超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百六十話(最終話) 人と女神の歩む世界

ネプギアが届けた、未来を望む全員の思いが作り上げた光。破滅へと誘う悪意の闇を祓い、世界には続くだけの価値があると証明した善意の輝き。その光が、その輝きが負のシェアを包み、暴走諸共消し去った。…それが、正負のシェアの衝突による対消滅なのか、力としてのシェアエナジーが吹き飛ばしたのか、それともシェアに籠る善意が悪意に届いて、存続してもいいと思える程度には信次元も悪くない…と思ってくれた結果なのかは分からない。ただ一つ、言い切れる事があるとすれば……その瞬間、私達の未来は守られた。何があるか分からない、平和が訪れるとも限らない…けれど可能性に溢れた、信次元の未来が。

 

「……ふ、ぅ…」

 

長剣を振り抜いた姿勢から小さく息を吐き、力を抜いて身体を起こす。隣を見れば、そこには私と同じ動きを見せるネプテューヌの姿。

信次元の未来は守られた。でも負のシェアの残滓が…もしかすると犯罪神の怨念とでも言うべきものが、ネプギアを道連れにしようとした。私の教え子を、ネプテューヌの妹を、皆の仲間を、私達から奪おうとした。……だから、それを私とネプテューヌが断ち切った。誰であろうと、何があろうと、私から大切な人を奪うなんて──許さない。

 

「ネプギア、無事?」

「ネプギア、大丈夫?」

 

私達は振り向いて、二人ほぼ同時に…でもほんのちょっとだけネプテューヌが先に、背後のネプギアへと言葉をかける。…座り込んだままの、ネプギアに向けて。

 

「…ぇ……あ、えっと…その……」

 

視線と言葉を向けられたネプギアが見せたのは、戸惑いの表情。上手く返せないように口籠って、一度言葉が途切れて……それからネプギアの頬を、一筋の涙が伝う。

 

「……っ…ぅ、あ…わたし…わたし……っ!」

「…良かったわ、ネプギア。貴女が飲み込まれる前に、間に合って」

「お姉ちゃん…うん、うんっ…!お姉ちゃん…それに、イリゼさんも…助けてくれて…あり、がとう…っ!」

 

状況に心が追い付いたように、半ば呆然としていた表情を崩してぎゅっと目を瞑るネプギア。その様子を見たネプテューヌが軽く頭を撫でると、ネプギアは声を詰まらせながらもありがとうと言った。助けてくれて、ありがとうって。

 

「お礼なんか要らないわ。だってわたしはネプギアのお姉ちゃんだもの、助けるなんて当然でしょ?」

「それは私にしても同じだよ。それに、私はやるべきと思った事をやっただけなんだから」

「…だ、よね…二人なら、そう言うよね……ふふっ…」

 

ネプテューヌは頭に手を置いたまま、私は軽く微笑んで、瞳に涙を溜めたままのネプギアにそう言うと、ネプギアは涙声で…でも安心したように小さく笑みを浮かべてくれた。そんなネプギアの顔を見られたから、やっと私とネプテューヌも一安心。

 

「さ、それじゃ皆に合流しましょ。皆だってネプギアの事を心配してる筈よ」

「う、うん……でもその、わたし…今ちょっと、身体から力が抜けちゃってて…」

「もう、気持ちは分かるけどそれじゃ締まらないよネプギア……ほら、掴まって」

 

ぺたんと座り込んだままのネプギアに苦笑いしつつ、私達二人は手を差し出す。それをネプギアが両手で握って、私達二人は引き上げにかかる。…ネプギアも今や犯罪神にトドメを刺しちゃう程の女神に成長した訳だけど、やっぱりこういうところはまだまだ……

 

『……あれ…?』

「え、ちょっ……お姉ちゃん…?イリゼさん…?」

 

……と思っていた次の瞬間、私達はネプギアを引き上げる筈が逆につんのめり、二人でネプギアを押し倒す形に。当然ネプギアは頭と背中を地面に打ってしまっているのに、あんまりにも驚いているのか目を丸くするばかりで全く痛がる素振りがない。

