超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百三十話 例え間違いだとしても

轟く射撃音。草木をしならせ砂煙を舞い上げる巨大な鉄騎。そして激突する、刃と刃。

 

「ふっ……位置取りが甘い…!」

 

両膝外部のコンテナに搭載されたスラスターを複雑に稼動させ、滑るように大型モンスターの背後へ回るメイジン機。背後を取ると同時に両腕部で保持したラックライフルを発砲し、即座に後退する彼の機体へ振り向いたモンスターが反撃をかけようとするも、その背後へメイジンの意図を汲んだ特務隊員による重機関砲の射撃が殺到。完全に注意が逸れていたモンスターはそれを諸に受け、地面へと沈む。

 

「隊長、雑魚の相手は我々にお任せを!」

「四天王の対応を優先して下さい!」

「……ならば、ここは任せよう!」

 

特務隊の名に恥じぬ動きで戦場を駆ける部下の言葉を受け、メイジンは視線をある方向へ。

 

「行けシュジンコウキ!ライバルキは援護、ジセダイキは側面からの牽制をせよ!」

「余所見…すんなよッ!」

「あんたの相手は…こっちよッ!」

 

その方向で矛を交えるのは、二機のMGと一体の巨人。そちらへメイジンが参戦する事により、両陣営の指揮官が一堂に会する形に。

 

「手を貸そう、ご両人!」

「っと、助かるわ特務隊長!」

「その必要はねぇ…と言いたいところだが、流石にこいつ相手じゃ分が悪いからな…!」

 

ブレイブからの一太刀を、槍剣を掲げたシュゼット機が防御。その瞬間クラフティ機が左から、合流したメイジン機が右から火器による挟撃をかけるが、ブレイブはブースターの噴射で空へと退避。

ならば、とクラフティ機もスラスターを吹かし、光実二種の機関砲で追撃。シュゼット、メイジンもまた武装を射程距離の長い物へと変更し、対空砲火で攻め立てる。

 

「相変わらずの勇気、称賛に値する!やはりこの国は女神も国民も素晴らしい!」

「それはどうも…ッ!」

 

空を飛ぶブレイブへ、正確な射撃が迫る。だが彼は一切臆する事なく、それどころか気分の良さそうな声を上げて弾丸と光芒を回避。そのブレイブの上空へとクラフティ機が回り込み、軽機関砲から持ち替えたナイフで首元を狙うが……

 

「…だが、今の俺は…容赦は出来んッ!」

「なッ……きゃあぁぁッ!」

 

ナイフが突き刺さる寸前、脚を振り出しブースターの噴射も併用したブレイブは一瞬で縦回転。上空からの一撃を避けるのみならず、その勢いのまま蹴り付ける事で…クラフティ機を、その主戦場たる空からはたき落した。

 

「……!大丈夫かクラフティ……ぐっ…!」

「速い…ッ!」

 

落下する妻の機体にシュゼットは目をやりかけるが、それをブレイブが許さない。身体が上下逆となっていたブレイブはそこから急降下をかけ、炎を纏った大剣の一撃をメイジン機へと放つ。その一撃こそメイジンは避けるが、避けられる事を見越していたかのように炎は大剣から離れ、地を焦がしながらシュゼット機へと猛進。シュゼットは視線を戻し、回避行動を取る事を余儀なくされる。

 

(速いだけじゃねぇな…重みも勢いも、前の時とはレベルが違う……!)

