超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第二十五話 ほんの少しの優しさで

翌日。ミナさんの回答待ちでロムちゃんラムちゃんと行動を共に出来ない私達は、ルウィー郊外の状況確認を兼ねてクエストを行った。

 

「…雪って、戦闘だとかなり脚を取られるんですね…」

「そうね。場所によって雪が固まってる部分と柔らかいままの部分があるから、雪の大地で戦う時は常にそれを頭に入れておいた方がいいと思うわ」

「スケートを履いて戦えばその心配もないんじゃないかな?それか、雪ゾリに乗って戦うとか」

「それをほんとに出来そうなのはREDさん位ですよ…まさか玩具を武器に戦う人がいるなんて…」

「そんなに変?ヨーヨーを使うスケ番さんとかけん玉を武器にする玩具屋の息子さんとかいるよ?」

「両方創作じゃないですか……」

 

クエスト帰りの道中にて、今回の反省…の様な雑談を交わす私達。件のREDは、ネプギアの言う通り本当に玩具を…具体的にはヨーヨーやけん玉やフリスビーや本等を武器に戦っていた。私達が剣やら銃やらカタールやらを構える中、真剣な顔で玩具を構えるREDの様子は凄くシュールだった。……それを言ったらでっかい注射器構えてるコンパも大概だけど。もっと言えばゲマという謎のクッション(ボール?)を武器にする人も友達にいるけど。

 

「しかし…何かする度身体の芯まで冷えちゃうのは厄介だよね。……お風呂に入りたくなるし」

「寒さは悪い事ばかりじゃありませんよ?ビーム火器の排熱が捗って運用し易くなりますし」

「排熱か…でもその分引き金引く指が震えて大変だったりしないの?」

「寒さで指が震えるのは火器も近接武器も同じですよ」

「それもそっか。かといってもこもこの手袋着けてたら戦闘に支障出るし、気候は案外侮れないよね」

「健康面でも侮っちゃ駄目ですよ?……あれ?」

 

私の方を向いてそういうコンパ。それに私が頷こうとしたら…それよりも前にコンパは不思議そうな表情を浮かべる。……どうしたんだろう?

 

「…下っ端さんです」

「下っ端?…私と下っ端じゃ160度位違うと思うんだけど…」

「正反対まではいかないんですね…そうじゃなくて、あそこに下っ端さんがいるです」

『へ?』

 

きょとんとしながらコンパの指差す先へ目を凝らす私達。すると…そこには、確かに下っ端がいた。……後、よく見たら子猫もいた。

 

「な、何してるのかな…?」

「動物虐待してる…様には見えないわね。となるとアタシ達を尾行していたって事も無いのかしら…」

「尾行、ね…近付いてみる?声が聞こえる距離までいけば、何してるか分かるかもしれないわよ?」

 

アイエフの提案に、私達は首肯。建物や誰かが作った雪だるまの陰に隠れながら少しずつ近付き、十分かな…と思ったところで二組に分かれて聞き耳を立てる。そうしたところで聞こえてきたのは……

 

「はーぁ、どうして行く先行く先で女神とその仲間に会うんだっての…アタイは女神につけられてるのか…?」

「…なんか、愚痴ってますね……」

「わたし達、悩みの対象になってるみたいですね…」

「しかも、偶然今のアタシ達の行動にドンピシャな事言ってますよ…」

「…な訳ネェか…上司は成功か失敗かでしか見ネェし、下の奴等は失敗しても自分の責任じゃないとか考えやがるし、女神共には変なあだ名付けられるし、これじゃしがない中間管理職だっつーの…」

「…な、何やら下っ端の背中から哀愁が……」

「ちょっと可哀想だから、アタシが貰ってあげようかな…」

「いや犯罪組織の構成員を嫁にするのは止めなさいよ…それ以前に突っ込むべきところも色々あるけど…」

 

子猫を相手に愚痴(それも結構社会人っぽいものを)を漏らす下っ端は、何とも言えない雰囲気を醸し出していた。…嫁に貰うつもりはないけど、確かにちょっと可哀想になってきた……だからって悪事を見逃したりはしてあげないけど。

