超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第六十九話 やっと取り戻せたもの

「…二人共、もうお姉さん達は大丈夫だよ」

 

女神化を解き、岩を背もたれに休んでいたわたしとユニちゃんに声をかけてくれるサイバーコネクトツーさん。その言葉にわたし達は、ゆっくりと頷く。

 

「…すいません、真っ先にアタシ達女神が情けないところ見せてしまって…」

「そんなの気にする事じゃないよ。ノワールさん達はあんな状態だったんだから、ね」

 

わたしとユニちゃんが吐きそうになって休んでいる中、皆さんはコンパさんを中心にお姉ちゃん達の手当てをしてくれていた。…ユニちゃんの言う通り、情けない…わたしは手当てや治癒魔法を習ってたのに、これまでで一番その技能が必要になる時に戦力外になっちゃうなんて…。

 

「…あの、今お姉ちゃん達は…」

「取り敢えず応急手当ては完了して、今は寝てるよ。…正しくは気絶だけど…」

「それは良かったです…わ、わたし達ももう大分楽になったので、何か必要なら手伝います」

「無理しなくていいよ。それよりも見回り組が戻り次第ここから出るから、辛かったら言う事。いいね?」

『あ…はい…』

 

二人で揃って返事をすると、サイバーコネクトツーさんはうんうんと頷いた後皆さんの方へ戻っていく。殆どの人はお姉ちゃん達の周りにいて、ロムちゃんとラムちゃんはマジェコンヌさんと一緒に伏兵対策の見回り(多分本当の目的は重体のお姉ちゃん達を目にしてしまわない様にする為)に行っちゃったから、ここにいるのはわたしとユニちゃんだけ。

 

「…やっぱり凄いわね、コンパさん達は。あの状態のお姉ちゃん達を目にしても、すぐに手当てに入ったんだもの」

「うん…それにお姉ちゃん達も凄いよ。あんなに酷い怪我を負ってたのに、今までずっと耐えてたなんて……」

「…ねぇネプギア。もし、アタシ達がお姉ちゃんと同じ様になってたら…その時アタシ達は、耐えられたと思う…?」

「…………」

 

そんな質問、答えるまでもない。答えるまでもなく……わたし達に、耐えられたとは思えない。逃げ帰ったあの時よりは力も心も少しは強くなれてる筈の今のわたしだってそう思うんだから、もしあの時捕まっていたら…そう考えるだけで、わたしは背筋が寒くなる。そして同時に、思い知らされる。…わたし達女神候補生と、お姉ちゃん達守護女神の差を。

 

「…わたし、少し自惚れてたかも。追い付けてはいなくても、結構距離は縮まったんじゃないかって…」

「…気持ちは、分かるわ」

「……見せ付けられちゃったね、お姉ちゃん達の底力…」

「それも、同意。お姉ちゃん達も、皆さんも…アタシ達よりずっと凄いわ。けど…アタシ今思ったわ。それはそれで嬉しいかも、って」

「え……う、嬉しい…?」

 

必死に進んで、大分目的の場所まで近付けたかなって思った時に、実際はまだまだ先が長いと知ってしまったら誰だって落胆しちゃうもの。そう思っていたけど…わたしの隣に座るユニちゃんは、ほんの少しだけど笑みを浮かべていた。その理由が分からなくて、わたしは訊き返すと…ユニちゃんは更にもう少し口角を上げて答えてくれる。

 

「えぇ、だって……まだまだ差が開いてるって事はつまり、強くなったアタシ達でも全然追い付けない位お姉ちゃん達は高みにいるって事でしょ?ネプギアはアタシ達が簡単に追い付ける程度のお姉ちゃんがいいの?」

「それは……そっか、そういう見方もあるんだ…」

「お姉ちゃんとの差を見せ付けられるのは悔しいし、ネプギアの意見にも同意だけど…折角助けたのに落ち込んでたら、お姉ちゃんに怒られちゃうわ。私の妹がそんな後ろ向きでどうするんだ、って」

「ノワールさんらしいね…うちのお姉ちゃんなら『もー、そんな事気にしなくていいんだって!それよりネプギア、わたしの仕事手伝って〜!』とか言うかも…」

「へ、へぇ…ネプテューヌさんは妹に仕事の手伝い頼むの…?」

「と、時々ね…ほんと時々だから…うん……」

 

