超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
ルウィーでの生活は、概ね良好。逆に居心地の悪さを感じてしまう程には皆私によくしてくれて、特にディールちゃんエストちゃんはあれ以降もクエストに誘ってくれたり、何か不都合はないかと気にかけてくれた。…自分より小さい子に気にかけられる私って何だろう…ともちょっと思うけど、まぁ二人は見た目より精神年齢が高いからそれは別に『私が見た目程しっかりしてない』とかじゃない筈。……それに多分、同じ次元移動者としての気遣いもあったんだと思う。
…けど、勘違いしちゃいけないのは良好なのが『概ね』って事。快く思っていない…とまでは言わずとも、私に疑念を抱いていそうな相手も…いたりする。
「ディールちゃん、探してた本ってこれ?」
「あ…イリゼさん、どうしてこれを…?」
「だって昨日書庫にある筈なのに見つからないって言ってたでしょ?」
「確かに、話してる途中でそんな事は言いましたが…まさか、探してくれたんですか?」
「書庫に用事があったついでだよ、ついで。だから恩を感じなくても大丈夫だからね」
「…そんな事言って…でも、お礼を言う位はいいですよね?…ありがとうございます、イリゼさん」
私が渡した本(駄洒落じゃないよ?)を両手で受け取って、頬を緩めるディールちゃん。……癒されるよね、優しい笑みを浮かべてるディールちゃんって。
「…今、何かイリゼさんから邪な感情の波動が…」
「え…い、いやそんな感情抱いてないよ?うん抱いてない抱いてない。思いっきり健全だもん」
「…健全な、でも動揺する程度の感情は抱いてたんですね?」
「うっ……はい…」
「はぁ…まあ健全ならいいですけど。わたしもイリゼさんに『この人ほんと弄り甲斐があるなぁ…』とか思ったりしますし」
「うん…うん?え、それはちょっと聞き捨てならないんだけど?」
「じゃあ、わたしは早速これを読みたいのでこの辺で」
「ちょっと!?そんな雑な誤魔化しで逃げるつもり!?ねぇちょっと!?」
しれっと出てきた失礼なカミングアウトを私は追求しようとするも、ディールちゃんは背を向けどんどん廊下を歩いて行ってしまう。…うぅ、ディールちゃんってば酷い…って、え?今までそういう感情持たれてた事に気付いてなかったのかって?……わ、分かってても言われたら素直には飲み込めないものなの!
「…はぁ…言われっ放しは嫌だけど、ディールちゃんもエストちゃんも小さいからあんまり毒のある弄りはし辛いんだよなぁ……って、ん…?」
ディールちゃんが去った事で無人となった、前方の廊下。ネプテューヌ達やコンパ、アイエフ達なんかには多少棘のある弄りも出来るけど、あの二人(とロムちゃんラムちゃん)にはどうも躊躇いの感情が生まれてしまう。勿論こっちの気分次第で躊躇いの度合いは変わるんだけど……なんて軽く肩を落としつつ考えていたところ、私は誰かからの視線を感じた。…で、振り返ってみると……
「…じー……」
「……(じー)」
…曲がり角に隠れて、ロムちゃんとラムちゃんが私を見ていた。
「…えっと、何かな…?」
「…別にー」
「なんでも、ないよ…?」
「ほんとに?」
『…………』
角に身体の大部分を隠したまま、素っ気ない態度を取る二人。…これはどう考えてもなんでもない時の反応じゃない。というか、なんでもないなら普通こんな事はしない。
「…私に何かついてる?」
「…悪霊」
「悪霊!?悪霊憑いてるの!?」
「ふぇぇ!?あ、悪霊…いるの…!?(びくびく)」
「あっ…ご、ごめんねロムちゃん!悪霊は…えっと、わたしの見間違いだったわ!」
ラムちゃんが更なる私の問いにキツい返しをしてくるも、その返しはロムちゃんにも衝撃が入っていた。…信次元でも似たようなやり取りあったなぁ…。
「そ、そっか…よかった…」
「ラムちゃん…攻撃する時は範囲内に味方がいないか確認しなきゃ駄目だよ…」
「う、うっさい!そーゆー話じゃないの!」
「じゃあ、どういう話?」
