超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第四十一話 張り巡らされた策略

地下施設内を進む私達。私とネプギアで進路を塞ぐ銃撃を斬り払い、ユニが遠距離から武器破壊を行い、ロムちゃんとラムちゃんが通った後の通路を凍らせたり氷柱を配置したりして背後から撃たれる危険を潰していく。……はっきり言って、余裕綽々の進軍だった。

 

「あ、また退いていきました!」

「特攻紛いの接近戦仕掛けられるよりはずっといいよ!ロムちゃんラムちゃん、後ろは!?」

「ふふん、ごらんのとーりよ!」

「ごらんのとーり…!(かちこち)」

 

問いかけながら後ろを振り返ると、通路の床どころか壁も天井も凍りついていた。……普通の人は飛べないんだから床だけでいいのに…。

 

「…さっきから思ってたんだけど、これここから出る時大丈夫なの?一つ一つ解除したり壊したりしてたら凄い手間取るわよ?」

「ううん、そんなに長くもたないから…だいじょうぶ」

「魔法は込めた魔力が切れればかってに消えるのよ。ユニってばぜんぜん知らないのねー」

「ルウィー出身でもなければ魔法学んでる訳でもないんだから知らなくて当然でしょうが…」

「はいはいそこ剣呑な空気にならない。別の部隊が来る前に移動するよ」

 

二人に軽く仲裁を入れつつ、私達は移動を再開。ルウィーの時は地図を手に入れられたから行きたい場所へぱっぱと進めたけど、今回は地図も案内人も皆無だから勘で進むしかない。…ゲームみたいに自動でマッピング出来ればまだ楽なのになぁ……。

 

「うーん…嫁候補達の活躍を落ち着いて見られるのは嬉しいけど、アタシ達ほんと何にも役目ないね」

「はい。女神様が五人もいますし、ギアちゃんも旅に出てから少しずつ頼もしくなっていってるですからね」

「ネプギア達女神候補生が全員集まると多彩、ってのもあるんじゃない?ねぷ子達守護女神組はイリゼ含めても、皆実体武器による近接格闘がメインだし」

 

進軍中の戦いは私達女神だけで(双子は直接戦闘に参加してる訳じゃないから正確には私とネプギアとユニだけで)事足りてしまっている為手持ち無沙汰のコンパ達。正直アイエフの言葉に関しては多少反論したくもあったけど……私とネプテューヌ達で同じ状況だったら、と考えるとぶっちゃけ『一気に接近して無力化&追いつかれない様ハイスピードで移動』…という脳筋戦法しか取れない気がする。……悲しいね、皆。

 

「…にしても、やけに毎回退くのが早いわね…ルウィーで行なったっていう制圧作戦の時も、こんなものだったの?」

「いや、ルウィーの時はもう少し粘ってきたわよ?粘ったって言っても悪足掻きみたいなものだけど。……でも確かに、引き際が早過ぎるわね…」

「イリゼ達の戦い振りを見て怖気付いてるんじゃないかな?」

「それなら助かるけど…」

 

そうして進み続ける私達。ケイブの口にした事は確かに気になるけど…気になる事柄に対しての情報が少な過ぎる以上、私達に出来る事といえば油断しない事しかない。

そして数分後……

 

「……へっ、随分と遅かったじゃねェか」

「それでも想定よりは早いっちゅけどね」

『……!』

 

豪快に蹴り破った扉の先。そこにいたのは数十人規模の武装した人と……下っ端、それにワレチューだった。

 

「ね、ネズミさんです!?」

「久し振りっちゅね、コンパちゃん。……こんな形で再会するのは、オイラ残念でならないっちゅ…」

「ここにいるって事は、アンタも犯罪組織の一員だったって訳ね。ま、アタシにとってはアンタが敵だろうがどうだっていいんだけど」

「オイラだってお前の事なんかどうだっていいっちゅ、オイラの瞳に映る天使はコンパちゃんだけだっちゅ!」

「……え、えーと…」

「コンパ、無理に反応しようとしなくたって大丈夫よ」

「コンパも妙なのに好かれちゃったよね…」

 

元々好印象を抱いていた相手ではなかったけど…ワレチューが犯罪組織の一員だった事は少なからず驚きだった。…まぁ、私もユニと同じくだからどうって事もないんだけど。

それはさておき、犯罪組織は待ち伏せ…って程ではないものの、ここに本陣を敷いていたらしい。となると……

 

