超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第五十一話(二話前)のラストの部分を、投稿後の編集時に少し変更しました。もし変更前に読んだという方は、最後だけまた見て頂けると幸いです。


第五十三話 誰が為の覚悟か

ユニちゃんは普段クールで、状況を考えて動ける人。実際何度もわたしはフォローされてるし、ちょっと悔しいけどわたしよりイリゼさん達と会話が合う…かもしれない。

でも、ユニちゃんはわたしよりはしっかりしていても、大人って訳じゃない。だから旅の中でラステイションに行った時は大喧嘩をする事になったんだし、元々ユニちゃんには気負いの様なものがあった。だから、きっと……もし四天王の情報を得た後に、ユニちゃんと連絡が取れなくなったのなら、それは……

 

「……わたしも、戦いに行ったんだと思います」

 

ケイさんから事実を伝えられた後、君ならどう見ると訊かれたわたしは同意の言葉を口にした。

 

「やはり、か…今回は僕が軽率だったと言わざるを得ないね。ユニなら行き兼ねない事位、予想出来て然るべき事なのに…」

「そ、それを気にしてる場合じゃないですよ。ユニちゃんが行った場所…というか四天王のいるかもしれない場所ってどこなんですか?」

「……一応、その質問をする理由を訊かせてくれるかい?」

「そんなの、ユニちゃんを助けに行く為に決まってます!」

 

電話は相手の耳元へ声が出る訳だから、通話の際には声の大きさに気を付けなくちゃいけないんだけど……それを忘れてわたしは大声を出してしまった。…ケイさんにはちょっと申し訳ないけど…そんな質問されたら感情的になっちゃうよ。だって、ユニちゃんは大事な友達なんだもん。

 

「そ、そうか…だが、君も今手持ち無沙汰という訳ではないだろう?」

「それはそうですけど、ユニちゃんが危ないならわたし居ても立っても居られないんです!ケイさんはユニちゃんが危ない目に遭っててもいいんですか!?」

「…まさか、君に怒られるとはね」

「い、いや怒った訳では…とにかくわたしが助けに行きます。なので教えて下さい、お願いします!」

「……分かった、なら…うん?」

 

観念した様な、そしてどこか安心した様な声音で、「分かった」と言ってくれたケイさん。その言葉に自分でも分かる位顔を綻ばせそうになったわたしだけど……その直前に、ケイさんが電話の向こう側で何かあった様な声を上げた。

 

「……ケイさん?」

「…すまない、少し待ってくれるかなネプギア」

「あ、はい…」

 

受話口からはケイさんの他に、誰かもう一人の声が聞こえてくる。この声は…もしかして、シアンさん?

 

(うぅ、焦れったい…)

 

わざわざ通話を中断してるんだから、シアンさんの話も重要な事なんだとは思うけど…今こうしている間にもユニちゃんが追い詰められていってるんじゃないかと思うと、落ち着いて待ってなんていられない。でもだからって急かすのは気が引けるし、でも落ち着いていられないからつい部屋の中をうろうろしていると……

 

「…待たせてしまって悪かったね、ネプギア」

「い、いえ。それより早くお願いします」

「いいや、その必要は無くなったよ」

「な、無くなった…?それって…ユニちゃんを見捨てるんですか!?」

 

先程大声を出してしまって反省したわたし。けど、わたしは再び大声を挙げた。だって、そりゃそうだよ。ユニちゃんを、ユニちゃんを見捨てるなんて、そんなの──

 

「あぁいや、そういう事ではないよ。ユニはラステイションの大事な女神候補生なんだ、そもそも見捨てるなんて選択肢は持ち合わせていないよ」

「え……?…で、でも今その必要はないって…」

「それは、君の勘違いさ」

「勘違い…?」

「そう。必要ないというのはユニを助ける必要がないという意味ではなくて……()()()()()()()()()という意味さ」

 

 

 

 

勝てる保証は初めから無かった。相手は曲がりなりにもお姉ちゃん達守護女神と正面から戦えるだけの相手で、犯罪組織のシェア率はあの時より上がっているからその分強くなっている可能性も十分にある。そんな相手に一人で戦うのは得策とは言えないし、そもそも四天王が現れても無理に戦う必要はないと言われている。だから、初めは偵察するだけ、安全を確保しての情報収集に留めるだけのつもりだった。

……でも…今から思えばそれは、自分の心を騙す為、納得させる為の嘘だったのかもしれない。

 