 

「ご、ごめんネプギア…すぐ退いて……って、おかしいな…全然力が出てこない…」

「……あー…これは、アレね…」

『あれ……?』

「……ガス欠よ」

 

神経をやられたとか、アンチシェアクリスタルの影響下に入ったとかじゃないのに、何故か全然身体が動かない。それに焦りを感じる中、隣のネプテューヌは心当たりがありそうな声音を出して……言った。

ガス欠。勿論私達女神はガスで動く訳じゃないから、これはあくまで比喩表現。でも、何故か私にはその表現がしっくりときた。

 

「…あの、お姉ちゃん、イリゼさん…ほんとに全く動けないの…?……この体勢は、ちょっと負担が…」

「あ…そ、そうよね、ごめんなさいネプギア…ノワール、ベール、ブラン!申し訳ないけど、少し手を貸して…って……」

『三人も同じ状況だった!?』

 

顔を上げて見てみれば、少し前まで私達のいた場所には背中合わせで座り込んだノワール達の姿。ネプギアと同じように割座で座り込んでいたり、思い切り脚を投げ出してたりで多少の違いはあるけれど、三人共もうちょっとバランスが崩れればずり落ちそうな位に心身の疲弊が見て取れる。…っていうか多分、私達も傍から見たら同じ感じなんだと思う。

それはともかく、とにかく誰かの手を借りなきゃいけない。そう思って私達は助けを求め……

 

「くっ…なら少し情けないけど、ユニちゃん達に……」

「あ…すみませんネプテューヌさん…アタシももう、動けないです……」

「あぅ……(へとへと)」

「うぅ……(もうむり)」

「こ、候補生も全滅してる…っていうかラムちゃんがロムちゃん状態(?)に……皆ー!誰か、余裕のある人は……」

「ちょっ、コンパ!?目がぐるぐる状態になってるわよ!?大丈夫!?」

「これは……魔力切れ、か…?」

「しかし、MPが足りない!…ってやつ?……ところで皆、誰かアタシに肩貸して〜…きゅぅ……」

「それならわたしが…と言いたいところだけど、ごめんねREDちゃん…わたしも限界……」

 

 

 

 

『……おおぅ…』

 

……死屍累々状態だった。候補生の皆はぐったりしてるし、パーティーメンバーもぐったりしてる人が多いし、残りのメンバーもばったばったと倒れていくし……もう一度言うね。…死屍累々状態だった。

 

「こ、困ったわね…これじゃ直面してる問題どころか、ここからの離脱すらままならないわ…」

「…うん…それとね、お姉ちゃん……」

「…ネプギア……?」

「…押し潰されてるのは違う理由で、段々身体が痛くなってきちゃった…治癒魔法が切れたのかも……」

『……洒落にならな過ぎる状況!?』

 

若干表情を歪めたネプギアの背後に見えるのは、どろりとした赤い液体。少し視線を下げてみれば、プロセッサにもそれは付いていて…その液体の発生源は、上に乗ってるこの私。…これは、あれだね…早く何とかしないと、死屍累々状態どころか……

 

 

 

 

──死屍累々そのものになってしまうッ!

 

「はきゅぅぅ…見えるです、わたしにも敵が見えるですぅ……」

「コンパさんそれ幻覚だよ!?又はもしや、疲労で寝かけてる!?」

「はは、君は元気だね…同じファルコムでも、あたしはもう歳かな……」

「ほ、本格的に不味いわねこれは…イリゼ、何か思い付かない…?」

「な、何かって……そうだ、イストワールさんにこことプラネタワーを繋げてもらえば…」

「繋げるって…次元を繋げたのと同じ要領でって事?…いーすん、それ出来るの…?」

「出来る…出来るよ!イストワールさんなら!だってイストワールさんだもん!」

「あ、う、うん…(イリゼ…大分テンパってるのね、貴女も……)」

 