予想外の返しに驚いた私だけど、それは返しのチョイスにであって本気で取り憑かれたと思っていた訳じゃない。そしてラムちゃんの言葉に乗じて再度訊いてみると…自分で「そういう話じゃない」と言った手前か、今度は違う反応が返ってくる。
「…ディールちゃんとお絵かきしようと思ってたけど…ディールちゃんがご本読むなら誘えないから、代わりに一緒に遊んであげるわ!」
「…あー…えっ、と……(凄い支離滅裂な…要求?…が来た…。…けど……)」
「何よ、文句あるの?」
「…いや、いいよ。お絵かきしようか」
びしり、と要求を突き付けられた私は再び戸惑うも、一拍置いてその言葉に了承。理由は…ラムちゃんの言葉の裏に、『ディールちゃんの代わり』以上の意味合いがあるように思えたから。
ロムちゃんラムちゃんの後に着いていく形で、二人の部屋へと移動した私。部屋に入ってみると…内装は結構信次元の二人と似通っていた。…性格がほぼ同じなんだから、そりゃそうだって話ではあるけど。
「ねぇねぇロムちゃん、今日は何かく?」
「んと…うさぎさんとか、くまさんとか…?」
「あ、いいかも。じゃあそれにしよー!」
取り敢えず部屋の一角に私が座ると、二人は画用紙を床に置いて早速お絵かきを開始する。
…………。
「……わ、私もしてもいいのかな…?」
「勝手にどーぞ」
「う、うん…描くにはどれ使えばいい?」
勝手にどうぞと言われても、どこに何があるのか分からないんじゃどうしようもない。そう思って訊くと…今度はロムちゃんが反応してくれた。
「…どれ、使いたい…?」
「わ、色々あるね…」
「うん…クレヨンと、色鉛筆と、カラーペンと……もくたん」
「木炭!?な、中々本格的な物使うね…」
「でも、使うと手がまっくろになっちゃうから…あんまり使わないの…」
ロムちゃんがテーブルに並べてくれた画材の中から木炭…ではなく色鉛筆を選び、私も二人からちょっと離れた所でお絵かきスタート。……は、したものの…。
(…別に私、絵を描きたかった訳じゃないしなぁ…うーん、絵描き歌で何か書いてみる?…某名前に『カス』が付いてる消しゴムとか…)
遊びなんだから真剣に考える必要はないと思うものの、目的も無しに絵を描くというのは結構難しいもの。絵が上手なら二人を描いてあげるのも面白そうだけど…私はそうじゃないから(っていうか絵を描く経験なんて殆どない)なぁ…。
「ふんふんふ〜ん。うさぎさんの目って、赤かったよね?」
「うん、そうだよ」
「それで、お口はばってんだっけ?」
「えっと…多分、そう…」
一方二人はと言えば、可愛らしい動物をお絵かき中。床にぺたんと座って、クレヨンを持って、上手く描こうというより思いのままに描こうとしている二人は……って、
「……あ…ねぇ、ラムちゃん…もしかしてこれって、私に金色のサカナを描いてほしかったり…?」
「……?なんで?」
「…だ、だよね〜…はは、あれはエストちゃんの冗談だもんね…」
『…………』
ふと思い付いた事を口にしてみるも、二人に変な目で見られただけという残念な結果に。その後二人は絵を描く事に熱中し、私も私で熱中している二人に喋りかけるのは悪いかなと思い、それぞれの活動に入る事数十分。やっと私も描きたいものが思い付いて、それに集中しつつあった時……二人の方から、私へ対する声が聞こえてくる。
「……ねぇ、ちょっと」
「……?…あ、私?」
「…なんでちょっとしか一緒にいなかったのに、あんなにディールちゃんと仲良いのよ…」
声に反応して画用紙から顔を上げると、いつの間にか二人共私の方を向いていた。ロムちゃんは私の心を探っているような瞳で、ラムちゃんはどこか不機嫌そうな顔をして。
「……もしかして、それを訊きたくて私を誘ったの?」
「…いいから、答えてよ」
「…うーん…なんでって言われても、上手く説明は出来ないかな…同じ目的があって、その為に協力関係となったのが切っ掛けではあるけど…」
最初はお互い精神的な余裕がなくて敵対しちゃったけど、敵対するような相手じゃないって分かって、迷宮脱出の為に協力するようになって、その中で段々仲良くなった…そんな風に言えば説明にはなるけど、これは経緯の説明であってラムちゃんの求める答えじゃない。ラムちゃんが求めているのは、もっと納得出来るような理由で…でも、それは凄く難しい問い。
