超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百三十一話 再び相見える覚悟

ユニが決闘の果てに打ち倒した四天王、ブレイブ。こいつが犯罪神の臣下には似つかわしくない、自分なりの正義と信念を持っている奴だって事は、あの時の戦いで分かっていた。

そんなブレイブがユニに大きな影響を与えて、ユニがブレイブの夢を受け継いだというのは、私にとって本当に驚きの事だった。私に似て優秀故の不器用さがあるユニが、こんな形で成長するなんて、思ってもみなかった。そういう意味では、私からしてもブレイブはただの敵じゃなくて……再戦は叶わないと思っていたそのブレイブと、今私は刃を交えている。

 

「はあぁぁぁぁぁぁッ!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉッ!」

 

正面から斬り込んだ私とブレイブの大剣が、激しい音を立てて激突する。その反動とブレイブの力が腕へと伝わり、痺れるような衝撃を感じる。…私にもブレイブにも、手加減は一切ない。

 

「相変わらず、見た目通りに重い斬撃ね…ッ!」

「そちらこそ、見た目通りの鋭い一撃ではないか…ッ!」

 

ブレイブは地面を踏み締め、私は翼を広げて力比べ。…と、言ってもただ力をぶつけるだけじゃない。如何に相手の力を逸らしつつ、自分の力を通すか。肘、肩、腰、下半身…翼や浮遊ユニットもフル活用して、真っ向からブレイブに立ち向かう。……って、これじゃブレイブの方が格上みたいね。今のは撤回よ。

 

「……ふんッ!」

「っとッ!そうくると思ったわッ!」

「やはり返してくるか…ッ!」

 

背中のブースターを点火し、強引に押し切ってくるブレイブ。それに私は数秒間だけ耐えて、そこからブレイブの大剣を背にするように一回転。相手の力を負けじとこっちも更に力を…って事も出来なくはなかったけど、機動力を活かした戦法こそが私の真骨頂。

回転で懐へと入り込んだ私は、遠心力が消えない内に大剣を振るう。放った斬撃は後一歩のところまでブレイブの胸元へと迫ったけど、寸前で後退されて攻撃は失敗。でもその程度は問題ない。

 

「逃がさないわよ…ッ!」

「逃げている訳ではないが…なッ!」

 

後退を続けつつ二門の砲で交互に放たれるブレイブの砲撃を、三対六枚の翼をそれぞれで動かす事による微細な動きで回避。大きく回避行動を取れば、安全に砲撃を凌げるけど…そんな動きじゃ追撃は不可能。

 

(あの時の戦いの経験は…参考程度にしかならないわね。あの時とは、状況が全然違うんだから…ッ!)

 

紙一重で避けて、或いは斬り払って、再び接近。真横から横薙ぎで大剣が迫ってきた瞬間私は落ちるように後転し……足が地に着いた瞬間その地面を蹴って、大剣の下から脚元へと飛び込む。そして私は…一閃。

 

「…残念。今ので片脚を取れると思ったのに」

「片脚を犠牲に勝負を決める選択肢もあった。だが…そこまで簡単にはやられないだろう?」

「当たり前よ。片脚程度で私をやれると思ってるなら、その時点であんたに勝ち目はなかったでしょうね…ッ!」

 

振るった大剣は、ブレイブの脚を捉えた。でもそれは浅く、とてもブレイブのパフォーマンスに影響を与えられるレベルじゃない。どこからが身体でどこからが鎧か分からないけど、その鎧を傷付けただけの可能性もある。

私は一度そこで止まり、ブレイブも距離を開けて構え直す。そこから余裕を見せた言葉を交わし…また激突。

 

「あんた、随分とユニに執着してるみたいじゃない…!」

「執着などしていない、ただ希望を見出しただけだ…ッ!」

「それが、ユニにとって迷惑になるかもしれないとは思わなかった訳?」

「思わなかったな。彼女は人の真摯な願いを迷惑に思うような女神ではない…ッ!」

「はっ、あんたがユニを語ってんじゃないわよ…ッ!」

 