 

「…で、伝わってる筈もネェのにどうしてお前はずっとここにいるんだよ」

「うにゃ…にゃ〜…」

「…さっぱり分からネェ……が、多分こういうパターンだと腹減ってんだろうな。ほら、食いかけのパンでもいいならやるよ」

「にゃ!?にゃにゃーっ!」

「やっぱ腹減ってたのか…一応お前は愚痴を聞いてくれた猫だからな、そいつは礼としてとっとけよ。じゃあな」

「にゃう〜!」

 

懐から取り出したパンを置いて立ち去る下っ端。その背に声をかける子猫の鳴き声は、どこか礼を述べてる様にも聞こえた。

 

「…し、下っ端さんが良い人に見えるです……」

「見える、というか良い人でしたね…」

「えっと…どうするの?追っかけるの?」

「いや…現行犯じゃない以上、捕まえても裁くのは難しいわ。…最も、ここにいる三人の女神の内の誰かが職権濫用してくれるなら話は別だけど」

「それ絶対メリットよりデメリットの方が多いじゃないですか…アタシは嫌ですからね?」

 

予想外の行動をされ、またその行動というのが善意的なものだった事でパーティーはそこそこに騒ついた。そして結局、告発が難しいという事もあって今回は見逃す事にしたのだった。

……そんだけだよ?うん、そんだけそんだけ。特に変わった事なんてないもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ライヌちゃん…」

「ライヌちゃん?」

((ペットの事思い出してる……))

 

 

 

 

「あ、あのー…ちょっと席を外しても宜しいでしょうか…?」

 

下っ端を見逃してから数十分後。全員で街中を回っていたところ…わたしは遂に、『それ』を我慢出来なくなった。

 

「……?寄りたいお店でもあったの?」

「いえ、寄りたいところはあるんですけど、お店じゃないっていうか…」

「気分が悪くなっちゃったですか?」

「そうでもなくて…その、すぐ終わらせてくるので皆さんはお気になさらず……」

 

理由を適当に誤魔化して皆から離れるわたし。わたしの求める場所がありそうな所を探しつつ、小走りで移動を始める。女の子として出来ればバレたくないし、すぐ行ってすぐ戻って詮索されない様にしなきゃ……

 

「うーん…あ、分かった!トイレだね?ここ寒いもんねー。早く行ってきなよネプギア!」

「お、大きな声で言わないで下さい!」

 

──と、思っていたけどあっさりバレてしまった。…うぅ、どうしてこんな時だけ察しがいいのREDさん……。

…そ、それはともかく席を外したわたし。無事トイ…用事を済ませたわたしは、ほっとしながら来た道を引き返す。

 

「ふぅ、思ったより時間がかかっちゃった…早く戻らないと」

 

記憶を頼りに歩く事十数分。時間をいちいち気にしながら探してた訳じゃないから絶対ではないけど…感覚的にはもう皆と合流出来てもおかしくない筈。なのにわたしは「確かこの辺だった様な…」と思う場所に来ても誰にも会えず、周りの建物も始めて見る様な気のするものばかり。……あれ、これってまさか…

 

「もしかしてわたし、迷子になっちゃった!?いい歳して迷子!?……うぅ、困ったなぁ…」

 

いい歳もなにも、女神候補生は全然身体&精神と生まれてからの時間がミスマッチだけど…それでも迷子というのは恥ずかし過ぎる。『お客様にご連絡します。白と紫のセーラー服を着た、とても幼児とは思えない外見のお子さんのお連れの方は、迷子センターまでご足労下さい』とか言われたら……うわぁ、考えただけで顔が赤くなってきた…!

