超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

34 / 183
第十三話 再開?それとも初対面?

「うーん、これは一体どうしたものかなぁ…」

 

ラステイションの街中で、歩きながらそんな事を呟く私。どうしたものか、と呟いたのこそ私だけだったけど、胸中では現パーティーメンバー全員がそう呟いてるんじゃないかと思う。だって……宝玉も血晶も、どこへ行けば手に入るのか分かっていなかったんだから。

 

「ケイさんは、なんというか…したたかな人なんですね…」

「そう言えば、イストワールも言ってたわね。彼女程仕事上の取引において信用出来る人はいないけど、同時に油断も出来ない相手だって」

「なんか、うちの教祖がすいません…」

「ユニちゃんが気にする事じゃないですよ、それは」

 

正確な場所が分からない、という事実を述べたのは私が請け負った後だった。明らかにこれは『分かってて言わなかった』であろう事だから私達は文句を言ったけど…一度引き受けたものを断るのか、と返されれば言葉に詰まってしまう。それに……

 

「渡り鳥ならぬ渡りモンスターか…しらみ潰しに探さなきゃいけなくなるのだけは避けたいね」

 

二つの素材の内の一つ、宝玉はとあるモンスターが生成するようだけど…そのモンスターというのは、決まった住処を持たない生態らしい。モンスターそのものの外観はもう分かっていて、渡り先もある程度決まっているらしいからゲイムギョウ界中を探す必要はないけれど…それでも、可能性があるのは十数箇所。一つ一つ回るのだけは避けたいところだった。

 

「ま、だから情報収集の為にギルドに行くんでしょ?」

「こういう情報は街頭調査やネットよりギルドの方が向いてるからね。取り敢えず何ヶ所かに絞り込めれば上々だよ」

「そんなに上手くいくんでしょうか…」

 

ちょっとネガティヴな発言をするネプギアだけど…そう思うのは最もな事。簡単に分かるなら教会の方で情報を掴んでいてもおかしくないし、準備はきっちりするタイプっぽいケイさんがそれをしない筈がない。…でも、今ある手段の中じゃこれが一番なんだから、これに期待するしかないよね。

 

「…ま、あんまり気負わなくていいわよネプギア。これは人命のかかってる依頼じゃないし、本来ならネプギア達が手伝わなきゃいけない事でもないんだから」

「うん、でも…頼ってくれた以上、なんとかしたいなって…」

「お人好しね、アンタは…」

「えー…お人好しじゃ駄目?」

「別に。人の頼みを無下にする奴よりは好感持てると思うわよ?」

「でしょ?…って、これじゃわたしがお人好しの自覚あるみたい……きゃっ…っ!」

 

ギルドが見えてきた頃、気を遣ったらしいユニのおかげで少し足取りが軽くなったネプギアだったけど…タイミングの悪い事に、ネプギアがギルドに入ろうとした瞬間とギルドから人が出てくる瞬間が被った事で両者はぶつかりかけてしまった。

 

「ぎ、ギアちゃん大丈夫ですか?」

「は、はい…今といいユニちゃんの時といい、わたし最近出会い頭の運悪いかも…」

「危ない危ない…前方不注意だったよ。ごめんね君」

「あ、いえこちらこそ……あれ?」

 

幸い両方とも直前に横に逸れた事で、ぶつかる事は回避。それでもネプギアを心配して私達が集まったところで、ぶつかりかけた相手の方が謝ってくる。それを受けてネプギアも謝ろうとしたけど……そこで、私達は目を瞬かせる。

 

「……?」

 

ネプギアがぶつかりかけたのは、赤いショートカットの髪に、オレンジがかった瞳の少女…というよりも、女性。ベールやミナさんとはまた違う類いの大人っぽい人で、私の記憶に綻びがなければ間違いなく初対面の人……なのに、どこか見覚えがある気がする。そしてそれは皆同じ様で、なんなんだろう…と思ってまじまじと見つめていると、女性は困った様な表情を浮かべる。

 

「…えーっと、その…あたしの顔に何か付いてる…?」

 

見るからにそれなりの場数を踏んできたであろうその女性も、流石に五名からの『じーっ』という視線を受けては気まずくなってしまったらしい。……っていやいや、何冷静に分析してるの私。

 

「っと、悪かったわね。ちょっと見覚えがあったからつい…」

「見覚え?うーん、あたしは君達と初対面だと思うけど…」

「わたし達も初対面だと思うです」

「じゃあ所謂他人の空似、ってやつかな。……あ、いや待った…」

 

