超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百十六話 指導をするは姉にあり

お姉ちゃん達と、皆と犯罪神を倒したあの日から、すっと肩が軽くなったような気がした。それは背負っていた荷物をやっと降ろせたような感覚で、清々しさとほっとする感じの混ざった、ちょっと不思議な気持ちだった。

女神として行っている事は、あまり犯罪神撃破前と変わらない。それは今もまだ残党は少しだけど残っているからで、お姉ちゃん達を助けて以降犯罪組織(残党)は力を失っていく一方だったから。でも犯罪神を倒せた事による心の余裕は、わたしの行動力を高めてくれた。……という訳で、わたしは今…ラステイションにいます。

 

「もっと振りをコンパクトに!撃つ時に遠心力乗せたって意味はないわ!」

「う、うん!」

 

厳しい指導の声が飛ぶ中、女神の姿で駆け回る。走り込んで、跳び上がって、ここだと思うタイミングで的へ射撃を撃ち込んでいく。…そんなわたしは、射撃訓練の真っ最中。

 

「これで…最後ッ!たぁぁぁぁッ!」

「上手い!…って、的を斬ったら射撃の練習にならないでしょうが!」

「あっ……や、やっちゃった…」

 

ターゲットである的が真っ二つになって崩れる中、わたしは頬をかいて苦笑い。それを見ていたユニちゃんは、離れた場所からでも分かる位に肩を落としていた。

 

「スピード上げて接近するから近距離での射撃でもするのかと思ったら…何がっつり両断してんのよ…」

「うぅ…普段の調子でつい……」

 

対等な友達に指導者としての呆れ顔をされて、いたたまれない気分になるわたし。

ラステイションに来たのは、別に仕事の一環じゃない。完全にプライベートとして来ていて、最初は遊んでたんだけど…途中から銃の話になって、それから発展する事でわたしとユニちゃんは射撃訓練に至っていた。わたしとユニちゃんって言っても、ユニちゃんは教える側だけどね。

 

「全くもう…普段の調子で大出力ビーム撃つとか止めてよ?それは普通に洒落にならないから」

「そ、そこまでわたしも馬鹿じゃないよ…えっと、全体としてわたしの射撃はどうだった?どこを直したらいいかな?」

「あー、うん。全体としては、ちょっと狙いを定め過ぎだったと思うわ」

「……?定め過ぎだった…?」

 

気を取り直してわたしが訊くと、ユニちゃんは少し不思議な指摘を返してくる。…定め過ぎだったって…射撃って狙わないで適当にするものじゃないよね?過ぎ、って事は狙うなじゃなくて、必要以上に狙い撃とうとするなって意味だと思うけど…。

 

「武器と状況に合わせた射撃をしろって事。ネプギアは超長距離から一射一射放つ…なんて事は殆どしないだろうし、そもそもの話として、その武器は精密射撃には向いてないでしょ?」

「うん、そうだよ。バレルは短いし、刀身部分も大きいからね」

「なら、下手にピンポイントを狙うより、多少ズレても当たるような位置を狙う方が上手く当てていけると思うわよ?まぁ勿論、高機動戦の中でもしっかり狙えるだけの技術を身に付けられるのが一番だけど」

 

そう言いながら右手で銃の形を作ったユニちゃんは、その手をまずわたしの顔へ、続けて胸元へと向ける。…確かに、わたしの射撃は基本弾幕を張ったり連射したりの単発を重視した攻撃じゃないし、時間をかけて狙うようなタイミングもそうそうないから、言われてみればそれは狙いを定めた射撃とは噛み合っていない。……噛み合っていないまま伸ばすよりは、ある程度割り切って、伸ばす方向を変えた方がいい…ユニちゃんが言っているのは、そういう事だった。

 

「…やっぱり射撃においてユニちゃんは、わたしの何枚も上をいってるね。流石ユニちゃん」

「ま、そりゃアタシは近接戦なんて自衛でやる程度だからね。簡単にネプギアに並ばれちゃ堪らないっての」

「あはは…じゃ、もう少し付き合ってもらってもいいかな?」

「いいわ。アタシもアンタの動きを見る中で学べるものがあるだろうし、ネプギアが満足するまでアタシは付き合って……」

「──精が出るわね、二人共」

 

