超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第二十七話 気持ちは同じだから

ロムちゃんとラムちゃんの秘めているものを知ってから、数日後。クエストを行ったり、女神のシェア回復に努めたりしていた私達だったけど……当のルウィーの女神候補生である二人とは、あまり接していなかった。

私達が選んだのは、ミナさんや職員さん達と同じ対応。向き合うでもなく、慰めるでもなく…ただ、現状を維持している。……少なくとも、表面上は。

 

「ミナ様、イリゼ様達をお連れしました」

 

扉越しに声をかけ、私達を部屋内へと案内するフィナンシェさん。私達が案内されたのは、教会の中の会議室の様な部屋…というか、会議室。フィナンシェさん経由でミナさんから『重要な頼みがある』と言われた私達は、その内容を聞く為にこの部屋に来ていた。

 

「ご苦労様です、フィナンシェさん」

「お待たせしました。それで、頼みというのは……あれ?」

「お久し振り、ですね」

 

早速話を聞こう…と思った私だったけど、会議室にはミナさんの他に二人程男性がいた。

一人は軍の制服を身に纏った男性。全くもって見覚えのないその人は、それなりの階級なのかこの場においても平然とした表情を浮かべている。

もう一人は、眼鏡をかけたスーツの男性。私達に向かって柔和な笑みと共に声をかけてきたその人は良くも悪くも見覚えのよくある、ブランの熱狂的信者……

 

「…ガナッシュさん、です?」

「えぇ、ガナッシュです。そちらの赤髪の方は、お初ですね」

 

そう、元アヴニール社員で今はルウィー教会職員のガナッシュさんだった。私は……監査以来だったかな?

 

「……いけすかないものを感じる…」

「い、いけすかないですか?」

「いけすかない!この人多分表の顔はにこにこしてても裏で悪い事考えてるタイプだよ!アタシの嫁候補達をイケメンスマイルで誑かそうったってそうはいかないんだからね!」

「…す、凄い……後半はともかく前半は的を射ているよ…」

「確かに私達は騙されて殺されそうになったし、その後も襲われたりまた騙されたりしたわね」

「ほらやっぱり!つまり…えと、ガナッシュ?…はアタシの敵!」

「なっ、み、皆さん…!過去の事は否定しようがありませんが、そんな彼女を駆り立てる様な事は言わないで下さい!」

「そうですよ!REDさん、今は教会職員さんですから、襲わないであげてくれませんか?」

 

理由はよく分からないものの、ガナッシュさんの性格をそこそこ見抜いたRED。しかも私とアイエフが余計な事を言っちゃったせいでエンジンがかかり、今にもけん玉かヨーヨー辺りをぶつけそうな雰囲気になってしまった。

が、そこでREDを鎮めに入ったのはまさかのネプギア。ユニ同様ガナッシュさんとは殆ど面識がない筈のネプギアが止めようとした事に、私達は目を丸くする。

 

「えぇー…でもイリゼ達に悪い事した人なんでしょ?」

「そうらしいですけど…改心した人を襲うなんてあんまりですし、そんな事したらREDさんも悪い人になっちゃいますよ?」

「む…ネプギアがそういうなら、まぁ……」

「た、助かりましたネプギア様…」

「いえいえ。ガナッシュさんが本当は良い人だって事、わたしには分かってましたから」

「分かってた?ネプギア、アンタそんな交流あったの?」

「ううん。でも……機械好きに悪い人はいないもん!」

『……あー…』

 

ふんすっ、と意気込んで持論を言ってのけるネプギアに……私達は全員で苦笑いだった。…純真さと機械好きが混じった、ネプギアらしい発言だよこれは……。

 

「……えぇ、と…大変言い辛いのですが…私は確かに機械への造詣は深いですが、別に機械好きという訳では……」

「え……っ?」

「…何か、期待を裏切ってしまって申し訳ありません…」

「い、いえ…わたしが勝手に勘違いしてただけなので、別に……」

「…………」

「…………」

「…あのー…本題、宜しいでしょうか…?」

「あ、は、はい!どうぞ!」

 

