超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第七十一話 犯罪組織の落日

混乱状態で統制に齟齬が生じている犯罪組織に対し、各国防軍は大半の戦場で戦闘を優位に進めていた。如何に犯罪神及び四天王という強力な存在が背後におり、モンスターという国防軍側には用意出来ない戦力があるとはいえ公に活動が可能な軍と武力や目的を秘匿しなければならない犯罪組織では組織力の伸びに大きな差があり、設立時期も双方に大差はない。その事が大局に影響し、国防軍…引いては教会と四ヶ国の勝利へと戦争を進めていた。

だが、それはあくまで組織対組織、部隊対部隊の話。戦略規模では国防軍が優勢であろうと、戦術規模では国防軍が劣勢となっている戦域もまた存在する。その中でも特に苦戦を強いられているのが…トリック・ザ・ハードを相手取るルウィー国防軍の魔術機動部隊と、ブレイブ・ザ・ハードを相手取るプラネテューヌ国防軍のヴィオレ隊だった。

 

「ヴィオレ6、後退を!その距離では…!」

「ふぅぅぅんッ!」

 

機体左腕部の機関砲を放ちながら、突出した部下に後退を促したリヨン。その言葉を受けたヴィオレ10は両脚部を前に向ける事での逆噴射を行い下がろうとしたが、逆噴射によって速度が下がった事が仇となり、機体をブレイブの大剣に貫かれる。

 

「くっ…ヴィオレ3、カバーお願いします!」

「言われなくても…!」

 

胴を完全に貫かれたルエンクアージェは、そのまま振り払われて無残に地面へ激突。即座にヴィオレ3こと副会長(…というのも本名ではないが)が機体を人型形態に変形させながらヴィオレ10の抜けた穴へと滑り込んだ事で、そこから陣形が瓦解する…という事は避けられたが、味方が減ってしまった事には変わりない。

 

「総員、怯むな!弱気となればそこを付け込まれる!だがしかし、無理はそれ以上に禁物だッ!」

「犯罪組織の幹部の癖に、味方を熱く鼓舞するなんて…」

「ちょっと芝居がかってるねぇ…隊長はこういう鼓舞しないんです?」

「私はそういうキャラじゃありません…!」

 

ヴィオレ隊が戦うのはブレイブに加え、彼の存在によって他の戦域より残存数の多いキラーマシン部隊と犯罪組織の車両。車両は言うまでもなく、キラーマシンもまたルエンクアージェならば十分に戦える相手ではあったが……圧倒的な力を有するブレイブが、最前線で猛威を振るう事によって注意を、攻撃を引き付け文字通りの『一騎当千』となっている。そしてその勢いは、エースと言えど容易には覆せないものだった。

 

(こいつ相手にシュゼット兄とクラフティ姉は時間稼ぎしたんだ…状況が違うとはいえ、やっぱり二人共凄い……)

 

ブレイブの周囲を旋回する様に動くノーレ機は、左右腕部の火器を同時発射。それに合わせて副会長は右腕部荷電粒子砲をチャージし、高出力の単射を仕掛ける。連射重視の機関砲、威力重視のビーム単射、その中間に位置するビーム連射と三系統の射撃がブレイブへと迫るが……ブレイブはそれを斬り払いと跳躍でもって全て避けきった。そしてブレイブは跳躍の最中から背部の砲を稼働させ、それによって空中で追撃の体勢を取っていたヴィオレ隊の数機へと対空砲火を浴びせていく。

 

「やらせはせん、やらせはせんぞぉぉぉぉッ!」

「や、奴は疲れ知らずかよ…くそぉッ!」

 

航空形態を取っていた内の一機が右翼を吹き飛ばされ、くるくると回りながら落下していく。幸い墜落の寸前に変形が成功し、一応の不時着が出来た事で爆散は免れたが、それでも機動力の大幅低下は免れられず…そんな僚機の様子を見たリヨンは、歯嚙みを抑えられなかった。

既に交戦開始からそれなりの時間が経ち、開戦直後より当然味方の機数は減っている。弾薬や推進剤も注意しなければならない量となり、パイロットの疲労もまた無視出来る域を超え始めた。対するブレイブはまだまだ余力を残している様子で、このままのペースで戦うとすれば戦線維持が不能となるのは時間の問題。だからこそ、リヨンは思考を巡らせる。足止めを行うのにギリギリな戦力の中で、如何に指揮官として部隊を統率するかを。

 

(この状況から手傷を負わせて弱体化させるのは恐らく困難。かといって遠巻きに攻撃するだけでは取り逃がす可能性が高く、何より部隊の士気に悪影響を与えてしまう…押し切るのは無理、後退も悪手だとすれば…やはり、私が先頭に立つ他ない…!)

