超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

76 / 183
第五十五話 苦労の末の無事終息

信次元ゲイムギョウ界には、元々様々な大型兵器が存在していた。だが、守護女神戦争(ハード戦争)前期に発生した全面戦争が凄惨な結果をもたらした事により、兵器は軍の解体と共にその殆どが廃棄され、主力兵器は多数の死者をもたらしたとして後の世では忌み嫌われる様になった。

そんな兵器の代わりとなるが如く台頭を始めたのがマルチプルガーディアン…通称MGと呼ばれる人型機動兵器。守護女神戦争(ハード戦争)前期よりも技術が発展した事で一見すれば非効率に見える人型が兵器として十分な性能を得た事や、ラステイションにおいて試作の人型機動兵器が颯爽と現れ多大な戦果を挙げた事が台頭の理由に上がるが、その普及の裏には旧主力兵器が忌み嫌われ、半端な人型もまたキラーマシンシリーズによって社会から不評を得ているという世論を敵に回さない為の政治的要因も存在している。

誕生と普及においては決して華やかなだけではない経緯を持つ兵器、MG。そのMGが更なる普及の道を歩むか、それとも一時期だけの兵器となってしまうかは信次元に生きる者誰一人としてまだ分からぬ事だが…今、ある戦いにおいて主力兵器として有用性を示しつつある事は間違いない。

 

 

 

 

噴射炎で複雑な軌道を描きながら地上を疾駆し、砲火を交えるシュゼット機とブレイブ。正面からの激突をシュゼットに任せ、空中からの援護と強襲に徹するクラフティ機。方や障害を排除する為、方や女神を守る為の戦いは時間を追う毎にその激しさを増していた。

 

「ちぃ、全く当たらねぇなぁオイ!」

「そりゃ簡単に当たる様なら苦労しないわよ!」

 

かなりの重量を持つ槍剣を横に振るう事でシュゼット機は方向転換し、そこから前後四本の脚に備わる主推進器をフルスロットルで吹かして突撃。それをブレイブは難なく避け、避けられる事を見越していたシュゼットは避けた先へと重機関砲の射撃を叩き込むが、ブレイブはその巨体と重厚っぽさからは予想も付かない身軽な動きで凌いで逆に接近を仕掛けてくる。それを受け、シュゼットは機体をブレイブに正対させながらも前脚のスラスターを前方(関節の関係で厳密には下向きの前方だが)に向けて後退する。

 

「幾ら兵器に乗っているとはいえ、所詮は人に過ぎない貴様達が俺に勝てると思っているのか!」

「勝てると思ってなくても戦う時はあるってんだよ!」

 

槍剣の刺突部四方面にそれぞれ一基ずつ配置された機銃を放ち、迫るブレイブに迎撃をかけるシュゼット機。しかし精神的に押されていたとはいえユニの射撃すら避けるブレイブが、この射撃を脅威と認定する訳がない。おまけに人で言う『後ろ走り』の最中のシュゼット機がその状態でブレイブを振り切れる筈がなく、段々と両者の距離は縮まっていく。だが……それはシュゼットにとって想定済みの事だった。

 

「お前の相手は俺一人じゃ…ねぇッ!」

 

シュゼット機は後退の状態から一瞬だけ左前脚の噴射をストップし、機体が約90度方向転換したところで再度噴射する事により機敏に機体の位置を変える。そしてシュゼット機がズレた瞬間……その背後から、低空飛行状態のクラフティ機が現れる。

 

「遠近法で機体を隠していたのか…!」

「喰らいなさい…ってのッ!」

 

両脚の二基に加え、背部に備わる四枚の翼にも主推進器たり得るスラスターを装備した、G型装備群のラァエルフ。クラフティの要望に合わせ抜かりないチューンがなされた本機は相当な速度を誇り、クラフティ機とブレイブが互いに接近する形で前進していた事もあって両者は瞬く間も無く肉薄した。

激突の寸前に上昇し、両腕の機関砲を発砲。砲から撃ち出された光実二種の弾丸がブレイブへと届くまではほんの一瞬の距離だったが……それでも、ブレイブへは届かない。

 

「個々の実力もさる事ながら、よい連携だ…俺でなければ対応出来なかっただろうな…!」

「悠々反撃してきてよく言うわよ…!」

「野郎、空戦もまともに出来んのかよ!?」

 