…うっかり普段のお姉ちゃんの事を言ったせいで、お姉ちゃんに対するユニちゃんからの評価が今下がった気がする。……なんか、ごめんね…。

 

「…とにかく、アタシはそう思う事にしたわ。どんなに背中が遠くたって、道のりが長くたって…アタシはもう、それを理由に立ち止まったり諦めたりはしない。お姉ちゃんとの距離はもっと縮めたいし…アイツには、負けたくないもの」

「ユニちゃん…」

「だから、ネプギア。アンタも気張りなさい。じゃなきゃアンタ、お姉ちゃんだけじゃなくて…アタシの背中も追いかける事になっちゃうわよ?」

 

立ち上がって、座っているわたしを見下ろすユニちゃんの顔は、もうすっきりしていた。…まだ、わたしはユニちゃん程割り切れてはいないけど…負けたくない、って思った。思っていた通りに、思っていた以上に凄かったお姉ちゃんにも、ここから進もうとしているユニちゃんにも。

 

「…そう、だね…ふふっ、ありがとねユニちゃん。ユニちゃんのおかげで、わたし元気が出たよ。やっぱりユニちゃんって優しいね」

「う……あ、アンタを元気付けたのは、ライバルがうじうじしてたら張り合いがないからよ!か、勘違いしないでよね!」

「……?…ユニちゃん、今ちょっと照れてた?」

「て、照れてないわよ!ほらロムラムとマジェコンヌさん戻ってきたし、アタシ達も行くわよ!」

「…絶対照れてたと思うんだけどなぁ…」

 

さっさと一人で行っちゃうユニちゃんを追いかけ皆さんの下へ向かうわたし。横たわってるお姉ちゃん達を見るのは少し怖かったけど…皆さんの総力を挙げた治癒魔法のおかげで、お姉ちゃん達の傷は大分塞がっていた。……肌と服は血の跡で物凄い状態だったけど…。

見回りから戻ってきた三人から野良のモンスター以外に敵と呼べる相手はいないと聞いたわたし達は、眠っているお姉ちゃん達をおんぶして歩き始める。…後はイリゼさんと合流するだけだよ。イリゼさんと合流出来たら、それでやっとわたし達の家に帰れるからね、お姉ちゃん。

 

 

 

 

一人でジャッジの相手を受け持ってくれたイリゼさんと合流する為に、今わたし達は来た道をそのまま引き返している。この作戦では気付かない内に心労も溜まっていたみたいで、帰り道の最中ずっとわたしは疲労を感じていたけど…お姉ちゃんの温もりを背中に感じられている今は、疲れていても自然と脚は前に進んでくれた。

 

「そういえば、MAGES.達はイリゼさんに会わなかったの?」

「あぁ。私達はとにかく早く進む事を優先していたからな。そうでなければ戦闘音を頼りにイリゼの加勢をしていただろう」

「それはどうかな?イリゼはなんかアイツと戦いたがってた様にも見えたし、あたし達の時と同じく一人で戦うって言われてたかもしれないよ?」

「戦いたがってた?…イリゼもねぷ子達みたいに好戦性を拗らせ始めたのかにゅ?」

「さ、さぁ…私達は守護女神の四人とは旅した事ないから何とも…」

 

道中の会話の中心になっているのは新旧揃った旅の仲間さん達。気付けばもうパーティーメンバーは二十人を超えている訳で…ちょっとした話題でも結構会話が続くんだよね。

 

「おっとと…ロム、ラム。もう少し前を歩いてくれないかな?じゃないとバランスが…」

「もう少し、前…わかった(ぽてぽて)」

「ファルコムさんもおねえちゃんをしっかりおんぶしてあげてよねー」

 

お姉ちゃん達四人はロムちゃんラムちゃんとブロッコリーさん以外の全員で交代しておんぶをしているけど、ブランさんの両手はずっとロムちゃんとラムちゃんが握っていた。でもそうなると二人は運んでる人よりちょっと前に出てないと危ない(じゃないとブランさんが後ろにひっくり返っちゃう)訳で、今ブランさんを担当してる大きいファルコムさんは苦笑い。多分本当は止めてほしいんだろうけど…あんなにきゅっと手を握ってる二人に離れろなんて、それはマジェコンヌさんでも言えない事だった。

