超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百二十五話 辿り着いた一筋の光

お姉ちゃん達をメイド喫茶風にした部屋でもてなして、リフレッシュさせてあげる作戦は無事成功。わたし達の作ったケーキを五人共喜んでくれて、ここのところお姉ちゃん達から何となく感じていたピリピリとした雰囲気も、綺麗さっぱり消し去る事が出来た。だから、今回の事は…控えめに言っても、大成功。

 

「まず私が手伝ったケーキを出して、その後機を見てティラミス投入なんて、中々憎い事をしてくれるね。私完全に踊らされちゃったよ」

「あはは、そう思ってくれたのなら何よりです」

 

ケーキ会の後、折角こんな良い気分にしてもらえたんだから…とお姉ちゃん達は今日の会議を切り上げる事にした。完全にお休みって訳じゃなくて、名目上は『一度頭をリセットし、これまでの意見を一人一人で見つめ直してみる』って形なんだけど…そういう判断が出来るだけの精神的余裕が生まれたなら、ほんとにわたし達の作戦は大成功。…って、これじゃわたし達が上の立場みたいな表現だね…。

で、今わたしは三人と片付けをして、それからイリゼさんとタワーの中をのんびり歩いている。お姉ちゃんとではなく、イリゼさんとなのには…特に理由はない。

 

「…でも、コンパにも協力してもらえたならどうして三種類は私に協力頼んだの?そんなに『お菓子作り=イリゼさん』って認識あった?」

「あ、それはですね…」

 

そこで一度言葉を切って、ある部屋へと入るわたし。それは、マジックが突入してきた部屋。元々ここはよく使う部屋で、窓もあの後すぐ業者さんを呼んで直してもらったから、この部屋に入る事を躊躇う理由は何もない。

 

「イリゼさんなら、わたし達のケーキ作りの監督をする中でもリフレッシュしてくれるんじゃないかなって思ったからです」

「…それがあったから、作る途中では教えてくれなかったの?」

「はい。半分はサプライズだから、もう半分はこの事があるから、秘密にしたんですよ」

 

部屋の中央で振り返って、窓を背にイリゼさんへ説明。ケーキ会はこれでリフレッシュしてねって言っても効果あるけど、指導の中でリフレッシュしてね…じゃ効果が微妙になっちゃいそうだもんね。

 

「そっかそっか…私はこれまで四人の事をよく見てきたつもりだったけど、四人も私をよく見ててくれたんだね」

「…それも、あるんですよ?」

「それ……?」

「これまでわたし達の事を見てきてくれたからです。…だから何か教えてもらう時は、まずイリゼさんかなって……」

「…もう、ほんっとにネプギアは良い子なんだから……」

「えへへ…でも、それはユニちゃん達にも言ってあげて下さいね…?」

 

わたしは色んな人に色んな事を教えてもらっているけど、こと指導にかけては…わたしにとって先生と言えば?…と言われたら、やっぱり最初に出てくるのはイリゼさん。でもそれを口にするのは少し恥ずかしくて、だから若干上目遣いになった状態で伝えると……イリゼさんは胸が一杯になったみたいな顔で、わたしの頭を撫でてくれた。…う、うん…嫌じゃないけど…やっぱりちょっと、恥ずかしいね…。

 

「……うん、やっぱり私はこっち側だよ…撫でてあげる側であって、撫でられる側じゃないんだから…!」

「え、あの…イリゼさん、そんな力込められると頭が揺れて……」

「あっ…ご、ごめんね…ちょっと意識が違うところに行ってた……」

 

…と、思っていたのは最初の方。思うところがあったみたいに段々とイリゼさんの撫でる力が強くなって、最終的には撫でるというか頭を揺らされる感じになってしまっていた。…はは…そういえばあの異様に厄介だったスライヌを討伐した時も、移動中イリゼさんは撫でられてたなぁ…。

 

「…でもほんと、四人には助けられたよ。私も雰囲気が悪くなっていた事は認識していたけど、何とかする事は出来なかった…っていうか、そんな事までしてられるか…って気分だったから」

「ですよね。わたし達だって、会議に参加してたらリラックスさせてあげようなんて思い付かなかったと思います。会議に参加してなくて、イリゼさん達とは能力も立場も違うわたし達だからこそ、今出来る事があるんじゃないか…なんて」

