超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第三十六話 それは思ってもみない反応

プラネテューヌから出発して、ラステイション、ルウィーと渡ってきた私達。そして遂に、今日四ヶ国目であるリーンボックスへと到着した。

 

「ふぅ、やっと着いたね」

「うちからルウィーに行った時に比べると、雰囲気の差が小さいですね。…雪の有無っていう大きな違いはありますけど」

 

リーンボックスの街に着いた私達は、中央通りを進行中。私はリーンボックス出身じゃないけど…気候的にも景観的にも、やっぱりここが一番落ち着くなぁ…。

 

「リーンボックスに来るのも久し振りだなぁ…皆は?」

「私も前来たのは最近じゃない…けど、久し振りって程でもないかな」

「わたしは久し振りです」

「私は割と最近来たわよ。勿論諜報員として」

「…ベールの信者としてじゃなくて?」

「言うと思った…言っとくけど、最後に来たのはねぷ子達が捕まった後だからね?」

 

誰かしらに弄られるのは予想済みだったらしく、特にわたわたもせずに口を尖らせて反論してくるアイエフ。…タイミングが悪かったのかな?それとも私じゃボケのセンスがまだ足りてないのかな…?

 

「…それで、今回もまずは教会に行くんですか?」

「あー、そうだね。何をするにせよ、まずは教会とコンタクトを取っておきたいし」

「ですよね。……あ、でもまた人だかりからの犯罪組織発見になるんじゃ…」

「まっさかぁ、三度もそんな偶然が起こるなんて、レアどころの騒ぎじゃない確率だよ?流石に三度目はないって。だよね皆?」

「イリゼさん、それは多分フラグになるんじゃ…………あ」

 

三度目の正直って言葉もあるし、幾ら突飛なイベントに出会い易い私達でもそんな事は……なんて思いながら言った、その言葉。でも、その言葉を受けてユニが私に指摘をしようとした──その瞬間、ユニは何かを見つけた。……残念ながら、見つけてしまった。

 

「…………」

『…………』

「……えっと、その…大変言い辛いんですが…人だかり、ありました…」

『ですよね〜…』

 

肩を落としながら声をハモらせる私達。その中には、勿論私もいる。…うん、分かってた…分かってたよ。どうせこうなるんだろうな〜って思ったよ。けどもしかしたら、って思って否定してみただけなんだよ。……結果はこのざまだけどさ…はぁ…。

 

「…取り敢えず、行ってみよっか……」

「え、えと…見つけたアタシが言うのもアレですが、無視するって選択肢も…」

「いやこのタイミングで見つけた事だもん、絶対私達に関係あるか無かったとしても色々思うところの発生する人だかりだよ、あれは…」

「…なんかほんと、すいません……」

「いいんだよユニ、きっとユニが見つけなくても誰かしら見つけてただろうから…」

 

避けられぬ運命を呪いつつ、私達は人だかりの方へ。……いやいいんだけどね。やっぱりかぁ…みたいな感じでちょっとテンション下がってただけで、何が何でも人だかりとは遭遇したくない!…って事はないし。

 

「うーん…人数的にはルウィーとそんな変わらないね」

「ラステイションの時よりは少ないけど…ま、ここだけ見ても何が起きてるかは分からないか」

「どうせ覗くんだから問題ないわよ」

 

人だかりの中で何が起こってるんだろう…と考えつつ、私達はその中へ。すると、聞こえてくるのはラステイションの時ともルウィーの時とも違う、どうも荒々しさを感じる声と息遣い。

 

「これって…もしかして、喧嘩です…?」

「…みたい、ですね……」

 

声を上げるコンパと、それに同意するユニ。人だかりを抜けた先で見えてきたのは、肩で息をしながら羽交い締めにされている男性と、そこから数m程離れた所で頬を押さえながらアスファルトに腰を落としている男性の姿。…確かに、これでは喧嘩或いは一方的な暴行が起きていた様だった。