一撃離脱の要領で急上昇をかけるクラフティ機だが、ブレイブはブースターを点火し追って空へ。空中はG型の本分とも言える領域ではあるが…所詮は人の技術たる兵器と本質的には女神と同じ、シェアによって生み出された存在である四天王では能力の幅に大きな差がある。つまり、陸戦仕様のT型装備群にも空戦仕様のG型装備群にも、それぞれの領域で互角かそれ以上に立ち回れるのが四天王の一角、ブレイブ・ザ・ハードだった。

だが、ブレイブと対する二人もただの人間ではない。まだまだMG運用は手探り状態の中にありながらも軍上層部、そして女神からも信頼を得る状態に至っただけのセンスは伊達ではない。

 

「我が剣撃を…喰らえぃ!」

「それは御免被るわ、ねッ!」

 

主推進器の全てを上昇に費やしながらも機体各部のバーニアで姿勢を制御し連続して打ち込まれる大剣を避けていくクラフティ機。流石に全てを避け切る事は出来ず、時折刃が装甲を掠めていくが…装甲を抜かれない限り、それはさしたる問題ではない。無論今のクラフティは避けるので精一杯の状態ではあるが…戦っているのは彼女一人ではない。

クラフティ機を追うブレイブの背後に、下方から射撃が浴びせられる。それを受け、宙返りの様な機動で回避運動を取るブレイブ。

 

「他人の女の尻追っかけてんじゃねぇよ、この野郎がッ!」

「な、何だと!?人聞きの悪い事を言うな貴様!」

「事実じゃねぇかよッ!」

「俺が追いかけていたのはあくまで機体だッ!」

 

ブレイブに射撃を浴びせたのは、勿論シュゼットが駆るラァエルフ。装備してきた武装の中でも屈指の重量を持つ槍剣を離し、バックパックを閉じた形態で飛び上がったシュゼット機はクラフティ機程ではないにしてもそこそこの高度にいる。陸戦仕様でありながらもある程度のスラスタージャンプが行えるのはラステイションの技術の賜物であり、同時にクラフティが空へと退避したのはその性能を理解していたからでもあった。

 

「シュゼット!とにかく一回地面に落とすわよ!」

「その、つもりだッ!」

 

ブレイブが離れた瞬間に脚部スラスターの出力を上げ、半回転したクラフティ機は頭部を動かし頭部機銃で牽制。更にクラフティから言葉を受けたシュゼットは機体の左腰にマウントされた重剣を開いた右腕で引き抜き、機銃に誘導され高度を落としたブレイブへと振り下ろす。

激突する重剣と手甲。重剣自体の衝撃と上昇動作を止めた事によりシュゼット機とブレイブは一気に落下し、乱暴な着地で地面から砂煙を巻き上げさせる。その次の瞬間、砂煙を蹴散らしながら飛び退く両者。

 

「上手くいったわね。そっちの機体の損害はどう?」

「大丈夫……と言いたいところだが、ちょっと不味いな…」

「え?」

 

シュゼット機が飛び退いた先に移動し最初と似た立ち位置を作ったクラフティは、仕切り直しの意図も込めてシュゼットに問う。その質問自体はそこまで重点を置いたものではなく、普段通り軽い返答がくると思っていた彼女だったが……帰ってきたのは神妙そうな声だった。

まさか、と思い夫の機体に目を走らせたクラフティ。だが、彼の機体に目立った外傷はない。ならば内部機器のどれかやられたのか、と訊こうとした彼女を前に……シュゼットは告げる。

 

「野郎、離れる間際に腕を振って頭部を狙ってきやがったんだ…何とか頭部そのものは直撃を免れたが、おかげでブレードアンテナがひん曲がっちまった!くそ、折れた先が無くなったなら傷持ちっぽくなるからまだしも、これじゃ格好悪いじゃねぇか!」

「……ほんとあんたは馬鹿ね」

「はっ、そんな馬鹿に惚れたお嬢さんはどこの誰だよ?」

「ふふっ、あたしの様ないい女が惚れてくれた事、感謝したっていいのよ?」

「感謝っつーか、幸せには思ってるさ。…さて、ここらで一つ、勝負をかけるぞ」

 