 

「……あ、この岩って…」

「そうね、そろそろイリゼと合流出来る筈よ。コンパ、まだ魔力残ってる?」

「はいです。イリゼちゃんが大怪我してても、ちゃあんと治してあげられるですよ」

 

イリゼさんと別れてからすぐの場所にあった、特徴のある岩を発見してわたしは声を上げる。そこから先に目を凝らしてみると、地面や岩壁の色んな場所に抉れた跡があって…それを見るだけで、イリゼさんとジャッジが如何に激しい戦いを繰り広げていたのかが伝わってくる。…けれど、戦闘音はしてこない。という事はつまり、勝敗は決してるって訳で……わたしはちょっとドキドキしながら歩みを進める。

 

「イリゼさーん?お姉ちゃん達は、無事に助けましたよー?イリゼさー……あ、居ました!皆さん、イリゼさんがあそこ…に……──イリゼさん!?」

 

少し進んたわたしは、視界の端に岩によりかかって座るイリゼさんを発見。それを見つけたわたしは皆さんに伝え、もう一度イリゼさんの方を向いたところで……気付いた。イリゼさんは、血溜まりの中に座っている事に。

 

「ちょっ…い、イリゼさんも重体なの!?じゃ、じゃあジャッジは…」

「それよりまずはイリゼさんを手当てしてあげなきゃ…!」

 

ユニちゃんは最悪の可能性を考えて周囲に視線を走らせていたけど…同時に鉄拳さん(勿論芸人の方じゃないですよ?)の言った事もその通り。わたし達は揺らさない様に歩くのを忘れてイリゼさんの下へ急いで駆け寄る。

 

「イリゼちゃん、わたしの声が聞こえるですか!?」

「……っ…ぁ…コンパ…それ、に…皆…」

「意識はあるんですね…だったらイリゼちゃん、今からお手当するですから楽にしていて下さいです!」

「…じゃあ…皆は……」

「はい。ねぷねぷ達は…皆、助けてきたですよ」

「そっか…良かった……」

 

まず声をかけたのはコンパさん。立ち上がろうとしたイリゼさんを楽な姿勢にしてあげて、同時に怪我の状態を診始める。その最中でお姉ちゃん達を助けてきた、という言葉を聞いたイリゼさんは…本当に安心した様な表情を浮かべていた。

 

「イリゼちゃんも酷い怪我をしてるです…皆さん、また手伝って下さいです!」

『勿論!』

「あ、あの!わたしも何か手伝います!」

「ギアちゃん…」

 

容態の確認が出来たコンパさんは、こちらに振り向いて皆さんに協力を仰ぐ。そうして治癒が始まりそうになったところで…わたしも参加を申し出た。わたしの治癒魔法はまだまだ勉強中だけど……それでも、こんな短い間にまた情けない姿を見せる事なんてしたくない。

その思いで申し出たわたし。…でも、コンパさんは首を横に振る。

 

「…気持ちは嬉しいですけど…止めておいた方がいいと思うです。服と血で分かり辛くなってるですけど…多分、ちゃんと傷を見たらギアちゃんはまた…」

「そう、ですか……」

「……その代わりに、ギアちゃん達はねぷねぷ達を見ていてくれますか?ギアちゃん達が見ていてくれるなら、わたし達は安心してイリゼちゃんのお手当てが出来るです」

「…分かりました。お姉ちゃん達は任せて下さい」

 

全ての治癒魔法がそうなのかは知らないけど…わたしが教わった治癒魔法は、対象の怪我の状態をきちんと見る事が必要。そして……コンパさんの言う通り、今のわたしにそういう耐性はまだないとわたし自身がよく分かっていた。

わたし達はお姉ちゃんを近くに降ろして、コンパさん達を見守る。思った通りに手伝う事は出来なくても、最大限やれる事をしよう。出しゃばって邪魔になる事だけは絶対にないようにしよう。…そう考えられる位は、わたしにだって出来た。

 