 

絶対にこの敵を通してはならないと、シュゼットは回避しつつ接近をかける。

彼とクラフティは、守護女神奪還前にも一度ブレイブと交戦を…それも今回同様時間稼ぎを行っている。だが二人は数度斬り結び、撃ち合った時点で気付き、更に攻防を重ねる事で確信していた。見た目や戦い方は同じでも、明らかに前回とは強さが違うと。

 

「最早引けとは言わん!恨んでくれて構わない!それが戦いなのだからなッ!」

「はっ、別に恨みゃしねぇよ。何せ、死ぬつもりはねぇからなッ!」

 

スラスター全開で突撃するシュゼット機。大剣を引き、ギリギリまで引き付けて突き出すブレイブ。槍剣と大剣が激突し、周囲へ激しく火花が散る。だが……推進器をフル稼働させていたシュゼット機と、本気ではあっても全ての力を込めていた訳ではないブレイブでは、後者の方が有利だった。

 

「ならば、この心に刻み付けよう…ラステイションの、勇敢なる戦士の姿をッ!」

「ぬぉわッ!?」

 

ほんの少しブレイブは力を抜き、同時に斬っ先を上へと向けた事で大剣は槍剣の上へ。その瞬間シュゼットは意図に気付くも、彼もラァエルフもそこから対応出来る程の力はなかった。

ブレイブが一気に力を込めた事により、上から押される形となった槍剣は穂先が地面に突き刺さる。その衝撃の反動をシュゼット機が受ける中、ブレイブは飛び上がり、燃え盛る炎を刃に纏わせる。

 

「あれは……不味いッ!シュバルツ1!」

「分ぁってる…ッ!」

 

火力からブレイブが勝負を決めようとしていると見切ったメイジンは、機体を空へ。槍剣をパージしたシュゼット機もまた高機動形態のまま上昇し、前者は重粒子収束剣、後者は両刃重剣をそれぞれ引き抜き、振り抜かれかけている大剣へと叩き付ける。

 

「その防ぎ方は……失敗だったなッ!」

「それは、どうでしょうねッ!」

 

新型動力炉を搭載した二機分の力で止まる大剣。だがそれも織り込み済みだとばかりにブレイブは二門の砲を両者に向け……放たれる刹那、高エネルギーシールドを展開したクラフティ機が割って入った。

大剣を二機が、砲撃を敢えて左右同調を行わなかったクラフティ機が押し留める。三機がかりの防御によって、寸前のところで止められたブレイブの大技。だが、そのせめぎ合いの中ブレイブは小さく笑みを浮かべ……

 

「…もし、貴君等の機体がもっと高性能であれば…結果は変わっていたのかもしれないな」

 

…ライオンを彷彿とさせる胸部のレリーフから、超至近距離砲撃を放った。

レリーフの砲口は、普段ならば二門の砲との同時砲撃の際にしか使われないもの。されどそれはその砲単体で使った場合、射程距離や収束率に問題があるからであり…至近距離且つ剣も砲も使えないという状況下では、むしろ隠し武装としてその力を発揮する。例えるならば…今、この瞬間のように。

 

「な、に……ッ!?」

「さぁ、終わりとしよう!この一撃をもって、この戦いを……!」

 

せめぎ合う中では射角を取れよう筈もなく、三機共コックピットブロックに被害はない。だが被弾によって体勢を崩され、そこからブレイブによって弾き返される。

再び振り被られるブレイブの大剣には、更に強く激しい炎が灯る。弾き返された三機は勿論の事、三機が対ブレイブに専念出来るようモンスターの相手をしていた各部隊員も最早間に合う筈もなく……

 

 

 

 

 

 

「──そこまでよ、ブレイブ・ザ・ハード」

 

──次の瞬間、一条の光芒と、はっきりと響く凛々しい声が戦場の空気を裂いた。

 

 

 

 

アタシの撃ち込んだ射撃で、お姉ちゃんの声で、大剣を振り上げていたブレイブが止まる。そのブレイブの正面へとアタシ達は回り込み、お姉ちゃんが声を上げる。

 

「全員、戦いながら聞きなさい!モンスターの掃討、或いは撃退を完了し次第貴方達は作戦通り後退する事!こいつの相手は私達がするわ!」

『了解!』

「それと……ここまでよく持ち堪えてくれたわねッ!」

 

