超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第三十二話 発電所を守りしもの

候補生四人の参戦により、戦況は一気に変わった。ロムちゃんとラムちゃんはその場で魔法による範囲攻撃を続け、ユニは突撃するネプギアの援護を行い、ネプギアは私の元へ…敵陣へと入り込んだ私が脱出する為の退路を作る様に斬り込んでくる。

 

「イリゼさん、遅れてすいません!」

「全くだよ……けど、タイミングとしては最高だよ!」

 

私とネプギアの間にはまだ若干の距離があるけど…私への注意が大きく減っただけで、私にとっては十分だった。

動き易い状態になった私は余裕のある上……ではなく下へと降下。ホバーで浮いて移動するキラーマシンと床の間の間を滑る様に通り抜け、ネプギアが作ってくれた退路から一気に脱出する。

 

「ったく、二人揃って寝坊なんてするとはね」

「す、すいません…って知ってたんですか!?ならアタシ達を起こして下さいよ!?」

「あまりにも安心した様に寝ていましたから、つい…」

「二人も二人で頑張ってたって知ってると、起こすに起こせないもんね〜」

「あ、なんだ二人ともねぼーしてたのね」

「知らなかった……(はつみみ)」

 

私とネプギアが敵陣から下がるのと同時にユニ達もコンパ達のところへ移動。私達全員が一ヶ所に集合する形となる。

 

「寝坊の件は一旦保留、まずはここの機動兵器を掃討するよ!」

「はい!ロムちゃんラムちゃん、協力してくれる?」

「えー、そりゃたたかう気はあるけど、その言い方だとわたしたちがメインじゃないみたいでいや「うん、きょうりょく…する…!」……じゃないわ!ロムちゃん、がんばりましょ!」

 

ネプギアの言葉に始めラムちゃんはやや不満そうだったけど…ロムちゃんの意思を聞いた途端に意見がくるりと反転した。…なんだろう、ネプギアが二人とどんなやり取りをしたのかほんの少しだけど分かった様な気がする……。

 

「こほん…それじゃ候補生四人!私達で相手をするよ!コンパ達は体力回復に努めつつ増援が来たらそれの対応…って事でいい?」

「なら二人に改めてきちんとお手当てするです!」

「この人数なら後方射撃に徹した方が良さそうね…ネプギア、アンタは突っ込みなさいよ?」

「うん。……にしても、こんなしっかりした工場だったなんて…これは作戦が終わった後、女神として隅から隅まで調べないと…」

「…ネプギア、アンタねぇ……」

「だ、だって気になるんだもん…でも作戦中はしっかり戦うよ。遊びでやってるんじゃないんだから」

 

ユニに続き、私も何か言ってやろうと思ったけど…ネプギアが思った以上に真面目な返答をしたせいで言えず終いだった。…これがネプテューヌだったら、もう二言三言ボケてただろうなぁ……。

 

「なら…準備はいいね?」

「勿論です!皆、頑張ろうね!」

「えぇ、後ろは任せなさい!」

「ロボット、やっつける…!」

「わたしたちの力、見せてやるわ!」

「それじゃあ、いくよっ!」

 

掛け声と共に見得を切り、そして先陣も切って飛翔するネプギア。ユニはその場で脚を広げて火力支援の体勢を取り、ロムちゃんラムちゃんは浮き上がって連携魔法攻撃を始める。増援として、四人揃ってやってきたネプギア達は…これまでになく頼り甲斐があった。…………ただ……

 

「……ネプギアにリーダーの座を取られた…」

「ネプテューヌみたいな事言ってないでイリゼも行きなさいよ…それとも私が突撃しようかしら?」

「じょ、冗談だよ…!」

 

勿論冗談、冗談だけど……私、ネプテューヌの気持ちがちょっと分かったよ…。

 

 

 

 

「ロムちゃん、せーのっ!」

『アイスコフィン!』

 

宙に精製され、完成と同時に発射される巨大な氷塊。自分の身体よりも大きな氷の塊を難なく作り上げたラムちゃんの意思が乗った氷塊は、かなりの速度でキラーマシンに迫る……が、それはエネルギーシールドによって阻まれる。女神の力を持ってしても、容易に破壊する事は難しいのが高出力のエネルギーシールドだった。

