超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百三十二話 夢は繋がり、託される

「そうか。なら後退は?…あぁ、それでいい。欲をかく場面でもないからね」

 

ラステイションへ向かう飛空挺の中で、ケイは端末で軍の動きを確認しつつ報告を受ける。彼女が受けたのは、四天王ブレイブが引き連れたモンスターの撃退に成功したというもの。

 

(キラーマシンタイプの敵は現れなかった、か。もう残機ゼロなのか、用意に時間のかかる場所にしかないのか…何にせよ、この期に及んで出し惜しみという事はないだろう)

 

戦闘において見受けられた敵の情報に目を通しながら、ケイは元アヴニール社員が犯罪組織へともたらした兵器、キラーマシンシリーズの現状について考える。

政府側に問題はなかったとはいえ、キラーマシンはどこが出自かと言われれば、言うまでもなくそれはラステイション。となれば教祖として気掛かりとなるのは当然の事で、キラーマシンによる被害が増えれば増える程ラステイションや政府の立場は悪くなってしまう。勿論キラーマシンを全滅させられれば解決という話ではなく、犯罪組織へもたらされた時点で大きな痛手を負っている訳だが……それでもこれ以上出てこないのであれば、被害増加の心配もないという意味で安堵出来るとケイは思っていた。

 

(…まぁ、これで他国の戦線には現れていたとなればとんだぬか喜びだが)

「ケイ様、各方面へ展開した部隊に関しては如何致しましょう」

「展開中の部隊には哨戒を続けるよう指示してくれ。恐らく別働隊はない…が、その保証もないからね。警戒態勢は絶対に解かないように」

 

最も冷静になるべきは、勝ち戦の時。目の前の欲に目が眩んで考えなしに目的外、或いは目的以上の成果を出そうとするのが危険であるように、根拠のない楽観視で敵や戦況を軽く見るのも足元を掬われる原因となる。どこぞの盟主が言っていたように、戦争とビジネスは似たようなものだ…と、今後起こりうる展開について思案を巡らせるケイ。情報を洗い流し、部隊の配置を見直し、あり得る可能性を探していく。

 

「…街中に怪しい動きは?」

「警備中の部隊からそのような報告はありません」

「モンスターがどこかに集まっている事は…いや、それがあればその報告がある筈だね」

「はい。ですのでそれもないかと」

「ふむ……」

 

浮かんだ可能性をケイが口にし、それに軍の司令が返答する。そのやり取りを何度か続けたところで、一旦ケイは口を閉じた。そしてその状態が数分程続き……今度は司令が口を開く。

 

「…一つ、進言宜しいでしょうか?」

「あぁ、何かな?」

「現在我が方には余裕があります。まだ当作戦における最大目標が撃破されていない以上、女神様方に増援を送るのが最適ではないでしょうか。勿論女神様方であれば、負ける事はないと思われますが…戦力はあるに越した事はありません」

「…確かに、一理あるね」

「では、早速増援を……」

「けど、その必要はないよ」

 

用心はしていて損はない。それもビジネスと同様…どころか、一般生活においても言える事だ…とケイは司令の言葉に同意。それを受けた司令は即行動に移そうとしたが……それをケイが言葉で制する。

 

「…不要、ですか?」

「不要だよ。ノワールはMG部隊にモンスターの撃退後撤退する事、四天王の相手は自分達でする事を言ったんだろう?…なら、それがノワールの…守護女神の選んだ最適解なんだ。それに致命的な間違いがないのなら、勝った後の二人に余計な手間をかけさせないよう、国内を綺麗な状態にしておく方がいいだろうからね」

 

彼女にしては珍しく、口元に笑みを浮かべながらケイは言った。普段は情に流されず、冷静且つ合理的な判断を下すケイが言った、『ノワールとユニが勝つのは間違いない』という旨の言葉。本当にそれは珍しく…されど、その声音には確かな説得力があった。

 

(…これで何か問題があれば、僕の判断が間違っていたというだけじゃなく、僕が二人を過剰に評価していたという事にもなってしまうんだ。だから…きちんと証明してほしいね。君達は最高の女神だって思っている、この僕の評価が正しい事を)

 