 

「……っと、そ…そうだ。何を慌ててるのわたし。こんなの電話をすればすぐに解決なのに…」

 

ここは街の中で、携帯端末はいつも持ち歩いているから、皆に連絡を取れない筈がない。迷子になった事を話すのはちょっと恥ずかしいけど、迷子センターで保護されるよりはずっとマシだもんね。えーっと、取り敢えずイリゼさんに連絡を……

 

「ふぇ…どこ…?ぐすっ……」

 

──そう思った瞬間、十字路から今にも泣き出しそうな(というかもう涙目)小さい子が姿を現した。水色と白の帽子に、同じく水色と白のコートを着たその子は……どう見ても、昨日二度顔を合わせたルウィーの女神候補生の一人、ロムちゃんだった。

 

(…どう、しよう……)

 

突然の事に戸惑うわたし。…今はわたし一人。もし昨日みたいな流れになったら、その時はわたしだけで戦わなくちゃいけなくなるし、そうなればわたしもロムちゃんも大怪我しちゃうかもしれない。勿論、比較的戦闘に積極的じゃなかったロムちゃんなら戦わずに済むのかもしれないけど…そもそもわたしには戦う理由なんてないし、ロムちゃんはまだ気付いてない以上、静かにこの場を去るのがきっと賢明な判断。…………でも。

 

「…ねぇ、ロムちゃん…だよね?」

 

わたしは、声をかける。だって…ロムちゃんは今、泣いているから。どうして泣いているのかは分からないけど、瞳に溜めていたものが流れ、涙を零している事は変わりようのない事実だから。それがたとえ軽率な行動でも、声をかけない事の方が賢明でも……女神として、お姉ちゃんの妹として、目の前のロムちゃんを見過ごす事なんて……わたしには、出来ない。

 

「ふぇ…?…あ、ね、ネプギア…さん……!?」

「こんにちは、ロムちゃん。…えと…奇遇、だね」

「え、あ……き、昨日の…しかえしに、きた…!?(びくびく)」

「ち、違うよ!?仕返しなんてしないしない!」

「じゃあ…ゆう、かい……!?(がくがく)」

「誘拐もしないよ!ほ、ほら!これでわたしはロムちゃんに何にも出来ない!大丈夫!」

 

思ってもみない程怖がられたわたしは慌てて近くの石垣へと走って密着。手も身体もぴたーっと石垣にくっ付けて、ロムちゃんに何も出来ないアピールを行う。…物凄く石垣冷たいし、側から見たら完全に頭おかしい人の行動だけど…背に腹は代えられない…!

 

「……え、と…」

「な、何かなロムちゃん?」

「…おそとでそういう事は、しない方が…いいと思う…」

「…だよね……じゃあ、離れてもいいかな…?」

「う、うん…」

 

……ロムちゃんの安心を得る筈が、注意と心配を受けてしまった。しかもロムちゃん、離れていいか訊いた時には若干気を遣ってる様子すらあった。…ちょっと、ロムちゃんの心配する以前にわたしが泣きそうかもしれない……。

 

「…って、わたしが泣きそうになってどうするの……。えーっと、さっきどこって言ってたけど…ロムちゃんも迷子なの?わたしも皆とはぐれちゃって…」

「…迷子、ちがう。ペン、さがしてた…」

「ペン?」

 

自問自答の後気を取り直したわたしは、ロムちゃんが泣いていた理由を状況から推測して質問したけど…ロムちゃんは迷子になっていたんじゃなくて、探し物をしていたらしい。まぁ、考えてみれば自分の国で迷子なんてそうそうならないよね…。

 

「ラムちゃんと、一緒に買ったの。おそろいで、とっても大切なの。でも、落としちゃったの…」

「そうなんだ…どこで落としたか、分かる?」

「ううん…でも、昨日教会からとびだすまではあった…と思う…」

「昨日教会から…って、わたし達と会った時の事だよね?」

 

ロムちゃんから聞きながら、わたしは考える。飛び出すまでって言っても、ペンの存在を見たのが出る寸前なのか、数十分前とかなのかで結構変わるけど…教会内ならもうロムちゃんが探してるだろうし、職員さんの誰かが見つける可能性も高いよね。となると…うーん、ただ空を飛ぶのと女神同士で戦うのとなら……

 