 

「一応、もう止まってる…というか止められたみたいだけど…こんな路上で喧嘩なんて物騒ですね…」

「だね…あの、大丈夫ですか?救急車必要ですか?」

 

まだ細かい状況は分からないけど…怪我をしてるとなれば放っておく訳にはいかない。そう思って携帯を出しつつやられた方らしい人に近付くと…その人は、疲れた笑みを浮かべながら私に手を振りつつ立ち上がった。

 

「あぁいえ、ちょっと殴られただけですから…」

「そうですか?怪我してるなら早めに対処した方が…」

「本当に大丈夫です。それと、恐らく私からではあの方の神経を逆撫でしてしまうだけだと思うので、代わりに言ってほしい事があるのですが…」

「…と、言いますと?」

「余計なお世話をしてすいませんでした、と伝えて下さい。宜しくお願いします…」

「え…あ、ちょっと……」

 

肩を竦めながら立ち去る男性。私は本当に必要なら救急車を呼ぶつもりだったけれど、あの人の言う通りそこまで酷い怪我はしていなかったのと、当の本人がどこか哀愁を感じる背をしていたせいとで期せずして見送ってしまった。……これが無気力、ってやつ?話した限りは善人っぽいけど、あの人が殴られるなんて一体何が…?

 

「…ふん、あんな奴を心配する必要はねぇよお嬢さん」

「…随分な物言いですね。あの人のお知り合いで?」

「まさか、話しかけられるまでは全くの無関係だった奴だ」

「そう、ですか…」

「ったく…てかあんたもいい加減離せや。ほら、もう暴れたりしねぇからよ」

 

路地へと消えていく男性を見送っていると…後ろから声をかけられた。それに反応し振り向いてみると、声の主は羽交い締めされていた方の男性。……正直言うと、あまり印象は良くない。

 

「…話しかけられて、それで殴ったんですか?」

「まぁな…けど先に喧嘩ふっかけてきたのはあいつの方だからな?野郎、人の気持ちを馬鹿にしやがって…」

「だからって怪我させちゃ駄目でしょう。…というか貴方、もしやお酒を?」

 

眉をしかめながら羽交い締めを解かれた男性に近付くと…独特なアルコール臭が匂ってきた。見てみれば男性の顔も若干赤らんでいて、状況的にはこの人がお酒を飲んでいた様に思えてくる。

お酒によって、馬鹿にされたからって殴って、挙句反省してる様子もない。……全くもって擁護のしようが無い、酷い人だった。そしてそれは皆も思ったらしく、私は後ろへと引っ張られる。

 

「ねぇイリゼ、この人の事は気にしないでおこうよ。アタシ、こういう人好きじゃないよ」

「そうですね…これも犯罪組織のせいで治安が悪くなってるからでしょうか…」

「犯罪組織だぁ?あーくそ、ほんとにむしゃくしゃするなぁ!俺は、俺はなぁ…」

 

ぴくり、とコンパの言葉に触発されたかの様に声を荒げる男性。その様子に私達は、やはり関わらない方がいい人だ…そう判断し、何か言いかけてる男性を無視して教会へ────

 

「…俺は、根っからの女神信者だってんだよ!犯罪組織が何だ、信仰の自由がなんだ!俺は誰がなんと言おうが、一生女神様を信じるんだよ!文句あるか!」

『……え…?』

 

……反射的に振り向いた、私達。その瞬間、熱弁を振るう男性と目が合う。

 

「お嬢さん達も分かるだろう?お嬢さん達と同じ位の年恰好の人が、国一つを背負ってるんだぜ?その女神様を信仰しないってなら、手前は一体何を尊敬するんだって話だよ!」

「は、はぁ……だってさ、ネプギア、ユニ」

「あ、アタシ達に振らないで下さいよ…イリゼさんだって女神なんですから…」

「こうも真正面から言われると、こそばゆいですね…」

「いや、なんでお嬢さんがこそばゆいなんて……ん?んんん?」

 