「…道中の抵抗が弱かったのは、ここで返り討ちにするのが本命の策だったから…って訳ね」

「みたいだね。…ケイブ、この人数相手でも入り口の時みたいに避けられる?」

「流石にこれじゃ無理ね。開けた場所ならまだ可能性もあるけど…」

「だったら、私達女神で蹴散らすしかないか…」

 

数人だろうと数十人だろうと普通の人間が相手なら勝ち目なんて幾らでもあるけど、犯罪組織構成員の落ち着きようからはどうも何か油断ならない空気を感じる。…向こうも数を揃えただけじゃ敵う訳ないの分かってる筈なのに、ここで待ってたって事は…戦力差を覆す、或いは私達に撤退を余儀なくさせる何かがあると見て間違いないよね。……その何かを見極める為に慎重にいくか、それとも一気に攻めて何かを使われる前に片を付けるか…さて、どうしようかな──。

 

「そこのネズミはよく知らないけど、とにかくぜーいん倒しちゃえばいいのよね?」

「せんて、ひっしょー…!」

「え、ちょっ……!?」

 

私が戦闘プランを立てようとした、まさにその時、後ろから唸りを上げて二つの竜巻が吹き抜けた。自然現象のそれと比べればごく小規模の、しかし攻撃としては十分な力を持ったその突風は、私同様「え、ちょっ……!?」みたいな反応をするので精一杯な犯罪組織集団へと直撃し、ある意味私がさっき言った通り蹴散らしていく。

しかも、それだけじゃない。

 

「アンタ達…でもこの状況なら一気呵成に仕掛けるのが得策ね。ネプギア!敵陣に潜り込めば相手はそう簡単に撃てないわ!」

「わ、分かった!ネプギア、いきます!」

「ちょ、ちょ…ちょっと!?」

 

ロムちゃんとラムちゃんの先制攻撃で陣形が崩れ、相手に動揺が生まれたのをチャンスと見たユニも攻撃を選択。更にユニはネプギアへ指示の意図を込めたアドバイスを飛ばし、ネプギアがそれを受け取った事で戦況は女神候補生全員が一気に攻め込むという形となった。

 

「なっ!?こ、こういう場合普通先制攻撃はアタイ達側がするもんだろ!」

「そうっちゅ!先制攻撃なんて体制側、それもトップクラスがするものじゃないっちゅよ!」

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすのよ!残念だったわね!」

「あぁ!?なんだてめェ、こっちにネズミがいるからって動物の諺を出しやがって…」

「言い返してる場合じゃないだろリンダ!お前も早く戦いに……ぐへぇっ!…やっぱ女神超強ぇ……」

 

M.P.B.Lを手放し、素手で敵陣の中から相手を倒していくネプギアによって下っ端に怒号を飛ばしていた一人が殴り倒される。こちらではユニが足元を銃撃する事で集団を混乱させ続け、ロムちゃんとラムちゃんは魔法をぶつけてなぎ倒していく。……期せずして、ネプギア達は私の考えていた選択肢の一つ、一気に攻めるという策を取っていた。その始まりは『敵を全員倒せば万事解決』という短絡的思考で動いたロムちゃんとラムちゃんによるものだし、ネプギアとユニも状況に際して行動を選んだとはいえ犯罪組織が用意していたであろう隠し球の事を気を付けているのかどうかは微妙なところ。早い話が今の四人は、些か軽率な判断をしてしまってるという事だけど……

 

「ふぅ…さぁ、もうこれで勝ち目はない事が分かった筈です!観念して下さい!」

「ちゅ、ちゅぅぅ…候補生が全員揃ってるとかズルいっちゅ……」

 

──その結果私達は全員ほぼ無傷、対して犯罪組織は大半の人が床で伸びてるか膝をついてるという状況になると、四人が軽率なんじゃなくて私が小難しく考え過ぎてただけなんじゃないかと思っちゃうんだよね…。

 

 

 

 

殺したり大怪我させたりせずに戦うのには不向き、という事で手放していたM.P.B.Lを拾い上げて、下っ端達に銃口と切っ先を向ける。……油断は、しません。

 

「あっとーてきね、わたしのパーティーは!」

「わたし達の、でしょ。アタシはラムの軍門に下ったつもりはないわよ」

「いちいちうるさいわねユニは…それで残りはどうするのよ?凍らせちゃう?」

「だからそういう物騒なのはNGだよ…で、ですよね?」

 

ラムちゃんの過激な発言を窘めつつ、イリゼさんに確認を取ろうと後ろを振り返ったら……イリゼさんはなんだか凄く複雑そうな表情だった。…………?