「…わたし達と戦ったのは、国際展示場だったよね?もしかしたら、そこにあるんじゃないかな?」

 

…どう考えても、後者の方があり得るよね。

そう思って予想を伝えるわたし。するとロムちゃんははっとした様な表情を浮かべる。

 

「勿論、絶対あるとは言えないけど…闇雲に探すよりはずっといいよ。わたしも一緒に探してあげるから、元気出して」

「…探して、くれるの?」

「うん。暗くなっちゃったら見つけ辛いから、早く行こっか」

 

少しだけ屈んで、ロムちゃんと目線の高さを合わせてわたしは言う。まだ、完全にわたしを信用した訳じゃないかもしれないし、ペンが見つかる保証もないけど……それでも、ロムちゃんはほんの少し表情を緩ませて、「うん」と言ってくれた。少しでもわたしに心を開いてくれたのが、わたしには凄く嬉しかった。それじゃあ…頑張って探そうね、ロムちゃん。

 

 

 

 

それから数十分後。国際展示場に到着したわたしとロムちゃんは、早速わたし達が戦った場所を中心に探し始めた。…因みに、昨日の今日という事もあって出入り口には警察の人がいたけど……わたし達が理由を言ったら、簡単に通してくれた。…女神って、やっぱり凄い。

 

「ペン。ペンー…ないなぁ…ロムちゃん、そっちあった?」

「ない……」

 

しゃがみ込んだり、落ちてる物を退かしたりして探すわたし達。…探し物と言えば、お姉ちゃんはあんまりお片付けが得意じゃないからよく物失くして一緒に探してあげてたなぁ…。

 

(…国際展示場ならあるかも…って言っても、結構広いんだよね、ここ……)

 

わたし達は展示場中を駆け回った訳じゃないとはいえ、元々が広いせいでとてもすぐには探しきれない。それに、風で転がっちゃってる可能性もあるから、思った以上に広い範囲を探さなきゃいけないのかも…。

 

「…………」

「…………」

「…おねえちゃん」

「……?」

「…………」

「……え、もしかして…わたしの事?」

 

少しの間、お互い黙々と探していると…突然ロムちゃんが『おねえちゃん』と言った。一瞬わたしは訳が分からなくて、続いてまさかブランさんがギョウカイ墓場から脱出を?…と思って見回して見たけど、この場にはわたしとロムちゃんしかいない。だから、消去法でわたしになるけど…いやいやまさか、わたしがお姉ちゃん?そんな訳ないよね、だってわたしは女神候補生、ネプテューヌお姉ちゃんの妹なんだから……

 

「(こくり)」

「わたしだった!?」

「そ、そう…だけど…」

「勘違いじゃなかったんだ…。や、やだ…嬉しいけど、なんか恥ずかしいな…。…おねえちゃん、か……」

 

近付いてきて顔を見上げてくるロムちゃんに、わたしは何とも言えないふわふわした気持ちを抱く。い、いつもはお姉ちゃんって呼ぶ側だったわたしがおねえちゃんって呼ばれる側になるなんて…はぅぅ、頭の中でロムちゃんの「おねえちゃん」がリピートするよぉ…。

ぐるぐると、わたしの頭の中でその言葉が駆け巡る。そしてそれは発展して『ラムちゃんの「おねえちゃん」』になり、そしてそして妹&候補生繋がりで『ユニちゃんの「お姉ちゃん」』にも……

 

「…って、それはいき過ぎだよ!?ロムちゃんラムちゃんならまだしも、ユニちゃんまでわたしはそういう目で見てるの!?それじゃシスコンだよ!」

「おねえちゃん…?」

「はぁうっ!だ、駄目駄目!やっぱり!…えっと…さっきみたいに名前で呼んでくれないかな?ネプギアって」

「…ネプギア、ちゃん」

「うん、なあに?ロムちゃん」

 

再度放たれたおねえちゃん攻撃に、わたしは何かに目覚めそうになったけど…ぐっと堪えて呼び方を変えてもらう。…ネプギアちゃん、も友達っぽくていいかも…。

 