私が反応に困って候補生二人に振ってみると、ユニは私と同じ様に困った顔を、ネプギアは若干照れた顔をしていた。そして私達のそんなやり取りを見ていた男性は……気付いたご様子。…あー…これは面倒な事になるな……。

 

「えーと、それでは私達はこの辺で……」

「……うおぅ…見間違いじゃねぇ、マジの女神様だ…嘘だろオイ!?」

「はぁぁ!?お、俺!?」

 

気付きが確信に変わる前に立ち去ろう……と思ったけど、時既に遅し。男性は目を剥き、驚きを露わにしていた。後何故か(それ位動揺してたのかな?)、さっきまで羽交い締めをしていた人に確認を取ろうとしていた。これには羽交い締めしていた人もびっくり。

 

「…って事は、俺は女神様に女神様の事を語ってたのか?……何やってんだ俺ぇ…」

「あ、落ち込んじゃいましたね…ど、どうします?」

「どうもこうも…どうしよう?」

「それはわたし達に訊かれても困るです…」

「アタシもこういう場合の対処方法は知らないかな」

「まぁ、無難な対応すればいいんじゃない?なんかさっきより注目され始めてるっぽいから何も言わずに逃げる訳にはいかないし」

 

アイエフの言う通り、女神が三人もいるという事で野次馬が集まってしまい、気付けばなあなあで立ち去る事が出来ない状況になってしまっていた。…三つ目の人だかりにして遂に私達が人だかりの理由になっちゃったよ…元々あった人だかりを乗っ取った形だけど…。

そんな訳で、何とか立ち去れる流れにしなきゃなぁと思った私は、同じ立場のネプギアとユニに視線を向ける。

 

「えーと二人共。何とかしなきゃなんだけど…」

「イリゼさん……(うるうる)」

「イリゼさん……(おねがい)」

「なんで二人してロムちゃんの真似するかなぁ!?……はぁ…」

 

……えー、はい。何とかするのは私という事になりました。…まさか二人がいつの間にか、うちのパーティーメンバーらしい、しょうもないスキルを身に付けてるとは…。

 

「…えぇと…そこまで信仰して頂けてるなんて、女神として光栄です…」

「そ、そんな滅相もないっすよ。俺みたいに休みだからって昼間から酒飲んでる奴に信仰されたって困るでしょう?」

「いや別に困るって事は…それよりは、警察のお世話になり兼ねない事はしないでいてくれる方が助かります」

「お、仰る通りです…ご迷惑をおかけしました…」

 

酔いが覚めた…感じではないけど、私の言葉を聞いて男性はしっかりと反省してくれているみたいだった。…っとそうだ、あれを伝えないと…。

 

「それと、さっきのあの人が余計なお世話をしてすいませんでした…と言ってましたよ?」

「…あいつが?…はっ、それこそ余計な世話ってもんですよ…謝るなら他人を不愉快にする前にさっさと帰ればよかったんだ…」

「……一体何が?」

「…犯罪組織の勧誘…っつーか紹介ですよ。今必要なのは犯罪組織の様な新たな存在だ、女神は既に過去のものになるんだって散々勝手言ってくれやがったんです。懇切丁寧に話されたって、その気がねぇんだから耳傾ける訳ないだろうが…」

 

アルコールのせいか、やや乱れた敬語で話してくれる男性。そして同時に、彼の言葉で今回も犯罪組織が関係しているという事が明確になった。…と言っても今回は、組織としてではなく個人としてのいざこざみたいだけど。……にしても、この人が私達にとっての味方であの人が私達にとっての敵なのか…当然だけど、どっちの側にも色んな人がいるんだね…。

 