 

機体を航空形態へと変形させ、新規開発された追加パック搭載の荷電粒子砲を撃ち込みながら突撃するリヨン機。それに気付いたブレイブが大剣の腹でビームを弾き、お返しとばかりに両肩の砲を向けた瞬間リヨン機は上昇する事で砲撃を回避。機体の下方をビームが駆け抜ける中、リヨンは部下へと声を張る。

 

「全機、キラーマシンへ攻撃を!敵四天王は私とヴィオレ2、3で相手をします!」

「え、それわたしやノーレに話通してから言うものじゃ…」

「だねぇ…けど、了解!」

 

ぼそりと副会長は呟くものの、彼女は即座にブレイブへと接近。そのまま近距離へ…行くと見せかけ腕部荷電粒子砲を放ち、ブレイブの注意を自身へと引きつける。そしてブレイブがちらりと見た瞬間、背後に回ったノーレ機が機関砲上部の追加ユニットから引き抜いた荷電粒子収束剣…ビームサーベルを振り被る。

 

「その程度では、俺には届かんッ!」

「だと思いました…!」

 

ブレイブが斜め上方へと飛んだ事で大地を斬り裂く荷電粒子収束剣。その彼を間髪入れずに航空形態のリヨン機が追いかけた事により、戦場は陸から空へ。

ブースターを吹かし飛ぶブレイブと、その背後をドックファイトが如く狙うリヨン機。女神同様常軌を逸した空中機動を見せるブレイブに対しリヨン機はヨーイング、ロール、フレキシブルスラスターの可動と技術を駆使して喰らい付く。そしてその間に同じく航空形態へと機体を変形させたノーレと副会長も両者の機動に追い付き、ビームとマイクロミサイルによる三機同時の十字砲火がブレイブへと襲いかかったが……

 

『なぁ……ッ!?』

 

その攻撃は、戦闘機さながらの錐揉み回転で一気に降下するブレイブの上方を虚しく通り過ぎていった。位置が幸いしブレイブを見失わなかった数発のマイクロミサイルも地表すれすれで立て直した彼によって撃ち落とされ、三人の攻撃は失敗に終わる。

 

「やらせはせんと、言った筈だッ!」

 

着地したブレイブは錐揉み回転による平衡感覚への影響を一切見せずに砲撃。しかしその狙いはキラーマシン及び車両へと仕掛けている最中のヴィオレ本隊であり、それを予想していなかった隊列前部の内二機が纏めて撃ち落とされる。それは、その時のブレイブは……強敵を引き受けつつも戦場全体を認識し、隙あらば味方を援護するエースそのものだった。

 

「しまった…判断が裏目に…!」

「……っ…落ち着いて隊長!あんな芸当そう何度も出来るものじゃないですから!」

 

下降したブレイブを追って地上へ戻った三機は本隊への次弾こそ阻止したものの、今の動きと二機撃墜がヴィオレ隊側に与えた印象は大きい。それはリヨンへとフォローの言葉をかけたノーレもまた同じであり、彼女はなまじ自分の兄と義姉が二人で同じ敵を相手にしたという事実があるが為にそちらと比較してしまい、芳しくない現戦況に内心悔しさを滲ませる。実際のところ(無理矢理比較するならば)難易度はラステイションでの一件よりこちらの方がやや高いのだが…落ち着いてそんな事を考えるだけの余裕は今の彼女にはない。

互いにエースがエースと、本隊が本隊と戦う形はその後も続く。……が、どちらも撃墜数はそこから大きな変化は起こらず、消費だけが伸びていく。それは時間稼ぎとしてはベターである反面優位にならねば先に戦線崩壊しかねないヴィオレ隊にとってありがたくなく、それが個々人の焦りに繋がっていく。

 

(くっ…これが人と、人の域を完全に超えた者の差というのですか…?…いえ、だとしても…状況の違いがあるとはいえ、その人ならざる者に追随を続けた人は確かにいる……ならば、この私が…プラネテューヌのMG部隊を率いる私が、その差に屈する訳にはいかない…!)

