超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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エピローグ 少女達の未来

女神だって、人の域を超えちゃった女の子だって、思いっ切り身体を休める事は必要。年齢の概念が狂ってたり、明らかに人が生身で相手していいレベルじゃないモンスターや超常的存在と大立ち回りしてても私達の心は少女な訳で、長く厳しい戦いが終わった後は憩いが欲しいと思うもの。

そして、大概の女の子が好きなものと言えば…お風呂。女性オンリーの私達パーティーが、心身共に休める憩いを求めるとすれば……導き出される答えは、ただ一つ。

 

「温泉キターーーーっ!」

 

夜空に響く、元気一杯なネプテューヌの声。次の瞬間ネプテューヌは両手を突き上げたまま跳び上がり、どっぽーんと水飛沫を上げながらお湯へと着水。…そう、私達は今……温泉に来てるんですっ!

 

「あっ、こらネプテューヌ!温泉に飛び込むんじゃないわよ!」

「もう、駄目だよお姉ちゃん。まず身体を洗うのがマナーだし、急に入ったら身体がびっくりしちゃうよ?」

「むー、ごめんなさーいおかーさん達」

『おかーさん達!?』

 

温泉へダイブしたネプテューヌへノワールが強めに、ネプギアがやんわりと注意すると、返ってきたのはまさかの発言。お、おかーさんって…片方ネプテューヌの妹だよ…?

 

「はっ!?アタシより先にネプテューヌが…!?」

「ねぷねぷに一番乗り取られた…」

「わたしもいちばんのりしたかったのにー…」

「のにー……(ぷくー)」

「子供か……って、半分は子供だったわね…」

「はは、ビーシャもREDも純粋で可愛いものじゃない。…ブランちゃんは悔しがらないの?」

「同じだと思わないで頂戴。わたしが子供なのは見た目だけ…って誰が子供だ誰が!」

「い、いや子供とは言ってないわよ…(そういう意図で振ったのは事実だけど…)」

 

続くのは温泉に一番乗りしたかった組と、ルウィーの守護女神&黄金の第三勢力(ゴールドサァド)コンビ。一番乗りしたかった組へはアイエフが肩を竦めながら突っ込み、先行メンバーに続いて私含む残りのメンバーもぞろぞろと集まっていく。

ここは、プラネテューヌのとある温泉。どこにあるのかとかどんな効能が…とかは一先ず置いておくとして、ここに私達は泊まりに来ていた。で、私達が今いるのは…露天風呂。

 

「元気一杯どころか、元気有り余ってるって感じだね。…まぁ、気持ちが分かるけども」

「へぇ、イリゼさんも飛び込みたかったの?」

「あ、ち、違うよ!?分かるっていうのはあくまでその気持ちを理解出来るってだけで、別にそういう事じゃ……」

「ふふっ、イリゼちゃんは時々子供っぽくなるですもんね〜」

「あはは、大丈夫だよイリゼちゃん。わたしも分からないでもないからね」

 

何気なく言った言葉を旧パーティー組のファルコムに突っ込まれ、周りから生暖かい目で見られる私。マベちゃんはフォローに入ってくれたけど…流れのせいで気遣ってあげてる感が凄くて、全く私としてはあぁ良かった…って気持ちになれない。…うぅ、まさかエピローグですらこの系統の弄りをされるなんて……。

 

「まあ取り敢えず、温泉に浸かると致しましょうか。でなければ身体が冷えてしまいますわ」

「そうですね……ってあの、何故アタシ達の方に視線を…身体なら自分で洗えますからね…?」

 

…ベールが女神候補生組に向けていた視線はともかく、言っている事はその通り。折角旅館に泊まりに来たのに、露天風呂で身体を冷やして体調崩しちゃったら勿体ない。

という事で私達は身体を洗い、ネプテューヌも一人洗ってないのは嫌だったのか一回出て洗い、それからちゃぽんと全員湯船へ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

『……はふぅぅ…………』

 

熱めのお湯に浸かり、身体を芯から温められた私達の口から漏れる、自然な吐息。ちっちゃい子から既に女の『子』と呼ぶのは失礼な人まで、これに関してはパーティーメンバーも黄金の第三勢力(ゴールドサァド)も変わらない。

 

「やっぱり、天然の温泉は疲れが取れるねぇ…」

「こんなに気持ち良いなら、何度でも来たいね」

「うんうん、それに皆で入ると格別だね」

「身に染みるにゅ……」

 

