超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第十四話 真っ直ぐな気持ち

エンシェントドラゴンの口から放たれた火球。それが魔法によるものなのか体内に発火器官を持っているのかは分からないけど、それに当たったら良くて『上手に焼けましたー!』状態、悪いと人型の炭になっちゃうんだから避けなきゃ不味い事だけは間違いない。…けど、場所が場所だから……

 

「い、イリゼさん木に引火しました!どうしましょう!」

 

──一概に避ける事が正しいって訳じゃないんだよね。

 

「これ位なら……ッ!」

 

引火した木を確認した私は跳躍。燃えている枝の部分を斬り落として舗装された道へと投げ付ける。これで取り敢えず他の木に燃え移る事はない筈…。

 

「ふぅ…やっぱりこの場所は危険だね。大火事にならない様、出来る限り火は吐かせないでおかないと…」

「…やっぱり、女神化して一気に攻めるべきでは?見たところ、アタシ達全員で本気を出せば十分倒せると思いますよ」

「だろうね。けど、女神化したら奴は警戒レベルを最大まで上げて、遠距離からの炎攻撃の頻度を上げると思うよ?…本能で生きてる生物は、人間よりもずっと危険察知能力が高いんだから」

「じゃあ、どうするです?」

「そうだね……」

 

まず思い付くのは、さっさと宝玉を回収して逃げる事だけど…逃げるというのは即ち距離を大きく開けるという事。もしそうすれば…まぁ当然ながら、エンシェントドラゴンは火を放ってくる。それじゃ、やっぱり大火事の危険性を上げる事になるから却下。それに私達は『寝ているところに衝撃与えて叩き起こした』立場なんだから、ボッコボコにするのもちょっと心苦しい。だから……私は提案する。

 

「ネプギア、エンシェントドラゴンの近距離まで入ったら、私の言う通りに攻撃出来る?」

「え、と…無茶振りじゃなければ、出来ます…!」

「OK、なら私とネプギアで奴を気絶させるから、三人は気を引いて」

「気絶?あんなデカい奴を気絶させられるの?」

「予定通りにいけば、ね」

 

努めて自信ありげな表情を浮かべ、私はサムズアップ。それを見た皆は、一瞬考える様な顔をしたけど…すぐに頷き、行動を開始してくれる。…追求もせずに乗ってくれた皆の為にも、確実に成功させないとね……!

 

「功を焦るのは駄目。三人なら確実にチャンスを作ってくれる筈だから…タイミングを待つよ」

「は、はい」

 

コンパとアイエフは奴と付かず離れずの位置を走り、視線を誘導。ユニは攻撃の瞬間に合わせて撃つ事で攻撃位置を狂わせ、走る二人の安全を確保する。

そうする事数分。初めは私達全員に注意を配っていたエンシェントドラゴンも、次第に動き回る二人と邪魔をするユニばかりに視線を向ける様になり、私達への注意は薄れていく。そして……

 

「……ッ!行くよネプギアッ!」

 

具体的な説明は出来ない。ただ、これまで培ってきた経験と女神の本能が今だと叫んだ瞬間、私は声を上げ、地を蹴る。

それは、コンパとアイエフがエンシェントドラゴンの左右を駆け抜ける瞬間だった。左右を抜け、自身の死角へと移動しようとする二人を追う形で、エンシェントドラゴンは振り向く。けれど、そこにいるのは二人じゃない。そこにいるのは、振り向いた奴の正面にいるのは…私とネプギアだッ!

 

「ネプギア!女神化して頭に衝撃を与えて!全力の、打撃を頼むよッ!

「……っ!いきますッ!」

 

私に並ぶ様に走り込んでいたネプギアは、私の声と同時に女神化。地面を踏み込んで跳び上がり、空中で前転。その頂点で右足を伸ばし、助走と回転、そして女神の力を合わせた強烈なかかと落としをエンシェントドラゴンの脳天へと叩き込む。

エンシェントドラゴンからすれば、私とネプギアがすぐ側にいる事自体が驚きだったと思う。その状況で、その驚きの中で叩き込まれた女神化からの回転空中かかと落とし。完全に不意を突いたその一撃は、エンシェントドラゴンをぐらつかせるに至る。けど…まだ、私が残っている。女神化し、ネプギアに一切劣らない踏み込みを入れた私が残っている。

 

