超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百五十七話 全ての思いを懸けて

わたしがこれまで経験してきた中で、一番激しく苛烈な戦い。気を抜けばどころか、気を抜かなくても動きや張り詰めた神経にほんの僅かでも緩みがあれば、その瞬間攻撃を喰らうか連携が崩れるかしてしまいそうな、ギリギリの戦闘。

でも、そこに恐れはあっても、わたしの身体は動いてくれる。わたしの思うように、わたしの考える通りに、理想の動きをする事が出来る。

これは信次元の未来を決める、最後の戦い。そこでわたしは、これまで積み重ねてきた全てを力に変えて……全身全霊、戦っていた。

 

「ネプギアッ!」

「お姉ちゃんッ!」

 

声と視線で息を合わせて、お姉ちゃんと犯罪神を攻め立てる。お姉ちゃんが斬り付ければわたしが回り込んで、わたしが射撃を撃ち込めばお姉ちゃんが距離を詰めて、入れ替わり立ち代わり何度も何度も得物を振るう。ギョウカイ墓場の大地を、スケートの様に素早く駆けながら。

 

「質も重みも相当なもの…だが、それでは届かん……ッ!」

 

弾かれたようなバックステップで距離を開けようとする犯罪神を、わたし達は二人並んで真っ直ぐに追撃。間髪入れずに振るわれた双刃刀から闇色の斬撃が放たれ、M.P.B.Lと大太刀でそれぞれ受けたわたし達はその威力に押し返されちゃうけど…すぐにノワールさんとユニちゃんが入ってくる。

 

「早計ね、犯罪神…ッ!」

「アタシ達が、黙って見てるとでもッ!?」

 

トリガー引きっ放しでユニちゃんが突っ込んで、逆方向からはノワールさんが大剣を逆手持ちしたまま回し蹴り。犯罪神は負のシェアの障壁らしきもので射撃を防いだと思った次の瞬間には振り出されたノワールさんの脚を掴んで、ユニちゃんの射線へ投げ付ける。…連携ミス?想定外の事態?……そんな訳がない。

 

「そうくると思ったわ…よッ!」

「小賢しい……!」

 

ノワールさんの身体へと迫る弾丸。でも、一発足りともノワールさんに当たりはしない。そしてノワールさんも避けようとする動きは一切しないで…背面の犯罪神へと刺突をかけた。…それが出来るのは、逆手持ちで大剣の斬っ先が後ろを向いているから。

 

「それは乗せられた事に対する負け惜しみか、犯罪神ッ!」

「負け惜しみ?我が一体何を惜しむとでも…?」

「それは、これからはっきりしますわッ!」

 

突かれる寸前でノワールさんを離し、射撃に追い立てられるようにして再び跳んだ犯罪神へ次に突っ込むのは、イリゼさんとベールさん。回避先へ空から地面を割る勢いで振り下ろされた長剣はサイドステップで避けられるも、反撃の隙なんてベールさんが与えない。

 

「ふん、その攻撃など既に見切っ……」

「…残念ながら、わたくし達の『連携』は見切ってなかったようですわねッ!」

 

余裕を持って戦っていた時の一撃を彷彿とさせる、急降下からのランスチャージ。けれど犯罪神はその言葉通り最小限の…それこそ身体を逸らす程度の動きで避けて、その流れのまま反撃に移行。

誰も割って入れない距離での、犯罪神の一太刀。それは瞬く間もなくベールさんの首へと迫って……触れる直前、その軌道は放たれた短槍によって逸らされた。当然それは、ベールさんの動きを見越したイリゼさんの一投。上は逸らされた刃はベールさんの頭上を通り過ぎ…わたし達の、攻撃は続く。

 

「いくよロムちゃん、お姉ちゃんっ!」

「うん……っ!」

「おうよッ!」

 

杖を掲げたラムちゃんの上には、巨大な氷塊。ベールさんの蹴りを防ぎつつも衝撃で飛ばされた犯罪神へとそれは撃たれ、冷気と共に詰め寄っていく。

とはいえ犯罪神はそれで焦ったりなんかしない。落ち着いて着地し、遠隔攻撃で氷塊を砕く素振りを見せる。そうして氷塊が更に迫り、犯罪神が壊そうとして……その瞬間、氷塊はその後ろから撃ち込まれた何条もの光芒によって貫かれた。

 

「おねえちゃん式・ダイナミック……」

「エントリーッ!」

「そんな名前じゃねぇけどなッ!?」

 

