超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百三十八話 決着は付けども

切り札を使う前に、或いは使われても突破出来るように、こちらから勝負を決めにかかる。失敗すれば切り札を正面から受けてしまうような策を取るのは、それが女神の戦いだから。…お姉ちゃんは、そう言った。

本当にお姉ちゃんは格好良い。それを何の躊躇いなく言える事が、格好良くてしょうがない。……そんなお姉ちゃんが、今…わたしを仲間として信頼してくれてる。わたしの腕を、実力を信頼して、隣を任せてくれている。それだけでわたしは、幾らでも勇気が湧いてくる。

でも…わたしの戦う理由は、それだけじゃない。わたしだって女神で、大切な人達を、自分の国民を守りたいって気持ちが、わたしに力をくれている。だから、わたしは……お姉ちゃんの妹としての気持ちを胸に、女神パープルシスターの務めを…果たす。

 

「正面から、貫く…ッ!」

 

お姉ちゃんの剣撃を凌いだマジックへ向けて、一直線に突進をかける。大鎌を振り抜いた後のマジックは左手を掲げ、障壁で防御。でも防御される事が分かっていたわたしはM.P.B.Lの引き金に指をかけて、障壁に向かって光弾を発砲。刺突をかければ砲口が同軸になって容易に追撃をかけられるのが、銃剣の利点の一つ。

 

「その程度で破ろうなどと…ッ!」

「いいえ、貫けます…いや、貫きますッ!」

 

引き金は引いたまま、翼を広げて力を込める。確かにマジックの障壁は一瞬で展開したとは思えない強度。でも、それはあくまで一瞬にしてはというだけの話。一点に刺突と射撃を集中すれば、突破出来ない道理は……ないッ!

 

「何だと…!?……だが…!」

 

亀裂が入った次の瞬間、刺突した部位を起点に砕ける障壁。けれどその時にはもう大鎌が間に合っていて、逸らされた刺突は明後日の方向に。でも…そこで飛び込んできたのは、わたしが仕掛けている間に助走をつけていたお姉ちゃん。

 

「挟み込むわよッ!」

「うんッ!」

 

飛び込んだお姉ちゃんはそのまま袈裟懸けを、わたしは身体を回して横薙ぎをそれぞれマジックに向けて放ち、正面と斜め後方から刃で挟み込む。変な方向に逸らされなかった事もあって、挟撃のタイミングはバッチリだったけど……上昇をかけたマジックによって、間一髪避けられてしまった。

 

「これ、他の四天王だったら多分当たってたわね…」

「かもね、でもその場合別のところで『マジックだったら…』って思う事があるんじゃないか、なッ!」

 

当然戦闘中にゆっくり話してる余裕なんてなくて、上から撃ち込まれた魔弾を散開する事で避けるわたし達。それを放ったマジックの目は…まだ微塵も死んではいない。

 

「…舐められたものだな、このまま我を倒そうとするなど……ッ!」

「舐めてはいません、わたし達は最初から本気です…ッ!」

 

降下の勢いを乗せて振るわれた大鎌を、刀身の腹で防御。お姉ちゃんには目もくれず接近してきたマジックの勢いを、一瞬わたしは受け止めようとしたけど……かなり高度があるんだからと、無理せず落下でエネルギーを逃がす事を選択。対するマジックはわたしを吹き飛ばした次の瞬間には、次の斬撃を仕掛けてくる。

 

「本気であろうと手を抜いていようと、結果は実力次第だ。その実力がなかった故に、貴様はあの時何も出来なかった。姉を見捨てるしかなかった。…そうだろう?パープルシスター」

「……そうです。それは、何も否定出来ません」

 

再び振るわれた大鎌を、同じように刀身で防ぐ。そこでまた衝撃が身体に走るけど、今度はそのまま突進に移行。押されたわたしは一気に落ちていく。

その中でマジックが口にしたのは、わたしの後悔を突く言葉。わたしの…わたし達女神候補生が犯した最大の失態で、もし四天王がお姉ちゃん達にトドメを刺していたら……そう考えるだけで、心が苦しくなっていく。だからマジックがわたしの精神を乱れさせようとしてこれを言ったのなら、選択としては間違っていない。…でも……

 