 

二門の荷電粒子砲を交互に放ちながら、リヨンはその時を…現状打破の切り口となる、きっかけを待つ。

戦況が膠着しているという事はつまり、一石が投じられた瞬間その戦況が変化する可能性が高いという事。起きるかどうかも分からない、そのきっかけのなるのが何なのか…自分がきっかけとなる可能性はあるのか否かすら分からない、曖昧模糊で根拠皆無な期待だったとしても…それでも、無理だと諦めるよりは何倍も建設的だ。そう思ってリヨンは待ち、その時が来るまで何としても持ち堪えようと死力を尽くす。指示を飛ばし、射撃を撃ち込み、ギリギリの状態を維持し続ける。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

「──長い間、不在にしてしまってごめんなさい。…プラネテューヌの皆、わたしは…女神、パープルハートは帰還したわ」

 

……現れたきっかけは、凛とした女性の声だった。

 

 

 

 

「わたしは、ここに…愛する国民の下へと帰れた事を、また共にいられる事を、心より嬉しく思っているわ。そして同時に、守護女神でありながら貴方達の側を長い間離れてしまった事を、恥じてもいるわ」

 

「もしかしたら貴方達は、国の為に戦った結果なのだから…と許してくれるのかもしれない。けれど、その言葉に甘える事は出来ないわ。だって、貴方達が真に望む女神ブラックハートは、国民に甘えて妥協するような存在じゃないでしょう?」

 

「わたくしの為に、国の為にその身をかけて戦ってくれている方々がこんなにも沢山いる事を、わたくしは誇りに思いますわ。誇りに思うからこそ、その方々にはわたくしの下へ帰ってきてほしい…そう切に願っていますの」

 

「守護女神のわたしに帰る場所があって、帰りを待ってくれる人がいる様に、今戦っている皆にも帰る場所と帰りを待つ人がいるんだ。だから、例えわたしの為であろうと…ここで死ぬ事は、このわたしが許さない」

 

プラネタワーの一角に用意された放送用の部屋は、厳かな空気に包まれている。オリジンハートと四人の女神候補生が行った時のそれを超える、正真正銘国の長たる彼女達でなければ、理想の体現者であり平和と繁栄の先導者である守護女神でなければ作り出せない、神秘的な世界がその部屋の中に生まれていた。

 

((凄い……))

 

職員はその信仰心から感銘を受け、友は彼女達の女神としての姿に息を呑み、女神候補生はより一層に姉への憧憬を募らせる。

好意を持つ者、悪意を持つ者、評価をする者、忌み嫌う者。その全ての者の目を奪い、耳を傾けさせ、心を震わせる彼女達は美しく、凛々しく、神々しい……文字通りの『守護女神』だった。

その言葉を聞き、その思いを受け取った者達は、心を奮い立たせる。優勢なる者は確実な勝利へと、劣勢なる者は起死回生の逆転へと導かれ、己が剣に宿る誇りを再確認する。そして……守護女神の最後の言葉により、改めて決意した。未来の為に散るのではなく、未来の為に生きて勝ちを掴み取ろうと。

 

『……貴方達には、守護女神が、守護女神の加護がついている。守護女神の加護が、貴方達を守り、貴方達を導く。だから…生き残り、そして…帰還する事を、私達は祈っているわ』

 

 

 

 

戦場で、守護女神の帰還を知り感情が揺れる信仰者達。だが、感情が揺れたのは彼等だけではない。犯罪組織裏側の人間もまたその放送でもって守護女神の帰還を知り、それによってギョウカイ墓場で展開されたであろう戦いにおいて自陣が敗北を期したと理解した事で、その心は大きな衝撃に包まれた。

 

「ぐっ……ジャッジがやられたというのか…!?」

 

ブレイブですら、その衝撃に驚きを隠せない。指導者の帰還に湧き立つ国防軍と、戦略的な敗北を期して動揺する犯罪組織。……その中でも、ある者の反応は群を抜いていた。

 

「……ふ、ふふ…ふふふっ…」

「ゔぃ、ヴィオレ3?どうしました…?何か異常でも…?」

「今のは女神化したねぷ子様の声…ねぷ子様が帰ってきた…やっと帰ってきてくれた…わたしのねぷ子様が…帰ってきたっ!」

「ちょっ、え……副会長さん!?」

 

恋い焦がれる乙女の様な、それでいてどこか方向性を間違えてしまった感のある、副会長の歓喜の声。その声にリヨン以下ヴィオレ隊全員が唖然とする中…彼女は、単身ブレイブの真正面へと突っ込んでいく。

 