改めてユニちゃんの実力を感じたわたしは、わたしだって負けていられないという気持ちで続行を希望。それをユニちゃんは快諾してくれて、わたしとユニちゃんの訓練は続く……と、そう思った時、教会の方から声が聞こえてきた。誰かと思ってわたし達が振り向くと…声をかけてきたのは、こちらに歩いてくるノワールさんだった。

 

「あ、お姉ちゃん。…見てたの?」

「窓から見えたから、ちょっとね。中々良い動きをしてたじゃない、ネプギア」

「あ、ありがとうございます。…でも、まだまだですよ。さっきだってうっかり射撃じゃなくて斬撃をしてしまいましたし…」

「それはあんまり気に病む事はないと思うわよ?」

「え?」

 

片手を腰に当てて褒めてくれるノワールさん。その言葉にわたしが謙遜すると…今度はノワールさんが不思議な事を口に。

 

「そりゃ、射撃訓練の上では何してるんだ…って話だけど、別にネプギアは射撃一本に転向する訳じゃないんでしょ?だったら自分の戦闘スタイルの感覚は大事にしなきゃ。あそこで意識せず斬撃を行ったって事は、本能的にあのタイミングでは斬撃がベストだと判断したって事だもの」

「え、あ…そう、なんですかね…?」

「自覚はないのね…いいわ、だったら私が手解きしてあげる」

「はぁ…それは助かりま……えぇ!?」

 

ノワールさんの言葉の意味は分かるけど、わたしの感覚としてはさっきのは本当にただのうっかり。そう感じているから理解は出来ても納得が出来なくて……そんな考えが表情に表れていたのか、なんとノワールさんが手解きしてくれる事に。それには当然わたしもユニちゃんも驚きを隠せない。

 

「お、お姉ちゃんがネプギアの相手を?」

「えぇ、仕事は溜まってないし時間も大丈夫よ」

「いや、でも…なら尚更わたしに時間を使っちゃっていいんですか…?ノワールさんも休みたいんじゃ…」

「無理なんかしてないから安心なさい。…それに、一度確かめてみたかったのよ。ネプテューヌの妹であり、イリゼに鍛えられた貴女の実力を」

「そ、そうだったんですか…」

 

不敵な笑みを浮かべるノワールさんの、その気満々な赤い瞳。元々嫌ではなかった…というかありがたい話ではあると思っていたわたしは、その瞳に押されるようにして空中へ。すぐにノワールさんも女神化して後を追ってきて…射撃訓練をしていたわたしは、気付けばノワールさんと手合わせをする事になっていた。

 

「さ、どっからでもかかってきなさい」

「どこからでも…じゃあ…いきますッ!」

 

M.P.B.Lを構えるわたしに対し、ノワールさんは大剣を下ろしたまま無防備な体勢に。それは一見どこからでも攻められそうだけど…どこから攻めたって対応されるのは目に見えている。でも、躊躇っていたらそれこそノワールさんのペースに乗せられると思ったわたしは…翼を広げ、真っ直ぐにノワールさんへと斬り込んだ。……けれど、次の瞬間わたしの視界からノワールさんが消える。

 

「……!?きゃっ…!」

「良い思い切りよ、でも視界が狭くなってるわ!」

「は、はいっ!」

 

一瞬の内に下降していたノワールさんは、上昇と同時に斬り上げてくる。それをギリギリで回避したわたしは射撃で上昇を続けるノワールさんを追うも、光弾はひらひらと避けられてしまう。

 

「手加減はしてあげるから、どんどん仕掛けてきなさい!」

「ど、どんどんって…その速さじゃ厳しいですよ…!」

「かもしれないわね。でも、貴女はユニにアドバイスをもらったんでしょう?」

「アドバイス…そっか……!」

 

空を縦横無尽に駆けるノワールさんへは、偏差射撃もままならない。…でも、ノワールさんの言う通り…この状況こそ、ついさっきユニちゃんから貰ったアドバイスを活かす良い機会だった。

無意識にしていた「ちゃんと狙おう」という動作を止め、機動力を活かさせないよう光弾をばら撒いていく。それにしたってあんまり効果は無さそうだけど…これは実戦でも試合でもない手解きだもん、積極的に挑戦していかなきゃ…!

