超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第三話 彼女の気持ちの在り方

教会の中を案内してもらって、ミナさんやフィナンシェさんにも挨拶をして、その中でお茶を出してもらって、更に万が一の事があるからと医務室にも行く事になって…それからフリーになった私は、来客が泊まる為の部屋へとやって来た。

 

「前にディールちゃんから聞いてたけど、違う次元なのに同じ人って結構いるんだなぁ…」

 

見た目が似てる人や名前が同じ人は探せばいるけど、『同一人物』はいないというのが常識。複製体の私だってもう一人の私とは『オリジナル』と『コピー』という違いがあるし、戦闘能力に関しては恐らく劣化コピーなんだから、限りなく近くても同じじゃない。

でもここには、同一人物が何人もいる。常識が、覆っている。…まぁ、次元超えてたり女神だったりする時点で常識も何もって話だけど…やっぱり引っかかる感じが拭えない。なのに話していると段々ここが別次元だという事を忘れそうになるんだから、私の頭と心は難儀なもの。

 

「早くそういうものだって慣れないと、帰る手段を確立する前にバテるかも…」

 

自分の心境に肩を竦めながら、扉に手をかけ開ける私。さて、一先ずはご飯まで休んで……

 

「…あ、もう来たの?」

「へ?エストちゃん?」

 

……部屋の中には、何故か人がいた。っていうか、エストちゃんだった。テーブルを台拭きで拭いている、エストちゃんだった。

 

「…私、部屋間違えた?」

「いや、ここで合ってるわよ?」

「じゃあ、どうしてエストちゃんが…?」

「……お姉ちゃん二人が、これしないとおやつ抜きだって言うから…まさか人質でもさるじちでもなく菓子じちを取ってくるなんて…」

「あ、あー……」

 

むすーっと口を尖らせながら言うエストちゃんに、私は苦笑い。途中で案内が二人からディールちゃんだけになったけど、それはこれが理由だったんだ…。

 

「…ま、でも正直一回位おやつ抜きになったっていいんだけどね。無しになるのは惜しいけど、わたしそこまで子供じゃないし」

「…じゃあ、どうして掃除を?」

「さーて、それはどうしてかしらね」

 

何を思ってかエストちゃんははぐらかし、手早く掃除を進めていく。割と真面目に、でもちょっと雑な掃除をするエストちゃんを暫く眺めて…終わったらしきところで、私は口を開いた。

 

「…エストちゃんってさ、実は人に迷惑かけっ放しなのは嫌いでしょ」

「へぇ、どうしてそう思うの?」

「だって前に一戦交えた時は治癒してくれたし、今日もペナルティが然程苦でもないのにちゃんと受けてる。それってつまり、迷惑をかけたままなぁなぁにするのが嫌だって事じゃないの?」

「…相変わらずお人好しなのね、おねーさんは。ディーちゃん達のご機嫌取りの為にやってるかもしれないのに」

 

台拭きを持ったまま立ち上がるエストちゃんは、わざわざ自分を貶めるような発言をする。けど、私がその発言に何も返さずただ微笑んでいると、エストちゃんは「はぁ…」と軽く溜め息を吐きつつ振り返って……

 

「…せーかいよ、正解。わたしはおねーさんが思ってる程良い子じゃないけど、今回はそう。だからディーちゃんに言われたからじゃなくて、自分の意思で言わせてもらうわ」

「うん」

「……ごめんなさい。浅はかな事をしたわ」

「じゃあ、これからは気を付けてね」

 

エストちゃんが謝って、私がそれを受け入れた。だからさっきの事はこれでお終い。甘いだとか謝って済む事なのかとか思う人がいるかもしれないけど、私がいいと思ってるんだから文句を言われる筋合いはない。…こうして形だけじゃないごめんなさいをしてくれたんだから、それで十分。

 