「────悪いけど…沈めッ!」

 

踏み込んだのは、奴の正に目の前。両脚に、翼に力を込めて跳び上がり…エンシェントドラゴンの顎へ膝を突き刺す。突き刺し、そのまま突き上げる。

上からのかかと落としと、下からの飛び膝蹴り。一瞬の時間差の後直撃した二つの蹴りは上下からエンシェントドラゴンの頭部を襲い、脳を激しくシェイクする。

一瞬止まるエンシェントドラゴン。それぞれ勢いが無くなると同時に飛び退いて着地する私とネプギア。そして、次の瞬間……

 

「グ……ル、ゥ……」

「た…倒れた、です……」

 

──エンシェントドラゴンは、気絶した。

二足歩行に、四肢の配置。各部の作りや翼、尻尾の有無こそ違うけれど、大まかな骨格は人と同じエンシェントドラゴン。だから私は思った。頭頂部に、そして顎に強い衝撃を与えれば脳震盪を起こして気絶するんじゃないかと。勿論人と同じ程度の衝撃で気絶なんてしてくれないと思うけど…だからこその、女神二人による上下同時攻撃。その結果、私の目論見通りエンシェントドラゴンは脳震盪によって気絶したのだった。……これを人間にやったら頭潰れちゃうね。

 

「…ネプギア、グッジョブ」

「ふふっ、わたし相手に合わせるのは得意ですからね」

 

にっ、と笑いを見せた後に私は女神化解除。ネプギアも同じ様に解除しながらにこりと笑みを浮かべ、言葉を返してくれた。

 

「やるじゃないイリゼ。中々見応えのあるコンビネーションだったけど、あれ新技?」

「んー、即興の技だけどね。名前は…タイガーファング式○○、とか?」

「即興…よく合わせられたわね、ネプギア…」

「コンパさん達程じゃないけど、わたしもイリゼさんと付き合いあるからね。それに…ここ一番、って時は凄く頭が冴えたりしない?」

「それは、まぁ…アタシも偶にあるわね…」

「でしょ?だからこれはわたしの実力じゃないよ」

「…謙遜なのか本気でそう思ってるのかよく分からないのよね、アンタの場合……」

 

倒した訳ではないものの、エンシェントドラゴンを無事無力化した事でホッと一息ついた私達。結果的に殺さずに済んだから、ネプギアもどこか嬉しそうで私は一安心。ユニだけばまだ少し思うところもあるっぽいけど…それよりも今は上手い事合わせた事に興味がいっている様子。そんな二人を見ながら私は落ちたまんまの宝玉を回収し、皆に帰ろうと告げる。さて、今からラステイション戻ったら夜が明けちゃうし、今日はプラネタワーに戻ろうかな……

 

 

 

 

 

 

「アーハッハッハ!油断大敵だったな、テメェ等ッ!」

 

────え?

 

 

 

 

嵌めてやった、と言わんばかりの笑い声。その声が明らかに悪意と敵意を孕んでいるものだと私達が察した瞬間、木々の陰から銃器を持った人が次々と現れた。…それも、私達を囲う様に。

 

「……っ!誰ッ!」

「勝って兜の緒を締めよ、ってな!この顔を忘れたとは言わせねェぞ!」

 

集団に対応する様に五人で背中を合わせ、視線を巡らせる私達。すると他の面子が私達を包囲した後に、先の声の主であろう少女が姿を見せる。それは、手に持つ鉄パイプを肩にかけた、小悪党の様な雰囲気の少女。

あぁ、確かにそうだ。その顔を忘れたとは言わない。そう、彼女は…彼女の名は……

 

『──下っ端(さん)!』

「下っ端じゃねェよ!リンダだよリンダ!顔じゃなくて名前忘れてやがったな!?」

 

早速地団駄を踏み出す下っ端。やはりマジェコンヌやジャッジ辺りよりずっと普通の人間寄りなのか、結構しっかり突っ込んでくる。……ジャッジはそもそもボケに突っ込み入れてくれるか微妙だけど。

 

「誰よ、あいつ…」

「下っ端だよ!犯罪組織の下っ端!」

「聞けよ!テメェ等実は結構性格悪ぃな!?」

「いきなり囲んで銃向けてくる人には言われたくないです!後、それは割と今更です!」

『コンパ!?ちょっ、今しれっと私達disった!?』

 