だが、キラーマシンに迫っていた氷塊は二つだった。ラムちゃんと寸分違わぬタイミングで、ラムちゃんとは別方向から放たれたロムちゃんの氷塊はシールドの範囲外からキラーマシンを叩き、それによって出力に乱れが生じたシールドをラムちゃんの氷塊が破り、二つの氷塊がキラーマシンを貫く。

 

「さっすがロムちゃん!ロムちゃんなら合わせてくれると思ってたわ!」

「うん。ラムちゃんなら、こうするって分かってたから…」

「でしょでしょ?ふふーん♪」

 

スパークを起こしながら倒れるキラーマシンを尻目に、ロムちゃんとラムちゃんはハイタッチ。……その後ラムちゃんがネプギアに自慢げな視線を送ってたけど…気にしないでおこう。

 

「ふぅ…何とか片付きましたね」

「ユニ達が来てくれたおかげで大勝利だよ!やっぱ女神って強いね」

「女神が四人も増えると安心感が段違いね。イリゼも少しは気が楽になったんじゃない?」

「まあ、ね。そっちは休めた?」

「はいです。これならもう一踏ん張り出来るです」

 

二人が倒したのはこの格納庫の最後のキラーマシン。流石にあっという間に殲滅!…とはいかなかったけど、私達はこれまでで一番のペースで全機撃破する事が出来た。おまけにコンパ達三人も身体を休める事が出来たみたいだから、このまま作戦を続行する事も出来る。

 

「…そういえば、皆はどうやってここを見つけたの?アタシ達と違って地図なんかないよね?手当たり次第?」

「あ、いえ。戦闘の跡を追ってきたんです。通路に壊れた銃とか弾痕とか残ってましたから」

 

教会を出てからの事をかいつまんで話すネプギア。基本的には今上げた跡を頼りに追って、よく分からないところは戦闘音で大体の位置を推測していたらしい。確かにガチャガチャだのドカンドカンだの大音量だったしねぇ…。

 

「そういう事だったんですね、ご苦労様です」

「それはコンパさん達こそ言われるべき事ですよ。ほんとすいません、アタシ達が寝坊したせいで…」

「理由があるって知ってるですから、気にしなくていいですよ」

「それに、今はまだ作戦中だものね。お喋りはこの辺にして次に向かいましょ」

「あ……その事なんですが、一ついいですか?」

 

アイエフが話を締めようとしたところで、ネプギアは手を挙げた。

 

「どうかしたの?」

「はい、えと…一度地図を見せてもらってもいいですか?」

「いいわよ、はい」

 

受け取って地図を見て、ネプギアは小考。その後ユニに確認を取る様な質問をして…こくり、と頷く。

 

「…あの、一つ提案があります」

「提案、です?」

「作戦を続けるなら、余計な事をされないよう先に発電所を落とすべきだと思うんです。人数が足りないなら素直に機動兵器潰しに専念した方がいいですが…今は女神だけでも五人もいますから」

「発電所…その案は一理あるけど、場所分かるの?発電所とか責任者の部屋とかは知らなかったのか、書かれてなかったと思うんだけど…」

「施設の規模とこの地図があれば、だいたいの予測はつきます。工場も機械と同じで、動力源は適当な所に配置するべきものじゃありませんからね」

 

そう言ってネプギアは、地図の空白となっている箇所の一つ…発電所があると思われる場合を指し示す。

発電所を落とせばシャッターを下ろしたりは出来なくなるし、待機中のキラーマシンの遠隔起動なんかも出来なくなる。もし予備電力があるならまた少し変わるけど…それでもこっちの作戦遂行が有利になるのは確実。後は、ネプギアの予測が信じられるか否かだけど……

 

「……分かった。なら、私とネプギア、ユニで発電所に行こう。それで他の皆はこのまま作戦続行…でどう?」

「えーと…わたしはさっきみたいにどっかんどっかんやれるならそれでいいわ!」

「ま、そっちはドンパチやるのがほぼ確定でしょうね。…というか、発電所落とすだけなら女神一人でもいいのでは?」

「重要施設は何があるか分からないからね。それに広いとはいえ屋内戦闘な以上、あんまり多過ぎても大変でしょ?」

「それもそうですね…分かりました」

 