「…二人とディールちゃんとは、私と同じように公園で出会ったんだっけ?」
「え…?…どうして、知ってるの…?」
「詳しくじゃないけど、前に会った時にお互いの事を話してね。その時知ったんだよ」
そういえば最初の日にはそこを言ってなかったなと思い、さらっと触れる私。でもこれは本題じゃないから、あまり深くは掘り下げない。
「ディールちゃんと二人との出会いはそれで、そこから一緒にいるうちに仲良くなった…そうだよね?」
「…まぁ、そうだけど」
「じゃあ、二人はどうして仲良いのか言える?」
「え?そんなの……」
難しい理由を伝えるには、理論立てて説明するより実際に体験してもらう方が早い。…そう思って、同じ質問を返す流れに誘導した私だったけど……
「ディールちゃんがいい子で一緒にいると楽しいからに決まってるじゃない」
「わたしも、ラムちゃんと同じ。ディールちゃんとは、仲良くなりたいって…思ったから…」
──二人はいとも簡単に、私の質問に答えを出した。何を当たり前の事を…とでも言いそうな位、迷いなく答えてくれた。……あぁ、そっか…そう言えばよかったのか…。
「……私も、同じだよ。ディールちゃんは何度も私を助けてくれた凄く良い子で、落ち着いてるけど時々子供っぽかったり、かと思えば妙に大人びてたりして一緒にいるだけでも楽しい…そんな子だったから、私もディールちゃんと仲良くなりたいと思って、仲良くなったの」
「ふーん…わたし達の言葉をマネしたんじゃないでしょうね?」
「そんな事はないよ。…でも、先に答えたのは二人だし…仲良しのレベルじゃ私が負けかな」
「……!…そ、そんなの当たり前でしょ!あんた…えっと、イリゼ…だっけ?…より、わたしとロムちゃんの方がディールちゃんと仲良しに決まってるじゃない!ね、ロムちゃん!」
「う、うん…わたし達の方が、仲良しだもん(こくこく)」
仲が良い理由なんて言葉じゃ上手く表せないと思ったけど…本当は、少し違った。合っているかどうかは分からないけど、ちゃんと言葉に表せるものもあって…それを迷いなく言えた二人は、本当にディールちゃんと仲が良いんだと思う。そう思ったから、私は少し惜しさを込めた笑みを浮かべつつ負けを認めて…それを見た二人は、どこか嬉しそうにしながら改めて仲が良いんだと私に伝えてきた。……でも…
(…仲良しさの度合いじゃ負けてても、大切な友達だって思ってる心は…負けてるなんて、欠片も思ってなんかいないんだからね)
……なんて、気付けば大人気ない事を私は心の中で呟いていた。
「…ええっと…ラムちゃん、満足した?」
「む…なんで上から目線なのよ!そんな事言うならお絵かきさせてあげないわよ!」
「あはは、ごめんごめん。もうちょっとで完成するから、それまでは描かせてよ」
「…あの…わたしもききたい事…ある…」
「…ロムちゃんも?」
私に対して態度を軟化…はしてないけど、少しだけ好転させてくれた(気のする)ラムちゃん。それで私も一安心して、書きかけの絵へ…と思っていたら、今度はロムちゃんがおずおずと声をかけてきた。それを受けて私が訊き返してみると……
「…エストちゃんは?エストちゃんとは、ディールちゃんよりちょっとしか会ってないのに…どうして…?」
「あ……そ、そうだね…今はディールちゃんの話しかしてないもんね…(これ、同じ回答で良いのかな…?)」
ディールちゃんとエストちゃんで経緯は違うけど、仲良くなりたいと思って、仲良くなった事には変わりない。…という訳で、ロムちゃん…それにまだ絵には戻らず話を聞いてるラムちゃんに向けて、表面的な部分だけを変えた実質焼き直しの回答を口にする私だった。…ラムちゃんがディールちゃんの、ロムちゃんがエストちゃんの事を訊いたのは、何か理由があるのかな?…あ、でも単にさっき私がディールちゃんといたからまずディールちゃんの事が出て、それが終わったから今度はエストちゃんの…って可能性もあるか…。
(…にしても、これは私そのものじゃなくて『二人と仲の良い』私に訊きたい事があったって感じだなぁ…子供って、無自覚に残酷だ…)
