超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百二十二話 驚異の再来

新旧パーティーフルメンバー+マジェコンヌさん(…新旧どっちでもないんだよね…敢えて言うなら旧パーティー側…?)という、およそまず負ける事のない面子でありながら苦戦をする事となったクエストを完了させ、プラネタワーへと戻ってから数十分。イストワールさん達から指定された時間がもうすぐとなったところで、私達はシェアクリスタルの間へと移動した。

 

「いーすんさんが言った時間にはまだ後少しだけあるけど…」

「別に式典や番組のタイムスケジュールじゃないんだし、もう開いていいと思うよ?」

「そうそう、時間に縛られるような小さい女神になっちゃ駄目だよ、ネプギア」

「いやいや、神経質になるのは良くないけど時間はちゃんと守ろうね、ネプギア」

 

時間を細かいレベルで気にしていたネプギアに対し、私とネプテューヌがそれぞれの感性で助言。それを聞いたネプギアはにこりと笑みを浮かべて……

 

「ですよね。適度に気を付けようと思います、イリゼさん」

「あれ!?わたしは!?わたしの助言は!?」

「ごめんねお姉ちゃん。わたし、お姉ちゃんの事は尊敬してるけど…指導の取捨選択は自分でしようと思うの」

「うっ…悲しい反面自ら考えて判断する事は大切だから、それが分かっているのは嬉しいこの心境……どうしてくれるのさイリゼぇっ!」

「いや、それ私のせいではないよねぇ!?」

 

同じ次元でありながら通常の手段では行き来出来ない場所、天界。イストワールさん達はゲハバーン回収の為にそこへと向かっていて、時間通りならもう回収を終えている筈。だから天界への出発時同様ネプテューヌかネプギアが転移門を開く手筈になっている。そしてネプテューヌが「むー…」としている事、出発時はネプテューヌが開いた事があってか、苦笑いしつつネプギアはクリスタルの前に。

 

「…それじゃあ、開くね」

「あ、お願いねネプギア。…そういえば、これって二人でやればもっと楽に出来たりするのかな?」

「楽にはならないし、むしろ上手くいかなくなるでしょうね。二人でやるってのは、同じ座標に二つの門を開こうとする行為だもの」

「そうなの?…ってそっか、クリスタル使って開く場合は固定の場所に繋がるんだもんね」

「そういう事。少しでも楽させたいって思うなら、代わってあげるか集中し易いよう黙ってるかしたらどう?」

「…じゃ、黙ってようかな。もう始めてるのに代わろうとしたら、まるでネプギアを信用してないみたいだし」

 

ノワールの言う通り、もうネプギアは女神化をして転移門を展開中。…因みにここのクリスタルはプラネテューヌの女神に対応している物だから、二人以外じゃそもそもクリスタルを利用出来ない。

 

「…………」

『…………』

「……よし…お待たせしました、皆さん」

 

その声と共に振り返ったネプギアの後ろにあるのは、別次元と繋がるゲートにも似た天界への門。それからネプギアは横に退いて、女神化の解除をしつつ小さく息を吐く。

 

「問題なく開けているようね。それじゃあ、行く?」

「そうね。指定された時間にもなってるし、いいんじゃない?」

 

ブランとアイエフのやり取りを経て、私達は転移門の前へ。何でも天界でやりたい事があるみたいで、転移門を開いたらまず天界へ来るよう私達は言われている。だから私達は揃って……行ける程門が広くないから、一人ずつ門をくぐって天界へ。

 

「REDちゃん、嫁を探しに天界へ!……って、わぁぁ…」

「何をしに行くつもり……これは驚きだにゅ…」

 

大小様々な浮き島と、浮き島を繋ぐ虹の橋。そしてどこまでも続いていそうな空の広がる天界はいつ来ても非現実的な場所で、初めて来たメンバーは例外なくその光景に目を奪われる。そこまでは多分誰しも通る道で、そこから下を覗いてゾッとするのもよくある事。

 

『ここは……心をくすぐられる!』

「あ、冒険家二人の心に火が…でもこれは、わたしでも歩き回ってみたいかな」

「それはわたしもかなぁ。空気も良いし、足回り鍛える為に走るのにも丁度良いかも…」

 

