超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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本編
プロローグ 託す為のプレリュード


長きに渡る守護女神戦争(ハード戦争)を終結させ、信次元ゲイムギョウ界に平和と四ヶ国の友好を取り戻した女神と英雄達。人々は彼女等を讃え、尊敬し、彼女等に夢を見た。

だが、それから少しして『犯罪組織マジェコンヌ』という新興宗教が現れた。マジェコンヌの名を借り女神統治への革命、世界への革新を謳うこの宗教は、それだけなら些か目標の過剰なだけの、ただの新興宗教に過ぎない。しかし、犯罪組織の末端こそ稀に見受けられるものの、上層部や中核は一切影の見えない当組織に不信感を抱いた各国教会は、公的には存在を認めながらも調査を開始。その結果見えてきたのが……犯罪神とマジェコンヌ四天王だった。

独創的な新興宗教というのは仮の姿で、その正体は負のシェアに汚染されていた頃のマジェコンヌに劣らない程の危険な組織である事が判明した頃、教会は女神のシェア率低下と犯罪組織のシェア率上昇の兆しを察知した。その流れが加速する事への危惧、そして再び信次元に生まれた災いの種が芽吹く事を防ぐ為、犯罪組織の本拠地であるギョウカイ墓場へと向かった守護女神と女神候補生。

--------世界を守ろうとする女神達と、世界を破滅させようとする犯罪組織。両者の戦いは……この時、始まった。

 

 

 

 

マジェコンヌ四天王を倒し、犯罪神の再封印、或いは封印の強化を目的にギョウカイ墓場へと向かったわたし達女神候補生と、お姉ちゃん達守護女神。

最初、お姉ちゃん達やいーすんさん達はこのメンバーだけで全て終わらせるつもりでいて、戦いも運が良ければ四天王だけ、運が悪くても四天王と犯罪神、それに邪魔になるモンスターだけだと思っていた。けど、ギョウカイ墓場の奥地に到着したわたし達が見たのは……ギョウカイ墓場を埋め尽くしてしまう程の、モンスターの大群だった。

 

「はぁ……はぁ……、……っ!」

 

正面から襲ってきたモンスターを斬りつける。そのすぐ後に飛んできた二体のモンスターを撃って返り討ちにする。直後に仕掛けてきた三体のモンスターの攻撃にはたまらず避ける。その先に待ち構えていたのは…四体のモンスター。

 

「何なのよ…何なのよこのモンスターの数はッ!」

「やだ…来ないで……!」

「ろ、ロムちゃんはなれないで…とおく行っちゃやだっ!」

 

ちらりと横を見れば、そこにはX.M.B.で必死に迫り来るモンスターを撃ち抜くユニさんと、逃げ惑いながらも何とかモンスターと魔法で戦うロムさんラムさんの姿。三人共…特にロムさんラムさんは完全に本来の距離で戦えていなくて、出来るならばわたしが援護に行きたいところだったけど…三人と同じ様に、わたしも自分の事でいっぱいいっぱいだった。それも、いつまで持つか分からないギリギリの戦い。

でも、わたしが戦えているのは…まだ諦めないでいたのは、わたし達よりずっと中央で、わたし達よりずっと激しい戦闘を繰り広げているお姉ちゃん達がいたからだった。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

四天王の一人、大鎌を武器に戦う眼帯の女性を相手に大立ち回りするお姉ちゃん。数度の斬り結びの後、上段から振り下ろされた大鎌を大太刀で受け、そこから踏み込むと同時に大太刀を90度下に回す事で女性の体勢を崩したお姉ちゃんは膝蹴りで女性を弾き飛ばす。

大きく飛ばされた女性は、それでも地面に落ちると同時に跳ね起きて再びお姉ちゃんへと仕掛ける。時間にすればそれはだった数秒の事。だけどその間にもお姉ちゃんは近くにいたモンスターを強襲し、一瞬で何体も斬り伏せて、しかも仕掛けてきた女性にも一切隙を見せずに交戦を再開する。

それはお姉ちゃんだけじゃなかった。ヒーローみたいな色合いのロボットっぽい人と戦うノワールさんも、真っ黒の魔人ロボットっぽい人と戦うベールさんも、舌をベロンと出した怖いぬいぐるみみたいな人と戦うブランさんも、皆四天王と互角以上に戦いながら、その片手間でモンスターを片付けていた。

圧倒的な力で四天王を相手取り、大半のモンスターを引き付けながらも一歩も引く様子のないお姉ちゃん達。……わたし達は、そのおかげでまだ立っていられた。

 

(お姉ちゃん達があんなに頑張ってくれてるんだから…わたしももっと頑張らなきゃ…!)