ぱっと思いついた妙案を私は言ったのに、ネプテューヌが浮かべたのは何とも言えないみたいな表情。

…と、そこでインカムに通信が入ってくる。その相手は……ビーシャ。

 

「ねぷねぷ、負のシェアの柱?…が消えたよ!勝ったんだよね?勝ったんだよね、ねぷねぷ達が!」

「ビーシャ……えぇ、勝ったわ。…っとそうよ、ビーシャ達がいたじゃない…!ねぇビーシャ、悪いんだけどちょっとお願いが……」

「そっかぁ……じゃあさねぷねぷ、悪いんだけど助けに来てくれないかな?」

「え?」

「実はわたし達、ずーっと墓場の前にいて……全員無事なんだけど、もう一歩も動けないや…てへっ☆」

「…………」

 

会話の最中一度明るくなったネプテューヌの顔は、ビーシャの返しで一気に蒼白化。しかもわたし『達』という事はつまり、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の四人が全員同じ状態って訳で……待ってよ、洒落にならない状況がストップ高ってどういう事…!?

 

「は、ははは…このままだとギョウカイ墓場がわたし達にとってのリアル墓場になっちゃいそうね…」

「お、お姉ちゃんがネガティヴジョークを…!?あのお姉ちゃんが……!?」

 

そして、ネプテューヌの発言でネプギアも顔面蒼白化。……いよいよヤバい。

 

「……っていうか、まだ封印もしてないよね…?…今、やれる…?」

『無理』

「三人共聞いてたの!?」

 

疲弊し切ってても女神の聴力はばりばり機能していたらしく、ネプテューヌに向けて言ったつもりの言葉はノワール達三人に返された。加えて『誰かさん達のせいで最後一層疲れたし…』みたいな視線が向けられていた。……せ、説明してる時間がなかったんだもん、あれは不可抗力だよ…。

 

「…………」

 

近くを見れば、ノックアウト状態のネプテューヌ&ネプギア。少し離れた場所を見れば、ぐったりの候補生三人。更に遠くを見れば、覇気もなく座り込む守護女神三人といよいよ立っている人が誰もいなくなったパーティーメンバー。そしてトドメとばかりに、墓場の出入り口では私達と似たような状態の黄金の第三勢力(ゴールドサァド)。……うん…これはもう、ほんとあれだね…。

 

「……すみませんイストワールさん、救援をお願いします…」

 

インカムを使って、イストワールさんへ連絡。通信は開いたままだったから、当然イストワールさん…というか教祖さん達にも私達の状態は伝わってる訳で、だと思った…みたいな反応が返ってくる。で、結局……

 

「お待たせしました。…いざ見ると、確かに凄い状況ですね……(; ̄ェ ̄)」

「封印は日を改める他ないね。今無理にやっても半端な封印にしかならないだろう」

「さぁお姉様、アタクシの肩に掴まって下さいな!アタクシに身を任せるように、ぐっと!」

「あぁその前に治癒を。…皆さん、動かないで下さいね…!」

 

要請に応じて来てくれた、教祖の四人と各国教会の職員さん達。ミナさんや手当の心得がある人に応急手当て(切れた治癒魔法のかけ直し)をしてもらい、担がれたり担架に乗せられたりして漸く最深部から移動を開始。その頃にはかなり流血もしてしまった事で皆輪をかけてぐったりとしてしまっていて、その姿はまるで華やかな勝利というより大事故に遭った哀れな人達の搬送とでも言うべきもの。

心に抱く希望を力に変えて、皆の思いに背中を押されて、死闘の果てに私達は勝利を掴んだ。滅びの体現者である犯罪神に打ち勝ち、未来への道を切り開いた。その先で私達は今……びっくりする程締まりのない凱旋をスタートしている。死闘だったんだから仕方ないとはいえ、もうちょっと格好良く…せめて私達の間だけで肩を貸し合って凱旋とかにしたかった。……まぁ、ある意味…そういう微妙に締まらないところこそ、私達って感じもするけど、ね。

