超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百八話 決着と復活

煌めく紫の大太刀と紅い軌跡を描く大鎌が、激しい音を立てて激突する。一つはお姉ちゃんの刃、もう一つはマジックの刃。二つの刃がプラネテューヌの空を疾駆し、何度も何度も打ち合っていた。

 

「こうして戦うのはあの時以来ね…ッ!」

「当然だ。あれ以降随分と長い間、貴様達守護女神には養分となっていてもらったのだからな…ッ!」

 

突き出される大太刀。それをマジックは半身で避け、避けられたお姉ちゃんは即座に身体を捻って回転斬り。その斬撃もマジックには阻止されるも、同時にマジックも放ちかけていた攻撃を中断せざるを得なくなる。

 

「そう思っているのなら、借りた分のシェアはきっちり返してもらえるかしら?」

「借りた?我等は借りたのではなく実力で奪取したのだ、それを返さねばならない道理がどこにある…!」

「そう、まぁそうくると思っていたわッ!」

 

せめぎ合いから一転、大きく後退するお姉ちゃん。マジックは当然お姉ちゃんを追おうとして……その頭上へ向けて、わたしが射撃を敢行する。

フルオートの光弾が降り注ぎ、わたしの目論見通りにマジックへ防御を強要させる。大鎌を回して光弾を弾くマジックに対し、わたしは引き金を引いたままに急降下。

 

「やぁぁぁぁッ!」

「小賢しい…ッ!」

 

接近戦の間合いまで突進したところで、素早く一閃。すぐさまマジックも反応して大鎌で受けるも、その瞬間にはお姉ちゃんが背後へ強襲。咄嗟にマジックは大鎌の形状を活かし、M.P.B.Lを受け止めたまま角度を変えて大太刀の一撃をも柄で防いでしまうけど……マジックの顔に、余裕はない。

 

「よく防いだわね。でも……」

「このまま貴女を、押し切ります…ッ!」

「ぐ……ッ!」

 

女神二人分の力を受けるマジックは、少しずつ押されていく。一人なら相手の力を利用して後退出来る体勢でも、二人となると力の差があり過ぎて上手く退けなくなるし、仮に退かれてもわたし達には即座に追えるだけの余裕がある。……お姉ちゃんが来た事でマジックは国民の皆さんを狙う事が出来なくなって、わたし達は押し始めていた。

 

「舐めるなよ、女神…ッ!」

「それは…こっちの台詞よッ!」

「ぐぁっ…!」

 

下がるでも受け流すでもなく、翼を広げて押し返そうとしたマジック。でも、それもお姉ちゃんは想定済みで……押し返しにマジックが全力を込めた瞬間、得物同士の接触面を基点に身体を下へと回して強烈な蹴りを叩き込んだ。蹴りはマジックの腹部に直撃し、マジックは苦悶の表情を浮かべて跳ね飛ばされる。

 

「…今ので分かったでしょう?わたし達二人が相手じゃ不利だって。一対一でもなければ、勝手を知ってる場所でもない貴女に勝ち目は無いわ」

「…ふん。もう勝ったつもりとは、めでたい頭をしているな」

「だったら貴女には隠し球があると?…あるなら見せてみなさい、それでもわたし達は貴女を倒してあげるから」

 

空中で立て直したマジックに対し、お姉ちゃんは冷ややかな視線を向ける。それは一見必要のない挑発で、わたしにとってもそれは不可解な行為だったけど…ちらりと一瞬わたしは向けられたお姉ちゃんの瞳を見て、わたしはその意図を理解した。……隠し球があるかもしれないなら、不意打ちで使われる事を防ぐ為に、敢えて狙ったタイミングで使わせるように差し向ける。…そういう事だね、お姉ちゃん。

 

「……それでも倒す、か。よくもまぁ見てすらいないものに大口を叩くものだ」

「勝てる自信があるから言うのよ。貴女にも、犯罪神にも勝てる自信がね」

「…いいだろう、貴様の口車に乗ってやる。後悔するがいい、パープルハート。我が力を…犯罪神様を侮った自身の短絡さをな…!」

「……っ!あの靄って…!」

 