四天王と言えば?…と訊かれたらまずブレイブが出てくる私だけど、ユニ程強い感情を抱いている訳じゃない。でも、ユニ程ではないけど……私にだって、ブレイブに思うところはある。特にユニの姉としては、かなり強い感情がある。それを私は戦いの高揚感の中で、自然と口にしブレイブへぶつけた。

 

「ふっ、確かにそれもそうだな…だが、一つ言わせてもらおう…」

「何よ…」

 

鋭いターンで側面に回り込み、そこから攻撃…と見せかけてブレイブを飛び越え、大剣を振るって迎撃しようとしたその背後へ刺突をかける私。私の動きにミスはなかったものの、ブレイブは振るった大剣の遠心力を利用して一回転し、峰に大剣をぶつけてくる。

その中でブレイブが向けてきた、真摯な視線。弾かれた際の衝撃を逃しつつその言葉に私が返すと…ブレイブはその目を見開き、言った。

 

「あの戦い以降、ほぼ会う事がなかったが……今も変わらず、俺はお前にも希望を見出しているッ!」

「は、はぁ!?だから何…、……ッ!」

 

何を言うかと思えば、出てきたのはらしさ満載の暑苦しい台詞。そういう事を言う奴だって理解はしていたけど、まさかこのタイミングで言われるとは思っていなくて……有り体に言えば、この瞬間私は虚を衝かれてしまった。

ブレイブの事だから、心理攻撃として言った訳じゃないと思う。けど現実として私は不意を突かれていて、例えそれが意図しないものだったとしても…それを見逃すブレイブじゃない。何故なら、これは決闘じゃなく……戦闘なんだから。

 

「次は…こちらの番だッ!」

「ちぃぃ……っ!」

 

体重の乗った拳は大剣の腹で防ぐも、踏み留まるだけの余裕はなかった私は大きく後ろに跳ね飛ばされる。そしてそこへ叩き込まれる、剣と砲の絶え間ない連撃。

 

(分かってはいたけど、案の定本気で殺しに来てるわね…間違っているって、自分は悪の行いをしているって自覚しながらも、手を抜くどころか本気で…こっちも全力を出さなきゃいけない力で矛を向けてきている……やっぱり、こいつは…)

 

無理な反撃や安易なカウンターは、押し切られて潰される。そう判断した私は暫く防御に専念。剣撃はこちらの大剣で受けて、砲撃はステップと身体の捻りで避けて、打撃は蹴りで叩き落とす。常にギリギリのところで防いでいるから、精神的な摩耗は防御に費やす体力の比じゃないけど……その程度ですり減り切るような薄い精神は、生憎持ち合わせていない。それに…墓場でのあの時に比べれば、今この瞬間の方がずっとマシ。

防ぎながら、凌ぎながら、考えた。夢と行動を矛盾させたまま、忠義の名の下戦うブレイブが見ているものを、見ている先を考えて……確信する。

 

「ほんと……どこまでも真っ直ぐな訳ね、あんたって奴はッ!」

「何……ッ!?」

「けど、真っ直ぐだろうが何だろうが私のやる事は一つ……あんたを斬って、女神の使命を果たすだけよッ!」

 

啖呵を切りながら左手を柄へと伸ばし、上段から振り下ろされた一撃を、両手で握った大剣でもって下から弾き返す。

両方とも大剣が後ろへ押され、空白となった空間へ私とブレイブはほぼ同時に力技で再び斬撃を放つ。弾かれた状態からの力技なんて姿勢も何もあったものじゃなくて、激突の直後に私もブレイブも背後へ吹き飛ぶ。そうして吹き飛んだ私が着地し、踏み締めによるブレーキングで止まったのは……期せずして、ユニのすぐ前。

 

