超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
国際展示場を後にしてから数十分。大分長い寄り道をしてしまったけど……私達はルウィーの教会に到着した。さて、まずは勿論……
『温かいものを下さい(です)っ!』
「あ、は、はい…」
出迎えてくれた職員さんに挨拶をした後、私達は揃ってそう頼んだ。だってほら、ルウィーに来てからこっち、ずっと外にいたんだもん。しかも途中走ったし、その上で私ネプギアユニは戦闘もして少なからず汗もかいたもん。雪国で汗が引いたら…寒いのは、分かるよね?
「はふぅ、暖房のありがたみをひしひしと感じるよ…」
「えぇ、かじかんでた手足が元に戻っていくのを感じるわ…」
メンバーの中でも特に慣れていなかったネプギアとユニは、二人仲良く天井にある暖房器具の吹き出し口下に陣取ってほんわかした表情を浮かべている。そんな二人を温かい目で眺めていると……
「皆さん、ご足労と犯罪組織の対応お疲れ様でした」
教会の奥へと引っ込んだ職員さんの代わりに、ブランの侍従であるフィナンシェさんがお茶とお饅頭を持ってやってきた。…そういえば、フィナンシェさんってブランがいない今は主に何してるんだろう?
「こんにちはです、フィナンシェさん」
「まずはお茶頂くわ。…ってこれ、もしかして…ブラン饅頭?」
「はい、美味しいですよ?」
「女神の顔がプリントされたお饅頭…どうしよう、食べるのが勿体無いよ〜!」
フィナンシェさんの持ってきたお饅頭というのは、上面にジト目のブランの絵がプリントされたルウィーの新名物『ブラン饅頭』だった。甘くて美味しいし、ブランの絵もゆるキャラっぽくて良いけど…自分の名前と顔が食べ物に採用された事について、ブラン自身はどう思ってるんだろう……というか、まさかこれブランが発案を…?
「渋いお茶と甘いお饅頭が合うですねぇ」
「うんうん、甘くて温かくて元気出るね」
「え、RED十数秒前の葛藤はどこに…?…まぁそれはともかく、フィナンシェさん。ミナさんと今から話したいんですが…」
「大丈夫ですよ。…ロム様とラム様も呼びますか?」
「あ…二人は戻ってきたんですね」
「少し前にお帰りになりました。今は……ミナ様に叱られているかと…」
「そ、そうなんですか…」
訊いたネプギアだけでなく、私達もフィナンシェさん自身もその言葉に苦笑いを浮かべる。…まぁ、そりゃそうだよね…。
「…どうします?わたしは二人と会うの嫌じゃないですけど…」
「二人が大人の話についてこられると思う?」
「あらユニ、それは遠回しに自分が大人だって言ってるのかしら?」
「そ、それは…あの二人よりは大人ですから…」
「ま、それはそうね。ならそれは任せるって事でどう?二人に関しては私達より分かってるでしょうし」
私達の中でもそれぞれロムちゃんラムちゃんへの理解度が違うけど…どっちにしろミナさんやフィナンシェさんの方がずっと知ってる事には変わりないから、アイエフの判断は至極真っ当なもの。という事でその旨をフィナンシェさんに伝えると、フィナンシェさんはこくりと頷いて呼びにいった。
そしてフィナンシェさんが再び戻ってくるまでの間、私達がお茶とブラン饅頭を頂きながら「いやー、まさか偶然パート2があるなんてねぇ」みたいな会話で時間を潰す事数分。
「お待たせしました皆さん。フィナンシェさんも仰ったと思いますが…ここまでお疲れ様です」