「ならば同じ事がない、などとは言えんな。確かに貴様は強くなったが…再び姉を見捨てなければならなくなった時、貴様はどうする。貴様等の言う繋がりが断たれても尚、戦えるのか?」

「…愚問ですね」

「何……?」

「わたしはもうお姉ちゃんを見捨てる事なんてしませんし、お姉ちゃんとの繋がりはそんな簡単には消えたりしない、って事ですッ!貴女こそ、わたしを…女神を、舐めないで下さいッ!」

「んな……ッ!?」

 

啖呵を切ると同時に一気にシェアエナジーをM.P.B.Lへと流し込み、わざと一切の反動軽減をせずにビームを照射。反動でM.P.B.Lはビームを走らせながら暴れ回り、その力でわたしとマジックとの間にほんの一瞬隙間が生まれる。当然すぐにマジックは距離を詰め直そうとするけど…それよりも早くわたしはマジックへと足を引っ掛け、踏み込むようにして引き剥がした。

押されたマジックだけじゃなく、落下で脚が頭より上になっていたわたしもその攻撃でその場から移動。そして次の瞬間、上空から巨大な剣が落とされる。

 

「ぐ……ぉぉぉぉおおおおッ!!」

 

既に地表すれすれだったわたしは、M.P.B.Lを地面に突き立てて減速しつつ無理矢理着地。そのわたしの目の前で大剣が飛来し、マジックは唸りを上げながら大鎌の刃を叩き付ける。

お姉ちゃんが普段を大きく超えるサイズのエクスブレイドを精製していた事は、落下の最中に見えていた。だからわたしは強引にでもマジックから離れて、わたしという最大の障害を離脱させた。…お姉ちゃんと、目で合図を交わして。

 

「…わたしはもう、過去を引きずってなんかいません。振り返る事はあっても、心が見ているのは……未来ですから」

 

勢いが無くなったところで身体を起こし、M.P.B.Lを地面から引き抜く。大鎌と激突したエクスブレイドが全方位に閃光を放ちながら消滅し、激しい光でマジックの姿が見えなくなる。…そんな中で、わたしは呟いた。小さな声で…でも、はっきりと。

 

「……やってくれたな…女神…」

 

滑るようにわたしの隣へ着地したお姉ちゃんと頷き合って、それからまた視線をマジックの方へ。振り向くとシェアの光も弱くなっていて……その光の中にシルエットが見えた瞬間、忌々しげな声がわたし達の耳へと届いた。

 

「へぇ……耐えたのね、やるじゃない」

「ふん…不意を突かねば当たらぬ刃など、端から我にとって脅威ではない……だが、不愉快だ…」

「…不愉快?」

「我等が力に、犯罪神様の威光に恐れ、逃げ出す事しか出来なかった女神候補生如きが、我を前にして舐めるなだと…?不完全とはいえ犯罪神様の御身を目にし、完全なる覚醒を果たそうとしているのを知っていながら、我を前に一歩も退かないだと…?…あぁ、ああ、嗚呼…不愉快だ、不愉快だ不愉快だ不愉快だ…ッ!!」

((……っ!来た……ッ!))

 

光が完全に止んだ時、見えたのは怒りに満ちたマジックの形相。その顔に、おどろおどろしい声に、わたしだけじゃなくお姉ちゃんすら一瞬背筋に震えが走る。でも…この時わたし達が感じたのは、武者震いでもあった。だってその反応は、わたし達が引き出そうとしていたものでもあったから。

 

「いいだろう、貴様等がそれ程までに愚かならば…守護女神だけでなく、女神候補生すら犯罪神様の偉大さを理解出来ぬというのなら……その身に直接刻み込んでやろう。この犯罪神様より与えられた身体の、全身全霊をもって……ッ!」

 

背後へと引かれた大鎌に集まる、わたし達とは対極のシェア。大鎌の刃は闇色に染まっていき、染み出すようにマジックの周囲にも負のシェアが漂い始める。…これからマジックが放とうとしている一撃が最大最高のものである事は、言葉無しでも一目瞭然。

 

(これを乗り越えてこそ女神…!…でも、まずは……ッ!)