撃ち抜かれた氷塊は崩壊し、犯罪神は放つ筈だった迎撃の目標を失う。…が、次の瞬間崩れていく氷塊の影から現れたのは、猛スピードで飛ぶブランさん。その後ろには…魔法で氷塊を貫いたロムちゃんの姿。そしてブランさんの飛び蹴りと、咄嗟に交差させた犯罪神の両腕が激突する。

 

「テメェになんざ、この次元は……やらせねぇんだよッ!」

「ぐ、ぅ……ッ!」

 

真正面から飛び蹴りの衝撃を受けた犯罪神は、一瞬ぐらつく……けど、解き放つように両腕を振るって押し返す。でもそれで終わるブランさんじゃなくて、押されるや否やテコの原理で上半身に勢いを付けて大上段から戦斧で一撃。それすらも後一歩というところで犯罪神は押し留め……ブランさんは吠えた。闘志みなぎる声と共に戦斧から離した右の拳が突き出されて……犯罪神の左頬に打ち付ける。

 

「へっ、これが……──ぁぐ…ッ!」

 

重く入った、ブランさんの右ストレート。犯罪神は、それを受けて大きく仰け反った。…だけどブランさんへの意趣返しのように、仰け反る反動で下から振り上げられる双刃刀。その先端がブランさんの身体を捉え……胴から赤い血が噴出する。

 

「痛み分け…とでも思ったか?」

 

翼を広げて姿勢を立て直した犯罪神は、振り上げた双刃刀で即座に連撃。手首の捻りで戦斧を割り込ませてブランさんは防ぐけど、片手の防御はその一発で崩される。

更にそこへ迫る、犯罪神と生き残りの羽根。犯罪神にはお姉ちゃん達が、羽根はわたし達が突撃する事で何とか追い討ちは防げたけど……連携攻撃はそこで途切れてしまった。…犯罪神より、ブランさんが大きなダメージを受ける形で。

 

「ブラン、大丈夫!?」

「悪ぃ…けど大丈夫だ。脇腹から肩の辺りまでやられたが、傷自体は深くねぇ」

「だったら私達は行くわよ!奴にペースは渡さない…ッ!」

 

ロムちゃんとラムちゃんから治癒を受ける中、お姉ちゃんからの問いに答えたブランさんは目で「行け」と指示。それにノワールさんが頷いて、わたし達も攻撃を再開。それから十数秒後。突貫作業で治癒を完了させた二人にブランさんも、すぐに戦線へ戻ってくる。

一度距離を取って仕切り直し、とか回復を待って全員で、とかの選択肢はもうない。…わたし達は一秒でも早く、一瞬でも早く犯罪神を倒さなきゃいけないから。

 

(今も皆さんの限界は迫っているかもしれない…それに、わたし達の限界も…だから、畳み掛けるしかない……ッ!)

 

刀身にビームを纏わせて突っ込むわたしの、左の脚がズキリと痛む。治癒をするまでもない程の軽傷で、でも忘れられる程は浅くない傷が。

わたしだけじゃない。皆、少なくとも数回は攻撃を受けていて、最低限の回復だけして戦闘を続けている。フルスロットルにした力の全てを切らさないように。全力が尽きないように。

 

「……そうまでして守りたいか。この世界と人々を」

「えぇ、どんな事があろうと守りたいのですわッ!

「守ったところで、永遠の平和が訪れる訳ではない、未来が保証される訳でもないにも関わらずか」

「だとしても、ここで失えば平和も未来も消滅する!そんなの、女神として許せやしねぇんだよッ!」

 

飛び回り執拗にわたし達の動きを阻む羽根を避け、追い払い、犯罪神へ向かう。援護にも牽制にも全力を注いで、最善と最高を叩き込み続ける。…そんなわたし達へ対し、感情のない声で投げかけるのは犯罪神。

 

「女神として、か。…結局のところ、我も貴様等も変わらない。変わらないどころか、同種の存在だ。原動力の根源以外は、何ら違うところなどない」

「なら何だってのよッ!同じだから何?同じだろうと何だろうと、この次元に住む人を守りたい思いは変わらないわッ!」

「それもシェアに差し向けられた感情に…いや、反応に過ぎないだろうに。それを思いだの、心だのと言うのであれば滑稽なものだ」

「それは違うわ!確かにわたし達の性質は、国民の思いに由来しているのかもしれないけど…今燃えているのは確かにわたしの気持ちだもの!」

 