私達は、ミナさんの待つ応接室へと案内された。私達が入ると同時にソファから立ち上がり、深々とお辞儀をするミナさんの低姿勢ぶりにはこちらもつい深々とお辞儀を返してしまう。…でも、高圧的な態度取られるよりはずっといいよね。早速お茶とお饅頭貰えたし、友好的に接してもらえるし、最初思わぬ形で敵対組織認定されたけど、教会でこれなら…敵対組織認定、教会なら……ルウィーで、敵組織…………
『…これは、犯罪組織の使いとして包囲される流れ(です)……!?』
「し、しませんよ!?今のルウィー教会は乗っ取られていたりしていませんよ!?」
「…な、なにを言ってるのかしら…」
「さぁ……」
(この流れ、ラステイションでも見た気が…)
初めてルウィー教会に来た時は、温かく迎え入れてくれたと思ったらブラン直々に(このブランは偽物だったけど)ユニミテスの使い扱いされ、職員と兵に包囲されるという散々な目に遭った。当然あの時の展開再び…なんてあり得ない話だけど、ロムちゃんラムちゃんの件もあったせいでつい私コンパアイエフは連想しちゃった訳である。
「…とはいえ、その節は失礼致しました……」
「あ、いえ…女神がすり替わっていた以上仕方ありませんし、敵のすぐ側で活動し続けていたミナさんが謝る事ではないですよ」
「お気遣いありがとうございます。…では、早速お話を……の前に、一つ宜しいでしょうか?」
「と、言いますと…?」
「勿論、ロム様とラム様の非礼についてです」
ミナさんがそう言うと、扉前で立っていたフィナンシェさんが一礼をして部屋を出る。その流れで私達が「あ、まさか…」と思っていると……案の定、フィナンシェさんはしょぼーんとしてるロムちゃんとむすーっとしてるラムちゃんを連れて戻ってきた。
「…うわ、ほんとにいる……」
「やっとミナちゃんのお小言、おわったところなのに…」
「ふ、二人共…はぁ…。……こほん、この度は二人があの様な事をしてしまい、申し訳ありません!」
「わわっ、いいですよ!そんな思いっきり頭下げなくても!」
私達が入ってきた時以上に頭を下げるミナさんに、ネプギアを始め私達は揃って慌てる。危害を加えた当事者ならともかく、せいぜい犯罪組織が向かった方向位しか教えていないミナさんが謝らなきゃいけない理由なんてほぼ無いのに、こんな私達のうちの誰かが大怪我でも負ったかの様な謝罪をされてしまってはこっちがたまらない。
……けれど、ミナさん当人は被害者である私達よりもずっと事を重く捉えてる様子。
「いえ、教祖として、二人の教育者として、保護者として!しっかりと謝らせて頂きます!」
「こ、こんな謝ってくるなんて…うちのケイとは大間違いね……」
「ほら、お二人も謝罪を!」
『しゃざい…?』
「ごめんなさい、の丁寧な言い方です!」
こんな中でもしっかりと教育をするミナさん。双子はその強い口調に一瞬気圧されるものの…素直に従ったりはしない。
「えぇー…怪しーやつにあやまるのはやだー」
「…………(だんまり)」
「ですから、怪しい云々はお二人の早とちりだと…!」
「ふーんだ。うたがわれる方が悪いのよ、うたがわれる方が」
「リカちゃんのおぼうし……」
『リカちゃんのおぼうし?』
「ほぇ…?…前に、ミナちゃんがおしえてくれた…」
「わたしが?…あぁ、李下に冠を正さずの事ですね。確かに使い方はそれで正しい……って、そうではなくて!皆様にご迷惑をかけて謝らない気ですか!?」
「わたし達は悪くないもーん」
「ラムちゃんがそういうなら、わたしも…」
「…そうですか、あくまで謝罪する気は無しですか…」
