超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第十話(コラボ編最終話) 約束の、またね

晴れた空、光を反射し白く煌めく雪、ひんやりとしつつも寒過ぎはしない気温。

 

「さーって、今日は遊ぶわよーっ!」

「ケーキ、楽しみ…(きらきら)」

「どこから行く?ねぇどこから行く?」

「皆、元気なのはいいけど勝手にどっかいかないでよ?」

 

そして、教会の前で嬉々として話す四人の女神候補生。…今日はとても、お出掛け日和。

 

「…なんか、引率の先生になった気分だなぁ…」

「む…それはわたしを除いた三人を見ての発言ですよね?」

「え?ディーちゃんじゃなくてわたし以外の三人でしょ」

「うーん…二人はロムちゃんラムちゃんよりは大人だけど、除ける程じゃないかな」

『えー……』

 

私の返答にディールちゃんとエストちゃんが不服そうな声を漏らすも、実際はそこまで不満じゃないのかすぐに普段の表情に戻る。…自覚がある辺り、二人が思ってるよりは大人だと思うけど、ね。

 

「さ、じゃあ行こうか。最初はどこがいい?」

「なんか楽しそうなとこ!」

「ふーんだ、教えてあげないわよー」

「怖くない、ところ…」

「あ、それはイリゼさんにお任せします」

「うっわ、見事に分かれたね!しかもエストちゃんとロムちゃんはざっくりしてるしディールちゃんは実質答えてないし、ラムちゃんに至っては回答拒否!?」

 

ケーキ屋以外は特に決まってなかったし、取り敢えず意見聞こうかなぁ位の感覚で訊いた訳だけど…返ってきたのは予想以上に酷い回答だった。どうしよう、全く参考にならない…。

 

「えーっと…楽しそうで、怖くない…ネットで検索したら幾らでも出てくるよこんなの!…一先ずお化け屋敷とかジェットコースターとかは無し、って事でいい…?」

「う、うん…お化け屋敷、いや……」

「なら、それを除いて遊園地回るとか?」

「遊園地、ねぇ…わたしはもうちょっと自分から動ける方がいいかも。遊園地って大概受け身の物ばっかりだし」

「ふーむ…なら、そういう方向性で…と、いきたいんだけど……」

『……?』

「…私、別次元の女神だから具体的な施設名とか場所は分からないです……」

『あ……』

 

なら何故私が音頭を取ったんだ…と言われそうなものだけど、なんか雰囲気的に『私が連れてく』って感じだったんだからしょうがない。でも言った通り私に案内する能力はない訳で……

 

「もー、なっさけないわねー。エスト、だったらあそこなんていいんじゃない?」

「あそこ?…あー、確かにいいかも」

「でしょ?じゃあ行こっ!ロムちゃん、ディールちゃん、エスト!」

「あ、私は呼んでくれないんだ…」

 

結局場所はエストちゃんとラムちゃんが決めて、先頭も二人が歩く事となった。…まあ、いいや。先頭歩きたかった訳じゃないし、皆が行きたい場所行けるのが一番だし。

最前列は快活組、二列目は大人しい組、最後尾に私という三列で向かう私達。途中街の人に声をかけられれば元気良く挨拶し、お菓子を貰えばきちんとお礼を言う四人は見ていてとっても微笑ましいもの。……ネプテューヌも似たようなものだった気もするけど…い、今は気にしないでおこうかな!

 

「ここを曲がれば〜…はい、とうちゃーっく!」

「へぇ、こういうルートもあったのね」

「ここに来るの、久しぶり…」

 

そうして到着したのは、前にディールちゃんエストちゃんと行った複合アミューズメント施設と近い系統の…でもあそこより広く多彩な屋外施設。幾つかお祭りの屋台みたいなものもあって、確かに身体を動かして遊びたい場合は普通の遊園地よりも合ってそうな気がする場所。

 

「ここなら私も楽しめそうだね。さて、何からやろうかな」

「…イリゼさん、目的は忘れてませんよね?」

 

入場したところで、私の言葉にディールちゃんが反応。それからちらりと、ディールちゃんはラムちゃんの方へと視線を送る。

 

「目的?最後の一日だから、皆で思いっきり楽しむ、でしょ?」

「それは…間違ってはいませんけど、ラムちゃんの事は……」

「忘れてないよ。でも、気に入られる為を最大の目的にしたら、ラムちゃん以外に失礼だもん。だからラムちゃんの事はあくまで『出来たらいいな』で、私の目的は皆と楽しむ事だよ」

