超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第八話 オルタナティブVSアナザー

苛烈にして、熾烈。普段の柔和さをまるで感じさせない攻撃が、わたしとディーちゃんへと襲いかかる。わたし達二人の本気を持ってしても、互角へ持ち込むのが精一杯。……それが、おねーさんの本気。

 

「天舞陸式・皐月ッ!」

 

爆発的な加速で間合いを詰めてきたおねーさんの、重い一撃。防御した次の瞬間には吹き飛ばされて、大きく距離を開けられる。そのわたしへ更に飛んでくる、複数本の剣。

 

(……っ…また…ッ!)

 

翼を広げて崩れた姿勢を立て直しつつ、風魔法で剣を散らす。それからすぐにわたしは目線を剣の発射地点に向けるけど…やっぱり、おねーさんはそこにはいない。おねーさんがいるのは……ディーちゃんの、すぐ側。

 

「ふん……ッ!」

「この、位…ッ!」

 

勢いのまま振り下ろされた長剣を避け、下がりつつ氷弾を放つディーちゃん。それをおねーさんは精製した大きな盾で受けるとすぐに手放して、足元の雪を撒き散らしながらディーちゃんを追う。…わたしには、視線も向けずに。

 

(また、またディーちゃんを…ディーちゃんばっかり、狙って……ッ!)

 

一人で複数人を相手にする時は全員に満遍なく攻撃しなきゃいけないルールなんてないし、むしろ余裕のある内に相手の頭数を減らすのは普通の戦術。…でもそんなの、おねーさんの都合。

わたしを狙ってくれたなら、何にも問題は無かった。おねーさんと戦いたくて勝負を提案したんだから、むしろ望むところよっ!…って感じ。…なのにおねーさんは、ディーちゃんを執拗に狙う。例えそこに戦術があるんだとしても…わたしの守りたいディーちゃんをこうも狙われるのは…はっきり言って、不愉快でしょうがない。

 

「わたしそういうの…好きじゃないんだけど…ッ!」

「そういうのって…何かな…ッ!」

 

遠隔魔法は放たず、追撃を続けるおねーさんとディーちゃんの間に無理やり割って入る。さっきからわたし達の魔法はきっちり撃ち落とすなり防ぐなりしてきてるから、魔法撃つより割って入る事に出来る限りのリソースを割く方が、ディーちゃんを守れる可能性が上がる。それに、近接戦なら…武器も射出し辛いって分かってるんだから…!

 

「エスちゃん…!」

「ディーちゃん下がって!こういうのはわたしに任せてくれていいからッ!」

「ま、任せてって…!」

「ふぅん…優しいね、エストちゃんは…ッ!」

 

数度の斬り合いを経て、おねーさんと斬り結ぶ。後ろから聞こえてくるのは躊躇い混じりの声で、前から聞こえるのはどこかわたしを子供扱いしてる風な声。しかもおねーさんの視線はまだディーちゃんを捉えていて…それがまたわたしの神経を逆撫でる。

 

「…そういうのも…好きじゃ、ないッ!」

 

力任せに押し返し、さっきの仕返しも兼ねて宙に出した氷剣を射出。長剣で斬り払っている間に足元へ飛び込んで、下からの攻撃を図る。…けど……

 

「よ……っとッ!」

「……ッ!」

 

それまで斬り払っていたおねーさんは、最後の一本だけは長剣の腹で受けて防御。しかもその時ある程度力を抜いていたみたいで……わたしの攻撃が当たる直前、おねーさんの身体は後ろへ倒れていった。

対象が倒れた事で空振る、わたしの攻撃。しかも倒れる動きを利用しておねーさんは蹴り上げを放ってきていて、仕掛けた筈のわたしが防御を余儀無くされる。そして防御で脚が止まった瞬間、おねーさんは翼を広げて体勢を持ち上げ……わたしの鼻先を、長剣が駆け抜ける。