 

シェアエナジーをM.P.B.Lに流し込み、刀身にビームを纏わせる。これによって一気に切断能力(溶断能力の方が正しいかな?)を増したM.P.B.Lで近くのモンスターを真っ二つにして、更に回転斬りを連打する事で周りの敵を減らしていく。その勢いのまま今度はシェアエナジーを砲身に集中。即座に斬撃から射撃に切り替えて数体を撃ち抜く。

立て続けにモンスターを倒した事で気分が高揚したわたし。けど……わたしは甘かった。モンスターがまだまだ数えきれない程いるのに、その内の極僅かを倒しただけで調子に乗って油断してしまった。…勿論、わたしに遠慮して攻撃を控えてくれるモンスターなんていない。

 

「……っ!?きゃあぁぁッ!」

 

上空から仕掛けてきた鳥類型モンスターの突進を喰らい、転んで地面に叩きつけられるわたし。次の瞬間には粒子になって消えていくモンスターを踏み越える様に殺到してきたモンスター群に群がられ、あっという間に押し潰される。

女神の身体は頑丈で、何体ものモンスターに乗られてもそう簡単に圧死したりはしない。だけど……

 

「ひ……ッ!?」

 

覆い被されて殆ど視界の効かない中、どろり…と生温い液体が頬に垂れる。この状況で垂れるものと言えば……牙を剥いたモンスターの唾液しかないじゃないか。

そう分かった瞬間、わたしは途端に怖くなった。それまでも感じていたけど、ここにきて遂にすぐ側まで迫った『死』を感じ取ったわたしは、背筋が凍りつく様だった。

怖くて怖くて闇雲に引き金を引くけれど、砲口は涎を垂らしてるモンスターとは別の方向を向いているから当たる訳がない。でも恐怖でそれも分からなくて、その内にも牙は迫ってきて、それで息が詰まりそうになって…

 

「お姉…ちゃん……っ!」

 

そう、言ってしまった。そう、助けを求めてしまった。……優しいお姉ちゃんなら、無理をしてでも助けにきてしまうって、分かっていたのに…お姉ちゃんを、頼ってしまった。

 

「……ッ!ネプギアから…離れなさいッ!」

 

吹き抜けた突風。わたしの身体を覆っていたモンスターは瞬く合間に斬り飛ばされ、気付けばわたしは空を飛んでいた。お姉ちゃんの左手に抱えられて、空を舞っていた。

 

「ネプギア、大丈夫!?」

「お、お姉ちゃん……」

「ごめんなさいネプギア。貴女を、貴女達妹を、こんな場に連れてきてしまっ……」

「余所見とは…余裕だなパープルハート…!」

 

危険を冒してまでわたしを助け、その上で気にかけてくれたお姉ちゃんへ迫る女性。咄嗟にお姉ちゃんは反応して攻撃を大太刀で受けたけど…流石に両手で振るう大鎌を片手持ち状態の大太刀で防ぐのはキツいのか、焦燥の表情を浮かべていた。

 

「あ、お…お姉ちゃん……!」

「心配しないでネプギア…それに、これ位出来なきゃ皆に格が劣るって思われてしまうもの…!」

 

わたしを抱えたまま戦闘を続けるお姉ちゃん。皆、という言葉が気になったわたしが周りを見回すと…すぐにその理由が分かった。

ピンチに陥っていたのは、わたしだけじゃなかった。多少状況は違うけど、候補生は全員不味い状態だった。そして、そんな妹達を守る為にお姉ちゃん達守護女神は全員候補生を抱えて、或いは背にして四天王とモンスターの猛攻を捌いていた。

 

「私の妹をリンチしようなんて、いい度胸じゃないのよッ!」

「わたしの妹喰おうとしたんだ、死ぬ覚悟は出来てるって事だよなぁッ!」

「例えわたくしの妹はいなくとも…守る対象である事に変わりはありませんわッ!」

 