「なら、わたしがアシストしなくてもいいですよね?」

「うっ…ま、まぁそうなるけど…」

「ふふ、冗談です。でも取り敢えずは…お互い、楽しみましょうか」

 

そう言ってディールちゃんは小さく微笑み、数歩先を歩く三人と合流。どこから回ろうか、自分は何をやってみたい、と顔を綻ばせて話す四人と、それに着いて行きつつも自分の趣味や特技に合うものはどれか探す私。

帰りたくない訳じゃないけど、いつだってお別れは寂しいもの。だから少しでも『楽しかった』って思いで帰れるよう、私は精一杯四人と遊びたいと思う。……それに、二人と約束もしたもんね。ここにいる間は、最後まで元気でいようって。

 

 

 

 

「ふふーん!両手に持てばカクリツは二倍だもんね!」

「ターゲット、ロック…(ばきゅん)」

 

最初に訪れたのは、射的場。これに興味を示したのはロムちゃんとラムちゃんで、ラムちゃんは二丁銃スタイル、ロムちゃんは台に身体を預けた狙撃スタイルで景品のお菓子や小物を狙っていく。

 

「そういえば、ユニちゃんが言ってたよ。ただ真ん中を狙えばいいんじゃなくて、目標に合わせて狙う位置も変えるのが効率のいい射撃だって」

「へぇー。じゃ、ここの担当してるスタッフを狙えば…」

「出禁になるね。やってもわたしフォローしないから」

「え、エストちゃん…そんな事は、やっちゃだめだよ…?」

「じょ、冗談よ…本気じゃないからそんな『悪に染まろうとしてる友達を止めなきゃ…!』みたいな顔しないでロムちゃん…」

 

意気込む二人だけど、意気込んだって普通は威力や精度なんて変わらないのが銃というもの。全然景品ゲット出来ない…とまでは言わないものの、結果は可もなく不可もない感じに。

 

「あぅ…ゲーム、取れなかった…」

「う、うん…残念だったね、ロムちゃん…(言えない…ロムちゃん相手に『あれはそもそも狙うのが無謀…』だなんてわたし言えない…!)」

「むむー…こう、手をぐるーってやったら銃がたっくさんになったりしないかしら…」

「それやるにはリアクターとハイパードライブが必要だから…」

 

思った程取れず、でも不満たらたらって程でもない…それこそ結果をそのまま反映したような二人に、ディールちゃんとエストちゃんがそれぞれ返答。…そしてその傍らに置かれているのは、手に入れた景品。

 

「……ねぇ、この景品どうするの?」

『あ…お願いしまーす』

「私に丸投げ!?も、持ってろと!?」

「…あ、あの…その…お、おねが……でも…」

「い、いやいいよ!?私が持ってるから、そんな申し訳なさそうな顔してまで言わなくていいからね!」

 

三人に乗りたいけど、なんだかそれは酷い事のような気がする。イリゼさん怒ってるみたいだし……みたいな顔をしておろおろしてるロムちゃんは、やっぱりこっちでも良い子だった。…えぇはい、私が持つ事になりましたよ。

 

「次は…あ、ねぇねぇあれやろディーちゃん!」

「あれって…リアル脱出ゲーム?」

「そうそれ。ここを使う遊び、ってのも悪くないでしょ?」

「…それはまぁ…確かに」

 

続いて向かうのはエストちゃんが選んだリアル脱出ゲーム。これは途中で私の助力が必要になるかな…?…と思ったものの、ディールちゃんもエストちゃんも中々頭の回転が速く、意外とロムちゃんラムちゃんもヒントになる気付きを何度かしたおかげで、結果としてはほぼ四人だけでクリア。凄いなぁと思う反面、二回連続観客状態だった私は「あれ?私まだ何もやってない…」と次やる事を自ら提案。それから私達は、興味の湧いたものへと片っ端から取り掛かっていく。

 

「パンチングマシン、ですか…」

「腕力や打撃の技量なら私が一番だろうからね。近接戦メインの女神の実力、見せてあげるよ」

「ふーん。パンチならお姉ちゃんの方が強いと思うけど…ま、やりたいならやったら?」

「それじゃあ……ふんッ!…あ、やったベストスコア更新だよ!しかも他の追随を許さない高得点!これは我ながら大したもの……」

『…うわぁ……』

「あれ、引かれてる!?ちょっと本気で殴り過ぎた!?」

 

パンチングマシンで助走まで行った全力の一撃を叩き込み、トップスコアと共に「遊びの域じゃない…」みたいな評価を獲得してしまったり、

 

