超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第二十六話 封じ込めた思い

トイレに行っていた筈が大幅な変更寄り道をしていたネプギアと、そのネプギアを探しに行っていたユニが私達の元へと戻ってきてから数十分後。そこそことはいえ情報収集が出来た事、そして二人が合流した頃には陽も大分暮れてしまった事を理由に私達は教会へと戻った。うぅ、長時間外でただ待ってたせいで、完全に身体が冷えちゃったよ…。

 

「偶然トイレに行ったら迷って、しかもその先で丁度困ってる人を発見なんて、ネプギアも人助けの神に愛されてるわね。ネプギア自身女神な訳だけど」

「しかもその困っている人がロムちゃんという、ね。二人に協力してほしい私達側からすれば、棚から牡丹餅だけどさ」

「あはは…ほんと、すいませんでした…」

「ギアちゃんは良い事をしたんですから、謝らなくてもいいんですよ。…途中で連絡をくれたら、もっと良かったですけど…」

 

コンパの言葉に、私達はうんうんと頷く。人助けそのものは褒められる行為だけど、人付き合いや社会において重要な『ほうれんそう』を全部忘れて私達に待ちぼうけをくらわせた事は頂けない。今回は何でもない時だったからいいけど、切羽詰まった状況だったら色々と不味いしね。

 

「まあまあ、話はその位にしてご飯にしようよ。皆もお腹空いてるでしょ?」

「ま、それはそうだね。ネプギアも故意だった訳じゃないし、この辺にしてご飯にしようか」

 

上手くネプギアをフォローしようと思ったのか、単にお腹が空いていただけなのかは分からないけど…REDは話の流れを変えた。それに私も乗って流れを後押しし、私達はルウィーの食堂へ。

 

「〜〜♪」

「…なんか楽しそうだね、RED」

「うん。一人旅の時はお金を気にしたりしなきゃいけなかったけど…今は『女神御一行』という事で美味しい料理を好きに食べられるからね〜」

「あ、あそう…」

「ふふっ…別にREDの肩を持つつもりじゃないけど、気持ちは分かるわ。一人旅は気楽だけど全部自己責任だから、一人旅した事ない人が思ってる程自由じゃないのよね」

「お、さっすがアイエフ!RED的に嫁ポイント高いよ!」

 

謎のポイントの発生に苦笑いしつつ食堂へ入る私達。時間が時間という事もあり、食堂はそこそこ賑わっていたけど…どうやら、理由はそれだけじゃない様子。

 

「んしょ…んしょ…」

「はいはーい、これ終わったわ!」

「あれ?あの子って……」

 

可愛らしいエプロンを着けて、お皿を運んだりテーブルを拭いたりしている二人の少女。その二人は…どう見ても、ロムちゃんとラムちゃんだった。

 

「な、なんで候補生二人がこんな事を…」

「さ、さぁ…ネプギア、アンタは食堂で手伝いした事ある…?」

「ううん、後片付けの手伝いは偶にするけど…特に理由がない限り、食堂は使わないもん」

「アタシもよ…ルウィーはこれがルールなのかしら…」

「いえ、あれはロム様への罰ですよ」

 

ちょこちょことお手伝いの為に食堂を走り回る二人はとても愛らしく、見ているだけでほんわかとした気分になる。そんな二人が食堂の賑やかしとなっているのは明白だった。…というか、幼女が食堂的な場所で料理関連の事してるってどこの極東支部だろう…。

それはともかく、何故二人がこんな事をしてるんだろうと疑問を抱く私達。そんな私達に答えてくれたのは、後ろからの声だった。

 

「あ、ミナさん…」

「皆さんこんばんは。先程はロム様を助けて頂きありがとうございました」

「助けたなんて、そんな…わたしはちょっと手助けしただけですよ」

「そうですか?ロム様はその事を『ネプギアちゃんが、ずっと一緒にさがしてくれたの』と、嬉しそうに言っていましたよ?」

「ロムちゃんが、ですか?…そっか、そうなんだ……」

 

ミナさんからロムちゃんが嬉しがってた事を聞いて、こちらもまた嬉しそうな反応を見せるネプギア。そんなネプギアにユニが茶々を入れ、ネプギアがちょっとわたわたしながら突っ込むというやり取りの後、話は進む。

 