「……けが、してない…?」

「怪我?してないけど…」

「なら、よかった…」

「え?それって…」

 

それだけ言ってまた探しに戻るロムちゃん。最初わたしは「どうして探し物で怪我?」と思ってたけど…数秒経ってそれが、「昨日怪我していないか」という意味である事に気付く。…ロムちゃん……。

 

「…絶対、見つけようね」

「ほぇ……?」

「ううん、何でもないよ」

 

口元が緩むのを感じながら、再び探し始める。一通り探したら少し移動して、新しい場所でまた探す。それでも簡単には見つからなくて、わたしは段々と不安になってくる。…わたしの予想は、間違ってたんじゃないかって。

 

「も、もしかしてもっと奥なのかな…?」

「分かんない…」

「だ、だよね…それか、案外出入り口辺りにあるとか…」

「…………」

「ひょ、ひょっとすると、警察の人が昨日見つけて拾ったのかも──」

「……あっ…」

「あ、あったの!?」

 

心の焦りのせいか、どんどん可能性を挙げていくわたし。そんな中……ロムちゃんが、何かを見つけた様な声をあげた。

けど……

 

「ペン、あった…」

「ほんとに!?やったねロムちゃん!」

「…でも、ちがう…わたしのじゃない…」

「へ…?そ、そうなの?見間違いじゃなくて…?」

「…これ、刺してある……」

「……刺してある?」

「うん…りんごとパイナップル…」

「PPAP!?」

 

すっ…とロムちゃんが持ち上げたペンは、確かに林檎とパイナップルへ刺してあった。…え、あの人ここに来てたの!?来た上で落っことしてったの!?これを!?

 

「これ…どうしよう…?」

「う、うーん…落し物って事で、出入り口の警察さんに渡そっか…TV局持っていっても渡せるか怪しいし…」

 

渡すだけなら帰りに寄ればいいんだけど…その異様な存在感が気になってしょうがないわたし達は、先にそのペン&果物を警察の人の元へ。その後わたし達は、目を丸くする警察の人へそれを渡して戻るのだった。

 

「ここら辺はもう探した所だけど…一応見回しながら進もっか」

「…ネプギアちゃんは…なんでルウィーに来たの?」

「え?…えっとね、やらなきゃいけない事があるんだ」

 

気になる様子のロムちゃんの質問に、わたしはざっくりとした答えを返す。本当は世界とお姉ちゃん達の為に、協力を得に来たんだけど…ミナさんが待ってほしいって言ってるんだから、これは隠した方がいいよね。

 

「…忙しい、の?」

「それは…まぁ、暇ではないかな。体力や集中力は無限じゃないから、って事で休憩や休暇もあるんだけどね」

「…………」

「…ロムちゃん?」

 

わたしがそう答えると、ロムちゃんは黙って俯いてしまった。あ、あれ?わたし今、ロムちゃんに悪い事言ったっけ?だとしたら、まずそれがなんなのか考えないと──

 

「…なんで、いっしょに探してくれるの?」

「え……?」

 

ロムちゃんは、顔を上げた。顔を上げたロムちゃんは、わたしの思いを知りたい…そんな顔をしていた。

 

「ペン見つけても、ネプギアちゃんはなにも得しない。ネプギアちゃん、やらなきゃいけない事がある。それに…わたしとラムちゃんは、ネプギアちゃん達にいじわるした。…なのに、どうして…?」

「…ロムちゃん、困ってたでしょ?泣いちゃう位、辛かったんでしょ?だからだよ」

「だから…?」

「確かに、わたしにはやらなきゃいけない事があるし、それはとっても大切な事だけど…だからって目の前で困ってる人を無視していい理由にはならないもん。たとえ理由にはなっても、わたしはそんなの嫌だもん。…困っている人は、助けるのが大変でも何かしてあげたい。わたしはそう思うな」

 

わたしはその思いを…ユニちゃんとの関わりで得た、わたしの女神としての覚悟を伝える。…これだけは、わたしにだって譲れないよね。それに……簡単に諦めちゃったら、それこそユニちゃんに怒られちゃうよね、わたし。