「…それは、皆で考えたの?」

「えっと…今日の事はわたしが思い付いたんですけど、思い付けたのは少し前にユニちゃんやロムちゃん、ラムちゃんと似たような話をしたからなんです。だから……」

 

結果的にではあるけど、今日の事はわたし達女神候補生が(気に病む事はあっても)比較的余裕があったから思い付く事が出来た。それに思い付いたのはわたしでも、これは決してわたし一人の力じゃなくて……

 

「…ふふっ」

「……?イリゼさん…?」

「成長したね、ネプギア。ほんと…ネプギアは成長したよ」

 

わたしが今日の成功の要素を思い浮かべていた時、いつの間にかイリゼさんは微笑んでいた。それからイリゼさんは、目を瞬かせるわたしに二度言う。わたしは、成長したって。

 

「技術も、知識もだけど、ネプギアは心が凄く成長した。今のネプギアは謙遜はしても過剰な卑下はしないし、意識なんてしなくたって周りの事を考えて、信頼して信頼されてる。…もう立派な女神だよ、ネプギアは」

「……っ…そんな事…わたしは、まだ…」

「あるよ、そんな事ある。…他でもない私が言ってるんだから、間違いないよ」

 

優しい微笑みで、イリゼさんはそう断言した。別に何か大きな事があったって訳じゃない、普通の会話から発展した、多分イリゼさんからすればなんて事ない普通の言葉。……でもそれは、わたしにとって凄く凄く嬉しい言葉だった。不意に言われて、一瞬泣いてしまいそうになる程嬉しかった。…だって、わたしが成長したんだとすればそれはイリゼさんが導いてくれたからで、切っ掛けもイリゼさんが与えてくれたものだから。そんな相手に、こんな事を言われたら……嬉しいに、決まってるじゃん。

 

「……でも、まだまだ…わたしはまだまだです」

「…ネプギア…謙遜はしても過剰な卑下はしないって言ったばかりなんだから、今位は自信を持った発言をしても……」

「まだまだですよ。お姉ちゃんも、イリゼさんも、他の守護女神の皆さんも…ううん、わたしがまだ目指すべき相手は沢山いるんです。だから…もっと成長します、わたしは。こんな程度じゃ、満足なんて出来ませんから」

 

褒めてもらえるのも、認められるのも、嬉しい。イリゼさんから言ってもらえれば、頑張って良かったって気持ちにもなる。けど……ここで満足してたら、わたしはお姉ちゃん達に追い付けないもんね。まだ犯罪神だっているんだから、今の自分をゴールにだなんて早過ぎるよ。

 

「…格好良いじゃん、ネプギア」

「う…そう言われると今度はちょっと気恥ずかしく……あ、この程度って言ってもわたしがこれまで皆と繋いだ絆を低評価してるとかじゃないですからね?これは言葉の綾っていうか、別に悪気があった訳じゃ……」

「あはは、分かってるよ。…けど、そういう事ならもうネプギアへの指導は出来ないかなぁ。ここまで成長してるなら、私の指導も及ばなくなってるだろうし…」

「えぇっ!?そ、そんな事はないですよイリゼさん!確かにわたしは前より前進してますけど、イリゼさんにそんな事を言わせるレベルじゃ……」

「……そのスタンスで行くなら、スタミナも必要になるよ?ビビットな反応は、連続してやると凄く疲れるから…ね」

 

ふっと遠い目をされ、そういうつもりじゃなかったのにとわたしが慌てると…それを見たイリゼさんは、にやりとそれまでとは違う笑みを浮かべて、何だかよく分からないアドバイスをしてくれた。…って、いやいや…これは、アドバイスに見せかけた…新手の弄りですよねぇ!?