モニター越しにシュゼットはクラフティへと笑みを向け、すぐに視線をブレイブに戻す。

純粋な戦闘能力でも、戦闘経験でも自身等はブレイブに劣っている事を彼等はこれまでの激突で理解している。その差は数の利で埋められるものではなく、何とか食らい付いている現状も機体の消耗に糸目をつけていないからこそ。一体後どれだけ持ち堪えられるか、仮に持ち堪えたとして無事帰還までいけるか…二人にそれは分からない。──だが、二人の表情に陰りはない。不安や恐れはあったとしても、それを言動に…ましてや機体の挙動に表す様な事は一切ない。戦士として十分な精神を持ち、自信に転化出来る程の信仰心も持ち、何よりパートナーを信頼している二人の心に怖気付く様な感情が入り込む隙は微塵もないのである。

強者の余裕とでも言うべき雰囲気で構えるブレイブに対し、両機は動く。シュゼット機は突撃し、クラフティ機は舞い上がる。

 

「俺の技量がどこまで通用するか…試させてもらうぜ四天王ぉッ!」

 

重機関砲をブレード装備のラックライフルに持ち替え、重剣と合わせて得意な変則型二刀流で仕掛けるシュゼット。動力もスラスターもフルドライブで斬りかかり、隙あらば機銃を放ち、攻撃の手が斬撃で足りない様なら蹴りや肘打ちまで行使して彼は攻め続ける。

 

「ふっ、一撃離脱だけでなく近接格闘も中々やるではないか!こうなると生身での戦闘能力も見てみたいものだ!」

「生身で勝てそうなら兵器になんざ乗らねぇよ!っと、隙有り……」

「──しかし!ブラックハートの近接格闘を受けた俺にとってその程度ではなぁッ!」

「ぐぁぁッ!」

 

ラックライフルでの斬撃を大剣で弾かれた瞬間に、大剣の合間を縫う様にして突き出された重剣。それは弾かれた際に発生した遠心力を利用し加速させた一撃だったが、剣先が腹部へ届くより先にブレイブの膝がその重剣の腹を蹴り上げた為に攻撃は空振りに終わる。

二段攻撃が捌かれた結果、至近距離で無防備な状態となってしまったシュゼット機。されどブレイブもまた捌く為に大剣を振るい膝を持ち上げた体勢だった事が幸いし、彼の機体を襲ったのは膝蹴りから派生したキックだった。

蹴りつけられたシュゼット機は倒れ込み、コックピットのシュゼットもその衝撃に襲われる。そんな返り討ちにあった形のシュゼットだが…その中でも、彼は成果上々と笑っていた。

 

「ほんっと…重過ぎなのよこれは!」

「そう来たか……何ッ!?」

 

ブレイブが大剣の斬っ先をシュゼット機に向ける中、クラフティは声を上げる。それに反応したブレイブが見たのは…先程シュゼット機が手放した槍剣を抱え、今正に投げ落とそうとするクラフティ機の姿だった。

本来大型重破砕槍剣はそのサイズと重量からT型装備群用と位置付けられている武装であり、飛行の為に装備群の軽量化が図られているG型装備群のラァエルフではまず扱えるものではない。だがクラフティは槍剣をコンセプト通りの運用ではなく、慣性に乗せて落とす運動エネルギー弾とする事で強引に扱っていた。それは流石のブレイブも予想だにしなかった攻撃であり、そこで更にシュゼット機が大盤振る舞いのスラスター噴射という視覚的情報の強い後退を見せつけた結果、彼は回避のタイミングを逃してしまう。

G型装備群の加速を得た槍剣の一撃は容易には受け止められないものであり、受け止めたとしてもこの立ち位置では二人から十字砲火を浴びせられるのが関の山という回避も防御も実質不可能という状況に陥ったブレイブ。……だからこそ、彼が選んだのは回避でも防御でもなく…攻撃だった。

 

「う…おぉぉぉぉおおおおおおッ!」

『なぁ……ッ!?』

 

ブレイブは右脚を振り上げ槍剣にかかと落としを打ち込む。正面ではなく上部から衝撃を受けた事で槍剣は若干起動が逸れ、結果穂先はブレイブの足元ギリギリの位置に突き刺さった。その瞬間に機関砲をトリガーを引いた二人だったが…気付けばブレイブは空へと身体が持ち上がっていた。二人は驚き、目を見張り…そして理解する。

