超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第六十七話 高揚切り裂く新たな敵

国防軍は専守防衛を基本とする組織ではあるが、ギルドを始めとする民間では対応が困難、或いは法律上出入りが制限されているような場所にいるモンスターの討伐に関しては軍による積極的防衛が行われている(勿論討伐が必要と判断されたモンスターに対してであり、のべつ幕なしに行なっている訳ではない)。中でもラステイション及びプラネテューヌに存在するMG部隊は大型のモンスターを相手にする事が多く、当然訓練も対モンスターを意識したものが中心となっている。……が、MG部隊は設立当初から対兵器戦での出動を想定された組織でもある為、敵性兵器…特に最大の仮想敵であるキラーマシンシリーズへは、女神及び女神に近しい者達に次ぐレベルでの対応能力を有している。そして、教会が犯罪組織との全面戦争を選択したのは……モンスター以外で犯罪組織が有する主力兵器が、そのキラーマシンシリーズである事が要因の一つとなっていた。

 

「そんなとこにゃいねえんだよ、阿呆」

 

キラーマシンが放つ、予測射撃のビーム。それをホバー移動のまま脚部を動かし推力ベクトルを操作したシュゼットは、滑る様な軌道で回避しつつビームに沿う様に接近をかける。接近を許したキラーマシンは砲撃を止め両腕の武器による迎撃体勢を取ったが…左腕の重機関砲で防御を一瞬綻ばせられ、その瞬間をスラスター全開の加速で文字通り『突いた』シュゼット機により、重い一撃を喰らってしまった。

 

「有人機なら冥福の一つでも祈るところだが……無人機にゃその必要はねぇよな」

 

槍剣が深々と刺さったキラーマシンはそれだけでも大きな被害を受けていたが、容赦する気など毛頭ないシュゼットは槍剣内蔵の機銃を発砲。刺突により内部構造が露出している状態で接射を受ければひとたまりもなく、その攻撃によってキラーマシンは沈黙した。

 

「うっし、次!各機、戦果を上げたいなら無理に一人で戦おうとするんじゃねぇぞ!」

「一人で相手してる隊長がそれを言いますか!」

「俺はいいんだよ、無理なく一人で戦ってるんだからなッ!」

 

牽制や陽動ではなく撃破を目的とする際は極力複数機で当たるというのが対キラーマシンの想定であり、各機実際にその想定通り二機や三機で撃破を行なっていたが…隊長であるシュゼットは、その想定に反して単騎での戦闘を行っていた。しかしそれでいて現状撃破数は複数機で当たっている部下に何ら劣らないのだから、文句を言う者は一人もいない。そして隊長とはいえそんな行為が堂々と行えているのは、国防軍の成り立ちから発生した実力主義的側面の表れと言える。

犯罪組織部隊との交戦が始まってから数十分。国防軍は、概ね優勢で戦っていた。

 

(この調子なら、戦闘そのものはまあまず勝てるだろうな。問題は捕縛の方だが…)

 

ちらり、と相手方の車両を確認してみると、開戦前とその数は殆ど減っていない。実のところ開戦前にきちんと数えていた訳ではない為、殆どどころか一台も減っていない可能性もあるが…まあ少なくとも大量に離脱されてしまったって事はないだろうとシュゼットは一安心し、戦闘を続行する。

キラーマシンに対し優位に立つMG部隊だが、そのサイズ故に対人戦闘には向いていない。勿論武装の中では威力の低い頭部機銃ですら生身の人間には驚異であり、グレネードの一発でも放てば数十人纏めて始末出来るが…それは虐殺以外の何物でもない。上層部や教会が求めているのは殲滅ではなく捕縛であり、止むを得ず少数を殺すだけならともかく虐殺なんてしようものなら立場的にではなく物理的に首が飛ぶ事となるのは間違いない。それ故にMG部隊はキラーマシンや兵器の掃討までは離脱の阻止までに留め、捕縛は勝敗が確定してからMGを降りて行うという作戦で進めていた。

 

「…っと…クラフティがいりゃ陸戦に集中出来たんだがな…」

 