妹という足枷があるせいで、攻撃も防御も満足に出来ないお姉ちゃん達。そんなお姉ちゃん達を見て……わたしは情けなかった。わたし達候補生組は、元々はこの作戦に参加する予定じゃなかった。でも、少しは役に立てるんじゃないかと思って…それは皆も同じ様思ってて、だから半ば駄々をこねて、その結果予備戦力として連れてきてもらった。……その、結果がこれだ。役に立つどころか足を引っ張って、守ってもらう羽目になって、そのせいで余計お姉ちゃん達の負担が増えた。

結局、まだまだわたしは子供だったんだ。生まれてからそれなりに時間が経って、守護女神戦争(ハード戦争)の最後には国民の皆と一緒に国を守って、最近は少しは仕事も任せてもらえる様になって……だから、わたしは自分がもう一人前だと思っていた。駄々をこねて連れてきてもらった時点で、一人前でも何でもないのに。それすらも気付けず自分の力を見誤る、未熟な『候補生』に過ぎないのに。

 

「……無理しなくていいよ、お姉ちゃん…」

「…ネプギア……?」

「わたし、邪魔でしょ?いない方が、戦い易いでしょ?……いいよ、見捨ててもらって…どうせ、役に立たないんだから……」

 

そうして、わたし俯く。お姉ちゃんの迷惑になる事が辛くて、それに甘んじるのが恥ずかしくて、ついそんな事を言ってしまう。

嗚呼、やっぱりわたしは子供だ。本当にそう思ってるなら、死に物狂いで自衛をして、一心不乱にギョウカイ墓場から逃げる事こそがお姉ちゃん達の為になるのに、わたしはただ弱音と自虐を口にしただけだった。……そんな事をしても、またお姉ちゃんの精神的負担を増やすだけなのに。

後悔したところで、一度言ってしまった事は変わらない。慌てて撤回したところで、それは嘘でしかないと簡単に分かってしまう。だからきっとお姉ちゃんはわたしを想って、わたしを安心させる様な事を言うんだと思う。いつもの様に、わたしは駄目な子なんかじゃない、わたしは必要な存在だって……

 

 

 

 

「……そうね。妹だから守ってたけど…正直、ネプギアは邪魔でしかないわ」

 

------------------------え?

 

「少しはモンスターを引き付けて負担を減らしてくれるかと思ったのに…この程度だったのね。役に立たない自覚があっても仕方ないのよ、役に立たない事には変わりないんだから」

 

--------え?え?え?

いつも優しかったお姉ちゃん。時には怒る事もあったけど、すぐ頭を撫でてくれたお姉ちゃん。なのに……今のお姉ちゃんの言葉からは、いつものお姉ちゃんの優しさは感じられなかった。それがまるで意味分からなくて、俯いた状態から顔を上げるわたし。でも、わたしの瞳に映ったのは……冷たい、冷え切った目をした、お姉ちゃんの顔だった。

 

「はぁ…姉として残念よ。いないよりはマシだと思ってたのに、いない方がマシだったなんてね」

「……ッ!」

「こんなに弱いとはな…教育を間違えたのか、それともそもそも才能が無かったのか…」

「ど、どうして…そんな事、いうのおねえちゃん…」

「や、やだ…おねえちゃんそんな事いわないで…」

「あらあら…今まで妹がいない事を不幸に思っていましたけど、これならばむしろいなくて幸運でしたわね」

 

思考がまとまらなくなるわたしの頭に、それぞれの声が聞こえてくる。その内の半分はお姉ちゃんと同じ様な凍てついた声で、もう半分は今のわたしの心を表している様な声。……あぁ…皆、お姉ちゃん達に愛想を尽かされたんだ。皆、これっぽっちも役に立てなかったんだ。

 

「……とはいえ、見殺しにするのは目覚めが悪いわね…ベール!ちょっとの間二人で押し留めるわよ!」

「二人で?…あぁ、そういう事ですのね」

「あーあいよ、こっちは任せな」

「相変わらず説明しないわね、貴女は…」

 

お姉ちゃん達は短いやり取りで何かを伝え合っていた。お姉ちゃんに見放されて、お姉ちゃんに失望されてその言葉が殆ど右から左に流れていたわたしは…気付いたら、お姉ちゃんに投げられていた。

 

「っとと…んじゃ、やるかノワール」

「こっちは準備万端よ。しかしどうして私とブランなのかしらね」

「さぁな、こういうのは喧嘩っ早いわたし達の方がいいって判断したんじゃねぇのか?」

「喧嘩っ早いって…まぁ女神化してる時は貴女とが一番テンション合い易いけど…ねッ!」

「同感だ、ぜッ!」

 