 

「あ……こ、こほん…四人共ご苦労様。まさか私の出る幕がないとはね」

「流石に相手は普通の人ですからね。それにユニちゃんの言った通り、潜り込んだら殆ど撃たれませんでしたし」

「この人たちなら、わたしとラムちゃんでも十分…」

「な、なーにが十分だ!調子乗んなよガキが!」

「……強がり?」

「ち、違ェし!全然違ェからなッ!」

((どう見ても強がり(だ・です・ね)…))

 

わたしも虚勢かなぁ…とは思ってたけど、思った以上に虚勢だった。……でも、まだ諦めてはいないみたいで、「お、おい…もう少し必要だろ…」とか「お、お前がやれよお前が…」みたいな会話が犯罪組織側から聞こえてくる。

 

「何の話だかは知らないけど…投降しないんだったら、アンタ達もグロッキーな他の奴等と同じ目に遭わせるわよ?」

「ま…待て待て!お前等今の人数で戦闘続行したらお前等のリンチになるだろ!女神がそれでいいのかよ!」

「あ、じゃあアタシ達は手を出さない事にするね」

「それならわたしもギアちゃん達の為にお茶淹れておくですぅ」

「こ、コンパちゃんの淹れるお茶…!?」

「お前はさっきから何なんだよ!?あーくそ!ってかそもそもなんでお前等ここを知ってんだよ!」

 

どんどん慌てた様子になっていく下っ端。そんな下っ端が、ちょっと今更感のある質問を飛ばした瞬間……パーティーメンバー全員の目がわたしに向いた。…これって…わたしが理由なんだから、言うのもわたしがしろって事かな…?

 

「……えっと、言っても傷付きませんか?」

「傷付く?よく分かんねェ事言ってないでさっさと話せっての!」

「それなら、じゃあ……」

「……ん?なんだその紙」

「貴女に貰った紙ですよ?」

「アタイに?てめェ何言って…………あ……あぁぁっ!?」

『……?』

 

わたしが取り出したのは例の紙。殆どの犯罪組織員の人はこの紙を見てもイマイチピンときてない様子だったけど……予想通り、下っ端は全てを理解した様に目を見開いて大声を上げた。…まぁ、それはそうだよね。攻め込まれた理由が自分のミスだなんて分かったら、誰でもそういう反応を──

 

「……騙してたのか、てめェッ!」

「へ……?」

「てめェ、あん時アタイに合わせるフリして騙してたのか!ふ、ふざけんな!ふざけんなよ!」

「い、いや…確かに合わせてはいたけど、あれは騙してたっていうよりそっちが気付かず話を進めただけ……」

「黙れ!アタイは、アタイは分かってくれる奴が出来たと思ったのに…クソがッ!」

「ちゅっ!?ど、どこ行くっちゅか!?」

 

その瞬間、これまで以上に下っ端の感情が露わになった。……けど、露わになったのは驚きでも狼狽でもなく、怒りの感情だった。その反応に、わたしは…わたし達は数秒言葉を失う。

一人仲間から離れて、後ろの扉から出ていく下っ端。呆気に取られていたわたし達はそれを許してしまい、少し遅れて追わなきゃ…って考えに至ったけど、それよりも前に下っ端は戻ってきた。────とある、人物を連れて。

 

「痛た……ちょっと、人質ならもう少し丁重に扱いなさいよ」

『ち、チカ(さん)!?』

「あ……あーうん、そういう事ね。だからアタクシを引っ張り出してきた訳ね」

「何全てを察したみたいな反応してんだよ!」

「全てを察したからだけど?」

 

連れてこられたのは、両手を後ろに回した(こっちからは見えないけど多分拘束されてる)教祖、チカさんだった。…まさか、チカさんが捕まってたのはここだったなんて…。

 

「これは思わぬ展開ね…でも、無事でよかったわ」

「あら、ケイブ?他にも見慣れない人がいるけど…どうして貴女が?」

「色々あって今は彼女達に同行してるんです。今助けますから、もう少しお待ちを」

「助ける?はっ、何呑気な事言ってんだ…動くんじゃねェぞ!」

「ちっ……」

 

本物らしきチカさんと会えて安堵したわたし達だったけど…その空気は下っ端が仲間から借りた拳銃をチカさんに向けた事でかき消される。

 