流星のダンク(メテオジャム)!」

「うわぁ!?嘘でしょ!?このゲームでダンクとか正気!?」

不可侵のシュート(バリアジャンパー)…!」

「と思いきやこっちは相手がいないのに下がった!?ちょっ、二人共アナザーっていうかイレギュラー過ぎない!?」

 

フリースローゲームではディールちゃんとエストちゃんがはっちゃけ過ぎのトンデモスタイルで点数を重ね、

 

「ラムちゃん、時間は残したよ…!」

「ありがとディールちゃん!んー…ねぇ、ここに立って自分の足首ぎゅってしててくれない?」

「……?…いいけど……」

「とうっ!ショートカットせいこー!」

「ぐぇぇ!ひ、酷い!酷いしルール違反だよ!?」

 

クリフでクライムな感じのゲームでは馬跳びの要領でラムちゃんに台扱いされたり(一応後で『いい台だったわよ』と労ってくれた。……いい台って…)、

 

「おねーさん、ここはわたし達の腕の見せ所よね!」

「ここ?……あぁ、そっか。せいっ!」

「わっ…二人共、すごい……」

「確かに凄い…形状違うのに……」

 

ダーツゲームで私とエストちゃんが棒手裏剣の技術を発揮し、二人で高得点を連続獲得してみたり、

 

「これと、これ…!」

「後は、これで……っ!」

「…あっ、クリアできた…!えへへ…(にぱっ)」

「みたいだね…ふふっ、これ好きかも…(にっこり)」

((あ、あれ!?どっちがどっちだっけ!?))

 

デジタルアトラクションのパズルゲームをディールちゃんとロムちゃんがクリアしハイタッチした瞬間、一瞬両方ロムちゃんに見えて私達三人が混乱したりと、割と本当に時間を忘れて私達はゲームやアトラクションを満喫した。そして……

 

「ん〜♪イチゴがあまずっぱくて美味し〜♪」

「ラムちゃんラムちゃん、チーズケーキも…美味しいよ…?(ぽわぽわ)」

「エスちゃんはチョコケーキにしたんだ。もう少し見栄張ると思ってたから、ちょっと意外…」

「ここで見栄張ったってしょうがないじゃない。そういうディーちゃんは…懐かしいわね、モンブランなんて」

 

お昼…というか早めのおやつとでも言うべき時間になって、遂に私達は当初の目的であるケーキ屋に訪れた。…昼食を抜く形になっちゃったけど…まぁ、いっか。

 

「皆、食べられるならもう一つ注文してもいいからね。…流石に全員でホールケーキとか頼まれると不安になるし、ほぼ確実に残った分を私が頑張って食べる展開になるから勘弁してほしいけど…」

「いやいや、そんな事はわたし達もしないですって。ね、皆」

『えっ……?』

「…た、多分二人共冗談で言ってるだけなんで大丈夫です。大丈夫……大、丈夫…?」

「あ、あはははは…」

 

私を安心させる筈がむしろ軽く動揺してしまってるディールちゃんに、私は苦笑い。因みにここで言う二人っていうのは……分かるよね、明言しなくても。

 

「…でも、あそこまで夢中になるとは思わなかったなぁ……あ、このタルトの林檎、食感が丁度良いかも…林檎自体にも何か工夫してるのかな…」

「…おねーさん、ケーキ作ったりするの?」

「ケーキっていうか、お菓子全般だね。勿論プロには劣るけど、そこそこ自信はあるんだよ?」

「ふーん、おねーさんにも女の子らしい面があったのね」

「もう、エストちゃんったら酷いなぁ。…エストちゃんだけ、今日自腹にしてもらおっと…」

「わわっ!嘘嘘!冗談だってばー!」

 

いつも私を軽快に弄ってくるエストちゃんだけど、今の私にはケーキ代金という武器がある。そう、私は今…支払いが済むまでは…この場の誰に対しても、圧倒的有利……ッ!

 

 

……って、何言ってんだろ私…。

 

「はふぅ…美味しかったぁ…」

「食べるの早いね、ラムちゃん。…もう一個食べるの?」

「うーん…うん!…あ、でもどうしよう…ディールちゃんのモンブランも美味しそうだし、ロムちゃんのチーズケーキも美味しそう……」

「…じゃあ、イリゼさんに訊いてみたら?二つ頼んでもいいですか、って」

「え……」

 

むむむ、抜かったわ…みたいな顔をしてるエストちゃんを眺めていた頃、何やらディールちゃんとラムちゃんも話し込んでいた。しかもその最中に名前が出てきた事で私が二人の方を見ると、すっと私へ視線を向けたディールちゃんが軽くウインク。それを目にした私が反射的に思ったのは「あ、可愛い…」って感想だけど……ディールちゃんが伝えたいのはそういう事じゃない。