 

 

 

 

二日間。私達が静養に費やしたのは、たった二日間だけだった。

理由は二つ。一つは倒したとはいえ、再封印の最中に犯罪神が覚醒したという経験をしていたが故に、戻ってからもまた復活するんじゃないかと気が気でなかったから。

もう一つは、普通の治療をすると身体が万全の状態ではなくなってしまうから。となると完治するまで遅らせるか、治癒魔法をかけ直し続けるしかなくて、一つ目の理由と合わせてもさっさと再封印するのが最適だろうと私達は判断した。だから今、私は……再封印を見守っている。

 

「…………」

 

墓場にいるのは、二日前と同じ面子。女神以外のメンバーは普通に治療を受けていて、皆どこかしらに包帯を巻いたり湿布を貼っていたりしている。

封印は、守護女神の四人がいれば出来る。何かしら問題が起きた場合でも、大概は私や女神候補生の四人で対処出来る。…だけど皆ここまで来た。仲間として、最後まで見届けたいからって。

 

「…じゃあ、始めるわ」

 

ネプテューヌからの声に私達は頷いて、その頷きに守護女神の四人も頷き返して、四人は向かい合う形で手を前へ。そして犯罪神の再封印が、始まる。

 

「これで、今度こそ…」

「うん、今度こそ…だね…」

 

ぽつりと呟くケイブと鉄拳ちゃん。その声音からは、この封印が無事終わる事への切なる願いが伝わってくる。…今度こそ終わらせたい。今度こそ終わってほしい。それは、私達全員の願い。

 

(…大丈夫。だってあれだけの思いを、善意のシェアを輝かせたんだから。勝ったのは力じゃなくて、希望なんだから)

 

呟きを聞いた私は、心の中でそう答えた。口に出さなかったのは、こんなのここにいる皆には言うまでもないと思ったから。

あの時と同じように負のシェアエナジーが四人の作る輪の中央へと集まっていき、それを四色のシェアエナジーが包んでいく。奇跡の体現者たる女神による、超常の力が起こす現象。神秘的で、幻想的で……女神にとっては何よりも馴染み深い、思いの光。

 

「……これでおわり、なのよね?…これで、おわっちゃうのよね…?」

「えぇ。……なにか残念みたいな言い方ね」

「う……それは、その…」

 

暫く固唾を呑んで見守る時間が続いた後、どこか名残惜しそうな声音でラムちゃんが言葉を発した。隣にいたユニが私と同じような観点で言葉を返すと、ラムちゃんは口籠り、その間にロムちゃんが口を開く。

 

「…わたし、ラムちゃんの気持ちわかる…だってネプギアちゃん、ユニちゃんとなかよくなれたのも、色んな人とであえたのも…たびしてた、おかげだから……」

「…まぁ、そうね。もし犯罪神と犯罪組織の事がなければ、まぁその場合でもアタシ達はそれなりの仲にはなってただろうけど…今程の仲にはなってなかったかもしれないし…」

 

旅があったから、知る事が出来た。旅が切っ掛けで、仲良くなれた。だから今の関係を与えてくれた旅が終わってしまうのが、どこか残念でどこか名残惜しい。…二人が感じていたのは、そういう事だった。

その気持ちは、分かる。私にとってもこの旅は沢山のものを得られた旅で、これのおかげで仲良くなれた人は多い。それに、今以上に前の旅では二人と同じような事を胸の中に抱いていた。だって私の場合、前の旅がなければそもそも今も眠り続けていたかもしれないから。……そういう経験があるから、特別な事が終わって普通に戻ってしまう事への複雑な気持ちは…よく分かる。

だけどそれを、不安に思う必要はない。私はそう言おうとして……私より先に、ネプギアが候補生三人の前に立つ。

 