…けど、ここにいるのはぶっ飛んだ経験を何度もしてきた強者。最初こそ驚いていても、すぐに驚きや恐怖よりも興味の方へ心が移っていた。

 

「では、行きましょうか。それとネプギアちゃん達、もしも怖かったらわたくしに言って下さいな。そうすればいつでもわたくしが……」

「はいはい。行くわよ」

 

自然な流れでネプギア達にアタックを仕掛けたベールの背中をブランが無理矢理押して、私達は合流地点への移動を開始。…隙あらば、って感じだねベール……。

 

「あぅ、おっかない…ラムちゃん……(びくびく)」

「こんなのだいじょーぶだいじょー……う、うん!お手てつなごっかロムちゃん!」

「前は怖かったですけど、もうこの橋も慣れっこ……ね、ねぷねぷぅ…!」

「透けて見えるのに下向くからだよこんぱ…よしよし」

 

虹の橋を渡る際、こんな感じのやり取りを何人かがしながら浮き島を移動する事数回。少し長めの橋を半ばまで渡ったところで、次の浮き島にいるイストワールさん達の姿が見えてくる。

 

「あ、いたね。無事に回収は出来たのかな?」

「見つからなくて仕方なく待機、とかだったら困りますね…アタシ達は探すの参加出来ません…し……?」

 

反射的に全員が思った事を口にするマベちゃんに、これまた全員が思ったであろう返答を行うユニ。その最後でユニは言葉を疑問形にしたけど…私にはその理由が分かる。何故なら四人のいる浮き島に近付くに連れて、何だかよく分からない…本当に上手く言葉の出てこない『何か』を感じるようになったから。

 

「…何だろう、この感覚…どこかで感じた事があるような気もする、けど……」

「ここに来て感じるようになったんだし、合流すれば分かるんじゃないかな?皆さん、お待たせしましたー」

 

そして、それを感じているのはネプギアや他の女神の皆も同じ。だから私達はそれに疑問を抱きながらも、橋を渡りきってイストワールさん達と合流。

 

「皆さんもここまでご足労ありがとうございます。クエストの方はどうでしたか?」

「抹殺したぞ」

「そうで……抹殺!?抹殺したんですか!?Σ(゚д゚lll)」

『しました』

「あぁっ、全員揃って肯定を!(´Д`|||)」

「お、お姉様達に何が……」

「分からない…が、訊かない方が良さそうだ……」

 

何の気なしに訊いたのであろう皆さんの問いにマジェコンヌさんが真顔で返し、更に私達も「何か?」みたいなトーンで肯定。うん、抹殺したよ?抹殺しましたが……何か?

 

「それよりいーすん、取ってこられたの?えっと…アナクルーズモス?」

「それではなくゲハバーンです…対神だからって別に青銅の武器回収しに行った訳ではありませんよ…(−_−;)」

「えっと…じゃあ、ゲハバーンはどこに…?」

「ここです(´・ω・)つ」

 

5pb.の言葉を受けて、すっとイストワールさんは片手をこちらへ。出された手に私達が注目すると……そこにあったのは、暗い紫の柄に、赤紫の刀身を持ち、鎖を思わせる模様の付いた、ナイフの様な形状の武器。

 

「…………」

『…………』

「…………」

『……え、このサイズ…?』

 

数秒の沈黙の後、私達は呟いた。……拍子抜けした顔で、拍子抜けした声で。いや、だって…イストワールさんが持ってもナイフサイズな武器だよ?正直男の子が喜ぶ剣のアクセサリーみたいな感じだよ?…こ、これで犯罪神を倒せと……?