新パーティーファルコム、鉄拳ちゃん、サイバーコネクトツー、ブロッコリーと、新旧関係なしで皆口々に気持ち良さ気な声を漏らす。…でも、それはそうだよ…私だって暫くぽけーっとしていたくなる位気持ち良い露天風呂なんだから…んふぅ……。

 

「ねーねーネプテューヌ!向こうまで競争しようよー!」

「ふふん、わたしに挑むとは良い度胸だよ。負けた方はコーヒー牛乳奢りだからねっ!よーいどん!」

「こらー!泳ぐなー!」

 

…とか思ってたけど、ご覧の通り凡そ寛いでない子も若干名。二人への突っ込みで寛げてない子も一名。前者は精神的な意味では寛げてるんだろうけど……普通物理的にも休むのが温泉だよね…?…お疲れ様、アイエフ。

 

「時にネプテューヌよ、前のように音頭を取ったりはしないのか?」

「え?あーそれは……ってあぁ!REDに先行かれたぁ!?」

「勝負は待ったなしだからねー!」

「うぅ…で、音頭だっけ?勿論わたしが取ってもいいけど…ここはネプギアに譲ろっかな!何せラストバトルでの大活躍はネプギアだったもんね!」

「え、わ、わたし…?」

 

賑やかな催しの音頭と言えばネプテューヌ。そう考えていたのはMAGES.だけじゃなくて、私もやるのかなぁと思っていたけど、そのネプテューヌはネプギアを指名。呼ばれたネプギアは目をぱちくりさせていて、それから視線を皆の方へ。

 

「…え、と…わたしで、いいんですか…?」

「構わないわよ。別に仕事って訳じゃないんだし」

「そうね。わたしも構わないわ」

「ネプギアちゃん、ふぁいとですわ」

 

謙虚で控えめなネプギアらしい、周りの意見を第一にした反応。だけどノワールの言う通りこれはプライベートだし、それを差し引いてもネプギアが音頭を取るのに不満を持つ人なんてここにはいない。そしてそれは…これまでのネプギアの頑張りの賜物。

皆からの肯定を受けて、ネプギアは温泉の端…皆を見回せる位置へ。それからネプギアはこほんと一つ咳払いをして……ネプギアらしく音頭を取る。

 

「それじゃあ……皆ー!盛り上がってますかーっ!」

『寛いでまーす』

「あ、で、ですよね…色々ありましたが、皆さんのおかげで無事平和を取り戻す事が出来ました!ですので皆さん、今日はゆっくり休んで下さいねっ!」

『…………』

「……皆さん…?」

((……ビスコッティの姫様感が凄い…))

 

一瞬露天風呂じゃなくてライブ会場だったかな?…と思ってしまったネプギアの音頭。…まぁ、今の緩い雰囲気的にはむしろ丁度良かったりするんだけどね。

 

「…それで、ええっと……」

「……?何よ、ネプギア」

「……ここのお支払いは、ユニちゃん持ち…?」

「何でよ!?何でアタシが……ってまさか前のパーティーの天丼ネタのつもり!?」

「そ、そのつもりだったんだけど…面白くなかった、かな…?」

「いや、ならもっとはっきり言い切りなさいよ……」

「そうだよネプギア。ボケはキレが肝心なんだから」

「そ、そっか…わたしもまだまだだなぁ……」

「…え、それは何の学び…?」

 

そこからネプギアは前のネプテューヌを参考にしたらしく、ユニを弄りにいくけど…結果はこの通り。一気にゆるゆるからぐだぐたにシフトチェンジしてしまったものだから、つい私は思った事をそのまま口に出てしまった。でも、幸い突っ込みの体裁を取れていたから、それを弄られる事はなかった。

 

「はは…ネプギアさん、最後にそれっぽい事言えれば上手く締まるよ」

「5pb.さん……ですよね。…大変な戦いでしたけど、わたし達は勝てました。わたし達を信じて、未来を望む人達の思いに応えられました。まだ色々やらなきゃいけない事はありますけど…それでも今は心から喜べるんです。だから皆さん、今日は……目一杯楽しみましょう!」

 

…とまぁ一度は締まらない流れになっちゃったけど、5pb.からのアドバイスを受け、持ち直したネプギア。徹頭徹尾賑やかしに徹していたネプテューヌと違い、やっぱりちょっとネプギアからは固さを感じるけど…それがネプギア。ネプテューヌとは違う形でパーティーの中心となった、ネプギアの在り方。

目一杯楽しもう。そんなの言われるまでもないとばかりに私達は頷いて、またそれぞれに談笑したり温泉の気持ち良さに身を任せたりして、この場を存分に満喫する。…という訳で、私からも……こほん。

 

──楽しい夜は、まだ始まったばかりなんだからねっ!

