双極の理創造   作:シモツキ

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第百二十三話 初めての文化祭、楽しそうな二人

文化祭の一日目は、つつがなく終わった。デカいハプニングもサプライズもなく、多少の意外はあっても想定外はない、運営側からすれば理想的とも言える形で。ここまでの努力が成果を出し、皆が喜び楽しめる結果で終了した。

で、今日は二日目。一般の方も来場する、文化祭の後半戦。…そりゃまぁ、文化祭が一話だけで終わる訳ないよね、って話です。

 

「準備良し、っと」

 

二日目である今日の朝、俺は荷物を持って玄関へ。理由は…言うまでもない。

 

(今日は一般の人への案内やら何やらで忙しくなるし、気張っていかないとな…)

 

心の中でそう呟きながら、靴を履く。昨日からのやる気を維持したままの綾袮さんはもう家を出ているから、今日は俺の方が遅いパターン。

 

「忘れ物…も、ないね」

「大丈夫ですよ、私達も問題ありません」

「了解。今日は一日晴れだっけ?」

「うん。天気予報で晴れって言ってた」

「だったらお客さんも沢山来るだろうね。さーて、そんじゃ行ってき……」

『…………』

「…え、なんで二人も靴履いてんの…?」

 

自然に、物凄く自然に会話に入ってきた…というか、俺の独り言に応答してきたロサイアーズ姉妹。あんまりにも自然だったものだから、扉を開けて片脚を外に出すまで普通に会話してしまった。…さ、流石元アサシン…違和感なく近付くスキルぱねぇ…。

 

「……?」

「いや『……?』じゃなくてだね…どこ行くの?」

「顕人さんに着いていくんですよ?」

「……一応、訊くけど…その理由は…?」

「文化祭」

「…に、私達も行ってみたいからです」

 

見事(?)な連携で分担して答える二人に、ふざけている様子はない。それに今日着いていくってなったら、実際のところ理由なんて訊くまでもなかった。

そりゃそうだと思う。同世代の俺だって文化祭を楽しみにしてるんだし、二人は文化祭どころか学校自体縁遠い生活を何年もしてきたんだから、行ってみたいと思うのは当然の事。でも……

 

「えっとだね…今行ってもまだ開始してないから、敷地の外で待たなきゃいけなくなるよ…?」

「…そうなの?」

「そうなの」

「…しまった、想定外」

「これ位想定しなよ…ってか、まさかフォリンさんも?」

「…私は、その…ラフィーネの意思を尊重しようと……」

「…………」

「フォリン、そういう嘘は良くない」

「うっ…ごめんなさい……」

 

珍しく短絡的なミスからの誤魔化しを行ったフォリンさんは、俺が半眼で見る中ラフィーネさんに注意されてしゅんと謝罪。…さっきの自然と入ってきたのもそうだけど、この二人って何かズレてるんだよね……。

 

「まぁ…そういう訳だから、二人はもう少し待ってなよ。場所…は、地図アプリで検索すれば分かるでしょ?」

「そ、そうですね…そうさせてもらいます…」

「顕人、もっと早く言ってくれればいいのに…」

「言うも何も、知ったの今なんだけどね…」

 

何故か俺のせいみたいに言うラフィーネさんに緩く突っ込みながら、改めて俺は手を扉に。…分かるよね?勝手な想像だけど、地図も読めずに暗殺者なんてやれるとは思えないし。

 

「じゃ、行ってくるね。何か分からなくなったりしたら携帯に連絡くれればいいからさ」

「ん、分かった」

「はい。行ってらっしゃいませ」

 

そうして俺は開始時間を伝え、二人の見送りを受けながら外へ。…さて、じゃあ今日は二人も来る訳か…他にも知り合いが来る可能性は普通にあるし、これは気を抜けないかなぁ…。

 

 

 

 

──と思っていたら、早速来た。文化祭二日目開始とほぼ同時に……ロサイアーズ姉妹を発見した。

 

(早ぇ!二人共そこまで楽しみにしてたのね…)

 

俺が二人を発見したのは、正門近くで案内やパンフレットの配布を行う係…要はサービスカウンター的仕事を担当していた時。そりゃもうびっくりだよ。だって「おー、沢山人来てるなぁ…」と思っていたところで、早速二人を見つけたんだから。