「さっきの人、犯罪組織の人間だったのね…追います?あのペースで歩いているなら、追いつけると思いますが…」

「うーん…いやいいよ。あの人の様子と話を聞く限り、仕事としてじゃなく親切心で紹介してたみたいだし。裏を知らない人なら、追っても意味無いからね」

「……うん?よく分かりませんが…公務の途中だったんですかい?」

「それは……まあ、そんなところです」

 

公務といえば公務だけど、その内容は公務と呼べる範囲なのか微妙だし、私達が旅をしているという事以上が知られるのは教会の人間としてあまり好ましくない。だから若干言葉を濁した私だったけど…男性はそれを『口外出来ない程重要な仕事をしてる』と捉えちゃったのか(全く合ってない訳でもないけど)、引き止めてしまって申し訳ないみたいな表情をしだしてしまった。

 

「で、ですよね…本当にすんません。お時間取らせてしまって…」

「あ…いえいえ、ですがそういう事なのでそろそろ失礼させて頂きますね(よし!自然に立ち去れる流れになった!)」

「お勤めお疲れ様です。……あ、最後に一つ質問しても…?」

「はい、どうぞ」

「……最近、守護女神の皆様をお見かけしませんが…何か、あったんですか…?」

「……!……それは…」

 

最後に一つ、と言われて了承した質問は、今の私達にとっては最大レベルで答え辛い問いだった。

守護女神がギョウカイ墓場で囚われている事は、混乱とシェア率の低下を防ぐ為に現状秘匿にしているから正直に答える訳にはいかない。だから嘘を吐くかさっきの様に誤魔化すかしなければいけないけれど、真剣な質問に対して誤魔化すのは難しいし、やっぱり女神を信じてくれている人に嘘を吐くのも忍びない。そして、今私の返答を気にしているのは男性だけじゃなく、集まってしまった人達全員だからベストな返し方が中々見つからなくて……

 

「……いや、こんな質問は無粋ってもんですよね」

「え…い、いやそんな事は…」

「いーや、無粋です。そりゃ確かに姿が見えないのは気になりますが…女神様の姿が見えねぇ時は、人知れず俺達民衆の為に頑張ってくれてるに決まってるじゃねぇですか。……ですよね?女神様」

「…そう、ですね……はい。今は四人共、必死に頑張ってくれてますよ」

「でしょう?へっ、それなら安心ってもんです。そんじゃ俺も女神様の力になるよう、信仰心を磨いておくとしますかな。こんな下々の野郎とまで話して下さり、ありがとうございました」

「…お酒、飲み過ぎはいけませんからね?」

「へへ、気を付けますよ」

 

そう言って、男性はここから去っていった。やはりまだ酔いは残っているみたいで、ほんの僅かに足取りがブレていたけど…そんな事より、

 

「…ただの酔ったおっさんだと思ったら、かなりお姉ちゃん達を信じてくれてるおじさんだったわね……」

「うん。なんというか…感想に困る人だったね…」

 

相手は犯罪組織の信者とはいえ、酔って殴って人だかり作って…というのはとても擁護出来ない。その時点では関わりたくない感じの人だったけど……蓋を開けてみたらむしろ、女神として大切にしたい感じの人だった。だからって悪い部分がチャラになったりはしないし、それは同時に好ましい部分が削がれる訳でもないから、結果ネプギアの言う通り、感想に困る感じの人だった。

…それにしても、と私は思う。当たり前の話だけど、女神側にいてくれる人だって善人ばかりとは限らないし(今の人は善人じゃないかと言われれば微妙だけど)、逆に犯罪組織側の人だって裏を知らないだけの善人がそれなりの数いる筈。そう考えると……『女神側だから助ける、犯罪組織側だから倒す』っていう、単純な二元論が通用しないんだよね。須らく世の中はそういうものなんだけどさ。

そんな思いを抱きながら、改めて教会へと向かう私だった。

 

 

 

 

人だかり騒動の後は特に何もなく、無事教会に到着した私達。入ってみると偶然にも聖堂(正面出入り口から入ると最初に出る大きい部屋)に教祖であるチカさんがいて、これ幸いと早速話しかけたんだけど……

 

「え…?あ、あああ!そうです、わたしが箱崎チカです!」

 

──ご覧の通り、明らかに様子がおかしかった。もっと言えば、怪しかった。

 

(わ、わたしあんまり面識無いんですけど…チカさんってこんな人でしたっけ…?)