「…お姉ちゃん……」

「……よく、見なさいユニ」

 

ユニの声から伝わってくるのは、複雑な感情。一個人としての、女神としての…私の妹としての、それぞれの思いがきっとユニの中にはあって、だから今ユニは迷っている。

それに私は答えを出せない。女神としての答えなら出せるけど、それじゃユニは心から納得する事なんてないと思うし、私だって心の一部でしか納得出来てない答えで満足するような子になってほしくない。

 

「見る……?」

「えぇ。貴女なら…これだけで、分かる筈よ」

 

答えを決めるのはユニ自身。ここで決められるのなら何よりだけど、ここで決められなくたっていい。答えを急かすんじゃなくて、それまでの時間を作ってあげるのが、姉の役目なんだから。

でも、考える時間は作れても、今という時は今しかない。この戦いが終われば……間違いなく、その時失われているものがある。

 

(貴女ならきっと真実を見抜く事が出来る。私を見て、ブレイブを見て、見いだしなさい。覚悟の先にある……思いを)

 

地を蹴り、ブレイブに向かって突進をかける。同じように構えて突っ込んできたブレイブへ肉薄し、お互いすれ違いざまに斬撃を放つ。

振り返り、ブレイブの肩に出来た傷を視認するのと同時に頬へ感じる、熱さと液体が滴る感覚。それを手の甲で拭いて……私は再び、宙を舞う。

 

 

 

 

お姉ちゃんは言った。迷いを抱えたままや、半端に出した結論で戦うのは、迷って戦えないよりよくないって。

それは分かる。分かってる。あの時ネプギアに負けたのも、ブレイブに負けたのも、それはアタシの中で無意識の迷いがあったり、覚悟に心から納得出来ていなかったから。アタシは自分を突き動かす思いの大切さをしっかりと知っているし、お姉ちゃんの言う通りだと思う。

 

(よく見なさい…ここに、この戦いにアタシが出すべき答えがあるって事……?)

 

この戦いにおける最悪の展開は、アタシ達が負けてブレイブが人の生活圏に到達する事。だから女神としてブレイブを倒す事が正しいのは考えるまでもない事だけど…それが正しいからって他の思いを全て切り捨てたら、それじゃ昔のアタシと変わらない。

考えている。迷いに納得のいく答えを出す為に、アタシの心と向き合っている。そしてその答えが目の前の戦いにあるなら……

 

(…いや、待った…そういう事なの?そんな単純な事に対して、貴女なら…なんてお姉ちゃんは言う…?)

 

迷っている時に、よく見ろなんて言われたら、誰だってそこに答えかヒントがあるんじゃないかって思う。本当にそういう事ならあんな含みのある言い方はしないだろうし、多分戦いが始まる前に言ってくれる筈。なのに言ってないって事は…そうじゃないんだって事。

 

(そう、そうよ…お姉ちゃんがアタシに伝えようとしたのは、きっと見えるものじゃなくて、その先にあるもの……見るんじゃない、観るのよ…感じるのよ、アタシ……!)

 

自分で両頬を叩いて、目を大きく開く。見逃さないように。それと同時に思い出す。ここまでの戦いを。お姉ちゃんとブレイブの口にした言葉を。

 

「驚いたわ、最初だけならともかく…まだ私の動きについてくるなんてね…ッ!」

「前の俺ならば、無理だったのかもしれないな…だが今の俺は、犯罪神様が完全な状態となるまでの繋ぎ!故に極短い命と引き換えに……この身体は、より強靭となっているのだッ!」

「四天王は、時間稼ぎの為の捨て駒って訳?よくそんな相手に忠誠を貫けるわねッ!」

「それが大人というものだッ!例え道を違えるとしても、務めを途中で投げ出すなど言語道断!責任を果たして初めて、他者に何かを求められる…そうだろうッ!」

 