「とうとう人質なんて下衆な手段使ってきたわね…」

「可愛い女の子を人質になんて…!」

「(あ、ケイブさんと同じ様に大人っぽい外見のチカさんも、REDさんにかかれば『可愛い女の子』なんだ…)チカさんを離して下さい!さもないと…」

「立場分かってんのかてめェは!ふん、こうなったのもてめェがアタイを馬鹿にしたからだからな!」

「そ、そんな……」

 

幾ら女神でも、人質が銃口を当てられている状況じゃ動く訳にはいかない。お姉ちゃんやイリゼさんレベルなら、下っ端の反応出来ない速度で動けるのかもしれないけど……それだって、下っ端に攻撃するかチカさんを引っ張った瞬間の衝撃で引き金を引かれるかもしれない以上、やっぱり動けない。折角追い詰めたのに、最後の最後でこんな事になるなんて……。

 

「やっと立場再逆転だぜ。さっきの段階で投降の余地なんか与えねェで、さっさとアタイ達を倒していればよかったな!」

「人質使ってるくせにデカい態度取って……アンタ覚悟してなさいよ!」

「へいへい覚悟してますよー。…あぁそうだ、どうせ引き上げさせるつもりらしいから教えておいてやるぜ。…てめェ等が教祖だと思って接してたのは……このアタイなんだよ!」

『……あー…』

「いやもっとここは驚けよ!?なに軽く納得した感じの反応してんだ!」

 

下っ端は自慢げに暴露したけど……下っ端の言う通り、わたし達はそれを言われても軽く納得するだけだった。…いや、だって偽者なのは分かってたし…下っ端がやってた、ってなっても「言われてみればそんな感じだなぁ」としか思えないし…。

 

「……あんた、よくあの演技で堂々と言えるわね。私なら恥ずかしくて言えないわ」

「うっせェ!アタイはあれでいいんだよ!むしろアレがいいんだよ!」

「ど、どういう事です…?」

「へっ、やっぱり気付いてねェのか…なら耳かっぽじってよーく聞きな!あの変装はスパイ行為の為の変装じゃなくて、偽者だってバレる為の変装なんだよ!今度こそ驚きやがれ!」

『な……ッ!?』

『……え?』

 

よっぽどわたし達を動揺させたいのか、再び…しかも今度はよく分からない言い回しで暴露する下っ端。けど……わたしには、その意味が全く分からなかった。バレる為の変装って…何の意味が?

その後、分かってないのはわたしだけなのかな…と不安になって見回したら、ユニちゃんやロムちゃん、ラムちゃんにコンパさんとREDさんはわたし同様小首を傾げて不思議そうな顔をしていたけれど、そんなわたし達とは対照的にイリゼさん、アイエフさん、ケイブさんは驚きと悔しさを混じらせた様な表情を浮かべていた。

 

「やられた…完全に盲点だったわ…」

「あの半端な演技を策に組み込むなんて…」

「…あ、あの…今の言葉の意味、分かったんですか…?」

「…上手く敵を罠に嵌める手段の一つだよ。敵を罠に嵌めたい時には分かり辛い罠と一緒に分かり易い罠も用意する、って手があるんだけど…何故か分かる?」

「えっと、それは……」

「人間の心理をつく為、だよ。人は分かり易い罠を見つけると、その時点で安心して『もう罠は無いだろうな』とか『この程度の罠なら全部回避出来るなら』考えちゃうからその後の罠に不用心になる。で、そこに元から分かり辛い様な罠がきたら……」

「分からずに嵌まってしまう…って事ですか…」

 

イリゼさんに聞いた事で、わたし達も下っ端の言葉の意味を理解した。今回は罠と人っていう違いはあるけど、敢えて気付かせる事で油断を誘う…という点においては全く同じ。…そっか、さっき引き上げ『させる』って言ったのは、自分とは別のスパイに対して言った言葉だったんだ……。

 

「これで犯罪組織の恐ろしさが分かったか女神共!」

「そ、それはオイラも知らなかったっちゅ……まさかリンダが作戦を立てたっちゅか?」

「いーや、アタイ…と言いたいところだが、これを考えたのはアタイじゃなくてトリック様さ」

「あぁ。それなら納得っちゅ」

「なんか引っかかる言い方だな……」

「…………」

 

犯罪組織の策略に、まんまと乗せられてしまった事を理解したわたし達が歯噛みする中、犯罪組織の側でもちょっとしたどよめきが起こっていた。……そんな中、チカさんだけは一人、静かに立っていた。

 