威勢良く下っ端に反論したコンパだったけど、それにビビったのは向こうではなく私とアイエフだった。…ほんと、コンパの天然毒舌は突発的過ぎる……。

 

「なんなんだお前等…まぁいいさ、おい!相手は女神とその連れなんだ、油断すんじゃねェぞ!」

「油断…というか短絡的思考で私に返り討ちに遭っただけあって、説得力あるわね」

「うっせェ!てか、この状況分かってんのか!?」

「この状況……はっ…!」

「やっとかよ…そう、テメェ等は追い詰められて……」

「…し、下っ端が下っ端なのに人に指示出してる!」

『た、確かに!』

「ちっ、がぁぁぁぁああああうッ!!ふざけてると発砲指示出すぞコラァ!」

 

ネプギアの気付きにノって皆で衝撃を受けていたら、下っ端がブチギレてしまった。正直何割かはほんとに驚いていたんだけど……うん、流石にふざけてる場合じゃないね。そろそろ真面目に考えないとヤバい自体になりそうだね。

 

「この人数だと…先手取って制圧するのは難しそうですね」

「わたし達は女神化すれば何とかなりそうですが…」

「拳銃ならともかく、流石に両手持ちのマシンガンじゃ避けきれないと思うわ」

「それに、囲まれてるんじゃ避ける場所がそもそもほぼ無いです…」

 

さっきから下っ端にばかり気を取られていたけど…現在私達は囲まれている。個々の能力では劣ってないとしても、この状況では恐らく被弾は免れない筈。…いや違う。コンパとアイエフが、被弾は免れない。

 

「今度こそ状況に気付いたか!バーカ!」

「姑息な手を使った癖に偉そうに…だから下っ端って呼ばれんのよアンタ!アタシ初対面だけど!」

「ゆ、ユニちゃんもう煽らない方がいいよ…せめてこっちの作戦決まるまでは煽るの止めとこ…?」

「作戦、ね…普通に考えたら私達が被弾覚悟する以外ないでしょ」

「ですね。わたしもそう思うです」

「ふ、二人共!?急になに諦めて……」

「諦め?それは違うですよイリゼちゃん」

 

一か八か指揮官らしい下っ端を強襲するか、それとも射線を集める為になにかするか…と一人思考を巡らせていた私。そんな中、撃たれるのも仕方なし…みたいな事を言った二人に、私は反射的に否定しようとした。けど、それをコンパが制して…二人は言った。

 

「あのね、私達は女神でも束にならなきゃ勝てない様な戦いを何度も経験してきたのよ?今更普通のマシンガンで数発撃たれる程度、臆しはしないわよ」

「わたしはナース、怪我をお手当てするのがお仕事です。だから、ちょっと位怪我してもわたしが何とかすればいいだけです」

「で、でもさ……」

「…言っとくけど、棒立ちで撃たれる気はないわよ?」

「出来る限り避ける、です!」

「……っ…」

 

──嗚呼、全くこの二人は頼もし過ぎる。避けきれる可能性は十分にある私達と違って避けるのは困難な筈なのに、どうして私よりも落ち着いて構えられるのか。……ほんと、人間である二人にそんな姿見られたら、私達女神は形無しだよ。

 

「……ネプギア、ユニ、全力で制圧するよ」

『はい…!』

「一秒でも、一瞬でも早く撃破する……全員、行動開────」

 

二人の勇姿を見せられては、私も腹をくくらない訳にはいかない。完封…は流石に無理かもしれないけど、撃たれる弾数を減らす事は私の動き次第で出来る筈。だから、二人の為に、私は全身全霊で……

 

 

 

 

──そう思い、女神化しようとしたその時……

 

「グッ……ォォォォオオオオオオオオッ!!」

 

猛々しい雄叫びが、周囲に響き渡った。

 

『……ーー!?』

 

一瞬、その場にいた全員が状況を忘れて雄叫びの元へと視線を向ける。その先、雄叫びの中心部にいたのは……目を爛々とぎらつかせる、エンシェントドラゴンだった。

 

「な……っ!?こ、こいつやられたんじゃなかったのか!?」

「き、気絶させてただけですよ!こんな早く目覚めるなんて…!」

「馬鹿かよ!?くっそ、これは想定外……」

「グルルゴオオオオオオッ!!」

『ひ……ッ!?」

「あ、ば、馬鹿!テメェ等撃つんじゃねぇ!」

 

