超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第二話 二つの約束

────前に、お姉ちゃんが話してくれた事がある。イリゼさんは、戦いの時偶に口調が変わる事があるって。それは常に変わってる訳じゃなく、その時その時で言いたい事を言いきるまでの短い時間だけど、普段の柔和な口調じゃなくて、心に一本の柱を持っている様な口調になるんだって。

同時に、お姉ちゃんは言っていた。普段からイリゼさんは信用も信頼も出来る仲間で、いつでも頼もしい友達だけど…この口調をした時のイリゼさんは、いつも以上に心強いって。

実のところ、わたし…というか候補生は皆イリゼさんが女神化した姿を殆ど見た事がない。だからイリゼさんがわたしと四天王の間に割って入って、口上を述べた時は凄く驚いたけど……その声と共に女神化した時、女神化したイリゼさんの背中を見た時、わたしは思った。……お姉ちゃん、確かにそういう時のイリゼさんは…凄く凄く、心強いんだね…。

 

 

 

 

確たる証拠はないけれど、自信はあった。ひょっとしたらではなく、絶対に出来るという意思があった。ただ、私はそれを実行に移しただけ。…でも、ほんとの事を言うとちょっとだけ不安もあった。

そんな思いを抱きながら、久し振りに女神化した姿…オリジンハート本来の姿となった私。あぁ、安心する……やっぱり、こっちの私も居てこそ『イリゼ』だよね。

 

「オイ…オイオイオイマジかよ……マジで女神の力を取り戻したってのかよ…」

「取り戻した、というより出来る状態になった…というべきですけどね。…これでも尚、威勢だけだとでも言います?」

「まさか、その姿を見て言うかよ。テメェは守護女神と互角の実力者なんだろ?むしろ必要なら言葉の撤回だってするぜ?だってよぉ……これでやっと、待ちわびた戦いが出来るんだからなああああああッ!!」

 

嬉しそうな雄叫びと共に地を蹴り、私へと接近してくる四天王。元々そこまで離れてなかった事もあって距離は一瞬で詰まり、次の瞬間には斜め上からハルバードの一撃が襲いかかってくる。

どう見ても重い一撃。久方振りに女神化した事もあり、出来るならば防御ではなく回避をしたいところだったけど…私が避けたら刃がネプギアに当たりかねない。だから、私は地面を踏み締め、四天王を見据えて……長剣で、ハルバードの一撃を正面から受ける。

 

『……ッ!』

 

長剣とハルバード。両者の得物が激突する事による衝撃で、互いに歯嚙みをする私と四天王。激突の瞬間に地面には軽くヒビが入り、得物からは火花が散り…風圧すら、周囲へと放たれた。

 

「…その威力、見た目に違わずですね……!」

「今のを正面から受けとめるってか!やっぱりその実力は本物だなぁ、原初の女神の複製体ぃッ!」

 

数秒のせめぎ合いの末、私と四天王は共に跳んで距離を取る。

そこからは、高速近接格闘戦となった。機動力と小回りで勝る私は縦横無尽に動き回って隙を狙い、リーチと膂力で上回る四天王は待ち構えて反撃する戦法を取る。

 

「いいねぇその動き!燃え上がるじゃねぇかッ!」

 

大上段から振るわれたハルバートを紙一重で避け…私はそれへ長剣を叩き付ける。当然ただでさえ凄まじい威力で地面を抉ったハルバートなのだから、そこから更に衝撃が加われば四天王ですら即座には抜けない程の深みに嵌る。

結果生まれた一瞬の隙。それを突くべく私は飛翔し頭部にこちらも上段斬りを仕掛ける。

開戦直後とほぼ同じ状況。でも今の速度なら腕での防御が間に合わない筈。……そう思った私だったけど、四天王の判断力は私の予想以上だった。

 

「うらぁッ!」

「ず…頭突き…ッ!?」

 

長剣に自らぶつかってくる四天王の兜。加速の最中であった事もあって長剣には威力が乗り切っておらず、攻撃を仕掛けた私が逆に弾かれてしまった。

 