投げられたわたしを受け止めてくれたのはブランさん。それで地面に着地出来たわたしはブランさんにお礼を言わなきゃ…と思ったけど、言えなかった。だって…わたしを降ろした次の瞬間には、ブランさんはノワールさんと物凄い勢いでモンスターの海へと飛び込んでいってしまったんだから。

端から斬り崩すのではなく、勢いのまま突入してしまう二人。その突入で一度は海が割れたけど、それはすぐに埋まってしまって、二人の姿が見えなくなって、ユニさんロムさんラムさんが不安げな表情になった刹那……数十体のモンスターが、吹き飛んだ。

 

『……ッ…ぁぁぁぁああああああああッ!!』

 

爆発が起こったかの様に吹き飛ぶモンスター。更にその爆心地を中心に、あり得ない速度でモンスターが消滅していく。

数秒経って、やっとそれは二人が行った事だと分かるわたし達。Uの次元にいるのかと思っちゃう位に、複数体をまとめて沈める様な攻撃を次から次へと放つノワールさんとブランさんは……女神というよりも、まるで鬼神の様だった。

そして、それが数十秒続いた後…一本の道が出来たモンスターの海から、声が飛んだ。

 

「道は作ってやったんだ、さっさと帰りやがれッ!」

「ぼさっとしてんじゃないわよ!私達の前で犬死になんてしないでよねッ!」

 

モンスターを排除しながらの二人の声。その声にわたし達は一瞬ビクリ、としたけど…逃げたりはしなかった。だって、だって……

 

「い…嫌よ!だってアタシはまだなんの役にも経ってない…こんな事じゃ帰れないよ!」

「わたしも、いや…わたし、よわくない……(ふるふる)」

「わ、わたしも…ま、まだやれるもん!おねえちゃんなら分かるでしょ…!」

 

キツい、キツい言葉に必死に言い返す三人。わたしは、三人の気持ちが痛い程に分かった。お姉ちゃんに酷い事を言われたのも、冷たい目をされたのも嫌だったけど…だからこそ、このまま逃げるのは嫌だった。もっと戦って、頑張って戦って、お姉ちゃんにさっきの言葉を訂正してほしかった。見直した、って言ってほしかった。だから、わたしも三人に続いて口を開こうとして……

 

「……ッ!目障りだから消えろっつってんのが分からねぇのかよッ!役立たずどもなんか…要らねぇんだよッ!」

「……っ…う、うぇ…うえぇぇぇぇ…ぐすっ、うぇぇぇぇぇ……」

「おねえちゃん…おね"え"ちゃんのばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁぁんっ!」

「あーあーやっと行った。…で、あんた達はまだ行かないの?行きなさいよ、ほら…行けっつってんでしょ女神の恥晒しがッ!」

「……ごめんなさい…ごめん…な"ざい"…」

「あ…ああ……」

 

泣きじゃくりながら、ブランさんから離れる様に去っていくロムさんとラムさん。だらんと腕を垂らし、茫然自失としながら涙を流して去るユニさん。わたしはどうしていいか分からなくて、またお姉ちゃんに助けを求めてそちらを向いてしまって……また、お姉ちゃんの冷たい目を見た瞬間、三人の後を追っていた。もう気持ちがぐちゃぐちゃで、もう消え去りたくなっちゃって、それで逃げた。逃げて、逃げて、息が切れるまで逃げ続けた。

気付いた時には、もうギョウカイ墓場から出ていた。周りには誰もいなくて、お姉ちゃん達があの後どうしたかも分からなかったけど…その時には何も考えたくなくて、ただ彷徨い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

----------------わたし達とお姉ちゃん達。ずっと仲良しだった筈なのに、失望されて、要らないと思われて、お姉ちゃん達から逃げたわたし達。……それが、わたし達とお姉ちゃん達とのお別れだった。あれから、お姉ちゃん達は…帰って、こない。

 

 

 

 

「ふぅ……駄目だわ、女神だけど今猛烈に神に懺悔したい」

 

ネプギア達を逃してから十数分。ノワール達と共に並び立ちながらわたしはそんな事を呟く。

ノワールとブランが作った道を通って逃げたネプギア達を追うモンスターはいない。…まぁ、追おうとしたモンスターは全て爪と膂力で引き千切って、踏み付けて地面にめり込ませて、各々の武器でモンスターが消滅する前に立て続けに刺し殺してバーベキュー状態にしたんだから、わたし達に背を向けて追おうとするモンスターなんか出てくる訳ないわよね。