 

「……!ディーちゃん…!?」

「勝手に、任されないでよ…ッ!」

「か、勝手になんて…!」

 

長剣の刃が当たらなかったのは、ディーちゃんが後ろに引っ張ったから。入れ替わるようにディーちゃんが前に出て、割って入ったさっきのわたしみたいにおねーさんと斬り結ぶ。…怒っている様子はない、でも語気の強い声を上げながら。

 

「出てきたね、ディールちゃん…!」

「知っているでしょう…わたしの近接格闘は、自衛の為じゃなくて…自分以外を守る為のものだって…ッ!」

 

おねーさんをわたしから離すように、激しい連撃をディーちゃんが叩き込む。おねーさんは短距離のバックステップを繰り返しながら、氷剣の斬撃を逸らして凌いでいく。そしてその最中で一瞬だけわたしを見て……笑う。

 

(まさか……罠…ッ!?)

 

しまった、と地を蹴るわたし。ディーちゃんに助けられたと思ったわたしだけど、徹底してディーちゃんを狙っていたおねーさんからすれば、今のディーちゃんの行動は獲物が自ら来てくれたようなもの。…じゃあ、どうしてそうなった?……そんなの、わたしがヘマしたから。

 

(…わたしが至らなかった?力が足りなかった?…違う、そんな訳……ッ!)

「わたしを狙うというのなら、望むところです…このまま、わたしが…ッ!」

「ディーちゃんッ!」

「……!」

 

鋭いターンをかけ、おねーさんの後方へ。ディーちゃんの姿はおねーさんの身体が間にあるからちゃんと見えなくて、逆にディーちゃんもわたしの姿は見えていないから、わたしは声をかけて……

 

(…………あれ…?)

 

──氷剣を振り被って、振り下ろす直前…おかしい、って思った。だって…わたし達の連携は、意識してやるものじゃない筈だから。

 

「…まだ、ここまで合うんだ……でも、甘いッ!」

「くっ……!」

「きゃっ……!」

 

精製した片手剣を左手に持ち、おねーさんは長剣と合わせて前後からの攻撃を両方受け止める。そこからおねーさんはわたし達の力を利用する事で身体を回して攻撃を逸らし、即座に空に舞い上がる。

それぞれ斜め前に転びかけたわたし達は、咄嗟に手を伸ばして握り合う事で勢いを相殺。そのままお互い引っ張って体勢も立て直して……

 

『(ディー・エス)ちゃん!援護お願……えっ…?』

 

……わたしとディーちゃんは、殆ど同じ事を…でも、全く逆の意味の言葉を口にしていた。そして、それに驚いていた一瞬で…戦いが、大きく動く。

 

「……楽しかったよ、二人共」

『な……ッ!?』

 

上から聞こえた声に、反射的に視線を上げるわたし達。見上げたわたし達が見たのは……巨大な、剣。大剣とかそういうレベルじゃない、どう見たって数十mはある異常な刃。……あんなの喰らったら、一溜まりもない。

 

「でも、これで…終わりだよッ!天舞参式・睡蓮ッ!」

「……っ!ディーちゃん、防御!」

「わ、分かってる…!」

 

唸りを上げて振り下ろされる巨大剣に、わたしもディーちゃんも咄嗟に防御。二人で展開した障壁を重ね合わせて、瞬時に出せる最大限の盾を作り上げる。あれだけの剣を瞬間的なもので防げるかどうかは分からないけど…これ以上の事は間に合わないんだから、後は障壁を信じるしかない。

迫る巨大剣。掲げられた障壁。衝撃に備えてわたし達は歯を食い縛り、おねーさんは剣を振り抜いて、巨大剣が障壁に触れ……

 

 

 

 

 

 

──巨大剣が折れた。それはもう、剣じゃなくてゴボウだったんじゃないかな?…って位、あっさりと。

 

