超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第六十四話 近付く佳境

お姉ちゃん達が捕まっている場所へと、最短ルートで進む。スピードの事を言うなら最短ルート+女神化状態でびゅーんと飛んでいくのが一番速いけど…わたし達は温存を徹底されてるし、疲れたところで強襲を受けるのも不味いからという事でわたし達は相変わらず徒歩。でも今は、さっきより急いで移動したい気分。

 

「…イリゼさん、大丈夫かな……」

 

イリゼさんを見捨ててきた訳じゃないし、一人で戦いたいって言ったのはイリゼさん本人。だからイリゼさんからすれば「気にする必要はない」んだろうけど…わたしとイリゼさんの仲だもん、気になっちゃうよ。それに……

 

「…あ、またきこえた……」

「やっぱり、ジャッジと戦ってる音かしら…」

 

断続的に感じる揺れと音。それはギョウカイ墓場じゃ常に発生しているもので、その正確な理由は分からないけど…イリゼさんと別れてから、感じる揺れと音が心なしか大きくなった様な気がする。わたし達はイリゼさんがいる場所からはもうそこそこ離れていて、普通に考えたら戦闘音なんて聞こえる筈がないんだから、それが聞こえてるのだとすればイリゼさんとジャッジは相当激しい戦いを繰り広げてるって事で……いや実際には気のせいだって可能性も高いんだけど、それでもやっぱり心配になってしまう。

 

「そこまで心配する必要はないと思うですよ。イリゼちゃんは強いですから」

「それは分かってます。でも、もしもの事ってありますし…」

「なら、さっさと四人を助けてあそこに戻りましょ。不安感に心を乱されるより、ベストの事を考えて動いた方が建設的でしょ?」

「…コンパさんもアイエフさんも、本当にイリゼさんを信頼してるんですね」

 

二人はイリゼさんを心配していない…って事はないと思うけど、二人の歩みや言葉からは迷いを感じない。何故かといえば、それはきっと…心配を信頼が上回っているから。

 

「ま、そりゃ一緒に閉じ込められたり騙されたり追いかけ回されたりしたし、何度も死にかねない出来事を乗り越えてきたんだもの。信頼関係は自然と生まれるわ」

「ふふ、あいちゃんはベールさんに対して信頼のレベルを超えたレベルで仲良くなったですけどね」

「ちょっ、今それ言う!?何で今それなのよ!?」

「はっ!そういえばリーンボックスでもそんな感じの話があった気が…アイエフ!アイエフはあたしの嫁になってくれるんじゃなかったの!?」

「いつそんな話になったのよ!?それはあんたが勝手に言ってる事でしょ!?」

「でも、アイエフは好感度が最大になったら受け入れてくれるって…」

「それ無印の話でしょ!そういうネタ出すならせめて直接の元ネタであるRe;birth1から出しなさいよね!」

「あ、アイエフ…君突っ込みの内容がとっ散らかり過ぎて半ばボケと化してるよ…」

 

アイエフさんは大人っぽい、でも優しそうな顔でお姉ちゃん達との波瀾万丈イベントを語…ったのも束の間、コンパさんに物凄い一撃をもらっていた。しかもREDさんも追撃をしちゃって、結局ファルコムさんが突っ込む形に。……アイエフさん、ほんとベールさんとの関係突かれると弱いんだなぁ…後コンパさんの天然さは時々恐ろしい…。

 

「止めてよほんと…なんで私は敵の本拠地でこんな弄られ方してるのよ…」

「ご、ごめんなさいですあいちゃん…。…えと、なんの話でしたっけ?」

「あ、信頼の話です…」

「そうでしたね。…あの時のイリゼちゃんの目は私を信じてって言ってたです。だからわたしは信じてるんですよ。…それは、ギアちゃんもじゃないんですか?」

「…そう、でしたね…はい、わたしもそうでした」

 

信じてって思いを感じたから。コンパさんはそう言ったし、確かにあの時わたしもそう感じて、信じようって思った。…そっか、そうだよね…何ちょっと時間が経ったからって心配し始めてるんだろうわたし。わたしは信じて任せたんだから、今すべきなのは……

 