残念!ネプギアの持論はともかく、ガナッシュさんは別にメカオタという訳ではなかった!……ネプギアとガナッシュさんは勿論、それを見ていた私達までそのなんとも言えない流れに微妙な気分に。

数秒の静まり返った時間の後、口を開いたのはミナさん。その発言は若干空気の読めないものだったけど…空気を読んだところでどうしようもないのが今の状況だった為、ネプギアを始め全員がその質問に首肯する。

 

「では…先日ラステイションで新型のキラーマシン系列機が発見された…のはご存知ですよね?その発見者というのが皆さんという話ですし」

「はい。この事はラステイションの教会から各国に通達したと聞いていましたが…」

「えぇ。その件を知って以降、ルウィー教会はガナッシュさんを中心に対策チームを立ち上げ、国内の調査をしてきました」

 

私達の同意を得たミナさんは説明を開始。まだ説明はとっかかりの部分だけど…既に大分雲行きが怪しい。教祖に、調査班のリーダーに、軍人に、女神を含む私達。それだけの面子がいる場でこの話となると…この時点でもう、この先の内容は読めてしまう。

 

「ガナッシュが?…目には目を、歯には歯を、元アヴニールには元アヴニールを…って事かしら?」

「半分はその通り、私はこれでもアヴニールの役員でしたからね。私なりのコネクションもありますし、私だからこそ気付けるものもある…とミナ様に判断された訳です」

「それじゃあ、もう半分は何です?」

「私が工業畑の人間という事、ですね。魔法が発達している分、ルウィー国民は他国民に比べ科学技術への認識が甘いですから」

 

ガナッシュさんの言葉にミナさんと軍人さんの両方が肩を竦める。彼の言う通り、ルウィーの社会における技術シェアは他国に比べて圧倒的に魔法の割合が多い(というより、単に他国は魔法のシェアがほぼゼロなだけだけど)。だからその分上から下まで科学を軽んじてる人が多少ながらいるし、それはつまり他国よりも調査能力に欠けるという事。そこに四ヶ国でも特に工業に力を入れているラステイションの元大企業役員を登用するというのはよく分かる話だった。……そういえば特務監査官になってから、随分と私は各国の実情を知る様になったなぁ…。

 

「…とまぁ、そういう事で調査をしてもらっていたのですが……話の流れからも察せられる通り、先日キラーマシンの生産工場と思しき施設が発見されました」

「じゃあ、あのキラーマシンはルウィーで…?」

「それはどうでしょう。発見出来たのはその一ヶ所ですが…恐らく生産施設は他にもあります。というより、一ヶ所だけで生産などリスク回避が出来てないにも程がありますから」

「それは、確かに…」

 

ユニの問いにガナッシュは否定の回答を返す。ガナッシュさんの言う通り、十中八九氷山の一角だけど…それはあんまりありがたくないよね。

 

「そして…我々ルウィー教会はその施設を非合法施設と断定。明日軍による制圧作戦を行う事を決定しました」

「制圧作戦……」

「出どころが分かった以上、一機でも多く外部に出される前に止めておきたいですからね。こちらが作戦の概要です」

 

そこで遂に口を開いた軍人さん。彼が机上のリモコンを操作すると、会議室の大型モニターが起動し工場の画像や地理、それに部隊の展開予定図等が映し出される。

 

「…この様に陸戦部隊で工場を包囲した後、屋内戦闘に長ける部隊を筆頭に制圧を開始する…というのが本作戦の概要です。しかし、問題はキラーマシンの存在」

「イリゼ様達のおかげで対キラーマシンノウハウが出来ているとはいえ、それが出来る人間は軍と言えどそう多くないというのが現状。余程大規模な作戦にするか、制圧ではなく殲滅を目的とするかでなければ軍の被害も馬鹿にならないでしょう」

「…そこで、私達の出番…という事ですね」

 

軍人さんの説明をガナッシュさんが引き継ぎ、ガナッシュさんの説明の結論を私が引き継いだ。…ま、具体的な役目はともかく私達にも参加してほしいのであろうって事は予想済みだったしね。

 

