超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第五十七話 有利な筈の模擬戦

「あはははははっ!お、怒られると思ってたの!?こんな草原で、わざわざこんな所に来て私が叱ると思ってたの!?いやいや皆ビビり過ぎだって!あはははははははっ!」

 

かなりぶっ飛んだ勘違いで、わたし達が自身とイリゼさんに混乱を招いてしまってから数分後。現在、イリゼさんは……大変爆笑なさっていた。

 

「うぅ…そ、そこまで笑わなくてもいいじゃないですか…」

「いや笑っちゃうって!だって四人共、襲われかけてる小動物みたいにぷるぷる震えてるんだよ?完全に勘違いなのに…ぷぷっ…ご、ごめんなさいって……あははは!あーもうお腹痛い…!」

「むー!じゃあもうわらわなきゃいいじゃない!」

「そんなに、わらわないで…(しゅん)」

「あーごめんごめん…でもほんと、あの瞬間の四人の姿は撮っときたかったなぁ…」

「どんだけアタシ達の反応がツボだったんですかイリゼさん…」

 

お腹を抱えて笑うイリゼさんに対し、わたし達はスカートを握ったり地団駄踏んだりしながら恥ずかしさに耐える。…そりゃ、今のは100%わたし達の自爆だけど…そこまで笑うのはちょっと酷いですよ…。

 

「はぁ…こんなに笑ったの、久し振りかも…」

「それは良かったですね…」

 

ひとしきり笑ったイリゼさんは、笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を指で掬う。そこへわたしが皮肉交じりの言葉を返すと、やっとイリゼさんも落ち着きを取り戻して表情も普段通りのものに戻してくれた。

 

「…それで、ええと…特訓でしたっけ?」

「そう、特訓。戦術講座とか素手の格闘練習とかならプラネタワーの敷地内でも出来るけど、今からするつもりなのは街中でやったらえらい事になるからね」

「という事は、結構本格的な戦闘訓練を予定してるんですね。今日も宜しくお願いします」

「あ…わたしもお願いします」

「おねがいしまーす」

「します(ぺこっ)」

 

いち早く気持ちを切り替えたユニちゃんは話を元に戻して、そのユニちゃんに遅れる形でわたし達も頼み込む挨拶を口にする。…にしても、いつもユニちゃんは特訓の時熱心だよね。わたしもそういう真面目なところを見習わないと…。

 

「よし、それじゃあ早速…の前に、先に言っておくね。今回…というかこれから行う特訓は、戦力強化の特訓ではあるけど直接的な力を高める特訓じゃないよ」

「…えっと…どういう、こと…?」

「それはこの後すぐやる事を終えてから教えてあげるよ。……あ、そういえば急ぎの用事があったりはしない?」

「大丈夫ですよ。皆もそうだよね?」

 

わたしが訊くと、三人は首肯。強いて言えばケイさんの言っていたシェアクリスタル作りがあるけど…急ぎの用事ではないもんね。

 

「それならまずは第一段階。皆、これから皆には私と戦ってもらうよ」

「たたかう?あ、もぎてんってやつ?」

「ラムちゃんラムちゃん、それを言うなら模擬店じゃなくて模擬戦。それだとお祭りとか何かの大会の時にやってるお店になっちゃうよ」

「あ…こ、こほん。そのもぎせん、ってやつをやるのね?」

「そうだよ。準備運動は必要?」

「いえ、大丈夫です。皆、最初はアタシでいい?」

「あ…違う違う、今回はそういうのじゃないよ」

「そういうのじゃない?」

「うん、今回は…四人まとめてかかってきて」

『へ……?』

 

四人まとめてかかってきて。その言葉に目をぱちくりとさせるわたし達。よ、四人まとめてって……

 

「幾らなんでも、それは…」

「戦力的に足りな過ぎる?」

「ぎゃ、逆ですよ逆。わたしは確かに自信家ではないですけど、そこまで自分達を過小評価したりもしませんから…」

「ふぅん…まぁそれはそうだね。けど…今回は私、本気で戦うよ?」

「本気、でも…四対一じゃ、イリゼさん…たいへんだと、思う…」

「本当に?……──自分の姉でも、四人がかりなら楽勝で勝てると思う?」

『……っ!』

 