…お姉ちゃんの挑発が成功したのか、それとも元々使うつもりだったのか。ただ一つ言えるのは、マジックはお姉ちゃんが犯罪神を下に見た発言をした瞬間眉をぴくりと動かしたという事で……次の瞬間、掲げられたマジックの左手に闇色の靄が集まり始めた。

あの靄には、見覚えがある。あれば、あれから感じるシェアの力は……

 

「お姉ちゃん、あれは犯罪神の力だよ!ワレチューを暴走させたのと同じ!」

「そういえば、あの時のネズミと同じ力を感じるわね…だとしたらどこまで奴が強化されるか分からないわ。気を引き締めていくわよ、ネプギア」

「うん。まずはわたしが射撃で回避行動を誘発させるから、お姉ちゃんはその動きで力を測って…」

「──遅いッ!」

『な……ッ!?』

 

集まった靄は、オーラの様にマジックの身体を包んでいく。その様にまず様子見をするべきだと思ったわたしは、お姉ちゃんへの提案を口にするも…オーラを纏いきった瞬間、マジックはわたしの眼前にまで踏み込んでいた。

振るわれた大鎌は、本能的にM.P.B.Lを掲げていたおかげで何とか凌ぐ事に成功。でも衝撃は微塵も殺せなくて、最初の一撃と同じように吹き飛ばされる。

 

「さぁ喜べ、これが貴様の望んだ隠し球だ…ッ!」

「くっ……確かにそう言うだけはあるわね…!」

 

わたしを吹き飛ばしたマジックは、すぐさまお姉ちゃんへも攻撃。お姉ちゃんはわたしと違ってしっかり防御と反撃を行えていたけど、これまでよりも攻撃は後手に回ってしまっていた。

 

「ネプギア!無事!?」

「だ、大丈夫!これ位じゃわたしは、やられたりしないよッ!」

「ふふっ、良い返事よ!」

 

防いだ一撃は腕がビリビリする程の重みがあったけど、地面に落ちる前に立て直せたから怪我はない。それに、もうわたしはこの程度で怖気付いたりなんてしない。

上空でお姉ちゃんと斬り結ぶマジックに向けて、高出力の単射攻撃。マジックはそれを難なく避けてくるけど、それでいい。わたしの役目は、援護だから。

 

「ワレチューと違って、貴女は暴走しないのね…!」

「当然だ。たかがモンスターである奴と、犯罪神様に選ばれた我とでは格が違う…!」

「ふぅん、だったら某鬼の娘に仕える忍者集団みたいにならないといいわね…ッ!」

 

木の葉の様にひらひらと避けるマジックへと追随して鋭い斬撃を叩き込むお姉ちゃんと、お姉ちゃんが仕掛け易い位置へ射撃で誘導するわたし。…さっきみたいにすぐ有利な状況になる事は出来ないけど…形勢逆転も、まだされてはいない。

 

「ネプギア!」

「お姉ちゃん!」

 

お姉ちゃんの声で、マジックの放とうとしていた飛ぶ斬撃を察知して回避。わたしの声で、お姉ちゃんはわたしの攻撃タイミングを察知して旋回。犯罪神の力を借りて強くなったマジックに対して、わたし達は連携の力で対抗していた。

 

「残念だったわね、マジック。どうやらその隠し球も、わたし達には一歩届かないみたいよ…!」

「……そうだな。貴様達には後一歩届かない、というのは一理あるかもしれない」

「あら、認めるのね。じゃあついでに負けも認めてくれるかしら?」

「負けを認める?…勘違いするなよパープルハート。届きそうにないのであれば、状況を変えるまでだ…ッ!」

「……っ!待ちなさいッ!」

 

直線軌道で斬り込んだお姉ちゃんに対し、マジックは大きく下がってそれを回避。そしてそこから、マジックの狙いは……わたしへと変わった。

 

「……!近付いてくるなら…ッ!」

 