「さって、やる事終わったしこれでわたしは自由ね。おねーさん、これお願い!」

「いいよ…ってこれ台拭きじゃん!これは自分で片付けなよ!?片付けまでは責任持とうよ!」

「えー、でもおねーさん今『いいよ』って言ったし…」

「そんな子供みたいな事…ちょっ、何しれっと扉の方に移動してるの!?こら待ちなさ……」

 

 

「エスちゃん、いる?ちゃんと掃除して「あ痛っ!?」え?」

 

私の気が緩んだ事を好機だと思ったのか、台拭きを押し付けて逃げようとしたエストちゃん。でも、バチがあったのか……扉に手をかける寸前でディールちゃんがやってきて、エストちゃんは開いた扉にぶち当たっていた。

 

「あぅぅぅぅ〜〜…!」

「え、っと……あ、イリゼさん…」

「あはは……」

 

ぶつけた額を押さえてエストちゃんは座り込み、入ってきたディールちゃんは戸惑った様子を見せる。で、何がどうなったかを見ていた私は……苦笑い。

 

「な、なんでノックしないのよぉぉ……!」

「いや、まだイリゼさん来てないと思って…って、どうしてイリゼさんが台拭きを…?」

「うっ…それは……」

「……まさかエスちゃん…」

 

涙目でエストちゃんは抗議するも、さっさと逃げなかったのが彼女のミス。私の方を見たディールちゃんが私の手にある台拭きに気付き、動揺したエストちゃんへと疑いの視線を向ける。

詰め寄られたエストちゃんの視線は、私の下へ。…台拭き押し付けといた相手に、自業自得のフォロー求めるのは虫がいいと思うけどなぁ…。

 

…………。

 

「…あーディールちゃん、エストちゃんはちゃんと掃除してくれたよ?私が台拭き持ってるのも、片付けをお願いされた私がいいよって言ったからだし」

「…本当ですか?」

「本当だよ。少なくとも、今私が言った事はね」

「……ここを使うイリゼさんがそう言うなら、まぁいいですけど…ごめんね、エスちゃん。治癒かけとく?」

「いや、そこまでじゃないからいい…後、やっぱり台拭きはわたしが片付ける…」

「そう?」

 

…という訳で、持っていた台拭きは再びエストちゃんの手元に。半ば取り返すように台拭きを手にしたエストちゃんは、色々な感情が混ざり合っているような顔をしていた。……やっぱり、エストちゃんって迷惑かけっ放しが嫌なんじゃん。

 

「エスちゃんがちゃんとやってないならと思ってたけど…終わらせたならいっか。お邪魔しました、イリゼさん」

「あぁ、待って待ってディールちゃん。それとエストちゃんも」

「……?わたし達に何か用事?」

「用事、って言うか…まあそんな感じかな」

 

それまで座っていたベットから立ち上がり、二人を呼び止める私。二人の「何だろう?」という視線は、当然私の方へと向く。

 

『……?』

 

不思議そうに見る二人の瞳は、深い青。横と後ろでそれぞれ結んでいる髪は、柔らかそうな飴色。ブランよりも幼く、ブランによく似た容姿で、大人しい姉と活発な妹の、魔法が得意な女神の姉妹。互いに相手の変装をすれば周りからは分からなくなってしまいそうな程に、似ているディールちゃんとエストちゃん。

一度私は、追求を止めた。一度私は、止められてそれに従った。それはどちらも、訊こうが訊くまいが二人が二人である事は変わらないと思っていたから。それ以前に、確信がなかったから。……でも、今はその確信がある。いや、もしかすると…本当は気付いていて、でも無意識に理解してなかったのかもしれない。だから、考えるのはこれまで。これからは……答え合わせの、時間。

 

「……訊きたい事があるの。教えて、ディールちゃん、エストちゃん。…ううん……

 

 

 

 

 

 

 

────ロムちゃん、ラムちゃん」

 

 

 

 

落ち着いていたここ最近の中では、とびっきりのハプニングがあったのが昨日の事。昨日わたしとエスちゃんはプラネタワーへの案内を頼まれて…今、プラネテューヌへと向かっている。