 

「そうそう、飲み込みが早いじゃない。だったら…ッ!」

「わ、わ……ッ!」

「貴女の本能が、女神の本能がどれだけ頼りになるか教えてあげるわ!はぁぁぁぁッ!」

 

暫くわたしがアドバイスを実践出来るように仕掛けず飛び回っていたノワールさんは、ふっ…と笑みを浮かべた直後に反転。追い掛けるわたしの射撃を物ともせずに近付いてきて、鋭い攻撃を放ってきた。

お姉ちゃんが鋭く流れるような戦い方、イリゼさんが先の読めない(状態にさせる)戦い方だとするなら、ノワールさんは息つく間も与えない戦い方。物凄く速くて、無茶な機動も難なくこなすノワールさんの連撃には、付いていくだけでも精一杯。だからこそ、わたしは段々思考や構築していた戦術が追い付かなくなっていって……ノワールさんの言う『女神の本能』が呼び起こされる。

 

(凄い…厳しいけど、身の為になってるってのが分かる…!)

 

ユニちゃんの強さの一端はノワールさんにあるんだ、という事を感じながら、斬り合いを続ける。何とか喰らい付いて、感覚も神経もフル稼働させて…その果てに大剣でM.P.B.Lを弾き飛ばされた瞬間わたしは左の拳を放ち、それをノワールさんに手で受け止められたところでストップがかかった。

 

「ふぅ…今のは良い反応だったわよ。少しは私の言った事、理解出来たかしら?」

「はぁ…はぁ…はい、とても為になりました…!」

 

揃って地面に降りるわたしとノワールさん。息の上がったわたしに対し、優雅に髪をかきあげるノワールさんはまだまだ余裕な様子。…今の動き、格好良い……。

 

「お疲れ、ネプギア。お姉ちゃんって凄いでしょ?」

「うん、凄かった…途中VF-27とかゴーストV-9みたいな機動してたし…」

「いや流石に私も慣性の無視は出来ないわよ…ある程度はねじ伏せられるけど」

 

M.P.B.Lを回収したわたしが戻ってくると、ユニちゃんはちょっと得意気だった。…でも、気持ちは分かる。わたしだってお姉ちゃんの凄いところを誰かに見てもらったら、自慢したくなるもん。

そうして思わぬ形でノワールさんに手解きをしてもらったわたしは、自分がまた少し前へと進めた事を感じた。当然だけど人によって経験や価値観は違うものだから、偶にはこうして別の人に指導してもらうのもいいかもしれない……

 

「…さて、ユニも見てばっかりいないで女神化しなさい。今度は二人まとめて相手してあげるわ」

「あ、アタシも?」

「えぇそうよ。プラネテューヌの女神候補生が頑張ってるのに、ラステイションの女神候補生である貴女がのんびりしてる訳にはいかないでしょう?」

「それは、そうだね…よし。ネプギア、アタシ達の連携をお姉ちゃんに見せてあげるわよ!」

「だ、大分元々の趣旨から外れてる気が…でももう少し今の感覚を確かめたいし…やろっか、ユニちゃん!」

 

……という訳で、ふとした事から始まったこの訓練は、もう少し続きそうです。

 

 

 

 

一泊二日でラステイションに行ったわたしは、帰らず続けてルウィーへ。と言っても続けてルウィーに行くのは決めていた事だから、別にプラネテューヌにいるお姉ちゃんやいーすんさんに驚かれたりはしていない。

で、ルウィーに行ったのはラステイションと同じく、遊ぶのが目的だったんだけど……って言えば、これまで読んできて下さった皆さんなら分かりますよね?