 

「…も、もしやこれはトリガーの様な物で、武器としてのゲハバーンは別にあるとかでは…?」

「いえ、これがゲハバーン本体ですわお姉様」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ…幾ら何でも、これを使えと言うのは……」

「いいや、使えるさ。…まずはノワール達の誤解を解かないといけないね」

「そうですね。ではケイさん、これを

(・ω・)」

 

まさかそんな訳がない、というかそうだったら困る。そんな雰囲気全開の私達を前に、私達の反応は予想していたらしいイストワールさんがケイさんにゲハバーンを渡す。すると……

 

『……!』

「…ご覧の通り、ゲハバーンは使い手に合った形へと変わるんですよ( ̄^ ̄)」

 

受け取ったケイさんの手の中で柄も刀身も大きくなり、片手剣サイズとなったゲハバーン。…つまり、そういう事だった。

 

「それならわたし達でも使えますね…でも剣って事は、やっぱり…」

「私達刀剣の扱いに慣れてる人の方がいいの、かな?」

「その点も問題ありませんよ。ケイさんが持った場合は剣でしたが、わたしが持てば……」

 

もしゲハバーンを道具として扱うなら問題ないけど、武器として使うならやっぱり使い慣れてる人の方が良い筈。…と、思ったけど…ミナさんがケイさんから受け取ると、ゲハバーンの形状は再び変化。これまでとは違って柄の割合の方が多くなり、棍に近い形の杖となる。……これもつまり、そういう事。

 

「わぁ、ゲハバーンってそんな力もあるんですね。…わたしが持ったら、注射器になるです?」

「わたしの場合は、グローブ…?」

「か、かもしれないわね…それじゃ、イストワール」

「はい。取り敢えず装備する上での問題はないと分かって頂けたようなので……次はゲハバーンの真価を、これが如何に強力で危険な存在であるかを、ご理解して頂こうと思います」

 

チカさんから呼ばれたイストワールさんの下にゲハバーンが戻り、台詞から顔文字が消える。それに私達が緊張感を抱く中、教祖の四人はすっと目配せ。

 

「女神以外の皆さんは、わたし達に着いてきてもらえますか?」

「……?ボク達には、別の役目が…?」

「そうじゃなくて、万が一に備えての避難と待機よ」

『…避難と、待機……?』

 

そう言って一つ前の浮き島へ、イストワールさんを除く教祖の三人が歩き出す。避難と待機という言葉に私達は戸惑うも、ここで適当な事言う訳ないかと皆は三人の後へ。そうして残ったのは私達女神とイストワールさん。

 

「…では、次はネプテューヌさん達ですね」

「ねぷ?わたし達は何かするの?」

「えぇ。…選んで下さい。このままイリゼさん達と体験するか、フラッシュバックを避ける為に皆さんの方へ行くかを」

『え……?』

 

真剣な表情のまま選択を求めるイストワールさんに、ネプテューヌ達は固まる。ネプテューヌ達にとってのフラッシュバック。…その言葉で思い出す事なんて、一つしかない。

 

「い、イストワールさん…それって……」

「言葉通りの意味です。…無理に体験する必要はありませんから」

 

私の言葉にイストワールさんが頷き、私達の視線は守護女神の四人へ。今正に選択を…フラッシュバックの危険を取るか否かに迫られている四人は、ほんの少し曇り顔。

 

「…どう、しよっか…」

「どうもこうも、ここでこの場を離れるなんて……」

 

守護女神として、そんなの出来ない。…そういう言葉を、ノワールは言いたかったんだと思う。でも途中で言葉が途切れて、ベールもブランも同じ感情の映る瞳でノワールを見やる。

四人共、ここに残りたいんだと思う。過去のトラウマに負けたくないという気持ちを、きっと四人は持っている。でも四人のトラウマは本当に重いもので、安易に喚起させるべきでないという事も、多分四人は分かっている。だからこそ迷って、俯いて……

 

「じゃあ、わたしたちがぎゅってしててあげるわ!」

「わたしたちのパワー、分けてあげる…!」

「…ロム、ラム……」

 

……ブランの両手を、ロムちゃんとラムちゃんが握った。それは先程橋を渡った時……そして、ギョウカイ墓場の前で四人が互いに手を握り合った時のように。

 

「ふふん、こーすればこわいのは半分、たのしいのは3ばいよ!」

「……?…こわいのは、半分のままなの…?(きょとん)」

「あっ……ま、まちがえちゃった…てへへ…」

「…全く…ありがとう、ロム、ラム。貴女達の気持ち、凄く嬉しいわ」

「…じゃあ、お姉ちゃんにはわたしだね」

「ネプギアぁ…うぅ、いつも思うけど、ネプギアは本当に良い妹だよぉ…」

 