 

「も、もう!こんな時にからかわないで下さい!」

「こんな時だからこそからかったんだよ。というか、そうは言いつつももう慣れっこでしょ?」

「それはまぁ…って、そういう問題じゃないです!後別にわたしはこのスタンスで行こうと思ってる訳じゃ……痛っ…」

 

最初は撫でられて、次は自分の発言で、今度はからかわれて恥ずかしくなるわたし。流石に三度目という事もあってか頬が熱くなってきちゃったわたしは、頬を冷やすのとこれ以上からかわれるのを回避する為に窓を開けてバルコニーへと出て……その瞬間、足の裏に何かが刺さるような痛みを感じた。

 

「…ネプギア?足でも挫いたの?」

「い、いえ…今何か踏んじゃって……」

 

わたしの声と足を上げる動作で気付いたイリゼさんは、声音に心配の色を混じらせてこちらへとくる。一方わたしは、上げた足の足首を掴んで足裏の確認。…感じとしては、部屋で落とした機械の部品を気付かず踏んじゃったり、砂浜で貝殻踏んじゃった時のに似てるけど……って、これは…。

 

「…ガラス片……?」

 

足の裏…というかニーハイに食い込んでいたのは、小さくて透明な何かの欠片。手に取ってみるとやっぱりガラス片で、幸い足もニーハイも切れてはいない。

 

「…これ、もしかして……」

「割られた窓の破片だろうね。他にも一つか二つ位はまだ落ちてるかもしれないから、足元には気を付けて」

 

そう言いつつイリゼさんは目を凝らして、他のガラス片を探す。でもガラス片は透明だし、バルコニーだってそれなりの広さがある。おまけにすぐ見つかる破片ならもうとっくに掃除されてる訳で……って、そんなのイリゼさんなら分かってるよね。

 

「履き物持ってきて、それを履いて歩き回ってみます?そうしたら終わった時には、裏にガラス片が付いてたり…」

「それはどうだろう…ただ歩き回るだけじゃ踏み残した場所が点在しちゃいそうだし、踏めば必ず食い込むとも限らないよ?」

「それもそうですね…でもまさか、こんな出て早々に踏んじゃうなんて運がない……」

 

バルコニーは破片処理の為に掃除をされていて、わたしは歩き回った訳でもない。なのに踏むなんて、確率で言えば物凄く低い…低、い……

 

 

…………あれ…?

 

「……うぅ、ん…?」

「…どうかした?」

「いや、あの…なんか変っていうか…何か違和感が……」

「……何に?」

「わ、分かりません…」

 

突然感じた、何だかよく分からない違和感。どこか引っかかるような感じがあって……でも何に対してなのか、何が引っかかっているのかはさっぱり分からない。

 

(うーん…気のせい、ではないと思うけど……)

 

顎に指を当てて、考えてみる。もしわたしが危ないお薬をキメてる人なら頭とか神経の異常でこういう事を感じるかもしれないけど、そんな事はしてないんだからこの引っかかりには原因がある筈。…だよ、ね……?

 

「…気になるの?」

「はい…どうもこれはどうでもいい事じゃない気がして…」

「だったら私も手を貸すよ。変だと思った直前に考えていた事は何?」

「えと…ガラス片踏むなんて不運だなぁ…って考えてました」

「ふむ…じゃあ、周りで気になるものは?少し見回してみて」

「周り……」

 

考え込むわたしへ、イリゼさんは助言をしてくれる。周り、周りは……別におかしい物とかないけど…。

 

「…出てこない?だったら次はここまでの行動を振り返ってみて。それかいっそ再現してもいいかも」

「さ、再現ですか?……してみます」

 

そこまでの事じゃ…と一瞬思ったけど、今のところ進展はないし、考え事に付き合ってもらってる身で折角の案を試しもしないのは失礼というもの。……という訳で、わたしは一度部屋の中へ。

 

「……?どうしてイリゼさんまで…?」

「私もやった方が、再現度は高くなるでしょ?今もさっきも二人で話してたんだから」

「あ、ありがとうございます…じゃあ取り敢えず、ここに来てからの再現を…」

 

廊下にまで移動して、わたし達は再現を開始。行動はともかく、話した内容を一字一句再現するのは流石に無理だからそこは「こんな事言ったよね」程度に収めて、部屋内での事が終わったら次はバルコニーに。

 

「…ここでわたしがガラス片を踏んで……」

「私が軽く注意しつつ探してみて……」

「それからガラス片見つける方法の話をした後で、ネプギアが違和感覚えたんだよね。…どう?何か気付きはあった?」

 

そうしてわたし達の再現は終了。結果は……あんまり、芳しくない…。

 

「ごめんなさい、特には……」

「そっかぁ…再現度の問題かな?そうだった場合はどうしようもないけど…ネプギアってムーディー・ブルース使えたりは?」

「使えたらそれで再現してますよ…」

 