その瞬間、わたし達に緊張が走る。そうだ、イリゼさんは守護女神であるお姉ちゃん達と同じ位に強い人で、わたし達が一対一じゃ絶対叶わない様な立派な女神様。…だとしたら、勝てる可能性は十分にあったとしても……油断や相手の心配が出来る様な柔な人じゃ、ない。

 

「…皆、本気で戦うよ」

「そうね。ロムラム、間違ってもアンタ達は前に出ようとするんじゃないわよ?」

「う、うん…」

「じゃ、開始の合図はそっちに任せるよ。私はいつでも大丈夫だから」

 

わたし達が気を引き締めたところでイリゼさんは少し下がって女神化。長剣をぷらんと持って、感情のよく読めない表情を向けてくる。

 

「それじゃあわたし達も女神化を……あ、すいませーん!一つ質問いいですか?」

「いいよ、何かな?」

「わたし以外が少し後ろ下がるのはいいですか?」

「構わないよ、四人共好きな距離に移動して」

「はーい。…という事だから、三人は下がって。皆ももう少し距離空けた方が戦い易いでしょ?」

「気がきくわねネプギア。ロムちゃん、行こっ」

「なら、アタシも下がらせてもらうわ。…狙撃…は、上手くいく訳ないわよね…」

 

ロムちゃんの手を引いて後ろに走っていくラムちゃんと、作戦を考えながら下がっていくユニちゃん。わたしも普段イリゼさんに訓練つけてもらう時は、もう少し距離を取るんだけど…近接戦が主軸のイリゼさんを抑える為にはこれ以上下がれないよね。

それから数十秒後。全員配置に着いたわたし達は女神化をして、それぞれの武器を構える。

 

「ネプギアちゃん、じゅんびできたよ…」

「わたしもよ、合図はネプギアにまかせるわ!」

「え?わたし?…ゆ、ユニちゃーん!わたしで大丈夫かなー?」

「別にそれでいいわ!さっさと始めて頂戴!」

「わ、分かった!……えと、じゃあ…スタート──」

 

合図を任されたわたしは三人の状態を確認して、数秒待った後に、機を見て模擬戦開始の合図を上げた。そして…………その瞬間、風が吹き抜けた。

 

「え……?」

 

スタートって言った瞬間に吹いた風。そのあんまりにもタイミングのいい風にわたしは一瞬驚いて……次の瞬間、イリゼさんが居なくなっている事に気付いた。

 

「な……っ!?い、イリゼさんどこに…」

「きゃあっ!」

「……!ラムちゃん!?」

 

いない事に気付いたのとほぼ同時に聞こえた、ラムちゃんの悲鳴。まさか、と脳裏で可能性を感じながら振り返ったわたしが見たのは……ラムちゃんに対して上段から斬りかかるイリゼさんの姿だった。

 

「初撃をよく避けたねラムちゃん、ちゃんと見てたのは偉いよ…!」

「こ、こんなじょーきょーでほめられても困るわよ…!」

「ら、ラムちゃん…!」

「…っと…すぐ追い払おうとするのはいいけど、そこは魔法を使うべきだねロムちゃん!」

 

イリゼさんの斬撃を杖で何とか防御したラムちゃん。力押しをされて膝を着いたラムちゃんを助けようと、ロムちゃんが咄嗟に杖で殴りかかったけど…それはプロセッサに覆われた手の甲で受けられ防がれる。…と、そこまできてやっとわたしも動き出す。

 

「ロムちゃん、離れて!」

「へ…?あ、うん…!」

「やぁぁっ!」

 

地を蹴ったわたしはロムちゃんに退避を促しながら、イリゼさんの背へと一閃。僅かでも対応し辛くなる様長剣を持ってない左側からM.P.B.Lを振るったけど……残念、わたしの攻撃に気付いて振り返ったイリゼさんに長剣で受けられてしまった。

 

「い、いきなりラムちゃんを狙うなんて…!」

「確かにちょっと大人気なかったかもね。けど言った筈だよ?今回は本気だ、って!」

「それはそうです…けど…!」

 

数秒斬り結んだ後空へと飛ぶイリゼさん。多分それは背を向けたラムちゃんから攻撃されるのを避ける為だろうけど……飛んだイリゼさんへ、ユニちゃんの射撃が襲いかかる。

次々と飛ぶビームの弾丸。それをイリゼさんは長剣で斬り払っていく。

 