指示と状況確認の為一時攻撃を中止していたシュゼット機へ、空から銃弾が襲いかかる。それに気付き空中へと目を向けると、仕掛けてきたのはやはり空戦仕様のキラーマシンだった。ラァエルフにも当然空への攻撃手段はあるが…継続的に飛べるキラーマシン・フライトと短時間の滞空が精一杯のラァエルフ、それも陸戦重視のT型装備群ではどちらが有利かなど自明の理。……しかし、それはあくまで相性の話に過ぎない。

 

「二機か…余裕だな」

 

重機関砲をラックライフルに持ち替えたシュゼット機は、ゆらゆらと軌道を変化させながら後退。その動きでキラーマシンの射撃を避けつつ距離を保つ事で二機を引き付けていく。動きを見極め、動きを予測し、ギリギリまで引き付け……突如後退から前進へ切り替える。

 

「落ちやがれッ!」

 

後退するものと判断し放っていた弾丸は、ラァエルフの頭上を通過していく。その中でシュゼット機はキラーマシンと交差する瞬間にラックライフル下部のブレードを振るい、キラーマシンの右翼を斬り裂いた。

片翼を切断され、姿勢を崩して地面へ激突するキラーマシン。もう一機は旋回の後改めて射撃を敢行したが、その射撃は横向きで掲げられた槍剣の腹によって阻まれ、射撃から近接格闘に移行しようと戦斧を振り上げた瞬間投げられたラックライフルによって、撃破するどころか逆に頭部を潰される形に。

 

「まだ弾切れでも刃こぼれ状態でもねぇんだ、返してもらうぜ?」

 

頭部を潰されセンサーやレーダー性能が大きく落ちたキラーマシンは高度を上げながら軽機関砲を乱射。とはいえそんな攻撃がまともに当たる筈もなく、シュゼット及びその近くで戦っていた数機による集中砲火を浴びて敢えなく撃退。シュゼット機がブレードの刺さったラックライフルを引き抜く頃には、ただのスクラップとなっていた。

 

「隊長、これならいけます!一気に押し込めますよ!」

「おう、士気が高くて宜しいこった。だが熱いハートだけじゃなくクールな頭を持つ事を忘れんじゃねぇそ?」

「は、はい!」

 

新たに部下となった新人が調子に乗らないよう窘めるシュゼットは、薄く笑いを浮かべていた。戦況に一喜一憂する新人の若々しさに微笑んでいるとも、指揮官故自分の戦いだけに集中出来ない事への苦笑とも見えるその笑みだが、実際にはその他にも自分が父親となったら子供に似たような窘めを行う日が来るのか…というふとした思い付きから、妻クラフティへの邪な想像を膨らませた事による下賤な笑いであったりもするのが彼の世俗的なところ。

そうしてそこからまた数分。敵戦力の低下で勢いの増したMG部隊は、更に犯罪組織の兵器と呼び出したモンスターを撃破していくが……一人の上げた声により、状況は変化する。

 

「……!戦域外よりこちらに接近する熱源有り!数は一機です!」

「一機?…民間の機械か何かか?」

「い、いえ…この反応はMGの物です!それに、速度が尋常ではありません!」

『……!?』

 

民間の物なら保護、敵でも一機ならば焼け石に水…そう考えていた各パイロットだったが、それがMGの物であると聞いた瞬間耳を疑いレーダーでその機体を確認した。そして……その報告が間違いでも何でもない事を理解する。

 

(おいおい何だよこいつは…初期型キラーマシンの三倍近い速度を出してねぇか…!?)