 

 

 

 

「おぉ、やっぱりいつ見ても凄い質量だねベール…完全に浮いてるなんて……」

「うふふ、それ程でもありませんわ」

「こんぱもついつい見ちゃう大きさだよね。いいないーなー」

「あぅ、そう言われるとちょっと恥ずかしいです…」

「マベちゃんとか鉄拳ちゃんとか、REDとかケイブとか、シーシャなんかもそうだけど、ほんとうちのパーティーってちょこちょこ大っきい人いるよね〜。いやぁ……泣きたくなってくるね、ブラン…あいちゃん……」

『そうね…はぁ……』

『ならなんでそんな話題出したの(よ)…』

 

一頻り胸の話をした後一気に落ち込むネプテューヌに、私とノワールが半眼で突っ込む。私も決して大きい方じゃないから気持ちは分かるけど(でも言ったら贅沢だって返されるんだよね…)、何も自ら落ち込みにいかなくても…と思う気持ちの方が今は強い。

 

「むー……せめて、せめて贋造魔女(ハニエル)の使い手さんがいれば、きっとわたしは女神化せずともナイスなプロポーションを得られるのに…」

「止めなさいネプテューヌ。氷結傀儡(ザドキエル)の使い手さんみたくなればいいけど、灼爛殲鬼(カマエル)の使い手さんの様に望まない未来を見る可能性もあるわ…」

「いや、そもそも貴女達は歳取らないんだから未来も何も…って、それは向こうも同条件で変化してたわね…」

「……なんの話をしているんだ、そんな暗い顔をして…」

 

三人が憩いの場たる露天風呂とは思えないローテンションで気持ちを沈ませる中、ざぷざぶと湯の中を進みながら近付いてくる女性が一人。別に勿体ぶる必要もないから言うけど、その女性というのはマジェコンヌさんの事。

 

「それは貴女には分からない悩みよ、マジェコンヌ……」

「そ、そうか…」

 

視点を少し下、即ち胸部に向けたブランからの返しを受けたマジェコンヌさんは、何とも言えなそうな顔で視線をこちらへ。なので私達は、それに対して苦笑いで返答。

 

「まぁ、いい。何にせよ…これで二度目となったな。君達が、世界を救ったのは」

「明確且つ強大な敵からの、という意味では確かに二度目ですわね」

「二度目って言うなら、それはマジェコンヌさんもじゃないですか?今回と、前回の犯罪神封印とで」

「あぁ、だが私の場合は一度滅ぼそうともしている。それ故に君達と同じとは言えんさ」

 

貴女も私達の仲間だから。そんなつもりで私は言ったけど、返ってきたのは気不味い言葉。胸を気にしていた三人とは違う、より他人が軽々しく口出しなんて出来ない思い。

 

「…私は君達の救世に手を貸す事が出来た。だが…これで滅ぼそうとした分は相殺、などと思うのは傲慢以外の何物でもないのだろうな。何かをしたから良い、どこまですれば許される…そう考えている時点で、その思考は自分本位でしかないのだから」

「いや、マジェコンヌ…それは……」

 

夜空に目を向け、物憂げに語るマジェコンヌさんの言葉に、ネプテューヌすら上手く返せない程口籠ってしまう。まさかこんな話が出てくるとは思ってなかったから、完全に空気が固まってしまう。

だけどそれは、マジェコンヌさんが今も罪の意識に駆られている証明。そしてそれを適当に流すなんて出来なくて、私達は何か言葉を……

 

「……が、ネプギアが言っていたな。今日は目一杯楽しもうと。仲間と呼べる相手が、そう言っていたのだ。皆の努力が実り、漸く今の平和な時間を得られたのだ。ならば、私もまた今ある幸せを真っ直ぐに受け入れるさ。…結局のところ、頑なに幸せを拒もうとするのもまた…自己満足なのだからな」

「マジェコンヌ…じゃあ、もしや……」

「あぁ、私も今日は楽しむつもりさ。さて、こんなにも良い夜空なのだ。誰か共に晩酌でも……」

『……わ…』

「……?」

 

 

『分かり辛いわぁぁああああぁぁッ!!』

 

…ブチ切れ突っ込みを叩き込んだ。慮る言葉じゃなくて、聞いてるこっちの身を慮れとばかりに全力で。…描写はされてないけど、ベールやコンパも切れてたよ、これには流石に。

 

