超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百四十五話 魂の居場所

インドア趣味全般に手を出すわたくしにとって、睡魔との戦いは慣れたもの。しかしそれは身体が自然に求める睡魔との戦いであって、外部からもたらされた毒や薬物による睡魔となると、わたくしであっても勝つのは困難な事。そもそもその類いが促すのは睡眠ではなく気絶である事もあるのだから、それは気力でどうこうの域を超えている。

けれどわたくしは女神。人が到達出来うる域を超越し、人とは基準を異にする存在。例え完全完璧な耐性までは持てずとも…人を基準とした分量の薬物であれば、耐え抜く事は……不可能ではない。

 

「……さて、取り敢えず動かないで頂けますかしら?大人しくするならわたくしも貴女を傷付けませんけど、もし暴れるつもりなのであれば、この腕には犠牲になってもらいますわ」

「…………」

「…その沈黙は、大人しくするという意味で宜しくて?」

 

エスーシャの片腕を背中側に捻り上げ、テーブルへと押し付けたわたくしは冷たい声音で言い放つ。対するエスーシャの表情は、数瞬前まで驚愕に包まれていて……今は、絶望の色に染まっていた。

 

「宜しいようですわね……ならば、これでもう痛くありませんわね?」

「……何故、緩める…」

「暴れる意思のない人間を、不要に痛め付けなければならない理由がありまして?」

「…甘いな、君は……」

 

締め上げる形から軽く拘束しているだけの状態に緩めると、エスーシャは酷く沈んだ声で問うてくる。それに表情を変えずに答え、エスーシャの反応を待ってみるも、返ってくるのは同じトーンの言葉のみ。

 

(…反転してしまいそうな精神状態ですわね…その場合、イーシャが表に出てくるのかしら……)

「……いつから、起きていたんだ…」

「いつからか、と言われればずっとですわ。起きていたというより、何とか意識を繋ぎ止めていたと言うべきですけれど」

「…そう、か…わたしの企みには、最初から気付いていたのか…?」

 

わたくしを見る事なく、虚ろな瞳で壁を眺めるエスーシャ。離してしまえばそのまま消えていってしまいそうな彼女に、普段の落ち着いた雰囲気は微塵もない。

 

「それは微妙なところですわね。少なくともはっきり分かっていた訳ではありませんわ。頭と心のどこかで変だとは感じていましたけど」

「…変……」

「えぇ。妙に声音に穏やかさが感じられたり、その一方で普段より物言いがはっきりしていなかったり。けれど、一番大きいのは……」

「…………」

「…貴女の口癖である、『興味ないね』が一度も出てこなかった事ですわ」

「……そう、いえば…一度も言っていなかったな……ふ、ふふ…ふふふふふ……」

 

たかが口癖、されど口癖。自然に出るもの、出てしまうものが出てこないという事は、不自然な何かが入り込んでいるという事。それを指摘すると、エスーシャの表情が少しだけ動き……それから突然、不気味な笑い声を漏らし始めた。

 

「…エスーシャ?」

「愚かだ…愚かだな、わたしは…勝手極まりない理由で殺そうとしただけでなく、それを勘付かれ、備えている相手に対してべらべらと語りかけるとは……どうやらわたしが思っていた以上に、わたしは愚劣な人間だったようだ…」

「…そうですわね。貴女は愚か者ですわ」

「ふっ……どうしようもない愚か者に、救いの道など存在しない…だが、一つ…一つだけ頼みがある…」

「…イーシャと、イーシャのものであるこの身体は傷付けないでくれ、とでも?」

 

絶望に打ちひしがれた、エスーシャの心。そんなエスーシャが、それでも求めるものがあるとすれば…そんなものは、考えるまでもない。

 

「あぁ…図々しい頼みだという事は分かっている。頼めるような立場にない事も自覚している。だが、それでも…それでもわたしは……」

「……残念ですけれど、それを聞き入れるつもりにはなれませんわ」

「……っ…!?」

 

虚ろだったエスーシャの瞳にじわりじわりと滲み出ていくのは、縋るような弱々しい光。……そんなエスーシャの姿は見たくなかった。そう思いながら、そしてもう一つの思いを抱きながら…わたくしは、ゆっくりと首を横に振る。その瞬間、彼女の表情は再び驚愕と絶望に染まる。

 

