超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百二十三話 襲来する絶望

犯罪組織残党の最後の組織立った行動である、四ヶ国への同時攻撃の中で、マジック・ザ・ハードはネプテューヌとネプギアによって討たれた。倒され消滅する姿を私は見た訳じゃないけど、二人が見間違えるとは思えないし、実際犯罪神の危機にも現れなかったんだから、私達は全員倒されたものだと考えていた。……けれど、今…そのマジックが、私達の目の前にいる。

 

「どう、して…貴女は、わたし達が……」

「倒した筈、と?…あぁそうだ、貴様とパープルハートによって、この身は一度消滅した。だが、我は今存在している。…犯罪神様の、力によってな」

「……っ…犯罪神だけじゃなく四天王まで復活なんて、そっちは随分とズルいんだね…」

 

バルコニーから部屋の中へと入ってくるマジック。大いに割れ、外にも中にも破片を散らしているガラス窓は、彼女にとって何の障害にもなっていない。

 

「…はっ、国の主要機関…それも女神が集まってる時に堂々と現れるなんて、随分と度胸のある事してくれるじゃねぇか」

「ほんと、大した度胸よね。最も、貴女がしたのは勇敢な行動じゃなくて愚行でしかないけど」

「復活したというのなら、もう一度倒せばいいだけの事。さぁ、覚悟して頂きますわよ」

 

突然の事に、私達は全員が驚いた。けど、目の前に敵が現れたのなら…その敵が強大な存在ならば、取る対応は一つ。

左右に分かれつつ、意識を戦闘のそれに切り替える私達。それと同時に私やネプテューヌ達は女神化しようとし……

 

「…短気なものだな。女神といえど、所詮は戦う事こそが本能か」

 

その寸前に、私達へ冷ややかな目が向けられた。…含みのある、戦闘意思とは別のものが感じられる声音に、私達は動きを止める。

 

「……何よアンタ、アタシ達と戦いに来たんじゃないの?」

「ふん、目障りな貴様など今すぐにでも亡き者としたいところだが…ここへと来た目的は別にある」

「別?それは一体……」

「まぁ、焦るな。それよりもまずは、今何が起こっているかを知ってもらおうか」

 

私の問いを遮り、口元に手を近付けて再びマジックは含みのある言葉を発する。マジックは何を言いたいのか、この勿体ぶった言い方には何か裏があるのか。構えるどころか武器すら出さないマジックの一挙手一投足に私達が注視し、同時に思考を巡らせる中……ノワール、ベール、ブランの携帯がほぼ同時に鳴った。

 

『……っ!?』

「…どうした、取らないのか?重要な連絡かもしれないぞ?」

「マジック、貴女…ッ!」

 

煽るような口振りのマジックに、ノワールが瞳に怒りを灯して睨み付ける。でもその間も携帯は鳴り続け、続いて候補生や教祖の人達にも着信は波及する。

女神と教祖の携帯が、揃って鳴るなんてそうそうない。そんなそうそうない事が起こったという事はつまり、そうそうない事態が…緊急事態が起きたって事。だからノワール達は、明らかにこの事態に関係している様子のマジックを数秒間睨んで…それから、電話を受けた。電話を受けて、電話の相手から話を聞いて……全員、目を見開く。

 

「み、皆…何があったの……?」

「……リーンボックスの教会に、ジャッジが現れましたわ…」

「ジャッジって…ジャッジ・ザ・ハード!?…じゃあ、ラステイションとルウィーも…」

「…えぇ、こっちはブレイブよ……」

「ルウィーにも、トリックが現れたわ…」

 

ネプテューヌの言葉にベールが、それに反応した私の言葉にノワールとブランが答える。そして、三人の言葉によって……四ヶ国全てに、復活した四天王が現れた事を私達は理解する。

 

「ふっ、抜かったなぁ女神。どうだ、優位だと勘違いした状態から危機へと落とされる気分は」

『……っ…』

 