 

わたし達はどちらからともなく後方へと大きく跳び、全身に力を、シェアエナジーを満たしていく。堂々と正面から…とお姉ちゃんは言ったけど、何の備えもなくただ突っ込むのはただの自殺行為。そんなのは勇気でも何でもない。

 

「ネプギア、避けたい?それとも防御したい?」

「あれを防御するのはちょっと…いやかなりキツいかな」

「同感ね。…放つと同時に動くわよ」

 

お互いマジックに目を向けたまま、お姉ちゃんと言葉を交わす。具体的にどう動くかの相談はしない。感じるシェアエナジーの量から強さは分かってもどんな攻撃をしてくるかは分からないし…今は特に、お姉ちゃんの動きが分かるような気がするから。

 

(恐れる事なんてない。わたしなら出来る、お姉ちゃんとなら出来る。やれそうな気がする時は…やれるっ!)

 

見得を切るようにM.P.B.Lを振って、地面を踏み締める。神経を研ぎ澄まし、全ての意識を戦いに集中し、限界まで身体に力を充填する。そして……

 

「全てを無に帰す力の前に、灰塵と化せッ!神滅の黙示録ッ!!」

 

──犯罪神の忠臣マジックから、破滅の斬撃が放たれた。闇色に染まった大鎌の斬り裂いた空間が塗り潰され……そこから無数の負のシェアの刃が吐き出される。

 

「いくわよッ!」

「うんッ!」

 

瞬きの合間に膨大な数の闇色の刃が生み出され、視界を埋め尽くしていく。けれど、マジックが大鎌を振り抜いた時点で、わたし達は動き出していた。

地を蹴り、翼を広げ、迷う事なく最大加速。指先や翼の先端に至るまで研ぎ澄ました神経をフル稼働させて、弾雨の様な斬撃を避けつつ進む。掠める程度の物は無視して、一切の無駄のない軌道でマジックへと攻め込んで行く。……それが、女神の正面突破。小細工なんかせず、やり過ごすなんて選択もせず、純粋な力で乗り越える。脅威は感じても、不安はない。今のわたしはただ、思考と直感で弾き出した突破口を進むだけ。

 

(いける、このまま……勝てるッ!)

 

接近につれて濃密となる斬撃の中でも、わたしは勝利を感じていた。突破した先の光景が、目に浮かんでいた。でも、後一瞬で嵐を超えるとなった時……見えていた光景が、揺らぐ。

にやりと笑ったマジック。次の瞬間塗り潰された空間が鼓動する様に輝き、その場に残る負のシェア全てを流し込んだような斬撃が放出された。その斬撃の軌道の先には…わたしも、お姉ちゃんもいる。

 

(……ッ!不味い…ッ!)

 

突破と同時に全力を叩き込もうと近付いていたわたしとお姉ちゃんへと迫る刃は、他の刃を大きく超える速度とサイズ。もう今の時点で完全回避は間に合わない。出来るのは致命傷を避けるべく身体をズラす事位で、それにしたって突破後の攻撃はほぼ不可能。……後一歩のところで、わたし達は読み違えた。まだ勝つ望みは消えていないけど…今この瞬間は、完全にマジックが一枚上手だった。

わたしは動く。読み違えたとしても、相手が上手だったとしても、負ける訳にはいかないから。素直に斬り裂かれるつもりなんて、微塵もないから。そしてそれはお姉ちゃんも同じで、わたし達は少しでも傷を浅くするべく身体を……

 

「──ネプギアッ!」

「……──ッ!」

 

……その瞬間響いた、お姉ちゃんの声。視界の端に見える、お姉ちゃんの瞳。その瞳には、籠っていた。諦めないという意思が。負けないという意地が。何よりわたしに向けられた、信頼とメッセージが。

それを見た時、わたしの身体はもう動いていた。身体を力の限りで捻って、お姉ちゃんと向き合う軌道に身体を乗せる。思考より早く心が身体を動かしていて、わたしとお姉ちゃんは正対する。そして腰の浮遊ユニットに斬撃が食い込む中、わたしはお姉ちゃんを、お姉ちゃんはわたしを……全力で蹴りつける。

 

「何……ッ!?」

 