 

「あ、いた」

 

案内所は分かり易い所にあるのもあって、向こうもすぐに俺を発見。寄ってきた二人にパンフレットを渡すと、二人は早速開いて中を一瞥。

 

「…お店、思ったより多い…」

「ですね…しかし顕人さん。顕人さんは綾袮さんと同じく、えぇと…演劇喫茶?…をやるのではなかったのですか?」

「それはクラスの事で、今やってるのは生徒会の仕事だよ」

「あぁ、そういう事ですか。朝からお疲れ様です」

「あ、うん…(労われた…まだ開始してから数分もしてないのに…)」

 

軽く言葉を交わした後、二人はパンフレットを手に進んでいく。仲良く歩いていく二人の後ろ姿を見て、ふと俺が抱いたのは穏やかな気持ち。今日は楽しんでほしいという、ささやかな願い。

…と、見送ってから十数分後。何事もなく勤めを果たしていると、そこでまた知り合いが来場した。

 

「えっと…あ、おはよう顕人君」

「おはよ、茅章。いや、いらっしゃいの方が良かったかな?」

 

きょろきょろと見回しながら敷地内へと入ってきたのは、少し前にもし良かったら…と声をかけておいた茅章。挨拶を少しばかり恭しく言い直してみると、茅章は大丈夫だよと小さく笑う。…今日も茅章は中性的だなぁ……。

 

「賑わってるね、文化祭」

「お陰様でね。…茅章は一人?」

「うん…その、ごめんね?誘ってくれた時にも言ったけど、やっぱりどうしても用事が外せなくて…」

「いやいや、謝る必要はないよ…ってか、なら来て大丈夫なの?」

「まだ少しだけ時間があるから、顕人君と悠耶君に会うだけはしてこよっかなって思ったんだ。折角誘ってくれたんだもんね」

「そうだったのか…じゃ、千㟢呼び出そうか?」

「ううん、自分で行くから大丈夫だよ」

 

そう言って茅章もパンフレット内の案内図を確認し、人の流れに沿って歩いていく。…用事がある中、会うだけでもって来てくれたのか……じーんとしたよ、茅章…。

 

(…って、あ…茅章、千㟢にちゃんと会えるかな…千㟢が調理担当だってのは話の流れで伝えたけど……)

 

まだ混む時間帯じゃないし、恐らくは大丈夫だと思う。…けど、念の為と思って俺は千㟢の携帯にメッセージを送信。そして携帯をしまい、また案内業務に戻……ろうとしたところで、何故かラフィーネさんとフォリンさんが戻ってきた。

 

「え…どうかしたの?」

 

今度はこっちから声をかける俺。ここを一度通った人がまたここへ来る場合は、基本的に案内を求めているかもう帰るかのどっちかだけど、さっきの二人の様子からしてこんな数十分で満足したとは思えない。

 

「そのですね…幾つか入ってみたいお店はあったのですが、どうも作法が分からず…」

「作法…?」

「顕人、教えて」

「いや、待った待った。教えても何も、作法?茶道部の所に行ったの?」

『さどうぶ…?』

 

作法と言われてぱっと思い付いたのが茶道部だったけど、そもそも二人は茶道部自体がよく分かっていない様子。けどそれなら、二人は一体どのクラスの事を言っているのだろうか。…と考えてみたところで、全然頭には浮かばない。…うーん……。

 

「どこのクラスの話…?」

「ここと、ここと、ここ」

「…どこも普通の出し物だけど…?」

「ですが、何かしらありそうな雰囲気が…」

「そんな雰囲気なんて…あ…あー……分かった、そういう事か…」

 

どうにも理解出来ない、二人の言う作法。それに俺は首を傾げ……閃く形で、気付いた。分からないながらも、「こういう事なんじゃないか」というのが浮かび上がった。

けれどそれは、口頭での説明が難しい。何故なら、実際に見てみないとまだ何とも言えないから。となると、手段は一つしかない。

 