「ここは…ロムちゃんラムちゃん、一斉射撃だよ!」

「そんなの言われなくても…!」

「わたしも…!」

 

わたしはM.P.B.Lを、ロムちゃんラムちゃんは杖を上に向けて、ビームと魔法をイリゼさんへと撃ち込み始める。

射撃と魔法による集中砲火。攻撃同士がぶつかって拡散や爆発が起こり、ものの数秒でイリゼさんの姿が見えなくなるけどわたし達は攻撃続行。それは流石にイリゼさんでも不味いんじゃ…と不安を感じ始めるまで続き、そう感じたところでわたし達は一度攻撃を中断──

 

「容赦無いね、皆はッ!」

「む、無傷……!?」

 

様子を見ようとした瞬間に四散した爆煙。その中心にいるのは……勿論イリゼさん。いつの間にかイリゼさんは長剣から人間状態で使ってるのと同じ様なバスタードソード二本に持ち替え、勢いよく斜め下方…ユニちゃんの方へと向かっていく。その周囲に見えるのは、ボロボロバラバラになった板状の破片。

 

「ど、どこのX102乗りですかイリゼさんは…!」

「そういう状況作ったのはそっちだけどねッ!」

 

イリゼさんならすぐ反撃をしてくる。無傷な事は予想外だったけど、その後の行動は予測出来ていたわたしはすぐに飛んで進路上へと割って入り、空中で再び斬り結ぶ。

二本の剣から伝わる圧力を必死に耐え、この後の動きを予測していく。わたし達は技術でも経験でもイリゼさんに敵う訳ないんだから、数の有利を活かさないと…!

 

 

 

 

「ほらほらっ!持久戦に持ち込みたいのかどうかはしらないけど、私はまだまだ戦えるよ!」

 

鉤爪とショーテルという、何を考えているのかよく分からない武器の組み合わせて攻め立てるイリゼさん。戦闘距離も使い方も全然違う二種類の武器による攻撃はあまりにも変則的で、イリゼさんが普段の訓練よりずっと荒々しい事も手伝ってわたしは防戦一方。気を付けてくれているのか怪我はしてないけど、既にプロセッサは何度も傷を付けられてしまっている。

 

「……っ…ゆ、ユニちゃん…援護を…!」

「出来るならもうやってるわよ!せめてもう少しイリゼさんから離れて!」

「そんな事、言われても…!」

 

今の戦闘速度じゃ引き金を引いてからここに弾丸が届くまでの間にわたしが射線上に入っちゃう可能性が確かにあるし、そういう意味でユニちゃんの言葉はその通りなんだけど……そもそも満足に離れる事も出来ないからユニちゃんに援護を頼んだ訳で。

攻撃による援護が難しそうなら、風の魔法や光魔法による目眩しをしてもらおうと思ったわたし。そこでわたしはロムちゃんラムちゃんの位置を確認する為首を回したけど…それが悪手だった。わたしが目を離した僅かな隙を見逃さなかったイリゼさんは肩からわたしへ突っ込んできて、ショルダータックルを受けたわたしはその場で転んでしまった。

 

「きゃっ……!」

「ネプギア、そいつを寄越せ!…なーんて、ねっ!」

 

わたしを転ばせたイリゼさんは、次の瞬間には両手の武器をユニちゃんに投げつけ、続けてわたしからM.P.B.Lを引ったくってラムちゃんに投擲。それに二人が怯むや否や、飛び上がってロムちゃんへと向かっていく。

 

「わ、わ……っ!」

「喰らえ……と、見せかけてぇッ!」

「なっ!?あ、アタシ!?」

 

拳を握って急接近するイリゼさんに対し、ロムちゃんは慌てて魔法障壁を展開。そこへ殴打が打ち込まれる……と思いきや、イリゼさんはそこから急カーブして目標をユニちゃんへ変更。すぐにユニちゃんは迎撃の射撃を撃つけど、イリゼさんの進行は止まらない。

 