「む……そ、それはその…すまない…」

「すまないじゃないわよ!さっきのネプギアなんか目じゃない位分かり辛いんだっての!」

「そうですそうです!マジェコンヌさんは一回ねぷねぷに教えてもらうべきです!」

「い、いや待て…何故そうなる…確かに私に非があったようだが、だからと言ってそうなるのは明らかに変……」

「もんどーむよー!わたしが今からボケのイロハを教えていくから、マジェコンヌはちゃんと聞くように!いいね!?」

「あ……はい…」

 

……という訳で、急遽露天風呂でのボケ講習会が開幕。さしものマジェコンヌさんも自分が最終決戦で戦った七人からの物凄い剣幕には勝てなかったみたいで、しゅんとしつつも一応ちゃんと(?)聞いてくれた。

露天風呂で、かつて世界を滅ぼそうとした人と、世界を救った後に、ボケの講習会。…何とも意味が分からない事をしている私達だけど、意味不明な事を本気でやれるのも平和だからだし、何より意味不明でも面白い。なら、それが一番だよね。…そう思いながら、私達は謎の講習を続けるのだった。

 

 

 

 

皆で輪になって話すのも楽しいけど、人数が多いと段々幾つかのグループに分かれるもの。まぁ、そうだよね。二十人以上で談笑なんてしたら、絶対話題がしっちゃかめっちゃかになっちゃうもん。

だから自然と分かれていって、露天風呂の中では四つのグループが完成。で、わたしは……やっぱり候補生組で雑談中。

 

「……ねぇ、ネプギア…」

「なぁに?」

「…なんでアタシ達って同じ日に生まれたのに、こんなはっきりとした差があるんでしょうね……」

「え、えぇー……」

 

じぃーっとわたしを…というかわたしの胸の辺りを見てそんな事を言うユニちゃん。こ、こっちでもお姉ちゃん達の方と似たような話が出てきてる……。

 

「あ、それはわたしも気になるわ!なんで二人はわたしたちよりせがたかいのよ?」

「ぎゅうにゅういっぱい、のんだの…?」

「いや、アタシ達が大きいんじゃなくて二人が小さい…って、そんなのどっちでもないか……要は国民の望む女神の姿がこうだったって事でしょ。国民の…望む……」

「あぁっ!?ユニちゃん自分の発言で落ち込まないで!」

 

普段はクールでわたし達の中じゃ一番大人っぽいユニちゃんだけど、この系統の話題にはどうしても弱い。…でも、不思議なものだよね。女神化前後で対極なお姉ちゃんと、女神化前後であんまり変化がなくて、でもお姉ちゃんとは違いの多いわたしが同じ国の女神なんだもん。

 

「…ユニちゃん、だいじょうぶ。ユニちゃんは、かわいいよ?」

「ま、見た目はかわいいわよね。わたしやロムちゃんほどじゃないけど」

「ロム、ラム……二人に容姿を慰められるアタシって一体…」

「う、うん、この話は止めようか。それより……あっ、そうだ!わたし三人に見せたいものがあるの!」

 

二人に気遣われたユニちゃんは余計ダメージを受けて、ぶくぶくと口元まで露天風呂に沈んでしまう。それを見たわたしは、これはもう話題を変えるしかないと思って……気付いた。用意していたサプライズを三人に見せるなら、今が一番だって。

 

「見せたい、もの…?(きょとん)」

「うん。それはね…じゃじゃーん!」

 

言葉でまず注意を引いて、それから満を持して隠していたある物を出すわたし。何を出したかといえば…それはなんと充電器。

 

「へぇ……ってネプギア今どっからそれ出したのよ!?お湯の中!?お湯の中じゃなかった!?」

「ふぇぇ!?おゆの中に入れたら、こわれちゃうよ…!?」

「ネプギア、まさかわたしたちの知らないあいだにおばかに……」

「なってないよ!?…大丈夫、これは完全防水だから」

「あぁ、それなら……いや完全防水でも温泉の中に浸けとくのは不味いでしょ…」

「ふっふっふ、そう思いきやほんとに大丈夫なのがプラネテューヌの技術なんだよ」

 

思った通りの反応に満足しつつ、わたしは桶に入れておいたタオルで拭いた後に改めて充電器を三人に見せる。三人は「ほんとに大丈夫…?」って視線で見ているけど、ほんとに大丈夫だから心配は要らない(予め大丈夫かどうか何度も確認したのは内緒)。

 