「それで…罰というのは?」

「黙って遅くなるまで出かけていた事に対して、です。全く、今は犯罪組織もいるというのに…」

「あ、あの…それってわたしが連れ回したせいですよね。その、ごめんなさい…」

「い、いえ!さっきも言った通り、わたしもロム様も感謝しているのですから、気にしないで下さい!」

「そ、そうですか?…あれ?でもそうなると…どうしてラムちゃんまで?」

「一緒にやりたい、とラム様自身が言ったんです。…ですがあの調子では、あまり罰になりませんよね…」

『あはは……』

 

罰、というよりゲーム感覚でお手伝いをしている二人と、それを見て溜め息を吐くミナさんを見て私達は苦笑いを漏らす。…っていうか、ミナさんとロムちゃんラムちゃんだと親子感が凄い……。

 

「ま、まぁそういう事ですので、皆さんはお気になさらず…」

「あ、はい…じゃあ改めて皆、ご飯に……」

「あーーっ!」

 

意外なお手伝いさんの存在に気を取られていたものの、私達の目的はあくまで晩ご飯。という事で奥へ進もうとした私達だったけど、それよりも前に食堂中へ大きな声が響き渡る。その声の主は……ラムちゃん。

 

「あらわれたわねロムちゃんをゆーかいした悪い女神!またゆーかいしようったって、そうはいかないんだから!」

「え……えぇっ!?」

「今すぐわたしが……えーっと、そこのおにーさん!これ持ってて!」

「え?……あ、はい…」

「こほん。…今すぐわたしが叩きのめしてあげるわ!」

 

持っていた食器を近くの職員さん(食事中)に渡し、ラムちゃんは腕まくり…っぽい仕草をしながらこちらへずんずんとやってくる。…なんか、また早とちりされてない…?

 

「……ネプギア、言い返してやったら?」

「い、言い返すって…えと、わたしは誘拐なんてしてないよ…?」

「ふーん。ロムちゃんにはそう言ったみたいだけど、わたしはだまされないわ!○○してあげるからおいで、っていうのはゆーかいはんのじょーとーしゅだんだもの!」

「そ、それは…そうだね…」

「ちょ、何認めてんのよネプギア!それはそうかもしれないけど、アンタはそれ目的じゃなかったんでしょ?てかそもそも、それ知り合いじゃない場合だから!」

「それも確かに…でもユニちゃん、わたしラムちゃんを説得する自信が……」

 

ラムちゃんとユニに強い口調で言われてたじろぐネプギア。相変わらずネプギアは強い口調で言われると弱いらしく、今は軽い板挟み状態になってしまっている。そして……そこにやってくるのは、この話の当事者でもあるロムちゃん。

 

「あ……ネプギアちゃん…」

「ちょ、丁度いいところに…ロムちゃん、ラムちゃんを説得してくれないかな?わたしには難しくて……」

「さ…さっきは、ありがと…」

「へ?…う、ううん。さっきも言ったでしょ?わたしはそうしなきゃと思って、ロムちゃんと仲良くなりたいと思ってやっただけだって」

「ネプギアちゃん……」

「ふふっ。もう無くさない様にね?」

 

ぎこちないながらも小さな笑みを見せるという、昨日とは全然違う様子のロムちゃん。ネプギアも初めは説得をしてもらおうとしていたけど…ロムちゃんの雰囲気に流されたのか姿勢を低くし二人の世界へ。

その瞬間、私は「あ、不味いな…」と思った。だってさ、今ラムちゃんご立腹なんだよ?そんな中、ロムちゃんが自らネプギアに話しかけて、ネプギアも楽しそうに返してるんだよ?そんな事が目の前で起きれば、そりゃまぁ……ラムちゃんの怒りは限界突破するよね…。

 

「う、うぅぅぅ……ふしゃーーッ!」

『ら、ラムちゃん!?』

 

なんかもう、威嚇してる時の猫みたいな感じになってしまったラムちゃん。それに気付いたネプギアとロムちゃんは止めようとするけど、もう止まらない。

 

「もう絶対、絶対、ぜーったいにゆるさないんだから!せんせんふこくよせんせんふこく!むきーっ!」

「せ、宣戦布告!?また戦うの!?」

「当たり前よ!ロムちゃんを取ろうとするやつなんかぶっとばすに決まってるじゃない!ロムちゃんもどいて!」

「あ、え…ら、ラムちゃん…?」

「っていうか、なんであんたはロムちゃんにちょっかいかけようとするのよ!そっちのユニ一人じゃ不満なわけ!?」

「ちょっと、なんかその言い方は変な意図がある様に聞こえるんだけど…」

 