「む……っ!正面から来るとは愚かなッ!」

「……っ!ヴィオレ3、後退を!」

「ねぷ子様、ねぷ子様……あぁねぷ子様…やっぱり、これは…この気持ちは、正しく愛っ!」

 

スラスター全開で突撃する、航空形態のルエンクアージェ。敵の接近で意識を切り替えたブレイブは即座に砲を向け、副会長機に狙いを定める。

当たれば撃墜必至の一撃に対し、反射的に退避を指示するリヨン。しかし副会長は下がる事なく、接近を続ける。接近を続け、思いの丈を言葉にし、最大推力のままバレルロール。その瞬間、ブレイブはビームを放つが……光芒は彼女の機体を貫く事なく通り過ぎていく。

 

「な……ッ!?」

 

その動きに、神懸かった回避に目を見開くブレイブ。そう、副会長は照射の直前にバレルロールをかけ、さもビームの周りをなぞる様にして攻撃を凌いだのだった。

しかもそれだけではない。副会長はビームが通り過ぎた瞬間機体の変形を開始し、バレルロール軌道を保ったまま滑らかに航空形態から人型形態へと可変させていく。そしてバレルロール軌道が終わった時、副会長機は完全に変形し終えた状態で右腕部に荷電粒子収束剣を持ち、ブレイブの眼前へと迫っていた。

 

「この一撃を、ねぷ子様の為にッ!」

「させる、ものかッ!」

 

予想外の機動に接近を許してしまったブレイブだが、その反応は素早い。収束剣の振り下ろしよりも速く左腕を掲げた彼は、腕の手甲で荷電粒子の斬撃を受け止めた。…しかし、副会長もそれだけでは止まらない。

 

「まだまだ…ッ!」

 

斬撃が通らないと見るや否や追加パックの荷電粒子砲を跳ね上げ、背部から右肩越しに砲口を向ける副会長。間髪入れずに撃たれたビームはブレイブの顔面へと走るが、その一撃はブレイブが首を思い切り傾けた事で失敗に終わる。……されども続く、副会長の攻撃。

 

「まだまだまだ…ッ!」

 

次なる副会長の手は、左腕部機関砲による射撃。発砲しながら左腕を振るい、その砲口をブレイブへと近付けていくが、ブレイブの方を向く寸前に割って入った大剣によって進路を阻まれ動きが止まる。

エースですら容易には出来ない超機動に、装備を駆使して行われる近距離連続攻撃。格上相手にそれを実現するのは困難を極め、普段の彼女ならば決して出来ないであろう芸当だったが……今の彼女は、それをやってみせていた。その無茶を可能たらしめているのは……偏に彼女の愛である。

 

「あぁ!抱きしめたいなぁねぷ子様!」

 

目を爛々と輝かせ、副会長はフレキシブルスラスターの機銃掃射をかけた。近距離からの二門同時射撃に加え、両腕の武器を押し付ける事によるプレッシャーが遂にブレイブの防御行動を突破。26㎜の弾丸が次々とブレイブの鎧へと直撃し甲高い音を立てる。

この戦闘において散発的な被弾ではなく、何発も纏めてブレイブが直撃を受けたのはこれが初めてだった。自身の鎧が連射で削られる中でブレイブは、確かに驚きを受けている。……だが、その驚きが彼の萎縮に繋がる事はない。例えどんな想定外が起きようと、既に大局が決まってしまっていようと…彼の正義と勇気は、その程度では揺るがない。

 

「……ふっ、愛か…良い闘志だ、パープルハートの信仰者ッ!」

「きゃっ……!」

「だが……俺とてやられる訳にはいかんのだッ!」

 

収束剣と機関砲をしっかりと受け止め、撃たれながらも副会長の機体を見据え、左脚で地面を踏み締め……ブレイブは、彼女の機体へ力強い膝蹴りを打ち込んだ。

ずどん、と機体への衝撃を縮小再現した揺れをコックピットの中で感じる副会長。彼女は膝蹴りを受ける直前、ブレイブの攻撃を目の端に捉えていた。しかし上半身の挙動へ集中していた彼女は見えても反応する事が間に合わず、その機体も大きく後ろへ蹴り飛ばされる。

揺れる視界の中、副会長が見たのは大剣を構えて今にも跳ぼうとするブレイブの姿。不味い、と思っても体勢の崩れている自機と攻撃準備完了の敵ではどちらが速いかなど火を見るよりも明らかな事。だからこその『不味い』であり……そのまま攻撃をされてしまう様なら、彼女はヴィオレ『3』という立場にはなっていない。