「ふーん…で、もしかしてそれって……」

「そう。再封印の後皆で最終工程を進めて、ここに来るまでにわたしが調整をして……遂に完成したんだよ!わたし達の、努力の結晶が!」

『おぉー…!』

 

ラムちゃんの言葉に頷いて、わたしは充電器の完成を大いにアピール。最終調整が済んだ時点でも嬉しかった。誇らしい気持ちだった。でもその喜びを四人で分かち合えるのは、もっと嬉しくてもっと誇らしい。やっぱり四人で作ったんだから、喜ぶのも四人でなきゃ、ね。

 

「そっか…ほんとに完成したのね、オリジナル充電器…」

「ほんとに完成したんだよ、ユニちゃん。…でも、完成はしたけどまだ終わりじゃないよ?だってこれはオブジェじゃなくて、実際に使える物として作ったんだから」

「ほぇ?…じゃあ……」

「……使ってみようよ、今、この場で」

 

わたしがその発言を口にした瞬間、わたし達の間に緊張が走る。

そう、開発っていうのは、完成っていうのは、出来上がった状態で言うものじゃない。実際に動かしてみて、思った通りの結果になって……その時初めて、作った物は完成する。

 

「ネプギア…できるの……?」

「勿論だよ。ゲーム機も脱衣所に持ってきてあるからね。皆、ここが…今この瞬間が、もしかしたら充電器業界の大きな一歩になるかもしれないよ…!」

『おぉーー…!』

 

皆のボルテージが上がっていく中、わたしは露天風呂から立ち上がる。わたしが向かう先は、勿論脱衣所。そこから用意しておいたゲーム機を持ってきて、ここで充電器をセットして、皆と共に完成の瞬間を……

 

 

 

 

…………あっ。

 

『……ネプギア(ちゃん)?』

 

お湯から出て数歩歩いたらところで、致命的な事に気付いて固まるわたし。後ろからは、三人の不思議そうな視線がわたしの背中へ向けられている。その中で、皆を煽ったわたしとしては非常に非常に言い辛い中で、わたしは「ギギギ…」と擬音が付きそうな位ぎこちなく振り返って……言った。

 

「……ゲームの方は、防水機能なかったんだった…」

 

空気が、固まる。凍り付くじゃなくて、ただただ固まる。…それは誰のせい?それは勿論……わたしのせい。

お姉ちゃんは抜けてるところがあって、どこか抜けてる一面は女神化してても変わらない。それがお姉ちゃんの短所というか、特徴の一つみたいに言われているけど……どうやらそれは、妹のわたしも同じみたいです。……てへっ。

 

 

 

 

今ここにいる全員で集まって、ゆっくりと話す事はこれまでなかった。それが切っ掛けとなって、新旧両パーティーは寛ぎながらの雑談を交わす事となった。

 

「にゅ〜…離れろにゅ〜……」

「いいじゃん別に〜。はー、ブロッコリーみたいにちっちゃい嫁もいいなぁ…」

「ふふっ、そういえばこういうやり取りも見た事ある気がするよ」

 

ゲマに乗って浮かぶブロッコリーにくっ付くREDの様子を、苦笑混じりに眺めるのはサイバーコネクトツー。彼女のその発言に、新パーティーの面子がピクリと眉を動かせる。

 

「へぇ、そんな事もあったのかい?」

「確かに似たような事はあったね。これそのまま、って事はなかったと思うけど」

「…不思議なものね。自分が知らない事をこうして言われるのは」

 

集まったはいいもののこれと言って話す事もなく、散発的な会話がちらほら起こるだけだった彼女達。だがある時旧パーティーの一人がサイバーコネクトツーの様に「そういえば…」と過去の出来事を口にした事で、『別次元でのやり取り』が会話の中心となった。

 

「別次元のボク達、かぁ…あれ?皆さんって別次元から来たんですよね?なら、この次元にはもう一人の皆さんも…?」

「居ない、とは断言出来ないな。だが、必ずしも全ての次元に居る訳でもないらしい」

「居ても、同じ見た目とは限らないよね。現にここには、見た目の違う二人のあたしがいるんだから」

「そう考えると、不思議だよねぇ…」

 

言葉通りに不思議そうな顔で話す鉄拳に、皆がうんうんと頷きを返す。

新旧パーティーというのは文字通り、対マジェコンヌと対犯罪組織のどちらで仲間になったかという分け方ではあるが、同時に別次元の出身者として仲間になったか、信次元の人間として仲間になったかの分け方でもある。因みに後者の分け方の場合、コンパとアイエフも新パーティーとなるが…流石にきちんと定義付けしようとしている訳ではない為、そこへの指摘は特にない。