飛空艇の窓から、遠く離れた戦場を見つめる。あまりにも離れていて、二人はおろかその方角で戦闘が起こっている事すらケイの目には映らない。だが、それでも…彼女は二人の戦う姿が目に浮かぶようだった。

 

 

 

 

病気なんてそうそうかからないし、毒への耐性も並の人間とは比較にならないし、食事どころか呼吸だってシェアエナジーで賄える。初めから人並み外れた身体能力を持っているし、精神力次第じゃどう考えても死ぬような状態でも持ち堪えられる。……それが、女神という存在。

でも、恐ろしく強靭でも不死身じゃない。死ぬ時は死ぬだろうし、シェアがなければ普通の人間以下にだってなる。それ以前に怪我は普通にするし…炎に包まれば、当然火傷は避けられない。だから……女神の能力だけに頼る訳には、いかない。

 

「…ユニ、今ある弾頭の中に水冷弾とか王瑠華とかがあったりは?」

「無いし後者はまず撃てないよ…前者もそれであの炎が消し切れるとは思えないし」

「ま、そうよね。訊いてみただけよ」

 

私とその数歩後ろに立つユニの前で轟々と燃える、赤い炎。その噴出点は、ブレイブの構える大剣。そして更に言えば恐らく……ブレイブの心が、真の噴出点。

 

(…って、私までブレイブの影響受けてどうするのよ…あの炎が我流魔法の一種なら、この表現はあながち間違いでもないだろうけど)

 

我流魔法は言ってしまえば思いが形になったもの。ブレイブ程に思いが強く、また熱い性格をしているなら、火の系統の我流魔法が使えてもまぁおかしくはない。

 

「…で、どうする?お姉ちゃん。アタシは、お姉ちゃんに従うよ」

「そう、ね…」

 

後ろからの声に、炎は目を走らせながら考える。既に炎が噴き出している以上、兎にも角にもまず炎をどうにかしなきゃならない。

一番確実に勝てるのは、私の全力でブレイブの全力を受け止めて、ユニに最大火力を叩き込んでもらう策。ユニの全力なら倒せる見込みは十分あるし、私だって受け止める事に専念出来ればきっと凌ぎ切れる。けど……

 

(多分それだと、私も結構な怪我を免れない。それじゃ戦術的には勝ちでも、戦略的には敗北ね…)

 

傷を負うのは怖くない。肉を切らせて骨を断つのも作戦の内。だからブレイブに勝てば一先ず解決なら、それも選択肢の一つとして視野に入れていたと思う。

でも、この戦いの先には犯罪神との最終決戦がある。可能なら完全覚醒前に叩きたい以上、もしここで大怪我を終えばその決戦に参加出来なくなる。…それは守護女神としても、パーティーの一人としても、絶対に避けなきゃいけない。つまり…私もユニも、この戦いで戦線離脱レベルの怪我を負う訳にはいかない。

 

「…一つ、確認してもいい?」

「何?」

「…失敗すれば二人まとめてやられるかもしれない策でも、ユニは乗る?」

 

一度肩の力を抜いて、ユニに問いかける私。ブレイブは極限まで力を溜めるつもりなのか、まだ動く気配はない。

戦略的に考えればここで大怪我を負う訳にはいかないけど、だからといって違う策を取った結果負けてしまったとなれば本末転倒。その危険もあるからユニが乗れないというなら…ユニの戦術眼がそれは危険だと判断したなら、それも考慮するべきだと思って訊いた。そして、私の問いを聞いたユニは…一拍置いて、答える。

 

「…言ったでしょ?アタシはお姉ちゃんに従うって。…アタシはアタシの意思の下、お姉ちゃんの判断に従うって決めてる。だからお姉ちゃんは…お姉ちゃんの思う策を言って」

「…貴女の意思、受け取ったわ」

 

発せられたのは、力強い回答。問いかけた時点では、再確認もしようと思ったけど…これなら要らないと、すぐに思った。

任せるとか従うには、二つのパターンがある。一つは責任逃れや思考放棄で出てくる答え。これは良くないし、こういう理由で選んでくる人は自己主張を放棄している癖に後から文句を言う場合も多い。それに、自分に自信がない人もそうする事があって…生まれたばかりのユニには、その傾向が多少はあったように思える。そして、もう一つは……自分で考え抜いた果ての答え。