他人事のように語る犯罪神に反論するお姉ちゃん達の声は、意思と感情に満ち溢れている。守りたいって思いに。大切なんだって気持ちに。

 

「それを証明する手立てなどない。一方で我には心などなく、我と貴様達は同種の存在…それでも尚、心の存在を謳えると?」

「あぁ謳える、謳えるとも!そもそも心に明確な形などない!故に誰も証明など出来ず、だからこそ心とはそれを信じる思いの中にこそ存在するッ!だからこそ、心は他人と繋がり互いを支える柱となり得るッ!」

 

思いを言葉に、力に変えて墓場を舞う。お姉ちゃん達の思いの光は、暗く心が沈んでいくような墓場の中でも輝いて、わたし達にも勇気をくれる。

けど、それはお姉ちゃん達だけじゃない。わたし達女神候補生だって……受け取るだけの立場は、とっくに卒業してる。

 

「わたし達は色んな人の心を見てきて、色んな人と心を繋げてきた!そうだよね、皆ッ!」

「そのとーりよネプギア!わたしにもロムちゃんにも、ネプギアにもユニにも…みんなに心があるんだからッ!」

「わたしはみんなが大すきだから…だから、ぜったいに守るの…ッ!」

「負けないわ、負ける訳ないじゃない!シェアを力に変えてる癖に、自分の心を否定するアンタなんかにはッ!」

 

斬り結び、打撃をぶつけ合い、擦り傷を互いに与えていたお姉ちゃん達が、五人揃って同時に後退。そのお姉ちゃん達を飛び越えるようにわたし達は突進し、犯罪神との距離を詰めていく。

犯罪神から放たれる負のシェアの迎撃。それを急降下と急上昇を繰り返す事で避け切って、突進を続行。距離を詰めて、詰めて、詰めて……近接戦の間合いに入る直前、地面を蹴って低空飛行から飛び上がった。前ではなく、後ろ上方に。

そしてそこから撃ち込む、光弾と実弾と魔法と魔法。刃に負のシェアを纏わせ刀身を延長した回転斬りを避けながら飛ばした攻撃は、四発全て犯罪神へ傷を与える。致命傷ではなくとも、確かな傷を。

 

「…動きの精度が落ちていない…いや、それどころか…増している……?」

 

当たる位置をズラすのが精一杯だったのか、完璧に避ける必要はないと思ったのか、当たった理由は分からない。でも、事実として犯罪神に攻撃が当たっている。初めは当てられなかった、当たっても殆どダメージにならない筈の攻撃すら全て避け切っていた犯罪神に、今はギリギリだけど届いている。……傷を負っているのは、わたし達だけじゃない。

 

(このままなら…このまま、戦えるなら……ッ!)

 

怯まず反撃として振るわれた双刃刀を、M.P.B.Lの腹で防御。敢えて耐えずに吹っ飛ばされて、それによる後退を画策。お姉ちゃん達が再び前進して犯罪神と相対してくれた事で、わたしは安全に次の行動へと移る事が出来た。

今の調子なら、押し切れる可能性はきっとある。その可能性を感じている。……そう、()()調()()()()()()()

 

「…お姉ちゃん!皆さん!」

『……!』

 

勝てる可能性と同時に感じるのは、後一歩で届かず終わる可能性。気持ちが折れる事はないけど、心から力がみなぎってくるけど…体力やシェアエナジーは無限じゃない。無理して絞り出して、それで戦闘続行が出来たとしても……1%でも今の勢いから欠けたら、その瞬間から戦線は瓦解する。わたし達の、敗北へと落ちていく。

だからわたしは声を上げた。声を上げて、視線で皆さんへ意思を伝える。……勝負を、決めようって。

 

「…そうだな。ならば……」

「だったら……」

「それなら……」

「でしたら……」

「──託したわよ、未来をッ!」

『……ッ!』

 

守護女神に代々伝わる奥義、ガーディアンフォース。或いはマジェコンヌさんとの最終決戦で勝負を決めた、五人での大技。それなら犯罪神を打ち倒せるとわたしは思っていた。……でも、お姉ちゃん達は更に速度を上げ、ここで残りの力全てを出し切るが如く犯罪神へと向かっていった。わたしに、わたし達に……決着を託して。

どくん、と鼓動が響いた。任された責務に、託された重圧に、ほんの一瞬身体が動かなくなる。けど……だとしても、それでもやらなきゃって感じる。やろうって思える。何より、今なら…ここまで積み重ねてきたわたし達なら……やれる、気がする…ッ!

