き受けて下さり、ありがとうございました」

「ふふ、私も浮かんだアイデアを形に出来て楽しかったよ。…で、だ。顕人君。データ上では何の問題もなく完成した訳だが、実際に使うとなると必ずしもデータ上と同じになるとは限らない。それに私も、出来るだけ早く使ってみての感想を聞いてみたい。という訳で…時間は、大丈夫かな?」

 

 早速本題に入った園咲さんの、時間は大丈夫か…という言葉。それが意味する事なんて、一つしかない。

 

「勿論です」

「ならば、早速試してみようか」

 

 力強く俺が首肯すると、園咲さんは求めていた答えが得られた、とばかりに小さく大人っぽい(いや園咲さんは大人だけど)笑みを浮かべる。そして、俺も園咲さんも立ち上がり…この場を後に。

 

「トレーニングルームの控え室に武装一式を持って行ってもらったから、まずは装備してみてくれるかい?」

「はい。…あ、もしや先程出て行ったのは……」

「そういう事だよ、顕人君」

 

 そんな会話を道中にしながら、俺と園咲さんはトレーニングルームへ。言われた通りに控え室へ向かうと…そこでは強化の施された俺の装備が、静かに佇み待っていた。

 

「…………」

 

 今度こそ緊張で心拍数が上がりながら、俺は装備一式を纏う。この時点で変わった点も幾つかあったけど…焦る事はない。これから一つ一つ、確かめていけばいいんだから。

 

「…さぁ、見せてもらうよ、顕人君。この装備が、どれだけ君に合うのかを」

「すぅ、はぁ…はい……!」

 

 園咲さんからの言葉に首肯し、俺は小さく深呼吸。そして、全神経を集中させ、霊力を推進剤としてスラスターを点火し……飛び上がる。

 

「うぉ……ッ!」

 

 ぐんと飛翔する俺の身体。飛ぶ感覚に、飛び上がる勢いに、俺が体感したのはこれまでとは違う速さ。

 強化された装備は、スラスターが増設されていた。スラスター…つまり推進力を生み出す装置が増えれば、当然加速力も引き出せる最高速度も上昇する。となればその分、制御も難しくなるけれど……俺の要望に合わせて調整してくれているのか、使いこなせない程じゃない。

 

(……っ、とと…!)

 

 とはいえ、それは単純な動きをした場合。ただ飛ぶのではなく、飛び回るとなると話は別で、これまでの感覚と今の推力の差から、どうしても俺の身体は流れてしまう。これは、早速今後頑張るべき事が一つ見つかったな…!

 

「次…射撃、いきます…ッ!」

 

 暫く(と言っても数分、長くても十数分)飛んでいた俺は、区切りを付けて次の行動に。

 ただ試しに使ってみるだけなら、降りて落ち着いて撃てば良い。けど俺が想定しているのは実戦で、万全の状態で武器を使えるとは限らないのが実戦ってもの。だからあくまで空中機動は続けたまま、左手を腰に伸ばし、そこからライフルを抜き放つ。

 

「顕人君、それは最も変更点が少ない…というより多少調整しただけだから、恐らく使った上での感覚は殆ど変わらない筈だ。どうかな?」

「確かに、ちょっと使い易くなってますけど…同じ武器、って感じです!」

「それなら良かった。…ならば、次は……」

「えぇ……ッ!」

 

 セミオートとフルオートを切り替え何度か的に撃っていると、下からそんな声が聞こえた。だから俺はそれに返し、続く言葉に呼応するように、空いている右手も逆側の腰へ。

 これまでなら、この流れで抜くのは拳銃。ライフルと拳銃による、二丁銃スタイルをこれまで何度かやってきた。…けど、今は違う。今俺が手を伸ばし、掴み、本来のサイズへと戻したのは……もう一丁の、メインウェポン。そして放たれるのは、その全体が霊力で構成された青の弾丸。

 

(これが…純霊力タイプのライフル…!)