 

「ちっがーう!もっとこう…ふわわっ、ってかんじで!」

「うん…ふわわっ、ぽわわってかんじ…」

「う、うーん……」

 

はい、ラステイションと同じパターンです。…もしかしたらなるかもとは思ってたけど…まさかほんとになるなんて……。

 

「…こ、こんな感じ…?」

「…ううん、ちがう……」

「もー、ネプギアってば下手っぴすぎ…」

「え、えぇー……」

 

またも雑談から魔法の話になって、そこからわたしの治癒魔法が相変わらずぺっぽこだって流れになって、そこまできたらあれよあれよの内に二人が教えてくれる事に。

 

(もう少し擬音じゃない説明をしてほしいけど…それは今に始まった事じゃないんだよね…)

 

一度手を休め、二人の表現からどんな感じか考えるわたし。

実を言うと、これまでにもロムちゃんラムちゃんに魔法の指導を受けた事はある。それはコンパさんが「わたしよりも、ちゃんと魔法を勉強した二人の方がギアちゃんの力になれると思うです」と言った事が切っ掛けで、実際二人に教えてもらう前より向上はしてるんだけど……凄く、大変です……。

 

「…やっぱり、呪文唱えた方がいいかなぁ……」

「せんとーちゅうにつかうなら、呪文はなしでやれる方がいいのよ?」

「でもほら、わたしあんまり魔法上手じゃないし…」

「…だいじょうぶだよ、ネプギアちゃん。げんきがあれば、魔法はできる…!(ぐっ)」

「あ、ありがとうロムちゃん…(な、なんてロムちゃんとはかけ離れた人の台詞を…)」

 

二人の説明は分かり辛い。…そう正直に言えば何か変わるかもしれないけど、わたしにはそんな物事をズバズバ言えるだけの度胸なんてないし、二人なりにわたしの力になってくれようとしているのは伝わってきているから、尚更二人を否定するような言葉は言えない。…お姉ちゃんなら、二人の説明もちゃんと理解出来るんだろうなぁ…。

 

「…あ、ところでネプギア。もっとつよいちゆ魔法がつかえるようになったら、名前はどうするの?」

「え?…そうだね、あんまり派手な魔法でもないし、シンプルな感じにしようかな。ヒールに一単語足す感じで…」

「えー、何それつまんなーい」

「もっと、かっこいいかんじがいい…」

「そうそう。あ、そうよ!おねえちゃんにかんがえてもらうのは?おねえちゃんってすっごいかっこいい名前かんがえてくれるのよ?」

「へ、へぇ…(あれ?これはっきり意見言わないと名前決められちゃう流れ…?)」

 

ブランさんならどんな技名にするかはともかくとして、自分達の魔法であるかのようにうきうきと話す二人に、わたしは一抹の不安を覚える。これも嫌って言うのは少し気が引けるけど…全然わたしの感性と合わない名前になっちゃった場合、言ったらもやもやするし言わなきゃ二人が残念そうにする、ってどっちにしろ辛い展開になる可能性が高いよね……よ、よし。名前は自分で決めるって言おう…!

 

「あ、あのね二人共」

『ほぇ?』

「二人が格好良い名前にしてくれようとする気持ちは嬉しいけど、魔法の名前は自分で……」

「ロム、ラム。わたしの部屋に帽子忘れていってるわよ」

『え?』

 

自分の意思をはっきりと口にしようとしたその瞬間、ノックと共に聞こえたブランさんの声。わたしはついさっき話題に出たばかりのブランさんが現れた事で、ロムちゃんラムちゃんも自分が忘れ物をしていると指摘された事で、わたし達三人は揃って驚きの声を上げる。

 

「…あ、ほんとだ。おぼうしない…」

「いつおいてっちゃったんだろう…まぁいっか。おねえちゃんありがと〜!」

「二人揃ってうっかりさんね…ネプギア、くつろいでいるかしら?」

「あ、はい。…今はくつろいでいるっていうか、治癒魔法の練習中ですけど…」

「…治癒魔法の?」

 

二人に持ってきた帽子を渡したブランさんは、続けてわたしに声をかけてくる。それにわたしが肩を竦めながら返すと…魔法の練習中という言葉がブランさんの興味に引っかかったみたいで、僅かに眉を動かした。

 

「まだまだ未熟ですけどね。元々はコンパさんに教えてもらっていて、少し前からは……」

「わたしたちがおしえてあげてるのよ!」

「わたしたち、先生なの…(えっへん)」

「そう…二人の説明で練習するのは大変だったでしょう?ご苦労様だったわね…」

「え、あ…えと…あはははは……」

 