「痛つ……危ねぇ危ねぇ、後一瞬遅けりゃ頭がパッカーンするところだったぜ」

「見た目に似合わないネタを…」

 

空中で宙返りして着地する私。その頃には四天王もハルバートを引き抜き、仕切り直す形となる。

長剣を握り直しながら私は思考する。一見脳筋系な四天王だから、動き回って隙作って仕掛ける…の定番でいこうと思ったのに、中々どうして付け入れられない。サイズこそキラーマシンや大型モンスターのそれだったけど…体感としてはむしろ、歴戦の戦士の様だった。

 

(…無難にネプギアに後衛をしてもらう…?……いや…)

 

あくまで意識は四天王に向けたまま、私はちらりとネプギアを見る。そうして数瞬悩んだ後……自分の左右に直剣をそれぞれ一本ずつ展開し、それの射出と同時に突撃をかける。

 

(もういっぱいいっぱいのネプギアに、これ以上の事をさせる訳にはいかない!ネプギアが私達を守るんじゃない、私がネプギアを…皆を守るんだッ!)

 

守る為に、もう一度女神として戦場に蘇る為に私は力を呼び覚ました。なら、この戦いでそれを果たさなきゃ、原初の女神の複製体の復活とは、呼べないよ…!

私に先行する形で四天王へと飛びかかる直剣。それを四天王はハルバートの横薙ぎではたき落とし、膝蹴りで私を潰しにかかる。…が、その程度私も想定済み。右手での片手持ちにした長剣の全力振り抜きで膝を止め、その瞬間左手元に精製したナイフを鎧の隙間に突き立てる。

 

「ぐ……ッ!」

「がぁ……ッ!?」

 

互いに呻く私と四天王。ナイフを刺された四天王勿論……私も私で『両手持ちでも辛い攻撃を片手で押し留める』という芸当をしたせいで、右手が軽く痺れてしまっていた。

 

「…痛み分けっつーところか……あぁ、いいなぁオイ!ギャハハハハハハハッ!!」

「……っ…何が楽しいんですか…」

「戦いがに決まってんだろうがよぉッ!痛み分けっつー事は、俺とお前の実力が近いって事だ!分かるだろ女神、実力が近い奴との戦いの楽しさをよぉッ!」

 

笑いながら四天王はナイフを引き抜く。ダメージの度合いで言えば四天王の方が上の筈なのに、奴は嬉しくてしょうがないという表情をしていた。…不味いなこの相手は…下手すると向こうのペースに乗せられるかも……。

 

「だが、俺は負けるより勝つ方が好きだ……だからテメェも油断すんじゃねぇぞぉぉぉぉおおッ!」

「油断なんて…するものですか…ッ!」

 

膝関節付近の怪我を意に介す様子もなく突撃してくる四天王。それを私は左へのステップで避けつつ斬りつける。

どうやら飛行能力を有していない四天王が相手なら、飛んでしまうのがベストに思える。…けど、それは間違い。奴は女神にこそ敵わないものの巨体からは想像出来ない程俊敏で、しかもかなり跳躍力がある。下手に飛ぼうものなら、逆にその隙を突かれてしまうのが明白だった。

 

(功を焦るのは愚の骨頂。傷付ける事が出来るのなら、倒せる可能性は確かにある。なら、私がすべきなのは熱くならず、相手と自分…その両方を冷静に見る事──)

 

 

 

 

 

 

(……あ、れ…?)

 

冷静さを失うという事は、動きが単調になるという事。熱くなり過ぎるという事は、自分の状況も相手の状況も正しく認識出来なくなるという事。それは本来避けるべき事で、長さも重量も中途半端な武器を扱う私にとっては自分の長所を殺す事にもなり兼ねないタブー。

だけど…今回は、今の状態においてのみは、冷静になる事が……裏目に出た。

 

「うらああああああぁぁッ!」

「……っ、しまっ……!」

 

攻撃が空振った四天王と、鎧で防がれた私。すれ違う形になった私達は即座に振り向き次なる攻撃を仕掛けたけど……私は、その動きが一瞬遅れてしまった。

違和感。自身を冷静に見直した瞬間、それに気付いた。身体はきちんと動くし、シェアの圧縮だって不備はない。なのに感じる、何かが違うという感覚。それに気を取られた私は一瞬遅れ……結果、最初の攻防の様に大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「ち…ぃ……っ!」