「この、この、このッ!」

 

X.M.B.連射モードで撃って撃って撃ちまくるアタシ。各種発射機構の中でも弾速に長ける方のビーム弾頭によるフルオートは、アタシの技量も相まって有効射程圏内ならそう簡単に避けられるものじゃない。……そう簡単に避けられるものじゃない、筈なのに……

 

「踏み込みが足らんッ!」

 

奴には……四天王の一角、ブレイブ・ザ・ハードと名乗ったアイツにはまるで当たらなかった。

流石に一発も当たらない…なんてレベルじゃない。けれど八割九割は避けられて、数少ない命中弾もブレイブの鎧を貫くには至ってないから結局は有効打にはなっていない。一発毎の出力や収束率を上げれば多分いけるけど、そうすると今度は連射速度が下がって余計に当たらなくなってしまう。

 

「踏み込みって…空中でどう踏み込めってのよ!てかそもそも射撃で、踏み込んでるのはアンタの方だし!」

「俺が言っているのは気概の方だ!」

「くっ……!」

 

お姉ちゃんが使うものとは大きく違う形状の大剣を構えて、背中(腰)の翼とブースターでアタシに接近するブレイブ。逃げの一手に徹する相手ならともかく、近付いてくる敵にここまで避けられるのは悔しくてしょうがない。

 

(やっぱりビーム弾頭じゃなくて対装甲弾頭に変える?それか牽制射撃でまず動きを止めるか、いっそ照射による薙ぎ払いで強引に…)

「ふんッ!」

「きゃっ……!」

 

状況打破がしたくて思考を巡らせた数瞬。僅かに射撃の精度が落ちたその瞬間で、一気に距離を詰めてきたブレイブの大上段斬りがアタシに迫る。それをアタシは何とか紙一重で避ける事が出来たけど、後少し避けるのが遅かったら間違いなくアタシはやられていた。…アタシの得意な射撃が殆ど通用せずに、やられるところだった。

 

「……っ…そんなの、認められる訳がない…ッ!」

 

回避しながら射撃を単射に切り替えて、近距離からの高出力ビーム。相手が普通のモンスターならこれで確実に仕留められてるだろうけど、やっぱりブレイブには当たらない。だから更にそこからアタシはビームを拡散モードに切り替え、弾幕形成しながらとにかく距離を開ける事を徹底する。少なくとも、近距離で勝てる見込みは無いんだから。

距離を取って、策を巡らせながら撃って、また避けられる。アタシの出来る射撃を、策を片っ端から叩きつけて、それを全て正面から突破される。ギョウカイ墓場の時よりずっと強くなってる筈なのに、アタシの実力は全く四天王に通用していない。……お姉ちゃんが優位に立ち回っていた相手に、アタシは有効打を与える事すら、叶わない。

 

「…違う…そんな訳ない…強くなってない訳……こいつとの差が、こんなに開いてる筈がないじゃないッ!」

 

何度目かの退避の後、アタシは翼による急制動からブレイブに突撃した。ブレイブが迎撃の為に放った肩掛けキャノンの砲撃を避けて、X.M.B.からグレネード弾を発射。それは大剣の腹で受けられてしまったけど…それでいい。グレネード弾の爆発がブレイブの眼前で起こった瞬間にアタシは側面に回って、再び射撃をビーム単射…それも一発集中の照射モードに切り替える。幾ら四天王だからって…グレネードの衝撃と目くらましなら隙の一つや二つ出来るでしょ!

 

「これで……ッ!」

 

左脚を地面に突き立てて強引に急ブレーキをかけながら、砲身が上下二分割状態になったX.M.B.をブレイブに向ける。そうよ、アタシは強くなった。お姉ちゃんを助ける為、お姉ちゃんに近づく為、イリゼさん達の足手まといにならない為、ネプギアやロムラムに負けない為、強くなったんだから。だから、今のアタシが通用しないなんて、そんな事絶対……

 

「その程度なのか……貴様はッ!」

「なぁ……ッ!?」

 

──その瞬間、ブレイブの大剣は風切り音を立てながら振るわれた。それまでブレイブの眼前で巻き起こっていた爆煙は大剣が発生させた風圧で真っ二つに吹き飛ばされて、一気に視界がクリアになった。

でも、それだけならそこまで驚く事じゃない。アタシが驚いたのは……その大剣の腹で、X.M.B.の砲身を押さえ込まれたから。砲身を押さえ込んで、アタシのビーム照射を逸らしてきたから。隙を突いた攻撃に…対応されたから。