ご機嫌で胸を張るロムちゃんとラムちゃん。それを見たブランさんは、わたしへと近付いてきて…二人に聞こえないような小声で、わたしを労ってくれた。…勿論わたしは、それに苦笑いを返す位しか出来なかったけど…。

すると苦笑いのわたしに思うところがあったのか、それとも最初に聞いた時点で考えていたのか…ブランさんは、昨日ノワールさんから聞いたのと似たような言葉を口に。

 

「真面目に練習するのは良い事よ。じゃ…折角だし、少しわたしが見てあげるわ」

「…ブランさんが、わたしの魔法を…?」

「えぇ。これでもわたしはルウィーの守護女神よ?」

「あ、いや…別にブランさんの力を疑ってる訳ではなくて…」

「なら、こう言い換えた方がいいかしら?ロムとラムに魔法を教えたのは、わたしとミナの二人なのよ」

 

大魔法使いと言っても差し支えない程の二人の教師が、ブランさんとミナさん。ミナさんは凄い魔法を使ってたし、二人への接し方からそうなんだろうなぁとは思ってたけど…ブランさんもという事には、素直に驚きだった。

それを聞いた上で、さてどうしようかと考えるわたし。口振りからして、ブランさんに時間はある様子。…だったら……

 

「…じゃあ、ちょっと見てもらっていいですか…?」

「勿論よ。ならまずは、一度やってみて頂戴」

 

という事で、昨日に続いて友達のお姉ちゃんによる手解きがスタート。わたしはブランさんに言われた通り、いつもの感覚で治癒魔法を発動させる。

 

「…………」

「…………」

「……どう、ですか…?」

「…もう一度やってみて」

 

一度やってみたところで、わたしが受けたのはもう一度という言葉。それに従ってもう一度行い、するとまたもう一度という言葉を受けて……三度目が終わったところで、ブランさんが「やっぱりね…」という呟きを漏らした。

 

「…やっぱり、ですか?」

「やっぱり、よ。…ネプギア、貴女は魔法の基礎がなってないわ」

 

何か改善点が見つかったのかな?…という気持ちで聞き返したわたしに対し、ブランさんが口にしたのは率直な言葉。…き、基礎がなってない……。

 

「…その、すみません……」

「謝る事はないわ。というか、貴女の治癒魔法のベースはコンパの我流魔法なんでしょう?だったら基礎が出来てないのは当然の事よ。だってコンパの治癒魔法は、手当ての技術が大元にある筈だもの」

「それは…はい、そうです。コンパさんに教えてもらっていた時は、手当ての技術をまず習いましたし」

「だったら最初に必要なのは、基礎を掴む事。ロムとラムも、誰かに魔法を教えるなら相手の事をよく考えなきゃ駄目よ?我流ベースの魔法にルウィー式の指導をしたって、それが噛み合うとは限らないもの」

 

わたしの魔法訓練の問題点を洗い出しつつ、ブランさんはロムちゃんとラムちゃんへも軽く指導。少し見ただけでここまで分かるなんて凄い…とわたしが思う中、ブランさんは言葉を続ける。

 

「…けど、基礎なんて一朝一夕で身につくものでもないわ。…だから、ネプギアには魔法のコツを教えてあげる」

「コツ、ですか…?」

「そう、コツよ。もう一回、魔法をやってみてくれる?」

 

別に、わたしは近道で上手くなりたい訳じゃない。でも、コツがあると言われれば気になるし、早く上達すればそれだけいざって時に活用する事が出来る。そんな思いで再び治癒魔法を発動させると……その最中で、ブランさんは静かな声をわたしへ発する。

 

「…今、どんな感覚で魔法を使ってる?」

「今…手の平から癒しの魔力が放たれて、その光によって擬似的に治療が行われてる…みたいな、感じです…」

「いい感覚ね。…でも、それじゃ足りないわ」

「足りない…?」

「出てきてからどう作用するかだけじゃなく、どういう手順でどう出てくるか、どこからその魔力が生まれているのか、治癒を受けた傷はどう癒えていくか……そうやって、最初から最後まで思い浮かべてみるの。慣れない内は難しいかもしれないけど…イメージするのよ。イメージは貴女の力になるわ」

 