嘲笑いの笑みを浮かべるマジックと、歯を噛み締めながらも言葉を返せない私達。マジックが復活した以上、他の四天王の復活もあり得ない話じゃない。…けど、その全員が各国の教会に現れるなんて、想像していなかった。想像出来なかった。…そんなのあり得る訳ないって、無意識に思っていた。

 

「……教会の人間、ひいては三ヶ国を人質に取り私達を始末しようという事か…仮にも神の名を冠する者の臣下とは思えない、卑劣な策だな…」

「貴様にだけは言われたくないな、マジェコンヌ。…だが確かに、貴様達が我の要求を聞き入れないようであれば教会に、街に死体の山が出来上がるだろう」

「テメェ……っ!」

 

敵意…いや、殺意を込めたブランの視線がマジックへと刺さる。それを意にも介さず、代わりに見下すような視線を向けてくるマジックに私達は飛びかかりそうになるも……一歩前へと出たマジェコンヌさんに、手で制される。

 

「…要求とはなんだ。何をさせようとしている」

「なぁに、簡単な事だ。貴様達はただ、犯罪神様が完全な状態となるまでここにいればいい。それが守られている限りは、各国の人間にも危害は加えない。…最も、今生き長らえようと滅びの運命は避けられはしないがな」

 

冷静に、話を進めるマジェコンヌさん。その姿を見れば、沸騰しかけていた私の…そして完全に沸騰していたであろう守護女神の四人の頭もある程度冷える。…今、頭に血を登らせるよりやる事があると、彼女の態度が教えてくれた。

 

「ここ、って…プラネタワーから出るなって事ですか…?」

「それ以外に何がある。犯罪神様は寛大だ、この施設内を歩き回る分には目も瞑ってくれよう」

「…人質を取り、時間稼ぎとは…それは遠回しに貴女の崇拝する犯罪神が、今のままではわたくし達に勝てない事を認めているようなものですけど、それで貴女はいいのかしら?」

「何とでも言え。我は犯罪神様の意向に沿い、犯罪神様の大望を成就させる為の存在。そもそも策略の範疇である行いに、いいも悪いもないだろうに」

「ぐぐ…じゃあバルコニーとかは出ても大丈夫なの!?」

「ふん、勝手にするといい」

 

ネプテューヌやネプギアから聞いていた通り、言葉の端々から犯罪神への信仰心を感じるマジックに対し、ベールがその信仰心を逆手に取った駆け引きをしかけるも、マジックはまるで揺らぐ様子を見せない。そこからネプテューヌも言葉を発するも、何とか捻り出した事がありありと伝わる位、出てきたのはあからさまに意味不明な質問だった。…多分、少しでも行動出来る範囲を広げようとしたんだろうけど……バルコニーに出られるのは、どこまで利になるんだろう…。

目的を果たしたからか、マジックは背を向けバルコニーの方へと移動を始める。私達が睨み付ける中、マジックは外へと出て…そこで足を止める。

 

「…哀れなものだな。人をシェア確保の為の糧と見ていれば、こうして窮地に立たされる事もなかっただろうに」

「……例え危機を回避出来るとしても、わたし達はそんな女神になるつもりはありません」

「…ならば、信者の為にここで手をこまねいているがいい。何も出来ぬ己の無力さを、悔やみながらな」

 

毅然としたネプギアの返答を受け、マジックは再び歩き出す。そして、バルコニーの端へと辿り着いた彼女は飛び降り……私達がそこへと駆け寄り下に目を向けた時、マジックの姿はもうなかった。

 

「……くっ…!」

 

手すりに握った拳を打ち付けるノワール。誰も言葉を発さない。ネプテューヌやREDですらも、今は雰囲気をどうにかしようとはしない。…それ程までに、今は危機的…いや、絶望的な状況だった。

 

 

 

 

それから、数日が経った。あの後すぐに三ヶ国に現れた四天王が消えたという連絡が来て、それからは一度も姿を見せない事から、マジックの言葉が嘘である事も、約束を違えるつもりもない事も分かったけど……そんなのは、気休めにしかならない。