振り出されたお姉ちゃんの蹴りが脇腹に叩き込まれる。振り出したわたしの蹴りがお姉ちゃんの脇腹に突き刺さる。お互いの放った蹴りは衝撃を生み出し、その衝撃は相手を押す力となって……わたし達を、吹き飛ばした。息の詰まる程の痛みと引き換えに…避け切れない筈だった斬撃の、軌道の外へと。

これは考えていなかった事。わたしには思い付かなかった事。わたしですら「こんな手があったんだ…」と驚いているんだからマジックが想定出来る訳もなくて、マジックは驚愕に目を見開いている。…そのチャンスを、逃すようなわたし達じゃない。

歯を食い縛って痛みに耐え、仰け反っていた身体を強引に起こす。思い描いていた流れからは少し離れてしまったけど、まだ今なら届く。再び浮かんだ勝利の光景に、手を伸ばせば確かに届く。だったら絶対逃したくない。掴み取りたい。だからわたしは力を掻き集めて……飛ぶ。

 

「貴女が犯罪神の為に破滅を推し進めるのならッ!」

「わたし達は、人と世界の為にそれを打ち砕きますッ!」

 

鋭角を描くように一度離れていたマジックへと再び肉薄し、素早く斬り付けるわたし。わたしが駆け抜けた次の瞬間にはお姉ちゃんも一太刀浴びせ、そこからターンをかけたわたし達の連撃が始まる。

わたし、お姉ちゃん、わたし、お姉ちゃん、わたし、お姉ちゃん……一瞬足りとも合間を作らず、何度も何度も斬撃を放っては離れ、離れてはまた攻撃を仕掛ける。それはほんの僅かでも速度を、判断を間違えば良くてお姉ちゃんと衝突、悪いと最悪斬ってしまう危険な連携機動だけど…わたしには、そうならない自信がある。確信がある。だって、わたしとお姉ちゃんだから。

 

「ぐッ……これを、凌げば…まだ……ッ!」

 

初撃を受けた時点でマジックは我に返り、次々と迫る刃に鬼気迫る表情で抵抗する。先程のわたし達と同じように浅く済む攻撃は全部無視して、致命傷だけは確実に防いでいる。

マジックが強いのは、間違いない。色々言ったわたしだけど、一対一だったら今の時点で重傷を負っていてもおかしくなかったと思う。…そう本気で思うから、手は抜かない。全身全霊で、全力全開で……マジックに、勝つ…ッ!

 

「……っ!いくよお姉ちゃんッ!」

「えぇ、やるわよネプギアッ!」

 

初めは完全に防がれ切っていた攻撃が、次第に防御を押していく。段々とマジックの防御は遅れがちになって、大鎌で受ける度に姿勢が崩れていく。そしてわたしの斬り上げがマジックの防御を完全に弾いて後方へと飛ばした瞬間……わたしは叫んだ。吹き飛ぶマジックよりもわたしから見て後方にいる、お姉ちゃんへ向けて。

横にしたM.P.B.Lの銃口をマジックに向け、地を蹴ってマジックへと突進。お姉ちゃんも大太刀の斬っ先をマジックへ向け、脇構えに近い構え方をして真っ直ぐに突進。猛スピードで駆け抜けマジックとすれ違う瞬間、わたしは射撃を、お姉ちゃんは斬撃を叩き込む。そしてわたし達はすれ違うと同時にそれぞれ左脚を軸にしたターンをかけ……残った力全てを込めるように、得物を振り上げる。

 

「勝つのは、わたし達よッ!ヴィオレット……」

「──シュバスターッ!」

 

全力を懸けて、思いを懸けて、前後から放つ二つの袈裟懸け。振り抜いた二振りの刃が描くのは、紫の斜め十字。シェアの軌跡が輝く中、斬り裂かれたマジックは痙攣し……硬直する。

渾身の力で振り切ったわたし達もまた、その体勢で静かに止まる。それまでの刃と刃がぶつかる甲高い音、地を蹴り空を駆ける音が嘘であったような、静かな時間。それが五秒、十秒と過ぎて、わたし達の身体にかかっていた勢いが完全に消えた時、背後の翼が基部から砕け、マジックは膝を突き……力尽きるように、倒れた。

 

 

 

 

ゆっくりとマジックから離れる、わたしとお姉ちゃん。M.P.B.Lを持つ手には、確かに手構えがあった。倒したという、感覚があった。それがあったからわたし達は離れ、顔を見合わせて……その表情を曇らせた。