謝る気ゼロのラムちゃんと、何というか…自分自身の意見を避ける様な発言をするロムちゃん。これはもうどう見ても謝る事には至らない…というか別に謝ってほしい訳でもない私達は、これ以上ミナさんの心労を増やさない為にもなあなあで済ます流れを作──
「…ロム、ラム、最後に一度だけ訊きます」
「……ご・め・ん・な・さ・い、は?」
「ごめんなさい」
「なさい(ぴしっ)」
それまでと同じ、穏やかな表情のまま。穏やかな口調のまま。ミナさんは、最早負のシェアの象徴である闇色と見紛う程のオーラを纏っていた……様に見えた。──私達は、この瞬間ルウィーの教祖の真価を見たのだった。
「今一瞬、黒いオーラが見えたですけど…」
「あ、アタシでもあれは謝っちゃうかも…」
「だよね…まさかこんなところでミナさんのブランに通ずる部分が見られるとは…」
コンパとREDの言葉に顔を引きつらせながら、私は頷く。教祖の中でも大人しく、まともそうな印象の強いミナさんがあんなオーラを出せるなんて……考えてみればルウィー教会部隊と無人機軍による戦闘の時は指揮に当たっていたし、雰囲気とは違って実際には芯の強い人なのかな…。
「……お恥ずかしいところをお見せしました、すみません」
「あ、はい……えーと、謝罪は済んだ訳ですし、この件は終わったとして本題を…」
「そうですね。…ここからはわたしだけでも宜しいですか?政治上の話となると、直接聞いてもお二人にはちんぷんかんぷんでしょうから」
「確かに…分かりました」
「では、お二人共もういいですよ。フィナンシェさん、おやつを用意してあげてもらえますか?」
「はい、お任せを」
「え、もういいの?」
「今日のおやつ、なに…?」
と、いう事で二人はフィナンシェさんに連れられて応接室を出ていった。……そういえばフィナンシェさん、さっきから人呼んだりお菓子用意したりしてばっかりだ…私も皆もさせてる側だけど…。
そして、やっと私達は本題へと取り掛かる。
「まずはギョウカイ墓場と守護女神四人の事ですが……ネプギア、出来る?」
「は、はい。…でも、少し不安はあるので…」
「うん、補足は私がするよ」
この話については私ではなく、事実上プラネテューヌの現守護女神代行となっているネプギアがする…というのはラステイションで既に言った事。ネプギアもそれは忘れておらず、慌てたり尻すぼみしたりせずに説明を始めてくれた。
ラステイションの時と同様、始めにギョウカイ墓場の調査結果を、続いて私達が進めている目的を話し、最後に目的の為に必要な教会と女神候補生の協力を頼み込む。…所々補足が必要だった(何度か私ではなくユニが補足してくれた)けど、ネプギアはしっかりと言うべき事を言ってくれた。そんなネプギアの姿を見て、まだ返答をもらってもいないのにちょっとほっとしてしまう私。
「──ルウィーも余裕がある状態じゃないと思います。でも、その…お姉ちゃん達とゲイムギョウ界の為に、わたし達に協力して下さい!お願いします!」
「ネプギア、そこはお姉ちゃん達じゃなくて守護女神って言うべきでしょ…こほん、アタシからもお願いします」
「そ、そんなわたしなんかに頭を下げずとも…上げて下さいネプギア様、ユニ様!」
「じゃあ……!」
「は、はい。…こほん。そういう事でしたらルウィー教会は謹んでご協力させて頂きます。守護女神不在がこのまま続けばいつかは国が立ち行かなくなりますし……わたし個人としても、世界の為には先のブラン様達の様に協力すべきだと思っていますから」
そう言って手を差し出すミナさん。それにネプギアが応じ、握手をする事でルウィー教会の協力は決定した。……けど、その後ミナさんは少し顔を曇らせる。