槍剣に対して打ち込んだかかと落とし。一見それは槍剣の迎撃に見える行動で、実際その一面もあるが…その一撃は次の行動の為の布石でもあった。槍剣を地面に突き刺す事で固定された足場とし、かかと落としの足を打ち付けるという動作を踏み込みに直結させる事により、ブレイブは迎撃と同時に跳躍の段階も踏んでいたのだった。

 

「貴様等は強い!故に…俺も本気で当たるとしようッ!」

「……っ…舐めるなッ!」

 

跳躍の次の瞬間にはブースターを点火し、クラフティ機に猛進するブレイブ。予想外の回避を見せてきたブレイブに驚かされていた彼女だが…その驚きも一瞬の話。接近するブレイブを手持ちの火器では撃ち落せないと判断するや否や高エネルギーシールドによる防御を選択した。

その咄嗟の対応力と判断速度はブレイブをして内心感嘆の声を挙げるものだったが…高エネルギーシールドによる防御というのは悪手だった。

 

「舐めてなど…いないッ!」

「あ、あたしを踏み台に…きゃあぁぁぁぁッ!」

「……ッ!クラフティっ!」

 

左右両方の発生器を前面に向け、接近するブレイブに対して前進する事で攻撃タイミングを狂わせようとクラフティは画策。しかしブレイブは大剣を振るわずに両脚を振り出し……さも立っているが如くシールドに足を押し付けた。

高い防御力と安定性を持つ高エネルギーシールド。この装備はその名の通りエネルギー兵器の一種ではあるが、実のところ攻撃性能は持ち合わせていない。壁状にしたビームではなくエネルギーを設定範囲内に高密度展開する事で壁を形成するというのが高エネルギーシールドの原理であり、その壁に触れるという行為は何らおかしい事ではない(同じ場所に触れ続けるには卓越した集中力と平衡感覚が必要となるが)。

足を付けた次の瞬間には砲を動かし、シールドに向けてゼロ距離砲撃を放ったブレイブ。その一撃でクラフティ機を吹き飛ばし、砲撃の反動とブーストによって向かったのはシュゼット機の直上。双方の視線がカメラとモニター越しに再び交わる。

 

「いい加減……落ちろッ!」

「そうは…いかんッ!」

 

一閃。空中から振り下ろすブレイブと、地上から振り上げるシュゼット機。風を斬り唸りを上げて二本の剣は激突し……重剣の刃が、宙に舞った。

そこから身体を回転させ、続けざまに横薙ぎを打ち込むブレイブ。先程はまともに打ち合えていた筈の重剣が両断された理由を考える余裕もなく残った重剣の刃とラックライフルのブレードで受けたシュゼットは、そこで理由を目の当たりにする。重剣はへし折られた訳でも、斬り落とされた訳でもなく……溶断されたのだった。…そう、ブレイブの持つ大剣にはいつからか炎が揺らめいていた。

 

「発熱機能…いや、ほんとに燃えていやがるのか…ッ!」

「これは俺の正義の炎だ!」

「あぁそうですかい…!」

 

斬られた重剣の切断面が溶けた様になっている事、現在進行形で二本の刃が熱にやられつつある事から見ても理由はこれで間違いない。ならば受け止め続けるのは不味いとシュゼットは頭部の機銃で牽制しつつ後退する。

 

「ちっ、これじゃまともに接近戦も出来やしねぇ…!」

「……だから、ビームサーベルも持ってけってあたしは言ったのよ…!」

「……!クラフティ、無事なんだな!?」

「当たり前よ、シールドの方はさっきのダメージで十全に展開出来るか怪しいものだけど…」

 

冷や汗が額から頬へと流れるのを感じる中、聞こえたのはクラフティの声。見れば確かに彼女の機体は無事であり、まだまだ飛行も継戦も可能な状態だと判断出来る。したらば次なる手を……と戦術を模索しかけたところでシュゼットは気付く。

 

「……なぁクラフティ、そろそろじゃないか?」

「そろそろ?…あぁ…そうね、もう十分な筈よ」

「やっとか……なら、後一踏ん張りだ!」

 

ある事に気付いたシュゼットは重剣を腰に戻し、バックパックを展開。クラフティ機がブレイブの上空を旋回する様な軌道を描きながら射撃を行う中で地上を駆け、元々持っていたシュゼット機からは放置されていた槍剣を回収する。