 

「ネプギアちゃん…やさしい…」

「そ、そんな事ないよ。多分ユニちゃんやイリゼさん達だって、この状況なら無視なんてしないと思うもん」

「……ふぇ…」

「え、えぇっ!?どうして泣くの!?」

「だ、だって…わたし、いじわるした…ネプギアちゃん、こんなにやさしいのに…わたしもラムちゃんも、いじわるしちゃったから…」

「い、いいんだよもう。それに、えっと…ほら、さっきロムちゃんわたしが何も得しないって言ったでしょ?…そんな事ないんだよ。わたしちょっとだけだけど、得があると思ってる部分もあるもん」

「そう、なの…?」

「うん。ここで見つけられれば、ロムちゃんとちょっとは仲良くなれるかな〜…って思ったの。だから、わたしはそんなに優しくなんてないんだよ」

「ネプギアちゃん…」

「それよりも、早く探そ?さっきも言ったけど、暗くなったら……」

 

探し辛くなる。そう言おうとして…わたしは、既に大分暗くなり始めている事に気付いた。まだ人影も物の形も分かるけど、完全に暗くなるまではもうあんまり時間がない。それに慌てそうになったわたしだったけど……動揺してたのは、わたしだけだった。

 

「…もう、いい……」

「もういい…?も、もういいって…ロムちゃん諦めるの…?」

「ううん。でも…もうくらいから、後はわたしだけで探す…」

「…もしかして、わたしの事気にしてるの?」

「これ以上、ネプギアちゃんにめいわく…かけられないもん…」

「迷惑なんて…そんな事ない、そんな事ないよロムちゃん…!」

 

申し訳なさそうにふるふると首を振るロムちゃんの顔は、どこか寂しそうなものだった。それを見たわたしは、軽く自分の頬を叩いて思考をフル回転させる。そんな事を言われたら、そんな顔をされたら…余計に諦められないよ…!

 

(地道に探すんじゃ、見つかる前に真っ暗になっちゃう。だから、ありそうな場所を考えなきゃ。落ちるには何が必要なのか、落ちた物はどうなるのか、そもそも女神が落し物をするのはどういう時か……って、あれ…?)

 

考えて、考えて、あり得そうな可能性を全部頭の中で取り上げて、検証して……そして、気付く。

 

「もしかしたら……!」

「ね、ネプギアちゃん…?」

 

駆け出すわたし。向かう先は、雪の小山。わたしが二回、ユニちゃんとロムちゃんがそれぞれ一回ずつ突っ込む羽目になった、女神候補生が埋もれる事に定評のある雪小山。

 

「そこって…」

「わたしとロムちゃん、ここに入っちゃったでしょ?その時、わたし達二人共女神化が解けて、その後雪をかき分けて脱出したでしょ?だから…!」

 

冷たい雪へと手を突っ込んで、掘り返す。少しやるだけで指先が冷えで痛くなってきたけど…それでも、掘り続ける。そして────わたしの手に、硬い棒状の物が触れる。

 

「……これ、だよね?」

「あ…!わたしの、ペン…!」

 

引き抜いた手に包まれた、一本のペン。それをロムちゃんに見せると、ロムちゃんはぱぁぁと顔を輝かせ、ペンを渡すとロムちゃんは大事そうに両手で受け取った。そんなロムちゃんの顔を見て、わたしは心から安堵する。

 

「良かったぁ、見つかって…結構時間経っちゃったけど、大丈夫?」

「あ…ラムちゃん、怒ってるかも…」

「そっか、きっと心配してるよね。早く帰ってあげた方がいいよ」

「(こくこく)

女神候補生とはいえ、ロムちゃんはまだまだ子供。姉妹のラムちゃんは勿論、ミナさんやフィナンシェさん達職員の人も心配しているかもしれないと考えると、ここまで連れ回した事はちょっと悪かったかなぁ…と思うわたしだった。