 

一体どんな無茶を機体にさせたらこんな速度が出るのか。シュゼットがそう思っている間にも移動を続けた謎の機体は戦域に到達し、部隊側とはカメラ越しにその姿が捕捉出来る距離に。そうして見えてきたのは……目立つ赤に機体を包んだラァエルフ、犯罪組織のアズラエルだった。

 

「こいつって、まさか…!」

「うおっ!?撃ってきやがった!?」

「くっ…敵だってなら、落としてやるだけよ!」

 

突然想定外の機体が現れ、攻撃を仕掛けてきたとはいえ彼等は戦闘を生業としている軍人。直後の動揺こそあったものの、接近されれば当然謎の機体改め敵機の撃退行動に移る。

真っ先に迎撃へ移ったのは三機。一機は重剣を構えて突進し、残りの二機は距離をずらして援護体勢に。見慣れない敵に対し、即座に前中後衛に分かれた行動を起こしたのは流石の練度と言うべきだが……その敵機の実力は、彼等の想定より一枚も二枚も上手だった。

 

「な……っ!?」

 

肩掛けのロケットランチャーから右腕に戦斧、左腕に重機関砲というスタイルに持ち替えつつも一切速度を落とさないアズラエル。対する前衛担当も初めは対抗して速度を維持していたが、そこはスーパーエース級か否かの違いなのか前衛担当が先に速度を落として『待つ』姿勢を取ってしまい、そこをアズラエルに…アズナ=ルブに突かれる。

 

「…まず一機」

 

近接武装が届くという寸前の距離で脚部スラスターを吹かしたアズラエルは、加速状態のままサマーソルトキック。前衛担当の体勢を崩し、そこから上下反転上昇で胴体部へ三点バースト射撃を浴びせる。そして着地したアズラエルはすぐ二機目へ。

 

「くっ、速い…!」

「しかも、何なのこの動き…!?」

 

前衛がやられたのを見て中衛担当はシールドを構えつつ軽機関砲による弾幕を形成するが、アズラエルは軽やかに飛び回り全弾回避。後衛担当の支援射撃も物ともせずに中衛へと肉薄し、可動型シールドを振るう様に動かして右腕を軽機関砲毎弾くと同時に戦斧でラァエルフの腰部を切断してしまう。

そうして最後に残ったのは後衛の機体。この時点でもう単騎では勝てないと判断していたパイロットは牽制しつつの後退を選択したものの、先んじて発砲したアズラエルによって重機関砲を破壊され、前二機と同じ様に一気に距離を詰められてしまった。

 

「そんな……っ!」

「これで、三機…!」

 

何とか胴体部への斬撃は右腕を犠牲とする事で凌いだ後衛だが、次の瞬間脚部を撃たれて転倒する。万全の状態ですら手も足も出なかった敵に対し転倒した状態を見せる事など(望んだ訳ではないが)自殺行為に等しく、パイロットもコックピットを潰される事を覚悟したが……次の瞬間、アズラエルはトドメを刺す事なく飛び退いた。そして驚くパイロットの視界の中を、重機関砲の弾丸が駆け抜ける。

 

「全機下がれ!奴の相手は俺がする!」

 

着地したアズラエルの下へ、槍剣を構えて突進するのは勿論シュゼット機。アズナ=ルブも自身へ迫る機体が一筋縄では倒せない事を瞬時に理解し、カウンターは諦め再度の跳躍で再び回避。地上を走り抜けたラァエルフ・トゥオートと宙を飛んだアズラエルがほぼ同時に振り向き正対する。

 

「…指揮官機、か」

「赤いラァエルフに、その戦闘能力……テメェが噂のMG乗りか…」

 

指揮官の登場に仮面の裏で目を細めるアズナ=ルブと、噂の存在と相対出来た事に内心喜ぶシュゼット。彼等の意思を乗せた二機のモノアイとゴーグルアイは、視線を交わらせているが如く光を発した。

 

 

 

 

ギョウカイ墓場で犯罪神の配下である四天王と夥しい数のモンスターに遭遇したわたし達は、今ある平和を少しでも長く続かせる為、ネプギア達を逃がす為に負ける事を覚悟して戦った。あの時の事は後悔していないし、あの時出来た最善の選択だったと思っている。……けど、その先でわたし達を待ち受けていたのは地獄だった。

気を抜けばすぐに死んでしまいそうな怪我を全身に負ったまま、不衛生極まりないコードで吊るし上げられたわたし達は、シェアエナジーを奪う謎の結界に閉じ込められた。

 

(きっと今、イリゼやいーすん達が策を練ってくれている…ごめんなさい、わたし達守護女神が不在になっちゃって。でも、信じているわ)

 