「…どうかしましたか?」
「いえ、その…教会としての協力は惜しまないつもりです。ですが……」
「…ロムちゃんとラムちゃんの事、ですか…?」
「はい…申し訳ありませんが、お二人の協力については、少し考えさせてもらっても良いですか?」
「それは……」
どうしましょう…と言いたげな表情で私を見てくるネプギア。…いやどうしましょうって…うーん……。
「…考えさせてほしい、というのは二人が私達に非協力的だから、ですか?」
「いえ、それもありますが…それ以前に候補生とはいえ幼い子供ですし、何より……」
「何より…?」
「…すいません、それも含めて考えさせて下さい。数日できちんと答えは出しますので、何卒……」
「…分かりました。私達も暫くはルウィーに滞在しますし、その間に答えを出して頂けるのならこちらはそれで結構です」
そう私が締めくくり、ルウィーでの最初の会談は終了した。…ネプギアに担当させると言っておいて締めを奪ってしまったのは、今日の私の反省点。
ミナさんが…ロムちゃんラムちゃんが何を思って、何を抱えているのかは分からないけど…そういう事なら、私達は素直に待とうと思う。利害の一致で利用し合ってるのならともかく…相手を信頼して協力関係を作るなら、自分の主張ばかり押し付けるのは良くないからね。
*
「……で、ここを左に曲がると商業施設、右に曲がると娯楽施設が多いんだったかな」
会談を終えてから数十分後。考えていた通り、会談終了後は個人個人の自由時間とした私は今、ネプギアとユニにルウィー案内をしていた。
「左が商業、右が娯楽……やっぱりどこもかしこもうちとは正反対の印象ですね…」
「メイン技術の方向性からして違うからね。それに、ルウィー…とリーンボックスはラステイションやプラネテューヌより観光名所も多いしさ」
「…すいません、イリゼさん。ラステイションの時に続いて付き合わせちゃって…」
「気にしなくていいよ。ギルドに行く道中のついでなんだから」
大通り周辺の案内をしながら進む私と、観光客の様にきょろきょろとしながら着いてくる二人。今は二人共『わざわざ案内してもらっている』という気持ちが強いからか、特に趣味に走ったりはせず、素直に私達に着いてきている。…ここでいきなりヘンテコなお店紹介したらどうなるんだろう?……やらないけど。
「それで、ここを進むと……まぁ、ギルドがあるね」
「向こうがですか…じゃあ、案内はここまででいいよね?ユニちゃん」
「そうね…あまりイリゼさんの手を煩わせるのもよくないですし、後はアタシ達だけでなんとかしますよ」
「いいの?まだ電子機器店とか銃器店とか教えてないけど…」
「そういうのを自分で見つけるのも楽しいんですよ。……わたし好みのお店は表通りにはあんまりないので、偶に子供が入っちゃいけないお店見つけたりしちゃうんですけど…」
「分かるわ。っていうか例えそういうお店じゃなくても、裏通りのお店だと店内の隅にアレなコーナーあったりするのよね…」
「あ、だよね?」
「お互い、趣味のせいで苦労するわよね」
「…そ、そうなんだ……」
肩を竦めながら共感し合っている二人に、私は表面上は頷くも…内心あんまり穏やかではない。…え、大丈夫だよね?そっち側に染まってたりそっち側の人に染められてたりしてないよね?……ネプテューヌとノワールには、助けた後一応これ伝えておいた方がいいかも…。
そんなこんなで二人と別れた私は、目的通りギルドへ。ルウィーのギルド支部長は結構取っ付き易いタイプの人だし、ラステイションや今後行くリーンボックスよりは楽かな……って、ん?