「…早く先に進む事、ですよね」

「そりゃそーよ、ほんとネプギアはしんぱいしょーよね」

「…ラムちゃんは心配じゃないの?」

「あったりまえよ!だってイリゼ…さんはおねえちゃんたちと同じくらいつよくて、おねえちゃんたちは前あいつらにかってたのよ?じゃあかてるに決まってるじゃない!」

「そ、それはそうだけど…というかこうも真っ向から言われると、わたしはほんとに何を考えてたんだって感じになっちゃうよ…」

「え、そんな感じにはさいしょからなってなかった?」

「がーん…またも真っ向から言われた…」

「……っと、雑談はここまでよ。ネプギア、分かるでしょ?」

「あ……」

 

遠慮も何もないラムちゃんの言葉にわたしがショックを受ける最中、アイエフさんは張り詰めた声を発した。わたしを名指しなんて何だろう…と思って見回したら…すぐに気付いた。ここはもう、お姉ちゃん達が捕まっている場所のすぐ近くなんだって。

アイエフさんの言葉と、わたしとコンパさんが顔を引き締めた事で皆も状況を理解して、パーティー内は一気に静かに。ごくり、と唾を飲み込みながらわたし達は進んで、角を曲がって、そして…………

 

「……戻ってきたよ、お姉ちゃん」

 

──わたし達は、お姉ちゃん達とアンチシェアクリスタルによる結界が存在する場所へと到着した。

 

「…おねえ、ちゃん……」

「おねえちゃんっ!」

「あっ……ロムちゃんラムちゃん待って!」

 

曲がった場所から更に進んで、結界の中で吊るし上げられているお姉ちゃん達の姿がはっきりと見える様になった瞬間、ロムちゃんとラムちゃんが飛び出した。それを見て、慌てて追って二人の腕を掴むわたし。

 

「な、なんで止めるのよ!?おねえちゃんがあそこにいるのよ!?」

「気持ちは分かるけど…いーすんさんの話忘れたの?あの結界に触れたら…」

「…あ…力、ぬけちゃうんだった…」

 

わたしも本心では今すぐ駆け寄りたいけど…一度結界に触れてシェアエナジーを吸収された経験をしているおかげで、理性がぐっと衝動を抑えてくれていた。

冷静になってくれたロムちゃんラムちゃんを連れて、わたし達は結界のすぐ前へ。結界は透明だけど無色じゃないから遠くからだと中にいるお姉ちゃん達の表情がよく見えなくて、すぐ近くまで来てやっと表情が…表情、が…表、情…が……

 

 

 

 

「……あ、れ…?」

 

お姉ちゃんの顔を見て、さーっと血の気が引いていくのを感じた。だって……お姉ちゃん達の顔に、表情が無かったから。…いや、表情が無いなんてレベルじゃない。無表情でも真顔ですらもなくて、お姉ちゃん達の顔はまるで…鉛で作られた、生きていない『物』みたいになっていた。

 

「……生き、てるのよね…?」

「…………」

「…ねぇネプギア、アンタが前来た時は言葉を返してくれたのよね?…まだ、お姉ちゃん達は死んでないのよね…?」

「……そ、その…筈…」

 

前回来た時も、お姉ちゃん達は今にも死にそうな様子だった。けれどその時と今は明らかに違う。前はまだ生者の側にいたお姉ちゃんが、今は死者の側にいるようで…………

 

「……お姉ちゃん!生きてるよねお姉ちゃん!聞こえてないの!?アタシの言葉が分からないの!?ねぇ、お姉ちゃんッ!」

「ゆ、ユニちゃん…?」

「ここまで来て間に合いませんでした、なんてアタシ受け入れられないよ!やっと戻って来れたのに、やっと助けられる様になったのに…だから返事してよッ!お姉ちゃんッ!」

 

もしかしたらここに到着した時ロムちゃんとラムちゃんは取り乱しちゃうかもしれないと、わたしは思っていた。けど、取り乱したのは二人ではなくユニちゃんだった。(精神年齢では)年下のロムちゃんラムちゃんが心配そうな顔をする程、ユニちゃんは取り乱していた。……でも、それはユニちゃんの心の叫び。その叫びは、強い思いの籠った声は、決して無駄な事じゃなかった。

一際大きな声で、ノワールさんを呼んだユニちゃん。その声が、この一帯に響いた瞬間……微かに、ノワールさんの頭が動いた。

 