 

「もう、幾ら何でも強く蹴り過ぎよ…」

「それはこっちの台詞だよ…うぅ、まだ痛い……」

 

互いに軽く口を尖らせて、わたし達は脇腹を押さえる。攻撃の回避もそこからの決着もあの蹴り合いがあってこそのものだし、半端な蹴りじゃ避け切れなかったんだから、多少の痛みは仕方ないけど……それにしたって、お姉ちゃんの本気の蹴りを受けたら堪ったものじゃない。多分これ、痣出来ちゃうよね…。

 

「…でも、やっぱりお姉ちゃんは凄いや。あの状況でこんな機転が利くなんて」

「ふふっ、そうでしょう?…と言いたいところだけど、あれを思い付いたのはネプギアのおかげよ」

「え……わたしの?」

「えぇ。わたしのエクスブレイドの攻撃範囲から出る為に、ネプギアは一工夫したでしょ?あれがヒントになったのよ」

 

そう言ってお姉ちゃんは、わたしに笑みを見せてくれる。お姉ちゃんが一から一瞬で思い付いたんだと思っていたわたしにとってそれは寝耳に水の言葉で、しかもわたしのおかげだと言ってくれた。…お姉ちゃんが、はっきりとわたしを頼ってくれた。憧れのお姉ちゃんが、わたしを……『居て良かった』と思ってくれた…っ!

 

「…えへ、えへへ…えへへへへ……」

「え……ね、ネプギア?急に笑い出してどうしたの…?…まさか、わたしの知らぬ間に頭に怪我を…?」

「あ……う、ううん何でもないよ。それより皆さんの方へ……って、あっちももうほぼ終わってる…」

「流石皆とわたし達の国の軍ね。じゃあ状況確認して、問題無ければプラネタワーに戻るわよ。わたしもネプギアも傷の手当てしなきゃいけないし……」

 

緩んでいた頬を引き締め直したわたしが振り向くと、ここでのもう一つの戦い…皆さんとモンスターの戦いもまた、勝敗が決していた。まだ殲滅はされてないけど、どう見てもそれは時間の問題。

相手が四天王だった事もあって、わたし達は重傷こそなくても軽傷は結構負っている。となればまずやるべきなのはプラネテューヌで他に戦闘が起きてないか確認する事で、起きてないなら最終決戦に備えた休息が必要。他の国の事も気にはなるけど、きっと他国やユニちゃん達も大丈夫だって信じて、わたし達はコンパさん達と合流……

 

「……そう、か…やはり、犯罪神様は…自らの手で、全てに破滅をもたらすという…事、か……」

『──ッ!?』

 

弾かれるようにマジックへと向き直ったわたし達。今聞こえたのは、マジックの声。確かに倒した筈だけど、今の声は確かにマジックのもの。そして振り返ったわたし達が見たのは……身体が粒子となって消えながらもその両脚で立つ、マジックの姿だった。

 

「そんな…まだ、立つだけの力があるなんて……ッ!」

「馬鹿め…貴様等程度の力で、我が信仰心を飲み込めるとでも…思ったか……」

 

わたしは目を見開き、お姉ちゃんは気圧された声を上げる。そんなわたし達に正対するマジックは、声を震わせながらも……わたし達を、せせら笑う。

 

「確かに、貴様等は我を倒した…我が鎌がプラネテューヌに住まう者の命を刈り取る事も、なくなった…だが、それはあくまで…犯罪神様が手ずから破滅させる事を、選んだだけの話……貴様等は、犯罪神様に…一時の勝利を、賜っただけに過ぎん……」

「それは…そんなのは、貴女の考えです!」

「…そうね、その通りよネプギア。マジック…貴女の自分に、犯罪神にとって都合のいい考え方を押し付けないで頂戴」

 

わたしもお姉ちゃんも、マジックの精神力には驚かされた。言葉の節々から漏れ出る犯罪神への信仰には、最早心を圧倒された。

でもだからって、マジックの言葉を飲み込むつもりなんか毛頭ない。その意思を言葉に込めて、わたし達はマジックの視線を跳ね返す。そして視線がぶつかる中、数秒の沈黙が訪れ……再び、マジックは笑った。先程よりも、深い笑みで。