『へ……?』

「……なんてねッ!本命は、こっちだよッ!」

『しまっ……!』

 

あんまりにも簡単に折れた剣に拍子抜けしたわたし達は、つい障壁を解除してしまって……その瞬間、これまでで一番の量の武器が、おねーさんの周囲から射出された。

 

 

 

 

確実に防がなきゃいけないと思ったわたし達は、防御に全力を注ぎ込んだ。でも巨大な剣は張りぼてで、本命は範囲攻撃だった。その範囲攻撃は、普段のわたし達なら何とかなる程度のものだったけど…全力を注いだばかりのわたし達に、そんな余裕はなかった。

だからわたしは、下に向けて魔法の衝撃波を放った。衝撃波で足元の雪を抉って、穴を開けて……即席の塹壕として、そこへエスちゃんと一緒に退避した。退避した次の瞬間、放たれた武器が駆け抜けていく。

 

「…ぎ、ギリギリセーフ……」

「あ、ありがとディーちゃん…」

 

雪煙が上がる中、冷や汗をかきながらもわたし達は安堵。結構な量の雪煙が上がっているから、多分暫くイリゼさんはわたし達を見付けられない筈。

 

「…おねーさんって、女神化すると結構性格悪くなるのね…」

「う、うん…元々の戦い方からしてトリッキーさはあったけど…正直、わたしもあんまり好きじゃない…」

 

騎士の決闘じゃないんだから、清い戦い方をするかどうかはイリゼさんの自由。…とは言っても、そのイリゼさんと戦うわたし達は当然嫌な気持ちになるし、普段とのギャップでショックがある。でも好きじゃないからもう止める、と言って止めてくれるかどうかは今のイリゼさん的に怪しい訳で……なんて思っていたら、いつの間にかエスちゃんがわたしをじぃっと見ていた。

 

「…な、何?」

「…もう、頭は冷えた?」

「あぁ……エスちゃん、ちょっと顔近付けてくれる?」

「……?いいけど…」

「……てい」

「痛っ!な、なんでデコピンするのよ!?」

 

きょとんとしながら素直に顔を近付けてくれたエスちゃんに、わたしはそこそこ強めにデコピン。理由は……言うまでもない。

 

「…わたし、ああいうのは今のイリゼさん以上に好きじゃないから。自分だって、前に思い込みで怒ってた癖に…」

「前?思い込みって……あ…!あ、あれはその…あの時はまだ子供だったし…」

「今だって子供じゃん」

「……うぅ、ごめんなさい…」

「分かれば宜しい」

 

もう少し何か言うと思ったけど…想像以上にあの勘違いはエスちゃんにとって恥ずかしいみたいで、割と早めに謝ってくれた。…全く、別にわたしはエスちゃん(というか、ラムちゃん)よりネプギアちゃんを優先しようとした訳じゃないのに…って違う、それより今はこれからの事考えないと…。

 

「…どうする?今のペースに乗ってるイリゼさんだと、何か策がなきゃ勝てないよ?」

「…って事は、勝負から降りたりはしないんだ」

「う…何か文句ある…?」

「ううん、全然。でもそうだよね、何度か接近戦で惜しいところまではいったし、この方向で何とか……ディーちゃん、援護に徹するのは嫌?」

「…別に、援護自体は嫌じゃないよ。エスちゃんが、『危ないから』って理由で下がらせようとしてるんじゃないなら、ね」

 

ロムちゃんやラムちゃんと戦ってるなら断固としてわたしが前に出るけど、わたしと同じく前衛の訓練もしてるエスちゃんなら別。…勿論、納得出来る理由があるならだけど。

…というのがわたしの思いだけど、対するエスちゃんは複雑そうな顔。

 

「そうは言われても、おねーさんに狙われ続けるディーちゃんなんて見たら、わたしは下がってほしい…って、思…う……」

「……?エスちゃん、どうした──」

「あーーっ!」

「わぁぁっ!?な、何!?急に何!?」

 