 

「奇遇ね。私も今猛烈に自傷行為がしたいわ」

「わたしは両方だ、何せ妹が二人だからな」

 

なんだか三人でぶつぶつ言いながらお酒飲みそうな勢いだった。…が、ベールに半眼で見られていた事と、何より状況が状況だから後悔を胸の奥に押し込む。

 

「…わたくしだから言える事かもしれませんが…この結果妹ちゃん達との関係が劣悪になってしまったとしても、それは自業自得で、自分が被害者意識を持つのは御門違いてすわ。…それを分かっていまして?」

「分かってるよ。貴女の為にしたのにー、とかわたしだって辛いんだー、とか言うのは相手の気持ちも考えずに、自分の行動が絶対正しくて、一番大変なのは自分なんだって本気で思ってる自惚れ野郎だからな」

「理由はどうあれ、私達は妹を傷付けて涙を流させた。…嫌われたところで、それは当然以外のなんでもないのよね」

 

そう、わたし達は妹が嫌いになった訳じゃない。この場においては足枷になってしまっているのは事実だけど…それを責めるつもりも毛頭ない。

ただ、こうするしかなかっただけ。こうでもしなければネプギア達はもっと長い間留まっていただろうし、それはつまりより長くネプギア達を…この最悪の状況を生き抜くだけの術を持たない人を、危険に晒すという事。もっと言えばネプギア達がこんな怖い目に遭う事になったのは、ネプギア達の我が儘に押し切られてしまったわたし達の、犯罪組織の戦力を読み違えていた自分達の落ち度。……だから、わたし達は責任と罪はあっても同情の余地なんて微塵もない。

 

「さて…これからわたし達がすべきなのは、戦って戦って戦い抜く事ね」

「ですわね。どうせ四人では逃げる事も出来ませんし、嬲り殺されるか僅かな望みにかけて戦うかの二択ですもの」

「あーあ、ちょっと前まではバカンスしてた筈なのに、今や泣きたくなっちまう様な状況だな」

「せめて同日に投稿された作品のツインテ槍使いが援護に来てくれないかしらね、間柄が間柄だし」

 

普段強気で勝気なノワールとブランが泣き言とたられば話をするというのはあまりにも珍しくて、それは本人達も自覚があるらしくて、敵陣の真ん中というのについわたし達は笑ってしまう。ピンチ具合なら過去最高クラスなのに、ほんとわたし達は相変わらずね……

 

「……沈めるぞ」

 

わたし達が笑ったせいで構えが崩れた瞬間、四天王と遠隔攻撃手段を持つモンスターによる中・長距離攻撃の嵐が降り注ぐ。

一個師団の一斉掃射にも匹敵するんじゃないかと思う位の暴力的火力。そんな中、わたし達は--------動く。

 

『……ーーッ!?』

 

遠隔攻撃によって生まれた爆煙を斬り裂く四つの斬撃。数えきれない程の攻撃の嵐に比べれば、取るに足らないだった『四』。だけど四天王はそれに震撼する。だって、わたし達の生み出した四つの斬撃は、数十体の…もしかしたらそれ以上のモンスターをまとめて屠ったのだから。

 

「はっ!いいぜ、この戦いはてめぇ等に勝利をくれてやるよッ!守護女神は敗北だ、わたし達は逃げる事すら出来ずにここで地面を舐める事になるだろうよ!だがな……」

「ただでやられると思わないでよねッ!何十体でも何百体でも何千体でも何万体でも…あんた等の僕を、私達の目に映る限りのモンスターを地獄に送ってやるわッ!」

「ここでわたくし達が負けようと、希望が潰える事は有りませんわッ!わたくし達守護女神は希望の象徴ですけど、わたくし達だけが希望であったりはしませんもの!」

「わたし達は未来を託した。その託した皆の為に、わたし達は全力を賭して戦い抜くわ!覚えておきなさい、わたし達守護女神を相手にするって事は…四大国家の全戦力を相手にするのと同じだって事をねッ!」

 