「あの、すみません。この二人の案内で暫く抜けたいんですけど…いいですか?」

「あー、いいよいいよ。どっちにしろもうすぐ交代だからね」

「分かりました、ありがとうございます」

 

同じくここで業務に就いていた先輩から了承を得て、俺は席から腰を上げる。良かった、これなら二人に同行出来る。

 

「じゃ、そういう事だから俺も一緒に行くよ。まずはどこからにする?」

「じゃあ、ここ」

 

俺からの問いかけを受けて、パンフレットの一ヶ所を指差すラフィーネさん。そこに書かれていたのは、多彩なチョコバナナを売っているクラスの名前。…って、これ昨日俺が行った所じゃん…。

 

「二人って、チョコとかバナナとか好きだっけ?」

「好きか嫌いかなら、どっちも好き」

「チョコは単純に甘いですし、バナナはエネルギー補給の面で優秀ですからね」

「…うん、まぁ…二人ならそう返すよね…」

 

苦笑いしながら二人を連れて、校内を移動。混んではいるものの別にマンモス校とかではないという事もあって、俺達数分と経たずに目的地へ到着する。

 

「で、着いた訳だけど…」

『…………』

「…うん、やっぱり作法なんてものはないよ。少なくとも、ここではね」

 

出し物とその周囲、それにお客さんを見回した俺は判断を口に。先程浮かび上がった仮説を目の前の光景で補強しつつも列に並んで、ラフィーネさんはチョコそのものな色のチョコバナナを、フォリンさんはピンクのチョコバナナをそれぞれ購入。併設されていた席…は埋まっていたから、チョコバナナを手に俺達は廊下へ。

 

「顕人さんは買わないんですか?」

「俺は昨日食べたからいいよ」

「ふぅん……ん、美味し…」

「要はバナナをチョコで覆っているだけなのに、それ以上のものを感じさせる美味しさですよね…」

 

ある程度隙間のある場所まで移動したところで、揃ってチョコバナナを食べ始める二人。チョコのストレートな甘さとバナナの程良い甘みで頬を緩ませ、もぐもぐと食べ進めていく。…チョコバナナを咥えて、頬張って、咀嚼した後……また口へ。

 

「…………」

 

何故俺が黙っているのかは、男性諸君であればお分かりだろう。チョコバナナはチョコバナナ、食事は食事であって、意識して『そういう』食べ方でもしない限り、チョコバナナを食べてる…って事以上の感想なんか抱く訳ないだろ、と思っていた俺だけど……そんな事、ない事もなかった。

 

「…フォリン、こっち一口食べてみる?」

「あ、いいんですか?じゃあ…んっ、こっちも美味しいです」

「わたしもフォリンの一口貰う。あむ…」

(おーぅ……)

 

フォリンさんは差し出された食べかけのチョコバナナを食べて、ラフィーネさんも(勝手に)フォリンさんのバナナを一口。お互いのものを食べ合うというのも、中々……って、ごほんごほん。何を考えとるんだ俺は…。

 

「…次はどこ行きたい?あ、別に慌てて食べる必要はな「ここ」……いけど、食べ終わったのなら串は捨てて来ようか…」

 

思考を仕切り直した俺へ続いて提示されたのは、バラエティ調のクイズを出し物としているクラス。更にその後はたこ焼き屋へと向かい、数十分間で俺達は三店舗を梯子。そのどこでも、二人はそれなり以上に楽しんでくれて……三つ目を後にする時には、俺も仮説に対する確信を得ていた。

 

「いか焼きは、名前の通り。でもたこ焼きは蛸と生地焼きで、たい焼きは鯛の形してるだけ……」

「にも関わらず、命名の形式は同じ…難しいですね、日本語って……」

 

買ったたこ焼きを口の中に放り込みながら、変な事を真面目に考えている二人。言われてみりゃ確かに変だけど…そこ気にする……?