複雑そうな顔から一転して、声が小さくなったと思いきや大声を出すエスちゃん。それにわたしがびっくりする中、エスちゃんは何やら興奮した様子でわたしを見てくる。

 

「やられた…もうっ!やっぱりおねーさんってちょっと性格悪いかも!」

「お、落ち着いてよエスちゃん…何か気付いたの…?」

「まんまと嵌められたのよ、わたし達!おねーさんの策略に!」

「策略……?」

 

そう言って分かり易く悔しがるエスちゃんだけど、まだ何を言いたいのかいまいち伝わってこない。だから改めて問い直すと、エスちゃんはこくんと頷いて続けてくれる。

 

「ディーちゃんおねーさんにずっと狙われてたでしょ?でもあれ、狙いはわたしだったのよ!で、わたしを利用してディーちゃんも狙ってたの!」

「う、うん…つまりどういう事?後、声が大きいから…」

「あ……こほん。…ディーちゃんが狙われたらわたしはいつも程冷静じゃいられなくなるし、わたしが冷静さに欠ける言動をしたら、ディーちゃんも調子が狂うでしょ?」

「……って、事は…イリゼさんの真の狙いは、わたし達のペースを乱す事だったの…?」

「…多分」

 

神妙な顔で再び頷くエスちゃんの言葉からは、説得力が感じられる。…確かにイリゼさんの狙いがわたし達のペースを乱す事なら、元々の戦い方に通じるものもあるし、さっきの巨大な剣なんかは間違いなくこの系統。…けど、だとしたら……

 

「…嫌な戦い方だね、ほんと……」

「同感。で、目論見に乗っちゃったわたし達は連携よりも前に出る事を優先しちゃったって訳。確証はないけど、接近戦も誘われてたのかも…」

「…なら、二人で遠距離戦を仕掛ける?撃ち合いならわたし達の方がずっと得意だし」

「それは嫌。雑魚蹴散らすならそれも楽しいけど、強い人とはやっぱりぶつかり合いたいもん」

 

策に乗せられていたと言っても、その策は分かれば何とかなるタイプのもの。ならばとわたし達の得意分野を提案してみた訳だけど…ちょっと物騒な理由で拒否されてしまった。…ほんとになんでこんなに戦い好きになっちゃったかな…。

 

「じゃあ、どうする気?ペースを崩す策が一つだけだとは思えないけど」

「それはね…ふふっ。援護、してくれる?」

「……はぁ…やるなら、勝つ気でいくよ?」

「勿論よっ!教えてあげましょ、ディーちゃん!おねーさんも強いけど…真の最強は、わたし達なんだって!」

 

それからエスちゃんは自分の考えてる案を口にして、わたしの意見もそれに組み込んで、勝つ為の作戦を構築。それが出来上がった頃には舞い上がっていた雪煙が収まりかけていて…丁度良いとばかりに、わたし達は飛び上がった。……反撃、させてもらいますよ…イリゼさん。

 

 

 

 

勝負が始まる前から、力技で勝つのは厳しいと分かっていた。もっと言うなら、ディールちゃんの参戦を許した時点で、『勝負の前の勝負』で劣勢になっていた事は明白だった。だから私は、初手から本気で…全力でもって仕掛けていった。

結果、私の意図した通りに二人は本領発揮を出来ずにいた。二人共「大切な人を守りたい。その為に力を振るいたい」って気持ちがあるのは分かっていたから、エストちゃんには『大切な人が狙われる状況』、ディールちゃんには『守られる側として見られる状況』をぶつけて、更に遠隔攻撃は無理してでも確実に処理する事で、二人を感情的にしつつ、遠距離戦より近距離戦を選ぶマインドに仕向けさせた。

ここまでは、想定通り。後は見かけだけの剣で隙を作って、範囲攻撃を叩き込めば勝利は目前。そう考えていて、その目前までも実際に進んで……でもそれから数分以上経った今も、勝負は続いている。

