超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第四十三話 女神候補生のステージ

「いいですかギアちゃん。いつも言ってるですけど、応急手当ては『取り敢えず』なんです」

「はい。怪我が悪化するのを防いだり、一先ず動かせるようにするだけ…ですよね?」

 

いつもの様にクエストを終えて、自由時間になった夜。今日はコンパさんが時間を取ってくれるという事で、手当ての勉強をさせてもらっていた。

 

「そうです。ちょっとした擦り傷とかなら別ですけど…ほんとに大きな怪我をなんとかするのはお医者さんの役目で、応急手当ての範疇じゃないって覚えておかなきゃ駄目ですよ?」

「はーい。…でも前にうちの職員さんが言ってましたよ?そこらの経験が浅い医師よりコンパさんの方が実力ありそうって」

「そ、そんな事はないですよ。わたしなんて、ナースさんの技術とねぷねぷ達の役に立ちたい、あいちゃん達の足手まといになりたくないって思いが高じて治癒魔法を会得しちゃった位ですから」

「それは十分凄い事ですよ…アイエフさん達もですけど、思いが我流魔法へ至ってる時点で普通じゃないです…」

 

ルウィーの魔法やリーンボックスの戦闘魔法は才能、勉強、経験によって習得していくもの(らしい)けど、我流魔法は意思や覚悟……所謂思いが唯一絶対の条件だって聞いた事がある。…女神のわたしが言うのもアレだけど、魔法を創り出してしまう程の強い思いを持った人が、今の旅でも前の旅でも結構な人数いるなんて相当常識外れだよ…。

 

「あはは…じゃあ次は、骨折の応急手当ての復習です。まずはこの部屋の中で手当てに使える物を集めてみて下さいです」

「分かりました。えーっと…副木って、固定出来ればなんでもいいんですよね?」

「はいです。大きさにもよりますけど…棒状じゃなきゃ駄目、って事はないですよ」

 

コンパさんから指示を受け、部屋の中を探し始めるわたし。今日わたしが時間を取ってもらったのは、治癒魔法の勉強の為だった。…え?治癒魔法じゃなくて応急手当ての勉強してる様にしか見えない?…いいえ、これは治癒魔法の勉強なんですよ?コンパさんの編み出した治癒魔法は、使用者の医学(手当て)の知識と技術が効果に作用するらしくて、治癒魔法を向上させるには手当ての勉強が必要不可欠なんです。

 

「…よし。雑誌に、ビニール紐に、風呂敷に、それにハンカチ。これでいいですよね?」

「ふふっ。よく出来ました、ですっ」

「えへへ…」

 

折れた部分の固定に必要な物を集めて見せると、コンパさんはにっこりと笑って頭を撫でてくれた。…コンパさんのなでなでって、なんだかすっごく安心するなぁ…お姉ちゃんがコンパさんに甘えたくなる気持ち、ちょっと分かるかも…。

 

「…姉妹なんだから当たり前ですけど、ギアちゃんは時々ねぷねぷにそっくりの顔をするですね」

「え…今わたし、お姉ちゃんみたいな顔してました?」

「今のほわ〜っとした顔、ねぷねぷみたいだったですよ。それじゃあ次は、この集めた物を使って……」

「コンパ、ちょっと今いい?」

 

懐かしそうな顔をした後手を離したコンパさんは、次の指示を……口にしようとしたところで、ノックと共に廊下からイリゼさんの声が聞こえてきた。

 

「あ、いいですよ〜」

「じゃ、失礼して……あれ?ネプギア?」

「コンパさんに手当てを教えてもらってたんです。イリゼさんはどうしたんですか?」

「少し話があってね。でもネプギアがいるなら丁度いいや、二人共来てくれないかな?」

「…何かあったんですか?」

 

部屋の入り口に立って話すイリゼさん。その様子にただ遊びに来た訳じゃないのかな?と思ってわたしが訊くと…イリゼさんは、こくんと頷いた。

 

 

 

 

初めは私含め四人だった私達パーティーも、各国で少しずつ仲間が増えて今では倍以上の九人。前のパーティーに比べればまだ少ないけど、それでもやっぱりそこそこの所帯。で、それが何かって言うと……

 

「……狭いわね」

「食堂とか会議室とかにすればよかった…」

 

…皆を普通の部屋に呼んでしまったばっかりに、今私達はちょっと狭い思いをしているのです。……それだけです。

 