心地の良い、穏やかなブランさんの言葉。一言一言耳から聞こえてくる言葉が頭と心に入ってきて、それが自然と反芻されて……気付けば治癒の光が、いつもよりも綺麗に輝いていた。

 

(…言葉一つで、わたしの魔法の質が良くなった…ブランさん、たったこれだけのやり取りでわたしの力量を見抜いたんだ……)

 

読書が好きで、普段は物静かなブランさんは知的なイメージがあった。…けれど、今はもう違う。だって、分かったから。ブランさんは知的なイメージを持たれる人物じゃなくて……実際に知的な人なんだって。

それからもわたしは、指導を受けつつ実践を続行。行う度にブランさんはアドバイスをくれて、それに沿ってわたしは魔法を修正して、ちょっとずつ自分の魔法を良くしていく。そうしてあっという間に、ブランさんが来てから数十分が経った。

 

「…ふぅ…ちょっと疲れが……」

「集中していたものね。少し休むといいわ」

「そうします…」

 

前傾姿勢になっていた身体を伸ばし、それから首も軽く回す。集中力もそうだけど、断続的に魔法を使ったから魔力も結構減ってしまった。…このままだと、魔力不足で肌が灰色になったり…は、流石にないよね。

 

「…ネプギアちゃん、おつかれさま」

「うん。…ブランさんって頭いいね。ほんとに魔法の先生、って感じ」

「でしょでしょ?わたしのおねえちゃんは、すっごいおねえちゃんなんだから!」

「うん…おねえちゃんは、すごい…!」

「ありがとう三人共。そう思ってくれるのなら、わたしも嬉しいわ」

 

わたしの言葉にロムちゃんラムちゃんはきらきらとした目で言葉を返し、ブランさんは大人っぽい微笑みを見せてくれる。

ラステイションに引き続き、ルウィーでも指導を受ける事となったわたしのお出かけ。当然指導を受けてた分は遊ぶ時間が減っちゃう訳だし、思ってもみなかった疲労をする事になったけど…それが安いものだと感じられる位、それぞれの国で貴重な指導をしてもらった。今回はリーンボックスに行く予定はないから、明日はベールさんに…って事はないと思うけど、これならまた今度ベールさんにも何か教えてもらおうかな……って、この流れは昨日もあった事…という事は、まさか…………

 

「…ロムちゃん、ネプギアの先生であるわたしたちもまけてられないよね!」

「わたしも、そう思う…だからネプギアちゃん、次はまたわたしたちがおしえてあげる…!」

「えっ?…い、いやわたしはもうちょっと休みたいっていうか…」

「だいじょーぶだいじょーぶ!ほられんしゅーするわよネプギア!」

「しよう、ネプギアちゃん…!」

「……あ…はい…」

 

──思った通りというか、何というか…やっぱり程々には終わらず、その後も訓練を続ける事になるわたしでした…。うぅ、昨日と今日は何かセットなの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜。お姉ちゃん、帰ったよー」

「お帰りネプギアー!楽しかった?何か思い出に残るような事あった?」

「思い出に?…うーん、一番記憶に残りそうなのは……」

「残りそうなのは…?」

「……ノワールさんとブランさんに訓練をつけてもらった事かな」

「へぇ…………え?」




今回のパロディ解説

・VF-27、ゴーストV-9
マクロスシリーズに登場する可変戦闘機及び無人機の事。どちらも曲線ではないマニューバを見せるんですよね。赤い光の線が残る描写は格好良いものです。

・「〜〜げんきがあれば、魔法はできる…!(ぐっ)」
元プロレスラーであり参議院議員である、アントニオ猪木こと猪木寛至さんの代名詞的台詞のパロディ。元気ですかー!…というロム…うわ、凄いシュールですね…。

・「〜〜イメージするのよ。イメージは貴女の力になるわ」
ヴァンガードシリーズの登場キャラ、櫂トシキの代名詞的台詞の一つのパロディ。直近では新シリーズのOP前で(恐らくはアイチと視聴者に向けて)言っていますね。

・魔力不足で肌が灰色に
ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)における、マナ欠乏症の症状の事。ゲイムギョウ界の場合は…SPゼロでも何も起きないので、問題ないのでしょう。

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