 

「…ディールちゃん、代わりに言ってくれない…?」

「それは駄目だよ。自分のお願いは自分で言わなきゃ」

「うぅ…じゃあ、我慢……するのも、やだし…」

「……ラムちゃん」

「わ、わかったわよ…。…ちょ、ちょっと」

「うん、何かな?」

 

椅子から降り、私の隣にくるラムちゃん。先程合図をくれたディールちゃんは、「お膳立てはしましたよ」という意図の籠った視線をこちらへ向けている。…やっぱり頼り甲斐があるなぁ、ディールちゃん…アシストはしてくれたんだから、私もそれを無駄にしないようにしないと…。

 

「えーと…その、あれよあれ…」

「あれ、って?」

「…け……」

「け?」

「……ンタウロスみたいになる車ってなーんだ…!」

「えっ……エクウス…?」

「そ、そう!せーかいよせーかい!…って、わたしはクイズしたかったわけじゃないの!」

「だ、だろうね……ケーキ、二つ食べたいんでしょ?」

 

ぼかしたり、ついクイズにしてしまったり、それに自分で文句を言ったりと、何ともまぁラムちゃんらしい反応に再び私は苦笑い。でもラムちゃんが何を言いたいのかは分かってる訳で……私は自ら話を進める。

ラムちゃん、それにロムちゃんの事をどれだけ知っているかという事に関して、私がディールちゃんやエストちゃんに優っている事なんて殆どない。けど、私だって信次元で二人と触れ合って、私なりに二人へ指導だってしてきた。…だから言える。私も私で、二人の事を知ってるんだよ、って。

 

「…それは……」

「あれ、違った?…そっか、違うのかぁ……あー、なんか話してたら私、チーズケーキを食べてみたくなったなぁ。でも一つ丸ごと食べたい訳じゃないし、一口食べたら残りを『全部』食べてくれる人いないかなぁー?」

「……!へ、へぇ〜…じゃあそのチーズケーキ、わたしが食べてあげてもいいけど…?」

「ほんと?ありがとうラムちゃん!じゃあ早速注文するね!後これは私が頼む物だから、当然ラムちゃんはもう一つ注文してくれていいよ?何にする?」

「な、なら…モンブラン…!」

 

私が『お願い』をするとラムちゃんは嬉しそうにしながらも平然を装って、私の言葉を『訊き入れて』くれた。それからもう一つの食べたかったケーキであるモンブランも口にし、彼女は席へと戻っていく。席に戻った時のラムちゃんは…ちょっぴり笑顔。

 

「……やりますね、イリゼさん」

「やる?何の事かな?」

「…ですよね。何でもありませんよ」

 

それからディールちゃんも柔らかく微笑んで、その笑みを私に向けてくれる。

午前中ディールちゃんに言った通り、私の一番の目的は皆で楽しむ事。でも今の二人の笑顔を見られただけでも、今日は価値ある一日だったなぁと思って……

 

「……?…ロムちゃん?」

 

くいくい、と服を引っ張られる感覚。何だろうと思って振り返ると、ラムちゃんが来たのとは逆側の隣へロムちゃんが来ていた。

 

「…わたしも、いい…?」

「…ケーキの事?」

「うん。チョコケーキと、ショートケーキ食べたいの。…でも、二つは食べられないから、チョコケーキだけ……」

「あ、じゃあわたしがショートケーキ頼むから半分こしない?」

「ほぇ…?…エストちゃん、いいの…?」

「いーのいーの。おねーさん、半分こしたっていいよね?」

「勿論。ならもう全員纏めて注文しようか。ディールちゃんも欲しいのあったら言ってね」

 

特に押し付けがましい様子も気を使った素振りも見せず、ロムちゃんに提案したエストちゃん。それにロムちゃんがぱぁぁと咲く様な笑顔を見せると、エストちゃんもこれまで見せたのとは違う…穏やかで優しげな微笑みを浮かべて、私達の使うテーブルは気付けば笑顔が溢れていた。

 

「……ふふっ」

「…どうしました?」

「面白いメニューでも見つけた?シフォンならぬエリエラ・ジフォンケーキとか」

「そんな新統合軍の大尉プロデュースみたいなケーキはないよ……そうじゃなくて、私…ほんとにこの次元に来られて良かったなって」

 

……それは、私の素直な思い。この次元に来られて、二人と再会出来て、色んな人と触れ合えて、本当に良かったって気持ち。

私は遊び始める前、少しでも『楽しかった』って思いで帰れるようにしようと思った。あの時は『そうしたい』って願望も含まれていたんだけど…もうそんな事は思っていない。だって……こんなにも、今は楽しい思いで一杯なんだから。

 

 

 

 

……一応言っておくけど、ロリコンではないよ?