「その通りです。…誠に勝手ながら、我々軍は皆さんに先陣を切って頂き、可能な限りキラーマシンを排除してほしいのです」

「勿論、これは本来ルウィーの責任で行う事。わたし達は強制しない…というより出来ませんし、それ相応の対価も払うつもりです」

「えっと、つまり…アタシ達は協力して、ってお願いされてるって事?」

「はい。ご協力、どうか宜しくお願いします」

「わわっ、皆さんそこまで畏まらなくても!」

 

そう言ってミナさんに…ガナッシュさんや軍人さん、ずっと黙って待機していたフィナンシェさんも含めた四人に頭を下げられる私達。私やアイエフ辺りはそれを冷静に受け止めたものの、逆にネプギアは元々の性格も相まって完全にわたわたしてしまっていた。…これは放っておいたら勝手に了承しちゃいそうだよ…まぁ、私としてはそれでも構わないけどね。

 

「…じゃあ、どうするです?わたしは協力してあげたいと思うですけど…」

「アタシもです。キラーマシンとなれば、ラステイションの女神として無視は出来ませんから」

「アタシも二人に賛成!可愛い教祖さんと侍従さんに頼まれたら断れないもん」

「皆さん…あ、勿論わたしもです!」

「この段階で賛成四、ね…」

 

次々と上がる了承に、私はパーティーメンバーの相変わらずさと優しさを再確認。…けど、同時にもう一つ確認したい事があって、私の意思を言う前に質問を口にする。

 

「私は一人でどうとでもなるし、ネプギアとユニも油断さえしなければキラーマシン相手にも優位に立ち回れると思うけど…コンパ達はそこら辺どうなの?っていうか、二人はキラーマシンとの戦闘経験あったっけ?…MAGES.と一緒に起動前のキラーマシンを片っ端から潰していった事あるのは私も知ってるけど…」

「あーそれは大丈夫。足止めの為にイリゼが別行動してた時あったでしょ?その時私とコンパ、それに女神化出来なくなってたねぷ子の三人でキラーマシンを倒したもの。って事で、私も参加には賛成よ」

「今はねぷねぷはいないですけど…代わりにREDちゃんがいるですし、三人で動けば何とかなると思うです」

「そうだったんだ…なら大丈夫そうだね。…という事で、私達はその作戦に協力させて頂きます」

 

全員の意思を聞けた私は、一度佇まいを正して…パーティーとしての協力を明言した。……因みに今のコンパとアイエフの言葉を聞いた時、軍人さんは「少女三人でキラーマシンを、だと…?…世界は広いものだ…」…みたいな顔をしていた。…まぁ確かに、今は不在の別次元組含めうちのパーティーに所属してる人達は皆戦闘能力がおかしな事になってるもんね…。

 

「…皆さんのご協力を、心より感謝致します」

「いえいえ。…あ、でも私達は軍の指揮とは別に動かさせてもらってもいいですか?恐らく軍の指揮下で動くよりもそちらの方が上手く立ち回れるので…」

「それは勿論。むしろ女神様とそのご友人を指揮下に加えるなど、恐れ多いというものです」

 

協力するという事で話は進み、私達は軍人さんから作戦の詳細を説明してもらう。…と言っても私達の役目は『最初に突入してキラーマシンを破壊しまくる』という単純明解なものだから、ぶっちゃけ私以外はそこまで聞く必要もなかった。私は一応部隊長扱いという事で軍からの通信を聞いたり、有事の際に指揮官として動いたりするお仕事が出来たから聞いとかないと不味いんだけどね。

そうして数十分後、話を終えた私達は明日に備えて早々に解散する。さて、皆オフになったからって明日に障害が発生する様な事はしないだろうし…私も今日はゆっくり休ませてもらおうかな。

 

 

 

 

「ユニちゃん、いる?」

 

同日の夜。お夕飯もお風呂も終えて、明日に備えて後はもう寝るだけ…という段階になったけど、まだ寝るには早いし、今日は特に疲れる事もしていないから眠気もない…という事で手持ち無沙汰になっちゃったわたしは、何となくユニちゃんの借りてる部屋に出向いた。

 

「ネプギア?…あー、いるにはいるけど…」

「……?」

 