 

翼を広げて身体を起き上がらせ、両足先と膝、それに左手を地面に押し付ける事で何とか滑りながらも勢いを殺しきる。…プロセッサ纏ってなかったら左手と両足が血だらけになってただろうね……。

 

「ふぅ……ちょいちょい持ち方変えてたから何かと思ったが…そうやって相手の手を狂わせるのが戦法って訳か。段々分かってきたぜ」

(もう読まれた…なんて観察眼と理解力の高さなの…!?)

 

片手持ちと両手持ち。それを適宜切り替える事でこちらの手を複雑にし、同時に相手のペースを崩す事で相手が本調子を出せない様にしつつ、そこを女神の力で一気に打ち破るのが私の定番戦法で、そこから派生させたり連携の為に応用したりするのが私の戦闘の基本。でも、四天王はそれを初戦で理解してきた。読まれたら完全に無力になる…なんて事はないけど、読まれてない状態の方が有利なのは事実。これは、私にとって間違いなく不安要因となった。

拭えない違和感と、もう読まれたという不安。特に前者は雑念となるせいで…四天王の言う通り、実力の近い相手との戦闘では恐ろしい程の危険を孕む事となる。だから今……私は選択を迫られていた。

 

「俺の力を知ると殆どの奴は距離を取って外からチマチマ攻撃しようとする!だが、テメェやリーンボックスの女神はそんな事せず俺と矛を交える!ほんとにありがたい事だぜぇぇぇぇッ!」

「人の理想に『逃げ腰』ってのはありませんからね…ッ!」

「だよなぁ!勇猛果敢に戦ってこそだよなぁッ!」

 

更に激突する事数度。四天王は相変わらず猛牛の様な勢いで攻め立ててきて、彼の動きに陰りや弱点はまだ見受けられない。この数度の攻防でそれを確認した私は、声を上げる。

 

「……!二人共あれはどうなった!?」

「こっちはもう完了したわ!」

「はい!こっちも……出来たですっ!」

「OK、なら……」

 

四天王とせめぎ合いながら、私はもう一度だけ考える。

やりたい事と、やるべき事。理想と現実。リスクとリターン。…出来る事と、出来ない事。そういう事を一瞬で、でも全力で考えて……決断を、下す。

 

「────撤退するよッ!」

 

 

 

 

撤退。この場に置いての意味を簡単に言えば逃げる事。やるべき事は済んだから、離脱とか帰還とかでもいいと思う。

イリゼさんが言ったのはそういう事。ギョウカイ墓場からプラネテューヌに戻るという事。作戦を終了するという事。────お姉ちゃん達の救出を、諦めるという事。

 

「はぁぁッ!」

「ぬぅんッ!」

 

撤退を指示したイリゼさんは、次の瞬間には仕切り直す様に距離を取って戦闘を再開。それまでの陸戦とは打って変わって空を飛び、高速でのヒットアンドアウェイを開始した。

……わたしは、今何をやってるんだろう。イリゼさんと四天王が激突する中、わたしはただそれを見ていただけだった。確かにイリゼさんの女神化に呆気を取られて最初は動けなかったし、わたしが下手に加勢しても危険を増やすだけではあるけれど…射撃で牽制位は出来た筈。接戦なんだからそれだけでもイリゼさんは戦いが楽になった筈。なのに……わたしは何もしていなかった。

 

(…わたしは、なんの為にここに……)

 

深部に着くまでずっと落ち込んでて、着いてからは動揺して、四天王相手には歯が立たなくて、激情して攻め込んでもやっぱり無駄で、その後は完全に諦めちゃって、今は戦いを見ているだけ。自分の勘違いに、お姉ちゃんの優しさに気付けた事は本当に良かったけど……同時に、やっぱりわたしは役立たずだった。