手を握ってにっこりと笑みを浮かべる二人につられて、ブランの顔もほころんでいく。それを見たネプギアはネプテューヌの手を握り、こちらも優しげな笑顔を。…そして、視線はノワールとユニへ。

 

「あ…え、と……」

「…む、無理しなくていいのよ?私は別にそんな事がなくても、大丈夫……」

「……ううん、これ位無理じゃないから。だから…お姉ちゃん、手…出して…?」

「……ありがと、ユニ…」

「…あ、あの…わたくしは……」

「…私で良ければ、手…貸すよ?」

「…わたくし、貴女のそういうところ…本当に友達として好きですわ」

 

触れ合う事で、何か物理的に変わる訳じゃない。でも手を握る事で、相手の温かさが伝わる。…それは大きい事だって、私は思う。

 

「…では、皆さんは……」

「うん。いーすん、お願い」

「…分かりました。ですが、守護女神の四人だけでなく、イリゼさんやネプギアさん達も無理はしないで下さい。…ゲハバーンの力は、頑張ってどうこうの域を超えていますから」

 

四人からの頷きを得て、イストワールさんはゲハバーンを軽く掲げる。不思議な力を感じるゲハバーンとイストワールさんの言葉に、抱いていた緊張感が更に高まる。

 

「……それでは、始めます」

 

そして、イストワールさんは目を閉じた。意識をこれからの事に、ゲハバーンに集中するように。すると次の瞬間、ゲハバーンから鎖の様な模様が消え、ゲハバーンの刀身が暗く輝いて……

 

『……──ッ!!?』

 

──引きずり出されたかのように、私の身体の中からシェアエナジーが消滅した。

 

(何、これ……不味い、不味い不味い不味い…ッ!)

 

立っていられなくて、膝を付く。驚愕と動揺と恐怖で、無意識にベールの手を強く握ってしまう。でもその力は、普段よりずっと弱い。

一瞬で、膨大な量のシェアエナジーが消滅……いや、ゲハバーンに奪われた。それはまだ女神としての存在を揺らがせる程ではないけど、バケツをひっくり返したようにシェアがなくなり続けている。もし、このまま奪われ続ければ、私は……私達は、皆…………

 

「……っ!…はぁ、はぁ……み、皆さん…大丈夫、ですか……?」

 

はっきりと感じた、生命の…存続の危機。それに対して私の身体は、私の意思関係無しに状況打破へ動こうとしかけて……けれどそれよりも一瞬早く、ゲハバーンの吸収が止まった。

 

「わ、私は…取り敢えず、大丈夫です……」

「わたしも…で、でも…お姉ちゃん達は……」

 

いつの間にか地面に降りていた(落ちていた…?)イストワールさんの手に握られているゲハバーンは、先程までのように鎖の模様が浮かんだ姿。もうそこに今さっきの脅威は感じられず……けれど、脅威は去っても恐怖はそう簡単に消えてくれない。

 

「…は、はは…ちょっとこれは…エグい、ね……」

「ここがギョウカイ墓場とは真逆の場所であった事が、幸いですわ……」

 

繋いだ手から伝わる、ベールの震え。四人共、表情を取り繕っていて…表情を取り繕っているのが分かるって事は、それだけ四人の感情が揺らいでいるって事。…だから私は、黙って空いている手もベールの手に重ねる。ネプギア達も同じように手を重ねて、四人の心が落ち着くのを待つ。

 

「……っ、ぅ…心配、かけたわね…」

「もう、大丈夫よ…だからそんな不安そうな顔しないで。ね…?」

 

数十秒して、ノワールが…次にブランが呟いた。大丈夫と言いつつも、ほんの少しまだ声は震えていて…だけどそれが痩せ我慢ではない事を感じ取った私達は、その言葉に頷く事にした。だってここでどうこう言ったら、四人に「気を遣わせてる」という気持ちにさせてしまうから。今四人は心を落ち着けようとしてるんだから、余計な思いは抱かせたくない。

 

(…四人がトラウマに向き合うなら、何度でも付き合うよ。私も…皆も、ね)

 

頷いて、また数十秒。四人が深呼吸し、表情に余裕が生まれ始めたところで私達は手を離し、イストワールさんも待機していた皆を呼びに行く。

 