それまで戦っていた四天王の懐へと飛び込み、一太刀浴びせる。喰らいついてきたモンスターを斬り裂き、飛び込んできたモンスターを抉り、押し潰そうとしたモンスターを貫く。撃たれようと、焼かれようと、裂かれようと、喰らわれようと、倒し続ける。腕が動かなくなろうと、脚が使い物にならなくなろうと、翼が灼け落ちようと、プロセッサが皮や肉ごと失われようと、痛みを正常に感じられなくなろうと、光や音などの外部からの情報をきちんと受け取れなくなろうと、牙を剥き続ける。……だって、皆がきっとわたし達の託そうとしたものを受け取ってくれるから。わたし達の代わりに、皆が絶対勝ってくれるから。

イリゼがいる。こんぱがいる。あいちゃんがいる。別次元組の皆がいる。一緒に旅をして、一緒に戦って、一緒に勝利を掴んだ皆がいる。

いーすんがいる。教祖の皆がいる。教会の皆がいる。国防軍の、ギルドの、国民の皆がいる。わたし達を支えてくれて、わたし達の出来ない戦いをしてくれた皆がいる。

そして何より--------ネプギア達がいる。愛しい妹が、自慢の妹が、いつかは名実共にわたし達と並び立てると確信を持てる妹がいる。傷付けておいて勝手だけど…わたし達は、信じている。

 

(ごめんなさい、一方的にお願いしちゃって。でもね、それは皆がわたし達の願いを叶えてくれるって信じてるから。皆なら大丈夫だって心の底から思ってるから。…犯罪組織の今の力は、わたし達が全部消し去るわ。だから……後は、頼んだわ、皆)

 

----------------わたし達は、戦い続ける。

 

 

 

 

何時間も経った。何日も経った。そして--------守護女神は、敗北した。

 

「ぐ、ぅ……まさか、ここまで当代の守護女神がやるとは……」

 

斬り裂かれた胸元を押さえ、よろめく女性。…だが、それは守護女神ではない。彼女はマジェコンヌ四天王の一角、マジック・ザ・ハード。そして満身創痍で呻きを上げたのは、四天王全員であった。

 

「こんなにやるとは、思って無かったぜ…」

「もし当初の予定通り、四ヶ国へ一斉に武力制圧を仕掛けていようものなら、女神だけでなく国防軍や有志とも戦う事となっていたであろう。そうなれば…」

「負けていたのは俺達の方だろうな……」

 

ちらりと、とマジックが目線を上げると、そこには傷付き療養が必要不可欠と思われる同じ四天王と、まばらに存在が確認出来る程度の数のモンスター。戦闘開始前はギョウカイ墓場の深部を埋め尽くさんばかりにいた筈のモンスターの内、生き残る事が出来たのは……極僅かだった。

 

「……壊滅寸前、としか言いようがないな」

「ここまでやられては、逆に笑えてこよう。アクククク、アクククク、アククク……はぁ…」

 

途中から笑うしかない、という思考から笑う事すら出来ないだろう、という思考に変わったのか、トリック・ザ・ハードが溜め息を吐く。その後一時は静寂に包まれたが……それを破るが如く、ジャッジ・ザ・ハードが唸り声を上げる。

 

「あー……クソッ、クソッ、クソがッ!こんな戦いで満足するかよッ!血湧き肉躍るかよッ!俺が望んだのは、こんな戦いじゃねぇぇぇぇッ!」

「…珍しく気が合うな、ジャッジ。俺もこんなただただ下劣で惨めなだけの戦いなど望んでいない」

「相変わらず貴様等はくだらん事に酔狂だな…これだから男は……」

「酔狂、というのは同感だが……プロローグで早速読者批判にもなり兼ねない事を言うのは良くないと思うぞマジックよ」

「五月蝿い黙れ…後コントみたいになるからそういう指摘の方法は止めろ…」

 

あまりまとまりのない様子を見せる四天王。しかしこれも仕方のない事。彼女等は犯罪神に見込まれ忠実な部下となった者達だが…見込んだ部分も違えばそれぞれの価値観、犯罪神への感情も違うのだから、上手くまとまれる筈もない。同じ思いを持つ集団と同じ目的を持つだけの集団では、集団としての在り様に違いがあって当然なのだ。

 

「…して、これからはどうする気だ?まさか、残り滓状態の残存戦力だけで攻めるつもりではないだろうな?」

「するものか……残念だが、暫くは戦力の補充と我々の回復を最優先とする他あるまい。…第二プランに移行するぞ」

 