 

「ねぇ、ディールちゃん!ディールちゃんってば!」

「…………」

「聞いてる!?ってか聞こえてるよね!?幾ら風が強い空だとしても、この距離なら聞こえるよね!?」

「…………」

「聞いてよ!返事してよ!そして何より……お姫様抱っこで私を連れて行こうとしないでよッ!?」

 

陸路だと時間がかかるから、わたし達は飛んで目的地へ向かっている。でもイリゼさんは女神化出来ないみたいだから、現在わたしが運搬中。……にしても、イリゼさん……

 

「…五月蝿いなぁ……」

「五月蝿いなぁ!?私の切実な頼みを五月蝿いなぁ!?ひ、酷くない!?突っ込みとかじゃなくて、ほんとに酷くない!?」

「あれ、忘れました?イリゼさん。わたし…結構酷い時は酷いですよ?」

「そんな自己申告聞きたくなかったよ!覚えてたけど、ここまで酷いものかと私は叫んでるのーーっ!」

 

溜め息混じりの声を漏らすと、わたしの腕の中でイリゼさんは大騒ぎ。それはもう、ラムちゃんと張り合えそうな位にビビットな反応で。

 

「あんまり暴れないで下さいイリゼさん、バランス崩れますから…」

「燃料投下したディールちゃんが言う!?あぁもう!ディールちゃんに頼んだ私が軽率だったよ!」

「えぇ……じゃあ、エスちゃんに任せます…?」

「そうして!エストちゃんお願いっ!」

 

不満たらたらなイリゼさんにチェンジを提案すると、イリゼさんはぶんぶんと頭を振って首肯。ビビットイリゼさんは、続行のようです。

 

「うーん…確認しておくけど、お姫様抱っこみたいな恥ずかしさを感じる方法が嫌なのよね?」

「そう!そうなの!私はエストちゃんが常識ある女の子だって信じてるからね!」

「ふふん、信じられたからには断れないわね!よーしじゃあ……」

 

エスちゃんとイリゼさん間で要求と了承が成立し、チェンジが決定。なら仕方ないね、とわたしが近付くとエスちゃんがイリゼさんを掴んで上昇。そうする事でイリゼさんはわたしの手から離れ、引き継ぎ作業は完了するのだった。……え、今のイリゼさんの体勢ですか?…まぁ、一言で表すなら……上下逆さま、かな。

 

「さって、スピード上げていくわよおねーさん!」

「ちょおぉぉぉぉおおおおおおいッ!?な、何して…何してくれてんの!?」

「これで恥ずかしくないわよねっ!」

「恥ずかしいよ!?馬鹿っぽくて非常に恥ずかしいんだけど!?何故に!?何故にティターニアさん的運び方なの!?」

「へぇ、黒地に白の水玉なのね」

「え、何が……って、うわぁあぁああああああっ!!?降ろしてっ!降ろしてぇぇぇぇっ!!」

 

スカートの端を引っ張るイリゼさんは、真っ赤な顔で今日一番の絶叫。ビビットイリゼさんは、その勢いが衰える様子は微塵もなかった。……大人っぽいようで、ちょっと可愛いのが好きなんだ…。

 

「う、うぅぅ……普通に、普通に運んでくれればいいのに…」

「普通、ねぇ…でもそれって難しくない?よくある抱っこやおんぶは動き辛いし、特におんぶは翼との兼ね合いがあるし、手首掴んでぶら下げるのは腕辛くなるでしょ?」

「ならいいじゃん、腋の下に手を入れてくれれば…私が運ぶ時はいつもそうしてるし…」

「腋の下?……ふふっ、じゃあ手を回して〜っと♪」

「ひゃわっ!?ちょっ、そこは…あははははっ!く、くすぐるなんて何考えて…ひゃははははははっ!す、素肌へ直接くすぐるのはらめえぇぇぇぇええぇっ!」

 