「あ……ら、ラムちゃんわたしのM.P.B.L取って!」

「と、取るって…ロムちゃんネプギアのぶきどこ行ったか知らない!?」

「ふぇっ!?え、えと……あ…あそこの、木の上…!」

「あんなとこ!?もう、かんたんにぶき取られるんじゃないわよネプギア!」

 

空中からラムちゃんに文句を言われたけど…それに言い返してる余裕はない。思い返せば前にユニちゃんと連携してイリゼさんのバスタードソードを木の上に投げ飛ばした事もあったけど、それを懐かしむ余裕もない。

 

「ユニちゃん、耐えて!すぐ行くから!」

「分かってる…!ロム、牽制出来る!?」

「えっ……?…や、やってみる…!」

「え、ちょっ……!?」

 

立ち上がり、ユニちゃんの下へ飛ぶわたしと少しでも時間を稼ごうと引き撃ちするユニちゃん。そこへユニちゃんの言葉を受けてロムちゃんが援護攻撃に入ったけど……あろう事かその魔法によってわたしの進路が遮られてしまった。

多分ロムちゃんは生半可な魔法じゃ避けられるか最小限の防御で凌がれるかだって分かっていて、だからこそ確実にイリゼさんをユニちゃんから追い払える様広範囲への魔法を放ったんだと思う。それは確かに正しい予測だったみたいで、イリゼさんへ大きな回避行動を取らせる事に成功したけど…その攻撃は、少し範囲が広過ぎだった。具体的に言えば、別方向から同じくユニちゃんの下へと向かうわたしの先にも攻撃が飛んできてしまう程には。

 

「あ……ね、ネプギアちゃんごめんね…!」

「ま、まぁイリゼさんを追い払えたからセーフ……うわわっ!」

「前も言ったでしょ、油断大敵だって!」

「は、はいっ!」

 

済まなそうな声を上げるロムちゃんへのフォロー……も満足にさせてくれないイリゼさん。武器飛ばしを低空飛行で回避するわたしは、まだわたし達へ指導を口にするだけの余裕がイリゼさんにはあるのか…と内心少し焦りながらもM.P.B.Lを回収してくれたラムちゃんの下へ。

 

「ラムちゃん、取ってくれてありがとね!」

「自分のぶきはちゃんともってなさいよね!じゃ、わたしロムちゃんたすけに行くから!」

「あ、待ってラムちゃん!次わたしがイリゼさんが斬り結んだ時、何とかして距離取るからそこを狙ってロムちゃんと魔法撃ってくれないかな?」

「きりむすんだ時魔法?はいはいりょーかいよ!」

 

すぐにロムちゃんの方へと向かおうとするラムちゃんを引き止め、一つ提案を伝える。作戦、って程でもない簡単な攻撃案だけど、作戦も無しに戦うだけじゃどうにもならないって事はもう既に分かってる。これでも成功するかは怪しいけど……まずは、試してみないと。

 

「やぁぁぁぁっ!」

 

M.P.B.Lを受け取ったわたしは、いつの間にか長剣を回収していたイリゼさんの意識を向かせる為にビームを照射。その後すぐに全速力で飛んで、一気にイリゼさんとの距離を詰める。

照射ビームをひらりと躱し、接近するわたしを待ち構えるイリゼさん。その数瞬後、わたしとイリゼさんの武器が激突する。

 

「このまま、押し切る…!」

「そうはいかないよ…!」

 

わたしとイリゼさんは互いに武器を振るいながら降下していく。純粋な近接武装である長剣と遠近両用武装のM.P.B.Lじゃやっぱり長剣の方に分があって、降下するというよりわたしが地上に押しやられる形になっちゃってるけど…魔法攻撃の事を考えると、下に避けられない分そっちの方が好都合。だから極力それを気取られない様にしながらわたしは地面に脚を降ろす。

 

「ネプギア、わざわざ意識させてまで仕掛けてきた結果がこれなの?」

「そうかも、ですね!」

 

両手持ちから片手持ちに切り替えた素早い一撃でM.P.B.Lを弾かれたわたしは咄嗟に後退…すると見せかけて急ブレーキ。さっきのお返しとばかりに刀身の先をイリゼさんに向け、簡単に逸らされない様左手で右前腕を掴んで突進する。