ブレイブ・ザ・ハードの問いにマジックは歯嚙みしつつ答える。秘密裏に用意してきたモンスターの大部隊。それを四つに分け、四天王を指揮官に四ヶ国を同時に攻めるというのが第一プラン…単純且つ確実、そして最速とされていた作戦だった。しかし用意したモンスターは九割以上が消滅し、方法が方法故に現段階では短時間での大量補充が出来ない為に、第一プランは当面実行不可能となってしまった。

だからこそ、四天王は第二プランへと移行する。信仰心と偽りの加護による、堕落と言う名の支配と破壊を行う、第二プランへと。

 

「んじゃあ、女神はどうすんだよ?もし要らねぇなら俺が貰っていくぜ?まだまだ俺は欲求不満だからなぁッ!」

「ならば各々一人ずつとしようではないか。ラステイションの女神の信念の強さ、説得し同志となってくれれば心強いものになろう」

「一人ずつぅ?…まぁいいぜ、俺の戦ったリーンボックスの女神は敵として不足ねぇ強さだからな」

「ふん、提案されずとも年増などくれてやる。吾輩は幼女女神を…ルウィーの女神さて手に入ればそれで良いのだからな!アクククク…その傷付いた身体、吾輩が責任持って治癒しようではないか…勿論ねっとりと舐め回す事でっ!」

「何を勝手に話を進めている、そんな事駄目に決まっているだろうが…!……あぁ、犯罪神様…何故この様な者達と私が同じ立場に…ましてや統率する立場にあるのですか…」

 

額に手を置くマジック。ジャッジ、トリック、ブレイブ…皆戦力としては申し分なく、いつの時代も犯罪神の為に必要不可欠な存在。しかしあまりにも個性が過ぎる彼等に、マジックは辟易としていた。

もしジャッジに渡していれば、彼は適度に女神の体力が戻る様計らった後再戦とするだろう。ジャッジが負けて死ななければ、彼が満足するまで戦いは続くだろう。

もしブレイブに渡していれば、彼は彼自身の下らない正義を女神へぶつけるだろう。熱弁を振るい、女神が呆れようと耳を貸さずにいようと己が正義を語り続けるだろう。

もしトリックに渡していれば、彼は言った通り舐め回すのだろう。舐め回し、性癖の限りを尽くすだろう。それはマジックですら同性として同情を禁じ得ない程に。

そうしてマジックは一通り呆れ…他の四天王を制す。まとめ役というのも犯罪神様が自分を頼りとした為…と自身を納得させ、私利私欲に走る三名に反対する。……彼女は当然気付いていないが、彼女もまた個性が過ぎる一人であった。

 

「…守護女神はここで拘束する。……あれを使って、な」

「あれか…気を付けろよ?あれは俺等にとっても危険な、諸刃の剣ってやつだろぉ?」

「ヘマなどするか。…第二プランを進める為にも、失った戦力を効率よく補充する為にも、膨大なシェアエナジーが必要だ。ふっ……奴等にはその為の苗床になってもらおうではないか」

「苗床とはまたそそる言い方であるなぁ…だが、いいのか?吾輩は反対…とは言わずとも、文句無しの賛成は出来ぬぞ?」

「…どういう事だ、トリック」

 

だらんと舌を垂らしながらも、どこか表情の読めない顔を見せるトリック。それに四天王は訝しげにしながらも耳を傾ける。普段は変態の名が相応しいと思われている彼だが……同時に思慮深く実質的な参謀を務めている彼の、そういった言葉を無視する四天王ではない。

 

「簡単な話だ。守護女神は吾輩達を首の皮一枚の状態まで追い詰めた。今回は物量のおかげでなんとかなったが…もう、これまでと同じだけの物量は用意出来んだろう。そしてそうなれば、再び守護女神に刃を向けられればそれは絶体絶命以外のなんでもない。……ならば、目的の完遂まで多くの時間がかかろうと、別の不安要素が増える事となろうと…この場で、守護女神を亡き者とするのも間違いではなかろう?……勿論、幼女女神はやらせんが」

 

一言余計だ…と四天王三人は心の中で突っ込みつつ、小考する。トリックの言う事は最もだった。早々守護女神を逃してしまう彼女達ではないが、彼女達は守護女神の異常としか言い様のない底力を身を以て知っている。安全第一ならば、それが正しいのだろう。

だが……

 