 

 左右の手を切り替えるようにして右手のライフルを的に向け、狙いを定めてフルオート。感じるのは、込めた霊力が一定の勢いで流れていく感覚。

 純霊力装備…つまり弾頭や刃を霊力だけて構成した、SFて言う『ビーム○○』的な装備は、霊力を付与する装備に比べてその消費が大きい。別々に使った場合はともかく、付与タイプを撃った後すぐに使ってみるとその差は明白で、『弾丸を霊力で強化する』のと、『霊力を弾丸にする』事の違いがよく分かった。……まぁ、試射だけなら春にもやった事はあるんだけど。

 

「…そうだ……!」

 

 こちらもある程度撃ったところで、再び左のライフルも的に向けて、左右同時発射。片方は拳銃だった時とは格段に違うその火力に、俺は撃ちながら興奮を覚え……その数秒後、純霊力タイプのライフルだけがふっと弾切れを起こしてしまった。

 

「…何か異常かい?」

「いえ、霊力の操作をミスっただけです!…実体弾と霊力弾の同時使用って、難しいですね…」

「まるっきりではないとはいえ、左右で違う作業をする訳だからね。難しいのは当然だよ」

 

 弾切れに一瞬驚いた俺だけど、すぐにその理由に気付いて言葉を返す。

 背負っている二門の砲も、純霊力タイプ。だから、実体弾との同時発射はこれが初めてじゃないけど…とにかく大量の霊力を注げば良かった砲と違って、ライフルは(機器側なサポートがあるとはいえ)意識しなきゃいけない点が幾つかあるから、これまでと同じつもりじゃ同時発射や一斉掃射はやっていけない。…と、いう訳で…これが二つ目の頑張るべき点。

 

(砲……は、順当な強化って感じだね。だったら、最後は……)

 

 感覚を確認するべくもう一度だけ右のライフルを撃って、それから砲撃も何度かして、遠隔武器の試射は終了。千㟢から貰った短刀はそのままだからいいとして…残った武器は、二振りの新たな近接武器。

 

「ふ……ッ!」

 

 軽い宙返り飛行に入った俺は、下降の軌道に入ると同時に加速。的に向かって突進し、二振りの武器……新たなライフル同様純霊力タイプである片手剣を、両腕を交差させてスタンバイ。そして、的に肉薄した次の瞬間居合いの如く抜き放って……

 

「……ありゃ…?」

 

……どういう訳か、出力した二本の霊力刃は、俺の身長の倍以上はあるんじゃないかってレベルの長さになってしまうのだった。

 

 

 

 

「ふー……」

 

 トレーニングルームに来てから数十分。一通り試してみた俺は、休憩室でその感想を園咲さんに伝えていた。

 

「全体を通して言うと、より俺の長所を活かせる…というか、まだいける…って感じていた部分が実現したように感じました」

「ふふ、それは嬉しい感想だね。依頼主の期待に応えられたのなら、技術者冥利に尽きるというものだよ」

「い、いえこちらこそありがとうございます!…それで一つ聞きたいんですが、先程霊力刃がやたらと長くなってしまったのは……」

「無闇に霊力を出力し過ぎた結果だろうね。慣れていないとよくある事さ」

 

 ふっと笑みを浮かべた園咲さんに、慌てて俺は言葉を返す。…園咲さん、少し掴みところがない事もあって、急に微笑まれたりすると軽く動揺するんだよな…もっと会う頻度が増えれば、自然になれると思うけど…。

 と思いつつも、俺は一つ質問。やはりというか、刃が長くなり過ぎてしまったのは霊力のかけ過ぎが原因だったらしい(因みに一定の長さになるよう調整してないのは、長さを変えられる事が利点になる事もあるかだとか)。

 

「そうなんですか……もう一つ質問いいですか?」

「あぁ、構わないよ」

「では、同じく霊力刃の事ですが……何mも伸ばせるなら、伸ばした状態で戦う方が良さそうにも思うんですが、実際にそうして戦う人はいるんですか?」

「いいや、瞬間的にそうする人はいなくもないけど、その状態を標準として扱う人はいないだろうね。それではあまりにも使い辛い」

「…そうですか?」

 