気付いたのだから、今からでも加勢すればいい。わたしは今フリーなんだから、お姉ちゃん達を助けられないか動いてみればいい。…そう、頭では分かっている。でも動けなかった。……失敗するのが怖くて、なんの成果も上げられないで終わるのが怖くて、また役立たずになるのが怖くて…立ち上がれなかった。

それに……

 

「……?ネプギア、あんた何してんの!やる事は終わったしさっさと退くわよ!」

「そうです!わたし達が行かなきゃ、その間イリゼちゃんはずーっと戦わなきゃいけなくなっちゃうです!」

 

へたり込んでいるわたしの元へ、コンパさんとアイエフさんがやって来る。そうだ、確かにその通り。イリゼさんが四天王の足止めをしてるんだから、動かないでいるのはよりイリゼさんに迷惑をかける事になる。でも、だとしても……

 

「……わたし、出来ません…」

「出来ない…って、何がです…?」

「お姉ちゃんを置いていく事ですよ!…お姉ちゃん達は凄く辛そうで、わたしや候補生の為に無理してこうなってるのに、当のわたしがお姉ちゃん達を見捨てて安全な場所に行くなんて……」

 

わたしは今、凄く身勝手な事を言っている。自分はただ座ってるだけの癖に、お姉ちゃんを…なんて大層な事を言っている。…こんなの、通る訳がないのに…。

 

「…ギアちゃん、別に見捨てる訳じゃないですよ。見捨てるつもりなんてないから、助けたいからここに来たんです」

「でも、今はわたし達だけがプラネタワーに戻る…それは変わらないじゃないですか…」

「そりゃそうだけど…酷な事を言うけど、今は我慢しなさい。ここで無理して、皆大怪我したり捕まったりする事をプラネタワーで待ってる人やねぷ子達が望むと思う?」

「そうですけど……そうですけど…っ!」

「ギアちゃん……」

「……ごめんなさい…こんなの、わたしの勝手な思いですよね…」

「…いいわよ、だって…私達だって、気持ちは同じだもの」

「あ……」

 

アイエフさんの言葉を聞いて、二人の顔を見て…わたしはやっと気付いた。二人共、凄く悔しそうな顔をしている事に。

なんでわたしは気付かなかったのか。コンパさんもアイエフさんもイリゼさんも、お姉ちゃん達とは大の友達で、わたしが生まれる前から友達だった。なら…わたしの気持ちが分からない訳がない。いや、分からないどころかわたし以上に辛いのかもしれない。だって…最初の戦いの時、三人は戦いに出る事すら出来なかったんだから。

 

「……ごめんなさい、二人共…」

「…じゃあ、約束したらどうですか?」

「約束…?」

「そうね。今は助けられないけど…いつかは絶対助けに来るからって、わたしが助けるからって…そう約束して、心を決めれば少しは気持ちが整理出来るんじゃない?」

 

約束。一瞬わたしはそんな事で…と思った。だって、そんな約束はわたしの自己満足にしかならないから。

でも…考えてみれば、わたしの思いは全部自己満足だった。お姉ちゃんが酷い事を言ったのはわたしの為の嘘だって分かった時点で、わたしを役立たずだと言う人はわたし以外誰もいない。わたしがここにいるのは皆がわたしを役立たずどころかむしろ必要だって思ってくれたからで、お姉ちゃん達があんな無理をしたのも今わたしにこうして苦しんでほしいからじゃない。……だったら、ここでうじうじしてるより約束してその『いつか』の為に今は逃げた方がずっと良い。

わたしは一つ深呼吸。胸の前できゅっと手を握って…口を開く。

 

「……ごめんね、助けられなくて…でも、ちゃんと助けに来るから…わたしもっと強くなるから、だから…待ってて、お姉ちゃん…!」

 

それだけ言って、わたしは二人と共にギョウカイ墓場の出入り口へと走る。弱ったお姉ちゃんにちゃんと言葉が伝わったかどうかは分からないけど…それでも、言うべき事は言った。ほんの少しだけど、心の中で何かが決まった。

……そうだ。わたしはもっと…強くならなきゃ…!