「…エストちゃんとも、イリゼさんより…わたし達の方が、仲良しだからね…?(びしっ)」
「そうそう。あんたはえーえんの二番手…じゃなくて、ロムちゃんがいるから三番手…でもなくて、ディールちゃんにはエスト、エストにはディールちゃんがいて、お姉ちゃんとかもいるから…えーっと、多分四十八手位よ四十八手!」
「ず、随分私は下の方…って番が抜けてる番が抜けてる!番を忘れたら全然違う意味になっちゃうし、それをラムちゃんが言うのは非常に宜しくないからね!?」
「……?そうなの?」
「そうなの!ちょっと詳しくは言えないけど、今後は絶対間違えないように!いいね!?」
「う…わかったわよもう…よくわかんないけど…」
勘違いとしてもボケとしてもあるまじき発言に気付いた私は、それはもう全力で間違いの訂正を行った。ラムちゃんの明るい未来を守る為に。そしてまかり間違ってこの発言がブラン辺りの耳に届き、私がぼっこぼこにされる危険を避ける為に。…で、ラムちゃんはと言えば…流石に私の気迫が通じたのか、一応は分かってくれたみたいだった。……よかった…。
「ふぅ……さってと、後は尻尾を塗って…出来たっ!」
「…何、かいたの……?」
「ふふっ、見てみる?」
そうして話は終わり、私は絵を完成させる。一度調子に乗ってしまえばお絵かきというのも面白いもので、完成した瞬間の私は達成感に包まれていた。そんな時にロムちゃんから問いかけられた訳だから……当然私は、微笑みながら絵を公開する。
「…………」
「…………」
「どう?可愛いでしょ?」
『…スライヌ……?』
「うん。スライヌのライヌちゃんだよ」
色鉛筆で描いたのは、私の部屋の同居人ならぬ同居モンスターであるライヌちゃん。立体を意識して描いた紙の上のライヌちゃんは、本物程じゃないけど満足が出来る位には可愛くて、ライヌちゃんの可愛さを上手く表現出来たと思える絵だから、きっと二人も……
「……へんなの」
「なの(ぽかん)」
「えっ……?」
──私にとっては可愛い可愛いライヌちゃんでも、知らない人からすればただのスライヌで、それを嬉々として見せる私は変な女神。…考えてみれば当たり前な事を、二人に気付かされる私だった。
*
信次元にいるイストワールさんとの連絡が付いた。…その報告がプラネテューヌから来たのは、唐突な事だった。
「いーすんさーん。イリゼさん達を連れてきましたよ」
前回と同じ方法でプラネテューヌに来た私達は、出迎えてくれたネプギアと共に会議室へ。はやる気持ちを抑えてネプギアに着いていった私は、この扉の先にあるものに思いを馳せて期待と緊張の真っ只中。そんな中でネプギアが扉を開き、開かれた先で広がっていたのは……
「さっすがわたし!マジックをネプギアと二人で倒しちゃうなんて、同じネプテューヌとして鼻が高いよ!」
「でしょでしょ〜?でもそういうわたしだって凄いよ!だってわたし達はずーっと戦ってて、守護女神同士仲良くなるまで物凄い時間がかかったんだもん!…まぁ、わたしはその記憶がないんだけどね!」
……こっちのネプテューヌと信次元のネプテューヌが上機嫌で互いを褒め合うという、何とも言えない状況だった。
「…えぇー……」
「あ、イリゼ!良かったぁ、無事だったんだね!」
「良かったぁって…今思いっきり別次元の自分と盛り上がってたよね…?」
「うっ…いやー、それはほら…既にイリゼは元気だって聞いてたから、ね…?」
半眼の私に気付いたネプテューヌは、頬をかきつつ言い訳を展開。その言い訳は理解出来ないでもないし、私だって別次元の自分と出会う機会があったらそりゃ興味津々になると思うけど…なんか、凄いもやっとする…。
「…まあ、いいや。それより急にいなくなっちゃってごめんね…って、うん…?」
思うところはあるものの、それより今は連絡が取れた事を喜びたいし、不在にしてしまった事を謝りたい。そう思って改めて見回したところで…二つの事に気付いた。
「あー、もしかして私の事ですかー?」
「あ、はい。…イストワールさん、じゃないですよね?イストワールさんはここにいますし…」
「そういえば、おねーさんは初対面だったわね」