 

「やられる訳にいかないのは、こちらも同じ事!隊長ッ!」

「えぇ、下がって下さいヴィオレ2!」

 

ブレイブが跳ばんとする直前、脚部から噴射炎をなびかせながら割って入ったのはノーレ。滑り込む様に副会長とブレイブの間へ入った彼女は収束剣による刺突を仕掛け、対処としての防御体勢を取らせる事で副会長への追撃を阻止。続けて彼女は即座に退避し…足を止めたブレイブに向け、空中にいるリヨン機は脚部ユニットと追加パックのマイクロミサイルポッドを同時に開いて空爆をかける。

三十発以上のマイクロミサイルが競うが如く降り注ぎ、ブレイブとその周囲が爆炎に包まれる。更にその爆炎へとリヨン機は砲口を向け、大盤振る舞いの集中砲火を叩き込んでいく。

 

「ヴィオレ1から全機へ!たった今、司令部よりゲイムギョウ界全域において犯罪組織が有する基地及び拠点の約七割が制圧完了したとの入電がありました!守護女神様の帰還に、約七割の制圧完了となれば、犯罪組織の掃討作戦はほぼ成功したと言っても過言ではありません!よって、現時点をもって我々はフェイズを移行!可能な限り敵戦力を削った後、帰還します!宜しいですね?」

『了解ッ!』

 

リヨンの言葉を受け、ヴィオレ隊各機は弾薬を惜しまず一斉掃射を敢行。その最中爆煙を斬り裂きブレイブが再び姿を現したが、消費を無視した乱射を部隊規模で行われれば流石の彼も味方のカバーはしきれない。それによってキラーマシンは立て続けに破壊され、残った機体も反撃しようにも主兵装を撃ち切った機体から次々と離脱を始めてしまうが為に被害を抑えようと防戦一方の形を取る。そして、重砲撃が収まった頃……足止めという任務を完了したヴィオレ隊は、既にブレイブと犯罪組織部隊から大きく距離を離していたのだった。

 

 

 

 

モンスターや兵器を殲滅し、一ヶ所、また一ヶ所と犯罪組織の施設を制圧していく各国防軍。それは途中乱入を受けたシュバルツ隊もまた、例外ではない。

 

「思ったより時間がかかっちまったな…」

 

シートに深く座り込み、身体を休めるシュゼット。彼の受け持っていた施設も無事制圧が完了し、今は後方に待機していた歩兵部隊が犯罪組織構成員の拘束を行なっていた。

 

「…副隊長、捕まえられたのは約何割だ?」

「七割から八割、と言ったところです。一割から二割に逃げられ、残りは……」

「…ま、しゃあないわな。俺達は人間なんだ、誰も殺さず全員捕まえるのは無茶ってもんだ」

 

国防軍側は有利だったとはいえ、圧倒的な戦力差があった訳ではない。となれば多少の人数に逃げられてしまうのは致し方のない事であり、敵の命より味方の命を優先すれば殺さずを得ない事もあるのだから、数割拘束出来なかった事に対してシュゼットは何も言わなかった。むしろシュゼットは、過半数以上拘束出来た事を安心していると言ってもよい。

 

「…それに、特務隊長が追いかけて行ったしな」

 

独自行動中のメイジンは、味方の離脱後その後を追った赤いMG…アズラエルをまたもや追いかけていった。余程彼は諦めが悪いのか、執念が強いのか、それとも何か思う事があるのか…とにかく彼が行ったのなら必要以上に戦力を割く必要はなく、彼で無理なら小数の部隊を送ったところで同じ結果になるだけだろうとシュゼットは判断していた。

…と、そこに空中から降り立つ人型の機影が一つ。現ラステイション国防軍において、人型の機影といえば彼女の機体しかない。

 

「…よぅ、どうしたんだよクラフティ」

「あら、あたしが軍用機で散歩にでも来ると思う?」

「だよなぁ…単騎で攻撃仕掛けるのか?」

「攻撃じゃなくて支援よ。あくまでメインは目的地で戦ってる味方」

「そうかい、んじゃ頑張れよ〜」

「えぇ、けど残念。頑張るのはあたしだけじゃないわ」

「は……?」

 

少しからかうようなクラフティの声が聞こえた瞬間、シュゼット機のモニターに司令部からの指令が入る。それを自然な流れで二度見したシュゼットは数秒躊躇い、その後嫌そうな顔で指令の内容を確認する。

 