「そんな…じゃあ、彼女は…イーシャは……」

「…………」

「…悪くない…イーシャは何も悪くないんだ!自分を犠牲にしてでも他人を助けようとする、心の優しい子なんだ!分かっている、ベールがわたしを許せないのは分かっている!だからわたしには何をしたっていい!わたしの精神を壊しても、道具にしても、何かの実験のモルモットにしてくれても構わない!だが頼む、イーシャは…イーシャ、だけは……」

「…ならば、全て話しなさいな。わたくしもイーシャが悪いとは思ってませんし、貴女諸共始末しようなどとも思っていませんわ。けれど…いえ、だからこそ聞かずに結論を出す訳にはいきませんの。自分の友が、自分を殺そうとするまでに至った、その理由の全てを」

「それは……」

「…言って、下さいますわね?」

 

わたくしの知るエスーシャからはあまりにもかけ離れた、恥も外聞もないエスーシャの叫び。そこから伝わってくる、エスーシャの思い。それを聞き終えたわたくしは、静かに言葉を返した。

最初から、わたくしにイーシャをどうこうしようというつもりはない。けれど、ここでそのまま許してしまえば、エスーシャの思いを受け入れてしまえば、それは甘さになってしまう。わたくしは女神ならば、少し位甘くてもいいとは思っているものの……相手を駄目にしてしまう、得られたかもしれない幸せを逃してしまう甘さなどは、微塵もほしくはない。

 

「……分かった」

 

念押しのようにわたくしが訊くと、エスーシャは目を閉じて首肯。声音からそこに嘘偽りがない事を感じ取ったわたくしは……手を離す。

 

「…いいのか?手を放しても……」

「えぇ、こんな格好で話したくはありませんもの。それに、睡眠薬無しでわたくしを殺せるとでも?」

「…あってもあのざまだ、無いなら出来る訳がないな…」

 

女神化を解除しつつ、そう言って席に戻るわたくし。指摘されたエスーシャは力なく首を横に振り、同じように戻った後改めて視線をわたくしに向ける。わたくしもまたエスーシャの方を見て、わたくし達は向かい合う。

 

「……わたしが何故、こんな事をしようとしたのか。それは勿論、イーシャの為に他ならない。そして、今日こんな手段に出た理由は……脅されていたからだ」

「脅されていた…?」

「あぁ。このままでは、決着の如何に関わらずイーシャの精神が潰れてしまうと……マジック・ザ・ハードに言われたんだ」

「な……ッ!?」

 

そして、エスーシャは話し始めた。わたくしが、わたくし達女神がプラネタワーから離れられなくなっていた間に起きた、ある出来事の事を。

 

 

 

 

ある日、不意にマジックはエスーシャの前に現れたらしい。恐らくはプラネタワーや各国教会前に四天王が現れたのと同じ方法で、エスーシャに揺さぶりをかける為に。

 

「何故奴がイーシャの事を知っていたのかは分からない。もしかしたら、わたしの中に別の存在がいるという事までしか分かっていなかったのかもしれない。…正しくは、わたしの方が別の存在だが…な」

「…それで、わたくしを殺さねばイーシャの命はないと脅されたんですの?」

「いいや。…脅されたと言っても、奴がどうこうしてやると言った訳じゃない。奴はただ、伝えてきただけだ。肉体との繋がりをわたしがいる事によって失い、精神が留まっているだけも同然なイーシャは、負のシェアによって簡単に抹消されてしまうと。今もイーシャは、犯罪神の復活によって負のシェアの濃度が増しつつあるこの次元に蝕まれつつあると」

「それは……(あり得るのかしら…でも、ひょっとしたらそれは…本当にあり得てしまうのでは…?)」

 

自身が直接どうこうするのではなく、現状そのものがイーシャを殺すというのが、マジックの論。マジックが善意から忠告として言うなどある筈もなく、時期からして出任せという可能性もゼロではない。……が、シェアエナジーが人の精神に善かれ悪しかれ影響を及ぼすというのは、紛れも無い事実。今信次元に広がっている負のシェアにイーシャを害するだけの力があるのか、そもそもイーシャは影響を受け易い状態なのか、はっきりしない要素は多いものの…それ等も事実であるという可能性もまた、ゼロではない。となれば、その可能性が例え限りなくゼロに近かったとしても…エスーシャが必死になるのは、無理のない話。

 