すっ、と手の平を私達に見せて、逆の手を軽く頭に当たる女性。数秒後、彼女は合点がいった様な顔をする。

 

「…あー、もしかしてそっちの三人は女神様だったり?」

「あ、はい。私はイリゼ、こっちはネプギアとユニです」

「って事は、あたしは危うく女神様を転ばせるところだったのか…ほんとごめんね」

「そんな、わたしも不注意でしたし気にしないで下さい」

「そう言ってくれると助かるよ。…っと、一方的に名乗らせるのはフェアじゃないね。あたしはファルコム、しがない冒険家さ」

「ファルコムさんですか、ご丁寧にありがとうございます」

「礼儀は対人関係における基本だからね」

「…………」

「…………」

『……やっぱりファルコム(さん)だった(です)!?』

「え、えぇっ!?」

 

女性に名乗られて、私達はやっと相手がファルコムである事に気付いた。…って言うと私達の物覚えが悪いみたいだけど…これは仕方ないよ、うん。だって女神化前後のネプテューヌ並みに外見年齢違うし。

 

「わぁぁ…ファルコムさん、知らないうちに凄く大人になったんですね」

「胸もえらい成長してる…見ない間に一体何が……」

「でもこんな所にいるなんて思いもよらなかったよ。ファルコムも情報収集の最中?」

「ちょ、ちょっと待った。き、君達は何を言ってるんだい…?」

「何を…って、何が?」

「何が、って言われれば…全部だけど…?」

『……?』

「その反応をしたいのはあたしの方だよ…」

 

久し振りに会う(一応私コンパアイエフはギョウカイ墓場の調査へ行く少し前に会ったけど)人との再会に湧く私達だったけど…当のファルコムは困惑気味。それを見た私達も、何かおかしい…と思い始める。

 

「え、っと…ファルコム、なんだよね…?」

「そう、だけど…」

「…『もし知り合いが急成長したら、信じる?信じない?』の仕掛け人だったりは…?」

「そんなモニタリングみたいな事はしてないよ…」

「嘘ついてる様には見えないわね…そういえば、さっきも初対面って言ってたし…」

「もしかして、ファルコムさんも記憶喪失になっちゃったです…?」

「それか、同姓同名という可能性も…って、それにしては似過ぎですよね…」

 

どうも話が噛み合わない事に不信感を覚えた私達は、一旦皆で会議。まずコンパが、続いてユニがありそうな可能性を上げるけど…記憶喪失なら自身の事を知ってる様な発言をする私達に反応してもおかしくないし、同姓同名にしては共通点が多過ぎる。となるとやっぱり私達の知ってるファルコムとは別人で、でも私達の知るファルコムと同じ人になるけど…どう考えてもこれは矛盾だよね。普通の人なら勿論の事だし、それが非凡な人なら尚更…………あ。

 

「…もしや……」

「イリゼさん、何か思い付いたんですか?」

「ひょっとして、だけど…このファルコムは、この次元のファルコムなんじゃない?」

「あ、そういう事ね…」

「この次元の、です…?」

「うん、だって私達の知ってるファルコムは『別次元組の』ファルコムでしょ?」

『あー……!』

 

一足先にアイエフが、続いて残りの三人も私の意図に気付く。別次元組、と言う通りファルコムは元々別の次元から来た人の一人で、この次元のファルコムという訳ではない。そうなると次元毎に同じ人物がいるのか…ってなるけど、それは既にあり得る事だって確証を持っている。…まぁ、私やあの子みたいに例外もいるんだけどね。とにかく目の前のファルコムがこの次元のファルコムなら、全部納得出来るんだよね。

 

「えと…なにか分かったのかい?」

「あ、うん。私達は多分初対面で間違いないと思う」

「なのにあんな親しげに…あたしも色々な人と会ったけど、君達はかなり特殊な方だと思うよ…」

「あ、あはははは……」

 

もうこれについては乾いた笑いを零すしかない私。親しげに話した理由は当然あるけど…本人もいなければ女神化したり次元超えたりしてないこっちのファルコムじゃ、ちゃんと理解してくれるか怪しいところ。となると誤魔化すしかないよね、初対面でもあるし。

 

「まぁでも、普通の人じゃ世界は救えないもんね。…っと、クエスト受注の邪魔しちゃったかな?」

「いえ、わたし達は情報収集に来たんです」

「情報収集?何か探し物かい?」

「はい、アタシ達宝玉を持つモンスターの居場所を探してるんです」

「宝玉…それって、確かエンシェントドラゴンが作り出すと言われる…?」

「あら、知ってるの?」

 