まずは指示を出して、それから少しだけ顔を後ろに向けて、にっと笑みを見せるお姉ちゃん。心配しただとか、無理はしてないかだとか、そういう事は一言も言わない。でも、お姉ちゃんの声からは伝わってくる。貴方達なら心配するまでもないでしょう?…という、お姉ちゃんからの確たる信頼が。

 

「…後退、出来る?」

「はい、出来ますし…何ならまだ戦えますよ」

「ラステイションのMGは基礎フレームが堅牢です。この程度で行動不能にはなりません」

「それに…ユニ様ノワール様の前で格好悪ぃ姿は、見せられないってもんですよ」

 

お姉ちゃんとブレイブが正対する中、アタシは一度小破と中破の間というべき状態の機体を立て直す三人の元へ降り立つ。それからお姉ちゃん同様インカムで通信をかけたけど…反応からして、三人に強がってる様子はない。…これなら、大丈夫そうね…。

 

「…………」

「あら、降ろすの?」

 

地面を軽く蹴って飛び上がると、ブレイブはゆっくりと大剣を降ろす。その動きに、お姉ちゃんは挑発的な声をかける。それは女神化してる時のお姉ちゃんの性格由来な声かもしれないし、挑発する事で自分に注意を集めようとしているのかもしれない。

 

「…ブレイブ、アンタ……」

「……モンスター達よ、もし俺の命令を忠実に聞くのであれば…突破が困難だと判断し次第、各々散れ!お前達の命とて、無駄に散って良いものではない!」

「…なんのつも──」

「場所を変えるぞ」

 

アタシがお姉ちゃんに肩を並べ、名前を呼んだ直後に指示を叫ぶブレイブ。それからブレイブはアタシの言葉を遮り、小さくもはっきりした声で移動する事を提案…いや、移動すると言い切った。

 

「…行くわよ、ユニ」

「…うん」

 

反転して離れていくブレイブを、一拍置いた後追いかける。その背中は無防備に見えるけど……攻撃はしない。

ブレイブが飛び、それをアタシ達が追いかける事数分。軍もモンスターも見えない程に離れたところで…ブレイブは着地する。

 

「…………」

 

音を立てて降り、ブレイブはこちらへゆっくりと振り向く。対するアタシ達も地表付近まで高度を落とし…再び正対。

 

「……また会ったな、ブラックシスター、ブラックハート」

「そうね、こっちはまた会うなんて思ってなかったけど」

 

静かにブレイブが声を発し、それをお姉ちゃんが冷ややかに返す。…普通なら、一触即発の状況。でも、今は違う。

 

「…………」

「…………」

「…ユニ、あいつに言いたい事…あるんでしょ?」

「…いいの?」

「えぇ、出来る事は出来る時にやっておくべきよ」

 

アタシ達の間に沈黙が流れる中、お姉ちゃんがアタシの方を見て、アタシに勧めてくれた。ブレイブと、話す事を。

お姉ちゃんの言う通り、アタシにはブレイブに訊きたい事、言いたい事がある。女神であるアタシにとっては国と国民の守護が最優先で、場合によっては諦めなきゃいけないとも思っていたけど…お姉ちゃんがそう言ってくれるなら、躊躇う必要はない。

 

「……まずは一応訊いておくわ。アンタ、記憶がなくなってるとかじゃないのよね?」

「あぁ。お前と戦った事も、ブラックハートと戦った事も…お前に夢を託した事も、覚えている」

「…なら、これはどういう事よ。アンタの願いは…今アンタがしている事の先に、子供達が笑顔で夢を見られる世界があるっていうの?」

 

あの戦いで、あの決闘で、アタシはブレイブから夢を託された。夢を追い続けて、その為に努力し続けて、挫折しても諦めず、最後はたった一人の子供の為に自ら討たれた、ブレイブの夢を。だから絶対にアタシはその夢を叶えるつもりだったし、ブレイブに敬意も払っていた。

けど…今のブレイブは、その夢とは真逆の事をしている。その理由がアタシには分からなくて……問いを受け止めたブレイブは、言った。

 