「…俺は反対だ。戦闘中ならまだしも、勝敗の決した相手に危害を加えるのは性に合わんからな」

「俺もだぜ。せっかくこんなに強ぇんだ、そんな事で殺しちまうのは気が乗らねぇよ」

「…危険であろうとリスクがあろうと、犯罪神様の復活を最優先とするのが絶対だ」

「だろうなぁ…まぁよい。どうせ亡き者にするとなっても三対一で幼女女神も殺す事とするんだろう?ならば吾輩とて賛成は出来ん」

「ならいいな。では……、……っ!?」

 

話を締めくくったマジック。そして彼女は守護女神を拘束する為に首を掴んで持ち上げ……戦慄する。

守護女神は、まだ意識があった。まだ意識があり、身体を動かす事もままならない状態でありながら……睨んでいた。闘志の、意思の消えぬ瞳で、四天王を睨み付けていた。

 

「……天晴れだ。その胆力、さぞ我々の力となろうな」

 

薄く笑いを浮かべたマジックは、そのまま守護女神をある地点へ放る。それに続く残りの四天王。

そして守護女神四人が宙に舞い、マジックが指を鳴らした瞬間……ギョウカイ墓場の地面や岩、壁や瓦礫から無数のコードが、傷んだ太いコードが射出された様に勢いよく伸び、守護女神を縛り吊るし上げる。

そして……

 

「…アンチシェアクリスタル、起動」

 

マジックの言葉と共に、どこからか浮かび上がった結晶が輝き、守護女神とコードを包む様に四角錐の結界が展開される。

その瞬間、コードという新たな刺激に顔をしかめていた四人の守護女神は、目を見開いた。目を見開き、ずっと浮かばなかったその表情を……怯えと恐怖の表情を、遂に浮かべた。

 

「--------守護女神は我々の手に落ちた。女神候補生が、力を失ったもう一人の女神が、世界を救った英雄達がいようがもう遅い。世界は……我々犯罪組織が、蹂躙する」

 

戦闘という視点で見れば、犯罪組織の勝利だった。特別何か言うまでもなく、この状況がこれを示している。

しかし、戦術という視点で見れば、犯罪組織の敗北…それも完膚なきまでの、一切の言い訳が出来ない程の大敗だった。結果倒せたのはたった四人。国の指導者ではあるものの、その代わりや代理となれる存在は残っており、守護女神以外の戦力は微塵も削れていない。対して犯罪組織はモンスター戦力がほぼゼロとなり、四天王も長期療養必須なのだから、その評価は覆り様がない。

だが…戦略という視点で言えば、犯罪組織の辛勝だった。戦術的惨敗は事実だが、倒せた四人というのは最も危険な存在であり、逆に最も失われてはいけない四天王は誰一人欠ける事なかった。これから守護女神を失った四ヶ国は衰える事確実であり、それは犯罪組織にとってかなりの利益なのだから。

四天王は各々動き出す。療養、そしてそれぞれがすべきだと思う事の為に。そうして残ったのは数体のモンスターと、吊るし上げられアンチシェアクリスタルによりシェアエナジーを奪われる守護女神四人だけだった。

 

 

 

 

こうして、ギョウカイ墓場での戦いは終わった。この戦いの後、犯罪組織は少しずつ…されどもそれまでとは一段違う勢いで、勢力を…犯罪組織の『シェア』を、拡大する事となった。

四ヶ国はそれぞれ対応に当たったが、守護女神という最大の求心力を失った状態では犯罪組織の拡大を押し留める事は難しく、信次元は緩やかに、教会も人々もそれに気付かない程に、崩壊への道を歩き始める事となった。

----------------女神と英雄達が、新たな仲間と友が、手を取り合い思いを重ね合い、あの時の様に…守護女神戦争(ハード戦争)と、その裏で暗躍していた悪意に打ち勝ち平和と笑顔を取り戻したあの時の様に、信次元へ光を取り戻すのは……もう少し、先の事である。




今回のパロディ解説

・Uの次元
原作シリーズの一つ、超次元アクションネプテューヌUの事。パワーバランスが崩れるのは嫌なので細かい事は言いませんが…今回の守護女神はかなり無双していますね。

・同日に投稿された作品のツインテ槍使い
本作同様にハーメルンにて投稿されている作品、双極の理創造のメインキャラの一人の事。ネタバレ回避の為に名前は載せませんが…こういうパロも有りだと思います。

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