 

「これは、承認しても…いい、かな」

 

申請の来ていた書類に目を通して、判子を押す。読んで判子を押すだけといえば楽そうな仕事(実際行動としては楽)だけど、判子を押すというのは責任を背負うという事。それを意識するようになってからは、楽だけど気楽には出来ない仕事…というのが、わたしの認識になった。

 

「……仕事、終わっちゃった…」

 

判子を押して、それを承認済み書類の所に入れたら仕事は終了。…べ、別にわたしの仕事がこれだけって事じゃないですよ?そんな窓際女神だったりしませんからね?そうではなくて…。

ここ暫くは犯罪神と犯罪組織絡みで通常業務を出来ない事も多かったから、デスクワークは減らしておいた。だから元々一日のノルマは少なめで、しかもわたしは犯罪神が完全覚醒に近付きつつあるのに何も出来ない事、その事でお姉ちゃん達やいーすんさん達がピリピリしている事がどうしても頭から離れなくて、そんな中で気を紛らわせる為に仕事へ専念していたらかなり早く終わってしまったという話。

 

(…どうしたら、いいんだろう……)

 

やる事がなくなると、決まってこれが頭に思い浮かぶ。犯罪神を倒さなきゃ、何もかもなくなってしまう。犯罪神は物凄く強い相手だから、戦うのが遅くなれば遅くなる程危険は大きくなる。でも、わたし達がここを出たら……沢山の人が、四天王に襲われる。プラネテューヌの人達は守れるけど、他の三ヶ国へは間に合わないし、自分の国の人じゃなくたってわたしはそんなの許せない。やらなきゃいけない事があるのに、どうにかしなきゃなのに、出来ない。…それが、どうしようもなく……もどかしい。

 

「光学迷彩…はまだ実用レベルの物が完成してないし、今から作っていたらどう考えたって間に合わないし、そもそも開発の為の資材搬入でバレるよね…」

 

このまま待っていたって、状況が悪くなるだけ。それは分かっているから色々考えるけど、良いアイデアなんて一つも出てこない。

 

「…でも、思い付かなくたって諦める訳にはいかないよ…わたしの為にも、皆の為にも……」

 

握った拳で胸元をとんとんと軽く叩いて、自分で自分に言い聞かせる。それからまず仕事で出していた道具をしまって、そうしながらまだ何か策がないかを考え……

 

(…そういえば、今日もお姉ちゃん達は話し合いをしているのかな…?)

 

ふと、守護女神の四人とイリゼさんで毎日話し合いを重ねているお姉ちゃん達の事を思い出す。どうにか出し抜く手はないか、ここにいたまま四天王を排除する術はないかと議論を交わしていて……今のお姉ちゃん達は、本当にピリピリしている。それはもう、わたし達妹でも近付くのを躊躇う位に。

 

(…身も蓋もないけど、お姉ちゃん達が五人で考えても出てこないなら、わたし一人で出てくる訳がないよね…条件や目的が違うならまだしも……)

 

勿論それでもわたしは考えるけど、あんまり可能性は高くなさそうなのも事実。ビギナーズラックとか、素人だからこそ気付けた意外な策っていうのもあるけれど……流石に今のわたしはもうビギナー女神でも素人女神でもない(ビギナーズラックはちょっと違う気もするけどね…)。というか一人の知恵や知識なんて限界があるんだから、せめて誰かと……

 

「…って、あれ…?…わたしに出来る事…お姉ちゃん達のしてる事……気の立ってるお姉ちゃん達…わたし達なりに、出来る事…あっ……」

 

それまでバラバラだった点と点が繋がるように、わたしの中で浮かんでくる幾つもの言葉。それが答えになりかけて、でも後一つピースが足りなくて……机の引き出しにあった飴玉を見た瞬間、ぱっとわたしは思い付いた。

 