「…大丈夫かな…大丈夫だよね…」

「…きっと、だいじょうぶだよ。ネプギアちゃん」

「え……?」

「よく見えないけど…ちゃんとした魔法の力、かんじるもん」

「そうね。なーんかめちゃくちゃなかんじもあるけど、こうかはちゃんとしてる気がするわ」

「…魔法使いって、そういう事も分かるのね…」

 

皆さんの事は信じてるけど、待っている間はやっぱり不安になってしまう。けれど、ロムちゃんとラムちゃんは直接は見えてなくても感覚だけで魔法がどんな感じになってるのか感じられてるみたいで、二人は大丈夫だって言ってくれた。その言葉に、わたしは二人の才能と魔法使いとしての心強さを感じる。

 

(…そう、きっと大丈夫…だからわたし達はちゃんとお姉ちゃん達を見ていてあげなきゃだよね)

 

真っ赤に染まった服とは裏腹に、ちょっと血の気はないけど穏やかな顔をして寝ているお姉ちゃん達。見ていてほしい、という言葉の中にはわたし達に気を使って役目を作ったって部分もあるんだろうけど…それでも務めは果たさなきゃ。だって頼まれた事だもん。

そうして待つ事数分。皆さんの作った人の輪の中でコンパさんが立ち上がるのを見て、わたし達はイリゼさんの手当てが終了したのだと理解する。

 

「…イリゼさんも、もう大丈夫ですか?」

「今は眠ってるですよ。でもまだ魔法がかかりきってないので、移動はもうちょっと待たなきゃ駄目です」

「魔法がかかりきってない…?」

 

コンパさんに近付いて話を聞くと、そんな返答が返ってきた。治癒魔法をかけてる最中だから、なら分かるけど…終了してるのにかかりきってないってどういう事なんだろ?遅効性、って事なのかな?それとも…って、あれ……?

 

「…………」

「ギアちゃん?どうかしたですか?」

「……あの…イリゼさんのお口に太巻きが突っ込まれてる様に見えるんですけどそれは…」

「あ、それはわたしの太巻きだよ?疲れた時、怪我した時はこれが一番!」

「……お口の端からは丸っこい物が見えてるんですけど…」

「それはあたしの甘露丸だね!ネプギアも食べてみる?」

「……そして何よりイリゼさんの身体がゲル状の何かでべったべたになっているのは…」

「ブロッコリーの目からびーむだにゅ」

「…………」

 

 

(──イリゼさんは何をされたの!?治癒!?これ本当に治癒なの!?)

 

イリゼの状態が治癒をかけられたというよりべろんべろんに酔って謎の行動を繰り返した人の末路みたいになっていて戦慄するわたし。このどう考えてもおかしい状況に対し、わたしに答えてくれた人どころかここにいる全員が「え、何?」みたいな反応をしている事で、わたしの戦慄は更に増す。…そ、そういえば待ってる間も曲が流れてきたり絶望禁止って聞こえてきたりしてたけど…皆さんは一体どんな治癒をしてたの!?わたしが駄目だって言われたのって、まさかこのとんでもない治癒を見られないようにする為じゃないよね!?違いますよね!?

 

「どうしたのよネプギ…うわ、何これ……」

「すごいことに、なってる…(かおす)」

「でもおもしろいかも。しゃしんとっておこーっと」

「それは止めてあげなさい…っと、効いてきたみたいね」

「あ、効いたら消えるんですね…」

 

わたし達が見る中、治癒魔法(?)はすーっとイリゼさんに吸収される様にして消えていく。それから一分位した頃にはもう綺麗さっぱりなくなっていて、やっぱり服と血でよく分からないけど傷口は塞がったようだった。……え、待って…じゃあお姉ちゃん達も色々口に突っ込まれたりゲル状の何かをかけられてたりしたの…?