「え…………?」

「……ッ!ゆ、ユニちゃん!今ノワールさんが反応してくれたよ!ユニちゃんの声は、届いてたんだよ!」

「ぁ……おねえちゃん…!」

「おねえちゃん!ネプギア、おねえちゃんもはんのうしてくれたわ!ぴくってまぶたが動いたの!」

「……っ…よかった…やっぱりまだ、生きてるんだ…!」

 

それは本当に小さな、普段なら無反応とみなしてしまう様な僅かな反応。それでもわたし達には、それがユニちゃんの言葉への返答である頷きだって分かった。そして、二人の言葉で生きているのがノワールさん一人じゃないって事も分かった。出来ればお姉ちゃんやベールさんの生存もしっかりと確認したいけど…ここまで来てまったり反応を待つなんて、そんなの無駄な時間過ぎる。

さっきまでお姉ちゃん達の姿を見て胸が締め付けられる様な気持ちになっていたわたし達だったけど、生きている事が分かった瞬間恐怖の気持ちは勇気へと変わった。もう助ける準備は出来ている、助けられる段階に来ている、後はもう助けるだけの時がやってきている。手を伸ばせば届く距離にお姉ちゃん達がいるというだけで、わたしは…わたし達は、絶対に助けられるって思えた。

 

「……やろう、皆」

 

お姉ちゃん達から少し離れて、アンチシェアクリスタルと結界を見据える。今からやるのはフルパワーを叩き付けて、フルパワーで斬るっていう凄く単純な破壊行動。それが成功すれば……お姉ちゃん達と、一緒に帰れる。

最後にもう一度だけ目を合わせるわたし達四人。目を合わせて、お互いに頷いて…わたし達は、女神化する。

 

 

 

 

「天舞伍式・葵ッ!」

 

自分の周囲に複数本の武器を精製。それにそれぞれの形状と目的に合った形でのシェアエナジー爆発を加える事で武器群を射出し、私はジャッジへ攻撃。対するジャッジはハルバートを地面に叩き付ける事で、一瞬前まで地面の一部だった破片を天然の盾として私の攻撃を防御する。

 

「おらよッ!」

「させるか……ッ!」

 

武器の刺さった破片を散らしながら突撃してくるジャッジ。ジャッジはハルバートを振り上げ上段からの振り下ろし体勢に入るけど、それを素直に許す私じゃない。地を蹴り長剣の柄の底部をハルバートの柄、それも下部にぶつける事で攻撃を阻止する。

私とジャッジが交戦を開始してから数十分後。私達は互いに細かな傷を負いながらも勢いは衰える事なく、戦闘を継続している。

 

「お、力比べってか?いいねぇ、そういうワイルドなのはよぉッ!」

 

ジャッジは地面を踏み締める事で、私は空中で翼を広げる事で踏ん張り力を相手にぶつける。私はワイルドキャラを目指してる訳じゃないけど…まあそれはいい。

 

「ここだ…ッ!」

「っとッ!そうはいくかよッ!」

「いいや、いかせてもらうッ!」

 

数秒のせめぎ合いの末、ジャッジは力をダイレクトに伝えられない体勢だった事もあって押し合いは私が有利に。とはいえジャッジもそうなればより踏み締め力を入れてこようとする訳で…それを察知した私は敢えて力を抜き、押す力を利用して空中後転をしつつジャッジの腕の内側へと潜り込んだ。

腰を真っ二つにするつもりで放った片手横薙ぎ。ジャッジは前のめり状態から強引に後ろに退くけど、幾ら能力があっても無理な体勢から動こうとすれば普段より遅くなってしまう。それを狙って私は横薙ぎを放ったのであり…紙一重で避けられ長剣が空振りした瞬間、左手に槍を精製して突き出した。

 

「うッ……なーんて、なッ!」

「ちっ……!」

 

槍から伝わったのは、硬い感触。私の策は半分成功で、確かにジャッジに刃を当てる事が出来たけど、私もまた万全の体勢じゃなかったせいで軌道が逸れ、槍の穂先は鎧へと当たってしまった。両手持ちの一撃ならともかく、非万全且つ片手での攻撃じゃ流石にジャッジの鎧は貫かせてくれない。

 

「今のはちぃっとヒヤヒヤさせられたんだ、そのお礼をしねぇとなぁ!オラオラ、いくぜぇッ!」

「そんなお礼は、御免被るよ…ッ!」

「まぁそういうなよ、受け取れってッ!」

「申し訳ありませんがこちらではお受け取り、出来ませんッ!」

 