「大丈夫だよ。旅は終わっても、わたし達の仲は続くんだから。わたし達はもう、特別な理由がなくても集まれて、小さな事でも皆で力を合わせられる位に仲良くなれたんだから。…そうでしょ?皆」

 

にっこりと笑みを浮かべて、三人に思いを伝えるネプギア。その言葉でロムちゃんとラムちゃんは表情を輝かせて、ユニは優し気に微笑んで、四人は明るく笑顔を交わす。

そう、旅は終わりでも、関係は終わりじゃない。普通の日々に戻ったとしても、築いた関係は、紡いだ絆は無かった事になったりはしない。…それが、心の繋がりってものだから。

 

(…今ここにいる皆だけじゃない。ここにいなくても心を繋いだ人は沢山いて、一度しか会ってなかったり、敵だったり、遠く離れた場所にいたりする人とも心の絆は確かにある。それが私の…皆の背中を押してくれて、私達は今ここに辿り着けた。…そういう事だよね、きっと)

 

闇色のシェアを包み込んだ四色のシェアは、四角柱の結晶の様にその形を変えていき、残り香の如く感じていた犯罪神のシェアの気配が消えていく。そして、淡い光は次第に弱く、落ち着いたような雰囲気に変わっていって……負のシェアを内包した四角柱は、墓場最深部の地面へと沈んでいった。染み込むように、地面へは一切の変化を起こす事なく、光と共に入っていった。

 

「…成功、したの……?」

「だと、思うにゅ…」

「うん、わたしもそう思う…」

 

完全に沈んだところで、四人はゆっくりと手を降ろす。5pb.、ブロッコリー、サイバーコネクトツーが期待と不安の混じった声をおもむろに零し、こちらへと振り返る四人を全員が見つめる。

 

「ふぅ…やっぱり神の仕事は激戦の末に魔王やら邪神やらを封印する事って相場が決まってるのね。今更だけど」

「倒し切れずに封印、じゃなくて倒した上で封印ってのはあんまねぇだろ。まぁ、普通倒したなら封印する必要ないって訳だが」

「わたくし達ではなく、あいちゃん達が中心の作品であれば過去にわたくし達が倒し切れず封印、というパターンになっていたかもしれませんわよ?」

 

肩の力を抜いたノワール達の口から出たのは、私達の求めるものとは全然違う言葉。その内容は完全に雑談で、そんな話が出てくるとは思っていなかった私達は全員揃って目を丸くしてしまう。

…と、思ったけど、全員じゃなかった。マジェコンヌさんだけは何かを確信している顔で、口元に小さく笑みを浮かべていた。

 

「ふっ、その余裕が国の長たる資質の一つなのかもしれないな。……お疲れ様だ、守護女神」

 

口元の笑みを深めてそう言うマジェコンヌさん。最初の表情の意味は分からなくても、その言葉を聞けば誰だって理解出来る。結局封印はどうなったのかが。私達は喜べばいいのか、悲しめばいいのかが。

熱せられ沸騰に近付く水の様に、私達は次第に色めき立っていく。感情が爆発する瞬間が、ぐんぐんと近付いていく。そして、私達を見回していたネプテューヌはタイミングを見極め、満を持して……言った。

 

「それじゃあ皆……帰って祝賀パーティーを始めるわよっ!」

 

ネプテューヌの言葉がトリガーとなって、わーっと私達は歓声を上げる。性格もキャラも関係なく、とにかく溢れ出す喜びを言動に乗せて笑顔を咲かせる。

長い長い犯罪組織との戦い。苦しい事も、辛い事も沢山あって、でもそれだけじゃなかった、これまでの日々。その戦いが、その日々が、今この瞬間……大団円でもって、終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

そうして私達は帰還した。最高の気分のまま祝賀パーティー……といきたいところだったけど、まずは魔法による先延ばしを終わらせて治療を受けろというごもっともな正論を言われて、祝賀パーティーは少し後になる事となった。でもだからって私達は、極端に落ち込んだりなんてしない。前の旅だってパーティーは治療やら事後処理やらで開催がそこそこ後になったし、何より平和は取り戻せたんだから。