 

「…ロムちゃん、ラムちゃん…魔法って奥が深いね…」

『……?』

「さ、これでもうイリゼちゃんも運んで大丈夫ですよ」

「ならば今度こそここを脱出だな。私や女神の皆はともかく、君達はシェアクリスタルを身に付けていても長時間ここにいるのは危険な筈だ」

「あ、それじゃMAGES.さん達も渡されたんですね。…道理で作った数と人数が合わなかった訳だわ…」

 

相変わらず治癒魔法(多分我流)の事は気になるけど、イリゼさんとも合流したんだからもうここにいる必要はない。それに対して反対意見なんて出る筈もなくて、わたし達はお姉ちゃん達に加えたイリゼさんの計五人を背負ってギョウカイ墓場の外へ。お姉ちゃんを取り戻した事で軽くなった足取りは、イリゼさんが無事だと分かった事で更に軽くなってくれる。そして……

 

「……出られたぁ…」

「ネプテューヌさん達も助けられたし、犠牲者もゼロ。これにてあたし達の戦いは完全勝利だね!」

「……!おいテメェ等!イリゼ様が…皆様が守護女神様達を連れて帰還したぞ!さぁ並べ並べ!今度こそアーチやるぞッ!」

『おぉーーっ!!』

「……イリゼの信者は相変わらずテンション高いわね…」

 

ギョウカイ墓場から脱出したわたし達は、イリゼさんの信仰者さん達に出迎えられながら乗ってきたプライベート機に戻るのでした。……その信仰者さん達がイリゼさんの寝顔を物凄く温かい目で見ていた事については、後で言った方がいいのかな…?

 

 

 

 

小刻みな振動に、私は揺すられ意識を引き上げられる。眠気はそんなにないけれど、何だか凄く身体がだるくてもう暫くこうしていたい。……でも、私は目を開け起き上がった。何かどうしても気になる事が、確かめたい事があった様な気がしたから。

 

「んっ…ぅ……」

「あ…おはよイリゼ。身体は大丈夫?」

「うん…ふぁ、ぁ…」

 

起き上がった私へ声をかけてきたのはネプテューヌ。いつ私は寝たんだったかなぁ…と思いつつ私はその質問に答えを返す。身体、っていうと背中や脇腹を中心に色々違和感があるけど、痛みや感覚の麻痺はないしこれは十分大丈夫の域と言え────

 

「えぇぇぇぇぇぇえええええええええっ!??」

「えぇぇぇぇっ!?な、何!?急に何!?」

「あぅっ!痛ぁっ!?」

「更に何!?自ら頭をぶつけて何!?ハイパーボイスからの室内でルーラを使った場合の真似っこか何かなの!?」

 

びくぅ!ぴょーん!どこぉ!私の頭が天井にクリティカルヒット!私は頭を押さえながら落下する!

 

「うぐっ……」

「あ、頭を押さえた状態で通路に落ちた…イリゼ、色んな意味で大丈夫…?」

「色んな意味で大丈夫じゃない…ってそんな事はどうでもいいよ!な、なななんでネプテューヌがここに!?」

「え…な、なんでって…そりゃ助けてもらったからなんだけど…後ノワール達もいるよ?」

「へ……?」

 

完全なる自爆で負ったダメージを感じながらも顔を上げると…そこにはやはり、ネプテューヌがいた。…いや、ネプテューヌだけじゃない。ノワールも、ベールも、ブランもここに…ギョウカイ墓場への移動手段として乗ってきた機体の中に、皆と一緒にいた。その光景に、私は自分の目を疑ってしまう。

 

「……え…いや、え…?」

「ほんとにイリゼどうしたの?…まさか二度目の記憶喪失!?新作に出られるよう記憶喪失になろうって魂胆!?」

「違うよ!?記憶喪失ではないしそんな魂胆は欠片もないよ!?…後そういう時事ネタは後で読んだ人には優しくないから止めておいた方が…」

「ふふっ、こんなやり取りを見るのも久し振りですね」

「何ほっこりしてるのコンパ…確かにこんなメッタメタなやり取りする事は最近少なかったけど……って、そっか…」

 

全くもって状況を把握出来ていなかった私だけど、コンパの顔を見た瞬間これまでの経緯を思い出す。ギョウカイ墓場に突入して、ジャッジと死闘を繰り広げて、勝ったけどまともに動けない程の怪我を負っちゃって、暫く休んでいたらネプギアの声が、続いてコンパの声が聞こえて、コンパからネプテューヌ達を助けたって言葉を聞いて……

 

「…あの後、私気を失っちゃったんだね…」

「あれだけ負傷してたんだから当たり前よ。…というか、治癒魔法かけたとはいえよくあんな跳べたわね今…」

「あ、あれはある意味火事場の馬鹿力的なものだから…」

 