(いや、こんな人じゃなかったわ)

(ベール以外に対してはアイエフやノワールに近い対応をする人だった筈だよね)

(話し方もですが、なんだか挙動も不審ですぅ…)

(どう見ても驚いてますよね、チカさんらしき人)

(ねぇねぇ、この人今変なおじさんみたいな事言わなかった?)

 

……約一名、激しくどうでもいい事を言っていたけどそれはきっとチカさんと初対面なせい。私達のアイコンタクト会議としては、ほぼ満場一致で『このチカさんは私達の知るチカさんではない』という事になった。でも、内面はともかく…見た目はおかしな点なんて一つも見つからない。

 

(…変装…にしては完璧過ぎるわよね。もしこれが変装なら、イメージガムを使ってるかルパン三世レベルよ?言動は駄目駄目だけど)

(じゃあもしかして、チカさんはイリゼちゃんやねぷねぷみたいに記憶喪失になっちゃったです?)

(アタシ達が来る前に物凄く動揺する事が起きて、それがまだ残ってるー、とかかもしれないよ?アタシは皆の言ってる普段を知らないからなんとも言えないけど)

(うーん…現段階じゃなんだかよく分からないし、もう少し話してみた方がいいかもね)

 

取り敢えずチカさんがおかしい、という見解で一致した私達だけど、その原因については意見が分かれる…というかイマイチ「これだ!」ってものが出てこない。だから一先ずは気付かないフリして会話を続行する事に。

 

「えと、突然訪問してしまってすいません。予め連絡は入っていたと思いますが…」

「え?……あ、はいそうですね。お待ちしていました!」

「なら良かったです。ふぅ、これで拠点確保だね」

「へっ?こ、ここに泊まるんですか…?」

「そのつもりですけど…何か問題があるんですか?」

「そ、それは……も、勿論ありませんよ?えぇありませんとも」

 

──輪をかけて怪しい。教祖の中では気の強い方で、同時にどこか斜に構えた雰囲気もあるチカさんの反応としては違和感があるどころか違和感しかない。もう正直、全財産賭けてもいい位怪しかった。さて、それはそうとしてどう切りこもうかな…。

 

(イリゼ、なんだかよく分からないうちは私達の目的を話しちゃ駄目よ?)

「(分かってるよ、私だって駆け引きの経験はあるんだから)…ところでチカさん、最近のリーンボックスの状況はどうですか?」

「はぁ、まあぼちぼち……ではなく、やっぱり女神様がいなくなってしまった分、治安維持が大変ですね」

『……!』

「……?」

 

女神様がいなくなってしまった分。……その言葉を聞いた瞬間、私達の間に緊張が走った。当の本人はきょとんとしているけど、彼女が偽物だとしたら間違いなく大きな失態を犯している。だって……守護女神の所在(リーンボックスにいる女神は守護女神のベールだけだからね)を知っているのは、教会や軍部の上層又は女神に近しい一部の人達だけで、それを除けば犯罪組織…それも裏側の人間しかあり得ないんだから。勿論、前者が偽物として化けているというのも可能性の上では存在するけど、それは現実的じゃない。だから今目の前にいる人物は、犯罪組織の人間と見て間違いない。

 

「……あぁそうだ!リーンボックスの治安維持の為に、ここは一つ協力してくれませんか?」

「…協力、と言いますと…?」

「えぇと…そう!モンスターを退治してほしいのです!」

 

