超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第五十八話 連携という強さ

わたし達は全力を出せずに負けただけ。その意味は移動しながら話すと言ったイリゼさんは、まず舗装された道路へと移動。その間は何か考えている様な素振りを見せて、道路に入ったところでさて、と声を上げた。

 

「全体的な結論から言っちゃえば、連携能力不足が原因だよ」

 

人差し指を立て、指導モードに入ったイリゼさん。…と言ってもこのモードのイリゼさんは、「先生っぽくやりたいんだろうなぁ…」というのが伝わってくるだけで、実際には普段のイリゼさんと特に変わりはないんだけど…それは内緒。

 

「れんけーのーりょくぶそく…コンビネーションがとれてないってこと?」

「うーん…ちょっと違うけど、多分ラムちゃんが考えてる通りの事で合ってるよ」

「わたし、みんなとなかよし…だよ…?」

「仲が良い事と連携が取れる事は違うんだよ。勿論仲良しの方が連携もし易いだろうけどね」

 

ロムちゃんラムちゃんが質問をする中、わたしは連携に関してさっきの模擬戦を考える。…一応、連携するつもりだったけど…振り返ってみると、確かに連携出来てなかったなぁ……。

 

「じゃ、具体的な話をしようか。まずはネプギアかな」

「わ、わたしですか?」

「ネプギアは前衛であろうとし過ぎ。いつもならあんなに接近戦をしようとはしないよね?」

「それは…はい、イリゼさん相手に接近戦したって勝てる訳ないですし」

「いや訓練の時には勝ち負けなんてないけど…普段通りに戦おう、とは思わなかったの?」

 

接近戦においてわたしは技術も経験も劣っているし、近接戦ばっかりしていたらM.P.B.Lの射撃能力が無駄になってしまう。だから普段はどちらかと言えば射撃を中心に立ち回っているんだけど……今回わたしは一人で戦った訳じゃない。

 

「えっと…わたし以外は全員遠隔攻撃がメインですし、皆に合わせて近接戦主体にしたんですけど…駄目、でしたか…?」

「駄目ではないよ。けど、本来ネプギアは遠近切り替えて戦うタイプだし、そのネプギアが接近戦特化で戦ったら本領発揮は出来ないよね?勿論私を止める事に徹するつもりだったならまた話は変わるけど…」

「…つまり、無理に接近戦をしようとせず、普段通りに戦った方が良い…って事ですか?」

「それはどうなんだろうね。次はユニだよ、ユニは…」

「えぇっ!?ちょ、ちょっと待って下さいよイリゼさん!」

 

近接格闘も射撃も両方やってこそわたしの実力は発揮出来るし、今回はその内の片方に無理矢理比重を置いていたから射撃の面で実力発揮が出来なかった。それがつまりイリゼさんの言う『全力を出せずに負けた』という事なのかと思い、本人に確認を取ろうとしたわたし。けれど何故かイリゼさんの反応はスルー気味だった。

 

「な、なんで結論ちゃんと出さずにユニちゃんへ移っちゃうんですか…?それは自分で考えろって事ですか…?」

「あぁ、別にそういう事じゃないよ。結論は後でちゃんと言う…っていうか触れるから安心して」

「な、ならいいですけど…」

 

安心しつつも「なら先にそう言ってくれればいいのに…」と思うわたし。行き当たりばったりで話してる訳じゃないのは伝わってきてるけど…イリゼさんの中の先生像ってどういう感じのものなんだろう……。

 

「こほん。話を戻すとして…ユニはユニで支援に徹し過ぎだったかな。後衛の火力はロムちゃんラムちゃんに任せるつもりだった?」

「そう、ですね。精密攻撃はアタシの方が長けてますし、一人は支援に専念してもいいかと思いまして。…それに、少し模擬戦の中で考えたい事もありましたから…」

「考えたい事?」

「アタシの個人的な事です。気にしないで下さい」

「そっか…集団で戦う時支援行動は大切だけど、私が見る限り今回は支援に徹するがあまり折角の女神の火力を腐らせてた感じは否めなかったよ」

「火力を腐らせていた…じゃあ、それをどうすればいいかは…」

「ロムちゃんラムちゃんへの講評の後だよ」

「ですよね…ちょっともどかしい…」

 