 

 

 

 

機敏な動きで隙を狙う作戦から、空中強襲によるヒットアンドアウェイに切り替えたのは、ひとえに四天王の注意を引き付ける為だった。空中強襲ならば単純な動きだから対応はされ易いけど、速いし威力の乗る攻撃だから無視はされ辛い。倒す事ではなく引き付ける事が目的なら、こっちの方が賢明だった。

 

(やっと動き出してくれた…二人共、フォローありがと…!)

 

ネプギアの心境はなんとなく察していたし、ここは女神の先輩として私が何か言いたいところだったけど、それを許してくれる程四天王は弱くない。こうしてチラリと一瞬視線を向けるのが現状精一杯だった。

 

「オイオイ上手い事逃げてやろうって魂胆が見え見えだぜ?それでいいのか、よッ!」

「撤退って言った時点でバレてますから…ねッ!」

「はっ、そりゃそうだな!」

 

直上からの刺突。それを四天王はバックステップで避けつつハルバードで縦斬り。しかし私は横へ転がって回避し、そこから跳ね起きからのドロップキック。四天王は身体を反らせる事でギリギリ回避。私が戦法を切り替えて以降、互いに傷は負っていない。

そうして数分後……

 

(ネプギア達は撤退した…後は私が逃げるだけ…!)

 

それは口で言う程(頭で思う程)楽な事ではないけど、ネプテューヌ達を助けるにはそうするしかない。

 

「……っ!喰らえッ!」

 

刀剣を十数本纏めて一度に精製し、一斉掃射と言わんばかりに四天王へと叩き込む。当然四天王はそれを跳んで避けるけど…そこに向かうは私の攻撃。飛行能力のある私と違って空中では踏ん張れない四天王はぐらつき、そのまま地面へと落ちていく。そして…そこへ私は大剣を撃ち込んだ。

 

「ち…いぃぃッ!」

 

が、四天王の反応も相当なもの。脚の力を頼りに無理矢理衝撃を抑え込み、大剣をハルバードで弾いてしまった。だけど…それもまた、予想の範囲内……ッ!

 

「……ッ!」

 

私は大剣を撃ち込んだ。けどそれだけではない。それを追う様に私は飛び、一気に懐へと潜り込んでいた。

大剣が邪魔で鎧の隙間を見据える事は出来なかったものの、勢いは十分。ここで重い一撃を鎧にぶつければ、四天王は怯んで撤退する隙が出来る筈…!

私の策は自分で思うに盤石だった。けれどここで二つ問題が起こった。

攻撃を仕掛けながらも視界の端で捉えていた大剣。それは捉えていただけで気にも留めていなかったのに……それを見た瞬間、大剣…そして大剣がぶつかった結界へと注視してしまった。

 

(…嘘…消えた……!?)

 

偶然にもネプテューヌ達を捉えていた結界へと飛んだ大剣は……結界へと触れた瞬間消滅した。

それは、あり得ない事だった。勿論シェア圧縮で作った武器は長時間その場に残るものじゃないけど、消えるにはあまりにも速過ぎる。

そしてもう一つ。異様に速く消えた大剣に疑問を抱いた私は…それをずっと感じてる『違和感』と関連付けてしまった。驚愕と、それについての思考。もしこれが絶テン宜しく推理もバトルもする作品ならそれもいいのかもしれないけど…今重要なのはあくまでバトル。でも推理に比重を置き過ぎた私の攻撃は甘くなり…怯まなかった四天王は反撃を仕掛けてくる。

 

「へっ…抜かったな女神ィッ!」

(……っ…不味い……ッ!)

 

長剣を鎧で弾いて大振りの一撃を放つ四天王。咄嗟に私は長剣を掲げたけど…攻撃が弾かれて体勢の崩れている今の私ではほぼ確実に吹き飛ばされる。そうなれば撤退は大きく遠ざかるし、下手すれば撤退不能の怪我を負うかもしれない。

そう思っても避けられる筈もなく、重量の乗った一撃が私へと────届く直前で、止められた。

 

「……へ…?」

 

欠片も想定してなかった事態に目を丸くする私。一体何事か…と四天王を見ると…彼は、ふぅ…と息を吐いてハルバードを引っ込めた。

 