「…そういう事が起きていたのね……捕まったのもだけど、偽者を使った策に教会が嵌められていたというなら、責任はアタクシにあるわ」

「あ……チカさん、嵌められたのは私達ですし、チカさんが負い目を感じる必要は…」

「あるわ。貴女達女神と同じ様に、教祖にも背負うものがあるのよ。だから…この捕まってる状況位は、自分でなんとかするわ」

「はァ?御大層な事は勝手に言ってりゃいいがよ、みすみす捕まる様な奴がこの状況をどうするってんだ?教祖様は温室育ちで世間知らずなんですかァ?」

「世間知らず、ねぇ……なら直々に教えておいてあげるわ。教祖が、何者なのかって事を……ねッ!」

「がぁ……っ!?」

 

下っ端がチカさんを馬鹿にして、それにチカさんが平然と答えた、次の瞬間────下っ端は後ろに吹き飛んだ。…チカさんの鋭い後ろ蹴りによって、吹き飛ばされた。

腕を拘束され、構えも取らず立った状態から即座に放たれた後ろ蹴りに驚愕するわたし達と犯罪組織。でも当人であるチカさんだけは当然別で、後ろ蹴りの体勢から身体を捻る事による回し蹴りでもって隣の犯罪組織員をくの字に曲げさせると同時にその人の背中を踏み台にし、一気にわたし達の方へと跳び込んでくる。

時間にして僅か数秒。その数秒の間にチカさんは二人にダメージを与えつつ、安全圏であるわたし達の側まで移動をしてのけた。

 

「……これでも温室育ちだと思うかしら?」

「…流石ですね、チカ」

「ぶ、ブルース・リーさんみたいだったです…」

「アタクシはお姉様から直々に手解きを受けたんだから当然よ」

「げほっ、げほっ…この威力、明らかに普通の人間じゃねェ……」

「あら、気絶させるつもりで蹴ったのに…三下みたいなくせにやるじゃない」

「誰が三下だッ!」

「三下じゃなくて下っ端よね。……さてと、それじゃあ人質は解放されたし…アンタの言う通り、さっさと倒させてもらうわ!」

 

そう言ってユニちゃんは銃口を下っ端に向ける。そうだ、あまりに突然の事で忘れてたけど…もうわたし達に攻撃を躊躇う理由はないんだよね。さっきも油断してた訳じゃないけど…今度こそ、本当に決める!

M.P.B.Lを再び構えるわたし。わたしと同じ様に皆も一斉に構えて、そして…………

 

『え……っ!?』

 

──部屋の中を、複数の煙玉を一度に爆ぜさせたかの様な煙幕が包み込んだ。

 

「ま、間に合ったっちゅ!さぁ全員、さっさと逃げるっちゅよ!」

「間に合った…って、もしや…今までの話は全部時間稼ぎの種だったの!?」

「時既に遅しっちゅね!それじゃあコンパちゃん、また今度っちゅー!」

「これもトリック様の策だ、色んな意味で覚えてやがれ!」

「……っ…何この煙幕量…!」

 

煙幕を霧散させようと、それぞれで武器を振るうわたし達。でも屋内のせいで煙の逃げ場はなく、しかも煙は出され続けてるらしくて中々視界を取り戻せない。そうしてる間にもドタドタという音はし続けて……視界を取り戻せた頃には、部屋の中はもぬけの殻だった。

 

「くっ…最初妙に余裕だったのはこれがあったからなのね…」

「でもなんか変だよ!逃げるつもりなら、最初から皆で逃げてたらいい筈じゃないの?」

「言われてみると確かに……まさか!」

 

REDさんの言葉を聞き、ハッとした様な表情で出て行くアイエフさん。その数分後に戻ってきたアイエフさんは……悔しそうな表情だった。

 

「…強襲出来たのは僥倖だったけど……今回の件は、完全にしてやられたわ…」

「してやられた、って…?」

「……誰も居なかったのよ」

「え、それって……」

「言葉通りの意味よ。ここにはもう誰も居なかった、つまり……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「道中の抵抗が弱かったのも、ここを本陣の様にして待ってたのも、時間を稼いだのも全部……ここにいる犯罪組織員全員を逃がす為だったのよ」




今回のパロディ解説

・「あっとーてきね、わたしのパーティーは!」
機動戦士ガンダムに登場するキャラの一人、ギレン・ザビの名台詞の一つのパロディ。状況的に一番合うのは戦闘に参加してないイリゼかも…と解説中に思ってます。

・ブルース・リー
武術(武道)家であり俳優でもあるブルース・リーさんの事。捕まってる状態から格闘技術でもって相手を倒し逃げる…といえばやはり彼ではないでしょうか。

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