 

「ラステイションの女神候補生…ブラックシスターよ!今一度訊く、その程度か貴様はッ!」

「そんな訳…ないでしょ…ッ!」

「ならば何故全力を出さない!?貴様の全力はこんなものではない筈だ!」

「こんなものではない筈って…アンタがアタシの何を知ってるってのよッ!」

 

X.M.B.を押さえるブレイブと、射線を戻そうと力を込めるアタシ。そんな力比べを数秒続けたところでアタシは怒号を飛ばしながら力を抜き、ブレイブの力を利用して一回転。押して駄目なら引いてみろの考えで大剣を避けつつ回転した先で今度こそ直撃を…と思っていたアタシだったけど……やっぱり、ブレイブの方が一枚上手だった。アタシが再びブレイブと正対した瞬間、そこには大剣を手放したブレイブの右の拳が迫っていた。

もう無意識の反射で何とかX.M.B.を横にして、ブレイブの拳を防ぐ。けど、無意識の反射で押し返しなんて出来る筈がなくて、アタシはボールの様に弾き飛ばされる。

低空飛行の如く飛ばされたアタシは、翼を使って必死に姿勢制御を試みる。その最中、突然…ゾクリ、とアタシの本能が危機を伝えてきた。

 

「残念だが、お前への期待は俺の思い違いだった様だ…故に、もう俺は容赦せん!期待違いだったが、候補生とて女神は女神!我が最大級の技でもって終いとしようではないか!夢、希望、そして勇気!それが我が力、我が思いの形そのものだ!喰らえ必殺!ブレイブッ!カノォォォォォォォォンッ!!」

「……──ッ!きゃあぁぁぁぁああああああッ!」

 

アタシが顔を上げた時、ブレイブは大地を踏み締め、二門の砲…そして胸の、ライオンの顔風パーツにエネルギーをチャージしていた。

次の瞬間、ビームとなって放たれた三つのエネルギー。三条の光芒は駆ける中で収束し、一本の巨大な光の柱となって地面も空気も飲み込んでいく。キラーマシンのビームブラスターとはスケールの違うその一撃に対し、直前まで体勢を立て直す真っ最中だったアタシは直撃を避けるので精一杯で、ビームの余波と削られた地面から飛んだ大小様々な石や砂利に身体を叩かれ地面に打ち付けられる。

全身に走る衝撃と舞い上がった砂煙を吸い込んだ事で咳き込むアタシ。そんなアタシの真横に…ブレイブの大剣が振り下ろされた。

 

「……女神である以上、今例え地面ではなくお前を狙っていたとしても撃破には至らなかっただろう。…少なくとも、ブラックハートならば自らを斬り裂いた剣を掴み、我が腕を両断しにきていただろうな」

「…それは、アタシに対する皮肉?」

「事実を述べたまでだ。我がブレイブ・カノンを避ける辺りは流石と言ったところだが、そのパフォーマンスも常に発揮出来ないならば真の実力とはとても呼べない。…俺は、それが残念でならない」

「…………」

 

地面に這い蹲るアタシを見下ろすブレイブの目に、悪意や憎しみは感じられない。あるのは本当にただ、残念そうな感情だけ。

ブレイブは続ける。

 

「…俺が何を知っているか、と言ったな。確かに俺は、お前の事を殆ど知らない。だが、お前に十分な力がある事は知っている」

「何を根拠に、そんな……」

「根拠ならば、これがある」

 

すっ…と自分の右肩を指差したブレイブ。その右肩を覆う装甲には、大きく抉れた被弾の跡。それは、アタシが付けたものだった。アタシが狙撃で与えた一撃で、唯一のまともな直撃。

 

「幾ら不意打ちとはいえ、初撃から俺に当てられる者など真の実力者以外あり得ない。だからその時俺は思ったのだ。お前は守護女神ブラックハートにこそ及ばぬものの、間違いなく一流の戦士であろうと。……しかし、戦いが続くにつれお前から感じる力は霞んでいった。…手を抜いたか、ブラックシスター」

「…手を抜いた結果この様なら、無能にも程があるわよ。…叩きのめされた時点で五十歩百歩なんだろうけど」

 

話を聞く限り、ブレイブはアタシを高く評価していてくれたらしい。けどそれもやられた今となっては、敗者を憐れむ方便にしか聞こえない。だからかアタシは目を逸らして、どこか自嘲めいた気分になっていた。