一つ目は、この場にいるイストワールさんらしき人の存在。見た目(というかサイズ)も雰囲気も似ていて、でもイストワールさんは信次元のネプテューヌとここまで苦笑いをしていたネプギアの映るモニター的な物の近くにいるから、彼女がイメチェンしたとかでは間違いなくない。で、私の視線に気付いたイストワールさん似の人が反応し…説明してくれる気なのか、エストちゃんがひょいと私の前に出てきた。
「あいつはグリモワールよ。グリモワールはおねーさんも知ってるでしょ?」
「うん。ディールちゃんが持ってた本の事だよね?…でも…」
「あの見た目は何なのかって?それは「いーすんも封印されてた時は本のみの状態だったでしょ!きっとそんな感じだよ!」…せ、台詞取られ「下手するとわたしの登場はここだけかもしれないからねっ!」……はぁ…」
「うん、気を落とさないでエスちゃん。イリゼさんはきっと説明しようとしてくれた事を感謝してると思うから…」
一度の台詞の中でまさか二度も横槍を入れられるとは思ってなかったのか、ちょっと凹むエストちゃん。そんなエストちゃんを、ディールちゃんが慰めていた。…第三話でもそうだったけど、出番が関わる時のネプテューヌはエネルギー凄いなぁ…。
「まぁ、細かいところはともかくそんな感じですねー。…ふむふむ……」
「…な、何です…?」
「いえ、少し気になっただけですよ。…貴女も中々、特殊な存在のようですから」
「そ、そうですか。…ところでネプテューヌ、ネプギア。イストワールさん…そっちにいる方のイストワールさんはいないの?」
一応は彼女…グリモワールさんが何者なのか分かったところで、彼女が私の方へとやってくる。それからグリモワールさんは興味深そうな顔で私を見つめて…それから満足した様子で、元いた場所へと戻っていった。
それを見送った(ちょっと移動しただけだけど)私は、二つ目の気付きを口にする。だってこちらのイストワールさんが信次元のイストワールさんを手掛かりに連絡を取っていたんだから、ここにいないのは変だよね。
「あぁ、いますよ。…わたしの後ろに」
「…ネプギアの後ろに?」
「はい。何でも合わせる顔がないとかで、イリゼさん達が入ってきた瞬間わたしの後ろに…」
「もー、らしくないよいーすん。ほら、折角イリゼが見つかったんだから出て出て!」
「わわっ!?ひ、引っ張らないで下さいっ!Σ(>□<;)」
『あ、顔文字……』
ネプギアに所在を言われて凝視すると、確かにネプギアの背後からは本の端っこらしき物が見えている。でも合わせる顔がないなんて…と思っていると、後ろに回ったネプテューヌがイストワールさんを引っ張り出していた。ディールちゃんとエストちゃんが顔文字に反応する中、つんのめりながら登場するイストワールさん。
「も、もう!危ないじゃないですか!……あっ…」
「え、えーと……」
「……も、申し訳ありませんイリゼさん…わたしが軽率だったせいで、道具を使っても満足に開かない無能だったせいで、イリゼさんを大変な目に……」
私と目の合ったイストワールさんは、まず硬直。それからみるみる表情が変わっていって、深く頭を下げてきた。…そのあまりにも気落ちした雰囲気に、そこそこ陽気だった空気が冷えてしまう。
「え、い、いや…そんな気にする事はないですよイストワールさん!あの場で軽率だったのは私の方ですし、私はご覧の通り無事なんですから!」
「それは結果論です。幸いこちらと似た環境の次元…それも知り合いのいる所に飛んだから良かったものの、運が悪ければ……」
『…………』
運が悪ければ…その言葉の先は言わなかったものの、誰だって言わんとしてる事は想像出来る。私にあり得たかもしれない危険も……その時の、イストワールさんの気持ちも。
二人のネプギアは勿論、ネプテューヌやこちらのイストワールさんも気不味そうな顔をしていて、グリモワールさんも口を挟むべきじゃないと思っているかのような表情を浮かべている。私も私で、こんなに罪の意識に苛まれているイストワールさんへなんて声をかければ元気にしてあげられるか分からなくて……そんな時、私の横から声が聞こえた。
「…一つだけ、いいですか?」