「……ない、だろうな」

「……ッ!だったら…だったらなんでこんな事してるのよ!アンタの夢は、アンタが生涯かけて、四天王として転生しても尚追い続けたものでしょ!?アタシはその夢がアンタそのものだって感じたわ!なのになんでよ!?わざわざ場所を変えたって事は、自分の意思で身体を動かせてるんでしょ!?」

「その通りだ。俺は俺の意思で動いている。そして、俺の夢が俺そのものだと感じてもらえたのなら…悪い気はしない」

 

狼狽えも、弁明もせず、落ち着いてブレイブはアタシの問いに答える。…それが、アタシには気に食わない。許せない。もしブレイブが開き直ってるのだとしたら……

 

「…失望したわ…失望したわよブレイブ!アンタは間違いなく凄い奴だった!方法は看過出来ないものだったけど、思いはアタシやお姉ちゃんに負けない位立派だった!だからアタシは子供達の為だけじゃなく、アンタの為にも夢を受け継いだのに……なのにそんな簡単に夢を捨てたんだって言うなら、アタシはアンタを……ッ!」

「…捨ててなど……捨ててなどいないッ!捨てるものか…この、夢をッ!」

「……ッ!」

 

気に食わないし許せない。でもそれよりも強いのは、残念だという気持ち。勝手な思いの押し付けかもしれないけど、アタシは本当にブレイブを立派な奴だと思ってたから、残念で残念で、そんな気持ちを叩き付けていた。そして、アタシはブレイブと決別しようとして……その時だった。それまで淡々と返答するだけだったブレイブが、強い意思の下言葉を返してきたのは。

 

「ユニ、お前自身が言っただろう!俺の夢が俺そのものだと!そして俺はそれを肯定した!ならば…その上で俺が夢を捨てたというのなら、それはもう俺ではない!だが俺は俺だ!俺の意思が、俺自身を動かしている!」

「じゃあ聞かせてみなさいよ!今のアンタの意思を!アタシはアタシの道を見つけたわ!アンタは…アンタの心の中にいるヒーローは、どこへ向かうのよッ!」

 

ここに移動してきてから、初めて聞けたブレイブの熱い言葉。少し芝居がかっていて、とにかく熱量の凄い…ブレイブらしい思いの丈。それが聞けたアタシは、ほんの少し安心して…でもだからこそ真意を確かめたくて、その言葉に正面から言い返す。

向かう先も変わっていないだとか、改めて言おうだとか、そんな感じの事を言うんじゃないかとアタシは無意識に思っていた。けど、ブレイブが返したのはそのどちらでもなく……気分の良さそうな、小さな笑み。

 

「……ふっ…また一段と言うようになったな。ブラックハート、お前の妹は間違いなく大成するぞ」

「えぇ、知ってるわよ。私は最初から、ね」

「ちょっと…何よその返答は!アタシが聞きたいのはそんな言葉じゃ……」

「ならば、逆に問おう。夢を語るだけが、夢を与えんとする者のやるべき事なのか?」

 

思っていたのとは全然違う返答に、更に言えばお姉ちゃんの言葉にもアタシは調子を狂わされる。そんな中で訊かれた、ブレイブからの問い。…夢を与えんとする者の、やるべき事って……

 

「…ただ言って終わりじゃなく、その相手に手を貸す事…?」

「それも必要だな。だが、俺が思うやるべき事とは……大人として、その語る夢に恥じない人間である事だ!」

「…どういう事よ」

「簡単な話だ。俺は犯罪神様の臣下であり、犯罪神様には恩義がある。忠誠も誓い、その為に刃を振るってきた。…だが、俺は一度裏切った。あの時まだ俺は戦えるだけの力がありながら……自ら、敗北する事を選んだ。そうだろう?ユニよ」

「…そう、ね」

 