「…ベール様、大丈夫でした?」

「皆、何か気分悪かったりしない?何してたか知らないけど、肩を貸してあげるよ!」

「いや、REDの背ではむしろ負担をかけてしまうだろうに…」

 

内容は知らなくても「避難」という言葉から不安を感じていたのか、駆け寄ってくる皆。声でもしや、と思って少し下がると、数瞬前まで私のいた所にアイエフが入ってくる。…アイエフとチカさんは勿論、5pb.からも普段から敬意を持って察されてる訳だし、ベールって妹に拘らなきゃ幸せな環境にいるんだよね。それは他の皆も同じだけど。

 

「…イストワールさん、イストワールさんも大丈夫ですか?見たところ、かなり負担を感じてたようですけど…」

「わたしは女神に近い存在ですからね…でももう大丈夫ですよ、イリゼさん( ̄▽ ̄)」

 

あの時苦しそうにしていたのはイストワールさんも同じで、身体の強靭さならイストワールさんは間違いなく私達より劣っている筈。…そう思って訊きに行った私だけど、イストワールさんは小さく笑みを浮かべて大丈夫だと返してくれた。それからイストワールさんは、説明を再開する。

 

「こほん。…今女神の皆さんに感じて頂いたのが、ゲハバーンの力です。そして……」

「……!…さっきより、輝きが…」

「はい。先程のものを神の力を封じる力だとするならば、今はそれを一極集中させた状態……文字通り神を滅する力です」

 

再びゲハバーンを掲げるイストワールさん。反射的に私は身構えてしまうも、今度はシェアを吸われたりしない。ただ……より強く輝くゲハバーンの刀身からは、シェアを渇望しているようなものを感じた。…何だろう…ゲハバーンから感じる、この気持ちは……。

 

「…それを使えば、犯罪神も……」

「倒せます。犯罪神と言えど、この状態のゲハバーンで傷付けられれば無事で済む筈がありません。…最も、当てる必要はありますけどね」

「…あの…それならアタシ達じゃなく、コンパさん達が使う方がいいんじゃないですか?封じる力を解放した状態で犯罪神も無力化して近付いて、それからモードを切り替えて滅する…って事は、無理じゃないですよね?」

 

…っと、危ない…それはそれとして、会話はちゃんと聞いてなきゃ置いてかれちゃう…。

ネプギアの言葉にイストワールさんは首肯し、その後実用の観点から肩を竦める。けど、そこである事に気付いたユニ。確かに対神の武器ならば、神でも何でもないコンパ達(マジェコンヌさんは…微妙なところだけど)なら効果を受けずに動く事が出来る。……と、思ったけど…その言葉には、イストワールさんは首肯しなかった。

 

「無理ではありませんよ。…しかし、周囲から膨大な量のシェアを吸収するゲハバーンに普通の人が触れているのは、かなり危険な事なんです。心身への悪影響…と言えば、お分かりになりますか?」

「あ……そういう、事ですか…」

 

シェアの吸収に、心身への悪影響。…それはつまり、解放状態のゲハバーンを握っている間は、シェアが濃密な場所に生身でいるのと同じ状況になるという事…だと思う。……それなら、皆に任せる訳にはいかないよね。

 

「…さて、以上がゲハバーンの説明です。これが持つ歴史や保管する事になった経緯は……」

「興味ないかなー」

「…と、ネプテューヌさんなら言うと思ったので、ここまでにしておきます。…ですが、ここで決めておきましょうか。ゲハバーンを、誰がお使いになるのかを」

 

イストワールさん自身で説明を締め括り…でも、話は続く。適当にしようと思えば幾らでも適当に出来る…でも、絶対に適当にしちゃいけない話へと移る。

 

「…取り敢えず、わたし達女神の誰かが使うとして…」

「ゲハバーンの性質を考えれば、誰でも使える訳ですわね。…まぁ、接近する事を考えれば、得手不得手の問題がありますけど…」

 

話し合う為、女神の九人で輪っかを作る。コンパ達は保身…ではなく皆に悪影響が起きてほしくないと思う私達の思いを組むように、少しだけ下がって私達を見守ってくれる。

 