「…なん、でしょう…」
「貴女の言う結果論というのは分かります。…でも…イリゼさんは、こちらへ来てから一度も貴女を悪く言うような言葉は口にしていませんよ?」
「……っ…」
声を出したのは、真っ直ぐにイストワールさんを見るディールちゃん。言い終えたディールちゃんは「ですよね?」と私に視線を送ってきて…そこにエストちゃんが続く。
「そうそう、むしろわたし達と再会出来て大喜びだったしねー。そうでしょ、おねーさん」
「…それは、まぁ…自分から言うのは恥ずかしいけど、二人と再会出来たのは本当に嬉しかったよ…って、にやにやしないでよエストちゃん!?」
「…らしいですよ、イストワールさん。結果オーライなんだから気にする必要はない…とは言いませんけど、大切なのはイリゼさんがどう思っているかじゃないでしょうか。…すみません、初対面の癖にこんな事言って」
「い、いえ…そう言って下さるのはありがたいです。……じゃあ、その…イリゼさん…」
最後にディールちゃんは謝って、私に前に出るよう目で合図。それを受けた私が一歩前に出ると、イストワールさんは不安の籠った瞳で私を見つめている。
……まさか、イストワールさんに…私にとっては実質的な姉ともいえる相手に、そんな顔をされるとは思っても見なかった。…でも、これは二人がわざわざお膳立てしてくれた場面。だから私は小さく肩を竦めて……言う。
「…私は怒ってなんかいませんよ、イストワールさん。だから、そんなに自分を責めないで下さい。…イストワールさんには、いつものイストワールさんでいてもらえる事の方が、私は嬉しいですから」
「…イリゼさん……」
「そうそう。…あっ、そうだイリゼ!いーすんってばね、あれから物凄く取り乱してたんだよ?一生かけてでもイリゼを見つけるとか言って次元超えようとするし、わたしに迷惑をかけられないからって後任の教祖候補を挙げようとしてくるし、もうわたしもびっくりだったよ」
「ちょっ、な、なんで言うんですかネプテューヌさん!?」
「後任の教祖って…あ、貴女止める気だったんですか…」
「そ、そちらのわたしも食い付かないで下さい!し、仕方ないじゃないですか!わたしはイリゼさんが信次元ではないどこかに飛ばされた以上の事は分からなかったんですから!」
ただ思っていた事を口にしたのか、それとも今度は私へ過剰な感謝をイストワールさんが口にしそうなのを察したのか、ネプテューヌが大暴露。しかもそれにこちらのイストワールさんが反応した事で、イストワールさんはわたわたと慌てる事に。…けれどそのおかげで、重くなっていた空気は無事元の和やかなものへと戻っていった。
「あはは…そこまで私を心配してくれてたんですね」
「うぅ…もう触れないで下さい…(ノ_<)」
「やっぱりそちらのいーすんさんって、こっちのいーすんさんと雰囲気違うんですね…」
「だねー。…あ、そうだぐりもん!ぐりもんの力でイリゼを帰してあげる事は出来るの?その為にこっちに来たんでしょ?」
「おっと、それを話すのがまだでしたね」
一頻り話したところで、思い出したようにこちらのネプテューヌが気になる言葉を口に。そうなの?…と思って再びグリモワールさんへと視線を向けると、グリモワールさんもまた思い出したような顔でネプテューヌの言葉に首肯した。
「えー……残念ながら、私はご期待に応える事が出来ません。…でも、二人が次元を繋げる準備を進めれば、三日…で出来るかどうかは微妙でも、三週間あれば確実に帰してあげる事が出来る。そうですよねぇ?」
「えぇ。というか、三週間も要らないと思いますよ」
「はい。一日でも早く繋げられるよう、全力を尽くします…!( ̄^ ̄)ゞ」
「ですって。それと…代わりと言ってはなんですが、信次元から今の接続経路を利用して貴女にシェアエネルギー…いえ、そちらの言葉ではシェアエナジーですね。…が流れるようにしてみます。もう少し待って頂ければ、女神化出来るようになると思いますよー」
「皆さん…ありがとうございます!三週間でも帰れるなら安心ですし、女神化出来るだけでも大助かりですよ!ほんと、ありがとうございます!」