初めは、救出が来るその時まで耐えようと思っていた。身体は怪我で燃える様に痛いし、乱暴に吊るし上げられてる状態と謎の結界にシェアエナジーを吸収されるのとで苦しくてたまらなかったけど、歯を食いしばって耐えていた。助けを待つのみなんて、守護女神として情けないわね…と、ノワール達と話して気を紛らわせていたりもした。

この期間は、全体からすれば大分長かったと思う。…と、言っても正確な時間が分からない以上『そんな気がする』だけなのだけど。

 

(……大丈夫よ…大丈夫、きっと今皆は頑張ってる筈…)

 

それでも暫くして、わたし達は前向きさを失い始めた。景色も、状況も、痛みも苦しみもずっと変わらない事でわたし達の精神は摩耗していく。唯一変わったのは心の中の呟きで、いつの間にかその内容が皆への言葉から自分を安心させる為の言葉に変わっていた。

そうしている内に、遂にわたしは体感での時間計算を止めた。元々99%間違ってるだろうとは思っていたけど、なんだかもうそういう事を考える気力が無くなってしまっていた。皆との会話も、もう途絶えている。

 

(……今は、どの位進んでいるのかしら…後どれ位待てば、わたし達は解放されるの…?)

 

考えるのは、皆が助けに来てくれるまでの時間ばかり。もう後少しのところまで来てるんじゃないかと妄想して、まだまだ全然進んでいない可能性が頭をよぎって不安になる。その内「皆も四天王やモンスターにやられてしまったんじゃ…」と思い始めて、そこから更に「わたし達の事は、見捨ててしまったんじゃ…」と怖くなって、考える事も嫌になってしまった。…でも、わたし達は思考を巡らせる事を止められない。何一つ出来ないこの場で、痛みと苦しさを紛らわせるには思考に集中して気を逸らすしかなかったから。

そういう時間も暫く過ぎた。心身共に長い間疲労し続けて、いよいよ意識がぼーっとし始めた頃……ネプギアが、やってきた。

 

(良かった…ネプギアが、ネプギアが生きていた…!それに、姿はちゃんと見えなかったけどイリゼもこんぱもあいちゃんもいた…!これは、皆がわたし達を助けようとしてくれてる証拠よね…!)

 

結界越しにネプギア達が見えて、一方的だけどあの時の罵詈雑言を謝る事が出来て、わたしの心に力が戻った。ネプギア達の姿は三人も見えていた筈で、わたし程じゃないにしても勇気付けられていると思う。この時わたしは、諦めないで良かった、必死に耐えていてよかったと心から思った。

 

…………でも、

 

(……まだ、なのかしら…早く、早く助けに来て…)

 

──その時を境に、わたし達の精神摩耗は加速した。助けようとしてくれると分かったのに、希望が見えたのに……いや、希望が見えたからこそ、真っ暗な道から朧げながらゴールの見える道へと変わったからこそ、わたし達の心は絶望への耐性が脆くなっていた。

それまでは何とか耐えられていた空虚な時間も、今ではもどかしくてしょうがない。身体が慣れたのか、それとも神経が鈍ったのか痛みや苦しみが少し和らいでいたけど、再び苦痛がぶり返してきた。それ等は期待の心が膨らめば膨らむ程強くなっていって、わたし達の心は削られていく。

 

(女神化を解けば…ちょっと力を抜けば、楽になれる…けど、そんな事したら……皆が頑張ってるのに…皆がいつかここに来る筈なのに……そんな事、出来る訳ない…)

 

人としての身体は、シェアエナジーの消費が極僅かで済む代わりに、女神としての身体より弱く脆い。今の姿でもプロセッサを工夫する事で止血と身体の補強をして何とかギリギリ耐えてるという状態なのに、女神化を解いてしまったら……間違いなく、わたし達は死ぬ。……でも今は、この苦痛から解放されるなら…と死が一瞬選択肢に入るようになっていた。結局その度に皆の事を、女神としての使命を思い出して踏み留まっていたけど…わたしはもう衰弱しきっていて、こんな事を思うようになっていた。……仲間や友情とは、鎖だと。わたしが死者の側へと行かないよう繋ぎ止めてくれている存在であると同時に、わたしに「もしわたしが死んでしまったら皆がどう思うか」というのを考えさせて、それによって苦痛から逃がしてくれない存在でもあると。