突如現れた(というか意識が戻った)第三勢力に、動揺が走る両陣営。特に犯罪組織側…下っ端の部下らしき人達にとっては、敵が『ぱっと見華奢な女の子五人』から『どう見ても常人には勝ち目のない大きな龍』へと変わったのだから、落ち着いていられる訳はない。それを不味いと思った下っ端は部下を制しようとしたけど……遅かった。

まずエンシェントドラゴンから見て真正面にいた一人が発砲し、それに感化された様に次々と犯罪組織の部下達がマシンガンの引き金を引く。……一般人が使える様な携行火器じゃ、集中砲火を浴びせたとしてもノンアクティブ級を即死させられたりはしないのに。

 

「グルルゥ…!?」

「よ、よし効いてるぞ!このまま撃って撃って撃ちまく……」

「……ガァァァァアアアアアアッ!!」

「────ぇ…?」

 

唸りを上げながら、正面の犯罪組織員へと飛び交うエンシェントドラゴン。ドラゴン…それも巨大な体躯に一対の手足と尻尾、それに翼を有する類の生物は、瞬発性があまり高くない事が多い。けど、それはあくまで『スタート』が遅いというだけで、『スピード』全体が遅いという訳ではない(そして、語呂が似てるからこの2単語を選んだのか、とか邪推するのは良くない)。女神や常人の外へと足を突っ込んでる人ならまだしも、常人の域にいる人間からすればそれは…一瞬で眼前へと迫られた様なもの。接近は勿論、その勢いのまま放たれた一撃に反応出来よう筈もなく、その人は近くの木ごと跳ね飛ばされてしまった。

 

「ひぎ……っ…」

「……ッ!テメェよくもッ!」

 

仲間の一人が跳ね飛ばされて、戦々恐々よりも怒りに燃えて以前撃ち続ける他の組織員。しかしエンシェントドラゴンは先の私達の攻撃、そして弾幕で怒り狂っているのか攻撃を意にも介さず再び突進。狙う先は、ぐったりと倒れている組織員。

ここまでいって、やっと私達は呆気に取られた状態から立ち直った。戦況だけで言えば、敵の敵は味方の如く私達に利のある状況だけど…私達は犯罪組織の面子を皆殺しにしたい訳じゃない。そうでなくとも、逃げる事すらままならない状態の人を見殺しになんて、出来る筈もない。

けれど、私達が動くのは一瞬遅かった。女神化しても、今からじゃ間に合わない。だって、私が踏み込もうとしてる間にもエンシェントドラゴンは爪をその人へと……

 

「そうは……させないっ!」

 

──届く前に、M.P.B.Lの刀身と激突し火花を散らした。

私は目を見開き、横を…ネプギアがいた筈の場所へ顔を向けた。けど当然ながら、そこにネプギアはいない。……ネプギアは唯一、私達よりも一足先に動いていたのだった。

 

「……っ…ええぃっ!」

 

既に女神化していたネプギアは力任せにM.P.B.Lを振り抜き、エンシェントドラゴンの突進を弾き返す。そこから両者は正対し、再び激突。M.P.B.Lと爪がせめぎ合う。

 

「そこの人!倒れてるあの人を連れて早く逃げて下さい!」

「に、逃げる!?敵のお前が何を……」

「死にたいんですか!?少なくとも、急いで連れて帰らなきゃお仲間さんは死んでしまいますよ!?」

「……っ…わ、分かった…」

「後は…皆さん!」

「大丈夫!遅れてごめんね!」

 

ネプギアの行動に動揺していた組織員を叱咤し動かしたネプギア。続いて私達にも何かを言おうとしたけど…流石にもう私達も動いている。コンパとアイエフは組織員を背にする様に動き、ユニはエンシェントドラゴンの背を撃ち、私は側面に回ってネプギアと激突している腕を斬りつける。

 

「ネプギア、アンタこのまま戦う気!?」

「その通りだよ!」

「その通りって…アンタ……!」

「ユニ!言いたい事は分かるけど、今は倒すのが先決だよ!もうこいつは倒さなきゃこっちも被害受けかねない!」

「……っ…そうですね…」

 