反対意見は特に無し、という事で二手に分かれる作戦は決定。短時間とはいえ会話に時間を費やしちゃった私は、時間が惜しいとばかりに行動開始を……

 

「あ、ギアちゃんギアちゃん」

「はい?なんです?」

「ほら、あれです。練習の成果を出すチャンスですよ」

「成果を出すチャンス…?……あ、そういう事ですね。やってみます」

「ふふ、頑張って下さいね」

「はいっ!…イリゼさん、道中でやりたい事があるんですが…」

「……?」

 

 

 

 

数分後、私達三人はネプギアの予測したポイントへと到着した。

 

「ここ、か…確かに扉が他の所より厳重だね」

「一警備員のカードキーで開く訳無いですし、アタシがぶっ壊します。下がってて下さい」

「頼むよ、ユニ」

 

扉に向けて構えたユニの指示に従い、私とネプギアは後ろに下がる。……そういえば、あの時もこんな事が…って、あの時は扉じゃなくて壁だっけ。

 

「…ネプギア、治癒ありがとね」

「いえ、それよりわたしこそすいませんでした。ほんとはぱぱっと治癒しちゃうつもりだったんですが…」

 

二手に分かれる前、ネプギアとコンパが話していた事。それは私の腕の怪我の治癒についてだった。

キラーマシンの頭部を引き千切る為に腕を突っ込んだあの時、どうやら私は前腕を怪我していたらしい。それに私自身は気付いてなかったけど…気付いたコンパはネプギアにそれを伝え、ネプギアは移動中に私の腕へ治癒魔法をかけてくれた。…けどまさか、ネプギアがコンパに治癒魔法を教えてもらってたなんて……。

 

「…治癒魔法、興味あったの?」

「興味…そう言われれば、そうかもですね。わたしは中衛っていう特殊な立ち回りが基本になりますし、使えると自分も周りもずっと楽になると思ったんです」

「そっか……あれ?でもコンパの魔法って、一般的な治癒魔法とは違うらしいんだけど…」

「あ、はい。なのでわたしもコンパさんも練習の時は四苦八苦してたり……」

 

ネプギアがそう言って苦笑いを浮かべた瞬間、ユニの射撃(撃ったのはグレネード系かな?)によって扉が破壊される。…ユニがこういう事してると、制作費が莫大なアクション映画っぽいなぁ…。

 

「…ユニちゃんがこういう事すると、二十四時間で事件を解決するドラマや一人でテロリストと戦う映画みたいだなぁ……」

「あ、やっぱ皆そう思うんだ…」

「え、何がです?」

「今ネプギアが思った事だよ。ユニもご苦労様」

 

壊れた扉をくぐって私達は中へ。

そこは、格納庫程ではないものの広い部屋だった。中央に大きな機械が設置されているだけの、だだっ広い部屋。そしてその機械というのは…間違いなく、発電機だった。

 

「ネプギアの予測は正しかったみたいね。…で、どうする?景気良く爆発させちゃう?」

「そ、そんな事したら大惨事になっちゃうよ…」

「冗談よ。…ネプギア、この発電機ってここからでも停止操作出来る?」

「多分ね。取り敢えず触ってみないと」

 

ネプギアは発電機の操作パネルらしき物を発見し、その前へ。そこで私は最悪停止操作が出来なくても、周辺機器を傷付ければ安全装置が作動して強制停止するかな…と思い、インカムから作戦司令に通信をかける。

 

「イリゼ様、突入指示ですか?」

「はい。現在私達は残存機動兵器の撃破と発電所の制圧を実行中。発電所制圧後は状況が変わると思われますので、可能であれば即座に突入をお願いします」

「了解しました。女神様方、ご無理はなさらず」

 

既に私達は格納庫の半分以上へ突入し、そこの機動兵器を全壊させた。私達の目的は少しでも軍人さんが動き易い様にする事であり、それについてはネプギア達が現れる前から達成したと言っても差し支えない状態にあったのだから、現段階で突入しても問題はない筈。そう考えて私は通信をかけた。

その最中もパネルを操作していたネプギア。丁度私が通信を終えた時にそちらも手の動きが止まり……次の瞬間、警報を伝える様なブザーが鳴り響いた。

 