 

 

 

 

短かったような、長かったような…いややっぱり短かった気のする、この次元での日々。こちらでの生活が……もうすぐ、終わりを迎える。

 

「凄い凄い!ほんとにわたしが向こうにもいるわ!」

「なんだかぶんしんのじゅつ使ってるみたい!…はっ!色んなジゲンのわたしをあつめれば、ラムちゃんズとか作れるかな!?」

「かがみ…じゃ、ないよね…?」

「うん…鏡じゃ、ないよ…?」

「…そちらは大変そうね…ロムラムだけじゃなく、更に二人もいるなんて…」

「貴女だって大変だと思うわ。だって心構えする時間もなく、突然ロムラムが生まれた訳でしょう…?」

「……って、シリアスな地の文から始めたんだけどなぁ…」

 

わいわいがやがやと賑やかな、プラネタワーの会議室。私の帰還に際し、ディールちゃんエストちゃんだけじゃなくロムちゃんラムちゃん、それにブランも来てくれたのは嬉しいんだけど…想定外だったのは信次元サイドの状態。まさか女神全員+新旧パーティーメンバーの一部が待ってくれてるとは思っておらず、ルウィーの女神組を中心にそれはもう大賑わいだった。

 

「イリゼ、そっちにも私はいたのよね?どんな感じだった?」

「あ、それアタシも聞きたいです。アタシもいたんですよね?」

「…妹は…そちらのリーンボックスに女神候補生はいたんですの…?」

「えーと…二人共…っていうか、皆同じような感じだったよ?リーンボックスは…み、未来に期待かな…」

 

私が無事である事は既に知れ渡っているからか、皆の興味は専ら私の事よりこちらの次元…ひいてはこちらの自分に対して向けられている。…分かるけどさ…興味抱くのは分かるんだけどさ、それは私がそっちに戻ってからでもいいよね…?

 

「あの…ゲートを開いても、宜しいんですよね…?」

「それはそうだよ!後、出来れば二人位倒れるサイズにしてほしいなー!」

「二人位…あーっ!さてはわたし、こっちに来てわたしの座を奪う気だね!けどそうはさせないよ!過去の記憶を持ったわたしが過去の記憶のないわたしの場所を奪うなんて展開、こんなギャグパートで消化なんてさせないんだから!」

「じ、自重しようよお姉ちゃん……あ、因みにそっちのわたしは、こっちに来てみたいなー…って思ってたりしてない?」

「それって…わ、わたしだって主人公の座は渡さないよ!?わたしはこのまま『元』主人公にならずに頑張るつもりだもん!」

「…開きましょうか。恐らく、皆さんが静かになるのを待ってたらいつまで経っても開けませんから…(ーー;)」

 

お約束というかなんというか、まぁやるだろうなぁと思ったやり取りを交わす二人のネプテューヌ。ネプギアまでやるとは思ってなかったけど…これに関してはこっちのネプギアは間の悪いタイミングで言っただけで、その気はなかったのかもしれないね。……確証はないけど。

 

「はいはーい、開くみたいなのでどちらのイストワールからも離れて下さいねー。…失敗すると何が起こるか分かりませんし、プチカーライルの黒い嵐とかもあり得ますから」

『…………』

「あ、皆静かになった…」

「それはそうでしょうね…ここに失敗して別次元に放り出された人がいる訳ですし…」

 

それまで賑やかだった皆は、グリモワールさんの一言でしんと静まり返る。理由はまぁ、ディールちゃんが言った通りだと思うけど…分かり易いなぁ、ほんと……。

 

「…でも、皆がわざわざそっちで待ってくれてるのは嬉しいかな」

『え?』

「え?…って、あれ?私を出迎える為に集まってくれたんじゃないの…?」

 

…とまぁおよそお別れと帰還には似つかわしくない雰囲気ではあったけど、皆が私の為に来てくれてるのは本当に嬉しいと思っていた。だってそれだけの価値がある相手だと、皆に思われてるって事だから。

でも、何故か私の言葉を聞いた皆はきょとんとした顔に。おかしいなと思って、確認の言葉を口にしてみると……

 