刺突が失敗した事により攻守逆転。バックステップから着地したジャッジは今度こそハルバートの振り下ろしを行い、そこから彼は荒々しくも隙のない連撃を叩き込んでくる。対する私は槍を離し、左右後方への短いステップによる回避と両手持ちの長剣での受け流しによって何とか攻撃を凌いでいく。

モンスターより速く、キラーマシンより重く、MGよりも鋭い攻撃が何度も何度も打ち込まれる。それは女神の私であっても背筋が寒くなる程のもので、ここまで受け取りたくないお礼なんて初めてかもしれない。……けど、とある感情のおかげかそれに怖気付くなんて事は一切ない。

 

(一回目はもう少し余裕がある状態でやりたかったけど…試すなら、今がチャンス…ッ!)

 

身を捩って斜め上方からの薙ぎ払いを避け、そこから身体を戻すと同時にプロセッサの翼へ意識を送りつつ長剣で一閃。勢いの乗っているハルバートの攻撃は速く、私の方が僅かながら先んじたにも関わらず長剣とハルバートはどちらも速度の出た状態で激突する形になる。

双方共に攻撃を放った場合、片方だけが攻撃を放った場合よりも当然衝撃は大きくなる。衝撃が大きくなるという事は体勢が崩れ易くなるという事で、体格差の分私は不利だけど……この瞬間、私は衝撃を受け止め切っていた。

 

「何……!?」

「せぇいッ!」

 

私が体勢を崩さなかった事に驚いたジャッジの隙を突き、奴の左腕に膝蹴りを打ち込む。そして再度翼に意識を送った後に深追いはせず後退し、数十mの距離を取って構え直す。

 

「ちっ……何だよ今の、どうやって衝撃吸収しやがった…」

「それは教えられないよ。それを探るのも戦いでしょう?」

「はっ、そりゃ確かにそうだ。しっかし痛ってぇなぁおい」

 

そう言いつつも腕を振るジャッジは、まるで軽くぶつけた程度の様子しか見せない。本当にその程度なのか、痩せ我慢なのかは分からないけど…かなり強く蹴ったのにこれじゃ、先が思いやられる…。……とはいえ、あの蹴りは出来るからやったというだけの話。それよりも本命である、プロセッサの翼の可変が上手くいったのだから問題はない。

プロセッサユニットの翼は、大きく分けると四系統ある。その説明は置いておくとして、私の元々のプロセッサはその系統の特殊なもの(一言で言うなら器用貧乏仕様)だったんだけど…プロセッサの改修に合わせて、翼もその四系統を使い分けられるアップデート版器用貧乏に向上させた。万能、じゃなくてあくまで器用貧乏というのもやっぱり理由があるんだけど…まぁそれはその内出るだろうプロセッサ解説で説明するという事で。だって今の私は地の文でゆっくり説明する余裕もメタい事に気を付ける余裕もないし。

 

「…けどま、攻撃喰らうのも嫌いじゃねぇぜ?傷付き傷付け合うのがマジの戦闘だもんなぁ!」

「そう言うなら、一つ大技を喰らってくれないかな?」

「そいつは聞けねぇ相談だな。だからもっとお互い鎬を削り合おうや」

「だと思った…まあ、勝ちは私が貰わせてもらうけどねッ!」

 

また私達は地を蹴り、得物を振るって激突する。時には地上で、時には空中で、時には地形も利用して激突を繰り返す。そしてその中で私は確信していく。身体もプロセッサも絶好調。支持によるシェアのブーストもかかっているし、一秒毎にネプテューヌ達の救出へと向かってると思えば気持ちだってまるで揺らぎはしない。でも同時に、その状態であってもジャッジ相手に優勢となれないのが少しもどかしくもあった。…だから、私は決意する。この根比べの様なぶつかり合いから一度離れ、勝利へ近付く為の勝負をかけようと。

 

「まずは…これだッ!」

 

激突の後に飛び退いた私は長剣を地面に刺して急ブレーキをかけ、数本の剣をジャッジへ射出。続いて右手で長剣を引き抜くと同時に左手へ一本の投擲武器を携え、突っ込みながらそれを『打つ』。

 