言葉通り少しもどかしそうな表情を浮かべるユニちゃんにわたしは苦笑い。それに気付いたユニちゃんも苦笑い。そうしてる間に話はロムちゃんラムちゃん編へと進んでいく。

 

「ロムちゃんとラムちゃんは、取り敢えず二人での連携は言う事なしだよ。二人ならではの連携っぽいし、下手な事言ったらむしろ劣化させちゃうだろうね」

「ふふーん、よくわかってるじゃない!わたしとロムちゃんのれんけーはかんぺきなのよ!」

「ラムちゃんの、いうとおり…!(えへん)」

「…けど、逆に言えば二人で連携する事を中心…というより前提とし過ぎだね。二人共さ、さっきの戦いで別々に行動しようと思ったりした?」

「…したよね……?」

「うん。わたしはネプギアのぶき取りに行くときべつこーどーしたけど?」

「あー、そういえば…じゃあ、自分達から別行動しようと思ったりは?」

「えっと…それは……」

「…してない、かも…」

「これはロムちゃんラムちゃん限定だけの話じゃないよ。ネプギアとユニも、二人を基本セットで考えたりしない?二人は戦闘中も二人で一つなんだ、って」

 

まぁ、私もそう思っちゃってる節があるってさっき気付いたんだけどね…とイリゼさんは付け加える。

考えてたりしない?…と聞かれれば、答えは勿論イエス。これまで二人は違う魔法を使う事はあったけど離れて個々に活動する事なんて滅多になかったし、改めて考えると二人はそういうものなんだって勝手に思ってた部分がわたしにもあった。……前衛を意識し過ぎて射撃をあんまりしてなかったわたしに、支援重視過ぎてパワーを活かせてなかったユニちゃんに、二人で一つを念頭に置き過ぎてたロムちゃんとラムちゃん。…少し、イリゼさんの言いたい事が分かってきたかも…。

 

「四人共何にも考えないで戦ってた訳じゃないみたいだし、作戦会議無しでもそれぞれで連携を視野に入れていたのは流石だと思う。……でも、連携っていうのは当たり前だけど上手く噛み合ってこそ意味があるものなんだよ。さっきの模擬戦でも何度か噛み合ってないって時がなかった?」

「言われてみると、確かに…」

 

下手に接近戦をかけたばかりにユニちゃんから援護を得られなかったり、ユニちゃん援護の時にわたしとロムちゃんでゴタゴタしたり、最後には危うく氷塊に押し潰されそうになったり。戦闘中は位置取りが悪かったとかイリゼさんに手玉に取られたとかだと思ってたけど…今となっては、連携をしようとした(期待した)のが裏目に出た結果の様に思える。それこそ例えるなら、細い通路を複数人が同時に通ろうとしてぶつかってしまう様に。

 

「連携は上手くいけば長所を普段以上に発揮しつつ短所を補えるものだけど、失敗すれば互いの長所を邪魔して弱点をより露呈してしまう事にもなるんだよ。だって、自分一人で戦ってる訳じゃないんだからね」

「アタシ達は後者だった、って事ですね。…あれ?でもそれならこれまでにも上手くいかない事が起きてた筈じゃ…?」

「うん、でもそれにはちゃんと理由があるんだよ」

 

そう言ってまた人差し指を立てるイリゼさん。街が段々と見えてくる中、説明は続く。

 

「私の見立てじゃその理由は三つ。まずは、単純に敵が弱かったからだろうね」

「あぁ…普通のモンスターや一般量産機は割とごり押しで倒せますもんね」

「レベルを上げてぶつりでなぐれりろんね!」

「そ、そんな理論があるかどうかは知らないけど…まぁそういう事。それで二つ目は、これまでは連携というより役割分担で立ち回る事が多かったからかな。これは一つ目の理由にかかってくるんだけど」

「…ど…どういう、こと…?」

「えーっと、要は『私はあの大きいのを倒すから、貴女はあっちの奴をお願い』ってパターンが多かったって事だよ」

 

正直わたしもロムちゃんと同じ様に「連携と役割分担って同じ様なものじゃ…?」…と思っていたけど、追加の説明を受けて理解する。目的は同じでも別々の個体や部隊を相手にしているなら、実質的には一人で戦ってる様なもの…って事だよね。

 