 リーチの長さは、それ単体で相手との優劣を決められる要素の一つ。加えて長ければ複数の相手を薙ぎ払う事も出来る上、霊力で刃を構成している以上、重量に悩まされる事もない筈。そう思って俺は訊いたけど、返ってきたのは否定の言葉。

 

「単純な話だよ。確かに長ければその分広範囲をカバー出来るけど、その範囲内に入りあるのは何も敵だけじゃないだろう?」

「…味方を斬り付ける危険性がある、という事ですか…?」

「そう、長いと味方にとっても脅威になりかねない。加えて長い物は短い物に比べて、振り終わるまでの時間がかかる。一瞬の判断が明暗を分ける事もある近接戦の場合、その払う時間は致命的な欠点になる事もあり得るだろう。素早い戦闘をしながら、長さを適切に切り替えるのは大変だからね」

「…確かに……」

「そして…何より顕人君。半端に開いた距離なら、撃つか接近した方がずっと楽で確実じゃないかい?」

「あ……」

 

 園咲さんの挙げた、三つの理由。それ等は全て、納得のいくものだった。言われてみれば、どれもその通りだった。…過ぎたるは猶及ばざるが如し、って事か……。

 

「これは開発にも言える事だが、『出来る』のに『していない』のは、大概やらない方が良い理由があるものだよ。技術であったり、コストであったり、実用性であったり、その理由は様々だけどね」

「…今回の場合は、実用性に難があるから、という事ですか…」

「…けれど、それじゃあつまらないと思うのもまた技術者なのさ。顕人君、君もそう思わないかい?」

「え、お、俺ですか?…俺は……」

 

 敢えてやらない理由がある。やれるからって何でもするものじゃない。……そんなありがたいうご教授かと思いきや、その直後に園咲さんは意見をひっくり返してきた。しかも、それが本心だと言わんばかりの表情で。

 現実的な選択は、つまらないかどうか。前置きとして一つ言うなら、敢えてやらない事の重要さを俺は理解出来るし、普通に生活する限りはその考えを大切にしている。…というか、そうだ。普段の俺なら、もっと早い段階で園咲さんに指摘された事に気付いていた筈なんだ。なのに気付かず、実用性に欠ける事を想像したのは……

 

「…そう、ですね。俺もそう思います。やってみたい事、実現したい事を、現実的じゃないからって止めるのは……つまらないと、思います」

「ふっ、そうだろう?君ならばそう言うと思っていたよ、顕人君」

「そ、そう言うと思っていたんですか?」

「無論。そもそも今の君が余りある霊力を活かすなら、長距離砲撃に専念した方が楽且つ安全だろうからね。そしてそれを、綾袮君が気付いていない訳もない。にも関わらず、飛び回り、あまつさえ近接戦にも手を出すという事は……」

「…はは、お見通しなんですね……」

 

 後方からの火力支援の方が、というのは夏休みにも言われた事。それでもそうしないのは、俺の我が儘であり…したい事があるという、俺の意思。そしてそれを見抜かれるというのは…ちょっと、恥ずかしかった。

 

「私一人では作ったところで実戦運用が出来ないからね。だから君の様に、理解ある霊装者がいるのは素直に嬉しいんだよ」

「…そんなにいないんですか?理解ある人は……」

「多少はいるさ。けれど、装備や立ち回りにおいて自由が効き、尚且つとなると…ね」

「あぁ…そういう事ですか……」

「そういう事だよ。だから、これからも君は、君のやりたい事を要求してくれればいい。やりたい事を叶えるというのは…何よりも面白い事なんだからね」

「…はい。では、これからも宜しくお願いしますね」

 

 そう言って、また笑みを浮かべる園咲さん。けれど、今度は少し大人気ない……いや、違う。大人だけど、同時に対等な立場でも言ってくれているような園咲さんの笑みに、俺も強く頷いて……一歩先に進んだ装備を、俺は園咲さんから受け取るのだった。


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