そもそも跳びたくて跳んだ訳じゃないし…と私は心の中で呟く中、機内はちょっとした笑いに包まれる。私はウケたかった訳でもなければ旧パーティーメンバーやらマジェコンヌさんやらいつ来たのか分からない面子の事が気になって、面白い云々の感情は最初生まれてこなかったけど…皆の笑顔を見て、ネプテューヌ達四人を含めた皆の笑顔を見て、つい私も笑みを零してしまった。……そして、そんな光景を目にして、皆に遅ればせながら私もやっと実感する事が出来た。…四人を、取り戻す事が出来たんだって。

 

「…………」

「火事場の馬鹿力かぁ…それで言うと、わたし達はずーっとそれで持ち堪えてたようなものなんだよね」

「そう、なんだ…」

「自分の事ながらこの底力の強さにびっくりだよ、うん」

「…自分、の…底力なんて…っ…わ、分かんない…もの、だもん…ね…っ」

「だよねー…って、イリゼ?なんか言葉詰まり詰まりじゃない?」

「…ぅ、く…そ、そりゃ…そうでしょ…だって、だっ…て…」

 

四人を取り戻せたんだと実感して、安心して、安堵して。そうして……その思いが、込み上げてきた。これまでずっと女神だから、四人の代わりに引っ張らなきゃって思って耐えてきたものが、一気に溢れそうになった。そんな中、ネプテューヌに顔を覗き込まれたら…もう、我慢なんて出来る筈がない。

恥ずかしい気持ちも忘れてネプテューヌに抱き着く私。それと同時に頬へと流れる、私の涙。

 

「…馬鹿…馬鹿ぁ!心配したんだから!ずっと、ずっと私達だって辛かったんだからぁ!うえぇぇぇぇん!」

「わわっ!?ちょ、イリゼ!?」

「ごめん…ぐすっ…ごめんね…助けるのが遅くなっちゃって…」

「あ、う…うん…怒った直後に謝るのね…」

「イリゼ…って、あ、貴女は何普通にネプテューヌに抱き着いてるのよ!?」

「……っ…ノワール…ノワールぅっ!」

「私も!?のわぁぁ!?」

「ノワールも、ベールも、ブランも…ずっと、ずっと会いたかったんだからぁ!」

「あ、あらあら…この展開は予想外ですわ…」

「わ、分かったから勢いよく抱き着くのは止めて頂戴…体格的にキツいわ…」

 

ネプテューヌに抱き着いて、ノワールに抱き着いて、ベールに抱き着いて、ブランに抱き着いて。後で絶対恥ずかしくなるだろうけど、窓叩き割って空へと飛び出したくなる衝動に駆られるかもしれないけど…私はその思いを抑えられなかった。抑えたくなかった。だって…私にとって、皆の存在は命よりも大切なものだったから。皆は過去のない私に今を、未来をくれた大好きな人達だから。だからとにかく、どうしようもなく……皆とまた会えた事は、嬉しかった。

四人へ順番に抱き着いた後、最後に四人まとめて抱き締める私。そんな私に対して、皆は何も言わずに見守っていてくれて…四人もまた、優しい顔で私を受け入れてくれた。────この日感じた嬉しさを、私は…きっといつまでも忘れないと思う。




今回のパロディ解説

・鉄拳さん
お笑い芸人兼イラストレーターである、鉄拳こと倉科岳文さんの事。分かり辛いですし、キャラの方は鉄拳ちゃんさん…と表現した方がいいのでしょうか…?

・ハイパーボイス
ポケットモンスターシリーズに登場する技の一つ。まぁ要するにこの時のイリゼは凄く大きな声を出していたという訳です。物凄く驚いていたのです。

・室内でルーラ
ドラゴンクエストシリーズに登場する移動呪文及びそれに関連する小ネタのパロディ。シリーズにもよりますが、あれ普通に考えたら頭と首のダメージヤバいですよね…。

・新作
原作シリーズの一つで現段階ではまだ未発売の作品、勇者ネプテューヌの事。時事ネタ云々は別に時事ネタdisりではないので、あまり気にしないで下さいね。

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