縦横無尽にお姉ちゃんは飛び回り、ブレイブはそれを目で追い正面から迎撃する。…伝わってくる。二人の姿から、二人の強い意志が。

 

「はッ!だったら先に謝っておかなきゃいけないわね!あんたはここで私に討たれて、務めを完遂する事なく終わるんだからッ!」

「勝負は決着のその瞬間まで分からぬものだ、ブラックハートッ!それに、仮に俺が倒れようとも…我が思いは、貫かれるッ!」

 

ブレイブが二門同時に放った砲撃と、お姉ちゃんが打ち出したトルネードソードが二人の中間で衝突し、爆発を起こす。でもすぐに二人が飛ぶ事で発生した風圧によってその爆風は斬り裂かれ、もう何度目か分からない斬り結びを行いながら二人は視線で火花を散らす。

同じ強い意志でも、その内容は違う。お姉ちゃんが抱いているのは、揺らぐ事ない女神の誇り。国民を、国を、信次元を自分が守るんだっていう、どんな困難であろうと誇りに恥じない女神の姿を貫くんだっていう、強くて格好良いお姉ちゃんの在り方そのもの。

対してブレイブが抱いているのは、子供に夢を与えられる自分であろうとする意地。子供が夢を持ち、笑顔でいられる世界を作りたいという思いの炎を心に燃やしたまま、同時に果たすべき事を果たそうとする、矛盾を厭わないブレイブの……

 

(……っ…ブレイブが、そんな矛盾を本当に許すの…?幾ら見せるべき姿があるからって、自分が悪と思われようとも子供を守ろうとするブレイブが、本当にこんな事を……)

 

その時、疑問が浮かんだ。今見ているブレイブの姿が、本当に合っているのかって。アタシはブレイブの本心が見えているのかって。

そう、ブレイブはゲームで願いを果たそうとする前に、ヒーローだった。元々ブレイブは特撮で…演技で子供を笑顔にしていた。…それに気付いたアタシの脳裏に、ついさっきブレイブが発した言葉が浮かび上がる。

 

(──俺が倒れようとも、我が思いは貫かれる。…これって、まさか……)

 

確信はない。そうかもしれないってだけの…ううん、そうであってほしいという、アタシの希望的観測。でも…気付いた。見えた。ブレイブの見ているものが、見つめている先が。そしてそれは……やっぱり、ブレイブらしい選択。

 

(…ったく、もう…ほんとにアンタは猪突猛進過ぎんのよ)

 

もやっとした気持ちが晴れていく感覚。迷いが、躊躇いが消えて、自分の背中を自分自身で押せる心になっていく。

本人に確認しなきゃ、アタシの思いが正しいのかなんて分からない。けど、大事なのはアタシが…自分が納得して、その思いに胸を張れるかどうか。それが出来ているから、お姉ちゃんやイリゼさん達は強い。ブレイブの強さは、その思いが不屈の心となっているところにある。そしてあの決闘にアタシが勝てたのも……それだけの思いが、アタシの中にあったから。

アタシの目の前では、一進一退の攻防が続いている。これはラステイションを守る為の戦い。何としても貫きたい思いの戦い。なら、そこにアタシがいなくて…どうするってのよ!

 

『……ッ!』

 

大剣を構えて突っ込むブレイブの眼前を駆け抜ける、一発の弾丸。反射的に身体を反らせたブレイブは体勢が崩れ、ブレイブ同様驚きつつも距離の関係から怯みはしなかったお姉ちゃんは、勢いの乗った蹴りを浴びせる。……その弾丸の射出は…勿論、アタシ。

 

「…お待たせ、お姉ちゃん。待たせたわね…ブレイブ」

 

──この激突の中に立つだけの意思を手にしたアタシは、漸く戦いへと…戻る。

 

 

 

 

ブレイブの目の前を駆けた弾丸は、正確無比。当たってこそいないけれど、最初から当てるのではなく怯ませる事が目的ならば百点満点の射撃。

それを放ったのは、当然ユニ。鋭く、ブレのないその射撃からは…迷いは、感じない。

 