語り出したブレイブに、アタシは首肯。あの時というのは…きっと、アタシがブレイブを倒した時の事。そもそもブレイブは夢を叶える事と引き換えに四天王になったんだから、夢を優先するのは当然の権利な気もするけど…ブレイブが裏切りだというなら、それもまた間違ってはいないと思う。

 

「だが犯罪神様は、再び俺を蘇らせた。裏切った俺を、まだ切り捨てずにいるのだ。その上で俺が命を聞かなかったとすれば、どうなると思う?」

「…二度目の裏切りだって、言いたいの?」

「その通りだ。如何なる理由があれど、その行為が二度目の裏切りとなる事には変わりない。…そんな者に、夢を語る資格があると思うか?子供は夢を抱くと思うか?忠誠を誓った相手を、恩義のある相手を何度も裏切るような人間にそれがあるとは……俺は、思わん」

「…じゃあ、アンタは…大人としての誠意を見せる為に、戦ってるって事…?」

 

ゆっくりと頷くブレイブ。さっきまでの分かり易い熱量はないけど…思いの強さは、その言葉からしっかりと伝わってくる。

アタシは最初から、訳ありだと思っていた。ブレイブの意思の強さは知っていたから。でも淡々とした返しを聞いて、ブレイブの中からその熱が消えてしまったんじゃないかと思った。

だけどそれも違った。やっぱりブレイブには、あの熱があった。しかもそれだけじゃなくて、夢を語る者としての責任感や、ブレイブなりの忠誠心もあっての答えが、今のブレイブの姿で……アタシは言葉を失った。

 

(…何よ、それ…だったら何も変わらないじゃない…暑苦しくて、前ばっかり見ていて…でも誰にも負けない位真っ直ぐな、ブレイブのままじゃない……)

 

ブレイブは敵。ブレイブが忠誠を誓っている犯罪神は信次元を破滅させようとしていて、だからアタシはブレイブも犯罪神も止めなきゃいけない。倒さなきゃいけない。

その覚悟は出来ていた。夢はきちんと叶えてあげるから、アンタはゆっくり寝てなさいって言うつもりだった。…筈、なのに……。

 

「…………」

「言いたい事はそれだけか?それだけならば、武器を取れ。銃口を向けよ。俺はお前に夢を託したが……今の俺が敵である事には変わりない」

「それは…そうだけど……」

「俺は無益な殺傷は嫌いだが、必要とあれば、止むを得なければ、それをするだけの覚悟がある。戦わねば、お前の国民が…お前の大切な相手が、血を流す事になるのだぞ?」

「分かってるわよ!けど、アンタは…アンタの心は……ッ!」

「ユニ!お前は俺の夢を受け継いでくれたのだろう!?俺の代わりに子供の夢と笑顔が溢れる世界を作り、守ると言ったのは嘘だったのか!?それに何よりお前は、この世界を守る女神ブラックシスターだろう!ならば迷いを断ち切り、この俺を……ッ!」

 

投げかけられる言葉が、アタシの中でずしりと響く。それは言われるまでもない言葉で、普段ならば言い返している筈の言葉。なのにアタシは返せなかった。ブレイブの言葉を借りるなら……迷っていた。一度は…ううん、今も心が通じ合ってる筈の相手を、敵としてもう一度討つ事に。

そうしなきゃと分かっている頭と、そうだけどって迷う心。そのせめぎ合いで、アタシはちゃんと言葉を返せなくて……その瞬間、お姉ちゃんがアタシの前に立った。

 

「話の最中悪いけど…今度は私に言いたい事が出来たわ」

「……ならば、聞こう」

「…あんたは、あんたの願いがあって、あんたの果たしたい事があって、その願いと今している事が相反してると、分かってるのよね?」

「…そうだ」

「その上で、臣下として貫くべき事があるから、今こうしてる…そういう事よね?」

「…その通りだ」

「だったら…その忠道、大義よ!私はあんたを見逃すつもりはないけど、その在り方は賞賛に値するわ!」

 