「……っ…すみません!失敗しました…!」

「失敗!?ちっ、やっぱそこら辺はセキュリティしっかりしてる訳ね…」

「失敗は失敗で仕方ないよ。それよりも今は別の方法で発電機の停止を……」

 

──その瞬間、光の壁…高エネルギーシールドが、発電機を覆う様に展開された。そして、それに呼応する様に開いた天井の一角。……そこから、不完全な人型の鉄塊が飛来する。

 

「…キラー、マシン……?」

「あの機体、ぱっと見MK-νタイプみたいだけど…ユニちゃん、あの機体に見覚えある?」

「無いわ、恐らく新型よ」

 

一目で目の前の機体と知識の中にある機体とを照らし合わせ、ネプギアとユニは現れた機体が新型だと判断した。私は二人程キラーマシンに対する細かな知識がある訳じゃないけど、頭部や腕部の形状はこれまで戦った事のある機体のどれとも違う様な感覚がある。ただ、何れにせよ……今私達に向けてモノアイを向けているキラーマシンが、発電機の防衛用である事だけは確実だった。

 

「奴を倒さないとシールドの対応もままならないだろうね…どんなシステムを積んでるか分からないし、まずは二人共援護をお願い!」

『はいっ!』

 

私は跳躍し、ネプギアとユニはそれぞれ得物を構える。

────だが、二人の得物から射撃が放たれる事は無かった。

 

「え……っ?」

「な、なに……!?」

 

私が飛び上がった瞬間、下方から戸惑った様な声が聞こえた。それに反応した私が下を向くと……そこには、女神化を解いた二人がいた。

 

「ふ、二人共何を…、……ッ!」

 

敵前でありながら、女神化を解いた二人の意図が分からず困惑した私。だが、それを聞くよりも前に放たれたキラーマシンのビームにより、私は回避行動を余儀なくされた。咄嗟に私は急降下でそれを回避するも、回避した先にも次々と光弾が襲いかかる。…その光弾は、胸部からではなく両腕の下部からのものだった。

 

「別のビーム兵器!?……くっ、それよりも二人はどうして女神化を…!」

「わ、分かりません!アタシは女神化を解除したんじゃないんです!」

「わたしもです!どうしてか、勝手に女神化が解けて……」

「勝手に…?……まさか…ッ!」

 

胸部の照射ビームは避け、両腕のビームは回避または斬り払いで対処しながら私は思い出す。

キラーマシン系列機との戦闘において、今のネプギアとユニが言った様な事態は、これまでに二度起こった事があった。そしてそれは……

 

(女神化封印システム…!これがあったのを失念してた…!)

 

マジェコンヌさんが開発し、一部の機体に搭載された女神化封印システム。無関係な組織が作ったデッドコピー機ならともかく、搭載を行なったアヴニールの派閥の一つが開発したキラーマシンならば、それが搭載されていてもおかしくはない。

私の推測の裏付けとばかりに、私の女神化は解けていない。それだけは不幸中の幸いというものだった。

 

「ネプギアとユニは下がってて!恐らくそれはこいつのせいだから、こいつは私が落とす!」

 

捻り込む様な動きで射撃を避けながら突進し、一閃。対するキラーマシンは左腕の戦斧で受け、長剣と戦斧の激突により火花が散る。

強引に押し切る前に可動した、キラーマシンの右腕。その下部の砲口が向けられている事に気付いた私は、宙へと舞う。

 

 

 

 

縦横無尽に飛び回り、隙あらば攻め込んでいくイリゼさんと、距離が開いている時は火器、イリゼさんが接近した時は近接武装でカウンターを狙う新型キラーマシン。……その戦いを、わたし達は歯痒い気持ちで見つめていた。

 

「ここにきて、戦力外なんて…」

 

今のわたしとユニちゃんは女神化出来ず(イリゼさんの言うように、恐らく原因はキラーマシン)、キラーマシンもかなり動きがいいからわたし達では太刀打ち出来ない。それが、歯痒くて歯痒くて仕方なかった。

 

「戦力外?はっ、女神化出来なくたって…援護位出来るわよ!」

 

わたしがそんな気持ちに苛まれてる中、隣からはユニちゃんの反骨心溢れる声とリロードの音が聞こえてくる。

 

「ユニちゃん…でも、キラーマシンの装甲はそう簡単には…」

「やらないよりはマシでしょ!それに例え無駄でも…ぼーっと突っ立ってるよりは意味があるわ!」

 