「……また人だかり…?」
ギルドに入った私が目にしたのは、本日二度目…旅全体としては三度目の人だかりだった。…二度ある事は三度ある、って言うし…まさか……
「ちょっとすいません、前通して下さい……あれ?」
前回前々回よりも人が少なく、殆ど苦労せずに人だかりの原因を目に出来る位置まで移動出来た私。…けど、そこにいたのは言い争いをしている二人だった。……見たところ、犯罪組織絡みというよりただの喧嘩っぽいけど…。
「…あの、何かあったんですか?」
「あ、えぇ。何かちょっと報酬関連でいざこざがあったらしくて…あっちの怒ってる方が依頼主で、言われてる方が受注して達成した方よ」
「ご丁寧にどうも。でもそっか、ならもう少し話聞かないと…」
「時々いるのよね。達成してから文句言う依頼主が……ってあら?貴女どこかで…もしや芸能人ですか…?」
「あー…芸能人というか…どちらかと言うと政治系の…」
「政治系……あ、イリゼちゃん!?」
「い、イリゼちゃん…!?」
「あ、す、すいません…でもわたしファンなんです!えーとえーと…い、今サイン貰えますか!?ゲートカードしかないんですけど!」
「何故にゲートカード!?爆丸ユーザー又はラクロジユーザーなの!?」
喧嘩について訊いていた筈が…どういう訳かカードにサインをしてほしいという流れになってしまった。いやいや、そんな事してる場合ではないんですが……
「……こんな感じでいいですか?」
「は、はい!ありがとうございますっ!」
…えぇ、書きました。サインしましたとも。……押しに弱い女の子、イリゼです。……こほん。
何やってんだろうなぁ…と思いつつ視線を戻す私。必要とあらば仲裁も…と思っていたけど、私が女性とサインに目を移している間に見知らぬ第三者が現れていた。──白い仮面を被った、とびきり怪しい第三者が。
「……話は分かりました。要約すると、そちらの方はただクエストを達成しただけ、こちらの方は払う報酬に不満がある…それで宜しいですね?」
「あ、あぁ…これ、俺は間違ってないよな?提示されてた通りの報酬を要求してるだけなんだから…」
「いーや間違ってるね。確かにオレは最初報酬を提示していたが…お前みたいに能力がある奴はこの程度のクエスト、余裕だったろ?なら報酬がもっと少なくとも問題ない…というかむしろ、このままではお前が報酬を貰い過ぎる訳だ」
「はぁ!?…無茶苦茶だ、ルール違反だろ…」
「なんだよ、力があるくせに他者を思いやる心はないってか。はーぁ、やだねぇこういう自分が正しいって思ってる奴は…」
「……っ…お前…!」
仮面の方は大変怪しいけど…その人のおかげで、状況がよく分かった。全く……その達成者の言う通りだ。それは……
「…まぁ、お待ちを。失礼ですが…彼の言う通り、貴方の主張はルールに反しています」
──その時、達成者さんを…つい口を開きかけていた私すらも、その仮面の人は手で制した。…そして、その人の目元は仮面で見えない筈なのに、彼からは視線を鋭くした様な気もした。
「あんたもそいつの味方かよ…やだね、ルールルールって、不公平を正当化しようとするのは」
「悪法も法…とは言いません。しかし、でしたら何故貴方は自分自身でやらなかったのですか?」
「はぁ?そんなのクエスト依頼してる時点で分かる……」
「他者に目的を委託出来る、というルールの恩恵を享受しながら自分の気に食わないルールは守らない、と?」
「……っ、それは…」
「それは通用しないでしょう。少なくともギルドでは通用しません。ギルドは民間組織であり、民間組織は万人の為の機関ではないのですから、貴方のそれは一方的な契約破棄でしかありません。…ご不満なら、裁判という手もありますが?」
「……ちっ…いいよ、悪かったな…」
「お分かり頂けた様で何よりです。あちらにアンケート用紙と箱がありますので、そこに改善案があれば投書して頂けると幸いです」
不満そうにしながらもきちんと報酬を払う依頼主さんと、その人を見送る仮面の人。依頼主さんがギルドから出た時……周りからは、仮面の人への拍手が巻き起こった。それ程までに、仮面の人の対応は適切且つ鮮やかだった。
「…ありがとうございます」
「いえ、ギルドに関わるものとしてつい口を挟んでしまっただけです。それに、こんな形で常連を失うのは惜しいですからね」