その後もイリゼさんから意見をもらったり、わたし自身で頭を捻って考えてみるけど、それでも違和感の正体は分からないまま。こうなると段々「やっぱり気のせいだったんじゃ…」って思いが出てきちゃって、その思いがあるとやる気も少し減ってしまう。

 

「…もしかして、引っかかってるのは全然関係ない事なのかな…誰かに何か頼まれてたのを思い出したとか…」

「…誰かに何か頼まれてるの?」

「いえ…でも、ここまで全く進展してない訳ですし…」

 

気にはなる。勘違いじゃないとも思う。だけど楽しくもなければやらなきゃいけない事でもない思考をいつまでも続けるのは楽じゃなくて、どうでもいい事かもしれない引っかかりにいつまでもイリゼさんを付き合わせるのも申し訳ない。…うん、そうだよ…折角リフレッシュさせてあげたばっかりなんだから、これ以上はイリゼさんに悪いよ。

 

「…イリゼさん、後はわたし一人で考えてみます」

「そっ、か…ごめんね、あんまり力になれなくて」

「そ、そんな事ないですよ。むしろこんな事にここまで付き合ってくれて嬉しい位で…」

 

そう断りを入れると、イリゼさんはすまなそうな表情をして…でもすぐに、肩を竦めて「なら仕方ないね」って顔をした。……申し訳って思って言ったけど…逆に、気を遣わせちゃったかな…。

 

「でも、何だったんだろうね。…実は、前の窓ガラスと今の窓ガラスは微妙に違ってて、それが気になったとかだったりして……」

「そ、そこまで細かい性格じゃないですよ、そこまで……」

 

元々わたしの引っかかりだったのに、いつの間にかイリゼさんも気になり始めていた様子。その思いを冗談に混ぜながら窓の方を向いて、爪で軽く窓を突いているイリゼさんへわたしは苦笑いしつつ返答し…………

 

「……え…っ?…ぁ、え…?」

 

──その瞬間、わたしの頭の中に様々な情報が駆け抜けた。踏んだガラス片。飛び散っていたガラス片。盛大に割れた窓。恐らくそこから侵入してきたマジック。そして、今のイリゼさん。それ等の情報が繋がり、一つの答えを形作っていく。そうだ、これは…これが示すのは……!

 

「……?今度はどうし…」

「あーーーーーーっ!!?」

「ええぇぇぇぇっ!?な、何!?急に叫んで何!?」

 

イリゼさんからすれば、わたしは突然「えっ…?」とか「ぁ、え…?」とか意味の分からない声を漏らした後、戦闘時でもそうそう出ないような声量で叫んだという状況。だから驚くのも当たり前の反応なんだけど……そんなイリゼさんの両肩を、わたしはガッと掴みかかる。

 

「わ、分かりました!分かったんです引っかかりの正体が!そうだ、そうだったんだ…!」

「そ、そうなの…?それは良かったね…っていうか、顔近い顔近い…」

「そんな事気にしてる場合じゃありません!これは重要な事なんですッ!分かってるんですか!?」

「は、はい!?え、私怒られてるの!?」

「怒ってないです!それより今から話しますので、イリゼさんはわたしの考えが正しいかどうか判断して下さい!これは本当に!重要な事なんですからッ!」

「う、うん分かった判断する判断します!だから、ちょっ…ぐわんぐわん振りたくるのは止めて!最悪当たるから!下手するとおでこ辺りにキスしちゃうからぁ!」

 

それはあまりにも重大な気付き。これからのわたし達を左右してしまう程の、超重要ファクター。その事実そのものに、加えてそれに気付けた事にわたしは興奮して、ついイリゼさんを前後に振りまくってしまう。こんなの失礼にも程があるけど…今回ばかりは仕方ない。だってそれ位にわたしの気付きはとんでもない事だったんだから。

それからわたしは部屋の中へと戻って、イリゼさんへと説明。イリゼさんは始め不思議そうな顔をしていて…でもわたしと同じ結論に辿り着いた途端に、目を見開いて驚きを露わにする。その後は二人で考えに間違いや勘違いがないか確認して、それはないと確信したところで……思った。これは、いけるって。

 

 

……因みに説明する前、少し冷静になったわたしは肩ぐわんぐわんについて平謝りした。…もし、イリゼさんの言う通り、事故でもおでこ辺りにキスされてたら……う、うん!この先を考えるのは止めておこうかな!