「なんか某自虐が売りのピン芸人さんのネタみたいな地の文だね」

「RED、そんなどうでもいいところに触れなくていいから…こほん。早速だけど…さっきとあるクエストの依頼がきたんだ」

「…と、いうと?」

「…候補生四人に、ライブのお仕事がきました」

『……はい?』

 

ケイブの質問に、私がそのまま答えると…皆ぽかんとしてしまった。…まぁそりゃそうだよね。私も今の言葉だけで理解してもらえるとは思ってないし。

 

「わたし達にライブのお仕事、ですか…?」

「うん、それもまさかの明日が開催日」

「急にも程がありますね!……あ、ライブって言ってもアタシ達に依頼されたのは運営スタッフの方「じゃなくて、出演者の方だよ?」……えぇー…」

「ライブ…歌ったりおどったりするあれよね?」

「うん。テレビでやってたライブ…すごかった…」

 

私と同じ発想だったっぽいユニは、私の訂正を受けて「そんな無茶な…」と言いたげな表情を浮かべた。あんまり乗り気じゃないユニと、まだ戸惑ってる感じのネプギアと、取り敢えず興味は抱いてるらしいロムちゃんとラムちゃん。依頼達成のメインとなる四人の反応は、おおよそ考えていた通りだった。

 

「ほんとに急ね…一日にも満たない時間で出演までもっていくなんて、流石に無茶じゃない?」

「それは依頼者…っていうか依頼社?…も分かってるみたいで、とにかく欠員の分の時間を埋める事とウケる事さえ達成してくれれば何したって良いらしいよ」

「とにかくウケろって、大御所さんの無茶振りみたいですぅ…」

「ま、まぁネプギア達ならクレームの来る様な事しない限りは何してもウケると思うよ?元々女神ってアイドル的側面あるし」

 

国の統治者であり信仰対象でもある女神。でも女神は例外なく美少女(美人)であり、これまた例外なく『若々しい』事から、『可愛い』だとか『萌える』だとか『イエス!ユアハイネス!』…みたいな形で信仰(?)される事も少なくない。実際ネプテューヌやベールは実務よりこっち方面でのシェア獲得が多そうだし、ありがたい事に私を信仰してくれてる人達は殆どがそういう目線で私を見てる(私は国を持たないからね)と考えて差し支えない。ここはリーンボックスだから候補生四人の信者はそんなに多くないと思うけど……それでも、四人がステージで仲良く喋ってたり歌ってたりすれば、そこそこ観客席も賑やかになる筈だよね。

 

「……けどまあ、アイエフの言う通り急な話だからね。気が乗らないなら不参加でも大丈夫だよ」

「はいはーい、しつもーん!」

「何かな、ラムちゃん」

「そのライブ、せいこうしたらシェアのたいりょーかくとくできる?」

「うーん…大量かどうかは怪しいけど、シェア獲得には繋がると思うよ?というか、シェア獲得に繋がるからこそ四人に話を持ちかけたんだし」

「シェア獲得に繋がる…それは無視出来ない魅力ですね…」

 

ラムちゃんはやっぱり興味有りげで、真面目さが働いたのかユニも心が揺れ始める。不参加でも大丈夫、とは言ったけど守護女神奪還の為に女神のシェアは増やしておきたいし…嫌がってないなら後押ししようかな。

 

「因みにね、この依頼は私達…もっと言えばネプギア達なら請け負ってくれるって事で私に話がきたんだよね。…四人共、実は結構信頼も期待もされてるんだよ?」

「そ、そうなんですか?…ちょっとプレッシャーだけど、そう思われてるのは嬉しいかも…」

「でしょ?それに考えてみて、普段の女神の仕事ならお堅い感じで真面目にやらなきゃいけないけど、これは好き勝手にやっていいんだよ?好き勝手が出来て、その上で上手くいったら観客の人達からキャーキャー言われるなんて…素敵だと思わない?」

「……すてき…(どきどき)」

「…個人的にはね、皆には受けてほしいんだ。さっき言った通りシェア獲得にも繋がるし、戦闘以外の突然の事態にも対応するいい経験になる。他にも色々あるけど…とにかく私は皆にとってプラスになるって思ってるの。大丈夫、皆なら何とか乗り切るどころか観客も運営も喜ぶ成果を出せるよ。だから……私のお願い、受けてくれないかな?」

 