 

「ならば、何故最初の様な実力が発揮出来ない?あれは乾坤一擲の一撃だったとでも言うのか?それともまさか、手負いだったのではないだろうな?」

「…ふん、そんなのどうせアタシとアンタに実力差があったってだけでしょ。所詮アタシは未熟な女神候補生だったってだけよ…」

「……気に入らんな」

 

元々抱いていたお姉ちゃんへの劣等感も手伝って、人前で言ったら女神としての格が下がる様な自虐を口にしてしまったアタシ。別に同情されたいなんて思ってないし、失望されてもそれはそれ…なんて冷めた考えでいたアタシだけど……ブレイブから返ってきたのは、不愉快そうな言葉だった。それが予想外で、アタシが怪訝な表情を浮かべると…ブレイブはそれが更に癇に障ったらしくて、ギロリとアタシを睨み付けてきた。

 

「自身を低く評価するのも諦めるのも本来個人の勝手だ。だが、貴様が…ブラックハートの妹であるお前がそれをするのは気に入らん!そんな事を姉に教わってきたのか!お前が見てきた姉の背中は、そんなものなのか!」

「……っ…そ、そんな事アンタに言われる筋合いないわよ!アンタはアタシの事以上にお姉ちゃんの事なんて知らないでしょうが!」

「いいや知っているさ!俺はあの時、ブラックハートと戦ったのだからな!あの時の彼女は、勇猛果敢の一言に尽きる輝きを放っていた!全身に傷を負いながらも、敗北が確定していながらも、絶望しかない戦況でありながらも一切怯む事なく戦い、俺の言葉を真っ向から跳ね返し、守護女神の名に恥じない結果を掴み取った彼女に、俺は敬意の念を感じている!だからこそ、その姉の一番近くにいたお前がそんな姿を晒す事が許せない!ブラックシスター…お前は実力だけでなく覚悟までその程度だったと言うのかッ!」

「……アタシの覚悟が、その程度…?…冗談じゃない、冗談じゃないわよッ!」

 

その言葉を耳にした瞬間、それまで冷めた気分…格好付けずに言えば、負けて拗ねていたアタシの心に火が着いた。アタシの実力が不足してるのはもう明白の事で、そこについて言われるのは不快だけど我慢出来る。けど、覚悟を軽んじられるのは、アタシの覚悟が緩いと思われるのだけは許せない。許せる訳がない。だって、だってアタシは……

 

「アタシはずっと覚悟を決めてやってきたのよ!どう思われようが、それが本来あるべき女神とは遠かろうが、その覚悟を芯に戦ってきたのよ!お姉ちゃんに近付く為に、お姉ちゃんの代わりに国を守る為に、ネプギア達に遅れない為に、もっと強くなる為にって!アタシはその覚悟に胸を張れる、覚悟の為に死ねるのよ!さっきから適当な理由を付けて知った様な口聞いてるけど、アタシの覚悟を軽視して好き勝手抜かしてるんじゃ────」

「見つけたぞ、お前の弱さをッ!」

「は…はぁ……ッ!?」

 

立ち上がり、声を荒らげる。アタシはネプギアと喧嘩をしたあの時の様に、感情を爆発させていた。叩きつける様に言葉を紡いで、アタシの気持ちをぶつけていく。それは何か意味があった訳じゃなくて、ただブレイブの言葉を否定したい一心で放って……その瞬間に、ブレイブはカッと目を見開いた。

そのあまりに唐突な反応と意味不明な言葉で、アタシは言葉を失ってしまう。あ、アタシの弱さを見つけた…?

 

「お前の弱さも、何故力が霞んでいったのかもその言葉ではっきりした!お前に足りないのは実力でも、覚悟の有無でもない!──覚悟の質だッ!」

「か、覚悟の…質…?」

「そうだ!姉への憧れ、妹としての責任、仲間へのライバル心…確かにどれも覚悟足るもので、それを愚弄するつもりは微塵もない!だがブラックシスターよ、気付かぬか!それがどれも自分本位という事に、自己の為の覚悟という事に!」

「……ッ!?」

 

──それは、頭を硬い鈍器で殴られた様な衝撃だった。思ってもみなかった言葉をかけられ、それが否定のしようがない真実だという事に気付き、アタシは愕然とした。

目眩の様な感覚に襲われる。脚が震える。認めたくない。アタシの覚悟が自分本位だった事を、散々女神だのなんだの言っていた自分が、利己の覚悟で強くなろうとしていた事を。でも、言葉が出ない。言い返せない。