ノックと同時に声をかけたら、すぐに部屋の中からユニちゃんの返事が聞こえてきた。…けど、どうもその返答は歯切れが悪い。あれ、もしかして……

 

「…今、お取り込み中だった?」

「いや、別にそうではないけど…」

「そう?邪魔ならわたし、帰るよ?」

「うーん……ま、ネプギアならいっか…。多少散らかっててもいいなら入ってくれて構わないわ」

「それじゃあ、お邪魔するね」

 

ユニちゃんは数秒考えた後、わたしならいいらしくOKを出してくれる。わたしならどういいのか分からないけど…ちょっとその「ネプギアなら」って言葉がわたしを特別視してくれてるみたいで嬉しくなって、わたしは駆け足気味で扉を開ける。すると……その瞬間に、嗅ぎ慣れた臭いとあまり嗅ぎ慣れない臭い、その二つのツンとする臭いがわたしの鼻腔を刺激した。

 

「これって…あ、やっぱり……」

 

前者は機械油、後者は火薬。二つの臭いとユニちゃんの人となりから予想を立てて、扉を開けきると…予想通り、ユニちゃんは銃弄り…もとい、メンテナンスをしていた。…確かにこれはちょっと散らかってるね……。

 

「大丈夫だとは思うけど…部品がそっちに転がってるかもしれないし、足元には気を付けてよ?」

「あ、うん。これやってたから、最初微妙そうな反応したんだね」

「そうよ。アタシが銃のメンテ中してる姿は大概変わった目で見られるし…ま、アンタならそんな事ないんだろうけど」

「あはは、まぁわたしも似た様な事するからね。火薬の臭いはともかく、機械油の臭いはしょっちゅう嗅いでるし」

「アタシもよ。……変な女の子よね、アタシ達って」

「だね…」

 

重度のメカオタ女子に、重度のガンオタ女子。女神に子も大人もあるのかという話はおいといて…世間的にはかなりニッチな部類に入るという事をわたし達は自覚していて、だからこそお互いに苦笑を漏らす。……まあ、刀やバスタードソードを手入れするのもやっぱり普通の女の子っぽくはないし、そういう事言い出したらわたし達だけに留まらないんだけどね。

 

「にしても、いっぱい持ってきてるんだね…ワルサーP38とかトンプソン・コンテンダーとかもある?」

「それ大怪盗や魔術師殺しの愛銃じゃない…流石に持ってないわよ、興味はあるけど」

「そっかぁ…あのさ、ちょっと触ってみてもいいかな?」

 

メンテの邪魔にならなそうな位置に座ったわたしだけど…つい目線は置いてある銃に向かってしまう。だって、銃も『機械』の一種だもん。

 

「…壊したり部品懐に入れたりしない?」

「しないしない、っていうかわたしこれでも常識人のつもりだよ?」

「ならまあいいわ。…常識人云々はスルーとして」

「スルーされた…」

 

と言いつつも早速わたしは近くの銃を手に。うーんと、外見だけじゃ断定は出来ないけど…これはガス圧で装填するタイプかな?で、口径的には対通常モンスター用っぽくて、それでそれで…あ!これもしやレーザーサイト!?…か、格好良い…!

 

「どう?アンタも少しは銃の良さが…って、その様子だと少しどころか大分分かったみたいね」

「うん!…あ、それでさユニちゃん。わたしちょっと気になる事があるんだけど、聞いてもいいかな?」

「はいはいどうぞ」

「見たところどの銃も普通のモデルみたいだけど…光実複合型とか、万能タイプの銃は使わないの?」

 

これは実は、今ではなく少し前から気になっていた事。ユニちゃんは用途に合わせて銃を使い分けてるけど、わたしの知識と記憶が正しければラステイションの技術でも万能銃は作れる筈。勿論多機能型の万能銃は扱いが難しいし、コストも高くなるから量産には向かないけれど…ユニちゃんなら技量的にも立場的にも使えて当然なんじゃないのかなぁ…。

 

「あぁ…使うわよ?特注品を徹底的にカスタムした、アタシの相棒とも呼べるライフルだってあるし」

「でも、ここにはないよね…?」

「そりゃそうよ。万能銃は整備が面倒だし、消耗部品も簡単には用意出来ない…ってのは分かるでしょ?そんな銃を、ホームであるラステイションから離れてる時にほいほいと使うと思う?」