「……っ!?こいつは…棒手裏剣か!?オリジンハート、テメェ随分と珍しいもん持ち出してくるじゃねぇか!」

「私の友達には、二人程手裏剣の使い手がいるものだから…ねッ!」

 

剣は難なく撃ち落としたジャッジだけど、その後の棒手裏剣は小さい事と使い手が滅多にいない事から反応がワンテンポ遅れ、その間に私は肉薄する。棒手裏剣を手甲で打ち払ったジャッジは咄嗟に逆の腕で防御を図り……私はその腋の下を潜り抜ける。

 

「天舞弐式・椿ッ!」

「ぐ……ッ!」

 

長剣の腹で叩く様に軽く一撃。その流れのまま飛んで、今度は背中にまた軽く一撃。その後も全身を、翼を、シェアの爆発やジャッジの鎧の出っ張りなんかも使って私は縦横無尽に動き回る。

恐らくジャッジにダメージは殆ど入っていない。ジャッジ相手に軽い一撃がまともなダメージになる筈がないのだから。けど、だからと言って一発に力を込める訳にもいかない。そうしようものならジャッジの動きが追い付いて、私の小賢しい連撃が止められてしまうから。……じゃあ、私はちまちまダメージを与えて削り切ろうとしているのかって?…それは大間違い。この連撃はダメージを与える事じゃなく……次に繋げる為にある!

 

「……からのッ!皐月ッ!」

 

幾度目かの攻撃の末、ジャッジの迎撃が間に合わなくなった。その瞬間に私はシェアエナジー爆発を複数起こし、近距離からの高速斬撃を叩き込む。

皐月、とは言ったけど天舞陸式は本来、もっと距離がなければ真価を発揮しない技。だから言ってしまえばこれは簡易版で、正直技と呼べるかどうかは微妙なライン。けれどそれでもこれは目的の為に十分な速さと威力を有していた。

真正面から頭を両断するが如く、シェア爆発の加速を受けた長剣が迫る。もしもジャッジに対する私の評価が過剰だったのならば、ここで勝負はついていた。でも、私の予想通りジャッジはこの攻撃に何とか身体を合わせ、手首の捻りでハルバートの穂先を長剣の進路上に入れる事で防いでみせた。

嗚呼、全くジャッジはこれすら防御してしまうのか。初めて矛を交えた時から思っていたが、本当に彼の技量と正面戦闘に関する能力は飛び抜けている。…だからこそ、私は思った。ジャッジを過小評価せず、間違いなく全身全霊を懸けるべき相手だと認識していてよかったと。

 

「────この瞬間を、待っていたッ!!」

 

長剣から手を離し、ハルバートの柄の脇をすり抜け懐に入る。その最中に見たジャッジの顔からは、遂に余裕がなくなっていた。

腕を後ろに引きながら、バスタードソードを精製。両手でバスタードソードの柄を握り、この一撃は絶対に決めると気迫を込めて刺突を繰り出す。鎧の隙間を狙い、精一杯の力を注ぐ。そして…………私の腕に、確かな感覚が響いた。

 

(や、った……!)

 

肉を斬り、ジャッジの身体へと沈み込んだバスタードソード。間違いなく今のこれは有効打で、今正にジャッジへ激痛が走っている筈。後は、このバスタードソードを引き抜けば…それで、ジャッジが痛みに動きが止まっている隙にもう一撃叩き込んでやれば、それで……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ…俺も待っていたぜぇ…この時を…一撃入れてやった瞬間の、戦いに酔う奴なら絶対に目を逸らす事の出来ない快感に、お前の心が揺さぶられるこの時をなぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

──気付けば、私の身体はジャッジに掴まれていた。その状態で持ち上げられ、胴を斬られたばかりの人間とは思えない勢いで投げられ…………凄まじい痛みが、私の背に走った。

 

「────ッッッッ!!?!?」

 

それは余りにも痛くて、痛みでショック死するんじゃないかと思う位に痛くて、声にならない叫びを上げる。目がチカチカして、背中に異物が喰い混んでいる感覚が気持ち悪くて、何より痛くて痛くて吐きそうになる。私の身体は反射的に痙攣してしまって、そのせいで喰い混んだ異物が更に私の背を切り裂いて、更なる痛みが私を襲う。一瞬経って、今度は痙攣ではなく痛みで勝手にのたうち回りかけて、私の背への三度目の激痛。……そこで私の意識は、飛びそうになった。けれど、それすらも痛みが喰い破り私の意識を現実に留める。そうして数秒後にやっと、感覚が麻痺したのか頭が冷静になった。ずっと背中には激痛が走ったままだけど…一先ず、考える事は出来る。