私達が気絶させる前までの奴は、一応冷静に戦っていたからこそ、ある程度は行動を予測出来た。けど頭に血が上っている今のエンシェントドラゴンは、どんな動きをするか分からない。折角殺さずに済まそうとした相手を倒さなきゃいけないのは複雑だけど…こうなればもう、仕方なかった。

そして、私達がエンシェントドラゴンを倒した頃、犯罪組織員は誰もいなくなっていた。

 

 

 

 

「はぁ…何なのよ、ほんと……」

 

エンシェントドラゴンを倒してから数時間後。改めて宝玉を回収したアタシ達は、プラネタワーに泊まる事とした。ネプギア達は元々プラネテューヌにいたからそれぞれの部屋に行ったけど、アタシは貸してもらった客室の一つに泊まる事となった。……じ、地の文ってこんな感じでいいのかな…?

 

「…………」

 

何なの、というのは勿論ネプギアの事。ネプギアが悪い奴じゃない…どころかむしろ、良い奴である事は間違いないだろうけど、どうしてもアタシは理解出来ない。…特に、犯罪組織を見逃した事は。

イリゼさんなら分かる。お姉ちゃん…守護女神に匹敵する女神のイリゼさんなら敵すらも守れる実力があるんだろうし、経験と知識に基づいた判断なら十分に信用出来る。

コンパさんやアイエフさんも、分かる。普通の人よりずっと強い二人も人間である事には変わりないし、目の前で死にかけてる対象を助けるのは優しささえあれば普通の事。

でも…ネプギアは違う。アタシと同じ女神候補生なのに、実力も経験も大差無い筈なのに、自分が未熟者だって分かってる筈なのに…どうして、ネプギアは……

 

「ユニちゃーん、入っていいー?」

「わひゃぁっ!?」

 

突然のノックと声(突然じゃないパターンなんて普通ないけど)に驚いて変な声を出してしまうアタシ。…は、恥ずかしい……。

 

「……?大丈夫…?」

「え、えぇ…」

 

驚いたには驚いたけど、別に何かしてた訳じゃないからすぐに扉を開けると…ネプギアは怪訝な顔。まぁ、そりゃ変な声出してたらそういう顔するわよね…。

 

「…ねぇ、ユニちゃん」

「…なに?」

「わたし、ちょっと前にイリゼさんの部屋行った時も同じ様な反応されたんだけど…わたしのノックって変なのかな…?」

「い、いやそんな事はないと思うけど…」

 

一体イリゼさんの時はなにがあったか知らないけど…ノックに変もなにもあるのかという話。仕方ないからアタシは原因不明のニュアンスを込めて小首を傾げる。

 

「そっか…次は無言で入ろうかな、逆に……」

「普通に失礼な奴になるわよ、それは」

「じゃあ…勢いよく現れて、『わたしが来た!』って言うのは?」

「アタシ達はヒーロー候補生じゃなくて女神候補生だけど?」

「……颯爽登場、銀河美少女パープルシスター…」

「…………」

「…は、恥ずかしいんだからせめて反応はしてよ!?」

「恥ずかしいならなんで言ったのよ!?」

 

ガーンとショックを受けながらそんな事を言うネプギアにアタシは全力突っ込み。いや、確かにボケをスルーされるのはキツいってお姉ちゃん達見ていれば分かるけど…アタシは何でもかんでも突っ込む人じゃないっての……。

 

「うぅ…酷いよユニちゃん…」

「酷いのはアンタの突然なボケの方だから…で、なにしに来たのよ?」

「あ、そうだった。えとね、折角だから一緒に寝ようかなって思ったの」

「……は?」

 

さも当然かの様にそんな事を言うネプギアに、アタシはぽかんとする。…もしや聞き間違えたのかも…と思って一度聞き返してみるも、どうやら聞き間違いではないらしい。……ネプテューヌさん、貴女の妹は一体何を言っているのでしょうか?