 

「あははははっ!おねーさんは大きいから、わたしに動き回られると大変でしょ!」

「大変になる程の体格差は、ないと思うけどね…ッ!」

 

忍者刀を手に飛び回るエストちゃんの一撃離脱攻撃を、目で追いながら長剣で捌いてカウンターを狙う。エストちゃんは私と馬鹿正直に斬り合えば私の方に分があると分かっているからか、私が体勢を崩して連撃を誘ってみても乗ってくれない。

 

「ほらほら、まだまだいくわよッ!」

「…ほんと、元は後衛専門だったとは思えない位良い動きするね…でも、エストちゃんじゃ私に勝てないよ…ッ!」

「……っ…そうかも、しれないわね…でも…」

 

更に数度の攻撃の後、甘く入った斬撃を横薙ぎで叩き潰した私は、精製した細剣を左手で握って即座に刺突。咄嗟にエストちゃんは下がるも彼女がいるのはまだ私の攻撃が届く範囲で、真っ直ぐに伸びる細剣はエストちゃんを捉え……

 

「……わたし達ならッ!」

「……ッ!」

 

……る直前、下方から放たれた氷弾が細剣の刀身をへし折った。そして追撃はさせないとばかりに、光芒が曲線を描いて私に襲いかかる。

 

「(攻撃の…いや、一つ一つの動きの精密さが戻ってきてる…まさか雪煙の中で立て直しを……?)天舞壱式・桜ッ!」

 

周囲の全方位へ向けた連撃で光芒を斬り裂き、対処完了…と思った瞬間、今度はエストちゃんの魔法が飛来。対処の最中でも構え直した後でもない、絶妙なタイミングの攻撃に、私は後退を余儀無くされる。

 

「……だっ、たら…ッ!」

 

エストちゃんからの攻撃が残り数発になったところで、私は大剣を精製。その腹で受けつつシェアの圧縮も行い、攻撃終了と同時に射出。射出した先は…勿論、地上にいるディールちゃん。

もしまだ私の術中の中なら、これをエストちゃんは無視出来ない筈。もし無視しなかったら、気を取られた隙を突いて反撃が可能。そう私が策を巡らす中、大剣が放たれたのを目にしたエストちゃんは翼を大きく広げ……私の方へと、突撃をかけてきた。

 

「んもう、おねーさんってばディーちゃんが大好きなんだか…らッ!」

「エストちゃん…ッ!」

 

大上段からの斬り下ろしを、長剣を横に掲げて防御。……やっぱり…もう二人は、普段のペースを取り戻してる…!

 

「でも、そんなにディーちゃんが気になるなら…見せてあげるわ!わたしの、とっておきの忍術をね!」

 

斬り結びも早々に離れたエストちゃんは、二つの巻物を放り投げる。そして次の瞬間……空中で広がった巻物から、私へ向かって火球が放たれた。

 

「忍術・炎龍!」

「な……っ!?ほ、本物の忍術…!?」

 

放たれた火球はそれまでにも出された炎魔法と大差はなかったけど、まさか『技術』ではなく本物の『忍術』までも使えると思っていなかった私は驚かされる。…けど、所詮は火球二発。驚いていようとも、それ位なら反応出来ない私じゃない。

 

「ふ……ッ!」

「おねーさん、やっるぅ!なら、これはどうかしら!?」

(さっきより多い…!けど…この程度なら……ッ!)

「え、嘘……っ!?」

 

火球を斬り払った直後、楽しげな声と共に再び放られた巻物。その数は六…さっきの、三倍。

でも、一回目の時点で私はこの忍術の欠点に気付いていた。巻物から放たれる攻撃の欠点…それは、エストちゃんが放ってから放たれるまでにタイムラグがある事。そしてそのタイムラグは……私の武器精製と射出を合わせた時間より、間違いなく長い…!