距離を取ると見せかけての突進には流石のイリゼさんも一瞬動揺。けれど反応が遅れる事は無くて、一歩下がった後に身体を半身にしてわたしの突進を避けようとする。……けど、それはわたしの思う壺。今のでイリゼさんはわたしに注意を引かれてるだろうし、ここでわたしが離れると同時にロムちゃんラムちゃんが魔法を放ってくれれば──

 

「……詰めが甘いよ、それは」

「へ……っ?」

 

ぐるん、と視界が回った瞬間左の肩に軽い痛みが走る。直前までイリゼさんの横を通り抜けようとしていたわたしは一瞬意味が分からなくて…後ろからイリゼさんの声が聞こえた事で気付いた。わたしはブレない様にしていた右手ではなく左手の手首を掴まれ、腕を背の後ろに締め上げられて身体が半回転してしまったのだと。

動揺した状態から締め上げてくるイリゼさん。それは勿論凄いんだけど、今のわたしはそこに驚いてる場合じゃない。だって……

 

「あ……!?」

「し、しまった……!」

「わぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

わたしの視界に映ったのは、二つの氷塊を放った直後のロムちゃんとラムちゃんの姿。反射的にその氷塊の進路上から逃げようとして、また肩に痛みが走って…もう一つの事実に気付いた。…これって…わたし盾にされてる…?

ロムちゃんラムちゃんの魔法は強力で、特に得意な氷魔法はそこら辺のモンスターなら一撃で倒しちゃう程の威力。それが二つ同時に迫ってて、わたしは左手が使えないどころか移動する事も出来ない訳で……うんやっぱり盾にされてるよね!?防御しつつわたしを仕留めて三対一にしようって作戦だよね!?う、嘘でしょ!?嘘ですよねイリゼさん!わたしあんなの当たったらひとたまりもないですよ!?ぎ、ギリギリで離してくれるんですよね!そうですよね!?

 

「……痛っ…」

 

ぐっ、とわたしの腕を掴む力が強まった。……あ、わたし終わった……。

 

「……っ…」

 

氷塊が眼前に迫ってわたしは目を瞑る。きゅっ、と目を瞑って、せめて後遺症や傷跡が残らない程度の怪我で済む様心の中で祈りを…………

 

 

 

 

 

 

「……あれ…?」

 

脚を持ち上げられた感覚と、浮遊感。劇痛を覚悟していたわたしが感じたのは、その二つだった。

 

「…ふぅ…怖がらせてごめんねネプギア。怪我はない?」

「え?…あ、えと…な、無いです…」

「それは良かった。それじゃ……模擬戦はここまで!皆終了だよ!」

 

恐る恐る目を開けると、目の前にあったのはわたしの顔を覗き込んでいるイリゼさんの顔。それと同時に風を切る音も聞こえてきて、わたしは今飛んでいる…というか、お姫様抱っこされていた。……ど、どういう事…?

 

「ネプギアちゃん、だいじょうぶ…!?」

「け、けがしてない!?魔法当たってないわよね!?」

 

わたわたとわたし達の所へ飛んでくるロムちゃんラムちゃん。その後ろからには、同じくこちらへ飛んでくるユニちゃんの姿も見える。

 

「だ、大丈夫…えっと……あ、そ、そっか…わたしイリゼさんに助けられたんですね…」

「そりゃ怪我させる訳にはいかないからね。…まぁ、それを言うならそもそも私が掴まなきゃよかったんだけどさ」

「そこは模擬とはいえ戦いですし。それよりアンタ達、味方がいる時の遠隔攻撃には気を付けなさいよ」

「うっ…わ、わたしはネプギアのてーあんどおりにうごいただけよ!そうでしょ?」

「それは…で、出来ればわたしが距離取るのを確認してから魔法撃ってほしかったかな…」

「…でも…それを待ってたら、たぶんイリゼさんには当たらない…」

「だからってあのタイミングで撃つ事はないでしょ。フレンドリーファイアしちゃったら元も子もない…」

「あーストップストップ。そういう話は私からするから、一旦皆降りるよ」

 

喧嘩…ではないけど、誰が悪かったのかという話に入りかけたところでイリゼさんの言葉が割って入り、わたし達も一旦口を閉じる。そしてイリゼさんの言葉通り、これで模擬戦は終わるのだった。……わたしはお姫様抱っこをされたまま。

 