昨日以上に牙を剥くラムちゃんは最早ロムちゃんもテンパる程。私とミナさんは流石にこれは危険と判断し、機を見て割って入ろうとする。

……けど、それは叶わない。ヒートアップしていたラムちゃんはもうそんな隙も見せてくれず…何より、もう流れは『それ』へと向かってしまっていたのだから。

 

「表に出なさいネプギア!さぁほら!」

「ほ、ほんとに違うんだってラムちゃん!うぅ、どうしたら信じてくれるの…」

「信じるもなにも、なにしに来たのかすらよくわかんないやつの事なんて信じられる訳ないでしょ!」

「……!ラム様、それはわたしが後から話しますから、ね?」

「わたしはネプギアの口から聞きたいの!」

「ですが……」

「…いい機会じゃない。ネプギア、ラムの言う事も一理あるわよ」

「だよ、ね…うん。ラムちゃん、それにロムちゃん。わたし達はね、二人に協力してもらいにきたの」

『協力…?』

「そう。こんな状況で言ってもわざとらしいかもしれないけど…わたし達は、お姉ちゃん達を助ける為の旅をしてるの。だから、お姉ちゃん達を…ブランさんを助ける為に、協力してくれないかな?」

『……──ッ!!』

 

──その瞬間、空気が凍り付いた。ロムラムの二人が、だとか私達の周りが、とかのレベルではない。その瞬間に、その場全てが…食堂全体の空気が、凍り付いてしまった。

 

「……あ、あれ…?」

 

思いもよらない激変に、ネプギアは…私達は驚きを隠せない。もしネプギアがとんでもない事を言ったのなら、こうなるのも分かる。けど、ネプギアは何も変な事は言っていない。強いて言えば、ミナさんに待つよう言われていた事だけど…それでも、空気が凍り付く事は全くもって理解が出来ない。

 

「ろ、ロムちゃん…?ラムちゃん…?これって、一体…」

「し、知らない……」

「そんな…わたしは、わたしはただお姉ちゃん達を…「言わないでッ!」……え…?」

 

ネプギアが再び言おうとした瞬間、ラムちゃんは叫んだ。叫んで、ロムちゃんと共に食堂を出ていってしまった。──姉の存在を口にした瞬間に、二人は出ていってしまった。

 

「え…え……?」

 

何が何だか分からない。そんな様子でネプギアは周りを見回すけど…私もコンパもアイエフも、REDやユニだって何も答えられない。だって、私達にも分からないから。

……そんな中で口を開いたのは、ミナさんだった。

 

「……お二人は…ロムとラムは、ブラン様の事を思い出さない様にしているんです」

「は、い……?」

「…お話します。何故、わたしがすぐに返答出来なかったのかを…二人がギョウカイ墓場から帰ってきてから、一体何があったのかを」

 

 

 

 

ロムちゃんとラムちゃんは、わたしやユニちゃんと同じく傷心のままルウィーへと逃げ帰ってきたらしい。帰ってからはお姉ちゃんに拒絶された辛さとまるで戦いの役に立てなかった情けなさに泣いて、その後いつまで経ってもお姉ちゃん達が帰ってこない事にショックを受けて…というところまでは、わたし達と全く同じ。そこからわたしは暫く腑抜け状態になってて、ユニちゃんは理想を妥協してでもノワールさんの代わりになろうとして…という違いはあったけど……ロムちゃんラムちゃんは、それ以上にわたし達とは違っていた。

 

「……ブラン様を姉として慕っていた気持ち、ブラン様が帰ってこない事への寂しさ、帰ってこない一因が自分達にあるという罪悪感、そして何よりブラン様が自分達を好きでいてくれる姉でなくなってしまった事への絶望…その様な感情が折り重なった結果、ある時二人はブラン様の事を口にしなくなりました。それこそまるで、ブラン様が初めからいなかったかの様に」

 

だから、自分達職員も二人の前ではその話をしない様にしていた…とミナさんは付け加える。…話をしている最中のミナさんは、凄く複雑そうな顔をしていた。

気持ちは、分かる。わたしとロムちゃんラムちゃんとは完全に同じ立場で、同じ辛さを味わったんだから。でも、一つだけ納得がいかない。二人はブランさん…お姉ちゃんに本気で拒絶されたって思ってるみたいだけど、それは……