 

「もしもお前が悪人ならば、それでも良いのだろう!善悪という巨大な理念ではなく、純粋に自己の向上や個人の夢を追う為ならば、その方が良いのかもしれない!しかし女神であるお前がそれでは駄目だろう!利己と利他が一致しているならともかく、そうでないなら利他的でなくて何が女神だ!それでお前は、守りたいと思う者に胸を張れると言うのか!」

「そ、それは……な、なら…ならアンタこそ、どうなのよ…!」

「俺は子供達の為に戦っている!子供の夢の為、未来の為に覚悟を決めている!善悪関係なく、子供達の為の存在が俺なのだ!」

「善悪、関係なく…?……じゃあ、まさか…マジェコンのコピー機能がゲーム中心なのは…」

「子供達により多くの夢を持ってもらう為に決まっているッ!」

 

絞り出す様に口から出たのは、アタシの意見でも何でもない論点ずらしだった。それはとても情けない事で、でもそれが情けない事だってすぐ気付かない位に動揺していたアタシは、その後の言葉で更に愕然とした。

情報を元にアタシがブレイブを発見した場所。それはマジェコン工場だった。マジェコンなんて技術進歩とそれに従事する人達の邪魔になるだけで、欠片も正義がない事だとアタシは思っていたけど……やっぱりまた、言い返せなかった。ブレイブの言葉から感じる重みに、アタシは圧倒されてしまっていた。

 

「そんな…そんなの……」

「あぁ、間違っているのかもしれないな!だがしかし、それはあくまで手段であり、俺の覚悟は子供達の為に他ならない!開き直りだと思うのなら勝手に思え!お前がどう思おうと不特定多数の誰かの為戦う俺が、自己の為戦うお前に勝ったという事には…世界の為、次元の未来の為に戦ったブラックハート達守護女神が我々を震撼させた事には…変わりないッ!」

 

ブレイブは、最後まで暑苦しい程に熱意のこもった言葉で言い切った。本人の言う通りそれは開き直りで、都合良く解釈してるに過ぎないけど…これまた本人の言う通り、最初アタシはブレイブに届きかけていた。力の部分だけは確かに届きかけていて、なのに戦うにつれてどんどん劣勢になったのは……もしかしたら、本当にブレイブの言葉通りなのかもしれない。

気付いた時には、アタシは膝をついていた。認めたくはないけど……この戦いは、アタシの完全敗北だった。

 

「…戦いというものは、力のぶつかり合いであるのと同時に覚悟のぶつかり合いでもある。もしお前の覚悟が違えば…俺の言葉をつき返せるだけのものであれば、結果も違ったのかもしれないな…」

「……フォローなんて要らないわよ」

「そんなつもりはない。…が、俺はお前にこれまでとは別の期待を抱いている。……ブラックシスターよ、俺の下に来るつもりはないか?」

「は……?」

「自己の為の覚悟だったとはいえ、その度量は確かなものだった。そしてお前の中には、ブラックハートと同じ輝きがあると感じている。だから、俺はお前に同士となってほしいのだ」

 

大剣から手を離し、アタシに手を差し伸べるブレイブ。これまでのやり取りから考えればきっとこれは罠でも計略でもなくて、本当にただアタシに同士になってほしいだけなんだと思う。

その力で、その言葉で徹底的に負かされたアタシにとって、その手は自分でもよく分からない魅力を放っていた。もしその手を握れば、アタシは多分もっと強くなれる。今までより揺るがない覚悟を手にする事が出来ると思う。…………でも、

 

「……はっ、腐ってもアタシは女神よ。誰が犯罪組織に下るかっての」

「…そうか。ならば、俺は障害足りうる存在を排除する為お前を殺す。それでもいいのか?」

「当然。アンタに負けた事実は変わらないんだから、せめて死に様位女神の名に恥じない姿でいてやるわよ」

「……いいだろう。長距離戦が得意なお前が近付かれて斬られるのはさぞ屈辱だろう…その雄姿に敬意を表し、俺は我が砲でもってお前を討つ」

 

大剣を持ち、距離を取ったブレイブに対しアタシはまた立ち上がってその目を見据える。ブレイブの言葉を受け入れれば命は助かるけど…それは同時に今までのアタシの否定、アタシの覚悟を認めてくれた人達への否定になる。そんな事は…絶対に嫌だ。