「…そういえば、貴女珍しく出しゃばらないのね」

「まぁね。劇の主役とかなら、速過ぎて時を止めちゃう位の速度で手を上げてる自信があるけどさ」

「明らかに過剰な速度だね、それ……じゃあ、私一ついいかな?」

「えぇ、どうぞイリゼ」

「…強要はしないよ?しないけど…使うのは、ネプテューヌかネプギアがいいんじゃないかな。…このパーティーの中心にいる、二人のどちらかがいいんじゃないかって、私は思う」

「……!?」

 

ブランからの言葉を受けた私は、私の素直な気持ちを口にする。言った瞬間、ネプテューヌとネプギア以外はピクリと眉を動かして、ネプテューヌは少しだけ目を見開いて……ネプギアは、はっきりと驚きを表情に表した。

 

「…そう、ですわね。その意見、わたくしは同意致しますわ」

「パーティーの中心、か…女神としての指導力で負けてるつもりはないけど、確かにこのパーティーにおいて中心にいるのは、ネプテューヌとネプギアよね。…私も同意よ」

「そっかそっかぁ、皆そう思ってくれてたんだね。ふふん、何だか嬉しくなっちゃうね、ネプギア」

「ふふっ、そうだね。じゃあ、担い手はお姉ちゃん……」

「わたしはね、ネプギアがいいって思うな!」

「えっ……?」

 

二人のどちらかという私の言葉に同意が続いて、見るからに嬉しそうなネプテューヌと、嬉し恥ずかしといった様子のネプギア。それからネプギアは微笑んだままネプテューヌを推そうとして……その表情が、固まった。

 

「わたしとネプギアが推されて、そのわたしがネプギアを推した訳だから、現状ネプギアが有力って事でいいよね。他の人の方がいいとか、わたしやりたいって人いる?」

「問題ないわ。…まぁ、もう少し時間をかけて決めてもいいとは思うけど」

「でも、暫定的でも決めておいた方がいいでしょ?って事で、一先ずゲハバーンを使うのはネプギアに決て……」

「ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!わ、わたし!?どうしてわたしなの!?」

 

あれよあれよとネプテューヌが話を進めていって、決定と言おうとした直前。そこでやっと硬直から回復したネプギアが、慌ててネプテューヌへ異を唱えた。言葉は、反論じゃなくて質問だけど…その言葉の裏に、わたしよりお姉ちゃんの方が…という気持ちがある事は、はっきりと伝わってくる。

 

「…ネプギア、嫌?」

「い、嫌って訳じゃないけど…どうしてお姉ちゃんじゃなくてわたしなの?お姉ちゃんこそ、どうしてわたしに…?」

「…それはね、わたしがパーティーの中心ではあっても、ここまでの旅の中での中心ではないからだよ」

「…どういう、事……?」

 

止められて振り向いたネプテューヌは、落ち着いた声音でネプギアに問いかけた。それにネプギアが動揺しつつ訊き返すと、ネプテューヌはその声音のまま言葉を続ける。

 

「わたしはね、旅って色んなものを積み重ねていく事だと思ってるんだ。希望とか、小さな平和とか、絆とか…そうして積み重ねてきたものが、最後には大きな力になると思うの。…わたしは、殆ど旅をしてないからね。だから、わたしはネプギアに任せようと思ったんだけど……駄目、かな?」

「……それは…でも、お姉ちゃんは守護女神だし…元々の力は、お姉ちゃんの方が上で…」

「…だったら、一先ずネプギアに預けておく…って事にするよ。取り敢えずネプギアが持ってて、可能ならネプギアが使う。でもわたしの方がいけそうなら、その時はわたしに渡す。……それでどう?」

 

背丈の関係で見上げる形になって、でもその瞳には姉としての優しさを浮かべて、ネプテューヌはもう一度訊く。無理は言わず、逃げ道も用意して、ネプギアにどうするかを静かに問う。

けれどそれでも、ネプギアは迷い顔。自分がもう弱く頼らない女神なんかじゃない事も、ゲハバーンを受け取る事は一番重要な役目を担う事になる事も分かっているからこその、真剣な迷い。…そんなネプギアに声をかけたのは、候補生の三人。

 