 

「……こっちから突っ込んで、カウンターで勝負を決めるわよ。ギリギリまで引き付けてから、ね」

「…避けるんだね、ブレイブの全力を」

「そういう事。仮にユニが避けられそうになくても、私は貴女を助けない。それでもいいわね?」

「大丈夫。アタシを信じて」

 

……いつの間に、私の妹はこんなにも頼もしくなったのか。助けに来てくれた時も思った。ブレイブを一人で倒した時にも思った。そして今もまた…私はユニに、そんな思いを抱いた。…信じてるわよ、私は最初からね。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

螺旋を描いてシェアエナジーが刀身に収束する。砲身が展開し、開いた隙間からシェアの光が溢れ出す。燃え盛る炎が大気を焦がす。

私も、ユニも、ブレイブも無言。焦って動けば確実に相手の攻撃の餌食となる緊張感の中で、ただひたすらに意識を張り詰める。

お姉ちゃんに従うと、ユニは言ってくれた。だから私が選択を誤れば、ユニもそれに巻き込まれる。ユニの命は、私にかかっている。でも……それは重荷じゃない。自分の選択に誰かの命がかかるなんて指導者として当然の事だし、何よりユニはユニの意思で私に命を預けてくれた。なら、私がするべきなのは…ユニの思いに見合うだけの自信を胸に、ユニと共に勝利を掴み取る事。

 

「……時は、満ちたッ!!」

「──ッ!いくわよ、ユニッ!」

「いこう、お姉ちゃんッ!」

 

漂っていた炎が破裂するように空へと昇り、それと共に腹の底からの声を上げるブレイブ。その瞬間私とユニは同時に地を蹴り、一気に最高速度まで加速し突進する。

元々そこまで離れていなかった私達とブレイブの距離は、あっという間に縮んでいく。熱風が頬を叩き、私の大剣が届く寸前になって……私達は、交差しながらブレイブの横を駆け抜ける。

 

「ふっ、分かっていた…そうくる事は、全て分かっていたッ!」

 

交差地点から左右斜めに広がって進んだ私達は、片脚を張り出すようにしてターン。そうして振り向いた私達が見たのは……驚いた様子など微塵もなく、私達同様振り向いて大剣を振り被っているブレイブの姿。

 

『……っ…!』

「ブラックシスター!ブラックハート!俺は、お前達と出会えた事を誇りに思う!俺は人である内に夢を果たせなかった事を心残りに思っていたが、今はそんな悔やみなどない!何故ならそれ故にお前達と出会えたのだから!そして出会えたのは間違いなく、犯罪神様あっての事!だからこそ俺は、俺の全てを…この一撃に懸ける!輝けッ!轟けッ!切り開けッ!超えよ必殺!ブレイブッ!ソォォォォォォォォドッ!!」

 

周囲の炎がブレイブの大剣を包み、巨大な炎の剣と化す。ブレイブが大地を踏み締め、炎剣を振るい……視界を埋め尽くさんばかりの炎の刃が、私達へと襲いかかった。

 

(…ここまでの大技を放ってくるとはね。けど……)

(…アタシ達の動きを読んでたって訳ね。でも……)

 

 

 

((──(私・アタシ)達は、負けないッ!))

 

迫り来る炎に向かって、私達は再び突撃する。脅威はさっきまでの比じゃない。一瞬でも遅れれば肉も骨も焼き尽くされる恐怖を意思の力で押し留めて、ギリギリのギリギリまで真っ直ぐに進む。

神経を研ぎ澄ます。感覚の全てで攻撃の、状態の、環境の…戦いに関するあらゆる情報を取り入れ、可能性を模索し……先を、未来を──読み切るッ!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉおおッ!!」

 

豪炎を纏うブレイブの大剣が振り抜かれた。草木も大地も例外なく焼き、恐らくは鋼鉄すらも溶解させてしまう程の炎の猛威が駆け抜け、範囲内の空間を一掃し、炎となった彼の正義が戦場に響き渡った。