死ぬのは怖い。けど、ここまで完全敗北したからかアタシは無意識レベルで諦めてしまっていて、アタシの心はどこか他人事の様に飄々と死にゆく自分を見つめていた。

アタシの脳裏にこれまで会ってきた、接してきた人達の顔が浮かぶ。これが走馬灯なんだ…ってやっぱり他人事の様に感じながら、アタシは思いを馳せる。お姉ちゃん、ケイ、ネプギア…皆。ごめんなさい、勝手に動いて、無様に負けて、それで死んで。これじゃ怒られたって仕方ないし、失望されても文句は言えない。…怒るのかな、それとも悲しむのかな。どっちにしろ…アタシの死は、皆に凄く大きい迷惑をかけるんだろうな…ほんとにごめんなさい、皆。でも、最後だけは立派に終わるから。それじゃ割に合わないだろうけど、それでもこれ以上は女神の品位を落とす様な事はしないから。だから……今まで、ありがとうございました。

 

「お前の仲間には、勇敢に戦ったと伝えよう!そしてお前の死は無駄ではなかったと俺自身が証明しよう!…さらばだ、ブラックシスター!」

 

二門の砲が輝き、ビームが放たれる。それは真っ直ぐにアタシの下へと駆け抜けて、アタシを貫くと思う。

身体が震える。けど、最後までアタシはブレイブを見据える。ブレイブを見据えて、しっかりと地面を踏み締めて、女神として立派な最後を──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラックシスター様は…やらせないッ!」

 

刹那、アタシとブレイブ…そしてビームの間に、割って入る様にそれは舞い降りた。

凄まじい風圧と共に舞い降りたそれに、散々までアタシに当たる筈だった二条のビームが直撃する。……が、ビームはそれを貫く事なく、それが両の前腕を前に向ける様に突き出した腕の前で…腕を突き出すと同時に現れた光の壁に衝突し、激しい光を散らしながら拡散していた。それには、見覚えがある。それは…一部の機動兵器に搭載される防御兵装、高エネルギーシールドに違いない。

 

「な…に……ッ!?」

「……ッ!シュゼット、今よッ!」

 

光学シールドで砲撃を受け切ったそれのパイロットが叫んだ瞬間、アタシの周囲が暗くなった。それは、後方からやってきたもう一つの存在がアタシの上を駆けた事で発生した影。

 

「おうよ!いっくぜぇ相棒!ひぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉうッ!」

「ぬぉぉぉぉっ!?」

 

もう一つの存在は右腕部に持つ巨大な得物を構え、それの前へと着地…せず、突然の事に驚くブレイブへとそのまま高速で突撃を行った。…それも、見覚えがある。大地を滑る様に駆け抜ける、ホバーシステムと見て間違いない。

ランスを構えた騎兵の様に突撃したもう一つの存在は、その圧倒的推力で大剣を掲げたブレイブを何十mも引きずり大きな岩へと押し込む。──その一連の流れは、ブレイブが砲撃を行ってから数秒もかからぬ内に起きた出来事だった。

 

「嘘…なんで……」

 

主を守る騎士の様に、アタシの前へと降り立つ二つの存在。それは、一方は三対六枚の翼を、もう一方は後方に伸びた第二の胴ともう一対の脚を持つ────ラステイションの主力MG(マルチプルガーディアン)、ラァエルフだった。




今回のパロディ解説

・踏み込みが足りん
スーパーロボット大戦シリーズにおいて一部のモブ敵が発する台詞の一つの事。この時撃ってるのはビームなので、元ネタ通りならば無効化されない事になりますね。

・「見つけたぞ、お前の弱さをッ!」
機動戦士ガンダム00において何度か発せられる台詞の一つのパロディ。なんだかブレイブのキャラが私の中で変化(美化)され、作中の様な感じになってしまいました…。

・「ブラックシスター様は、やらせないッ!」
機動戦士ガンダムSEEDの主人公、キラ・ヤマトの台詞の一つのパロディ。これを言った彼女の機体の元ネタ(ぼんやりと)の一つに、ストライクがあったりなかったりします。

・「〜〜いっくぜぇ相棒!ひぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉうッ!」
劇場版マクロスFrontier 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜にゲスト出演したイサム・ダイソンの台詞のパロディ。これを言った彼の機体は、別に三段変形したりはしません。

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