何だかんだでネプギア達はやっぱりまだ子供(私や守護女神組が大人かと言われると……あ、あはははは…)で、良くも悪くも他人の言葉や一時の感情に感化されやすい。だから、これだけの言葉を並べて、好奇心を刺激して、頭を下げれば……

 

「ふぅん…いいわ、おねえちゃんの仲間のたのみってことでうけてあげる!わたしとロムちゃんのみりょくでお客ぜーいんメロメロにしてやるんだから!もうメロメロもメロメロ、メロメロのドロドロのボコボコよ!」

「ドロドロのボコボコってラムちゃん何する気!?…こほん…わたしもやります。イリゼさんがそこまで言ってくれるなら、わたしも精一杯頑張ります!」

「わ、わたしも…わたしもラムちゃんと、ネプギアちゃんと、ユニちゃんといっしょに、がんばる…!」

「…三人が出るなら、アタシだけ不参加って訳にはいかないわね…任せて下さい。やると決めた以上、どんなライブだろうとベストを尽くしてみせます」

「そう言ってくれるのを待ってたよ!皆、宜しく頼むね!」

 

私の思いに応え、依頼を受ける事を決めてくれた四人。そんな四人の真っ直ぐさに私は若干罪悪感を抱いたけど……それよりも今は、私の思惑通りに話が進んだ事への満足感と安心感の方が上だった。…ふっ……計画通り…。

 

「ねーイリゼ、なんか死のノートの所有者みたいな事考えてる?」

「だからどうでもいいところを触れなくてもいいし地の文読まないでよ!?何なの!?REDは何なの!?」

「イリゼを嫁候補に据えてる可愛い女の子だよっ!」

「ですよねッ!」

 

 

 

 

翌日……つまり、ライブ当日。早速当日。昨日の夜に聞いて、今日当日。……こんなに時間的余裕がないライブは初めてだよ…ライブ出演自体初めてだけど…。

 

「…結構な人数集まったわね…流石にちょっと緊張してきたわ…」

「あぅ…失敗したら、ざぶとんなげられる…?(びくびく)」

「だいじょーぶよロムちゃん、あの人たちはみんなメロメロのボロボロのバラバラになるんだから」

「昨日より恐ろしい感じになってる!?リンチの挙句八つ裂きにでもしたの!?……座布団は置いてないから大丈夫だと思うよ…」

 

ライブ会場に移動したわたし達が今いるのはステージ裏。イリゼさん達は万が一に備えて会場警備に協力する、という事でパーティーメンバーの内ステージ裏にいるのはわたし達四人だけだった。普段クールなユニちゃんは少しだけど余裕のない様子で、ラムちゃんはいつも通りで、ロムちゃんもこの人数じゃ緊張を……って、ロムちゃんも普段とそこまで変わらないかも…。

 

「アンタ達はマイペースでいいわね…皆、朝決めた事覚えてる?」

「うん…決めたとーりに、やる…」

「それで時間が余っちゃったり予定通りにいかなかったら、後はもうアドリブで何とかする…だよね」

「…すっごいてきとーよね、このプラン」

「…ご、ごめんね。プランもまともに建てられない位急なお願いしちゃって……」

『え?』

 

ふと冷めた表情で突っ込みを入れたラムちゃんの言葉に、わたし達が苦笑いを浮かべていると…後ろから、どこかで聞いた事がある様な声で話しかけられた。…というか、謝られた。

誰だろう…と思いながら振り向くわたし達。するとそこにいたのは……ケイブさんだった。

 

「あれ?ケイブさん?……ケイブさんって、そんな声でしたっけ…?」

「今のは私の声じゃないわ。声の主がいるのは私の後ろ」

「あ…えと、うん…今のはボクです…」

 

わたし達が疑問符を浮かべる中、恐る恐るな様子でケイブさんの後ろから姿を見せた女の人。青のストレートヘアーにアイドルっぽい服を着たこの人は、えーっと……え?

 

『5pb.さん!?』

「え……HBさん?」

「それは鉛筆とかシャーペンの芯でしょ…えと、5pb.さんですよね?どうしてここに?」

「それは…このライブにボクも出るから、かな…」

 

ラムちゃんのボケ(ただの聞き間違いかも…ロムちゃんとラムちゃんはライブ見てないし)はさておき、ケイブさんの後ろから現れたのは数日前に見た5pb.さんその人だった。……って今、5pb.さんボクも出る、って言った?じゃあ…わたし達は5pb.さんの前か後に出る可能性もあるって事?