こちらでの生活も悪くないとはいえ、やっぱり私の居場所は信次元で、女神の力は私の大切なアイデンティティの一つ。一度は事実上の喪失をしてしまったからこそ、もう無くしたくはないと思うもの。…だから、帰る目処が立ったのも、女神化出来るというのも、私にとっては凄く嬉しい事だった。
それから重要な話は済んだという事で、別次元の同一人物(イストワールさんの場合はちょっと違うけど)と対面した三組六名が会話の中心に。グリモワールさんは先程言った私へのシェア配給路を繋いでくれてるみたいで、私達三人は部屋の椅子へと腰をかける。
「おねーさん、いいの?ほんとは向こうのネプギア達と話したいんじゃない?」
「まぁ、ね。でもいいよ。三人の顔を見られただけでも、私はほっとしたから。それに、この瞬間を逃したら帰るまで話せない…って事でもないでしょ?」
「まあ、多分そうですね」
皆を眺めながら、私達は話す。…実を言うと、三人の姿を見た瞬間ちょっぴりある感情…ホームシック、って言うのかな?…に駆られたけど、今ここにいる事が嫌な訳じゃない。…二人に再会出来て嬉しかったのは、紛れもない事実なんだから。
「にしても、ただ同意するだけじゃなく自分で改めて言うなんて、そんなにわたし達と再会出来たのが嬉しかった?」
「む、蒸し返さないでよその話を…ほんとに恥ずかしかったんだから…」
「知ってる知ってる。…でも、ああ言ってくれたらわたし達も嬉しいよねー、ディーちゃん」
「へ?…な、なんでわたしにここで……」
私を弄ると思いきや、今度は視線をディールちゃんに向けるエストちゃん。その言葉を受けて動揺する姿を見ると、エストちゃんはにやりと悪戯っぽい笑みに。
「なんでって、ディーちゃんも関わる話じゃない。嬉しかったよね?ディーちゃん」
「べ、別にわたしは……」
「あれ?嬉しくなかったの?もしかしてそもそも、そんなに再会したくなかったり?」
「え……?…そう、だったの…?」
ディールちゃんが受けた言葉を否定気味に返しつつそっぽを向くと、エストちゃんは更に笑みを深めて彼女へ追求。その文言の中には、私としても「えっ?」と思うものがあったし、実際その旨の言葉を発したけど…目を逸らしているディールちゃんと違って、私は気付いていた。エストちゃんが、私へ含みを持たせた視線を向けている事に。
「そ、そうは言ってないじゃん…!イリゼさんもショック受けないで下さい…!」
「なら言ってあげなきゃ。言わなきゃ伝わらないものよ?」
「うっ……わ、分かったよもう…わたしも嬉しかった、嬉しかったですイリゼさん。…ほ、ほら…これでいいでしょ…?」
「だってー。よかったわね、おねーさん」
「うんうん。嬉しいなぁ、ディールちゃん」
「……!ま、まさか……」
『……にやり』
「〜〜〜〜っ!ふ、二人の…馬鹿ぁっ!」
顔を赤らめ恥ずかしそうに呟くディールちゃん。それを見た、それを聞いた私とディールちゃんは顔を見合わせて……それから二人して、ディールちゃんへと茶目っ気たっぷりの笑顔を見せてあげた。…その瞬間のディールちゃんの驚きに包まれた顔、そしてその後引っかかった事に気付いて真っ赤になった顔は、眼福ものだったなぁ。
今にも魔法を撃ち込んできそうなディールちゃんから、私とエストちゃんは揃って逃走。正直捕まったらヤバそうな気もするけど…やっぱりここに飛ばされたのは、あの事故は、私にとっては不幸じゃない。……そう心に強く思いながら、頬を緩ませエストちゃんと共に逃げる私だった。
今回のパロディ解説
・某名前に『カス』が付いてる消しゴム
ケシカスくんの主人公、ケシカスの事。彼(?)の絵描き歌って、実際あるんですよね。書いている途中ではとそれを思い出し、懐かしさを感じた私でした。
・金色のサカナ
色づく世界の明日からにおいて登場する、物語のキーの一つである絵の事。ラムは色の認識が出来なくなってたり、家族の事で落ち込んでたりはしないのでご安心を。
・紙の上のライヌちゃん
ジブリ作品の一つ、崖の上のポニョのパロディ。意識してやったのではなく、書いてから気付いたタイプのパロディです。パロネタと言えるかは微妙なラインかもですね。