「……って、そろそろ降ろして下さいイリゼさん!こ、この格好は恥ずかしいです!」

「そう?可愛いよね?」

「か、可愛い可愛くないの問題じゃないですっ!」

「あ、ネプギアちゃん…かお赤くなった…」

「あー、ネプギアてれてる〜」

「か、からかわないでよ二人共!」

「まぁまぁ落ち着きなさいよネプギア。後、そこそこ可愛いと思うわよ?」

「そんなフォローは要らないよ!?むしろそれは追い討ちだよ!?」

 

からかわれた事で更に恥ずかしくなったわたし。なのに何故かイリゼさんの遊び心に火が点いてしまった結果離してもらえず、結果わたしはイリゼさんが着地するまでユニちゃん達に羞恥を晒す羽目になってしまった。

 

「うぅ…酷いですイリゼさん……」

「私は本当に可愛いと思ったけどなぁ」

「だからそういう問題じゃないですって!…はぁ…もう早く反省会しましょうよ…」

 

イリゼさんは戦闘直後でちょっと気分が高揚している様子。わたしも女神だから戦闘するとそれなりにはテンションが上がるけど、今は恥ずかしい姿を晒してた側だからノリノリになれる訳がない。…それに……

 

「…四対一なのに、わたし達歯が立たなかったんだよね……」

『……っ…』

 

女神化を解除したわたしのその一言で、ユニちゃん達三人の表情が曇る。普段なら不味いと思ってすぐ話を変えようとするけど…これは、目を逸らしちゃいけない事実。一対一なら負けて当然なのかもしれないけれど、今回のわたし達は四人がかりで歯が立たなかったし、あそこでイリゼさんがわたしを連れて飛んでくれなきゃわたしは氷塊が直撃していた。今となっては、四人なら流石に勝てちゃうよね…なんて感じに思っていた模擬戦前の自分が情けな過ぎる。…こんなに、こんなに差があったなんて……。

 

「…あー…落ち込んでるところ悪いけど、ちょっといい?」

「は、はい…イリゼさん、わたし達のどこが悪かったかご教授お願いします!」

「えっと…あのね皆、皆の動きはそんなに悪くなかったよ?皆ちゃんと力を付けてきてるしさ」

「でも、わたし達は…」

「負けた様なものだって?…そんなに気にする事はないよ、だって…皆は全力を出せずに負けただけだもん」

『え……?』

 

あっけらかんと言ったその言葉に、わたし達はぽかんと口を開ける。だって、それは意味が分からない。実力が足りないから負けた筈なのに、全力を出せずに負けたなんて。そんな事を言われても、わたし達は手を抜いて戦ってなんか……。

 

「ま、それがどういう事なのか、一人一人どう悪かったかは移動しながら話そうか」

「移動?…どこか行くんですか?」

「勿論。さぁシスターズ、遊びの時間だよ!」

「は、はい?」

 

そう言って歩き出すイリゼさんに、わたし達はまたぽかんとして…その後慌てて追いかける。まさかあまりにもわたし達が弱過ぎて特訓を諦めてしまったんじゃ…と一瞬思ったけど、イリゼさんはわたし達が指導通りの事を出来た時と同じ様な表情を浮かべていて、決して失望している様には見えない。という事は、つまり…つまりそれは……

 

((…どういう、(事・こと)…?))

 

──後を追うわたし達は、ここに来る時と同じ位…いや、それ以上に疑問符を浮かべながら、イリゼさんに着いていくのでした。




今回のパロディ解説

・X102乗り
機動戦士ガンダムSEEDの登場キャラ、イザーク・ジュールの事。イリゼは別に追加装甲を纏ってないので、最終決戦のシーンそのもののパロディと呼べるかは微妙ですね。

・「ネプギア、そいつを寄越せ!〜〜」
上記と同じく機動戦士ガンダムSEEDの登場キャラ、イザーク・ジュールの台詞の一つのパロディ。ネプギアに言われたから、イリゼも彼を意識した…のかもしれません。

・「〜〜さぁシスターズ、遊びの時間だよ!」
スタミュの登場キャラ、鳳樹の代名詞的台詞のパロディ。別にこれからミュージカルをする訳じゃないです、これはほんとに言葉通りの意味なんです。

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