「で、最後の一つは連携の性質に関する事だよ。四人で連携するのと二人で連携するのとじゃ、どっちが楽かな?」

「まぁ、それは二人の方が…」

「でしょ?こうして四人揃って連携する機会はこれまでほぼなかっただろうし、それもあってこれまでは気付かなかったんだと思うよ」

「…それにイリゼさんは気付いてて、ギョウカイ墓場突入前になんとかしようと思ってわたし達を連れ出したんですね…」

「気付いてたなんて大層なものじゃないよ。私は単にそれもあり得ると思ってただけ。だからさっきの模擬戦は皆に分かってもらうだけじゃなく、私自身が確認する為でもあったんだ」

 

わたし達は連携能力に欠けてる事に全く気付いていなかったけど…多分、四天王の様な強敵と戦闘になった時には連携して戦おうとしたと思う。だからもし連携能力をなんとかせずにギョウカイ墓場に行っていたら……。

…と、想像したところでわたし達は街に到着した。丁度説明もそこで終わって、一旦止まったイリゼさんはぱんっ、と手を叩く。

 

「…れんきんするの?」

「アトリエ…?」

「いや手合わせ錬成じゃないし士の方の錬金術使いでもないよ…さっきも言ったけど、これからは遊ぶんだよ」

「そういえば…えと、今日の特訓はもうお終いなんですか?」

「ううん、違うよ」

『……?』

 

至極真面目そうな顔でそういうイリゼさんに、わたし達は首を傾げてしまう。え、えーと…三段論法っぽくすれば分かるかな?……こほん。

・これから遊ぶ

・まだ特訓は継続中

・つまり…遊び=特訓……?

 

「ほら、皆行くよー」

「は、はーい!…うーん、ほんとにそういう事なのかなぁ…」

 

行き先は決めてある様子のイリゼさんが再び歩き出し、わたし達もこれまでと同じく先を歩くイリゼさんに着いていく。イリゼさんの事だから何かしら意図があってこれから遊ぼうとしてるんだろうし、お姉ちゃんから色々教えてもらってたわたしは『特訓=キツイもの』…とは限らないってよく知ってるけど……事が事だし、大丈夫なのかなぁ…。

 

 

 

 

「ラムちゃんもうちょっと右!右だよ!」

「右?じゃあ少しだけ動かして…」

「待った!この動き…恐らく切り返して左に行くわ!」

「えぇ!?ちょ、どっちよ!?」

「あ、にげちゃう…」

 

追い立てるユニちゃんロムちゃんと、目標へと接近をかけるわたしとラムちゃん。ユニちゃんは射手の目つきで、ロムちゃんはおっかなびっくりで目標の動きを邪魔していくものの、目標の方もそう簡単には止まってくれない。一先ずそこでわたしとラムちゃんが左右から捕まえようとしたけど…逃げられてしまった。

ひらひらと動き回る目標を前に仕切り直すわたし達。そう、ここは戦場。…………ではなくゲームセンター。

 

「今のは惜しかったね。少し休憩する?」

「んと…まだだいじょうぶ…」

「わたしもだいじょうぶよ!…あ、でものどかわいたかも」

「じゃあ何か買ってきてあげる」

「あ……だ、駄目だよラムちゃん。イリゼさんをパシリにしちゃ…」

「えー、わたしはのどかわいたって言っただけよ?」

「そ、それはそうだけど…」

 

今やっている事の性質上わたし達四人はここから離れられないとはいえ、指導者に飲み物買わせに行かせるのはどうなんだろう…いやラムちゃんの顔を見るに、ラムちゃんはほんとにただ思った事を言っただけなんだろうけど…。

 

「ま、とにかくリトライしましょ。わざわざお金用意してもらったんだし…なんかもうここはアタシ達が最後まで使ってOK、みたいな空気になってるし…」

「あ、あはははは…」

 

わたし達がいるのはゲームセンターの一角、特設クレーンゲームの周囲。完全電子化されたこのクレーンゲームは景品もアームも立体映像化されている斬新なものなんですけど…なんと景品(正しくは的。捕まえると景品のどれかを貰う事が出来る)が飛び回る上に二人で二本のアームを操作、そして飛び回る景品を邪魔する為の支援端末を別の二人が操作するという、他に類を見ない画期的な仕様なんです!……まぁ、目立つわ難易度は高いわそもそも四人いないとプレイヤーサイドが機能を十全に発揮出来ないわという、プラネテューヌの最先端製品によくある『発想は凄いし技術力もあるけど商品としては難点がある』…の典型みたいなゲーム機だけど…。