精製時間が短く済むナイフを六本精製し、忍術発動より先に射出をかける私。飛ばしたナイフは狙い違わず巻物に直撃し、私は笑みを浮かべながら狼狽するエストちゃんへと反撃を……

 

 

 

 

「……なーんて、ねっ♪」

「んな……ッ!?」

 

──その瞬間、私へと放たれた忍術。それは……破れた筈の、巻物から。…いや、違う…これは…この位置は……っ!

 

「ぐぅぅ……ッ!」

 

身体を捻り、プロセッサの浮遊ユニットを身代わりとする事で私は直撃を回避。でも衝撃とユニットの破裂を諸に受け、弾かれたように落下してしまう。

 

「もらったぁっ!」

「……っ…まだ…ッ!」

「えぇ、まだですよ……ッ!」

「……っ!?」

 

私を追って下降してくるエストちゃんに、長剣を投擲。…が、またも私の攻撃はディールちゃんの援護によって弾かれ、私は接近を許してしまう。

空中で前転をかけかかと落としを放つエストちゃんと、その場で回って上へと回し蹴りを放つ私。例え魔法で強化していても、近接格闘能力なら私の方が上。…けど、今この瞬間は私の体勢が良くなかった私より、落下に逆らわず攻撃エネルギーに転化したエストちゃんの方が上手だった。

 

「ぐぁっ……!」

「……おねーさん、つーかまーえたっ♪」

 

雪原に落ちた私の両手首に、エストちゃんの振り出した鉤縄らしき物が絡み付く。更にエストちゃんの側へとディールちゃんが飛び上がっていて、二人の武器が私の方へと向けられている。…こうなればどう考えたって、私が攻撃するより二人の攻撃が私に届いてしまう。

 

「ふふん、これっておねーさんからしたら、中々屈辱的な状況じゃない?」

「…油断しないでよ?エスちゃん」

「分かってるって。で、おねーさんどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 

私を見下ろすエストちゃんは勝気な笑みで、ディールちゃんは油断を感じられない落ち着いた表情。……確かに、叩き落とされて両手縛られて、その状態で小さい子二人に見下ろされるというのは屈辱的な状況。それは、間違ってない。

 

(…どんな気持ち、か……)

 

…でも、屈辱的な気持ちでいっぱいかと言われると…そうじゃない。その気持ちもあるけど、それだけじゃない。…むしろ、今一番大きい気持ちは……

 

「……ふ、ふふっ…」

「……?」

「…中々……面白くなってきたじゃないか、アナザーホワイトシスターよッ!」

『わわ……っ!?』

 

一纏めにされた両手を握って、思い切り振り抜く。私の手とエストちゃんは、縄でもって繋がった状態。だから、私の腕を振った勢いはエストちゃんにも伝わり…狙った通り、エストちゃんはディールちゃんへとぶつかった。…ジャッジと戦って以来、心踊る戦いなんてしてなかったんだから……そんなの、楽しいに決まってる…ッ!

 

「勝ち誇るのが早過ぎたね、エストちゃんッ!」

「……っ!エスちゃん、まだいける!?」

「…とーぜんッ!」

 

ぶつかった衝撃で縄が緩み、自由になった右手に私は苦無を携える。左手は拘束から抜き、縄を引っ張りエストちゃんを引き寄せる。ディールちゃんが離れる中、私は身体を跳ね起こし……一閃。

 

「…さっきの忍術、実はただの魔法なんでしょ」

「あ、バレた?…そうよ、巻物はフェイクで…実際には巻物の前から魔法を放ってるだけだもの!」

「やっぱりね…意趣返しをされるとは思ってなかったよ…ッ!」

 

苦無と刀がぶつかり合い、武器が…そして交差する視線が火花を散らす。それから数秒の間私達はせめぎ合い…私達のすぐ側に落ちてきた長剣が雪へと突き刺さった瞬間、エストちゃんは縄を離し、代わりに長剣を掴んで振り抜いた。