 

「幾ら良い連携でも、ワンパターンでは俺の目を欺く事など出来んッ!」

「ワンパターン?さぁて、それはどうかしらね!」

 

シュゼット機の動きを視界に捉えたブレイブは、肩越しの砲でクラフティ機に回避行動を取らせつつシュゼット機へと突進する。

ランスチャージは突撃時の加速と武器そのものの重量によって高い破壊力(突貫力)を生み出す攻撃であり、その性質上敵と一定以上の距離がなければ威力を発揮する事が出来ない。だからこそその距離を潰そうと動いたブレイブは対ランスチャージ戦法を理解していると言えるのであり…それ故に、彼はシュゼットの策に嵌まってしまった。

 

「おらよッ!」

「ぬ……小癪な…!」

 

槍剣を拾い上げたシュゼット機はブレイブと正対。しかしそこからシュゼットが選んだのはランスチャージではなく射撃、それもブレイブの足元を狙った目くらましだった。ラックライフルと槍剣の機銃による射撃は接近するブレイブ周辺の地面を蹴散らし、シュゼットの狙い通りに砂煙を巻き上げる。それは奇しくも射撃の二次効果による目くらましという、奇しくもユニと同じ策だった。

周囲を砂煙で覆われたブレイブは些か驚いたが…すぐに立ち止まり、思考を巡らせる。陸戦型が攻めてくるか、空戦型が攻めてくるか。砂塵が晴れる前に仕掛けてくるか、晴れた瞬間に攻めてくるか。攻めてくるとして、それはどこからか…思い付く限りの情報を浮かべ、それ等全てを考慮し彼が選んだのは……跳躍だった。跳躍であればシュゼット機の近接格闘はまず届かず、射撃もまた砂煙で位置が分からない以上放ってくるとすればそれは面制圧の弾幕攻撃。一点集中ならともかくばら撒く射撃ならば有効打にならない事を既に理解していたブレイブにとって、勢いよく空へと跳ぶのは最適解に思える選択肢だった。

──だが、それはあくまでそこまでの戦闘情報から導き出せる最適解。そしてクラフティが選んだのは…それまでの戦闘情報からは導き出せない答えだった。

 

「あたしの戦場にようこそ四天王……喰らいなッ!」

 

仁王立ちをしているかの様な体勢で空中に鎮座していたラァエルフ。そのパイロットたるクラフティが吠え、トリガーを引いた瞬間両肩部と両大腿部のポットの蓋が開き、そこからマイクロミサイルが放たれた。

ブレイブに向け襲いかかるマイクロミサイル。それを見たブレイブは回避行動を取るが、ミサイルはそのホーミング能力で持ってブレイブを追いかける。

 

「誘導兵器か…そんなもの、我が炎の前には無力だッ!」

 

単純な回避では振り切れないと悟ったブレイブは加速。ブースター全開でマイクロミサイルとの距離を離した後に腕を振るって反転し、大剣を振り抜き放射した炎でミサイルを撃ち落とす。

遠隔操作端末と違い、目標を追う事しか出来ない単純誘導兵器は比較的軌道を読まれ易く、ミサイルはブレイブの放った炎に自ら突っ込む形で全て飲み込まれてしまう。されど……全弾撃ち落としたブレイブが自慢気な表情を浮かべる事はなかった。

 

「ちぃ……二重の目くらましだったのか…」

 

ミサイルを撃ち落としたブレイブの目に映ったのは、彼に背を向け最大出力と思しきスラストで離脱していく二機の姿。無論それを見た瞬間は即座に追おうとしたブレイブだったが…すぐに諦め着地する。

 

「…ケンタウロス型に、翼で飛ぶ人型兵器か…ふっ、ラステイションは良い物を開発する!あれ等は十分子供の夢たる良い物、それを破壊するのはあまりに惜しいというものだ!やはり俺の目に狂いはなかった!あの国こそ、あの国の女神こそ…我が夢の協力者たり得る存在だッ!」

 

元々二人に対しては邪魔さえしなければ戦うつもりのなかったブレイブ。そして今となってはもうユニも撤退しきっている筈であり、ブレイブは今目的を失ってしまったのと同義の状態。だから彼は去っていく二機を見据え、これまでの戦いを振り返って声を上げるのだった。