 

「…たくされちゃったわね。でも、たくされたってことは…おねえちゃんたちは、わたしたちならやれると思ったってことでもあるのよねっ!」

「まぁ、そうね。……チャンスは一回きりよ。失敗すれば二度目は対応されるだろうし、アタシ達にももう余裕がない。…それでも、やれると思う?」

「大丈夫、やれるよ。一人一人じゃ無理でも…皆でなら!」

「やろう、みんなで…っ!」

 

地上に降り立ち、言葉を交わしたわたし達は深呼吸。全身に回した力を一度一点に集めて、心も身体もシェアエナジーも…わたしの全てを滾らせる。限界の限界まで、この先にある『決着』の為に。

 

「…勝負を決めようという事か。だが、そうは……」

「させてもらいますわッ!」

「余所見してんじゃ……ねぇッ!」

 

目の前で巻き起こるのは、最高峰の激突。わたし達に託してくれたお姉ちゃん達の、女神の輝き。

 

「ぐぅぅ……ッ!」

「マジェコンヌさん…っ!」

「……安心しろ、もう少しだけ耐えてみせる…!」

 

背後で巻き起こるのは、神の暴威に抗う戦い。わたし達を信じてくれた皆さんの、人の輝き。

 

(あぁ、そっか…そうだよね……わたし達の、力は……)

 

飛んできたマジェコンヌさんは、反射的に声を上げたわたしに小さな笑みを見せてくれて、それからまた巨体の犯罪神へと向かっていく。マジェコンヌさんも、きっと他の人もわたし達以上にボロボロだけど……聞こえてくる声には、まだ希望が籠っている。

感じる。わたしの、わたし達女神の力の源を。強く優しく温かい、心で感じるエネルギーを。

 

「わたし達は負けない。わたしは絶対に勝つ。…だよね、皆ッ!」

『(えぇ・うん)ッ!』

「じゃあ、いくよッ!」

 

溢れそうな程の力を胸に、言葉を発する。返ってくるのは、頼もしい友達の声。勝利だけを見据えた、女神の声。それすらもわたしは力に変えて、溜め続けた力を一気に解放しようとする。……けど、その時だった。

 

「──時は、満ちた」

『……ッ!?』

 

力を解放し、全力で地を蹴ろうとしたその時、突如犯罪神は飛び上がる。お姉ちゃん達の攻撃を振り切り、ギョウカイ墓場の上空へと飛ぶ。そして、次の瞬間犯罪神から発せられたのは……濃密過ぎる程の、負のシェアの奔流。

 

「貴様、まさか……ッ!」

「私達と斬り結びながら、力を溜めてたって言うの…!?」

 

犯罪神の前へと収束する闇色の光を前に、イリゼさんとノワールさんが唖然とした声を漏らす。

集まり輝きを増すのは、ギョウカイ墓場に満ちる負のシェアが霞む程に濃いシェアエナジー。それが犯罪神の全力を込めた一撃である事は、言うまでもない。そして、もしあれを喰らえば……そこでわたしは、終わる。

 

「不味い……ッ!皆、一度避けて…ッ!」

「そんなこと言ったって、もう間に合う訳……ッ!」

 

光の矛先と共に犯罪神が目を向けているのは、他でもないわたし達。咄嗟にわたしは回避を口にしたけど、内心で思っていたのはユニちゃんと同じ事。攻撃に意識の全てを向けて、身体も完全に攻撃へ傾けていた今は……どうやったって、間に合う訳がない。諦めるとか、可能性を捨てるとか、そういう事じゃなくて…それが現実なんだって、わたしの頭は理解してしまっていた。そして、滅びの光芒は……放たれる。

 

「負の奇跡を前に…滅ひゆけ。──破界の、導き…ッ!!」

 

全てを飲み込み、無に帰してしまいそうな、負のシェアの光。その後には虚無以外のあらゆるものが残らないような、闇色の奇跡。

…回避はもう無理。耐える事なんて、不可能もいいところ。物凄く勿体ないけど、凌ぐには溜めていた力を迎撃に使うしかない。……そう思っていた。そう感じていた。それしかないって、この時のわたしには見えていた。

 

 

 

 