 

「おねーさんが苦無使うなら…わたしもこれ使わせてもらうからねッ!」

「結構難しいんだよ?その長剣を使いこなすのは、ねッ!」

「手裏剣…!?…このタイプも使えたんだ、おねーさんッ!」

 

横っ飛びで斬撃を避けた私は、空中で通常の数倍はある大型手裏剣を精製して投擲。それをエストちゃんは長剣を投げる事で撃ち落とし、私達は再び空へと舞い上がる。

 

「もう性格悪い攻撃はしてこないのかしらッ!?」

「だったら、忍法慈愛の術でもやってあげようかッ!」

「やってもいいわよッ!わたしはそんなに甘くないけどねッ!」

 

私は両手に苦無を、エストちゃんは両手に忍者刀を構えて何度も激突する。二つの光の軌跡を描きながら、離れては斬り結んでを繰り返す。

楽しくてしょうがないと言いたげなエストちゃんの笑みに、私も自然と笑みを返す。…でもその半分は、エストちゃんがまた私の策に嵌まってくれつつあるから。

 

(本当に楽しいよ、エストちゃん。…でも、二人に勝ちを譲るつもりは…毛頭ない…ッ!)

 

もう何度目か分からない激突の末、私は苦無を下へと投げ落とす。そこから翼を姿勢制御重視に可変する事で強引にブレーキをかけ、続けて直線機動重視に変えつつその場で反転。更にバスタードソードを精製し……私に遅れてエストちゃんが方向転換した瞬間、全力の天舞陸式・皐月を叩き込む。

 

「きゃっ……!」

「一定の速度に目が慣れると、急加速された時反応が遅れるよね…!」

 

防御した際の衝撃で落下するエストちゃんを追って、下降をかける私。どんどん距離を詰め、バスタードソードの届く間合いに入った瞬間右手を振り上げ、そのまま振り下ろ……すと見せかけて、私は下降の軌道を逸らした。

 

「……!?」

「残念だけど…ディールちゃんがずっと何かを企ててた事は、お見通しだよッ!」

 

機動を逸らした私は、手が付く程の低空飛行に移行し……エストちゃんが落としたままの鉤縄と、私がついさっき投げた苦無の一本を拾い上げる。

これまでディールちゃんは、援護に徹していた。でも援護に徹している割には、攻撃が妙に少なかった。もしディールちゃんが並みの魔法使いなら、闇雲に攻撃してエストちゃんの邪魔になる事を避けてたとも考えられるけど…ディールちゃんはそんな低次元の魔法使いじゃない。…だからこそ、私は気付いた。魔龍と戦ったあの時のように、ディールちゃんは大掛かりな魔法の傍らで援護をしていたんだろうと。

 

「え……縄が、広がって…!?」

 

迎撃の魔法を避けつつある地点まで飛んだ私は、鉤縄と苦無を同時に放る。ディールちゃんも私がそれ等を拾った時点で使ってくるとは予想していたようだけど…縄が広がった瞬間、目を見開いて驚きを露わにしていた。

何故縄が広がったか。…それは、縄の鉤爪が付いていない側に苦無を括り付けて、重みのある地点を二つに増やしたから。そして鉤爪と苦無をそれぞれ斜めに投げた事で、二つに引っ張られて縄は広がった。驚いているディールちゃんは当たる寸前我に返って氷剣を展開するも…もう遅い。

 

「……さぁ、決着といこうか…エストちゃんッ!」

 

ディールちゃんの身体を中心に縄が巻き付く中、私は背後に迫るエストちゃんへと叫ぶ。今私は武器を持っていない。けど私が移動していたのは、先程エストちゃんが投げて再び雪へと刺さった長剣のある場所。ディールちゃんは数秒もあれば拘束から脱して戦線復帰してくるだろうけど、次の一撃でエストちゃんを倒せば一対一。そして、今この瞬間も……一対一。