ユニが影響を受けるのも頷ける。私だってブレイブの事は認めているし、出来るならば敵としては出会いたくなかった。…本当に、ブレイブは凄い奴だと思う。けど、それでも…私は、私達は、私達の思いは……ブレイブの炎を、超える。

 

「決着を付けるわよ、ブレイブッ!」

「アタシの、アタシ達の思い……もう一度アンタにぶつけてやるわッ!」

 

炎を避け切って、超えてブレイブへと肉薄した私達は、至斬撃と射撃を同時に敢行。そこからほぼ直角に斜め上へと飛び上がり、全力の剣撃と銃撃の嵐を叩き込む。

フルスピードで駆け抜けて斬り付ける。最高速度のまま弾丸を撃ち込む。力尽くで慣性をねじ伏せて次なる一撃を放つ。縦横無尽に舞いながら連撃を叩き付ける。ブレイブの迎撃を避けて、押し退けて、斬って、撃つ。

 

(これは、悪を討つ正義の制裁じゃない。ブレイブの意思に対する、最大の敬意と答え……ッ!)

 

言葉を交わす事なく、それでも一度たりとも互いの邪魔にはならずに斬り裂き、撃ち続けた私達。それぞれの得物が放つシェアの光で宙に軌跡を描き、ラステイションの女神の誇りを、信念を見せ付けた私達。それを受けるブレイブは、最早全方位攻撃と言っても過言ではない私達の連携攻撃で全身に傷を負い、ふらつき……されど膝は着かずに耐えていた。…それはまるで、その身をもって受け止めているかのように。

 

「…アンタの思いは伝わってる。だからこそ…これでッ!」

 

そう叫んだユニは、ブレイブを軸とした弧の軌道を作り上げながら絶え間なく発砲。その間に私は側面から背後、背後から正面と一瞬の中に静と動を織り交ぜた斬撃を放って眼前へと躍り出る。そして私が躍り出た瞬間…ユニもまた、私の背後……即ちブレイブの眼前へ。

 

(ユニ、トドメは貴女に任せるわよ…ッ!)

 

私達二人の視線が、ブレイブの視線と交錯する。ブレイブから伝わってくるのはやっぱり、悪意ではなく熱い思いで……この一太刀には手向けの意味も込めようと、その時私は思った。

上昇しながら振り抜いた、右手の大剣。刃がブレイブの胴に触れた瞬間トルネードソードを解放し、螺旋の力で抉りながら斬り裂いていく。竜巻の様な力でブレそうになる大剣を、全身の力と技術の合わせ技で思い描いた通りの一閃を描かせ、その力でブレイブを大きくふらつかせて……ユニへと託す。

 

「これがラステイションの女神よッ!リヒト……」

「──シュバルツッ!」

 

四分割された砲身から溢れ出す光が、強大な一条の光芒となって放たれる。その光が伸びる先は、私が斬り裂いたブレイブの胴。真っ直ぐに駆けるその光はブレイブへぶつかっても尚衰える事なく輝きを増し、耐えるブレイブを追い詰めていく。

その光は、今のユニの心そのものだと思った。力強くも真っ直ぐな、光り輝く高潔な精神。そしてそれを正面から浴びたブレイブは、耐えた末にふっ…と安心したような笑みを浮かべて……光芒が、ブレイブを貫いた。

 

 

 

 

アタシの放った光は、ブレイブを貫いた光芒は、その先へと駆け抜けていった。少しずつ薄く細くなっていって、最後には途切れて消えて……アタシがX.M.B.を下ろした瞬間、ブレイブは後ろへと倒れ込む。

 

「…終わったよ、お姉ちゃん」

「終わったわね、ユニ」

 

ゆっくりと降りてきたお姉ちゃんへ、静かに声をかける。お姉ちゃんからも、静かな声が返ってくる。

戦いは、相手が戦闘不能である事を確認するまで油断しちゃいけない。でも…アタシには確信があった。アタシ達は、ブレイブに勝ったって。

 

「…………」

「…………」

 

二人で見つめる、横たわったブレイブの身体。一秒、五秒、十秒と過ぎて……げほげほ、と咳き込む音が聞こえてきた。

 