……とまぁ、こんな感じにわたし達はイリゼさんで…もとい、イリゼさんと遊びながら向かう事数十分。不安定な中くすぐられるイリゼさんを見ながら…わたしは、昨日の事を思い出す。

 

(…意外、だったな……)

 

あの時イリゼさんは、わたし達を本名で…『ロム』と『ラム』という名前で呼んだ。わたしが隠していた、エスちゃんが言わないでおいた、『本来のわたし達』を呼んだ。……それが意味するのは、わたし達の真意への問い。

迷宮で言わなかったのは、迷いと不安があったから。でもあれから考える時間は沢山あって、エスちゃんもイリゼさんと会ったって話も聞いて…だから、答える心算は出来ていた。今度は正直に、話そうって。

質問をされて、それに答える。当たり前のやり取りで、そこからどうしてだとか、どう思っただとか……そういう話になる筈だった。なると、思っていた。

 

(…でも……)

 

返事を聞いたイリゼさんの返答は、驚く程簡素なものだった。わたし達の返答に頷いて、理由もさらっと聞いただけで…それから「話してくれてありがとね、ディールちゃん。エストちゃん」…と、『今のわたし達』の名前を改めて呼んで、それで終わりだった。イリゼさんは口数が少ないタイプでも必要な事しか話さないタイプでもないのに、この時だけは静かだった。少し位は怒ったり、過剰な同情をしたっておかしくないのに。

 

(……イリゼさん、貴女は…)

 

多分、わたし達二人の考えや思いは全部分かっていたんだと思う。ただわたし達から『答え』を聞きたかっただけなんだと思う。……だからこそ、そこにズレを感じた。底知れないだとか、おかしいだとかじゃない…上手く言い表せない、彼女のズレ。そこにあるのは間違いなく、優しさの筈なのに。

 

「あ、プラネタワー見えてきたわよおねーさん!投げる?投げてみる?」

「投げてみない!絶対投げないでよ!?」

「じゃ、脚掴んでくれる?」

「…脚?えっと、下腿でいいのかな…?」

「そうそう。それじゃあ…空軍(アルメ・ド・レール)メガミ……」

「蹴り飛ばすのも止めて!?そ、そこまでして私を飛ばしたいの!?二人に疲弊させられた今の私が飛ばされたら、確実に着地失敗しちゃうって!洒落にならないからね!?」

 

思考に一区切り付けたわたしが目を向けると、蹴りの体勢を取ろうとするエスちゃんをイリゼさんが相変わらず叫びながら止めていた。……エスちゃんもよくやるなぁ…楽しくなっちゃうのは分かるけど。

 

「エスちゃん、もうすぐ着くんだからそろそろ落ち着いてね。それとイリゼさんも」

「はーい」

「私も…?私被害者だよ?ディールちゃんも加害者だよ?…私まで注意されるの…?」

 

イリゼさんはわたしより大きいのに、わたしを見る目は小動物のよう。…そんなイリゼさんは、やっぱりイリゼさんらしかった。あれから色々あって、わたしはあの時のわたしじゃないけどわたしであるように、イリゼさんだって少し気になる事があったところで、イリゼさんじゃない『何か』に変わる訳じゃない。もう元通りにはならないわたしとエスちゃんがそれでも二人で一つであるように…大事な事は、もっと他にありますもんね、イリゼさん。

 

「…それと、ネプギアちゃんとネプテューヌさんに()()は無しだからね?」

「えー」

「えー、じゃない。夕飯を抜きにされたい?」

「むむ…はぁーい……」

「あ、やっぱりディールちゃんの言う事なら聞くんだ…私以外になら挨拶、割とすぐに引っ込めるんだ…へぇ、へぇー……」

 

プラネタワーが大分近くなってきて、わたし達は降下をスタート。エスちゃんはともかく、わたしは窓突き破って入ったり砂煙を上げて着地したりする趣味はないから、あまり人目を引かない位置へ誘導しつつ降りていく。で、後はもう着地して女神化解いて入るだけだから、わたしのパートはお終い。

 

 

……べ、別に遂にイリゼさんの雰囲気が何か変わったからとかじゃないよ?流石にヤバそうだから、爆発する前に危険回避を試みてるとかじゃないんだからね?