言うが早いかユニちゃんは射撃。放たれた弾丸はキラーマシンの腰部装甲を叩き、激しい金属音を立てる。

一発、二発、三発…ユニちゃんの射撃は続く。その射撃が上手く装甲の間をすり抜けたり、センサーを破壊したりはしなかったけど……それでも確かに、今ぼーっと突っ立ってるだけのわたしよりもずっと意味のある行動に見えた。

……けど…

 

「■■…■ーー!」

「……ッ!」

「きゃっ……!」

 

何度目かの射撃により、ほんの少しぐらついたキラーマシン。それにユニちゃんが笑みを浮かべた……その瞬間、ぐりん、とイリゼさんの方を向いていた頭部が、わたし達の方へと向き直った。向き直って……口の様なパーツから、ビームが放たれた。

ギリギリで反応出来たわたし達は左右に跳躍。次の瞬間、わたし達のいた場所をビームが駆け抜けていった。

 

「二人共!大丈夫!?」

「ぶ、無事です!」

「口っぽいところからビームって…どこのモビルなスーツよ!」

 

キラーマシンはすぐに頭部の向きを戻し、イリゼさんとの戦闘を続ける。それを見たユニちゃんは、一瞬躊躇った後にまた射撃を再開しようとしたけど……それを、わたしが止めさせる。

 

「な…なんのつもりよネプギア!まさか今の射撃にビビったんじゃないでしょうね!?」

「ううん。…わたし、思い付いた事があるの。試したい事があるから、協力してほしいの」

 

わたしは、思い付いた事を…ユニちゃんの出来る事をやろうという姿に感化されて考えた事を口にする。そして、わたしは……ユニちゃんから借りた狙撃銃を構える。

 

(どこかに、どこかにきっとある筈。絶対って確証はないけど…やってみなくちゃ、分からないもん!)

 

慣れない武器のスコープを覗き、目まぐるしく動くキラーマシンを全力で観察する。一ヶ所一ヶ所、パーツ一つ一つを注視して、それを探す。

 

「…見つけられそう?」

「…………」

「…ネプギア?」

「ごめんユニちゃん、ちょっと集中させて」

「あ、うん……」

 

遅くても数秒、早ければ一瞬で位置や向きが変わってしまう相手を観察するのは、とんでもなく難しい事。それでも……わたしは見つけた。見つける事が出来た。

 

「……!ユニちゃん!延髄の辺りを狙って!」

「分かったわ!イリゼさん!一瞬でいいです!一瞬でいいですから…奴の注意を引いた状態で、アタシ達に背を向けさせて下さい!」

「え……?…分かった、チャンスは無駄にしないでよッ!」

 

わたしから狙撃銃を受け取ったユニちゃんは、イリゼさんに叫ぶや否やその場に寝そべって狙撃体勢に。イリゼさんもまた、理由も聞かずにユニちゃんの言葉を承諾して動き始める。

わたしの言葉を即座に実行に移そうとしてくれるユニちゃんと、ユニちゃんの言葉を確認もせずに了承したイリゼさん。──わたし達は今、信頼の下最低限の言葉だけで動いていた。

 

 

 

 

────そして、遂にその時が来た。

それまで冷静な戦い方をしていたイリゼさんはユニちゃんの言葉を聞いて以降、打って変わって荒々しい戦い方に変わり、キラーマシンを攻め続けていた。それはどう見ても体力の配分を無視した戦い方で、それは少し不安にもなるけど……今はそれよりも、イリゼさんがユニちゃんを、わたし達を信頼してるんだって感じられる事が嬉しかった。だって、それはわたし達の策が成功するって信じてくれてるって事だから。

そして来た、そのチャンス。懐に入り込んだイリゼさんは長剣を叩きつける様に振るい、力技で強引にキラーマシンの向きを変える。……ユニちゃんの射線上へ、キラーマシンの背を向けさせる。

 

「……ッ!ユニッ!」

「……──っ!もらったぁぁぁぁぁぁッ!」

 

ユニちゃんの叫びと共に放たれた、一発の弾丸。それは真っ直ぐにキラーマシンの延髄へと…わたしの見つけた対女神化システムの発信器へと襲いかかり、狙い違わず貫いていった。