「…イーシャの危機に関しては分かりましたわ。しかし、ならば何故わたくしを殺める事に繋がったんですの?」

「それも奴の言葉が理由だ。強靭な身体を持つ女神を器にすれば、不完全且つ強引な……それこそわたしの猿真似の様な魔法でも、わたしの精神を移せる見込みはあると言っていた」

「それは、わたくしが死んでいても移せるんでして?」

「死んだ状態は、謂わば魂の消えた抜け殻も同然。故に精神は移し易いとの事だ」

「……死体に精神を宿らせる…そんなネクロマンサーみたいな事まで出来るんですのね……」

「いいや、わたしが調べた限りそれは不可能だ。だが、強靭な…そして特異な存在である女神であれば、或いは……」

 

それもマジックの言った事なのか、エスーシャが独自に調べた事なのか。何れにせよ、これでやっと理由と経緯がはっきりとした。…それにもしかすると、死体に移すというのも好都合だと思っていたかもしれませんわね…ネクロマンサーの如くと言っても死を呼ぶ者さん並みの力をエスーシャが有している訳がありませんし、そうなれば……移った後すぐ、エスーシャはわたくしに言った通りに死ぬ事となるんですもの。

 

「…好きに罵ってくれていいさ、ベール。敵の言葉に踊らされて女神を殺めようとした、大馬鹿者だとな」

「貴女そればっかりですわね…まさか鉄拳ちゃんと同じ気があるんでして?」

「同じ気……?」

「…何でもありませんわ。それと、罵るつもりもありませんわ」

「罵る気にもならない、か……」

「そうではなくて……理由はどうあれ、手段はどうあれ、貴女は友達を助けたい一心だったのでしょう?わたくしを殺してでも、自分を殺してでも、イーシャを助けようとしたのでしょう?そこに怒りと悲しみを感じる事はあっても…貶そうなどという感情は、微塵も生まれはしませんわ」

 

見くびるな、とばかりに少しだけ視線を鋭くして、わたくしは言った。更に言えば、怒りと悲しみというのも、殺されそうになったという事象に対してではなくて……

 

「……あぁ、駄目だな…」

「……?」

「君を見ていると、君を殺そうとした自分がどんどん嫌になってくる…あの時からずっと、わたしはわたしが大嫌いだったというのに…嫌いという感情に底はないんだな……」

 

自嘲気味に…いや、自嘲の感情しかない顔で、エスーシャは笑う。…ここまでの事をしておいて普段通りの精神状態でしたら、流石に一喝入れてたでしょうけど…自虐的な気分になるのであれば、まだ落ちるところまでは落ちてないんですのね、エスーシャ。

 

「…わたしから話せる事は以上だ。後はこの話をどう判断しようと、わたしをどうしようと、わたしに異を唱える権利はない。…が……」

「どうかイーシャの事だけは、でしょう?…それでいいんですの?仮にわたくしが貴女を殺してイーシャを生かした場合、それで貴女は満足するんですの?」

「当然。わたしが死んでイーシャが生きるのなら、それが本望だ」

「…そう、ですのね……」

 

眉一つ動かさず、エスーシャは言い切った。それは自己犠牲の精神?……いいや違う。エスーシャはただ、自分自身を捨てているだけ。無価値どころかマイナスの存在である自分を犠牲にする事で、大切な友を生かせるのなら、そんな有益な事はない…きっとエスーシャはそう思っている。…あぁ、なんてそれは真っ直ぐで、真剣で……勝手な事か。

 

「……分かりましたわ。であればエスーシャ、今日は帰って下さいまし」

「帰る…?」

「わたくしには考えたい事も、やるべき事もあるのですわ。ですからわたくしが呼ぶまで、貴女は普段通りの生活をしなさいな。勿論監視は付けさせて頂きますけど、それは我慢して下さいな」

「我慢も何も、やった事からすれば軽いものだ。君がそう言うのなら、わたしはそれを甘んじて受け入れよう」

 

そう言ってエスーシャは立ち上がる。振り返り、出入り口である扉の方へ。

 

「…また今度ですわ、エスーシャ」

「…………」

 

立ち去ろうとする背中へ挨拶をかけるわたくし。その瞬間エスーシャはびくりと小さく肩を震わせ、一瞬だけ止まり、それから扉を開けて部屋を去る。わたくしの言葉への、返事は…ない。

 

「……はぁぁ…」

 