「…伝わったぞ、お前達の思いは……」

「…なら、良かったわ」

「……もう少し、接戦になると思ったんだが…な…」

「十分接戦だったわよ。私達を前にここまで戦った貴方は、自分を誇ってもいいわ」

 

ブレイブの言葉にまずアタシが、次の言葉にはお姉ちゃんが返す。大きな怪我はしていないとはいえ、細かい怪我は幾つか…特に斬り結んでいたお姉ちゃんは負っているし、さっきの回避からの連撃で全身に負担がかかっている。もう痣も出来始めていて……もし一対一だったら、アタシやお姉ちゃんも重傷を負っていたんじゃないかと思う。

 

「誇っていい、か…ふふ、ヒーローとは自分の道に自信を持っているもの……だが、そうだな…守護女神からそう言われたのであれば、より自信が持てる……」

 

身体中の怪我に加えて、胴には斬り裂かれた傷と撃ち抜かれた穴。そんな状態で普通に話せる訳がなくて、ブレイブの声は絶え絶えなもの。それでも、ブレイブの声から感じる熱は……変わりない。

 

「…ったく、アンタの自信は過剰気味なのよ。アタシやお姉ちゃんの意思を織り込んで…っていうか思った通りに動いてくれる前提でこんな事するなんて」

「何を、言うか…お前達は二人共俺が思った通りの高貴な精神を持ち、思った通りに…俺の意図に、気付いてくれた…違うか……?」

「結果論でしょ、それは。アンタの向こう見ずさに振り回されちゃこっちも堪んないっての…」

 

悪びれないどころか満足気な声音で話すブレイブに、アタシは呆れながら肩を落とす。

子供達に立派な大人像を見せる為に、子供達の住む場所へ攻め込む。それはどう考えても本末転倒で、それが果たされたところでブレイブが喜ぶ訳がない。それがブレイブの望む、真の夢の道である訳がない。

だから、ブレイブはアタシとお姉ちゃんを頼った。アタシ達なら、自分を倒してくれるって…止めてくれるって、敵のアタシ達を信じて行動した。一直線に、自分もアタシ達も疑わずに。──俺が倒れようとも、我が思いは貫かれるっていうのは…つまり、そういう事。

 

「…もしアタシ達を倒しちゃったら、どうする気だったの?」

「む……?…それは…考えて、いなかったな…」

「やっぱり……どう考えてもそれは向こう見ずでしょ…」

「そうね…けど別に、それは変でもないと思うわよ?」

「え?」

 

信じる云々は別として、ブレイブの攻撃には一切の加減がなかった。ブレイブ程の実力があれば、アタシやお姉ちゃんを倒してしまう可能性も十分にあった訳で……それについて訊くと、案の定ブレイブは考えていないらしかった。…けど、そこで意外にもお姉ちゃんが同意。

 

「だってそうでしょ。楽に勝てる相手じゃないのは間違いないけど…それでも私とユニで戦って、負ける訳がないじゃない」

「い、いや…それはアタシも同意だけど……」

「私とユニの勝利は間違いない。そこは確定事項みたいなものなんだから、それをブレイブが織り込んでいるのは普通でしょ」

「…………」

「…ユニ?」

「……もしかしてお姉ちゃんって、ちょっとブレイブと通じるところがあったり…?」

「は?いや、いやいやいや…そんな訳ないでしょ。ブレイブの事は認めてるけど…変な事は言わないで頂戴」

 

自分の実力を信じて疑わないのはお姉ちゃんの凄いところ。けど何というか、今はその姿がブレイブとちょっと重なって…それをそのまま口にしてみたら、結構な真顔で否定された。…ブレイブ、今の言葉聞こえてたのかしら…。

 

「まぁともかく、ブレイブの判断は正しかったのは間違いないわよ。…向こう見ずな奴だとは、私も思ってるけどね」

「…だって。良かったわね、ブレイブ」

「あぁ、良かった…俺は二人を、女神を信じて本当に良かった……」

 