 

「■■■■ー!?」

「…や、やった…当たったよユニちゃん!」

「当たり前よ!アタシはラステイションの女神候補生、ブラックシスターなんだから!」

 

的中の興奮に包まれるわたし。ユニちゃんもそうは言っていたけど……見れば口元が緩んでいる。やっぱりこういう状況ならユニちゃんも喜ぶみたいだった。……って、それはそうだよね。僅かなチャンスをものに出来たら、誰だって嬉しいに決まってる──

 

「……っ!ネプギアッ!ユニッ!」

 

その瞬間、イリゼさんの怒号が聞こえた。その言葉に、わたしもユニちゃんもハッとして……気付いた。キラーマシンの腕が、迫っていた事に。

キラーマシンはその場から動いた訳じゃない。機体はまだイリゼさんの方を向いていて、腕もイリゼさんの方を向いている。…けど、それは腕の上部だけだった。腕の下部はわたし達が気付かぬ間に外れていて……ワイヤーに繋がった状態で、射出されたかの様にわたし達へと迫っていた。

 

(嘘……遠隔操作兵装…!?)

 

噴射炎を吐き出しながらわたし達へと迫る前腕下部。反射的にユニちゃんは撃ったけど、前腕下部は横へと逸れて当たらず終い。……間違いなく、それは遠隔操作兵装だった。

不味い、避けなきゃ。…そう思ったけれど、もう時既に遅し。わたし達の目の前まできた前腕下部…遠隔操作兵装はマニュピレーターを開き、わたし達を……

 

 

 

 

 

 

「させ…るかぁぁぁぁああああああッ!」

 

 

 

 

ネプギアとユニが狙われたと分かった瞬間に、私は床を蹴った。翼を全開に広げ、シェアエナジーの爆発も複数纏めて発動する事で一気に前腕下部を抜き去り二人を弾き飛ばした。──その瞬間、がくんという衝撃が私の脚に走る。

 

(つ…掴まれた……!?)

 

前腕下部が射出された段階で、腕部のビーム砲もこちらに搭載されているという事には気付いていた。だから、私はてっきりその砲を使うものと思っていたけど……キラーマシンが使ったのは前腕下部先端のマニュピレーターだった。

 

「……っ…ネプギア!ユニ!油断大敵……ぃ…っ!」

 

前腕下部と本体とを繋ぐワイヤーを斬るよりも前に、前腕下部は引き戻されて私は体勢を崩す。結果私の言葉は某闇の魔術に対する防衛術の講師の一人っぽい部分までで途切れてしまい、瞬く間にキラーマシン本体の所まで引っ張りだされる。そして……

 

「なッ……わぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

ぐるん、と視界が高速で回転する。次の瞬間には強烈な風圧と風切り音が聞こえて……全身に叩きつけられた様な衝撃が駆け抜けた。そう……私は引き戻された状態から勢いを付け、天井へ向けて投げ飛ばされてしまったのだった。

私の身体の非常識な強度と、キラーマシンの非常識なパワー。それが噛み合った結果私は天井にぶつかるだけに留まらず、そのまま突き抜け外へと吹っ飛んでいく。

 

(…そんな、馬鹿な……)

 

あまりにも意外過ぎる出来事に、投げ飛ばされた私が胸の中で抱いたのは…ただその一言だけだった。




今回のパロディ解説

・二十四時間で事件を解決するドラマ
テレビドラマ、24シリーズの事。別にユニにハードボイルドさとか無骨さを感じてる訳じゃないです。ただなんとなく、アクション系が合いそうだなぁと思っただけです。

・一人でテロリストと戦う映画
アクション映画、ダイ・ハードシリーズの事。実際ユニ(女神)なら一人でテロリストと正面戦闘出来そうですね。女神の強さの一つはその圧倒的なスペックですし。

・モビルなスーツ
機動戦士ガンダムシリーズに登場する機動兵器、モビルスーツの事。口からビームというとジオングやレイダー、デストロイ辺りですね。所謂ゲロビというやつです。

・某闇の魔術に対する防衛術の講師
ハリー・ポッターシリーズに登場するキャラクター、アラスター・ムーディの事。やはり油断大敵、という四字熟語が一番似合うのは彼ですね。

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