 

「どこに誰がもそうだけど、次元を超えていると不思議な事ばっかりだよ。歴史も違えばそこで起こってる事態も違って、ねぷちゃん達もわたし達を知っていたり知っていなかったりするんだもん」

「だから離れろにゅー…!…はぁ……でも、考えてみると別の世界なのに共通点が色々あるというのも不思議と言えば不思議だにゅ。ある意味全く違う方が自然だとブロッコリーは思うにゅ」

「そーかなー?…けどさ、皆優しいよね!だって、どこの次元に行っても嫁候補達の仲間になってくれてるんでしょ?」

 

内容が内容だからか、話が小難しくなってきたところでREDはそんな発言を口にした。

彼女の言う通り、旧パーティーのメンバーは皆別の次元でも女神達の仲間となっており、共に世界の平和の為に戦った。命の危険すらある事を、強要された訳でもないのにするというのは並大抵の事ではなく、REDがそれを優しさ故と想像するのも当然の事。だが、彼女達はそうではないと否定する。

 

「まあね。でも優しさだけって訳でもないよ?あたしにとってネプテューヌさん達との旅は、冒険の一環でもあるし」

「うん。わたしも格闘家としての鍛錬を兼ねてるから、褒められる程じゃないかなぁ」

「正義の忍者として、平和を守ろうとするねぷちゃん達を無視なんて出来ない、ってね。…でもそれだけでもないよ」

「だね。優しさだけでも、個人個人の理由だけでもない」

「理由はもっと単純だにゅ」

「あぁ。結局のところ、別次元であろうと別人であろうと……仲間なのだからな、ネプテューヌ達は」

 

あくまで寛いだ姿勢のまま、されど深みと温かみのある言葉で彼女達は言った。仲間だから、共に戦うのだと。

そこには、大きな違いがある。ずっと前から仲間だったと認識している旧パーティーと、この旅で初めて仲間になったと認識している新パーティーでの違い。だが、その気持ちは伝わっていた。仲間だから協力したいと思う、その心は。

 

「…そうね。その気持ちは分かるわ。だって私達も同じだもの」

「嫁の為ならいつでもどこでも全力で…うん、当然の事だね!」

「…そう思わせてくれるよね、女神の皆は」

「実績じゃ負けてるかもしれないけど…その気持ちは、あたし達も負けてないよ。あたし達も、仲間だからね」

 

そう言って旧パーティーのメンバーも、新パーティーのメンバーも揃って穏やかな笑みを浮かべる。穏やかで、優し気で…それでいて楽しそうでもある、朗らかな笑みを。

犯罪神は不滅の存在。マジェコンヌによる戦いの記憶が人々の記憶から風化しない内に、次なる戦いは巻き起こった。故に皆分かっている。いつかではなく、近い内に再び戦いとなってもおかしくないと。特に予想が当たった旧パーティーからすれば、それは殆ど確信レベルで捉えている。

しかし何があろうと、それがどんな事態だろうと、自分達はまた女神達に協力する。何故なら自分達は、女神達の仲間なのだから。……彼女達の浮かべた笑みには、そんな思いも籠っていた。

 

 

 

 

「やっぱりいいねぇ。大人数で露天風呂ってのは」

「興味ないね」

「え……寛いでいるのにそれ言います…?」

「あははー、エスーシャはそれ口癖だもんね〜」

 

パーティーメンバーでこそないものの、パーティーも同然の関係という事で招待された黄金の第三勢力(ゴールドサァド)。彼女達四人も一ヶ所に集まり、和やかに談笑を交わしていた。

 

「興味ない興味ないといいながら、しっかり温泉には参加する。…エスーシャ、貴女もしやツンデ……」

「違う、断じて違う」

「おっとそれは失礼(これは『興味ないね』で乗り切らないのね…)」

「ところでケーシャ、ケーシャはなんでお湯から上がったままなの?熱いの苦手?」

「それは、その…ノワールさんと同じお湯に入っていると思ったら、段々のぼせてきちゃって……」

『へ、へぇぇ……』

 

もじもじと頬を赤らめ説明するケーシャに、ビーシャとシーシャは表情が強張る。エスーシャは返答こそしなかったが…「これは重症だな…」という心の声が、その表情には浮かんでいた。

 

「…あ、そういえば私も気になってたんですが、皆さんも守護女神の方々と何かあったんですか?」

「え?…あーうん、何かあったっていうか…助けてもらっちゃったかな」

「アタシは助けられたっていうか…いや、そうね。助けられたわ。友達でもあり、守護女神でもあるブランちゃんに」

「…わたしもだ」

 