エスーシャが立ち去った数秒後、わたくしは深い溜め息を吐きつつ椅子からずり落ちる。流石に完全に落ちたりはしないものの、わたくしは大変行儀の悪い格好に変化。

 

「ちょ、ちょっとこれはヘビー過ぎる展開ですわ……」

 

姿勢を直す気分にもなれず、天井に向かってぼそりと呟く。エスーシャがいる間は余裕と落ち着きのある態度を保っていた…というか保てていたものの、いざ緊張が解けると途端に冷や汗が噴き出してくる。うぅ、睡眠薬からの殺人未遂といい、その理由といい、このシリーズは明るさと安心感を売りにしていたのではなくて…?

 

「…と、嘆いても何か変わる訳でもないですし……」

 

正直に言えば、数十分程現実逃避でもしたいところ。けれどわたくしには時間がない。腰を据えて一つずつ、安全に確実に…とするだけの時間が全くない。

わたくしは考える。わたくしに出来る事とすべき事を。それを実行する為に必要なものを。損益を、メリットデメリットを、理想と現実を。考えて、考慮して、そこに思いも組み込んで……一つの道を、選び出す。

 

「……やはり、これしか…いいえ、これが一番ですわね」

 

選んだのなら、次にすべきはその行動。わたくしは身体を持ち上げて座り直し、こくりと一つ頷いて携帯を取り出す。ある人物に電話をかけ、出るまでの間に少し心を落ち着けようと紅茶に手を……

 

「…っと、これは睡眠薬入りでしたわね……」

 

気付いたとはいえこんな事すら忘れてしまうなんて…と自分の余裕のなさに肩を竦める中、呼び出し音が停止。代わりにかけた相手である、ブランの声が聞こえてくる。

 

「…ベール、どうかしたの?」

「えぇ、大変どうかしてますわ」

「…それはヒーハーに対抗したギャグのアレンジか何かのつもり?」

 

クールに静かに突っ込んでくるブラン。…ブランといいエスーシャといい、基本がクール&静かな人は多重人格っぽくなる傾向があるのかしら…ブランは多重人格ではなく二面性と言うべきですし、エスーシャは本当に二人の人物が一つの身体にいる訳ですけど…。

 

「残念ながらギャグではなく、本当にどうかしてるのですわ」

「…どういう事?」

「それは言えませんわ。そしてその上で、わたくしは貴女に手を貸してほしいんですの」

 

助力を求めるなら、それ相応の説明をする事が当然の義務。誠意を見せずに協力してもらおうなどというのは、虫のいい話。実際わたくしも、つい先程エスーシャに全て話すよう言った。そのわたくしが言えないというのは…何ともまぁ、ズルいと思う。

けれどエスーシャの秘密を勝手に話すというのも、エスーシャに対して誠意のない行為。彼女がどんな事をしたとしても、不誠実になって良い理由にはならない。少なくとも、女神として不誠実な姿は見せられない。

話すも不誠実、話さぬも不誠実。であるならせめて、わたくしだけが駄目に思われる方がいい。

 

「どうしても言えないの?」

「申し訳ありませんわ、ブラン。図々しいとは分かっておりますけど……今言える事があるとすれば、それは友達の為という事のみですわ」

「……そう。なら…事が全て済んだら、話して頂戴。それと…そんなに大変な事なら、遠慮せず手を借りる事。それが条件よ」

「…えぇ、約束しますわ」

 

考え込むような数秒間の静かな時間が過ぎて、それからブランはわたくしの求めに応じる意思を示してくれた。このやり取りの中から、わたくしの事情を察したのか。自分が手を貸さなければ、信用に欠ける手段を選びかねないと思ったのか。…どちらにせよ、わたくしは応えなくてはならない。聞かないまま手を貸してくれようとしている、ブランの優しさに。

 

「だったら、早速どうしてほしいか言って。すぐに準備するわ」

 

クールで静かな、でも温かみの感じるブランの言葉。それにわたくしは頷いて……求める助力を、口にする。

 

 

 

 

エスーシャが教会を訪れてから五日経ち、一週間の内の六日となった。その日の昼も大分過ぎた頃、エスーシャ…それにスライヌマンとスライヌレディの三者は、再び教会へと訪れていた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