射撃を斬り裂いて真っ直ぐに飛んでくるマジックは、生半可な攻撃で止まるとは思えないし、十分に加速しているマジックから距離を取るのも困難な話。それを一瞬で理解したわたしはシェアエナジーをM.P.B.Lへと流し込み、ギリギリまで引き付けた上での照射ビームを撃ち込んだ。…けれど……

 

「ふんッ!」

「げ、減速して……ぐっ…!」

 

わたしが引き金を引く寸前で、マジックは急ブレーキをかけていた。その結果減速しない想定で放った偏差射撃は紙一重で外れてしまい、再びわたしは重い一撃を叩き込まれる。

 

「貴女、ネプギアを…ッ!」

「倒し易い相手から潰していく、ただそれだけの話だ…ッ!」

 

一瞬遅れて追いかけたお姉ちゃんは、マジックの正面へと回り込んで全力の横薙ぎ。でもマジックはそれが分かっていたかのように軽々と避けて、落下するわたしへと追い縋ってきた。

 

 

(不味い、これは……!)

 

定まらない視界の中で何とかマジックを捉えながら、わたしは焦りを感じる。マジックはもうとっくにわたしが中衛向きだって見抜いて、強引な近接格闘を仕掛けてきている。このままマジックの思い通りになったら、劣勢になったさっきの二の舞になってしまう。…敢えて大怪我覚悟で接近してきたマジックに組み付きでもすれば、お姉ちゃんが致命傷を与えてくれるとは思うけど……

 

(…そんなの、お姉ちゃんは望まない。そんな事をしたって、お姉ちゃんも皆も喜ばない。望まれてない自己犠牲なんて…そんなの自己満足だよ…っ!)

 

肉薄し襲いかかってきたマジックの大鎌に斬り下ろしを当てて、攻撃の相殺を試みる。当然勢いの乗ってる大鎌と体勢の悪い中で振り出したM.P.B.Lじゃ相殺なんて出来る訳がなくて、出来たのはせいぜい弱める程度だったけど…それでも、そのまま受けるよりはずっとマシ。

少しでも時間を作る為に、地面に背を向け下降するわたし。激突の危険を承知で作った時間で……叫ぶ。

 

「お姉ちゃんッ!わたしは勝ちたい!全力で、勝つ為にすべき事を尽くしたい!だからお姉ちゃん……」

「話し合いなど…させんッ!」

「きゃっ……!」

「ネプギア……っ!」

 

追い討ちを阻止しようと追ってきてくれたお姉ちゃんへ向けた、心からの叫び。具体的な案があった訳じゃない、思いそのままの言葉。わたしは最後まで口にしたかったけど、それを言い切る前に…三度目の急降下攻撃が振り下ろされた。

ギリギリでそれを防いだ直後、わたしの身体は地面に打ち付けられる。わたし自身も下へと加速していた中での激突は鈍器で殴られたみたいに痛くて、肺の中の空気を一気に吐き出してしまう。そして、激突による砂煙が視界を覆う直前、わたしが見たのは……

 

「……──ッ!」

 

……マジックが靄を使う直前に、わたしへ視線を向けた時と同じ瞳をしているお姉ちゃんだった。

 

 

 

 

落ちたネプギアが砂煙に包まれた瞬間、わたしは全速力の刺突をマジックへ向けて敢行した。それをマジックが避けるとわたしは大太刀から左手を離し、手足を振って方向転換。慣性は力技で強引に殺して、避けたマジックへ追撃をかける。

 

「不遜な態度を取る割には、避けてばっかりいるのね…ッ!」

「不満か?ならば期待に応えてやろうッ!」

 

右手だけで大太刀を振り切った瞬間、顔に向けて横から大鎌の柄を振り出される。瞬時にそれが大太刀で防ぐのは間に合わず、手で受け止めるのも負担が大きい攻撃だと判断したわたしは左腕で肘打ちを放ち、それをぶつける事で防御とした。…プロセッサにニードルブレイザー採用していたら、今ので大鎌破壊出来たかもしれないわね…。

 