ペンを両手で握ったまま、出入り口へと駆け出すロムちゃん。それを見送ろうとしたら…ロムちゃんは、途中でわたしの方へ振り返った。

 

「あ、あの……」

「ん?どうしたの?」

「あ…ありがとう、ございました!」

 

それまでで一番大きな声で、ぺこりとお礼をしてから今度こそ去っていくロムちゃん。そんなロムちゃんを見たわたしは、心の中が温かくなる様な気がしたのだった。

 

「ありがとう、か…えへへ、少しは仲良くなれたかな?さて、わたしもそろそろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ!いけない!トイレ行くって言ってそのまんまだ!きっと皆怒ってるよー!」

 

 

 

 

「はい、はい…今気付いたみたいです。多分すぐに戻ってくるかと…」

 

ロムを見送ったネプギアは、やっと自分が皆を待たせっぱなしである事に気付いた様子で慌て始める。…はぁ、何してんのよネプギア…。

 

「…分かりました。アタシも戻りますね」

 

ネプギアが中々戻ってこない事を不審に思ったアタシは、ネプギアを探しに出た。電源切ってるのかマナーモードで気付かないのかは分からないけどネプギアは電話に出ず、結局アタシはこうして探し回る事でネプギアを発見した。……ほんとに何してんのよネプギア…!

 

(…けどまさか、ペン探しを手伝ってたとはね……)

 

建物の裏に隠れてネプギアを見ながら、アタシは思う。アタシは、ネプギアがロムのペン探しをしているのが最初信じられなかった。だって、相手は一方的に言いがかりをつけてきた相手で、謝るのも渋っていた相手。確かにアタシも同じ状況なら無視はしないけど……少なくとも、ネプギアの様に真摯には…自分の事の様に真剣には、探さない。身内や自国民でもないのに、別にその人の命や人生がかかってる訳でもないのに、そこまで必死になれる理由が分からない。……でも。

 

(…そういう奴なのよね、ネプギアは)

 

そう、ネプギアはそういう奴なんだ。ちょっと抜けてて、女神の割に自信が無くて、遠慮がちで…でも、凄く凄く優しい奴。アタシの信念に真っ向からぶつかれる位の優しさを持った奴。……アタシのライバルであり、友達。だから…安心したわ、ネプギア。やっぱりアンタは、そうでなくちゃね。

 

「…待たせてる事忘れてたのは擁護のしようがありませんが…ネプギアは、人助けしてたんです。そこは、考慮してあげて下さいね」

 

最後にそう話して、アタシは電話を切る。電話を切って、ネプギアを追う形で皆の元へ戻る。さて、と…わざわざ遅いアンタの為に探しに出て、アンタの為にフォローもしてあげたんだから、感謝しなさいよねっ!……あ…あ、アンタの為って言っても、これはイリゼさん達の手を煩わせるのはいけないと思ったり、評価されるべきところはきちんと評価されるべきだって思ったからであって、アンタが心配だとかアンタが落ち込んでほしくないとかじゃないんだからね!勘違いしないでよねっ!

 




今回のパロディ解説

・ヨーヨーを使うスケ番
スケバン刑事シリーズの主人公、麻宮サキの事。スケバン刑事に触ると火傷するらしいですが、REDだったらどうなのでしょう?…女の子なら、嫁になるのでしょうか…。

・けん玉を武器にする玩具屋の一人息子
タイムボカンシリーズの一つ、ヤッターマンの主人公高田ガンの事。基本玩具のけん玉ですが…玩具の中では打撃&刺突&中距離武器として、比較的使えそうな感じですね。

・〜〜でも〜〜ロムちゃんは今、泣いているから
機動戦士ガンダムSEED Destinyの主人公の一人、キラ・ヤマトの名台詞の一つのパロディ。この後ネプギアはユニをビームサーベルで…なーんて展開は勿論ありません。

・PPAP
小坂大魔王さんがプロデュースしてる(らしい)シンガーソングライター、ピコ太郎さんの持ち歌の事。林檎とパイナップルが付いてるペンを使うロム…うわ、シュールですね。

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