──だけど、違った。わたし達には無理でも…誰にも無理な事なんかじゃなかった。

 

「これは、わたし達に……任せて頂戴ッ!」

 

空から落ちる闇の光の前に、割って入る五つの人影。それは、犯罪神を追って飛んでいたお姉ちゃん達の姿。お姉ちゃん達はわたし達を守るように立ちはだかって……光芒と、激突する。

 

『こッ…のぉぉおおおおおおッ!』

 

一点へと突き出されたお姉ちゃんの武器と、滅びの力の衝突。正のシェアで輝く刃と、負のシェアそのものの光芒が激突し、雷の様な衝撃が周囲に散る。光芒は、お姉ちゃん達の力が加わる一点を中心に広がって……まるでわたし達を避けるように、墓場の地面へと降り注いだ。

 

「貴様等……ッ!」

「やらせない……守護女神を…舐めるんじゃないわよッ!」

 

お姉ちゃん達の顔は見えない。けれど力強く言い放ったお姉ちゃんからは、光芒を前に一歩も引かない皆さんの背中からは、絶対に防ぐんだという意思が伝わってくる。守護女神の誇りが、覚悟が、願いが……わたし達を、守ってくれている。

 

「防ぎ切るなど、出来るものか…散れ、守護女神…ッ!」

『……っ…これは、これだけは…絶対に、通させない……ッ!』

 

脈打つように一層の猛威を振るう闇の光。それでも押し留めるお姉ちゃん達。衝突で散る光はどんどん強くなっていって、その光は大気が振動するような力すらも放ち始めて、輝いて、輝いて、輝いて…………そして、爆ぜる。

 

「ぐ……ッ!?」

『がは……ッ!』

『お、お(姉・ねえ)ちゃ……」

「……──ッ!構うなッ!行け……女神候補生ッ!」

『──っ!』

 

光芒が途切れ、動揺混じりの呻きを漏らす犯罪神。爆発に弾かれて、酷く抉れた地面を砕きながら叩き付けられるお姉ちゃん達。咄嗟にわたし達はお姉ちゃん達を呼ぼうと、お姉ちゃん達に駆け寄ろうと動きかけて……その瞬間、イリゼさんの声がわたし達を貫いた。…そうだ、わたし達が今するべきなのは、お姉ちゃん達の心配をする事じゃない…わたし達が、するべきなのは……

 

(繋いでくれたこの道で…未来を掴むッ!)

 

力の全てを解放し、わたし達は舞い上がる。先陣を切るのは、このわたし。翼を限界まで広げて、ただ一心に空を突っ切る。当然犯罪神も身体を立て直し、正面からわたしを迎え撃つ動きを見せてくるけど……それよりも早くわたしは肉薄。射撃の反動を使った加速も乗せて、横一文字で斬り付ける。

 

「次は……ユニちゃんッ!」

「えぇ、合わせるわよッ!」

 

斬り裂き、振り抜き、駆け抜ける。勢いそのままにわたしは脚を振り上げて、上下逆さまの状態で反転。M.P.B.Lの銃口を犯罪神に向けて、その先にいるユニちゃんと目を合わせて、二人同時に引き金を引く。

犯罪神は、負のシェアの障壁でどちらの射撃も防ごうとした。だけど今のわたし達の攻撃は、一つ一つが限界の先、更に向こうへ到達させた最高の攻撃。だから射撃は一発一発が障壁を砕いて、崩壊させて、犯罪神に喰らい付く。…お姉ちゃん達が、皆さんが作ってくれた時間で作り上げたこの攻撃は……そんな簡単に、防がれたりしない。

 

「この、力は……これ程の、力が…ッ!」

「……次はわたしたちだよ、ラムちゃん…!」

「うんっ!わたしたちの力……ぜんぶぶつけてやるわッ!」

 

何発も犯罪神に撃ち込んで、ここだと思った瞬間にわたしは次の行動へ移行。今以上の高度へと昇っていく中、下ではわたしとユニちゃんが撃ち込んでいる間に構築された二人の魔法が発動し、巨大な氷塊の中へ犯罪神を閉じ込め、幾つもの氷の杭が氷塊を貫いて、結合した二つの魔法が魔力の爆発を巻き起こす。

身体そのものは決して巨大ではない犯罪神相手には、過剰過ぎると思える程の青白い爆発。一つ一つが必殺級の、わたし達の攻撃。でも犯罪神は倒れない。倒れないし……だからわたし達の連携も、まだ終わらない。