ケーシャの言葉に三人が思い浮かべるのは、それぞれにあった出来事。自らのトラウマ、信じていた者との関係、やり直せない過去の過ち…それ等に追い詰められていた彼女達を守護女神が救い、そのおかげで彼女達は今ここにいる。そしてそれは、歪んだ愛で道を見失っていたケーシャも同じ。

 

「…凄いよね、ねぷねぷ達って。わたし迷惑かけちゃったのに、それに嫌な顔一つしないで、わたしに勇気をくれたんだよ?」

「確かに凄いな、彼女達は。…正直なところ、わたしはベールに感謝しかない。というか、何故わたしがこんな普通に暮らす事を許されているのかすら不思議な程だ」

((普通に暮らす事を許されるって…エスーシャ(さん)は一体何を……))

 

お互い具体的に何があったかは知らない為、エスーシャの言葉に三人は唖然としていたが…胸中に抱く気持ちは同じ。

四人共、それぞれの形で守護女神から救われた。 その上で四人は分かっていた。それが女神達の使命感でも義務感によるものでもなく、自分達への友情で助けてくれたのだと。迷惑をかけた自分達を、それでも友として大切に思ってくれたからなのだと。

 

「ブランちゃん達はそんな事望んでないだろうし、自分の気持ちに従っただけとか言うんだろうけど…それでもこの恩は、返さなきゃいけないわよね」

「ですね。元々ノワールさんには沢山恩がありましたけど、あれで一層返さなきゃいけないと思いました。…いや、違いますね…返さなきゃじゃなくて、返したいって思ったんです」

 

夜空を見上げながら話す二人に、ビーシャとエスーシャも深く頷く。ギョウカイ墓場の出入り口防衛が、その恩返しの一つではあったが…この言葉は、それだけで済んだとは思っていない証明。そして当の守護女神四人は、自分達がそんなにも恩を感じられているとは思っていない。何故ならシーシャの言う通り、彼女達は自分の気持ちに従っただけなのだから。

 

「だが、恩返しに躍起になるのはむしろ迷惑だろうな。望まない事を押し付けたところで、関係が気不味くなる事は目に見えている」

「だからわたし達も自分の気持ちに従えばいいんだよ、きっと。だって、何かあればねぷねぷ達の力になりたいって思いは、皆もあるでしょ?」

「勿論です。ノワールさん達はノワールさん達がしたい事を、私達は私達がしたい事をして、その先で助け合えるのなら…それは凄く素敵ですっ!」

「いいねぇ、だったら……アタシ達もより大きな力になれるように、これまで以上に協力し合うとしようじゃない。黄金の第三勢力(ゴールドサァド)として…ブランちゃん達の、友達として」

 

強い意思の込められたシーシャの言葉に、三人は強く強く頷きを返す。

ギルドとは、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)とは、本来女神統治の暴走に備えた有志の組織。平時はともかく、いざとなれば敵対する事こそが元々の目的。それを忘れた訳ではない。支部長としての責任感も、勿論彼女達にはある。

だがそれでも、彼女達は迷わない。ギルドは女神を敵視するのではなく、共により良い未来を作る為の組織であると分かっているから。そして何より、もし友が道を間違えたのなら、あの時自分達が手を差し伸べてもらったように、自分達も女神達の力になればいいと思っているから。

 

「さーてそれじゃ、まずは景気付けに皆へこんがりとした肉をご馳走しようかしら。よいしょ、っと」

「おー、いいねシーシャ!わたしも手伝うよっ!」

「いや…待て待て待て待て!露天風呂で何を焼こうとしているんだ…!というか、何故湯の中に浸けても消えていないんだその火は…!」

「わっ、エスーシャさんがしっかり突っ込みを…じゃなくて、エスーシャさんの言う通りですよ!露天風呂にその匂い充満しちゃいますよ!?」

 

真面目な話はここまでだ、とばかりに突然はっちゃけるシーシャと、それにノリノリなビーシャ。一方エスーシャとケーシャは突っ込み、それまで落ち着いていたこの組の会話も一気に騒がしくなっていく。

何かあれば力になろう。彼女達のその思いは変わらない。だが同時に女神達との平和な時間を、友として楽しく過ごしたいという思いも彼女達は抱いているのであり……だからこそ、四人は心から楽しめるこの時間を、他の面子に劣らず存分に楽しんでいるのだった。

 

 

 

 