私達の疑いに気付いていないのか、チカさんは思い付いたかの様にモンスター退治を申し込んでくる。どうも考えながら喋っているみたいだけど…。

 

「…まあ、治安維持に協力するのは吝かではないですが…」

「でしたら是非街の近郊の草原にいるモンスターをお願いします!全然大した事ないモンスターですので皆さんなら楽勝な筈ですよ!」

「…大した事ないならアタシ達に頼まずとも、ギルドなり軍なりで対応すればいいのでは?」

「うっ……み、皆さんなら楽勝、という事です!なんたってベテラン女神候補生二人に女神一人とおまけ…ではなく、おまけにその仲間までいるんですから!」

「は、はぁ……まぁ、分かりました…」

 

疑惑いっぱいのチカさんらしき人。もうこの時点で捕縛しても良さそうだけど、リーンボックス教会全体の状況がまだ分からない以上下手に動くと自分の首を絞めかねないし、出来ればこの人には『自分が偽物とはバレていない』と思っていてほしい。だからその意思をアイコンタクトで皆に伝え、ベテランの候補生って何だろう…それって万年係長的なものじゃないのかなぁ…なんて思いながら教会を出ようとして……

 

「──まあお待ちを。せっかく御足労頂いたのです、依頼の前にお茶の一つでも頂いてもらうというのはどうでしょう?」

 

教会の裏から、そんな声が聞こえてきた。

振り返ると、そこにいたのは温和そうな雰囲気を持つ老齢の男性、イヴォワールさんだった。

 

「い、イヴォワール……しかし治安維持は一刻も早くする事で…」

「かもしれませんな。しかし、他国の女神様がいらしたにも関わらず、お茶一つ出さないというのは()()()()()()()行動ですぞ?」

「……!…そ、そうですね…ではお茶の用意を…」

 

ぴくり、と肩を震わせた後あたふたとお茶の準備に動くチカさん。…教祖が公的な形で真っ先にお茶淹れにいくって…と普段の私なら突っ込みたくなるところだけど、今はそれよりも気になる事がある。

 

「……イヴォワールさん、貴方は…」

「私は一度、愚かにも信仰の意味を履き違えイリゼ様達に…特にイリゼ様とネプテューヌ様に償いきれない程の仕打ちをした過去があります…と、言えば分かって頂けますかな?」

「…えぇ、一言でここまで分かって頂けるとは驚きです」

 

だった一言で、私達の本物かどうかという疑惑を取り払った…しかも自分にとっては隠したいであろう過去を、信用の為にはっきりと口にしたイヴォワールさんに軽く尊敬の念を抱きつつ、私は更に質問を述べる。確信に至る為の、その質問を。

 

「チカさんが戻ってくる前に、訊いておきます。…彼女はチカさんですか?」

「いいえ、偽物ですな」

 

────こうして、教会へと訪れた私達は今いるチカさんが偽物である事、そして教会全体が犯罪組織に掌握されたという最悪の事態にはなっていない事を知ったのだった。




今回のパロディ解説

・変なおじさん
芸人、志村けんこと志村康徳さんの持ちキャラの一つの事。多分その台詞(原作にもあるもの)はパロディじゃないと思いますが…変なおじさんを彷彿とさせる台詞ですよね。

・イメージガム
怪盗ジョーカーに登場する変装アイテムの事。イメージガムなら話し続けていれば時間切れでガム風船が爆ぜてバレますが、流石にそれで変装してる訳じゃないですからね。

・ルパン三世
ルパン三世シリーズの主人公、ルパン三世の事。上記のネタもそうですが、やっぱり変装といえば怪盗ですよね。その次に来るのは…忍者かスパイかな?

・「〜〜彼女はチカさんですか?」「いいえ、偽物ですな」
これはゾンビですか?の第一巻のタイトル&サブタイトルのパロディ。なんとチカさんは知らぬ間に魔装少女に!……なってなどいませんのでご安心を。

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