長剣を抜き放ち、シェアエナジーの圧縮を行いながら私は振り向く。目の前にいるのは、大剣を振り上げ全速力で私へ斬りかからんとしているエストちゃん。だけどもう私も攻撃体勢に入っていて…先に攻撃を当てられるのは自分だって確信が、私にはある。

元々はエストちゃんの言葉から始まった、この勝負。途中ディールちゃんが危ない感じになったりしたけど…この戦いは、十分満足出来る勝負だった。だから私は二人に敬意を評して、最後まで全力のまま戦い抜く。……そんな思いを胸に抱きながら、全身全霊の一撃をすべく私は雪の大地を踏み込んで…………

 

 

 

 

 

 

 

 

────脚が、滑った。

 

(えっ……?)

 

降り積もってそれなりの固さになった雪ではなく、まるで溶けかけた雪を踏んでしまったかのような感覚。けど、そんな訳ない。これまで雪はすぐ溶けるような状態じゃなかったし、急激に気温が上がったりもしてない。…なのに、私の脚は滑り、前のめりの体勢になっている。そんな訳がないのに、まだこの状態になる訳がないのに、自然に溶ける事なんて……いや、待った…。

 

(……まさか、これって…これが、ディールちゃんの…ッ!?)

 

否定は気付きに、気付きは驚きに、驚きは確信に変わっていく。原理は分からない。分からないけど……ディールちゃんなら、この一帯の雪を任意のタイミングで溶ける状態に仕上げる事だって不可能じゃない。…けど、だとしたら……

 

(嵌められたのは、私の方……?)

 

目を見開く私。その私へ、エストちゃんの大剣が迫る。危機的状態に全ての動きがゆっくりに見えて、大剣の軌道もはっきりと分かって、でも私の動きも緩慢になってるから避ける事なんて間に合わなくて……

 

 

……次の瞬間、私の用意していた圧縮シェアが爆発した。爆発して……私は前のめりのまま前に吹っ飛ぶ。

 

「え、ちょっ……」

「あ、不味っ……」

 

…………ごつんッ!!

 

『……いったあぁぁぁぁああああぁあぁッ!!?』

 

エストちゃんの顔がアップになったと思ったのも束の間、額に頭が割れたんじゃないかと思う位の激痛が走る。

聞こえた絶叫は、私のものとエストちゃんのもの。私もエストちゃんもお互い弾かれてひっくり返り、狂ったように叫びながら痛みで転げ回る。もう痛いとかのレベルじゃない。なんていうか…えっと……前言撤回、やっぱり痛い。訳が分からない程に痛い。痛いのなんのって感じに痛くて、頭が粉々になってるよと言われても信じちゃう位に超痛い。痛い、痛い、痛い、痛……

 

「……えっ、と…これでわたし達の勝ち…かな…?」

「あ……」

 

──気付いたら、ディールちゃんが私のすぐ近くにいて、氷剣を私へ突き付けていた。……なんか、決着…付いちゃったみたいです、はい。




今回のパロディ解説

・「〜〜エストちゃんじゃ私に勝てないよ…ッ!」「〜〜そうかも、しれないわね…でも…」「……わたし達ならッ!」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの登場キャラ、マクギリス・ファリドとガエリオ・ボードウィンのやり取りのパロディ。阿頼耶式・タイプE(st)…じょ、冗談です!

・忍術・炎龍
原作シリーズの一つ、四女神オンラインにおけるラムの技の一つの事。エストも使えるらしいです。まぁ、実際には忍術っぽくしてるだけの魔法ですけどね。

・忍法慈愛の術
LIFE! スペシャル 忍べ!右左エ門においてムロツヨシさんが演じた甲賀忍者(頭領)の使う忍術の一つの事。イリゼはプロセッサ着てるので、恐らく元々胸元は開いてますね。

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