 

 

 

 

「……あ!ユニちゃん!ユニちゃーん!」

「へ……ね、ネプギア…?」

 

一直線に教会へと向かっていたアタシ。陸と違って空で誰かに会うなんて事はまず無いし、傷心でいつも程余裕が無かった事もあって注意力散漫になっていたアタシは、声をかけられるまでネプギアの接近に気付かなかった。

 

「よ、良かったぁ…ユニちゃん無事だよね!?大怪我とかしてないよね!?」

「…そんなの、見れば分かるでしょ…」

「そ、そっか…あはは、わたし慌てちゃってたね…」

「……なんで、アンタがここにいるのよ」

 

今は各国で活動するって目的の下アタシ達は別れたんだから、女神候補生のネプギアがほいほいとラステイションに来ていていい筈がない。そう思ってアタシが言うと…ネプギアは、少し頬を膨らませながら返してきた。

 

「なんでって…そんなのユニちゃんを心配して来たに決まってるじゃない。ユニちゃん、四天王に挑みに行ってたんでしょ?」

「…それはケイから聞いたの?」

「そうだよ?」

「…ほんと、ケイはアタシの保護者か何かのつもりな訳…?」

 

ケイが少佐二人だけじゃなく、ネプギアにまで話していた事を知ったアタシはついそんな事を言ってしまった。かなり皮肉っぽい言い方になっちゃったけど、実際こうなると保護者かって一言位言いたくなる────

 

「……ユニちゃん、引っ叩かれたい?」

「…………え?」

 

…その瞬間、アタシは二人が救援に来てくれた瞬間と同じ位に驚いた。だって、ネプギアがネプギアらしからぬ事を言ったから。あのお人好しで控えめなネプギアが、女神化してもそこまで性格が変わらないネプギアが、冗談とは欠片も思えない声音で叩かれたいのか、と訊いてきたんだから。

 

「ケイさんはユニちゃんを心配してわたしに電話してきたんだよ?一度はわたしにユニちゃんを助けに行ってほしいって言いかけた位心配してたんだよ?そんなケイさんに対してそんな事言うなら、わたしは友達としてユニちゃんを許せない」

「……っ…」

「…ねぇユニちゃん、ユニちゃんはもう一度今さっきの事言える?」

「…そう、ね…アタシが軽率だったわ。ごめんなさいネプギア」

「分かってくれればいいんだよ。…わたしも変な事言っちゃってごめんね」

 

ネプギアに問い詰める様な口調で言われ、アタシはケイに対してあんまりな事を口走ってたと気付いた。…そうよ、保護者と思ってるかどうかはともかく、ケイはアタシの心配して二人を送ってくれて、実際そのおかげでアタシは命拾いをしたんだから感謝しなきゃいけないに決まってるじゃない。……なのに、アタシは…

 

「……っ…ぅ、ぐ…」

「え…ゆ、ユニちゃん!?なんで泣くの!?」

「あ、あた…アタシ、は……っ…」

「あ…も、もしやわたし、凄く酷い言い方だった!?だったらごめんね!わたし慣れない事したせいでユニちゃんを傷付けちゃったんだよね!ごめんね、本当にごめんね!」

「…そう、じゃないっ…そうじゃないのよ、ネプギアぁ…!」

 

ぼろぼろと、涙が溢れる。飛んでいる間に一旦は落ち着いていた心が、悔しくて情けなくてしょうがないという思いがぶり返してきて、涙が止まらなくなる。

 

「そ、そうじゃない…?じゃあ、どうして……」

「は、話す…から…落ち着いたら、ちゃんと話すから…だから、今は一人に、して……っ!」

 

そう言ったのは、アタシの最期のプライド。ライバルのネプギアに泣きじゃくる様な姿だけは見せたくなくて、アタシはネプギアを突き放す。

それから数秒後、ネプギアはアタシに背を向け距離を取った。アタシが見えない様に背を向けて、アタシの声が聞こえない様に距離を取ってくれたネプギア。そんなネプギアに、アタシは辛さに飲み込まれていない僅かな部分をかき集めて小さく感謝の言葉を口にして…それから数分、無様に惨めに泣き続けた。

 

 

 

 