酷く重そうに身体を起こすブレイブ。今は前に戦った時のような、鬼気迫る意思は感じられないけど…それはきっと、自分で夢を叶えなきゃいけないと思ってたあの時と、もう夢を託せている今の違い。立ち上がったブレイブの顔は身体に反して穏やかで……あの時と同じように、身体が少しずつ消え始めていた。

 

「…ユニよ…子供達の夢と笑顔に溢れる世界は、あれから近付いたか……?」

「へ……?…そ、それは……」

「…気にするな、今はまずやらねばならない事があるのは分かっている。…意地の悪い質問を、してみた…だけだ……」

 

その問いと回答は、消えゆく身体と同じように弱々しかった。弱々しく、消えそうで…それでも燃えるような思いはしっかりと籠っていて、そんな言葉をブレイブは続ける。

 

「…重く、勝手な願いを押し付けてすまない…。だが、それでも…今一度、託させてくれ…!ユニよ、俺の夢を…子供の夢と、笑顔を……!」

「……任せなさい、ブレイブ。アタシの中でそれはもう、他人の夢でも…ましてや押し付けられた夢でもない。アタシはアタシの意思で、アンタの夢を受け継いだの。だから……安心して、ゆっくり休んで」

 

……やっと、この言葉を言えた。元々言うつもりだった、伝えたかった…ブレイブへの意思表明。ブレイブはアタシ達と出会えた事が、この時代に蘇った上で良かったと思える事に上げていたけど…アタシもアタシで、これを言えた事だけはブレイブが今蘇ってくれて良かったと思っている。

更に続くブレイブの言葉。それに答えるのは…お姉ちゃん。

 

「ブラックハート…いや、ノワール…。お前にも、託させてほしい…どうか、ユニの力になってほしい…!幸せな世界を……作り上げてくれ…!」

「そんなの、言われるまでもないわよ。子供が夢を抱いて、笑顔で暮らせる世界こそが、真の幸せに溢れてるに決まってるじゃない。…だから任せておきなさいブレイブ。あんたの夢は、最初から私の作り上げる国に…世界に含まれているんだから。…まぁ最も、私が笑顔にするのは子供だけじゃないけどね」

 

片手を腰に当てて、自信満々に…でも優しい笑顔でそう答えたお姉ちゃんは……本当に格好良かった。だからこそ…思う。アタシも、負けていられないって。

光の粒子となって、ブレイブは天に昇っていく。そんなブレイブは、更に顔を綻ばせて……笑う。

 

「……ありがとう、ユニ、ノワール。俺の人生は夢と共にあり、その夢を死後に心より信頼出来る者達に託す事が出来た……あぁ、なんと幸せな事か…。…俺はこの先、どうなるか分からない…だが、約束しよう…どんな事があろうと、俺は二人に求められた時は、必ず力になると……俺は、託した夢と…共に、ある……」

 

消えかけながら、突き出された右の拳。それにアタシとお姉ちゃんも、どちらからともなく拳を突き出して……アタシ達とブレイブの拳が触れた瞬間、ブレイブは消滅した。最後に触れた拳には、熱い意思ではなく……温かな思いが籠っていた。

 

「……まだ気は抜けないわよ。国内で戦闘があるなら向かわなきゃいけないし、無くてもすぐに怪我は治さなきゃいけないんだから」

「…そうだね」

「でも……まずは帰りましょうか。私達の、ラステイションに」

「…うん、帰ろっか」

 

拳を下ろして、消える粒子を見送って、それからアタシ達は飛び上がる。二人共、同じ思いを抱きながら。

 

 

──蘇ったブレイブとの戦いは、こうして終わった。迷う事もあった。一番良いのは、あの時倒したままブレイブが眠れた事だとも、思う。だけど、それでも…改めて夢を託されたアタシと、ブレイブの思いを受け取ったお姉ちゃんの心は……清々しい思いで、満たされていた。




今回のパロディ解説

・水冷弾
モンスターハンターシリーズに登場する、ボウガン用の弾丸の一つの事。勿論弱くはありませんよ?消火用ではないよね、という話なので悪しからず。

・王瑠華
BORUTO -ボルト- -NARUTO THE NEXT GENERATIONS-に登場する、忍籠手で放つ忍術の一つの事。あれを銃に装填しても…まぁ撃てませんよね。

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