「…パープルハート、妹の心配はいいのか?」

「あら、もしや攻撃しておいてネプギアを気遣ってるの?」

「はっ、センスのない冗談だな…!」

 

互いに一度後退し、すぐさま得物を衝突させる。先程までとは打って変わって、今のわたしとマジックは相手から離れないまま高速での連撃を放ち合う。…それはまるで、最初から一対一で戦っていたかのように。

 

「……ふっ、滑稽なものだ」

「滑稽?それは何がかしら?」

「この状況に決まっている。それでもわたし達なら、と言いつつ今貴様は一人で我と戦っている。先とは戦い方が変わっただけで、今も我と渡り合っている。…それは、貴様一人いれば十分だったという証明をしてしまっている事に他ならないだろう?」

「…………」

 

斬り合いながらも口元に歪んだ笑みを浮かべるマジック。…確かに今もわたしはマジックと渡り合っていて、未だ砂煙からネプギアが姿を現わす様子はない。だからマジックの目には最初からわたしがこっちの担当だったら増援の必要がなかった…と見えてもおかしくはないし、わたしもそれに対して否定の言葉は口にしない。

 

(自分一人いれば、ね……)

 

恐れを微塵も感じさせないマジックの表情を見て、思う。自分以外の四天王が討たれ、もう大勢は決していると言っても過言ではないこの状況でここまでの威勢を発揮出来るのは、犯罪神への盲信によるものなのか。それとも、初めから他の四天王や数多くの部下なんて必要ないと思っていたのか。…何れにせよ、わたし達とはまるで違う。

 

(……いや、それはちょっと違うわね。…わたし達だって、初めから『皆と』って考えていた訳じゃないんだもの)

 

思い出すのは、自分の経験した旅の事。程度や理由に差はあったけど、最初はノワールもベールもブランも『自分一人で』って考えている節があった。イリゼも普通の守護女神だったら今程繋がりに重点を置いていなかったかもしれないし、わたしだってきっと記憶を失う前は少なからず皆と同じ思考をしていたと思う。

でも、それは過去の話。絆の力を、信頼が生み出す真の力を知らなかった場合の話。……今はもう、そうじゃない。

 

「ねぇマジック。貴女は聞く耳も持たないと思うけど、誰かと一緒にっていうのは良いものなのよ?」

「何だそれは。まさかパープルハート、貴様が数を頼みにするような弱者の習性を語るのではなかろうな?」

「今現在も残党をけしかけてる貴女がそれを言うのね…残念だけど、それは間違いよ…ッ!」

 

次々と放たれる攻撃を逸らして防ぎ、努めて穏やかな口調でマジックに呼びかける。気を抜けば身体を真っ二つにされそうな激戦の中では、それが出来るのもたった数秒だけど…声音を崩されてからも、わたしは言葉を続ける。

 

「確かに個の力の弱さを補う為に数を増やすって策はあるし、強者は往々にして孤独だって意見も分かるわ。けれど…繋がるからこそ、誰かと手を取り合うからこそ出来るようになる事も世の中にはあるのよ…ッ!」

「そんなもの、裏を返せば個の力が足りないからこそ他者を頼っているという事だろう…!十分な力があれば、他者を頼らずとも同じ事が出来る…ッ!」

「いいえ違うわ!繋がる事で得られるものは、一人で突き進むだけじゃ絶対に得られないものなのよ!繋がりっていうのは、そんな単純な『代替品』じゃ、ないッ!」

 

お互いの攻撃で武器ごと上半身が反った瞬間、脇腹に向けて蹴りを放つ。それはマジックが横滑りのような動きで避けた事によって空振りに終わるけど、ならばとわたしは一回転。回る事で遠心力と加速を乗せて、再びマジックに蹴撃を打ち込んだ。

振り出した脚は大鎌の柄に衝突し、衝撃がプロセッサを突破し脛へと走る。…痛い。戦闘中の高揚感でも殺し切れない痛みが走って、凄く痛い。だけどこんなの…この程度、よッ!