アタシから見えているのは、お姉ちゃんの背中。お姉ちゃんの表情は分からない。分からないけど…その声と背中から、伝わってくる。そして、ふと思う。ブレイブの言うやるべき事とは、背中で語る事でもあるんじゃないかって。

 

「……勇猛にして気高きブラックハートにそう言ってもらえるのなら、光栄だな」

「当たり前よ、私にこう言わせた事は誇りに思っていいわ。だから…あんたは私の誇りにかけて、ブラックハートの名にかけて、私が倒すわ」

「……っ!お姉ちゃん、それは…」

「…不満かしら?ブレイブ」

「…いいや、夢を託したのはユニだが…元より俺はお前を素晴らしき存在だと思っていたのだ。故に、守護女神ブラックハートと戦う事に、何の不満もありはしない。…最も、倒せるのであれば…の話だがな」

「ブレイブまで……待ってよ、倒すならアタシが…!」

「…大丈夫よ、ユニ」

 

急速に高まっていく緊迫した空気。それが本来戦場にあるべき姿で…このままいけば、すぐに戦いが始まる。アタシが迷っている間に、答えを出せない間に、お姉ちゃんとブレイブが刃を交える事になる。

それは嫌だって思った。蚊帳の外になるのは、嫌だし駄目だって思った。だからアタシはお姉ちゃんの隣に出ようとして…それより早く振り向いたお姉ちゃんから、ぽふりと手を頭に当てられた。

 

「だ、大…丈夫…?」

「そう、大丈夫。…迷ったまま、無理に戦う必要なんてないわ」

「……っ…無理に、なんて…」

「…なら、戦いに専念出来る?今のままで、全力を尽くせる?」

「…それ、は……」

 

お姉ちゃんから向けられた真っ直ぐな視線に、ついアタシは目を逸らしてしまう。それにアタシがやっちゃった…と思う中、お姉ちゃんは置いた手で撫でてくれた。小さな微笑みを、口元に浮かべながら。

 

「いいのよ、別に。ユニはまだ成長中なんだし、貴女は夢を託されたんでしょ?だったら迷うのも仕方ないわよ。即断即決は良い事だけど…だからって迷ったままの状態や迷いを半端に切り捨てた状態で戦うのは、それこそ一番良くないわ、きっと」

「……でも、アタシは…アタシも女神なんだよ?そのアタシが、敵を前にしてそんな…」

「…私は、捕まってる間ずーっと貴女に女神の務めを任せてしまったわ。その間、ユニは女神候補生でありながら守護女神の務めまでしてくれてたのよ。これまでユニは、十二分に女神の務めを果たしてきた。だから…今、ほんの少し女神の務めを私に任せたって、貴女を責める人は……誰もいないわ」

 

最後にぽんぽんと軽く叩かれて、お姉ちゃんはブレイブと向き直る。それまで静かに立っていたブレイブは大剣を構えて、それに呼応するようにお姉ちゃんも大剣を手に。

二本の大剣を間にぶつかる、お姉ちゃんとブレイブの視線。空気は遂に完全な戦闘のものになって……アタシの目の前で、戦いが始まった。




今回のパロディ解説

・「その防ぎ方は……失敗だったなッ!」
NARUTOシリーズの登場キャラの一人、うちはサスケの台詞の一つのパロディ。この台詞とだと砲撃ではなく、剣に纏わせた炎で相手の武器を焼き切りそうですね。

・「〜〜アタシはアタシの道〜〜どこへ向かうのよッ!」
マクロスFrontierの登場キャラの一人、オズマ・リーの台詞の一つのパロディ。キャラ的にはむしろユニが言われそうですね、前半は今のユニだからこそ言える訳ですが。

・「〜〜忠道、大義ね!〜〜」
Fateシリーズの登場キャラ(サーヴァント)の一人、ギルガメッシュの名台詞の一つのパロディ。その後の『在り方』…という台詞も、一応元の台詞にありますね。

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