 

「…うぅ、プレッシャーが……」

「5pb.さんの前なら前座、後なら超高ハードルって事になるわね…」

「そ、そんな事ないよ!むしろボクこそ女神の皆に釣り合うかどうか…」

「互いに自虐し合ってどうするの…他にも出演者はいるし、貴女達は双方人気が出る筈よ。大丈夫」

「う、うん…皆、今さっきああ言ったけど…ボク達が気にしなきゃいけないのは、同じ出演者じゃなくてお客さん。だから、頑張ろう」

「…そう、ですね…はい、お互い頑張りましょう!」

 

…と、会話している間も5pb.さんはケイブさんの服を摘んでいて、なんだか人見知りみたいな印象を受ける。けど、出演者じゃなくてお客さんを…って言った時には、ライブの最中の時の様な雰囲気を纏わせていた。…これって、女神の仕事にも言える事だよね…ちゃんと覚えておかなきゃ。

 

「あ……5pb.さん、その…アドバイスとかありますか?アタシ達、人前に出る事は慣れてますがライブは初めてで…」

「アドバイス?…えっと…最初はお客さんのちょっと上を見る事…かな」

「ちょっと上?こういうのって、おやさいに例えればいいんじゃないの?」

「おきゃくさんは、じゃがいも…?」

「それでもいいけど、こっちは思い込む必要もないし、こういうのはお客さんを直視しないだけでも結構違うんだ。それで、場の雰囲気に乗れそうだったらすぐに乗る。雰囲気に乗っちゃえば後は肩の力が抜けて楽になる筈だよ」

「雰囲気に乗れば…っていうのは分かります。抽象的な質問なのにちゃんと答えてくれてありがとうございました」

「気にしないで。それに…皆なら大丈夫なんじゃないかな?話したのはこれが初めてだけど……なんていうか、皆の声からは『歌もいけます!』みたいなものを感じるっていうか…」

「そ、それは……まあ、はい…そうかもですね、あはは…」

「ネプギアの場合は特にそうかもね。今からでも犬耳と尻尾用意する?」

「し、しなくていいから!わたしお姫様ではないからね!」

 

アドバイスを訊いていた筈なのに、どういう事かメタい感じの話に。しかも結構掘っていくとキリがなさそうな事を察して止めようとしたけど…幸運にも、そこで開始五分前のアナウンスが響いた。

 

「っと…5pb.、貴女もそろそろ移動しておいた方がいいんじゃない?」

「そうだね。それじゃあ、皆…」

「はい、お互い頑張りましょうね」

 

アナウンスを聞き、どこかへと行くケイブさんと5pb.さん。ステージ裏も雰囲気がぴりっとしたものに変わって、運営スタッフの一人がわたし達に最終確認に来る。そして最終確認も終えて、わたし達が深呼吸していると……

 

「やあ、リーンボックスの皆!僕達はユピテル!」

「君達が楽しみにしているこのライブの進行は、僕達が務めさせてもらうよ!早速一曲目を歌ってくれるユニットの登場だ!」

「は、始まったね…」

 

観客席からの声援と共に流される、大音量のサウンド。進行さんの合図で最初のユニットがステージに立つと、再び湧き上がる声援。まだ一曲目なのに、会場のボルテージは相当なものだった。

 

「…だいじょうぶ、だいじょうぶ…」

「そ、そうだいじょーぶ!…だいじょうぶ、よね…?」

「う、うん大丈夫。…わたし達は女神候補生だもん、絶対人気だよ」

「…ま、安心しなさい。例えアンタ達がミスっても、アタシがカバーしてあげるわ」

「む…だ、だったらわたしたちだってあんたのミス、カバーしてやるわよ!だよねロムちゃん?」

「え…?……あ…それって、助けあい…?」

「え、えーと…そ、そう助けあい!…まだわたしはネプギアをともだちだとは思ってないし、ユニはそれ以下だけど…今回だけは助けあいしてあげるんだから、かんしゃしなさいよね!」

「はいはい……そういう事だから、お互い頑張りましょネプギア」

 

不安げな二人にユニちゃんがかけたのは、皮肉っぽい軽口。でもラムちゃんはその言葉への反抗心で、ロムちゃんは優しさからくるポジティブシンキングで前向きに。…やっぱり、ユニちゃんは気遣いとか配慮とかが上手だなぁ……わたしも、負けられないね。

ライブは滞りなく進んで、一曲毎に会場は盛り上がっていく。そうして気付けば、次はわたし達の番。

 