「…うん、いいかも…やる価値はあるかも!よーし、そうと決まれば早速……」

「ネプギア、ちょっとはなしたいことがあるの!」

「あっ…ラムちゃん、ノックしなきゃだめだよ…」

「さも当然かのようにノックせず開けたわね、ラム…」

 

引き出しを閉じて、さぁ出ようと思った瞬間に開いた執務室の扉。反射的にそちらへ目を向けると、真剣そうなラムちゃんと、少し困り顔のロムちゃん、それに呆れ顔のユニちゃんが入ってくる。

 

「え、っと…どうしたの?皆」

「だから、はなしたいことがあるの」

「…三人とも?」

「あ、うん…」

「アタシは…まぁ、アタシもそうね。二人と一緒になったのは偶々だけど」

「ユニはネプギアとはなしたくて、でも入るゆうきがないからずっとへやの前で待ってたのよねー」

「な……ッ!?ち、違うわよ!アタシはネプギアが仕事中だと思って待ってただけ!別に入る勇気がなかったとかじゃないわよ!」

「あ、あはは…そうだったんだ……」

 

ユニちゃんとラムちゃんによる、よく見る光景に苦笑いしつつも応接用ソファに座る事を勧めるわたし。でも三人共(特にロムちゃんラムちゃん)すぐに話をしたいみたいで、誰も座ろうとしない。

 

「全く…で、ネプギア時間は大丈夫?まだ仕事が残ってるなら、待つなり手伝うなりするわよ?アタシはここで出来る仕事なんて限られてるし」

「ううん、仕事はさっき済んだから大丈夫だよ。それより、話って?」

「わたしたち、いても立ってもいられないの!」

「あ、う、うん…その理由は…?」

「言わなくたってわかるでしょ!」

「そんな事……は、あるね…うん。わたしもじっとしていられない気分だよ、ラムちゃん」

 

いつも以上に元気一杯…というより、普段なら発散されている筈のエネルギーが残ったままで飽和気味なラムちゃんの勢いに押されかけるも、すぐにわたしはラムちゃんの気持ちに気付いて首肯する。

 

「でしょ?うんうん、わかってるじゃないネプギア」

「すごい…ラムちゃんのことをわかってくれるのは、わたしもうれしい…(にこにこ)」

「分かったっていうか、同じ気持ちだからね。このまま犯罪神や四天王の好き勝手にされるのは嫌だし、だからって沢山の人が傷付くのも嫌。それに…お姉ちゃん達がいつものお姉ちゃん達じゃないのも、何とかしたい。…そうでしょ?」

『うん!』

 

二人の…そしてわたしの抱いている気持ちを口にすると、二人は揃って大きく首を縦に振る。…ロムちゃんとラムちゃんがそういう理由で来たって事は、もしかしてユニちゃんも…。

 

「…同じ理由か?…って顔してるわね」

「あ…顔に出てた?」

「出てたから言ってんの。…えぇ、アタシも同じ理由。ただ、アタシの場合は確かめたい…ってのもあるわ」

「確かめたい…?」

「…ブレイブは、こんな手段を好む奴じゃない。アイツの正義が、これを良しとする筈がない。だから確かめたいの。今一度、アイツの真意を」

 

真っ直ぐなユニちゃんの瞳から感じるのは、信じたいという思い。わたしはブレイブの事をあまり知らないし、ユニちゃんとブレイブの決闘は見てすらいないけど…ユニちゃんにとってのブレイブが、ただの敵じゃない事はよく知っている。その思いは、わたしやロムちゃん、ラムちゃんにはないものだけど…共通してるかどうかなんて関係なく、友達として応援したい。

 

「…たしかめたい……ラムちゃん…」

「…そうだね、ロムちゃん」

『……?』

「あ…気に、しないで…」

「そうそう。うら若きおとめのヒミツなんだから」

「アタシ達とアンタ達は実年齢同じだっての…実年齢って表現はちょっと適切じゃないけど…」

 