 

「…ネプギア、地の文説明お疲れ様ね」

「め、珍しくメタいねユニちゃん…」

 

ゲーム紹介はさておき、わたし達はお金(イリゼさんが出してくれてる)を投入してリトライ開始。プレイヤーが女神候補生という事もあっていつの間にか出来てたギャラリーの声援を受けながら、わたし達はアームと端末で景品を追い詰めていく。素早い端末を扱うユニちゃんとロムちゃんが進路を邪魔して、捕獲能力がある分端末より遅いアームを操作するわたしとラムちゃんが二方向から捕まえにいくシンプルな作戦で今までやってきたけど…勿論まだ成功していない。そして今回も……

 

「あ…ゲームオーバー……」

「むむむ…じかんもアームも足りなすぎるんじゃないの!?」

 

制限時間内に捕まえる事が出来ず、ゲームオーバーになってしまった。ギャラリーから残念そうな声とわたし達を励ます言葉が混じって聞こえる中、飲み物を買いに行っていたイリゼさんが帰ってくる。

 

「お待たせ、皆ジュースでよかったかな?」

「あ…すいませんイリゼさん、アタシ達の分まで…」

「ラムちゃんだけに買ってあげたら不公平だからね、気にしなくていいよ」

「はふぅ…ねぇネプギアちゃん、これ…コツとかないの…?」

「コツ?うーん…前にお姉ちゃんとコンパさん、アイエフさんの四人でやったけど、わたしにはコツ見つけられなかったんだ。わたしはあたふたしてばっかりだったし、お姉ちゃんが途中から何故かコンパさんとアイエフさんの操作する端末を捕まえようとし始めちゃって、結局クリア出来なかったし…」

「ね、ネプテューヌらしいねそれは……ってちょっと待って!?それ私聞いてないんだけど!?え、まさか…私ハブられてたの!?」

「え…あ、だ、大丈夫ですよイリゼさん!それはイリゼさんがお仕事でプラネテューヌにいなかった時の事ですから!」

「そ、そっか…よかった……」

 

一旦給水タイム取るわたし達。ジュースで喉を潤したり早とちりでショックを受けてるイリゼさんに苦笑いしたりで軽くリフレッシュして、数分後にリトライするけど…やっぱりまた失敗。元々このゲームはさっき上げた理由が原因で殆ど遊ばれてないし、お金の方もイリゼさんが出してくれてるから回数的な制限はそこまでない(流石にイリゼさんの有り金は無限じゃない)けど、集中力が切れちゃったらクリアは絶望的。とはいえ出来ないものは出来ない訳で…。

 

「うぅ…経験者のわたしが訊くのもあれですけど、イリゼさんなにか言葉ないですか?」

「言葉?……ふぁいとーっ!」

「お、応援じゃなくてアドバイスをお願いします…」

「あぁアドバイスね。うーん…強いて言うなら、積み重ねも連携の一つ…ってとこかな」

「積み重ねも連携の一つ…」

 

一回目は分かっててふざけたんじゃ…というのはさておき、イリゼさんのアドバイスを受けたわたし達は顔を見合わせる。

 

「つみかさね…って、何をかさねるの…?」

「それは…アームと端末を物理的に、じゃないよね…?」

「物理的に重ねたって何の意味もないでしょ…後立体映像の積み重ねは物理的に、って言えるのかしら…」

「っていうか、ほんとにこれクリアできるの?」

「そ、それは出来ると思うよ。流石にクリア不可能なものを売り出したりはしないだろうし、時間も数も足りてる筈…」

 

追い詰めるところまでは一回のプレイの中でも何度か出来てるから時間的には足りてると見て間違いない。数の方は…ちょっと不安だけど、そもそもシステム的な部分はどうしようもないんだからそこを話してたってしょうがないよね。だから今は積み重ねの意味を考えなきゃ…。

 

「ふむ…端末で妨害してアームで捕縛するって流れ自体は間違ってない筈よね。だったら一回狙わないで動きの確認をしてみない?性能をきちんと把握して、その上でそれぞれが自分の役目に専念すれば可能性はあると思わない?」