「それじゃあお次は……開会前のアナウンス通り、ユニット変更!急に変わってしまってごめんね!」

「でも落ち込む事はないよ!だって、急遽決まったユニットっていうのは……そう!愛らしくも健気な女神候補生様達なんだから!」

「さぁ、女神候補生様達の登場だっ!」

『……っ…』

 

進行に合わせてわたし達はステージへ。その瞬間見えてくる、ステージ裏で見るのとは全然違う観客と沢山のお客さん。正直、人数だけなら女神の仕事でこれ位何度も経験したけど……雰囲気も、熱量も全然違う。

まるで圧力の様な、ステージの空気。その空気にわたしは一瞬臆しそうになったけど……ぐっ、と踏み留まる。だって、ステージにいるのは…わたしだけじゃないんだから。

 

「こんばんはー!アタシはラステイションの女神候補生、ユニよ!アタシの…ラステイションの女神の魅力を今から見せてあげるわ!」

「ルウィーのラムちゃんとロムちゃんでーっす!みんな、よろしくーっ!」

「よ、よろしくっ…(びくびく)」

「わたしはプラネテューヌの女神候補生、ネプギアです!今日はわたし達、歌います!聞いて下さいっ!せーのっ!」

 

もう雰囲気に乗れたのか、自信満々の様子で声を上げるユニちゃん。ロムちゃんを誘いつつ元気一杯にポーズをとるラムちゃん。誘いを受けて、ちょっとびくびくしながらも一緒にポーズを取るロムちゃん。最後のわたしは…いいのが思い付かなかったから、とにかくぺこっと頭を下げてその後はスマイル。頭を下げるまではわたしも内心びくびくしてたけど…頭を上げて、お客さんさんの「おおっ!」って反応を見た瞬間……あ、いける、って思った。

 

『皆、抱き締めてっ!次元の……果てまでっ!』

 

 

わたし達四人の声と共に始まる、わたし達の一曲目。わたし達のステージは…これからですっ!

 

 

 

 

「うんうん、皆凄く輝いてるよ」

 

ステージからは大きく離れた、会場の一角。そこで私達は、周囲に目を光らせつつネプギア達のステージを観賞していた。

 

「流石は女神候補生、って感じね。やるじゃない皆」

「今すぐアイドルとしてやっていけそうだよね。アタシもやってみたかったなぁ…」

 

初めは本来出る筈だったユニットが急遽欠場という事で、若干盛り下がっていた会場。でも、ネプギア達は登場後、それぞれの性格を活かした第一声を上げる事で完璧に掴みを成功させ、早々に会場の盛り上がりを復活させていた。今では合いの手に混じって「歌上手い!これ歌手としてやっていけるんじゃね!?」とか、「優等生にツンデレ、性格が正反対な双子と見事なバリエーションじゃないか!」とか、「ば、馬鹿な…大人のお姉様好きである私の心が震えているだとぅ!?」とか、明らかに四人のファンになってしまいそうな声すら聞こえてくる。……些かアレな声も聞こえるけど…ま、まぁライブの空気に当てられただけだよね、きっと。

 

「…ところで、イリゼちゃんは出るつもりなかったんですか?」

「私?…まぁ、誰も出ないってなったら出る事も考えたけど…シェアを集める必要があるのは私じゃなくて候補生四人だからね。それに色々と違う私と候補生四人だと、どっちかがどっちかのおまけっぽくなっちゃうでしょ?」

 

私がシェア獲得しちゃ不味い事はないけど、対犯罪組織を考えると国を持つ候補生四人が得た方がずっといい。それに、昨日は方便的な意味で言った言葉も実際は私の本心。…私無しで、こういう大きい出来事を成功させれば…きっと良い自信をつけてくれるよね。

 

「まあ何にせよ、無事役目をこなせそうならそれで何よりよ」

「そうね。後はこのまま何もなければいいけど…」

「いやあのケイブ、そういう発言はフラグに…」

「す、すいません!裏口付近に不審者の集団が現れたとの事です!万が一がありますし、応援に向かってもらえますか!?」

「……なっちゃった…」

 

私が言い切るよりも前に聞こえてきたのは、切羽詰まった様子の声。そちらの方を向くと、一人のスタッフがこちらへ走ってきてきた。

 

「…何か申し訳ないわ……」

「べ、別にいいよ…でもまさか、念の為と思って警備についていたらほんとに不審者が現れるとは…」

「ネプギア達が歌ってる時に現れた不審者…犯罪組織かな…?」

「かもしれないね、皆!ライブに来てる市民と候補生達を守るよ!」

 

目を合わせ、裏口へと向かう私達。相手が犯罪組織だろうと何だろうと物騒な事をする気なら止めなきゃいけないし、対処が遅れたらライブが中止になってしまう可能性もある。ここで今楽しんでる人の為にも、楽しませようとしている人の為にも、何より頑張ってるネプギア達の為にも……邪魔は、させないよ!