 

「…二人共さ、そろそろ分かったんじゃない?」

「……?…○○焼きのルール?」

「そっちじゃないそっちじゃない…二人が勘違いしてただけで、そういうものがあるって『気がしてた』だけで、作法なんてないんだよ」

 

二人は作法が分からないと言った。でも俺の考えていた通り、どの出し物も作法なんでのはなかった。

なら何故、二人は作法があると思ったのか。…それは、異文化が招いた齟齬。普段何気なく思っている、それが当然だと思っている事でも国や地域が違えば普通じゃなくなる事もままあって、そんな違いが幾つか組み合わさった結果、二人には『存在しない作法』が感じられたんだろうと思う。

 

「そんな事は……と、言いたいところですか…確かに、作法らしきものはなかったですね…」

「でしょ?というかそもそも、具体的にはどんな作法があるって思ったの?」

『それは……』

 

答えかけて止まった、二人の言葉。それもまた、俺の考えを裏付ける要素。雰囲気やちょっとした言動が、作法があると誤認させていた()()なんだから、具体的なものが出てくる訳がない。二人が感じていたのは、イメージという漠然とした虚像なんだから。

 

「ね?って訳で、もう俺の案内は必要ないかな?」

『…………』

(……あれ…?)

 

対応しなきゃいけない作法なんてないんだから、俺がいなくても大丈夫な筈。なら、姉妹で楽しもうとしてたところに水を差すのも悪いし…と思って切り出した俺だったけど、何やら二人はむっとした顔に。…な、なんか不味かった…?

 

「…顕人さん、それは真面目に言ってます?」

「…ふざけて…は、いないけど……」

「…はぁ、そういうところはダメダメですね、顕人さん」

「え、だ、駄目駄目…?」

「うん、ダメダメ。酷い有様」

「ら、ラフィーネさんまで…一体何が悪かったの…?」

「一体も何も……まさか、あの日の夜の事を忘れた訳ではないでしょう?」

「あの日の……って、それって…」

 

少し顔を近付けて言ったフォリンさんの言葉に、俺が思い出す。二人がうちに住む事となった日の事を、その夜に知った、二人の抱く今の思いを。

こんな事を言われれば、俺だって理解する。けど、すんなり飲み込めるものじゃない。現に俺は、思い出しただけで少し頬が赤くなってしまうような人間で……そんな俺を差し置いて、二人は何事もなかったかのように歩き出す。

 

「ちょっ、え…?」

「顕人、遅い。だから何か買ってきて」

「たった数歩分遅れただけで!?理不尽にも程があるよ!?」

「なら、代わりに手を繋いで」

「そ、それならまぁ……って、え…!?こ、ここで……!?」

「何です顕人さん、ラフィーネと手を繋ぐのが嫌だと言うんですか?それとも…私の方が、良かったですか?」

「んな…っ!?そ、そういう事じゃ……」

 

振り返って感情の読めない…けれど無垢な表情で右手を差し出してくるラフィーネさんと、顔を顰めたと思いきや、どこか艶めいた表情で訊き返してくるフォリンさん。前触れもなく、不意打ちのように向けられた二人の『誘い』に、俺はしどろもどろとなってしまい……次の瞬間、二人は揃ってくすりと笑う。

 

「…なんて、冗談ですよ」

「へ……?」

「ここは公衆の面前。顕人、常識的に考えて」

「……っ…は、嵌めやがったな二人共…ッ!」

『勿論♪』

「勿論♪…じゃねぇ…ッ!」

 

悪戯を成功させた子供のような二人に俺は憤慨するも、二人にとっては何処吹く風。ラフィーネさんの言う通りここは公衆の…ってか毎日通う学校な訳で、騒がしいとはいえあんまり大きな声を出す訳にもいかない。となると、元々威圧感が不足しがちな俺が二人を竦ませる事なんて出来る筈もなく……

 

「……くっそぅ…今に見てろよ…」

「うん、見てる」

「では私も」

「いや、ちょっ……そういう意味じゃないって…!これは意味分かってやってるよね…!?」

 

一方的に弄られた挙句、俺がげんなりして終わるといういつものパターンに落ち着いてしまうのだった。…まさか、学校で二人に翻弄される日が来るとは……。

 

 

 

 

最初は二人を手助けする為に同行して、途中で弄られて、何だかんだで大体一時間。弄りに関してはほんとに悪質だったものの、それを除けば二人が満喫出来ている姿を見られるのは嬉しく、また二人と回る事自体が面白くて、俺はラフィーネさん、フォリンさんとの文化祭を楽しんでいた。