「あ、そっか……」

 

銃を組み立てながらの説明に、わたしは合点がいった。確かにその通り、どんなに良い武器でも整備が出来なければ役に立たないし、希少なパーツや脆い部品はおいそれと使えない。だからユニちゃんは一つの万能銃じゃなくて、どこでも整備が出来て運用出来る個別の銃を複数使うという事だった。…こういう堅実さ、ユニちゃんらしいなぁ……。

 

「っていうか、ネプギアのビームソードも整備に難があるでしょ?アンタはどうしてるのよ」

「わたし?わたしは…部品が調達出来ない時は、用意出来るものの中から代用品作っちゃうかな。それ用にジャンク品集めてたりもするし」

「…作っちゃう?」

「うん。流石に正規品と同性能…とはいかないけど、それなりの物なら作れるからね。それに、上手くいけば予想してなかったメリットが生まれたりもするんだ」

「…やるわね、ネプギアも……」

「ふふっ。でも確実さにはやっぱり欠けるし、わたしも少しはユニちゃんを見習おうかな」

 

なんて、わたし達は女の子らしさ皆無の話題に花を咲かせる。もし知り合いが今のわたし達を見たら、きっと呆れちゃうんだろうけど…わたし達自身が楽しいんだから、いいよね。

けれど、流石にユニちゃんが銃のメンテナンス中という事もあってあんまり深い話にはならず、数十分程したところで一度会話が途切れる。そうして数十秒程無言の時間が続いて……わたしは、ぽつりと思っていた事を漏らす。

 

「……どうして、明日の作戦にロムちゃんとラムちゃんは参加しないんだろう…」

 

会議室で細かい内容を聞いた時から、頭の隅でわたしはそう考えていた。他国の女神が手出しする事じゃない…とは思わないけど、一緒に参加する軍人さん達にとってはわたし達よりロムちゃんラムちゃんの方がいいんじゃないのかな…。

 

「そりゃ…二人がまだ子供だからでしょ。キラーマシンはそこらのモンスターとは違うし、突入後敵になるのは機械だけじゃないんだから、二人に任せるのは不安を感じるのも無理ないわ」

「そういう事なのかな…確かに二人だけで先行させるっていうのはわたしも不安を感じるけど、それならわたし達と一緒に…って案だってあるし…」

「それは、その…アタシ達との仲が良くないから…」

 

言い辛そうな顔をするユニちゃん。その言葉を聞いて、わたしはつい……ううん、本当はずっと思っていた事を…口にする。

 

 

 

 

「──このままで、いいのかな?…本当にこのまま、二人に何もしないままで…いいのかな…?」

 

ユニちゃんは、何も答えてくれない。けれど、分かる。これは答えられないとかじゃなくて、わたしの言葉の続きを待ってるんだって。

 

「分かってるよ?簡単に何とか出来る事じゃないって。わたし達がお姉ちゃん達を助けて、ブランさん自身の口からあの時の言葉を撤回してもらうのが一番楽且つ安全だって。……でもさ、それって…なにか、違うと思う」

「…………」

「別に、辛い事から逃げないのが正しいとは言わないけど…二人の思いに向き合わないで、勘違いやすれ違いを放置して、わたし達がここで何もしないのは…なんていうか、その……」

 

自分から切り出した事なのに、言葉が尻窄みになってしまう。一番大事な結論の部分が上手く言えずに口籠るなんて、感情が先走った行動の最たる例で、二人の抱えてるものを知ったあの時感情的に動いたりせず冷静に判断を下したイリゼさん達が、如何に的確だったかわたしは思い知る。…でも、それでもわたしはこの気持ちを心の中にしまって見ない様にする事が出来なくて、だから……

 

「……放っておけない、って事でしょ?何とかしてあげたい、力になりたいって事でしょ?…同じ気持ちを抱いた女神候補生だから、同じ立場の妹だから、二人を助けたい…そういう事よね?ネプギア」