「……しゃきっとしなさいよ、ネプギア」

「…ユニちゃん……」

「…大丈夫よ。アンタはアタシの心も、ロムとラムの心も動かした。ネプギアには、ゲハバーンを使うだけの力があるのよ。それをアタシが保証してあげるんだから…どうするかしっかり答えなさい」

「そうそう。ネプギアはわたしとロムちゃんがみとめてあげてるんだから、よわきになんてならないでよね!…たいへんなら、しっかり手伝ってあげるんだから」

「ネプギアちゃんは、わたしたちでささえてあげる。だから…ネプギアちゃん、わたしたちみんなで…がんばろ?」

「……皆…」

 

さっきネプテューヌは、旅とは色んなものを積み重ねていく事だと言った。その言葉通り、ネプギアは多くのものを積み重ねてきた。経験を、女神としての覚悟を……思いを同じくする人達との絆を。そしてその絆が今、ネプギアを支える力となってくれている。…きっと、それをネプギア自身も感じていたから…ネプギアは目元を袖で拭って、それからにこりと元気強い笑みを浮かべた。

 

「…うん。やるよ、お姉ちゃん。ゲハバーンは…わたしに、任せて」

「……任せたよ、ネプギア。わたし達だって支えるし、さっき言った通り状況次第でわたしに渡してくれてもいいから…絶対、勝とうね」

 

そうして、ゲハバーンの回収は終わった。私はゲハバーンを携え、プラネタワーへと戻る。……後は、もう一度犯罪神を倒すだけ。倒して、改めて封印を経て…それで今度こそ、信次元に平和が戻ってくる。そしてその平和の為に、私達は……

 

『……?』

 

…そう、思っていた時だった。プラネタワーに戻って、クリスタルの間から出て……突然、小さくもけたたましい音が聞こえた。

 

「これって…ガラスの割れる音、です…?」

「今の、ちょっと割れちゃったって程度の音じゃないよね…」

 

マベちゃんの言った通り、今のは恐らく小窓や机に置けるようなガラス細工が割れたってレベルの音じゃない。大きさこそ小さかったけど、それは多分そこそこ離れた場所からの音だったから。

何かおかしいと思った私達は、音のした方へと移動を開始。すると大体この辺りかなと思った場所付近で、一部屋だけ扉が開いているのを発見。それは私達もよく使う、バルコニーへと繋がるリビングの様な部屋。…そこには確かに、大きな窓があった。

 

(…ここで、何かが……?)

「……!あ、め、女神…様!」

「貴女は…いえ、それより何かあったんですか?」

「み、見れば分かります!中に奴が、奴が……!」

 

そこへと近付く中で、ばっとその部屋から一人の女性が飛び出してくる。職員服をはためかせて私達へと近寄ってきたその人は、ネプギアから質問を受けると扉が開きっ放しの部屋を指差し、その後逃げるようにしてこの場を去っていく。…明らかにその人は、余裕のない感じだった。

パーティー内で顔を見合って、それからその部屋へと入る私達。すると予想通り、その部屋では窓ガラスが盛大に割れていた。……でも、それだけじゃない。そこで起きていた異変は、窓ガラスだけじゃない。そこにあったのは、そこにいたのは…………

 

 

 

 

 

 

「……まさか、まだ貴様達が犯罪神様の招く滅びを受け入れていなかったとはな」

 

──もうここにはいない筈の…ネプテューヌとネプギアが倒した筈の四天王、マジック・ザ・ハードだった。




今回のパロディ解説

・〜〜……何か?
ペンギンの問題の主人公、木下ベッカムの口癖の一つのパロディ。ぱっと思いついて入れた訳ですが、これだけだと非常に分かり辛いですね。活字媒体の苦しいところです。

・アナクルーズモス
パーシー・ジャクソンシリーズの主人公、パーシー・ジャクソンの持つ武器の事。ゲハバーンは青銅の武器じゃありませんよ?全く違う武器ですからね?

・速過ぎて時を止めちゃう
ジョジョの奇妙な冒険シリーズの登場キャラ(三部主人公)、空条承太郎のスタンド、スタープラチナの能力の事。ネプテューヌの場合は…スター「ネ」プラチナ…ですかね?

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