「へぇ、けっこうよさそうなさくせんじゃない。ロムちゃんはどう思う?」

「かくにんは、わたしもだいじだと思う…」

「なら二人は乗るのね。ネプギアはどう?これでいいかしら?」

「あ、うん。わたしもそれで……」

 

それでいい。そう言おうとして…わたしは気付いた。イリゼさんの言わんとしていた事に。わたしは思い出した。わたし達が郊外での模擬戦から何を考えるべきだったのかを。

 

「……それじゃ駄目だよ、ユニちゃん」

「…駄目?」

「うん。…あ、でも確認するのはいいと思うよ?けど…専念、って言うのは駄目だと思う。多分だけど、長所を活かすだけじゃこれはクリア出来ないんじゃないかな?」

「それって……あ、そっか…やるわねネプギア」

「ううん、ユニちゃんが言ってくれたからわたしは気付けたんだよ」

「ちょ、ちょっと!何二人だけでわかったようなこと言ってるのよ!」

「あ、ごめんねラムちゃん。今わたしが思い付いた作戦教えるから…四人皆で、頑張ろう」

 

そうしてわたしはロムちゃんとラムちゃんに作戦を伝える。作戦を伝えて、性能と動きの確認をして……勝負に出る。

 

「よし、じゃあ……やるよ!」

「おー!」

「おー…!」

「……え、アタシも?…お、おー…!」

 

お金を投入して、ゲームスタート。まずはこれまで通り動きの速い端末二機が先行して、景品の動きを妨害。暫く動きを邪魔したところでアーム二機が追い付いて、捕縛に向かう。…と、ここまではこれまで通り。わたし達の勝負は…ここから始まる。

 

「っと…妨害お願い!」

「あ…わ、わたしが…やるよ…!」

「さっすがロムちゃん!じゃあここはネプギアたのむわ!」

「うん、任せて!」

 

アームの捕縛から逃げた景品を、わたしの言葉を受けてロムちゃんが再び妨害。それによって逃げる方向を変えた景品を声かけされたわたしが捕まえに入って、それも回避した景品の先へユニちゃんとラムちゃんが挟撃。

 

「ここはわたしがやるよ!」

「む…ユニ!」

「えぇ、ロム一緒にいくわよ!」

「うん…!」

 

追いかける、追いかける、追いかける。ただ追いかけるだけじゃない。自分が出来そうなら声を上げて、無理そうなら誰かに頼んで、必要なら協力もお願いして。妨害役と捕縛役に分かれるんじゃなくて、前回で追いかけて邪魔して捕まえにかかる。何度も仕掛けるんじゃなくて、一度の仕掛けを途切れない様に繋ぎ続ける。

それが、わたしの思い付いた作戦。わたし達の、突破口。景品は……段々と動く幅が狭くなっていく。

 

「後少し…勝負をかけるわよ、皆!」

「ぜったいつかまえてやるんだから!」

「ネプギアちゃん、二人で…!」

「うん、二人で!」

「いいえ、三人よ!」

 

正面からアームを突っ込ませるラムちゃん。その逃げた先にまずロムちゃんの端末が、その後を追う様にわたしのアームが、更にわたし達の動きで一瞬止まった景品へとユニちゃんの端末が突進していく。

間一髪、端末を回避した景品。三方向から圧をかけられた景品は、一番開いている方向へと向かう。けれど、その先にいるのは……ラムちゃんのアーム。

 

「もらったぁぁぁぁぁぁっ!」

 

飛び出してきた瞬間にアームががばり、と開く。そして…………ゲーム機から、クリアのファンファーレが鳴り響いた。

 

「……やった…やったよ皆!」

「うん…っ!ラムちゃんが、つかまえた…!」

「やったわねラム、お手柄よ!」

「ふ、ふふーん!こんなのとーぜんよとーぜん!…けど、これはロムちゃんにネプギア、それにユニのおかげでもあるわ!」

 

ファンファーレとギャラリーの歓声に包まれながら、わたし達はハイタッチ。所詮これはゲームで遊びだけど…それでもやっぱり、四人でやっただけあって達成感は相当なものだった。

ゲーム機から出てくる景品の引き換え券。それを取るとギャラリーの皆さんが道を開けてくれて、その先ではいつの間にか移動していたイリゼさんが手を振っていた。

 