「…げ、やっぱりかよ…俺さっき戦闘終えたばっかりだぜ?」

「それはあたしもよ?」

「弾薬も推進剤もそこそこ減ってるんだが…」

「なら補給するしかないわね。T型装備群の高機動形態ならすぐ戻れるわよ」

「…なんで俺一人なんだろうな、ハニー」

「そりゃラステイションであたしに並ぶトップエースだからに決まってるじゃない、ダーリン」

「……エースってのも、楽じゃないな…」

「それに関しては全面的に同意よ。じゃ、あたしは行くけど…ばっくれるんじゃないわよ?」

「へいへい、ばっくれりゃしねぇから安心しな…」

 

そう言って飛んでいくクラフティ機を眺めながら、彼は溜め息混じりに身体を起こす。軍属なのだから仕方ないと自分に言い聞かせつつ、現場を副隊長に任せて一足先に基地へと向かう。面倒だとは思いつつも、それを言葉にする事は一切せずに新たな指令を遂行する為機体を走らせる。何故なら、彼は知っているから。所詮は一軍人として命令に従えばいい自分より、女神や教祖の方がずっと重い物を背負い、厳しい戦いを行ってきているという事を。普段不真面目な性格とあまり綺麗とはいえない言動が印象的なシュゼット。そんな彼が、それでもMG部隊の隊長として軍上層部や教会から信頼を得ているのは、そういう部分が関係しているのだった。

 

 

 

 

(……そういや、メイジンが来てから暫くフラメンコみたいな曲が聞こえてきてたな…なんだったんだ、ありゃ…)

 

 

 

 

女神達が帰還し、ヴィオレ隊が足止めを完遂し、シュバルツ隊が制圧完了してから、数時間。その日の朝に守護女神奪還という名目で始まった犯罪組織壊滅作戦は、各国防軍の奮闘と警察組織の迅速な行動、有志の協力に加えて守護女神の帰還宣言によって勝利を重ね、時は夜となった。そして今、一つの連絡がプラネタワーの司令室に入る。

 

「ビオレータ隊、施設の破壊に成功したとの事です!これにより、Cエリアは全域制圧……いえ、プラネテューヌの全作戦領域の制圧に完了しました!」

「そうか、ではビオレータ隊には油断せず帰還しろと伝えろ。それと……」

『…………』

「…皆もよく頑張ってくれた。つい先程、他三国からは完全制圧完了の通達が届いた。よって、この瞬間をもって作戦は終了!喜べ諸君!我々の…勝利だ!」

 

司令が頬を緩ませ、声を張った瞬間司令室は歓喜の声に包まれる。笑う者、安堵する者、疲労からコンソールに突っ伏す者と反応は様々だったが、誰しも喜びの感情を胸に募らせていた。そんな様子を司令は暫く見守った後この事を各所に伝えるよう命じ、プラネテューヌ司令部からの通信で勝利を知った三国の司令部もまた歓喜と安心の声に満たされていく。守護女神は帰還し、救出に行った女神候補生も無事で、悪しきテロリズム組織からも勝利を得る事が出来た。その事を喜ばずにいられようか、と言わんばかりにその時の各国軍人と上層組織は勝利を讃える事を上げていた。その時の人々に…特に戦っていた者達の顔に、曇りの表情は欠片もない。

 

 

────こうして、四ヶ国と犯罪組織による戦争は終結した。逃げ延びた犯罪組織構成員もおり、存在を暴かれなかった施設もあり、四天王の内三者は健在で、何より犯罪神の復活には未だ至っていないが……それでも、ある種の宗教戦争は終局を迎え、たった一日で組織としての『犯罪組織マジェコンヌ』は──壊滅した。




今回のパロディ解説

・「やらせはせん、やらせはせんぞぉぉぉぉッ!」
機動戦士ガンダムの登場キャラ、ドズル・ザビの名台詞の一つのパロディ。元ネタとは違い、猛威を振るっている最中にて使われたパターンです。

・「〜〜この気持ちは、正しく愛っ!」
機動戦士ガンダム00の登場キャラ、グラハム・エーカーの名(迷?)台詞の一つのパロディ。何だかFC副会長が私の中でどんどん凄いキャラになっていってる気がします…。

・「〜〜抱きしめたいなぁねぷ子様!」
上記と同様グラハム・エーカーの名(こちらも迷?)台詞の一つのパロディ。ネプテューヌ×副会長は現状考えておりません。流石の私もそこまで突飛な事は多分出来ません。

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