そう言えば…と言いそうな顔で言うファルコム。それにアイエフが反応すると、彼女は首肯する。

 

「冒険家として色んな所を回ったからね。…ふふっ、だとしたらあたしが君達と会ったのは何かの運命かもしれないな」

「……?どういう事ですか…?」

「見かけたんだよ、ラステイションに来る前に、ね」

『え!?』

 

楽しげに言うファルコムの言葉に驚く私達。取り敢えず何かしら情報手に入れられればいいなぁ…位の感覚でギルドに行ったら、まさかの一人目で、しかもギルドに入る前に決定的な情報の可能性が発生してしまった。た、確かにこれは運命感じるかも……。

 

「あ、あの!どこで見かけたか、教えてくれませんか?」

「勿論だよ。バーチャフォレスト…と言えば分かるかな?」

「は、はい!ありがとうございます!」

「お礼なんていいよ、偶々見かけただけなんだから」

「でも、ファルコムさんには話しても利益がある訳じゃないですし…」

「確かに利益はないね。けど、話さない事による不利益はあるよ?知ってるのに話さなかった、という罪悪感がね」

「ファルコムさん…」

「それに、あたしは困っている人を見かけるとほっておけないお節介でもあるんだ。だからこれはあたしが教えたいと思ったから教えた、それだけだよ」

 

微笑みを浮かべるファルコムに、私達は感銘を受ける。そう言えば、別次元組のファルコムもラステイションで初めて会った私達に気さくに道を教えてくれたし、コンパとアイエフ、ネプテューヌが偽者討伐に向かった時は颯爽と現れて味方になってくれたらしい。そして目の前にいるファルコムは、同じく気さくに教えてくれた上に、私達に恩を売るどころか『自分がしたいだけだから』と言ってくれた。…ファルコム…良い人過ぎる……!

 

「どうしよう皆…私、私やネプテューヌ達守護女神組よりファルコムの方が立派な人間に思えてきた…」

「い、いやまあ…イリゼやベール様達だって立派な人間だから大丈夫よ。…同時に相当な駄目人間でもあるけど…」

「駄目駄目な部分含めてのイリゼちゃん達女神様ですもんね」

「フォローありがとう二人共。…フォローどころかコンボアタックだったけどね…!」

「凄いやり取りだね…ええと、大丈夫?」

「大丈夫、こういうやり取りは日常だから」

「そ、そうなんだ…さてと、それじゃあたしは行こうかな」

「あ…ほんとにありがとうございました。えっと、冒険頑張って下さいね」

「うん、君達も元気で。また会える事を期待しているよ」

 

ひらひらと手を振って立ち去るファルコム。そんな彼女に私達は心の中でもう一度お礼を言い、早速プラネテューヌへと向かう。住処を転々とするモンスターなら早く行かないと入れ違いになりかねないし…せっかく教えてくれた情報を、無駄にはしたくないからね。

 

 

 

 

それから数時間後。辺りが大分暗くなった頃に私達はバーチャフォレストに到着した。…森の中という事もあって、結構暗い。

 

「な、何か出てきそう…」

「なによネプギア、まさか怖いの?」

「そ、そういう訳じゃ……あ、ゆ、ユニちゃん後ろ!」

「え、な、何……!?」

「……あ、ごめん…木の枝が風で動いただけだった…」

「はぁ!?ちょっ、何驚かしてんのよ!や、止めてよね!」

(…実はユニちゃんもちょっと怖いんじゃ…)

「怖くなんかないわよ!」

「心の声読まれた!?」

 

足元に気を付けなきゃなぁとかお腹空いたなぁとか思って口数が減ってる私達とは裏腹に、元気に話す候補生二人。…若い子は元気だなぁ……いや私も若いけど。更に言えば別に楽しげに話してる訳じゃなさそうだけど。

 

「こうも暗いとドラゴン見つけるのだけでも難しそうね…」

「わたし、木の根と間違えてドラゴンさんの尻尾踏まないか心配ですぅ…」

「…そう言えば…宝玉って、エンシェントドラゴンが持ち歩いてるんじゃなくて、自分の身体で作り出す物なんですよね?」

「らしいけど、それがどうかしたの?」

 

整備された道を進む中、ネプギアがそんな確認を口にする。なんだろう…と思って私が見ると、ネプギアはちょっと浮かない顔。

 