 

 

 

 

私は上下関係は必要だと考える反面、そこに友情や愛情があって相手にも伝わってるならある程度それが崩れてもいいんじゃないかと思っている。でも何にだって限度はある訳で、私だって怒る時は相手が友達でも怒る。

だけど、怒りというのは発散しなければ消えないものではない。その怒りが誤解だったり、それ以上に感情を揺さぶられるものがあれば、最低でもそれがある間は怒りも消える。……例えば、今の私のように。

 

「い……イストワールさんが──大きい…!?」

 

この次元のプラネタワーの応接室。そこにいたのはネプテューヌに、ネプギアに、イストワールさんだった。興味津々な様子で私を見るネプテューヌに、一見落ち着いているようだけど目にはネプテューヌと同じ光を灯しているネプギアに……明らかに私の知る姿より大きい、違和感バリバリなイストワールさんだった。

 

「……えっと…はい?」

「か、顔文字も付いてない…!?元々真剣な話の時は外してたけど、まさかのデフォルトで付いてないの…!?」

「…あの、ディールさん、エストさん…彼女は、何を言っているんですか…?」

『さ、さぁ……』

 

容姿はイストワールさんそっくりなのに、サイズと言葉の特徴がまるで違うから私は混乱しちゃってしょうがない。言葉の特徴はまだまぁ性格の違いかな、で済むけど…とにかくサイズは何で!?ここのイストワールさんは牛乳沢山飲んでるとか!?

 

「…貴女って、もしかして結構サイコなタイプ?」

「え、ネプテューヌには言われたくないよ?」

「えぇっ!?しょ、初対面なのに結構キツい事言うね!?」

「いや、それはお姉ちゃんが先に言った事だよね…?」

 

人も女神も慣れ親しんだ相手には無意識に反応してしまうもので、イストワールさんの事で頭が一杯だった私はつい辛辣な返しをしてしまった。そしてそれにネプテューヌがショックを受けた事で、私もふっと我に返る。

 

「あ…ごめん、今のは失礼だったよね…」

「もー、びっくりしたなぁ。けどわたしは寛大なねぷ子さん、これ位で腹を立てたりはしないから大丈夫だよ!」

「ならよかった…えぇと、自己紹介がまだだったね。私はイリゼ、女神オリジンハート…の複製体の女神だよ」

「へぇ、わたしはネプテューヌ!わたし達の事は知ってるんだよね?」

「複製体…あ、わたしはネプギア。プラネテューヌの女神候補生です」

 

我に返ったわたしは驚いてたって話は進まないと考え、ブランの時同様まずは自己紹介(あの時はブランが先だったけど)。ここに来た経緯や訊かれそうな事を先んじて話し、ついでにその中での反応を見て三人も信次元の三人と基本は同じなんだなぁと確認。それと……

 

「…あ、ちょっと携帯出しても大丈夫?」

「え?…いいけど、どうして?」

「それはね……ほら、これを見せる為だよ」

「ねぷ?写真?これがどうし……わっ、何これいーすんがちっちゃい!ねぇ見て見て二人共!いーすんちっちゃい!ちっちゃいーすんだよ!?」

「は、はぁ…しかしそうは言っても、元々わたしは小さいんですよ?何を今更驚いて……って、た…確かに小さいですね…」

「いーすんさんよりずっと小さいですね…大きいポケットなら入っちゃいそうかも…」

 

一体何故私が驚いていたのか分かってもらう為に、私は携帯のフォルダの中からイストワールさんが写っている写真を公開した。すると皆はさっきの私に負けず劣らず驚いていて…って、ディールちゃんとエストちゃんも見てる…そういえば、二人も知らないんだったね…。