「あー…えっとねイリゼ。近々プラネテューヌで教会や軍部の高官も呼んだ会議をする事になって、私達は今日前乗りとしてやってきたのよ」

「ここに集まったのはイリゼの言う通りですけれど…プラネテューヌに来た理由は?…と言われると100%イリゼの為、ではなかったり……」

「…………」

『えっ、と……』

「…もう少し、こっちにいようかな…ぐすん……」

「あーよしよし。向こうの人達は理由の一つとして別の用事を挙げてるだけなんだから、そんなに落ち込まないの」

 

……返ってきたのは、酷く悲しい真実だった。…そっか、そうだよね…皆だって女神としての務めがあるし、仕方ないよね…。…悲しくないよ、うん。むしろ別の用事を挙げてくれた事で、来てない面子もきっと万が一に備えて各国を離れられないだけなんだろうなって気付く事が出来たもん。だから、悲しくなんて……。……この時のエストちゃんの手は、とっても温かかったです…。

 

「……って、勝手に期待して勝手に落ち込んで、挙句慰めてもらうんじゃ何してんだ私、ってなっちゃうよね…」

「いや、イリゼ。わたし達は別に勝手に期待された、とは思ってないわよ…?単に…」

「大丈夫。何はともあれ皆が待ってくれてるのは事実だもん。そこに目を向けるだけで、割とほんとに私は元気になれるよ」

「…なら、沈んだ気持ちで帰る事はなさそうですね」

 

私を、それからこちらのイストワールさんをちらりと見てグリモワールさんが発した言葉。その言葉を発した数秒後に、私が信次元で見たのと同様の歪みが部屋の一角に現れ、それが広がっていく。…今度は、おかしな動きになったりしない。

 

「…ふぅ…出来ましたよ、イリゼさん」

「お待たせしました、イリゼさん( ̄^ ̄)ゞ」

「……はい。イストワールさんもグリモワールさんも、協力して下さりありがとうございました」

 

こちらを向いたイストワールさんとグリモワールさんに、感謝の言葉を伝えて頭を下げる。それから振り返って、こちらでの日々で特に接してきた五人へ向き直る。

 

「…また来るといいわ。出来れば、こちらにはない本の話を土産に持ってね」

「ありがとう、ブラン。信次元にしかなくて、しかもブランが気に入りそうな本、探しておくから期待してて」

 

まずはブランと握手。ディールちゃん達四人と接する事が多かった私だけど、次に来るならもっとブランとも話したり遊んだりしたいと思う。例え別次元だって、ブランとは友達なんだから。

 

「…ロムちゃん、ラムちゃん。私と遊んでくれてありがとね」

「あ…う、うん…」

「…まあ、うん……」

「……あの、イリゼ…さん…」

「…うん、どうしたの?」

「…わたしも…ありがとう、ございました…(ぺこり)」

 

続いて目を合わせたのはロムちゃんとラムちゃん。ロムちゃんは少し私の顔色を伺うようにしながらも、さっきの私みたいに感謝を伝えてくれた。…それを私は、嬉しいと思う。その言葉の中に、建前以外のものも感じる事が出来たから。

 

「……むむ、む…」

「……?」

「……はぁ…あのさ、あんたが何番手か覚えてる?」

「何番目…あ、四十八番手…って、やつ?」

「そう。あの時は四十八番手位だと思ったけど……あ、あんたが悪いやつじゃないって事は分かったし、ちょっとだけ上にしておいてあげる!でも忘れないでよね!ディールちゃんとエストと一番仲良しなのは、わたしとロムちゃんなんだから!」

「…うん。それじゃあ私は、もっと上になれるように…二人共もっと仲良くなれるように、帰ってからも頑張るね」

 

やっぱりラムちゃんの態度は、まだキツい。…けど、進展はしてる。少しだけど、良い方向に変わってる。なら、もっと頑張ればいいだけだもんね。仲良くなれるかどうかは、気持ち次第…!

 

「…ディールちゃん、エストちゃん」

「…はい」

「うん」

「……写真、いいかな?エストちゃんとは取ってないし、ディールちゃんとのは…」

「あぁ…事情知らない人が見たらぎょっとするレベルで、わたし達ぼろぼろでしたもんね…」

「ならおねーさん携帯貸して貸してー!」

 

最後に声をかけたのは、ここで再会した二人。あの時のように記念を残しておきたいと思って写真を提案すると、二人は快く乗ってくれる。

 

「それじゃあ撮るわね!おねーさんそっちに立って、ディーちゃん退いて〜」

「はーい。…って、それじゃ無駄に手間のかかった自撮りだよ!?ディールちゃんにもやられたからねそれ!」

「あ、なーんだやったんだ…じゃ、携帯はおねーさんに返して…えいっ!」

「わわっ!?エスちゃん!?」

「ほらほらおねーさん撮って!」

「あ、うん!」

 