時が過ぎる。苦しみに耐えても、早く助けてと心の中で泣き言を言っても、いつか助けてもらった後の事に思いを馳せても、現実に引き戻されて心が締め付けられても、時は過ぎる。期待を持っても、挫けそうになっても、希望を抱いても、絶望に襲われても、何も変わらない、ただただ辛い時間は経っていく。そして……

 

(……………………)

 

…もう、どうでもよくなってきた。なんだかもう、いろいろおもいだせなくなっていて、じぶんがなぜここにいるのかもわからなくなっていて、でもいたいのとくるしいだけはずーっとおなじで、もういやだった。めも、みみも、はなもくちもはだも、いたみをかんじるちからいがいはほとんどなくなってしまって、わたしはくらやみのなかにいた。…たぶん、きっかけがあればわたしはおわりにできる。こころのなかにだめだって、もうすこしまとうっていうじぶんがいるからまだしていないけど、それもきっかけがあればきこえなくなるはず。だから、わたしはもうなにもしなかった。ただ、きっかけをまっているだけ。そのきっかけがあれば、わたしはぜんぶおしまいにして、そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

────その絶望全てを吹き飛ばす、圧倒的な…でも温かくて優しい希望が、わたし達を包んでくれた。

 

 

 

 

甘えん坊、と思われて良い気持ちのする人はいないと思う。お姉ちゃんが大好きなわたしだって甘えん坊と思われるのは嫌だし、そもそもわたしはそんなに甘えん坊じゃない…と自分では思っていた。けど、今だけは甘えん坊だって思われてもいい。まだまだ子供ね、って言われてもいい。だって、やっとお姉ちゃんを助ける事が出来たんだから。本当の意味で、お姉ちゃんと再会する事が出来たんだから。

 

「お姉ちゃん…お姉ちゃぁん…!」

「ネプ…ギ、ア……」

 

わたしはコンパさんに抱えられているお姉ちゃんの胸へ飛び込んだものだから、お姉ちゃんとわたしは揃って倒れ込む。

 

「会いたかった、会いたかったよぉ…!」

「ネプ…ギア……」

「ごめんねお姉ちゃん、あの時は弱くて…助けるまでにこんな時間かかっちゃって…」

「あ…の、ネプ…ギ…ア…」

「でもねわたし、頑張ったんだよ?イリゼさんに色々教えてもらって、ユニちゃんロムちゃんラムちゃんと協力して、皆さんに協力してもらって強くなったの。…あ、あれ?…これじゃ言い訳みたいだね…」

「……ネ…プギア…さん…」

「それでね…って、わたし一人で言い続けたらお姉ちゃん話せないよね…えと、お姉ちゃんなあに?」

「…ネプ…ギア……」

「うん、どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

「……死にそう、なので…離して、下…さ…ぃ……」

「え……わぁぁぁぁっ!?ご、ごめんねお姉ちゃん!すぐ離れるから…って魂出てる!?で、出てっちゃ駄目だよお姉ちゃんの魂さん!し、死なないでぇっ!」

 

…気が付いたら、お姉ちゃんはわたしと地面にサンドイッチされていた。見るからに極限状態のお姉ちゃんにとってそれは必殺の一撃とほぼ同義で、お姉ちゃんは困っているとかのレベルじゃなくて完全にわたしへ解放を懇願していた。しかもその途中でお姉ちゃんの口からふわ〜っと脳波コントローラーっぽい飾りのついた魂が出てきたものだからわたしは大慌て。離れると同時に出つつあった魂を口の中に押し込んで、何とかお姉ちゃんを蘇生。こ、こんなギャグみたいな展開でお姉ちゃん死なせちゃったら、わたし一生後悔するよ!罪悪感で自殺しかねないよ!