 

「そっちのいーすんはちっちゃくて癒されそうだなぁ…ねぇねぇいーすん、いーすんもこのいーすんみたいにちっちゃいーすん化は出来ないの?」

「いや出来ませんよ…というか、一度の台詞の間で何回『いーすん』って言うんですか…」

「そっかぁ…で、何だっけ?いーすん談義会だっけ?」

「違うよ…それは正直ちょっとしてみたくもあるけど…」

 

どうしてイストワールさんがこんなに違うのか気になる私としては、その談義にも興味はあるけど…流石に今はそれより優先したい事がある。何度か次元移動の経験をして多少は心に余裕があるけど、それでも帰る為の手段は最優先事項なんだから。

 

「…こほん。ブランから聞いていると思いますが…イストワールさん。私は貴女に頼みたい事があるんです」

「…はい。イリゼさんが元の次元に帰る為の方法…ですよね?」

 

イストワールさんの問いに、私は黙って首肯。……横から「だったらわざわざ来なくても電話のやり取りだけでよかったんじゃない?」とか「しっ、そういうのは思っても言わないの」とか聞こえたけど…まぁ、気にしないでおく。

空気が俄かに張り詰めていく中、私とイストワールさんの視線が交錯する。どんな答えが来るのかと緊張する中、イストワールさんは私を数秒見つめて……ゆっくりと、首を横に振った。

 

「…すみません。わたしも次元に関する事は多少知識がありますが…流石に全く手がかり無しに探すというのは、かなり難しいと思います」

「…そう、ですか……」

 

申し訳なさそうに言う、イストワールさん。皆も私の心境を思ったのか、しんと静まり返っている。でも、私は…正直に言うと、この答えをある程度予想していた。

だって、私の知るイストワールさんも、本の調査には難航させられていたから。私の知るイストワールさんが次元関連で苦労してるんだから、こちらのイストワールさんだって苦労したって無理はない。……けど、やっぱり…期待はしていたんだから、残念じゃないと言ったら…それは、嘘になる。

 

「…いーすん、難しいって具体的にはどういう事?わたし達が何か手伝えば、何とかなるものだったりしない?」

「それは厳しいですね。取り敢えず思い付くのはイリゼさんの次元…信次元のわたしを目印にする事ですが、どうやらわたしも様々な次元に居るようですし、そうなると手当たり次第に探すしかない訳で……」

「そっか……」

「…エスちゃん、エスちゃんが協力すれば変わったりは?」

「うーん…わたしは経験と技術があるだけでエキスパートって訳じゃないから、それも難しいと思う…」

 

後ろ向きな空気の中、ネプテューヌとディールちゃんが食い下がって可能性を探してくれる。…私よりも先に、私の事を。

 

「申し訳ありません。折角ここまで足を運んで下さったのに…」

「い、いえ…私こそ無理なお願いしてすみません。手がかりも無しに探してくれなんて…」

「…せめて、そちらのわたしの情報…見た目や性格ではなく、生体データとでも言うべきものが分かれば、可能性は大いにあるんですが…」

「せ、生体データって…いーすんさん、それはせめてと言える事ではない気が…」

「……待って、それなら分かるかも…」

『え?』

 

生体データなんて普段は聞きもしない言葉に、ネプギアは困り顔を浮かべるも……私はそれを、無茶な話だとは思わなかった。むしろ現実味のある…十分に可能性のある『せめて』だと思った。だって……

 

「…私、複製体って言いましたよね?実はイストワールさんも私と同じ人によって生み出された存在で、私とイストワールさんは言ってみれば姉妹みたいな関係なんです。だからもしかしたら、私の生体データが探す手がかりになるかもしれません」

「そうだったんですか…でしたら、後でそれを確かめさせてもらってもいいですか?それがあれば、もしかすると……」

「も、勿論です!宜しくお願いします、イストワールさん!」

 