「…答えは、出たのかしら?」

「うん。お姉ちゃんの横に立てるだけの…ブレイブを撃てるだけの、答えがね」

 

一飛びで私の隣へと降り立ったユニの目には、決意の光。…確かに、納得出来る答えを出せたみたいね。

 

「それは良かったわ。でも、貴女が立つべきなのは、私の横じゃないでしょう?」

「勿論、アタシはガンナーなんだから。…お姉ちゃんこそ、不満じゃない?ブレイブと一対一で借りを返せなくて」

「私はそんなに器が小さくないわ。結果は結果として割り切るのが女神の……」

 

他の女神候補生と違ってユニは女神化した際の性格の変化も私と似ているのか、私に強気な言葉を返してくる。それを私は大人の対応で返そうとして……ネプテューヌ、それにイリゼへ勝負を仕掛けた時の事を思い出した。…あの時…特に決着が付いてからの言動は、まぁ…うん……。

 

「…お姉ちゃん?」

「…何でもないわ。それに…正直、今のブレイブからは底知れないものを感じる。これが最終決戦だってならともかく、犯罪神との戦いがある以上、ユニも戦ってくれるのは助かるわ」

「へぇ……お姉ちゃんにしては珍しい事言うね」

「私は冷静に判断してるだけよ。貴女こそ、さっきまで悩んでた癖に随分と調子の良い事言うじゃない」

「そりゃ、お姉ちゃんと二人で戦うんだもん。これ位の事は言えなきゃ、お姉ちゃんと釣り合わないでしょ?」

 

ふふっ、と勝気な笑みを浮かべるユニは、いつも通りどころかいつも以上のやる気に満ち溢れた表情。…それでこそ、私の妹。可愛くて、私の期待にいつも応えてくれる、誇らしい私の妹、ユニ。そんなユニになら……何の不安もなく、私の後ろを任せられる。

 

「…いいのか、ユニよ。今の俺の前に立つ事の意味は、もう分かっているのだろう?」

「当たり前じゃない。その意味が分かっているから、アタシはアンタの前に立ったのよ」

「…前回のように、後腐れのない終わり方をするとは限らん。如何なる結末になろうと、戦いに加わった以上はそれを受け入れなければいけない」

「それも当たり前ね。…どっかの熱血ヒーローに夢を託されたアタシを、舐めんじゃないわよ」

 

私とユニのやり取りを黙って見ていたブレイブは、終わったところで静かに口を開く。その言葉は、とても敵に対して向けるようなものには聞こえない。対するユニも、語気は変わらないけど…言葉の裏には、落ち着いた意思が感じ取れる。…こんな二人だから、決闘が成立したんでしょうね。

 

「そうか……ならば、良い。俺はお前がその覚悟を決めるのを…待っていたッ!」

「だから言ったでしょ、待たせたわねって。…改めて勝負よ、ブレイブ」

「そのつもりだ、ユニよッ!」

「ちょっと、私を忘れないでくれる?…まぁいいわ。すぐにあんたもユニも、私を忘れられなくなるでしょうからねッ!」

 

視線をぶつかり合わせるユニとブレイブ。けど、この戦いは二人だけのものじゃない。

大剣を斜め下へと振るい、闘志を燃え盛らせるブレイブへ向けて一瞬で肉薄。この一撃で勝負を決めても構わないとばかりに、全力の袈裟懸けを叩き込む。

 

「速い……が、甘いッ!」

「甘いのは、アンタの方よッ!」

 

位置をずらしたかのように機敏なバックステップで避けたブレイブは、得物が両刃である事を活かし、振るっていた大剣を引き戻すように仕掛けてくる。けれどユニの射撃がそれを阻み、その隙に私は次なる斬撃をかける。

 