私の携帯に私の写真が残るだけだよネタを挟んだ後、今度はディールちゃんを引っ張ったエストちゃんによって私自身が挟まれる。そうして出来たスリーショット状態で私は斜め上へと手を伸ばし、三人揃って記念撮影。その後すぐ二人の携帯も受け取って、三人それぞれの携帯に記念の写真を収めていった。

 

「これでよし、っと。ありがと二人共」

「もう、急に止めてよねエスちゃん…こんな事されなくたって、記念撮影位するのに…」

「あはは、ごめんごめん。…じゃあ、最後位は真面目な事を…おねーさん」

「……何かな」

「…わたしは今のままでも十分強いけど、これからももっともっと強くなるわ。だからおねーさんも…次に会った時もまたわたしを楽しませてくれる位、もっと強くなっていてよね!約束よっ!」

「…約束、したよ。次に会う時を、楽しみにしてるからね」

 

真面目な事かと言われれば、ちょっと首を傾げたくはなるけど…エストちゃんは、最後までエストちゃんらしかった。…受けて立つよ、エストちゃん。何度でも、何回でも…ね。

 

「…………」

「…………」

「…正直、そこまで言う事はないです」

「え……あ、そ、そうなんだ……」

「えぇ。だって話したい事は、これまでに全部話せましたから」

「……だよね」

 

エストちゃんとは打って変わって、ディールちゃんはクールというかドライというか。でも、それがディールちゃんらしさだし……私は知ってる。性格はクールでも、心は温かくて優しいのがディールちゃんなんだって。

 

「…だから、わたしから言うのは一つだけです」

「……奇遇だね。私も一つだけ、伝えたい事があったんだ」

 

 

「……またね、イリゼさん」

「またね、ディールちゃん」

 

……私は、背を向けてゲートの方へと歩いていく。これまでの楽しかった事、嬉しかった事を思い浮かべて、進んでいく。そうして後一歩となったところで……もう一度だけ、振り返る。

 

「…私、本当にここに来られて良かった!凄く凄く、楽しかった!楽しかったから、絶対にまた来るよ!また来るし、もし皆が信次元に来た時は歓迎する!だから…また会おうね、皆っ!」

 

──それから私は、皆に見送られた私は、ゲートの中へと入る。その瞬間真っ暗になって、ほんの僅かな間何もない世界になって……次の瞬間には、明るくなった。瞬きした私の視界に広がっているのは、皆の姿。見覚えのある、馴染みのある、大切な……私の、居場所。

あぁ、帰ってきたんだ。…その光景を見て、私はそう思った。そう思った瞬間胸が一杯になって……そんな思いを込めて、私は言った。

 

「────ただいま、皆」

 

 

 

 

イリゼさんがゲートの中に消えて、その数秒後にゲートも消えた。それが消えたのか、消したのかは分からないけど……もうイリゼさんがいない事は、今はもう遠く離れてしまった事は、疑いようのない事実。

 

「…行っちゃったわね」

「うん、行っちゃったね」

 

喪失感…ではないけど、少しだけ寂しさを感じる。でも、後悔はない。話したい事は話せたし……またねって、言ったんだから。

 

「…あっ、そういえば…勝負の途中でちょっと口調変わってたけど、あれがどうしてなのか訊くの忘れてた…」

「それは…ま、まぁまた今度訊けばいいんじゃない…?迷宮の時もそういう事あったし、そもそも口調変化するのはイリゼさんだけじゃないし…」

「ま、そうなんだけどねー。…ところでグリモ、ちょっと訊きたい事あるんだけど」

「はい、何ですかー?」

「……ほんとは、信次元と繋げる事が出来んじゃないの?」

 

いつもの調子でわたしと会話した後、エスちゃんはグリモに目を向ける。目を向けて……真意を問い質すような声音でグリモへ問いかけた。

その言葉に、わたしは驚いた。だってエスちゃんの言う通りなら、グリモは嘘を吐いていた事になるんだから。まさかとは思うけど、ここでエスちゃんが根も葉もない事を言う理由だって思い付かない。…そうわたしが思っている中で、グリモは小さく肩を竦めた。

 

「ははぁ、バレてしまいましたかー」

「当たり前よ。グリモの力は近くでよーく見てきたんだから。…で、理由は?」

「半分は彼女への興味ですねー。それで、もう半分は……」

「…………」

「…飛ばされた事自体は偶然でも、ここへ来たのは偶然じゃない。彼女にとって、そしてもしかしたらお二人にとっても何かあって、だから来たんじゃないか…そう感じたからですよ」