電話の後わたしはラステイションまで急行して、ケイさんに軽く引かれるレベルの勢いで話や情報を聞き出して、ユニちゃんの下へ急ごうと飛翔した。それで空中でユニちゃんと合流して、ユニちゃんのお願いを聞いてから数十分後。やっと落ち着いてくれたユニちゃんと人気のない場所に着陸したわたしは、ケイさんにユニちゃんと合流した事を連絡した後話を聞いた。

四天王…ブレイブ・ザ・ハードに負けた事、覚悟においても劣っていた事、自分が女神の器じゃないんだという事…それを話している時、ユニちゃんからは普段の強気でしっかりしてる部分を全く感じる事が出来なかった。

 

「…ほんと、情けないわねアタシは…こんなんでネプギアと対等だと思ってた自分が馬鹿みたい……」

 

ユニちゃんの傷付きようを見て、その理由を知って、まずわたしが抱いたのは…ブレイブへの怒りだった。わたしの大切な友達で、負けたくないライバルで、頼れる仲間のユニちゃんをこうまでしたブレイブに対する、怒りの気持ち。でもユニちゃんの姿を見て逆に冷静になれたわたしは怒りに任せて仕掛けにいくのが最悪の選択だって分かってたし、何よりユニちゃんを放ってなんておけないから、今は我慢。

 

「…そんな事ないよ。わたしはユニちゃんを情けないなんて思わないし、これからも対等だって思っててほしいよ?」

「…優しいわね、ネプギアは」

「ううん、違うよユニちゃん。わたしは同情して言ってるんじゃなくて、本心を言ってるだけだもん」

「…………」

「ユニちゃん、こう言ったらユニちゃんは怒るかもしれないけど…わたしはユニちゃんが覚悟で負けてたとも、女神の器じゃないとも思わないよ?」

 

話を聞く中で、わたしは戦いに負けた事自体はそこまでユニちゃんの心を苦しめてる訳じゃない事に気付いた。だからわたしは覚悟の事と女神の事について触れる。するとユニちゃんはわたしが前置きした事もあってか、怒らずにただ俯くだけだった。わたしはそんなユニちゃんに元気になってほしくて、言葉を続ける。

 

「だってさ、ユニちゃんはわたしよりずっと先に覚悟を決めて、その覚悟を胸に頑張ってきたんだよ?その覚悟って、質の悪いものなの?」

「…アタシの覚悟は、自分の為のものだった。ブレイブとは違って…お姉ちゃんともネプギアとも違って、自分を中心に置いた覚悟だった…」

「…それを言うなら、わたしだってそうだよ。わたしの覚悟だって、一番根底にあるのは国民の為じゃなくて『わたしがそうしたいから』って理由だもん。それに…覚悟の質って、ほんとあり得るものなのかな?」

「……どういう事…?」

「覚悟の質って言っても、別に鑑定士さんがいる訳でもなければ一覧表がある訳でもないでしょ?それなのに質っていう、何かと比べる様な要素はあるのかな…って」

 

わたしがしているのは、多分言葉遊び。自分がそうしたいからなんてふわふわした表現じゃ、その中に国民の為って気持ちがないんだとは言い切れないし、覚悟の質なんてそれこそあると思う人にはあるんだろうしないと思う人にはないものだと思う。ただ、それでも言葉にすれば、言葉に思いを乗せれば、わたしの気持ちがユニちゃんに伝わるかもしれない。それでユニちゃんが立ち直ってくれるかもしれないなら、わたしはそれに賭けてみたい。…と、いうよりわたしにはそれに賭けるしかない。

 

「…じゃあ、ネプギアはどうしてアタシが精神的に打ちのめされたのか…説明出来る?」

「それは……き、きっとユニちゃんが前より強くなったからだよ」

「…はぁ……?」

「ま、まぁそうなるよね…これは予想だよ?予想だけど…ユニちゃん、わたしと喧嘩した時より今は強いでしょ?わたしと喧嘩した時より、最初覚悟を決めた時より、ユニちゃんは強くなってる。だから心に余裕が出来て、もっと強くなろう、もっといい女神になろうって気持ちが芽生えて……それで、心が揺れ易くなってたとか…そうだ、そうだよ!我ながらこれは合ってる気がするよ、ユニちゃん!」

「……何自画自賛してるのよ…」

「うっ……で、でもそれっぽくはあるでしょ…?」

「…それは、まぁ…」

 