わたしがユニちゃんの思いを応援したいと思っていた時、ロムちゃんとラムちゃんも何か心に思っているような顔をしていた。それから顔を見合わせた二人にわたしとユニちゃんは小首を傾げるけど…秘密にされちゃった。

 

「とにかくそういう事だから、アタシ達はネプギアも誘いに来たの。…協力、するでしょ?」

「勿論。…でも、そっかぁ…ふふっ」

『…ネプギア(ちゃん)……?』

「なんでもないよ〜」

 

確認にこくんと頷いたわたしは、それからふっと笑みが零れる。その理由は二つ。一つはわたしも皆に協力してもらおうと思っていて、皆と同じ気持ちだったって分かったからで、もう一つは…三人が皆、わたしの下へと来てくれたから。偶々執務室の前で会ったって事は、先に三人で集まって「それならネプギアも呼ぶ?」…みたいな感じになったんじゃなくて、それぞれでわたしを思い浮かべてくれたって事だから。…ゲハバーンを誰が持つかって話の時に、わたしとお姉ちゃんがパーティーの中心だって言われて、その時はすぐお姉ちゃんに推薦されたからそれどころじゃなかったけど……やっぱり中心的存在だと思われるのは嬉しいよね。あなたの心にいるぎーあ…なーんて、言っちゃったりして……

 

「…なんかネプギア、ちょっとキモい……」

「キモいわね、今のにやにや顔は……」

「…あんまり、好きじゃない……」

「がーん!?え、ひ…酷くない!?っていうかわたし、にやにやしてた!?」

『してた』

「してたんだ……うぅ、してたとしてもそれはにやにやじゃなくてにこにこだもん…キモくないもん…」

 

……わたしは幸せな気分だったけど、友達の三人は結構冷たいのでした。…違うよね?お姉ちゃん共々パーティーの中心って、『愛される弄られキャラ』ってポジションではないよね…?

 

「…げんき出して、ネプギアちゃん。そういうときは、わたしのまねしてくれていいから…(ぽんぽん)」

「そういう問題じゃないよ……こほん。…それじゃ、役者は揃ったし…後は監督さんだね」

「ていとくさん?」

「それだと艦隊の司令又は学園都市第二位の人になっちゃうね…監督さんだよ監督さん」

「監督って…どういう事よ、ネプギア」

 

気を取り直したわたしは、ちょっと芝居掛かった言い方をしつつ歩き始める。向かうのは当然、執務室の外。そうして廊下へと出たところでユニちゃんからの質問が来て……わたしは、振り返る。

 

「皆は、四人で何をするか考えるつもりだったでしょ?でもね、わたしはもう思い付いてるの。だから行くんだよ。わたしの中のプランにきっと協力してくれる、監督さんの所に…ね」

 

 

 

 

『…………』

 

会議室に漂う、重苦しい雰囲気。冗談抜きで話すべきだってなった時、守護女神の四人はちゃんとふざけるのを止めるから、こうして静かになる事も往々にしてあるけれど…こうして空気が重苦しくなる事は、そうそうない。…そんなそうそうない雰囲気が、ここ数日続いている。

 

「…の、ノワール…何かある…?」

「さっき言ったわよ……」

「じゃあ、イリゼ…」

「今、考えてるところ……」

 

この雰囲気は私にとっても嫌なものだけど、私以上に居心地悪く感じているのがネプテューヌ。普段が明るいだけに、やっぱりこの状況は辛いみたいで……でも、今の私はネプテューヌを気にかけアイデアを出してみようなんて気分になれない。…私もそこまで、精神的な余裕がない。

 

「…やっぱり、わたし達で全力を重ね合わせてここから墓場に一撃叩き込むしかないんじゃないかしら」

「…押しますわね、その意見」

「このまま名案が出ずに完全覚醒されたら取り返しがつかないもの。少しでも可能性があるものを押すのは当然の事よ」

「だとしても、それは大博打が過ぎますわ。墓場に届くかも分からない、届いても正確に当たるかどうか、障害物を破った上で致命傷を与えられるかどうかの問題もある。おまけに失敗すれば、その時点でこちらが要求を聞き入れなかったと見なされてもおかしくありませんわ」