「お疲れ様、皆。今日の特訓は完遂だね」

「はい!イリゼさんの言っていた積み重ねって、こういう事ですよね?」

「ふふっ、優秀な生徒を持てて私は幸せだよ」

 

にこりと微笑むイリゼさんにわたし達も笑顔を返して、わたし達は開いた道の先…交換所も兼ねているゲームセンターの受付へと向かう。

 

「あのゲームをクリアするなんて…流石です、女神様」

「これは協力の勝利です!それじゃあ、交換お願い出来ますか?」

「えぇ、少々お待ち下さい」

「これ、たしかけいひんはさきに決められるのよね?」

「そうだよ。イリゼさんが決めておいてくれたみたいだけど…何なんだろう?」

 

店員さんの一人が取りに行っている間、わたし達は話しながら景品に期待を膨らませる。こんなに難しいゲームだったんだし、景品もさぞ凄いんだろうなぁ、楽しみだなぁ……

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました!景品番号四番、動物ぬいぐるみセットDXです!」

『…………え?』

「…はい?」

『…………』

 

台車に乗せられてやってきたのは、大小様々なぬいぐるみのセット。どれも可愛らしい見た目で、ふわふわそうで、女の子としては普通に嬉しい代物。……それは事実だし、自分達でも選ぶ可能性は十分にあった景品だけど……

 

(……これ、イリゼさんが欲しかったものじゃ…?)

(そ、そういえばへやにぬいぐるみあったわね…)

(うん…あつめてる、みたいだった…)

(じゃあまさか、この景品を選んだのって…)

((…………))

『…………えぇー…』

「え…な、何?その視線と声は何…?」

 

──なんだかとても釈然としない、特訓の終わり方でした。

…あ、因みに貰った景品の内それぞれが欲しい物だけ貰って、丁度四個セットだったぬいぐるみは某スロウなスタート宜しく四個(四匹?)まとめてわたしの部屋に飾る事になったり…(残ったぬいぐるみはイリゼさんが回収してくれたけど、これってやっぱりそういう事なのかな…)。

 

 

 

 

特訓初日の夜、私は言った通りイストワールさんの部屋へと向かった。理由は勿論、頼みたい事があったから。

 

「失礼しますね、イストワールさん」

「今日はお疲れ様です、イリゼさん。ネプギアさん達の様子はどうですか?(^ ^)」

「上々ですよ。この調子なら一週間で大分良くなる筈です」

 

部屋に入ってまずしたのは、ネプギア達の話。特訓の事についてはもうイストワールさん(というか教祖全員)に伝えてあるから、教祖の四人も成果と成長が気になっているみたいだった。

 

「それならよかったです。…何があるか分かりませんし、ネプギアさん達には少しでも実力をつけておいてもらいませんと…(´ー`)」

「ですね。…でも、強くなるのはネプギア達だけじゃないんですよ?」

「…それが、イリゼさんの頼み事なんですね(・ω・`)」

 

察しの良いイストワールさんに私ははい、と答える。

そう、強くならなきゃいけないのはネプギア達だけじゃない。指導役である私も…いや、指導役だからこそ、私ももっと強くならなきゃいけない。そして強くなるというのは、何も自身を高める事だけじゃない。

 

「…私、力を取り戻して、何度も戦う中で気付いたんです。私のプロセッサユニットは、もっと最適な状態に出来るって。…だから、そのお手伝い…お願い出来ますか?」

 

私は、もっと強くなる為に…避けられない、避ける訳にはいかない戦いの為に、残りの時間で出来る事を全てやっていきたいと思う。




今回のパロディ解説

・レベルを上げてぶつりでなぐれ
クソゲーオブザイヤーによって生み出された言葉の一つのパロディ。ある意味真理ですよね、これ。勿論絶対全ての、どんな状況でもって訳じゃないですが。

・手合わせ錬成
鋼の錬金術師にて登場する錬成方法の一つ。胸の前で指を上に向けて手を叩く、といえばこれか頂きますの挨拶か…って位定番ですよね。

・士の方の錬金術使い
アトリエシリーズにおいて登場する、錬金術士の事。こっちの錬金術は基本釜の中で行う、料理或いは合成って感じの錬金(というか錬成?)ですね。

・某スロウなスタート
スロウスタート及びその作中で誕生日プレゼントとなったぬいぐるみの事。衝突したり喧嘩したりした候補生四人も、今ではこれ位仲良くなったのです。

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