 

「はぁ…はぁ…お、お姉ちゃん生きてる…?」

「……ぃ…」

「……い?」

「……生きてます…」

「よ、よかったぁ……でも敬語なんだ…ほんとにごめんね…」

 

魂を無理矢理戻した後、ちょっと不安になりながらお姉ちゃんに声をかけると…お姉ちゃんは、生きてるって言葉を返してくれた。……因みにその時、はっと思って顔を上げるとコンパさんが安心と辟易の混じった様な顔をしていた。……患者さんは無闇に身体を揺すったり衝撃を与えたりしちゃいけないって初めの方で習ったのに、今完全に忘れてました…ごめんなさい…。

 

「…お姉ちゃん、大丈夫…?」

「……し、死に…かけたけど…大丈…うぐっ…」

「本当に本当にごめんねお姉ちゃん!わ、わたし少し反省してます!」

 

本心を言えばもう一回抱きしめたかったし、抱きしめてほしかったけど…今さっきトドメを刺しかけたわたしは、自ら反省の時間を入れる。するとわたしの頭も少し冷静になって、周りの光景…というか皆の様子が見えてくる。

 

「おねえちゃん!」

「…おねえちゃん…!」

「ラム、ロム…二人共、助けに…来て、くれたんだな…」

「うわーん!おねえちゃん、会いたかったよぉぉ…!」

「ふぇ…ぐすっ…おねえちゃん…わたしたちのこと、きらいじゃない…?」

「当たり前、だろ…こんなに可愛い妹を…嫌いに、なる訳ないだろ…でも、ごめんな…あんなに酷い事、言って……」

「いいの!おねえちゃんがきらいになったんじゃないってわかったから、もういいの!…おねえちゃん、おねえちゃぁん…!」

「わたしたち、つよくなったの…おねえちゃんをたすけたくて、つよくなったの…!」

「そっか……よく、頑張ったな…」

 

左右からブランさんに抱き着くロムちゃんラムちゃんは、ぽろぽろ涙を流しながら…でも本当に嬉しそうな顔をしてブランさんを抱き締めている。ブランさんは最初抱き着かれた衝撃で辛そうにしていたけど…二人はわたしより軽くて勢いもついてなかったからか、二人を受け止めてその頭を撫でていた。

 

「あ、あの……」

「…私、貴女…を、本当に傷付けた筈…なのに…来た、のね……」

「あ、当たり前よ!だってお姉ちゃんはアタシの為に敢えてあんな事言ったんでしょ!?アタシ全部分かってたから!…でも、あの時は力も心も弱くて…だからこんなに時間かかっちゃって…ごめんなさい、お姉ちゃん…」

「…何謝ってるのよ…ラステイションの、女神…なら、こう言えばいいのよ…待たせたわね。もう大丈夫よ…って…」

「……っ…お、お姉ちゃん……うん…待たせたわね…もう、大丈夫よ…!」

「…えぇ……ありがとう…こんな私を、助けに来て…くれて…強くなったわね、ユニ…」

「お姉ちゃん…お姉ちゃん…っ!」

 

ノワールさんの前に立ったユニちゃんは、最初申し訳なさそうな顔をしていた。でも、ノワールさんに褒められた瞬間堰を切ったように涙を流して、ノワールさんへと抱き着いた。それを受けたノワールさんは少しふらついていたけど……照れくさそうな、でも優しい笑顔を浮かべてユニちゃんの背中をさすってあげている。

 

「…はぁ…皆さん、羨ましい…ですわ…。わたくし、だけ…出迎えてくれる、妹が…いないなんて…」

「……ベール様、無茶…しないで下さい…私達の為に、世界の為にどんな無茶でもやってのけるベール様達は凄いですけど…私、ベール様が辛そうにしている姿は見たくないです…」

「あいちゃん…前言撤回、ですわ……その、抱き締めても…?」

「うっ…さ、流石にネプギア達がいる前では…」

「でしたら、もう少し…だけ…お預け、ですわね…」

 

ベールさんは妹がいないから少し寂しそうにしていたけど…そんなベールさんの背へ、アイエフさんがとん…と頭を当てた。わたし達は勿論姉妹の関係のやり取りだけど…あの二人は、もう少し大人の関係…に見える。実際二人共わたしより大人なんだけど。