 

「…違いますよ…確かにあの時わたし達は酷い事言われましたけど、あれはお姉ちゃん達の本心なんかじゃないんですよ…逃げる度胸も無かったわたし達を、それでも何とかギョウカイ墓場から逃がす為に言った事で、わたし達を嫌ってなんか……」

「分かってます。二人から話を聞いた時、わたしも思いました。ブラン様はそんな冷たい人じゃない、と。…ですが、二人は候補生の中でも特に幼く、ブラン様と会ったのもあの戦闘きりです。…そんな二人が、ブラン様達の真意に気付けると思いますか?」

「それは……」

 

気付ける…とは言えない。わたしだって、お姉ちゃん達の真意に確信を持てたのは調査の時に無事でよかったって、あの時はごめんねって言われて以降だし、そもそもわたしやユニちゃんだって一度は拒絶されたと思ったからこそ逃げ出した訳だから。…だけど、やっぱり納得いかない。

 

「でも、だからって…辛いからって、お姉ちゃんの事そのものを触れない様にするなんて……」

「…二人にとっては、そうでもしないと耐えられなかったんだと思います。二人なりの処世術なんです、きっと…」

 

そういうミナさんの顔は、悲しそうな色が浮かんでいた。…わたしは納得出来ないけど…ミナさんがそういうんだから、きっとそうなのかな……。

 

「もっと早く、話しておくべきでした。迷っていた結果がこれでは、本末転倒ですよね…」

「わたしこそ、すいませんでした…わたしが言葉選びに気を付けていたら…」

「…気にする事はないよ、ネプギア。これは良い事ではないけど…お姉ちゃんが禁句なんて予想する方が難しいもん。今回は間と運が悪かったのであって、ネプギアのせいじゃないよ」

「でも……」

 

そう言ってイリゼさんはフォローしてくれたけど…わたしの心はすっきりしない。

 

「…イリゼさん、ロムちゃんラムちゃんの事を放っておいたりはしませんよね?何とかしてあげますよね?」

「それは……うん、出来る範囲の事をするつもりではあるけど…」

「…イリゼ、さん…?」

 

わたしは、イリゼさんの顔を見る。イリゼさんはわたしが無理な道を歩もうとした時は窘めてくれて、わたしとユニちゃんが喧嘩した時は上手くお膳立てしてくれた、わたしにとっては頼れる人。だから今もきっと『よし、なんとかしよう』と言ってくれると思って見たけど……イリゼさんは、そうは言ってくれなかった。イリゼさんは、ただ曇った顔で曖昧な言葉を返しただけだった。

 

「…ごめんね、ネプギア。ネプギアの気持ちは分かるけど…今回に関しては、即答出来ない」

「そんな…」

「…その通りね。これについては私も感情を先行させない方がいいと思うわ」

「二人の事は心配ですけど…大事だからこそ、よく考えなきゃですもんね…」

「…ミナさん。事情が事情ですし、私達が今後二人に対してどう接するかは…こちらで少し、相談します」

「…はい。お願いします」

 

そうして話は終わってしまった。わたしはロムちゃんとラムちゃんの事に納得出来ないまま、イリゼさんやアイエフさん、コンパさんの判断にも納得出来ないままで終わってしまった。

確かに、簡単に何とか出来る事ならミナさんや職員さん達が何とかしていただろうし、二人がブランさんの事を心の奥底に封じ込めてしまっているならよく考えて接するべきだとも思う。わたしは具体的にどうするかもまだ思い付いてなくて、きっとわたしよりイリゼさん達の判断の方が正しいんだと思うけど……

 

 

 

 

「……そこは、もっと強気になってほしかったです…」

 

……この時、少しだけ寂しい気持ちになるわたしだった。




今回のパロディ解説

・RED的に嫁ポイント高いよ!
やはり俺の青春ラブコメは間違っているの主人公の妹、比企谷小町の代名詞的台詞の一つのパロディ。嫁ポイント云々をアイエフに言うと原作無印っぽいですかね…?

・幼女が食堂的な場所で料理関連の事してる
GODEATERシリーズの登場キャラクターの一人、千倉ムツミの事。こちらは食堂ではなくラウンジですし、食事関連の事もしてるので、実際には結構違いがありますね。

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