「その…悪さしてるモンスターならともかく、何も悪い事してないモンスターを倒すのは気が引けて…」

「ふふ、ギアちゃんは相変わらず優しいですね」

「アンタねぇ…じゃ、わざと無防備で近付いて襲わせてから倒す?」

「そ、それもちょっと…」

「なら、そんなネプギアに朗報よ。宝玉はドラゴンの背中で排出物として生成されるの」

「え?って事は…殺さなくてもいいんですか?」

「そうなるわね。流石に戦いは避けられないでしょうけど」

 

ほっとした様な顔をするネプギアに、私とアイエフは苦笑い、コンパは微笑み、ユニは呆れとそれぞれの反応を浮かべる。…でも、私もネプギアの気持ちは分かるかな。モンスターは本能的に人や動物を襲うのであって、楽しんでる訳じゃないんだから、襲いかかってきてもいないモンスターを殺すのは忍びないよね。…ま、そういう事は割り切らないといけない部分なんだけどさ。

 

「…そういう気持ち…っていうか考え方は、持ち続けたいものだよね」

「…そういうものですか?」

「そういうものだよ。少なくとも、私はそう思う」

 

いまいちユニはネプギアの発言も私の発言も納得出来てないみたいで、思うところがありそうな顔をしている。けれど、別に私は無理に納得させようとは思わない。だってこれは個々人の性格や思考に依るものだからね。

そこからまた十数分。バーチャフォレストの奥地付近まで来た所で、私達は小休憩を入れる。

 

「結構歩きましたけど…まだ見つかりませんね」

「ここもそこそこ広いものね。もう暫く探していなかったら、一旦帰る?」

「それがいいかもね。視界が悪くてお腹も空いてるんじゃ戦闘中に事故起こしかねないし」

「お昼ご飯以降、何も食べてませんもんね……あれ?」

「……?ギアちゃん、どうかしたですか?」

「今、何か聞こえませんでした?」

 

座っていた木の幹(勿論倒れてた木だよ)から立ち上がり、周りを見回すネプギア。何が聞こえたんだろう…と思って私達も耳を澄ますと……確かに、何か低い音が聞こえてくる。これは、もしかして……

 

「大型モンスターの、寝息…?」

「あ…皆さん、あれ……!」

「あれ、って…岩、じゃないの…?」

「違うわ、あれは…やっぱり…!」

 

何かを見つけたらしいユニはライフルを取り出し、それに付属していたライトを点灯させて、近くにあった岩っぽいものへと光を向ける。そして、皆気付いた。自分達が岩かなにかだと思っていたものは、丸くなって寝ていたモンスターである事に。

 

「こ、こんな偶然があるのね…」

「寝てるなんて都合のいい…コンパ、ユニ、麻酔系の薬品とか弾丸ある?」

「麻酔、ですか…あるにはありますが…」

「こんなおっきいモンスターさんに効く様な物はないです…」

 

麻酔があれば安心して取れるけど…ないなら仕方ない。という事で私達はエンシェントドラゴンの背に回り込み、そこにある筈の宝玉を確認する。

 

「…球状、ではないですね…」

「ゴツゴツしてるのは厳密には外殻で、そこを剥がすと丸い宝玉が出てくる…らしいわ。正確な位置は分からないし、やっぱり根元から切り落とすのが良さそうよ」

「了解。なら起きない事を祈って一緒に採取しようか、ネプギア」

「はい。…え、わたしもですか?」

「一太刀で根元から切り落とすのは難しそうだからね。一発で成功すれば、傷付ける必要すらなくなるかもよ?」

「そ、そういう事なら…分かりました」

「じゃ、三人は起きた場合に備えて戦闘準備しておいてもらえる?」

 

三人の頷きを確認した私とネプギアは、忍び足でエンシェントドラゴンのすぐ側まで移動。それぞれバスタードソードとビームソードを宝玉に添え、目を合わせてタイミングを計る。

 

「斬れなかったら即退避、いいね?」

「……斬れ過ぎちゃったらどうします…?」

「斬れ過ぎちゃったら…?」

「だって…これ、勢い余ったら互いに腕ばっさりやっちゃうパターンじゃないですか…」

 

宝玉はそこまで大きい訳じゃなく、確かに言われてみれば私とネプギアはお互いに刃を当てられる距離にいる。…そっか、普通に考えたら怖い状況だよねこれ。よし、ここは一つ私が安心させてあげなきゃ!