「…ユニちゃん…どうしてわたしの気持ちを……」

「どうしてって…そりゃ、アタシも同じ気持ちだからに決まってるでしょ…」

 

銃を置いて、ユニちゃんはちょっと恥ずかしそうにしながらもわたしへ身体ごと向き直ってそう言った。わたしと同じ気持ちなんだって、そう言ってくれた。

その瞬間、わたしの心に炎が灯る。その炎に突き動かされる様に、わたしはこの気持ちと共に秘めていた思いを言葉にする。

 

「じゃあ…じゃあさ、やろうよ!わたしとユニちゃんで、ロムちゃんラムちゃんと向き合おうよ!わたし達なら、同じ女神候補生のわたし達ならきっと大丈夫だよ!だから……」

「…もし失敗したら、二人をもっと追い詰める事になったら…その時は、謝って済む事じゃなくなるわよ?」

 

わたしの言葉を、ユニちゃんが制す。真剣な表情で、勇み足の様になっているわたしへ再確認を取る様な雰囲気で制す。

 

「もしそうなれば謝って済む事じゃなくなるし、きっとイリゼさん達にも監督責任が発生するわ。アタシ達は女神だけど…イリゼさん達にとっては庇護対象でもあるんだから。二人にも、ルウィー教会にも、イリゼさん達にも迷惑をかける可能性もあるって事を分かった上で、それでも…言える?」

「……そう、だよね…うん。わたしまた浅はかだった。ユニちゃんに言ってもらえなきゃ困ってたよ」

「なら……」

「──でも」

 

ユニちゃんに言われた事を受け止めて、よく考えて……わたしの考えに、思いに組み込む。そして……今度は、わたしがユニちゃんを制す。制して、今度ははっきりと言葉を紡ぐ。

 

「それでも、わたしは二人を助けたい。だって……それが、わたしの目指す女神だから。危険だとしても、わたしはより満足出来る方へ進みたいから。それで、もし駄目だったら…最悪の結果になったら、その時はきちんと責任を取るよ。責任は…責任を取る覚悟は、あるよ」

「……ったく、ほんっとアンタは普段気弱気味なくせにこういう時は全力で強気を取るわね。…だったら、やるわよ。二人でロムとラムの気持ちを全部受け止めて、力になって…それで、仲間になるわよ、ネプギア!」

「うんっ!」

 

決意は固まった。覚悟も決めた。そして何より、同じ思いを抱く仲間が…友達がいる。ならもう後は動くだけ、目標に向かって走るだけ。ただ、それだけ。

わたし達は立ち上がる。立ち上がり、扉を開け、そして二人の元へ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「────それは、私に止められたとしても…貫ける思いなの?」

 

扉を開けた先。その先の廊下に…イリゼさんはいた。腕を組んで、壁に背を預ける形で立っていた。イリゼさんの姿に、わたし達は凍りつく。

 

「い、イリゼ…さん…?…いつから、そこに…?」

「少し前から、ね。内緒話をしたいなら、最低限戸締りは確認するべきだと思うよ?」

「……っ!…ご、ごめんユニちゃん…もしかしたら、わたしちゃんと扉閉めてなかったかも…」

「この馬鹿……!」

 

イリゼさんには厳しい目で、ユニちゃんには怒った目で見られる。…全くもって、わたしは言い訳が出来ない。前者はともかく後者は完全にわたしのミスだから、言い訳のしようがない。

 

「姉妹揃ってどこか抜けてるよね、ネプギアは……で、どうなの?私に止められても、二人はロムちゃんラムちゃんのところに行くの?」

『……っ…』

「悪いけど、時間はあげないよ?明日は重要な作戦があるんだから、ここできっぱりと答えられない様なら行かせないし、二人にはこの事をきっぱりと諦めてもらう。……私も、覚悟を持って動いてるんだから」

 

イリゼさんの言葉に、イリゼさんの気迫に、わたし達はたじろぎそうになってしまう。そして同時に気付く。イリゼさんも、イリゼさん達も安易に二人と接しない事を選んだんじゃなくて、よく考えて覚悟を決めた上でそうしていたんだと。……やっぱり、わたしはまだまだ学ぶ事が多いんだね。…でも、イリゼさん、わたしは…わたし達は……