 

「ラフィーネ、ケチャップが付いてますよ」

「…どこ?」

「ここですここ」

「んっ…ありがと、フォリン」

 

ホットドッグをもぐもぐしていたラフィーネさんの頬にケチャップを発見したフォリンさんが、持っていたティッシュで綺麗に拭き取る。それを受けてラフィーネさんがお礼を言うと、どう致しましてと答えながらチュロスを口に。…この二人、家でもだけどよく食べるなぁ…特にラフィーネさんなんて、どっちかと言えば小柄な方なのに食べた物はどこへ行ってるんだろう…。

 

「…っとそうだ、二人共。俺もう少ししたらまた仕事があるから、その時間になったら抜けさせてもらうね」

「あ、はい。仕事でしたら仕方ありませんもんね」

「うん。…それは、いつ終わるの?」

「あ……えぇと…だね、それは……」

 

背丈の関係で生まれる自然な上目遣いで訊いてくるラフィーネさんは、至っていつも通りでありながら可愛らしい。…いや、普段から可愛らしかはあるんだけど…って、誰に対して訂正してんだ…。

…と、煩悩に一瞬寄り道した後、俺は時刻表を取り出して確認。……を、しようとした時だった。

 

「ん?」

「あ……」

 

取り出したところで偶々目が合ったのは、廊下を曲がって姿を現した千㟢。…が、校内でクラスメイトと鉢合わせるなんてなんらおかしくもない普通の事。……の、筈だった。千㟢が、見知らぬ少女を連れていなければ。

 

「…………」

「…………」

「……まさか、誘拐…」

「な訳あ「そ、そうなんです!助けて下さい…!」はぁぁっ!?ちょっ、ば、馬鹿じゃねぇの!?さらっと洒落にならない嘘を吐くんじゃねぇよ!?」

「…えーと、取り敢えず通報でOK?」

「アウトだわ!誘拐じゃねぇし!」

 

……念の為、本当に念の為と思って言ってみたら、何やら変な展開になってしまった。切っ掛けは他ならぬ俺だけど……え、何これ?

 

「ちっ、あんたを現行犯で捕まえてもらう絶好のチャンスだと思ったのに…」

「ふざけんなよ依未…『これが文化祭…これが実際の雰囲気……!』って目を輝かせてた時の写真ばら撒くぞ…?」

「な……ッ!?な、何勝手に撮ってんのよッ!肖像権の侵害よ!」

「え、依未は著作権じゃねぇの?」

「何でよ!?後商業じゃないとはいえ創作内でそれ言われると微妙にややこしいから止めてくれる!?」

 

煽る千㟢と憤慨する少女。…相変わらずよく分からないけど、少なくとも誘拐ではないらしい。よかったよかった。

 

「…お笑いコンビ?」

「ち、違うと思いますよラフィーネ…違い、ますよね…?」

「それは流石に違うでしょ…千㟢、その子は?親戚か何か?」

「っと、そうだった……どうする、依未」

「…別にいいわよ、隠さなくたって。あたしは一応向こうを知ってるし、あんたよりはまともそうな人達だし」

「あーそうかい…こいつは篠夜依未。霊装者で…例の予言書だ」

 

何とも簡潔な千㟢の説明。続けて少女…篠夜さんが軽く会釈。千㟢の説明じゃ、篠夜さんの人となりなんて全く伝わってこなかったが…そこには一つ、非常に大きな情報と、それに付随する疑問がある。

 

「予言書って…な、何故にその予言書さんと千㟢が、揃って文化祭を回ってんの…?」

「そりゃ……まぁ、色々あってな。ただ一つ、確たる意思を持って言えるのは…」

「言えるのは…?」

「…ご覧の通り、依未はびっくりする程生意気って事だ」

「説明どーも。まぁでも、あんた程非礼な性格はしてないから安心して頂戴」

 

何かぼかすように千㟢は答え、依未さんも涼しい顔して皮肉で応戦。

まだ彼女の人となりは掴めていない。千㟢とどう知り合い、何故今ここにいるに至ったのかも、全くもって分かりはしない。けど……この二人の関係性だけは、何となく分かった俺だった。


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