 

「…あぁ、そうだな…分かっていたさ、貴様等のその反応は…。…認めよう、貴様等の意思も…その、強さも……」

『…………』

「だが…まだ我にもやれる事がある…残った力を賭して、与えられし力を賭して、捧げようではないか……犯罪神様への、最後の供物を…ッ!」

 

ふらつき、霞んでいき、それでも吠える四天王。そしてマジックは眼帯を掴み、引き千切るようにして隠された瞳を露わにさせる。──先の一撃にも何ら劣らない、濃密な負のシェアを放ちながら。

 

「あれは……ッ!止めるわよネプギアッ!」

「う、うんッ!」

 

危険な存在だと感じ取った時点で、わたし達は地を蹴った。わたし達はマジックに肉薄し、左右から何かをしようとするマジックを止めにかかる。でも……

 

「もう、遅い…ッ!さぁ今一度……狂宴に包まれるがいい、信次元…ッ!」

 

斬撃が届く刹那、見上げたマジックの瞳より放たれる負のシェアエナジー。わたし達の刃が斬り裂くと同時に搔き消える、マジックの身体。……そこに残ったのは、天へと登った負のシェアの残光と、最後まで犯罪神の事を思い続けたマジック・ザ・ハードの笑い声。

 

「…しくじったわ…まさかマジックの余裕は、これも含めてのものだったの……ッ!?」

 

マジックも、負のシェアも消えた。けどわたし達には分かる。マジックは何かしたんだと。何か起こるか、何をしたのかは分からないけど……それがきっと、危険なものだって。…なら、だとしたら……

 

「…戻ろうお姉ちゃん。とにかく今は戻って、何が起こったのか確かめなきゃ…!」

「……っ…そう、ね…ごめんなさいネプギア、貴女の言う通りよ。…ネプギア、身体は大丈夫?」

「うん、飛ぶ位の余裕はまだあるよ」

 

拳を握り締めるお姉ちゃんから強い動揺を感じ、わたしはそんなお姉ちゃんに声をかける。…けれど多分、もしマジックの余裕とその理由を考察したのがわたしだったら、立場が逆になってたと思う。…さっきはお姉ちゃんの判断に助けられたんだから、今度はわたしの番だよ、お姉ちゃん。

 

「…なら、手分けして動くわよ。いいわね?」

「うん、行こう!」

「えぇ!…でも、あの眼帯が某邪王真眼やアークウィザードみたいなものじゃなかったなんて…」

「そんなふざけた事言ってる場合じゃないよ、ほら!」

「え……っ?…あ、そ、そうね!行くわよ!」

 

最後の最後で抜けてる一面が出てしまった事はさておき、わたし達はインカムで通信をかけつつ飛ぶ。折角勝ったのに、満足した気持ちはない。気持ちはないけど……今はそんな事を気にしている場合じゃない。だって…そんな事より、守るべき大切なものがあるんだから。

 

 

──蘇ったマジックとの戦いは、こうして終わった。終わったけど…まだ終わってない。マジックの残した置き土産が、どこかで今信次元を蝕もうとしている。だから…わたし達の戦いは、まだ……続く。




今回のパロディ解説

・(〜〜やれそうな気がする時は…やれるっ!)
STAR DRIVERに登場するヒロインの一人、アゲマキ・ワコの名台詞の一つのパロディ。使おうと思えば割と色んな場面で使えそうですね、この台詞。

・「〜〜やっぱりお姉ちゃんは凄いや。〜〜」
ヴァンガードシリーズの主人公の一人、先導アイチの代名詞(?)的台詞の一つのパロディ。これも対象の人物を入れ替えれば、結構色んな場面で使えそうですね。

・某邪王真眼
中二病でも恋がしたい!のヒロインの一人、小鳥遊六花の二つ名の事。マジックの眼帯は何の為にあるんでしょうね。まさかファッションではないでしょうし…。

・アークウィザード
この素晴らしき世界に祝福をのヒロインの一人、めぐみんの役職の事。伊達眼鏡ならぬ伊達眼帯キャラは他にもいますが、ます思い付いたのは彼女と上記の二人ですね。

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