 

「…行きます。例えイリゼさんに反対されようと…わたし達は、二人を助けます!」

「それがアタシ達の覚悟です!これは譲れません!」

「そっ、か……ならッ!」

『……っ!』

 

わたし達の決意を聞いたイリゼさんは、ゆっくりと頷いて…次の瞬間声を荒げ、どんっと一歩踏み込んだ。

そこにいたのは、国を守るのに何の遜色もない女神。同じ女神であるわたし達ですら畏怖をしそうになる迫力を纏ったイリゼさんは、わたし達の──

 

 

 

 

 

 

「……頑張ってね。ネプギア、ユニ」

 

……背中を、押してくれた。すっとわたしとユニちゃんの間に入って、優しい微笑みを浮かべながらわたし達の肩を叩いてくれた。叩かれたのは肩だけど…その時わたしは、本当に背中を押された様な気がした。

わたし達は、ロムちゃんとラムちゃんの元へと向かう。イリゼさんはそれ以上は何も言わず、わたし達も何も返さなかったけど…わたし達の気持ちも、イリゼさんの思いも互いに相手に伝わっている。そう思えたから、わたし達は迷わず進む。心の中で、感謝を込めながら。

 

──はい。ユニちゃんと頑張りますね、イリゼさん。

 

 

 

 

強い意志を持った足取りで二人の元へと向かうネプギアとユニを、見送る。見送りながら、私はつい苦笑いを漏らす。

 

「……まさか、このタイミングでとは…ね」

 

ここに来たのは、本当に偶然だった。なんて事ない用事で偶々ここを通ったら、僅かに開いてた扉から二人の話が聞こえてきて、二人の決意を知っただけだった。だから、これは100%想定外の展開。だけど、

 

(…二人なら、そうするとは思ってたよ)

 

私だって、ロムちゃんラムちゃんを放置なんてしたくなかった。でも幼い二人に私の言葉を聞いてもらうのも、二人に思いを吐露してもらうのもあまりにも難しいと思っていたから、私からアクションを起こす事はなかった。

でも、内心実はネプギアとユニに期待していた。二人なら双子と話せるかも、気持ちを共有出来るかもって期待して、二人が動くのを待ってる自分が心のどこかにいた。コンパやアイエフ、それにひょっとしたらREDもそんな私の思いに気付いて何も言わなかったのかもしれない。……指導してる候補生達に期待して任せるなんて、ちょっと情けないかもね。でも……

 

「……二人は仲間でもあるから。仲間を信頼するのは、何も変じゃないよね」

 

私とネプギアユニは、そういう縦の関係もあるけど…仲間という対等の関係もまたあるって私は思ってる。だからこそ時には怒るし、時にはこうして頼りにする。……それでいいんだと、私は思ってる。

 

「さて…じゃ、私は二人の事を説明してくるとするかな」

 

私が向かうのはミナさんの所。この事は一応言っておかなきゃいけないし、万が一の事を考えて明日に影響する可能性を伝える事もしなきゃいけない。場合によってはミナさんや軍を説得しなきゃいけないし、明日の作戦における私の負担が大きくなるかもしれないけど…それでもいい。二人にロムちゃんとラムちゃんの事を任せたんだから、代わりに二人のフォローをしなきゃ仲間とは言えないもんね。二人は二人の出来る事を、私は私の出来る事をする。それでいいんだよ。……それが、仲間なんだから。




今回のパロディ解説

・大怪盗
ルパン三世シリーズの主人公、ルパン三世の事。言うまでもなくワルサーP38は拳銃なので、ユニは恐らく使いません。まぁそもそも入手出来るか否かの問題がありますが。

・魔術師殺し
Fate/ZEROのメイン主人公、衛宮切嗣の事。トンプソンはその性質上、現実の実戦で使われる事は滅多にありませんが…ユニなら興味を持ってもおかしくないでしょう。

・「〜〜覚悟は、あるよ」
ガンダムSEED Destinyの主人公の一人、キラ・ヤマトの台詞の一つのパロディ。この台詞だとネプギアがユニに銃向けてるっぽくなりますね。丁度銃がその場にありますし。

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