「加えて言えば、そこまでの攻撃だと放つ前に察知される可能性もあるわね」

「…なら、代案を考えて頂戴。代案無しに否定するなとは言わないけど、案が出なきゃ困るのはわたし達よ」

 

最初の一日は色々な意見が飛び交ったけど、今はぽつりぽつりと出てくるだけ。誰も声を荒げたり、会議への参加を放棄したりはしていない。…けれど、ほんの少し声音に棘が混じってしまっている。……多分、私も発言すれば…同じ事になると思う。

 

(…これは不味い…会議そのものが詰まっちゃってるし、雰囲気も重苦しいっていうか険悪な感じになりつつある……けど、ならどうしろっての…?こんな状況で、問題だけ分かったってさ……)

 

今の状況は、既に起動している時限爆弾のある部屋に閉じ込められたようなもの。その部屋は幾つもあって、私達は勿論、私達以外の人も違う部屋に閉じ込められている。待っていればその先にあるのは最悪の結末。それを防ぐには時限爆弾を何とかしなきゃいけないけど、下手に弄ろうものなら他の部屋の爆弾が爆発してしまう。……そんな中で冷静に、心を一切乱さず策を練られる人がいるなら是非助力してほしい。表面取り繕って、何か案がないか皆で探せてるだけでも私達は頑張ってる方だと思うんだから。

 

「…何とか、四天王をプラネテューヌに集結させるとか……」

「良さそうね。…でも、どうやっての部分がなきゃどうにも出来ないわ」

「わたしもブランと同意見かな…イリゼの言う通りになれば、確かにわたし達も集結してる訳だから倒せるだろうけど…」

「…だよね、今のは忘れて」

 

ブランの意見が終わった数十秒後に私が一つ言うけど、その意見はあえなく撃沈。とはいえこの意見は私の詰めが甘いんだから仕方ない。

それからまた、沈黙の時間が始まった。全員この空気は良くないと分かっていながらも、和やかにしようとは思えなくて、おまけに意見考えるので必死だから、取り敢えず会話繋げようとも思わなくて……その時間が暫く続いたところで、不意に会議室の扉がノックされた。

 

「あの、イリゼさん…いますか?」

「…私?」

 

ノックをして入ってきたのは、確か仕事をしていた筈のネプギア。出入り口の方を見ると、ネプギアの後ろにはユニやロムちゃん、ラムちゃんの姿も。私だけが呼ばれた事とネプギアの表情から取り敢えず私は立ち上がり、皆に軽く目配せをして廊下へと出る。

 

「ふぅ……どうしたの皆?何か困り事?」

「困り事っていうか…イリゼさんに頼みたい事があるんです」

 

重苦しい雰囲気から解放された事でつい一息漏らしてしまった後、私は呼んだ理由を皆へと訊く。それを受けた四人は、まずネプギア以外の三人がネプギアを見て、ネプギアはそれに頷いて……それから、驚きの頼みを口にした。

 

「……イリゼさん、イリゼさんが今重要な話し合いの最中だった事は知っています。でも、その上でお願いしたいんです。…イリゼさん……」

「…………」

「…わたし達のケーキ作りに、手を貸して下さい!」

「……はい…?」

 

四人一斉に、女神候補生組は頭を下げる。ちょっとしたお願いとかではない様子の、真剣なお願い。そんな姿を見た私は、一瞬固まって……その後、自分でも分かる位のきょとんとした顔になっていた。




今回のパロディ解説

・あなたの心にいるぎーあ
コンパイルハート社の非公式バーチャルYouTuber、いるはーとのキャッチフレーズのパロディ。これをネプギアが言っていると思い浮かべて下さい。…可愛いですね。


・学園都市第二位の人
とあるシリーズに登場するキャラ、垣根帝督の事。こっちの人だった場合、ネプギアのプランは何なんだってなりますね。何かのスペアプランでしょうか…。

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