おずおずながらも顔を上げて、小さく頷いてくれたユニちゃん。その顔は、さっきよりほんのちょっぴり明るくなった様にも見える。

 

「それにさ、ケイさんもMGパイロットの二人も、ユニちゃんの為に動いてくれたんだよ?女神の器じゃない相手を心配したり命懸けたりすると思う?」

「…仕事だからそうしてるって可能性は?」

「ユニちゃんの目には、仕事だからそうしてる様に見えたの?」

「……そうは、見えなかった…」

「だったらきっと、ユニちゃんは女神として見られてるよ。ラステイションはいい意味で優しくても甘くはない人が多い…気がするし、そこで女神として成り立ってるんだからユニちゃんは大丈夫。もしわたしが女神じゃなくてラステイションの国民だったら、ユニちゃんを悪く思ったりはしないしね」

 

わたしは言葉をかけ続ける。思いを届けたくて、発信し続ける。……そして、ユニちゃんは顔を上げてくれる。

 

「…ユニちゃん……」

「……生意気言うわね。ネプギアはアタシの何だって言うのよ」

「友達だよ?友達で、ライバルで、仲間。ユニちゃんはどう思ってるか知らないけど、わたしはそう思ってる」

「…はぁ…ほーんと情けないわね、アタシ」

「え……ゆ、ユニちゃん…」

「ケイも、クラフティ少佐も、シュゼット少佐も、ネプギアも…きっと国民もここまでアタシの事考えてくれてたのに、それを無視してうじうじしてるなんて、情けなくてしょうがないわ」

「……って、事は…」

「あぁそうよ、ちょっと悔しいけどネプギアに話を聞いてもらって、少しは気が晴れたわよ。…まだ、もやもやした気持ちは残ってるけどね」

「そっか…うん、でも少しでも気が晴れたならわたしは安心だよ。だって、ユニちゃんは強いからね。そんなもやもや気分なんて霧払いしてもっと強いユニちゃんになれる筈だもん」

「そ、そこまで言われる程じゃないわよ…全く、ほんとネプギアは調子がいいんだから…」

 

そう言って、数秒空を見上げたユニちゃん。ユニちゃんが顔を下ろした時…確かにユニちゃんの顔は、少しさっぱりした様な表情になっていた。

立ち直ってくれた事にわたしは胸を撫で下ろす。そうしてる間にもユニちゃんは歩き始めて……って、

 

「ゆ、ユニちゃんどこへ…?」

「どこへって…そりゃ帰るに決まってるでしょ。アンタはもう帰るの?」

「う、うーん…じゃあもう一回教会にお邪魔しようかな。…帰ったら勝手にどこ行ったんだっていーすんさんに怒られそうだし…」

「そう。ならどうせアタシはケイに注意されるでしょうし、うちの教会来るなら一緒に注意受けていきなさいよ」

「えぇ!?い、嫌だしわたしは注意される理由ないよ!?」

「そう……ネプギアはアタシの事友達でライバルで仲間って言ってくれたけど、一緒に怒られてくれないのね…」

「ゆ、ユニちゃん…って友達でライバルで仲間でも一緒に怒られてあげたりはしないよ!?しないからね!?」

 

────こうしてルウィーに続いてラステイションでも起こった四天王騒動は、連続盗難事件があれ以降起こらなくなった事と少佐さん二人が無事帰還した事で何とか終わりを迎える事が出来た。その中でわたし達は色々驚いたり、ショックを受けたり、大変だったりしたけど……その中で得たもの、進んだものも確かにあったと思えるわたしだった。




今回のパロディ解説

・「〜〜俺でなければ対応出来なかっただろうな…!」
HUNTER×HUNTERのとあるモブキャラクターの台詞の一つのパロディ。かなり有名なネタですが、何とそれを言ったのはモブキャラ…というのは中々凄いですよね。

・「あたしを踏み台に〜〜」
機動戦士ガンダムの登場キャラクターの一人、ミゲル・ガイアの代名詞的台詞の一つのパロディ。正確には踏み台ではなく足場ですね、似た様なものですが。

・もやもや気分霧払いして
ポケットモンスターDPのOPの一つ、Togetherのワンフレーズのパロディ。普通にありそうな単語だけど、よくよく考えたら現実に存在しない単語、それがきりばらいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。