 

 

 

 

ネプギア…というか候補生の皆のおかげで幸せな気持ちになったわたしは、この幸せな気持ちを少しでも維持しようと思ってゲームをしていた。…頭の片隅では今日までの会議の見直ししてたよ?そりゃしてるって〜。

けど、ゲームに熱中している真っ最中に、わたしは会議室へと呼ばれた。…おっかしいなぁ、今日はもう無しって事にしたのに……。

 

「ねぷ子さんとうちゃーく…ってあれ?わたしが最後?」

「そうですわよ。ネプギアちゃんが早く話したいみたいですから、とにかく座って下さいな」

「あ、うん…」

 

会議室には、女神全員といーすん達教祖の姿。それは呼び出しの時点で分かっていたけど…意外だったのは、ネプギアが何か言いたげな事。…あからさまにうずうずしてる……。

 

「…では、全員揃いましたし始めましょうか。わたし達は、聞いていればいいんですね?(・ω・`)」

「はい。それじゃあ……わたし、気付いちゃったんです」

 

わたしの着席を確認したいーすんは、ネプギアに話を振る。それを受けたネプギアは、すぐ近くに座るイリゼとアイコンタクトを取って…それから、気付いちゃったと切り出した。…気付いちゃった?気付いちゃった、って……

 

「…このゲームの必勝法に…?」

「いや、わたし達はライアーゲームしてる訳じゃないから…」

「じゃあ、ギッアチャン?」

「わたしあんな特徴的な格好も口振りもしてないよ!?…そうじゃなくて、トリックに気付いたの」

『トリック……ザ・ハード…?』

「そっちでもないです……」

 

いつもの調子で放った二連ボケに、ブランとロムちゃんラムちゃんの勘違いにネプギアはげんなり。…でもまぁ、わたしはともかく三人の勘違いは仕方ないよね。三人はトリックと少なからず因縁あるし(わたしもちょっとある)、そのトリックは他の四天王と一緒に復活しちゃった訳だし。

 

「…こほん。わたしが気付いたのは、マジックが…四天王がわたし達を騙す為に行った、トリックです」

『……!』

 

軽く咳払いをして気を取り直し、ネプギアは言った。その言葉を聞いた瞬間、会議室の雰囲気が一気に変わる。

まず抱いたのは、どういう事?…という疑問。その疑問はわたしだけのものじゃなくて、怪訝な顔をしたユニちゃんが口を開く。

 

「…ネプギア、騙す為って…?」

「言葉通りの意味だよ。皆さん、覚えてますか?マジックがプラネタワーに現れた時の状況を。部屋の中が、どうなっていたかを」

 

解説は、わたし達へ問いかける形でスタート。あの時部屋は…と、わたし達は記憶を辿る。

 

「…あの時は、窓が割られていたね」

「で、マジックの姿があった。そこにアタクシ達がやってきて…」

「その少し後にルウィー…いえ、各国に他の四天王も現れましたね。最も、連絡が来たのが少し後というだけで、出現自体は同時だったのかもしれませんけど」

「そうです。そこでわたし達は四天王の復活と、国民を人質に取られた要求をされた訳ですけど…そこにトリックがあったんです。あの時既に、わたし達は騙されて…いえ、勘違いしていたんですよ」

 

教祖三人の言葉に頷いて、ネプギアは解説を進める。…けど、まだ具体的にどういう事かは分からない。…結論から言ってほしいけど…折角ネプギアが話してるんだから我慢我慢。それに内容によっては、結論だけ聞いても分からないかもだし。

 

「あの時の考えを思い出してみて下さい。窓が割られていて、マジックの姿があった事から、こう思いませんでしたか?マジックは窓を割って、中に入ってきたんだって」

「…思ったわ。でも、その言い方…もしやこの認識は間違ってるの?」

「そういう事です。…よーく考えて下さい。あの時、窓ガラスは…割られたガラス片は、どうなっていましたか?」

「どうって…ガラス片は窓の周りに散乱してたじゃない。割られた窓ガラスの破片が、下に落ちる。それは何にもおかしくなんか……」

 

続くネプギアの言葉に、ブランが首を傾げて、ノワールが答える。ノワールの返答を聞きながら、わたしも考える。あの時は、中にも外にも沢山ガラス片が落ちてたんだよね?…ネプギアがこう言うんだから、ここに何かあるんだろうけど…それって普通の事だよね?わたしは何か見落としてたのかな?それとも視点の問題……と、そこまで考えたところだった。わたしの思考も、ノワールの言葉も止まったのは。