 

「…自分の部屋から締め出されでもした?」

「ううん、してないよ?」

「じゃあ、なんで…」

「なんでって…友達ならお泊まり会するものじゃないの?」

「そ、そうなの?」

「そうじゃないの?お姉ちゃん普段から時々イリゼさんの部屋に泊まりに行ってたりしたし、ノワールさん達他国の友達が来た時はほぼ毎回お泊まり会してたよ?」

 

ネプギアが何を思って一緒に寝ようかな、なんて言ったのか疑問だったアタシだったけど…今の発言で納得した。…ネプテューヌさん、貴女の妹がこんな事言ったのは貴女の影響ですね…。

 

「…っていうか、お姉ちゃんは追い返したりしてなかったんだ……」

「あ、うん。ノワールさんはいつも文句言ってたけど、追い返した事は一回もなかったと思うよ?」

「そう…でもだからってアタシ達までやらなきゃいけない理由はないでしょ」

「わたしは面白そうだと思うけど…もしかして、わたしと同じ部屋で寝るのは嫌…?」

「そ、それは…そういう事言ってる訳じゃ……」

「……っ…も、もしや…同じ部屋云々じゃなくて、そもそもユニちゃんはわたしを友達だとは思ってなかったの…?」

「ちょっ、ちょっと!?思考が跳躍し過ぎじゃないの!?」

 

突然しゅんとしてしまうネプギア。た、確かにアタシは泊まるのに否定的だったけど…そこまでなる!?

 

「…ごめんねユニちゃん、一人で勝手に友達認定して浮かれてて……」

「だから思考が跳躍し過ぎだって!なんでそうなるのよ!?」

「無理にそんな事言わなくてもいいよ…?」

「む、無理になんて言ってないわよ!話聞きなさい!」

「…じゃあ、ユニちゃんはわたしを友達だと思ってくれてる…?」

「うっ…そ、それは……」

「……ぐすっ…」

「わぁぁ!?な、泣かないでよ!あーもう…思ってる!アンタを友達だと思ってるわよ!」

「じゃあ、お泊まりは…?」

「あーするする!お泊まり会だろうとなんだろうとするわよ!ほら枕持って来なさい枕!」

「ほんと!?わーい!」

「……はっ!?」

 

気付いた時にはもう既に遅し。いつの間にかアタシは泊まるのも許可してしまっていた。にっこにこ笑顔で喜ぶネプギアを見てアタシは戦慄する。ね、ネプギア…色んな意味で油断ならな過ぎるわよ…!

 

「〜〜♪」

「も、もう…アタシは今日は色々あって疲れたし、明日は血晶探しするんだからふざけてないでさっさと寝るからね?」

「あ、そうだね。もう遅いし、素直に寝よっか」

「…寝るだけなら、自分の部屋でも……」

「……ぐすっ…」

「だから泣かないでよ!っていうか嘘泣きじゃないでしょうね!?」

 

と、こんな感じでネプギアが来て以降、ずっと振り回されるアタシだった。うぅ、恥ずかしい事は言わされるし突っ込みさせられまくるし……なんかお姉ちゃんがネプテューヌさんにぶつぶつ言う理由が分かってきたかも…。

しかも……

 

「…すぅ…くぅ……」

「…アタシより先に寝入ってるし……」

 

エンシェントドラゴンと戦ってた時の姿は何処へやら。寝入る前も今もネプギアは普通の女の子の様だった。アタシとネプギアはまだ長い付き合いでもないのに、警戒の欠片もない様子で寝るネプギアの顔を見てアタシは思う。それも、悪い事じゃないと思うけど……

 

(…ほんと、アンタは純真っていうか…素直過ぎるのよ……)

 

アタシには無い、まだアタシ達候補生が持つべきではない理想を本気で掲げてるんじゃないかと思うネプギアに、ネプギアの意思に……アタシは、複雑な気持ちだった。




今回のパロディ解説

・上手に焼けましたー
モンスターハンターシリーズにおける、肉焼きセット系アイテムでこんがり肉を作った際に流れるSEの事。こんがり女神……見たいですか?流石にエグいですよ?

・タイガーファング
タイガーマスクWの主人公の一人、タイガーマスク(東ナオト)の必殺技(フィニッシュホールド)の事。かかと落としと膝蹴りを頭に…というのは最終決戦でのアレですね。

・わたしが来た
僕のヒーローアカデミアに登場するキャラ、オールマイト(八木俊典)の名台詞の一部のパロディ。この台詞言いながらだと、扉をぶち破ってきそうな気がしますね。

・颯爽登場!銀河美少女・パープルシスター
STAR DRIVER〜輝きのタクト〜の主人公、ツナシ・タクトの口上のパロディ。ネプギアが高らかにこんな事を言ってたら可愛い気がしますが…まぁ、恥ずいのでしょうね。

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