私がいるのは、凹凸の激しい墓場の岩壁の一つ。それが分かったところで脳裏にぶつかる直前の記憶が戻り、私はジャッジにこの岩壁へと投げ飛ばされ、当たった衝撃で岩が砕け無数の刃となって私の背を切り裂いたのだと理解した。

 

「はぁっ…はぁっ…ぁぐッ……!」

 

荒い荒い息遣いの中で、私はジャッジの精神力に驚愕する。胴を深々と刺されたら普通はまともに動ける訳がなくて、仮に動けても力なんて入る筈がない。なのにジャッジは信じられない程の腕力で私を投げ飛ばし、自身が受けたのと同等レベルの傷を私に与えてきた。……こんなの、あり得ない…。

視線を上げると、そこではジャッジが刺された胴を腕で押さえて数歩後退している…というよりは恐らく、よろめいている。それならば、私の攻撃自体は成功していたという事になる。それが分かって私はほんの少し安心したけど、今はそれに喜べる気持ちになんてなれなかった。確かに一撃与えられた。でも、そんな状態でジャッジはここまでの事をしてきた。そんな奴に、私がこの状態で勝つには、一体どんな策を投じれば────

 

「……まだ、終わりじゃねぇよなぁオリジンハート…。俺はまだ満足してねぇよ…こんなに強い奴と、俺はやっと戦えたんだよ…まだまだ終わらせたくねぇよ…もっともっと戦いてぇんだよ…!この命のやり取りを、命を輝かせる最高で最低のやり取りを、もっともっともっともっと楽しみてぇんだよッ!……なぁ、オリジンハート……

 

 

……お前も、そうだよなぁ…?」

 

 

 

 

 

 

「……………………当たり、前だ…ッ!」

 

近くにあった岩の出っ張りを掴み、背中を岩壁から引き抜く。その瞬間四度目の強い痛みが走り、手足が震えたけど……無理矢理私は私の身体を起こす。立って、数歩前に出て、岩壁激突の直撃に消しておいた翼を再度顕現させる。

情けない事に、私はジャッジにビビりかけていた。けれど、ジャッジの今の言葉を受けて……そういう気持ちが、全て吹き飛んだ。そしてその代わりに、気付いた。先程から薄々と感じていた感情に。女神としてこれまでも感じた事のある高揚感に。……私が今、ジャッジとの戦闘に『魅入られている』事に。

 

「ふ、ふふ……やるではないか、ジャッジ・ザ・ハード…あの状態から私にこれだけの傷を負わせるとは、大したものだ…実のところ、私は少し先の事を考えて戦うつもりだったが……止めだ…」

「…………」

「貴様との戦いを、率直な心持ちで戦わないのは余りにも惜しい…故に、私は文字通りこの戦いに全てを尽くそう。……さぁ来るがいい、ジャッジ・ザ・ハード…共にこの戦いを、至上のものにしようではないか…ッ!」

 

ネプテューヌ達の事が、先に向かったネプギア達の事がどうでもよくなった訳じゃない。ジャッジを倒したら、急いで向かうというつもりも消えてはいない。……けど、私は思った。今はただ、ジャッジとの戦いの事を考えようと。私の中の、戦闘を愛してやまない女神の感情が欲した。ここまで自分を楽しませてくれるこの敵との戦いに、今は全てを注ぎたいと。

神経を研ぎ澄まし、一歩一歩前に進む私。その私の口元は……いつの間にか、自分でも驚く程の笑みを浮かべていた。

 

 

 




今回のパロディ解説

・「〜〜オラオラ、いくぜッ!」
機動戦士ガンダムSEEDの登場人物の一人、オルガ・サブナックの台詞の一つのパロディ。ジャッジの戦闘狂さは、恐らくブーステットマンにも劣っていないでしょう。

・「────この瞬間を、待っていたッ!」
機動戦士クロスボーン・ガンダムシリーズの登場人物の一人、トビア・アロナクスの代名詞的台詞の一つのパロディ。そういえば、原作ではネプギアも言っていましたね。

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