「二対一が不公平だってなら、そっちもモンスターを呼び出してくれて構わないわよッ!」

「その必要はないッ!今更不平不満を言う口は、生憎持ち合わせていないのだからなッ!」

 

先程とは打って変わって、ブレイブが私の連撃を凌ぐ形になる。ただあの時と違うのは、身体的な余裕の差。ユニが的確且つ強力な援護射撃を入れてくれるから、私は無理なく攻撃出来る。一方ブレイブは女神二人分の集中攻撃を捌き切れる筈もなく、既に何度か私は斬撃を当てている。今はまだ数度浅く入った程度だけど…このまま続けば、致命傷が入るのは時間の問題。

 

「ブレイブ!まさかアンタ、この程度で終わったりはしないわよねッ!」

「当然ッ!壁が高ければ高い程燃え上がる、それが正義の味方というものだッ!」

「なら、見せてみなさい…正義の味方を超える、正義そのものである私達にねッ!」

 

威勢と共に大剣を振り下ろすブレイブ。それを私が半身で避けると、ブレイブはそのまま地面へとぶつけ、小さな砂煙を起こす。

それは決して大きくない、されど高次元の戦いにおいては目眩しとして成り立つ砂の幕。それを私が大剣を振って斬り払うと……その瞬間に、真正面から刺突が襲いかかってきた。

 

(まあ、そうよね…だけどッ!)

 

身体を仰け反らせ、後ろへ倒れ込むようにして刺突を回避。流石の私もそこから即座に攻撃へ転じるのは無理で、もし一対一ならその時点で連撃が切れてしまうけど……これは、一対一の戦いじゃない。

私がこの動きをした事によって、勿論私は避ける事が出来た。でもそれだけじゃなく、この動きで、一つの道が開いた。ユニの射線という、強力な道が。

 

「喰らい…なさいッ!」

 

一条の光が私を、大剣を超えて空を裂く。その光は真っ直ぐに伸び、ブレイブの頬へ確かな傷を作り出す。

 

「…後少し内側だったら、勝負が付いていたかもしれないわね」

「まだまだね、アタシは。でも、次は…外さない」

 

倒れ切る前に左手で地面を押し、飛び上がって一度距離を開ける私。ユニは当てた事に傲る事なくすぐに次の狙いを定め……そしてブレイブは、目を見開いて大剣を構える。

 

「…いいだろう…正義たる女神に対し、見せようではないか!我が燃え上がる勇気の炎をッ!全身全霊の、全てをッ!」

 

構えられた大剣より吹き出す炎は、これまでで一番の激しさを見せる。その熱量で周囲が揺らめき、陽炎を作り出す程の、熱い炎。

やっぱり、ブレイブには底知れない力があった。それが、短い命と引き換えの力なのかもしれない。あの炎を喰らえば、例え一瞬だとしてもダメージは計り知れない。だけど……不安はない。懸念もない。何故なら私は守護女神、ブラックハートだから。それに……

 

「…こっちも全力でいくわよ、ユニ」

「うん。…勝とう、お姉ちゃん」

 

私と共に戦ってくれるのは、私の妹…ラステイションの女神候補生、ブラックシスターなんだから。




今回のパロディ解説

・(〜〜見るんじゃない、観るのよ〜〜)
ジョジョの奇妙な冒険シリーズの主人公の一人、空条承太郎の名台詞の一つのパロディ。観察する訳ではないですが、ただ見るだけではない…という意味では同じですね。

・(〜〜見るんじゃない〜〜感じるのよ〜〜)
燃えよドラゴンの主人公、リーの名台詞の日本語字幕のパロディ。一つの台詞(心の声)に二つのパロディを入れてみました。丁度両方入ったんですよね。

・「〜〜正義の味方を超える、正義そのもの〜〜」
物語シリーズの登場キャラの一人、阿良々木月火の名台詞の一つのパロディ。厳密には火憐とセットでの台詞ですね。ここでは一纏めにしていますが。

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