「ふーん…なら、よかったわ」

 

グリモの声音は、いつも緩みがあるのが特徴で、そのせいで感情が読めない事もある。…けど、今は何となく分かった。これが嘘じゃなく、グリモなりに気を回してくれてたんだって。

 

「…じゃ、今度はディーちゃんに質問ね」

「……?なに?」

「……良かったのかな…わたし、こっちで起きた事を一部ぼかしちゃったけど…あの時は、余計な不安やディーちゃんへの偏見がおねーさんに生まれないようぼかしたんだけど……もし、そのせいで…わたしがちゃんと経験した事を伝えなかったせいで、わたし達と同じ道を歩む事になったら……」

 

視線をわたしに移したエスちゃんは、普段通り…じゃなかった。多分よく知らない人なら気付かないけど…わたしが見れば、エスちゃんが不安を感じてる事がよく分かる。

エスちゃんがわたしやイリゼさんの為にわざとぼかした説明をしてたのは、わたしにも分かっていた。それに、同じ当事者であるわたしだから、エスちゃんの不安もよく分かる。……でも、

 

「……大丈夫だよ、エスちゃん。その道自体はあるのかもしれないけど…イリゼさんと信次元の人達なら、きっとその道を歩む事なく未来を掴み取れる筈だもん」

「…そう、かな?」

「そうだよ。それに……もしそうなりそうになっても、わたしとエスちゃんで助けに行けばいいだけ。…そうでしょ?」

「……そう、ね…えぇ、そうだったわね!ふふん、わたし達のコンビがいれば向かうところ敵なしだもんね!…ありがと、ディーちゃん」

「ふふっ。これでも一応、お姉ちゃんだからね」

 

気持ちは分かるけど、不安はない。可能性は感じるけど、大丈夫だって自信がある。……だってそれがイリゼさんで、そんなイリゼさんと繋がりを持ったのがわたしとエスちゃんなんだから。

それからわたし達も帰り支度。その最中でふと見た、先程撮った一枚の写真。そこに写っているのは、大切な妹と、大事な友達と……そして、そんな二人と一緒に笑顔を浮かべる、わたしの姿。その写真を見て……わたしはもう一度、思うのだった。

 

 

 

 

────次を楽しみにしてますからね、イリゼさん。




今回のパロディ解説

・リアクター、ハイパードライブ
重神機パンドーラに登場する二種類の動力炉の事。この前でラムが言ってるのもハイパードライブの進化による攻撃ですね。…人がやったらビビる光景になるかもです。

流星のダンク(メテオジャム)
黒子のバスケの主人公の一人、火神大我のシュートの一つの事。これを現実でやったらスタッフが確実に止まるでしょう。そもそも出来るかどうかの問題がありますが。

不可侵のシュート(バリアジャンパー)
上記と同じく黒子のバスケの登場キャラの一人、日向順平のシュートの一つの事。エストとは逆に下がったディール。…普通に考えば難易度上がっただけですね。

・クリフなクライム
VS嵐におけるゲームの一つ、クリフクライムの事。あんな感じのアトラクションをやっていたと思って下さい。…どんな場所なんでしょうね、五人が行ったのは。

・圧倒的有利……ッ!
カイジシリーズに登場する代名詞的台詞のシリーズのパロディ。圧倒的○○、なので汎用性が凄いですね。意図せずともパロディになってしまいそうです。

・エクウス
コンクリート・レボルティオに登場するロボット(奇Χ)の一つの事。結構無理矢理な流れですが…無理矢理な流れになるネタですからね。ラムなりの誤魔化しでしょう。

・エリエラ・ジフォン、新統合軍
マクロスシリーズに登場する軍隊及び、マクロスFrontierのメディアミックスに登場するキャラの事。ジフォン大尉のケーキ…個人的にはチョコケーキな気がします。

・カーライルの黒い嵐
マクロスΔにおける出来事の一つの事。プチでもそれが起きたらプラネタワーは大惨事となってしまいます。正に『次元』が関係している訳ですからね。


これで三度目となったコラボ企画も今回で終了となります。改めて登場させられたディールに、私から動かす事の出来たエスト…今回も前二回に劣らぬ楽しさでした!いっつも言っていますが、橘さんありがとうございます!そして毎度毎度無茶苦茶してすみません!…という話の詳しいところはまた活動報告で書きますので、もし興味を抱いて下さる方がおられましたら是非見て下さい。

では、次回より本編に戻ります。まだまだ終わる気配のないOPですが、一話一話丹精込めて書きますので、今後とも応援宜しくお願いしますっ!

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