露天風呂での賑やかな時間は、その談笑が尽きる事なく続く。別段この場が最後で上がり次第解散という訳ではない。上がってからも話す時間は十分にあり、談笑の内容も多くは露天風呂で話さずとも問題ないもの。だがそんな事は関係なしに、彼女達は楽しく時間を過ごしていた。時間を忘れて、会話に花を咲かせていた。今という時間を、全力で満喫していた。

 

「はー、流石にずっとお湯の中にいると暑くなってくるよね…もうわたし出よっかな…」

『直前の地の文で時間を忘れて、とか書いてあるのに!?』

「おおぅ、総勢二十オーバーからのメタ突っ込み…いいねっ!どう考えても作者のキャパオーバーな人数で来た甲斐があったよ!」

「どこにどんな評価してるのよ貴女は……でもまぁ、どっかで区切り付けるのは必要よね。話し過ぎて皆のぼせちゃう、なんて間抜け過ぎるもの」

「区切り…あ、じゃあそれっぽい事地の文に入れようよ!『空には、再び、月と星が輝いていた』みたいな事を終わりに入れれば、上手くエピローグも締まるって!」

「へぇ、洒落てるね……ってそれハーレムルートへの覚悟を見せた副会長さんの地の文じゃない!?待って、いるの!?あの人男湯の方にいたりするの!?」

 

いつの間にかまた全員で一つの輪を作った彼女達は、楽し気に(と言えるかどうかは微妙な程本気で突っ込むイリゼがいたりもするのだが)ふざけ、言葉を返し、笑い合う。

それは、彼女達が望んだ未来だった。大切な友と、心を許せる仲間と、誰一人欠ける事なく笑い合える時間こそが、彼女達の目指した明日。だが、得られた幸せを噛み締める…などという事はなく、ただ単純に、ただ純粋に、楽しい時間を楽しんでいた。

未来に保証はない。明日が幸せであるという確証もない。だが保証がないなら自らで作り上げれば、不幸があれば自らで切り開けばいい。それを行うだけの思いと力が自分にはあって、思いを重ねられる仲間がいるのだから。……それが、自分達なのだから、と。

 

「まぁ何にせよ、締めるならそれなりの台詞があった方が良さそうですわね」

「それは誰が言うの?わたしは思い付かないけど…」

「んーと、わたしもパース!」

「あ、わ、わたしも……」

「…ネプギア、締めもやっとく?」

「う、し、締めは…お姉ちゃんに任せようかな!」

「ふふーん、いいよいいよ!何せわたしは主人公だからね!じゃあ……何と実は、まともにお風呂シーンを描写したのは今回が初めてなんだよねっ!皆知ってたかな!?それじゃあ、ばいばーい!」

「えぇぇぇぇっ!?ちょっ、それが締めの台詞のつもり!?嘘でしょ!?そんなんじゃばいばい出来ないよ!?っていうか皆バスタオル一枚のこんな姿で今作終わるの!?あー、もう……無茶苦茶だよぉおおおおおおおおっ!!」

 

 

信次元・ゲイムギョウ界。思いが力に、感情が形に、夢が未来に姿を変える世界。それは本来あるべき形から少しずつ離れていった世界だったとしても…そこでは今日も様々な人間が、それぞれの思いを抱いて…明日へと進んでいく。




今回のパロディ解説

・「温泉キターーーーっ!」
仮面ライダーフォーゼの主人公、如月弦太朗の決め台詞のパロディ。温泉の力を得るネプテューヌ…あれ?ミリオンアーサーにそんな感じのエクスカリバーがあった気が…。

贋造魔女(ハニエル)の使い手、氷結傀儡(ザドキエル)の使い手、灼爛殲鬼(カマエル)の使い手
デート・ア・ライブのヒロインの内、それぞれ七罪、四糸乃、五河琴里の事。ネプテューヌは…大人ネプテューヌがいますし、四糸乃パターンの可能性が高いですね。

・こんがりとした肉
モンスターハンターシリーズに登場する、こんがり肉の事。あれ、火が水に入っていても焼けるんですよね…一体どんな技術なんでしょうか…。

・『空には、再び、月と星が輝いていた』、副会長さん
生徒会の一存シリーズのあるシーン及び主人公、杉崎鍵の事。更に言うと、OAもOPもエピローグの最後は生存のオマージュなんです。また、ラストはこの作品でしたね。




これにて物語としてのOrigins Progressは完結です。最終話でも書きましたが、本当にここまでご愛読ありがとうございました。次回はあとがき、その後は後半の人物紹介や各種設定紹介があるので、もう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。

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