 

「これは、さっきの光芒の……」

『おかえし(だよ・よ)ッ!』

「ぐぅぅぅぅ……ッ!守護女神ですらない者達のどこに、こんな力が…ッ!馬鹿な、ここまでの力を…持っていたと、言うのか……ッ!」

 

爆発の余韻を吹き飛ばす、斜め下方からの三重の光芒。トライアングルを描いたユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんによる、シェアエナジーの収束照射。それを双刃刀で受ける犯罪神の声には、もう余裕がない。

そのさまを目の端で捉えながら、わたしは飛ぶ。空を駆け、宙を舞い、締め括る一撃の為にシェアエナジーを集中。

飛んでいる間、わたしの心の中を巡るのはこれまでの記憶。楽しい事、悲しい事、嬉しい事、辛い事……色んな事があった、旅の思い出。その一つ一つが、わたしに力を与えてくれる。わたしの力になってくれる。未来へと繋がる、道導になってくれる。

 

「ふん、やっぱりこれじゃ片は付かないって訳ね……だからネプギア!最後は貴女に任せるわッ!しっかり決めなさいよねッ!」

「驕るな、女神候補生……確かに貴様等は我を追い詰めたのかもしれないが…女神一人、それも未熟者の力で倒される程我は……」

「それは……違いますッ!」

 

ユニちゃんの声に押されるように最後の上昇をかけて、わたしは犯罪神へ狙いを付ける。引き金に、指を掛ける。

その瞬間、聞こえた犯罪神の言葉。それは、この場面だけを見たら間違ってない。けれど、犯罪神は間違っている。だって、犯罪神を倒す力は…犯罪神を倒すのは……

 

「わたしの、わたし達の力はわたし達だけのものじゃありません!わたし達を信じてくれた全ての人の気持ちが、わたし達の力なんです!このシェアの輝きなんです!だから、貴方を倒すのは……わたし達、皆の思いですッ!」

 

 

『スペリオル……アンジェラスッ!!』

 

女神の力は、女神だけで得られるものじゃない。女神だけのものじゃない。皆の思いがわたし達の力で、わたし達の力は皆の思い。だから諦めずにいられる。だから尽きる事なく力が湧いてくる。だから、シェアの光は……こんなにも強く、輝いている。

そして放つ、力を持った思いの光。わたしのいる天空から負のシェアを祓うように、犯罪神へと突き進む。見上げる犯罪神へ、それでも矛を降ろさない犯罪神へ、伸びて、届いて……飲み込んだ。その、光の中に。

 

「やった……!」

「ネプギアちゃん、これなら…!」

「…ううん、まただよッ!本当の最後は……これでッ!」

 

集中させた力を出し切り、光芒が消えた時、そこに残っていたのは満身創痍の犯罪神。原形は留めていて、でも今にも崩れそうな悪意の神。

それを眼下に見る遥か上空のわたしは、反動で仰け反る右半身を起こすように左手を振るう。同時にその手へ顕現させたのは……能力を最大解放させた、ゲハバーン。

 

(お姉ちゃん、決着はわたしが付けるよ。皆に思いを託された、わたし自身がッ!)

 

暗く輝く、シェアを渇望するその力を全て刀身に集約させた神滅兵装を手に、残りの力を掻き集めて急降下。未来を見据えて、託された思いで未来を紡ぐ為に、犯罪神に向かって急降下。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……犯罪神。貴方が悪意によって生まれて、その悪意の導きで滅びの先導者となったのなら、わたしは貴方を恨みません。憎みません。だから、せめて──眠っていて下さい」

 

────わたしは左手を振り下ろし、ゲハバーンを振り下ろし……犯罪神を、斬り裂いた。




今回のパロディ解説

・「〜〜ダイナミック……」「エントリーッ!」
NARUTOシリーズの登場キャラの一人、マイト・ガイの技の一つのパロディ。知っている方もいると思いますが、現実にある人質救出作戦の方法の一つが本当の元ネタです。

・心も身体も〜〜滾らせる
RELEASE THE SPYCEの主人公、源モモの代名詞的な台詞の一つのパロディ。ラストバトルですからね。スパイス無しでも当然滾ります。

・更に向こうへ
僕のヒーローアカデミア全体における、代名詞的な言葉の一つの事。しかしラテン語での評価をしないと分かり辛いですね。これ単体だと意識しなくても出てきそうですし。

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