「ふん、豆鉄砲食らった様な顔してんな女神」

「…何のつもりですか……」

 

ガチャリとハルバードを肩にかけた四天王からは、もう戦意を感じられない。これは絶好のチャンスだけど…あまりにも唐突過ぎて、意味が分からなくて、罠にしか思えなかった。

…が、そこで再び私は目を丸くする事になる。

 

「何のつもりぃ?細けぇ事聞くなぁ、逃げるチャンスなんだからさっさと逃げればいいじゃねぇか」

「…………」

「あー、そうかい。だったら教えてやるよ。…いや俺の言葉聞いてたら言うまでもねぇだろ、俺は全身全霊の戦いが好きなんだよ。だから逃がすっつーだけだ。……テメェ今本調子じゃねぇだろ」

 

私が違和感に悩まされているのを見抜いていた事にも驚いた。けど…それ以上に、『全身全霊の戦いが好きだから』という理由は驚きだった。そ、そんな……

 

「…そんな、理由で…?」

「そんな?違ぇな、俺にとっちゃ最優先の理由だ。テメェは強い、だが本調子じゃねぇ。このまま戦えば俺が勝てるが…折角こんな強い奴と全力で戦う前にその機会失っちまうのは惜し過ぎんだよ。俺は最高の状態のテメェと戦いてぇんだ」

「で、でも…貴方の目的は……」

「俺の役目は墓守、女神を助けようとする奴を追っ払って女神が逃げられない様にする事であって、女神が逃げなきゃ殺そうが追っ払おうが逃げるのを見逃そうが俺の自由なんだよ。俺はより俺が望む戦いを得る、お前は安全に撤退出来る。win-win…とまでは言わねぇが、互いに損を避けられる案だと思うぜ?それとも……まだ戦うか?」

 

その言葉を聞いて…彼の本心を聞いて、私は唖然とした。彼は、さも当然かの様に組織としての利益より個人の利益を優先している。役目放棄はしていないから、違反をしている訳ではないんだろうけど……一言で言えば、無茶苦茶な人だった。…でも……

 

「…分かりました。ご厚意感謝します」

「そんなお利口なもんじゃねぇよ、ただ私欲を満たしてぇだけだ。だがそう思うなら……逃げんじゃねぇぞ?」

「勿論。逃げも隠れもしますが、敵であろうと受けた恩は忘れず嘘を吐かないのが女神ですからね。……次に来た時、私は貴方と一対一で刃を交える事を約束します」

「おうよ、万全の状態で来いよ?楽しみにしてるからなぁ!」

 

こくり、と四天王の言葉に頷き、私は背を向ける。四天王が背後から攻撃を仕掛ける気配は……無い。

 

「…ジャッジ・ザ・ハードだ、覚えときやがれ原初の女神の複製体!」

 

私は飛ぶ。今度こそ助けるから、もう少し待っていて…という大切な友達への思いと、ただの敵、ただの倒す対象…とは思えない四天王…ジャッジとの約束を胸にしながら、ギョウカイ墓場の空を飛翔する。目指すはプラネタワー。ネプギア達と合流し、今回の結果を伝える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

────こうして、犯罪組織との二度目の激突は終了した。今回守護女神の四人を助ける事は出来なかったけど…得るものはあった。次に繋げる事は出来た。だから……犯罪組織との本格的な戦いは、ここから始まる。




今回のパロディ解説

・パッカーン
携帯会社AUのCMにおいて流行を生んだフレーズの事。桃の様に頭がパッカーンする…響きだけだと明るいですが、真面目に考えたら凄くグロいシーンになりますね。

・某絶テン
推理バトル物作品、絶園のテンペストの事。推理物がいつの間にかバトル物に…というのは時々ある事ですが、推理とバトルをある程度両立している作品は珍しいですね。

・「逃げも隠れもしますが〜〜嘘は吐かないのが女神ですからね〜〜」
新機動戦記ガンダムWシリーズのメインキャラの一人、デュオ・マックスウェルの名台詞の一つのパロディ。…何故かイリゼとジャッジがライバル風になりました、何故か。

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