 

 

 

 

『ありがとうございましたーっ!』

 

割れんばかりの声援の中、深く深く頭を下げて、手を振りながらステージの上を後にする。ステージ裏に入ると…そこでも、拍手が沸き起こっていた。

 

「は、はぅ…た、たのしかった…!」

「うん!ライブがこんなにたのしいなんて思わなかったわ!」

「子供は元気でいいわね、今終わったばっかだってのに…」

「そういうユニちゃんも、頬緩んでるよ?」

「うっ……そ、それはネプギアもでしょ!」

 

頭を上げた瞬間に感じた、やれるという思い。その思いに乗って歌い始めたら…そこから後は、ずっと楽しかった。ドキドキしたし、汗もかいちゃったし、疲れたけど……それよりも、凄く凄く楽しかった。心の底から湧き上がる様な喜び…わたし達は今、そういう気持ちに包まれていた。

 

「…お疲れ様、皆」

「あ、イリゼさん…わたし達のステージ、見てくれました?」

「勿論。…凄かったよ」

「ですよねっ!実は、今回はわたしも凄いステージに出来たって思ってるんです。…それで……何かありました?」

「あー…うん、まぁね。でももう済んだから大丈夫だよ」

 

空いていたパイプ椅子に座ったところで、わたし達はこちらへやってくるイリゼさん達を発見した。…何故かちょっとイリゼさん達は息が上がってたけど……。

 

「……?…よく分かりませんけど…無事に終わりましたね」

「ネプギア、無事じゃなくてだいせいこうで、でしょ?」

「ふふっ、そうだね。大成功、だよね」

「おー、ネプギアが珍しく謙遜してない!」

「これだけの声援を受けたんだもの、当然の事よ。…さて、次は5pb.の番ね」

 

大成功、という言葉でまたちょっと心が浮つきそうになってたわたしだけど…ケイブさんの言葉と新たな声援で現実…というかライブの進行に引き戻される。…って、ほんとにわたし達の後が5pb.さんだったんだ…。

疲労感は当然まだあるけれど、今座ってるところからじゃステージがよく見えないから、わたし達は立ち上がって移動。そんな中、イリゼさんはわたし達へこんな言葉をかけてきた。

 

「……ねぇ皆、今日のライブ…出てよかった?」

 

出てよかったかどうか。何の捻りもない、普通の質問。きっとただ、わたし達の気持ちを知りたいだけの、単純な質問。それを受けたわたし達は、目を合わせる。目を合わせて、そして……

 

『────はいっ!』

 

この時わたし達が自然と浮かべていたのは──紛れもない、満面の笑みだった。




今回のパロディ解説

・某自虐が売りのピン芸人
ピン芸人のヒロシこと、齋藤健一さんの事。スーツを着て、スポットライトが当たる中ポケットに手を突っ込んで自虐を述べるイリゼ…私ならどうしたのかと思いますね。

・計画通り
DEATH NOTEの主人公、夜神月の名台詞(恐らく心の声ですが)の一つのパロディ。残念ながらイリゼはそこまで計算高くはないです、そこまで計算した上ではないのです。

・〜〜皆の声からは『歌もいけます!』みたいなものを感じる
パロディ…というか、女神候補生の声優は全員歌手としてよ活動をしている事からくる(所謂声優)ネタ。原作でのイベントも、それが関係してるのでしょうか(踊りでしたが)?

・〜〜今からでも犬耳と尻尾用意する?
ネプギアの声優である堀江由衣さんは、DOG DAYSのヒロインの一人、ミルヒオーレ・F・ビスコッティの役も行なっている事へのネタ。両者は外見や性格も似てますよね。

・『皆、抱き締めてっ!次元の……果てまでっ!』
マクロスfrontierのヒロインの一人、ランカ・リーの代名詞的台詞の一つのパロディ。もしかすると、本当にこの後四人は星間飛行を歌ったのかもしれません。

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