犯罪神の脅威が去り、元の生活へと戻り始めた(と言ってもまだスタートラインから片足上げた程度だけど)信次元。そんな中で、私は時間を作り……ある場所へと訪れていた。

 

「……ごめんね、ほんとはもっと早く来るつもりだったんだけど…色々予想外の事が起きて、こんなに遅くなっちゃった…」

 

魔窟と呼ばれる場所の奥。隠し通路の先にある、一見柱以外は何もない部屋。……私が眠っていた、もう一人の私との繋がりを感じる、私にとっての特別な場所。そこに入った私は、居る気がするもう一人の私に向かって呼び掛ける。

 

「ね、私一杯話したい事があるの。何があったかとか、どうなったとか、どんなものを得られたかとか、沢山話したいの。…それに、これの事も」

 

これ、と言いながら私は編んだ前髪に結んだリボンを指で触れる。これはイストワールさんに、家族に貰った私の宝物。それをもう一人の自分であり家族である、本物のオリジンハート、本当のイリゼへと話したい…ずっと私はそう思っていた。

最初から順を追って、一つ一つ話していく。返答はないし、全部話すとなれば結構な時間喋り続けなければならなくなる。でも、私は何も苦には思わなかった。むしろ、やっと話せた喜びの方が私の中で上回っていた。

 

「きっと貴女なら…イリゼ()なら、もっと早く、もっと無駄なく解決出来たんだよね。…でも、私はそれを恥だとは思ってないよ。だって私も皆も、一生懸命頑張って、それで手にした平和だもん」

 

人の命や次元の存続がかかっていた以上、結果より過程が大事…とは言えない。こう出来ていれば、これをせずに済んでいれば、と思う事は沢山ある。だけど私達は出来る事を精一杯やって、皆が納得出来る結末を目指して、皆でそこへと辿り着いた。だから反省するべき事はあったとしても、私は私達の歩んできた道に胸を張りたい。…じゃなきゃ、私も皆も心から喜べないもんね。

 

「……で、今日これまでの事を話す為にここに来たの。…どうだった?私の話は。私達の歩んできた、私達の道は」

 

たっぷりと時間をかけて話し終え、私はもう一人の私に問いかけてみる。…勿論、返答はない。ないけど…きっとこれは伝わってる。私はそう思ってる。

 

「…でも、終わったからもういいや…なんて思っちゃ駄目だよね。また何か起こるかもしれないし…救えなかった人も、いるんだから」

 

私達は大団円を迎えられた。けど、信次元に生きる人全員が幸せになった訳じゃない。誰一人傷付かなかった訳じゃない。それはどんなに不可抗力でも、仕方なかったとしても…女神はそれをきちんと受け止めなきゃいけない。教祖の皆さんに言われた通り、被害を受けた人ばかりに心血を注ぐのが正しい形ではないのだろうけど…勝利を喜ぶ事、協力してくれた人達に感謝する事とは別として、それもしっかり覚えておかなきゃいけない。

 

「……だけど、それでも…私、守れたよ。大切な人と、大切な人が守りたいものを。私の思いは…貫けたよ」

 

私はもう一人の私に向けた言葉を続ける。イリゼ()への思いを、残さず届ける。

 

「…ねぇ、訊いてもいいかな?…私、前からずっと気になってたの。どうして私は、今もここにいるんだろうって。私は信次元に何かあった時の為の、謂わば保険でしょ?それなら前の旅で皆と平和を掴んだ後、私はまた眠りについてもおかしくなかったんじゃないかって思ったの」

 

今口にしたのは、考えていてあまり気分の良いものではない疑問。前の旅の後、一人お別れをする可能性もあったんじゃと考えるだけで、胸が締め付けられる。…だから出来れば、訊きたかった。もう一人の私の口から、何故なのかを。

 