口を閉ざしたままの三者。理由は二つ。一つはこれからベールが下す審判に対する緊張であり…もう一つは、変貌したベールの部屋に対する困惑。

趣味嗜好全開だった彼女の部屋は、その日普段とはかけ離れた姿をしていた。床に書かれた魔法陣に、部屋の各所へ配置された魔導具らしき物の数々。最も緊張しているエスーシャですら、今からここで英霊召喚でも行うのか…などと思ってしまう程、今の彼女の部屋は異彩を放っていた。

 

「……さて、これで準備完了ですわね」

 

恐らくは魔導書であろう本を魔法陣の中心に置いたところで、三者同様無言を貫いていたベールが口を開く。ベールに視線で促され、エスーシャは彼女の目の前へ。

 

「…これは……」

「何なのかはすぐに分かりますわ。…エスーシャ、貴女はこれから何があろうと、口を挟まず邪魔をしない事。それが守られなければ……イーシャの命の保証はしませんわ」

「……っ…」

 

イーシャに纏わる事ならば、可能な限り不安を取り除きたい。そう思うエスーシャだったが、一瞬目を見開いた後ベールの言葉に首肯する。…理由は単純。彼女にとって一番大切なのは、イーシャの安全と幸せなのだから。

了解を得たベールは次に、視線を出入り口付近で待つヌマンとレディへ。貴女達も邪魔はするなという意図を理解した両者は頷き、ベールもまた頷き返す。

 

「…では、早速始めますわ。エスーシャ、わたくしの目を見て下さいまし」

 

そう言いながらベールは女神化。その事に不可解さを感じながらもエスーシャは澄んだ紫の瞳を見つめ、ベールはエスーシャを見つめ返し……静かに詠唱を始める。

 

「器に宿りし存在の核。実体なき存在の指針。名は魂、その意義は千差万別。されど魂とは架空に非ず。精神とは空想に非ず。その霊魂に、未だ存在としての形を刻んでいるならば、我が求めに応じ、我が魔力と信仰力を道標とし、我が身を器に顕現せよ!──ソウルトランス・リコネクション…ッ!」

(……何だ、この詠唱は…知らない、知らない筈なのに…何故か、自然と頭の中に入って……──ッ!?)

 

詠唱に呼応し輝き出す魔法陣と各所の魔導具。初めは詠唱の内容から魔法を推測しようとしていたエスーシャだったが、次第に意識がはっきりとしなくなり、されどその中でも詠唱だけは頭に響き、一層の不可解さを胸に抱く。……その次の瞬間だった。身体を内側から、中核から揺さぶられたかのような衝撃に襲われたのは。

 

「……っ!…な、何…が……」

 

激しい立ち眩みにも似た感覚に膝を突くエスーシャ。一瞬やってしまったと彼女は焦るが、視界の端には自分と同じく膝を…それも両膝を突き、両手を魔法陣へと付いたベールの姿が映っている。であれば失敗か、とエスーシャは思ったものの……すぐに彼女は違和感を覚え始めた。身体には一切変化がない。意識も記憶も今ははっきりしている。であるのに何故か何かが足りないような、大切な何かが抜け落ちてしまったかのような、不思議な感覚。

 

「…ベール、この魔法は一体……」

 

顔を上げつつ、エスーシャはベールに問う。口を挟むなというのは魔法の発動中であり、今は声を発しても問題ないだろうと思いながら。

ポニーテールを魔法陣に垂らした状態から、ゆっくりとエスーシャの目の前にいる女性は顔を上げる。そこにいる筈なのは、エスーシャのよく知る、この国の指導者であり守護者でもある、リーンボックスの守護女神。だが……

 

「え……?」

 

 

 

 

──顔を上げたベールの瞳は、ほんのりと深い緑の光を発していた。




今回のパロディ解説

・死を呼ぶ者さん
これはゾンビですか?シリーズのヒロインの一人、ユークリウッド・ヘルサイズの事。作中には他にも死を呼ぶ者がいますが…ネクロマンサーであれば、彼女一択ですね。

・ヒーハー(に対抗したギャグ)
お笑いコンビ、ブラックマヨネーズの小杉竜一さんのギャグ及び、同じく吉田敬さんのギャグの事。ベールは「どうかしてますわ」を流行らせたりは……しません。

・英霊召喚
Fateシリーズにおける、重要な召喚魔術の事。英霊召喚の詠唱をしたら、このシーンでサーヴァントが現れたりするかもしれませんね。……いや冗談ですよ?

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