 

「……待って、お姉ちゃん…これ、何かおかしいよ…」

「そうね…私達は何か勘違いしてる…どこかにおかしい事があるわ…」

「えぇ、そうですわ…これは何か…いえどこかが…」

「……っ…そ、そうよ。おかしいのは、ガラス片の…」

「あーーーーーーっ!!?」

『はい!?』

 

ぽつぽつと出始めた言葉。段々皆の顔付きが変わっていって、目の光が強くなっていって……そんな中、ぱっと『おかしい事』に気付いたわたしは、つい大声で叫んでしまった。わたしの声に皆はびっくりしてこっちを向くけど、気付いた直後のわたしはそれどころじゃない。

 

「ほんとだ!わたし達勘違いしてたじゃん!そ、そうだよネプギア!マジックが窓を割って入ってきたなら、()()()()()()()()()()()()なんておかしいじゃん!」

 

椅子から勢いよく立ち上がって言い放ったわたしに、ネプギアは力強く頷いてくれる。…それはつまり、その通りだよって事。…そっか、ネプギアが気付いたのはこれだったんだ…!

 

「…お、おねえちゃんどういうこと…?」

「窓でも何でも、突き破られた場合は手前側じゃなくて向こう側に沢山破片が落ちるものなのよ。外側からなら内側に、内側からなら外側に…攻撃したのに自分側へ沢山破片が飛んできたら、二人も変だと思うでしょ?」

「うん、へんだと思う…(こくこく)」

「…あの時破片は大雑把に言って均等に落ちていました。これは間違いないと思います( ̄^ ̄)」

「じゃあ、マジックが割った後破片を分散させたって事?…でも、どうして…?」

「ううんお姉ちゃん、多分それは違うよ。ここからは推測だけど、破片を分散させたのも、割ったのもマジックじゃない」

 

勘違いに気付いたわたしは興奮したけど、少ししてそれは何故か?…という気持ちになる。それをそのまま口にしたら…今度はネプギアは、ゆっくり首を横に振った。横に振って、それから続ける。

 

「確信はないけど、割ったのは別の人…タイミング的にあの時の職員さんなんじゃないかな。で、どうしてかって言うと…それはわたし達に、マジックが割ったと思わせる為。物理的干渉で破壊してるんだから、あのマジックは本物なんだろうってわたし達に錯覚させるのが狙いだったんだよ」

「え…じゃあ、それって……」

「考えてみれば、変だよね。わたし達を脅すなら、ずっと四天王がここや各国の教会前にいた方がいい筈だもん。敵が国の中心施設にいるのに、どうして女神は何もしないんだって国民さんに思わせる事が出来るんだもん。…なのにしなかったのは、そうする事が出来ないか不都合な事があるかのどっちか。つまり……」

 

そこで一度言葉を切ったネプギア。もう結論は見えかかっていて、イリゼ以外全員神妙な面持ちでネプギアを見つめてる。そんな中、ネプギアは多分とか推測とか言いつつも、どこか確信のある顔で……言った。

 

 

 

 

「──四天王には、実体がないんだよ。少なくとも、あの時は『現れた』んじゃなくて…『表れた』んだよ」

 

それは、一つの可能性。もしもそれこそが勘違いだったら、取り返しのつかないミスに繋がる。でも、正しい見解だったとしたら、これはこの絶望的な状況を覆す、一筋の希望になる。……ネプギアが気付いたのは、それ位に大きなものだった。




今回のパロディ解説

・ムーディー・ブルース
ジョジョの奇妙な冒険第5部、黄金の風の登場キャラ、レオーネ・アバッキオのスタンドの事。ネプ「ギア」と言えば別のキャラを思い出しますが…それは次の機会にですね。

・ライアーゲーム
LIAR GAME及び作中でのゲームの事。こちらはパロディとしては微妙なラインですが、直前の「わたし、気付いちゃったんです」も似たような台詞が作中にありますね。

・ギッアチャン
お笑い芸人、重川昌弘さんの事。髪を赤く染め、太った状態でわーいわい、とか言うネプギア……ちょっと、いやかなり想像したくないですね。

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