一度失意を感じた先での光明。それは最初から光明を感じるよりも嬉しいもので、自然に私は頬が緩んでしまう。やっぱりイストワールさんは頼りになると思いながら。同時に皆への感謝も抱きながら。

 

「よかったわね、おねーさん」

「うん。皆も話に付き合ってくれてありがとね。特にネプテューヌ達なんてほぼ見ず知らずの相手なのに…」

「そんな、お礼なんていいですよ。わたしはほんとに自己紹介して話を聞いた位しかしてませんし…」

「そうそう、それに見ず知らずの相手じゃないよ?」

「え……?」

「だって、イリゼはイリゼの次元のわたしと友達なんでしょ?別次元のわたしの友達なら、それはわたしにとっての友達でもあるんだからね!」

「ネプテューヌ……」

 

にぱっと屈託のない笑みを見せるネプテューヌに、私は一瞬うるっときそうな程の感動に包まれる。道中精神的に疲弊しまくった事もあって、ネプテューヌの飾らない優しさが胸に染み渡っていく。…あぁ、やっぱりネプテューヌは優しいよ…ディールちゃんエストちゃんに再会出来た事が今回の事故から得た幸福だと思ったけど、こうして別次元の皆の優しさに触れられるのもまた、私にとっては幸せな事……

 

「…お姉ちゃん、普段より張り切ってる?」

「当たり前だよっ!だってコラボ回だよ?ここでなら大活躍も望めるんだよ?ここで活躍したら、ひょっとしたら主人公ポジに食い込めるかもしれないんだよ?だったら、ここで頑張らない訳にはいかないでしょ!」

 

……笑顔はそのままに、フルスロットルで超絶メタ発言を口にするネプテューヌ。…自然に浮かんだ笑顔のままで、自然に浮かんだ笑顔が固まった状態で……私は思った。──ネプテューヌは、そういう女神だったね…。

 

「…おねーさん、ハンカチいる?」

「大丈夫、涙出る程じゃないから…うん、でもこういう事言ってこそネプテューヌだもんね…」

「おー、分かってるじゃんイリゼ!って事で、これからはうちに泊まってもOKだからね!そうすれば自然とわたしの出演機会も増えるし!」

「うん、お断りするねっ!」

 

そんなこんなで、イストワールさんに会いに行った結果帰る為の行程は一つ進展した。可能性が上がっただけで、信次元のイストワールさんを見つけられる保証はないし、時間も結構かかってしまうかもしれないけど…一歩進んだだけでも、この次元での繋がりを増やせただけでも、私にとっては大切な意味のある時間になったんじゃないかな…と思う私だった。

 

「さて、では少し付いてきてもらえますか?」

「はい。ちょっと待っててね、二人共」

「はーい、勝手に帰ったりはしないから安心してね!」

「ディールちゃん、エストちゃん、お茶菓子どうぞ」

「あ…ありがとうネプギアちゃん。じゃあ、これを食べて待ってようかな…」

「あはは、先に帰るのはほんとに勘弁してね。それと……」

『……?』

 

 

 

 

 

 

「……運んでくれた『お返し』は、ちゃぁんとしてあげるか・ら・ね?」




今回のパロディ解説

・さるじち
MOTHER3に登場するキャラ(猿)、サルコの事。これ、女神の場合は人質じゃなくてかみじちになるのでしょうかね。でも神が人質なんて…ありますね、このシリーズは。

・ティターニア
叛逆性ミリオンアーサーに登場するサポート妖精の一人の事。鉄拳アーサーを空輸した時と同じ様な運び方をしていた訳です。物凄い体勢なのです。

・「〜〜空軍(アルメ・ド・レール)メガミ〜〜」
ONE PIECEに登場するキャラの一人、サンジの連携技の一つのパロディ。一応ギャグ補正と女神の頑丈さで死にはしませんが、それでも飛ばされたら危なかったでしょう。

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