 

「…大丈夫だよ、ネプギア」

「大丈夫、ですか…?」

「うん、大丈夫。女神は……腕一本斬り落とされた程度じゃ死んだりしないから!」

「な、なんで斬り落としちゃった場合の事言うんですか…!?」

 

ぶるぶると震え出すネプギア。…あ、あれ……?

 

「…イリゼさんに訊いたわたしが馬鹿でした……」

「がーん…でもほんと、大丈夫だと思うよ…?コンパいるし…」

「あ…それはそうかも……」

 

ネプギアは訊く相手ミスで、私は自爆でそれぞれダメージを受けるも、コンパの存在のおかげでお互い落ち着きを取り戻す。…腕ばっさりいく程の事態でもナース一人いれば大丈夫、ってのも中々アレだけど…ここにいるのはコンパだからね。私達女神一行の治療主任コンパさんだからね。普段は天然感の強いけど、治療に関しては全幅の信頼をパーティーから寄せられてるコンパがいれば安心だよ。

 

「さて、じゃあ改めて…やるよネプギア」

「はい、合図お願いします」

「いくよ…いっせーのー……でッ!」

 

で、の瞬間二人で剣を振り抜く。外殻、と言われるだけあってドラゴンの皮や肉よりは明らかに硬かったけど…戦闘中と違って、好きに立ち位置やタイミングを決められるから切断はむしろ楽な部類。そのおかげもあって私とネプギアの剣は一気に食い込み……宝玉を外殻ごと斬り落とした。

 

『……よしっ!』

 

気持ちいい位見事に斬れて、私とネプギアは揃って左手でガッツポーズ。しかもその時の声が噛み合った事もあって、ついハイタッチとかしてしまった。

 

「やりましたね、イリゼさん!」

「だね、それに腕も斬れなかったし完璧完璧」

「グ…ルゥ……」

「腕ばっさり、なんて杞憂でしたね。じゃあこれ持ち帰りましょうか」

「外殻剥がすのは、シアンに任せればいっか。宝玉だけ必要なのか、外殻も欲しいのか聞いてなかったし」

「グルル…グル……」

「これで後は血晶…こっちは明日にします?」

「そうしよう、今からじゃ徹夜確定だもん」

「ですよね」

「そうだよ」

「…………」

「…………」

「……さっきから、何か唸りみたいな声が聞こえてきてません…?」

「そ、そうかな?気のせいじゃない?ほら、こんなに綺麗に斬れたんだから起きてる訳ないって!」

「そ、そうですよね!それじゃあ帰って────」

「グルガァァァァアアアアアアッ!!」

「きゃああああああああああああっ!!」

 

普通の女の子の様な悲鳴を上げながら、尻尾を巻いて逃げ出す私&ネプギア。歴戦の女神と将来有望な候補生が、このザマだった。…だ、だって仕方ないじゃん!気分良くなってたところに、超至近距離がらの大音量咆哮を喰らったんだよ!?こんなの守護女神や教祖だってビビるよ!不可抗力だもんっ!

 

「ちょっ、何起こしてんのよ二人共!」

「お、起こしたくて起こした訳じゃないよ!」

「宝玉忘れてる宝玉忘れてる!」

「こ、こんな状況じゃ取れないよ!ならユニちゃん取ってよ!」

「えぇ!?アタシが!?この距離で!?」

「み、皆落ち着くです!龍はみかんの皮が好物だから、それあげれば気を引ける筈です!」

「それ龍じゃなくてりゅうだよ!エルマー氏の友達のりゅう限定だよ!?」

 

エンシェントドラゴンが一瞬で臨戦態勢に入った上、普段前衛を担当してる二人が揃って全速力で逃げ出してきたものだからパーティーは大慌て。折角戦闘準備の出来ていた三人も、驚いて即攻撃には移れなかった。

そんな感じで軽くテンパっていた私達だけど、当然エンシェントドラゴンは皆が落ち着くまで待ってくれたりはしない。それがどういう事かと言うと……炎の息や鋭い爪牙に逃げ惑う、情けない女神一行という絵面となってしまっていたという事だった。……依頼は拠点に帰るまでが依頼だって痛感したよ、とほほ…。




今回のパロディ解説

・モニタリング
テレビ番組、ニンゲン観察バラエティ モニタリングの事。比較的ドッキリ対象が楽しめたり得したりする事も多いこの番組は、ドッキリ系の中では好きな方だったりします。

・エルマー氏の友達のりゅう
エルマーのぼうけんシリーズに登場する、捕らえられていたりゅうの事。りゅうだけでなく、この作品に出てくる動物はかなり特殊なタイプが多いですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。