コンパさん達は、わたし達に気を遣ってくれてるのかちょっとだけ後ろに下がって待ってくれている。そんな姿も目にした頃にはわたしも大分冷静になっていて……その時、わたしの頬に何かが触れた。

 

「へ……?」

「…もう…いつまでよそ見、してる気なの…?」

「あ…お、お姉ちゃん…」

「気にしなくて、いいのよ…そりゃ、さっきは…死にかけたけど…」

「お姉ちゃん……本物、だよね?本当にわたし…助けたんだよね…?」

「えぇ…貴女が、助けてくれた…ありがとう、ネプギア…」

「……っ…お姉ちゃん…うわぁぁああんっ!お姉ちゃぁぁぁぁん!」

 

わたしの頬に触れていたのは、お姉ちゃんの手。その手で頬を撫でられて、お姉ちゃんが笑顔を見せてくれて……わたしも涙が抑えきれなくなった。…ううん、違う…最初から、泣くのを耐えるつもりなんてなかった。

ぽたぽたと、お姉ちゃんの纏う崩れかけのプロセッサへ涙が落ちる。その内お姉ちゃんの手がわたしの涙に触れて…お姉ちゃんは、不思議な事を言った。

 

「ネプギア…もしかして…泣いて、いるの…?」

「…へ……?」

「…ごめんなさい…わたし、今…貴女の顔、が…ぼんやりとしか見えないの…それに、耳もまだ…よく聞こえなくて……」

「そう、だったんだ…大丈夫だよお姉ちゃん、わたしはちゃんとここにいるから…わたしは、ここだから…」

 

それは、お姉ちゃん達がどれだけ辛い時を味わっていたのかを理解するには十分な言葉だった。その言葉を聞いて、見回すと…ノワールさんもベールさんもブランさんも、確かに目の焦点が少し合っていなかったり、相手の姿を手で確認している様にも見える。……そんなになるまで戦わせちゃって…長い間待たせちゃって、ほんとにごめんね…でも、もう大丈夫だから…ね…。

皆と同じ様に、わたしもお姉ちゃんの身体へ顔を埋める。今度は気を付けて、でも会いたかった気持ちを込めてぎゅーっとお姉ちゃんを抱き締める。あぁ、よかった。助ける事が出来て、本当によかった。……だから後は、帰るだけ。イリゼさんはここにいないけど、やられちゃったとは全く思わない。もうジャッジを倒した後なら合流すればいいし、まだ戦ってるなら手助けをすればいいだけ。そうしてイリゼさんと合流して、皆でギョウカイ墓場を出て、皆でプラネタワーに帰れば、それで…………

 

 

 

 

 

 

「────まさか守護女神を奪還されるとはな。小賢しい…いや、我々が過小評価をしていたと言うべきか。…だが、ここで女神候補生も捕らえてしまえば同じ事。死にかけの守護女神に疲弊しきった女神候補生など、最早取るに足らん」

 

……その瞬間聞こえた、敵意ある声。わたし達の幸せな時間を切り裂いた、女性の声。そうしてその声と共に現れたのは…モンスターとキラーマシンシリーズの機体を従えた、四天王の一人、マジック・ザ・ハードだった。




今回のパロディ解説

・「そんなとこにゃいねえんだよ、阿呆」
マクロスFrontierのノベライズ版にて登場キャラの一人、オズマ・リーの発した台詞の一つのパロディ。シュゼットはオズマ要素も少し入れたいなぁと思っています。

・三倍近い速度
ガンダムシリーズにおいてシャア・アズナブル及び彼を意識したキャラの乗る機体が稀に出す速度の事。アズラエルはとんでもなくピーキーな機体なのです。

・「……生きてます…」
プロレスラー、柴田勝頼さんの名台詞の一つのパロディ。シチュエーションとしては大分違います…というか、これはパロディになるかギリギリのラインですね。

・「〜〜耳もまだ…よく聞こえなくて……」
ソードアート・オンラインシリーズのヒロイン、結城明日菜の台詞の一つのパロディ。台詞というか、解放の後の再会という展開含めてのパロディです。

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