「元々目覚めたらそのままになるよう設定してたの?それとも、私の思いを汲んで今の信次元に留まらせてくれたの?…まさか、どこかの女神宜しく誰かが私との再会を望んでくれた…とかじゃないよね?」

 

答えはない。何も言葉は返ってこない。だから私は、ただ考えたくない事を考えただけ。……そうなるかもと思っていたのに、実際はそうじゃなかった。冗談も交えられる程、私の心には余裕があった。

それは、ここに来る事で感じる安心感のおかげかもしれない。皆との旅の中で、少し心が強くなったからかもしれない。或いは…本当は分かっていたのかもしれない。私が今ここにいるのは、何もおかしくなんてないって。

 

「…ふふっ、大丈夫だよイリゼ()。私はイリゼ()からの期待を重荷には感じてないし、期待してくれてる事が嬉しいんだから。それに…少しだけど、今は私を信仰してくれる人がいる。だからもう眠れって言われても眠らないよ?女神オリジンハートは……全力で信者の思いに応えるんだから」

 

そう言って私は微笑みを見せる。もう一人の私を安心させるように。今の私はこうなんだって、証明するように。

私は原初の女神、オリジンハートの複製体。もう一人のイリゼ。けど、私とイリゼ()は同じじゃない。誰よりも近しい、互いに自分そのものの関係だけど、私には私の道がある。その道を突き進むって、私は心に決めている。

 

「私には、信仰してくれる人がいる。力を貸してくれる仲間がいる。共に笑い合える、友達がいる。だから、私は今を生きるよ。私の守りたいものがある、私が大切だと思う人がいる、今の信次元でオリジンハートを続けるよ。絶対に、絶対にイリゼ()の期待は裏切らない。やっぱり託して良かったって、必ず思わせてみせる。だからイリゼ()、これからも私を──」

 

 

 

 

 

 

 

 

────信じているよ。

 

 

「……っ!」

 

聞こえた気がした。表現としてはおかしいかもしれないけど、私にはもう一人の私の声がはっきりと聞こえたような気がした。…信じてるって、言ってくれた気がした。

 

「……うん、信じていてね。イリゼ()

 

また来るねと言って、今度はイストワールさんとも来るからねと言って、私は部屋を後にする。最後に私の眠っていた柱に触れて、もう一人の私と触れ合っているような思いに包まれて、私は部屋を後にした。……胸の中を、幸せな気持ちで一杯にして。

私は皆と、平和を取り戻した。守りたいものを守って、今の世界を未来へ繋げた。不確定だとしても、これまで以上の脅威に襲われるかもしれなくても、進みたいと思う明日を手にした。

私には大切な人が沢山いる。そんな人達が、信次元には生きている。その信次元に、私はいる。だから、私はこれからも……この信次元を、可能性に溢れるこの世界を、皆と共に歩んでいく。




今回のパロディ解説

・「しかし、MPが足りない!〜〜」
ドラゴンクエストシリーズにおける、文字通りMPが足りない際に出てくる言葉の事。原作シリーズ的には、MPではなくSPが足りないと言うべきかもですね。

・「〜〜見えるです〜〜見えるですぅ〜〜」
機動戦士ガンダムの登場キャラの一人、シャア・アズナブルの名台詞の一つのパロディ。NTのコンパ……うーん、注射ファンネルとか使うんですかね…?

・〜〜これはもう、ほんとあれだね…。
ギャグマンガ日和シリーズに登場するキャラの一人、克明の口癖のパロディ。…と言っても、これを一度出すだけではあまり伝わりそうにないですね…反省します。

・どこかの女神
フェアリーフェンサー エフのヒロインの一人、アリンの事。その後の再会を望むという辺りまでがパロディですね。FFFユーザーならお分かり頂けたかと思います。




二年弱という物凄い長い作品に付き合って頂き、誠にありがとうございました。OPはこれにて終了です!……と言いたいところですが、OA読者の方なら分かる通り、まだエピローグとあとがきがあります。それに設定系もまた追加するので、もう少しお付き合い下さいね。

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