「そうそう、とはいえご苦労様です」
「あ…支部長さん…」
「……シーシャ、君か」
依頼主だけでなく、達成者にも穏やかな対応で接する仮面の人。その見た目と性格のギャップに私が何とも言えない気持ちになっていた頃…ギルドの奥から一人の女性が現れた。…というか、ルウィーのギルド支部長、
「相変わらずの鮮やかな手腕、流石ですね」
「その慇懃無礼な態度は止めてくれないか。というか、こういう仲裁をするのが君の仕事だろう」
「アタシが?…まぁそれはその通りだけど、こういう件に関してはアタシより得意な人が当たる方がいいとは思わない?」
「思わない、と言ったら?」
「またまた〜」
「…君には支部長としての才能があるんだ、頑張ってくれなければ推した私の立つ瀬がないというのに…」
先とは一転、支部長であるシーシャに親しげな雰囲気を醸し出し始める仮面の人。…っていうか相変わらずラフな態度だなぁ、シーシャ…。
「はいはい、頑張りますよ」
「頼むぞシーシャ。では私は……うん?君は…」
「あ…えと、お邪魔しております…」
「あら、イリゼちゃんじゃないか。ルウィーに来てたんだね」
「例の件でね。…それで、そちらの人は…?」
どのタイミングで話しかけようかな…と思っていたら、なんと仮面の人は私に気付いてくれた。それに続いてシーシャも気付き、さっきの達成者さんと入れ替わる形で私が会話に参加する。
「貴女とはお初、ですね。私はアズナ=ルブ、見ての通り一般人です」
「え……一般、人…?」
「いや、その珍妙な仮面で一般人は無理がある気が…あー後彼、うちの前支部長よ?」
「前支部長!?…あぁ、だからあそこまで適切な対応を…」
「女神様にそう言ってもらえるとは光栄です。それと、これは所謂ファッションですのでご心配なく」
「え……ファッ、ション…?」
「いや、ファッションにしても無理がある気が……少し前までは普通に素顔晒してたんだけどね。アタシもこの人の考えてる事は分からないわ…」
シーシャはかなり飄々とした人間で、なんとなくベールの大人っぽさ(とスタイル)とアイエフの姉御肌を合わせた様な性格をしてるけど…そのシーシャからしても、前支部長アズナ=ルブさんの姿には辟易としている様だった。…まあ、支部の最高責任者であり自分の前任者が突然『ファッション』で仮面付けだしたら…ねぇ?
「…さて、元々ここへ寄ったのは別件だったんだ。済んだ事だし私は帰るとしよう」
「別件…というのは知りませんが、お疲れ様です」
「それはお互い様ですよ、イリゼ様」
「え……お互い様…?」
そう言って去るアズナ=ルブさんの背に、私は疑問を抱く。お互い様…って、私仕事の話なんてしたっけ?…例の件、っていうのを特務監査官としての仕事だと勘違いしたのかな…?
「……イリゼちゃん?」
「へ?…あ、ごめん…元支部長だけあって、変わった人だね」
「まあ、ね。けど彼は信用のおける人物よ。少なくとも、アタシやうちの職員、常連なんかはそう思ってるわ」
「シーシャがそういうなら、そうなのかな…」
「勿論、自分で接して自分で確かめるのが一番だけどね。それで、例の件…って事はアタシに話があるんじゃないの?」
「っと、そうだった…」
一瞬私は疑問を抱いたけど…それよりもまずはやる事がある。そう頭を切り替えて、私はシーシャと話を開始。
そうして数十分後、協力を取り付けた私はギルドを出て、やっと羽を伸ばすに至るのだった。……女神だけに。
……あ、あれ?なにその反応?もしかして私、滑っちゃった?寒かった?ルウィーだけに?
「……うん、これは自分で思ってる以上に疲れてるね、私…」
今回のパロディ解説
・ゲートカード(爆丸)
爆丸シリーズに登場する、ゲーム上で使うカードの一つの事。カードはカードでもかなり重くて厚い爆丸のゲートカード、持ってた彼女は一体なんなんでしょうか。
・ゲートカード(ラクロジ)
ラクエンロジックに登場する、ゲーム上で使うカードの一つの事。こちらはまぁ普通のカードですが…ほんと何故持ち歩いてるんでしょう。盟約者なのでしょうか。
・「〜〜私はアズナ=ルブ、見ての通り一般人です」
機動戦士ガンダムに登場する敵メインキャラの一人、シャア・アズナブルの台詞の一つのパロディ。彼は存在自体シャアパロですし、こういう事を言うのも自然でしょう。