 

「では聞かせてもらおうか!今貴様が我と戦い続けていられているのは何故かを!貴様の言う繋がりが、今にどう影響をしているのかを!」

「何故?何故ってそんなの、今わたしが全力を振り絞って戦っているからよ!繋がりで得られるものは、何も目に見える形ばかりをしてる訳じゃないって事よ!」

「なんだそれは…ッ!結局貴様は自分一人の力で戦っているという事ではないか!繋がりなど、所詮は曖昧模糊なものだと自らの口で示しているではないか!ふんッ、今更建前を気にする必要もないだろう!犯罪神様と対極にして表裏の関係にある貴様達女神も、群れる事など必要としない『個』であると……認めるがいいッ!」

「……ッ!」

 

マジックは怒りを吐き出すように吠え、全力全開の袈裟懸けを放った。恐らくは犯罪神と同質の存在であるわたし達女神が、皆繋がりを大切にしている事が不愉快でならなくて、その怒りがわたしの言葉で顕在化した事による、これまでのマジックで一番感情の籠った一撃。それは鋭く、重く、強烈で……腹で受け止める為に掲げたわたしの大太刀は、ゴムボールのように弾き飛ばされてしまった。わたし自身に怪我はないけど…その衝撃を諸に受けた右手は、多分数分間はまともに大太刀を握れない。

 

「……これが、結果だ。貴様の言う繋がりの、弱さだ」

「…あくまで貴女はそう思うのね」

 

大太刀を吹き飛ばされたわたしはそれを取りに行くでもなく、ただ手を降ろす。それをどう受け止めたのか、マジックは勝利を確信した笑みを顔に浮かべる。

…この場だけで言うなら、わたしは相当ピンチ。正直、立て直す前に身体のどこかをばっさり斬られる可能性も大いにある。けど、わたしは慌てない。慌ててないし、不味いとも思っていない。だって……

 

「あぁ、そうだ。現に今が、そうなのだからな」

「そう…いいわ。貴女が意地でも認めないというなら、わたしと仲間の…ネプギアとの繋がりを弱いと思うのなら、まずはそのふざけた幻想を……」

 

 

 

 

 

 

「────わたしが、ぶち壊しますッ!」

「な──ッ!!?」

 

ここまでくれば十分だと思って、きっと今が最大最高のタイミングだと思って、翼と身体の力を抜くわたし。揚力を失ったわたしの身体は落下を始めて、マジックはそれを訝しげに見て…………次の瞬間、ネプギアがわたしの頭上を駆け抜けた。

 

 

 

 

お姉ちゃんに向けられた、あの時と同じ瞳。あの時は相手…マジックに対してのやり取りをしていた最中の瞳だったから、前のわたしならきっと意味が分からなかった。生まれたばかりの頃ならほんとに全く分からなくて、ギョウカイ墓場から逃げ帰った後なら、わたしが役立たずだからあんな目をするんだろうって思い込んだと思う。…だけど今は、お姉ちゃんの意図を理解する事が出来た。

あの瞳をお姉ちゃんがしたのは、『敢えて隠し球を出させようとする』策を話していた時。隠し球は、意表を突いて使うのが効果的だって話をした時。それなら、その瞳をこの状況でするんだったら……お姉ちゃんが伝えようとした事なんて、一つしかない。

だからわたしは、砂煙の中で力を溜め続けた。マジックに気付かれないように、静かにその時を待ち続けた。そして今……わたしは、飛び上がった。

 

(お姉ちゃん…お姉ちゃんが信じてくれた事、ちゃんと伝わってきたよ。だから見ててお姉ちゃん。今度はわたしが、その思いに応える番だから…!)

 

わたしが来るのを分かっていたように開けてくれた場所を通って、マジックへと肉薄する。

目を見開くマジック。そのマジックへ向けて、わたしは溜めた全ての力を…解放する。

 

「この瞬間を待っていましたッ!プラネティック……」

 

マジックへ向けた、打ち上げるような連撃。跳ね上がった瞬間、砲口を向けて集中連射。更に翼に力を込め、斬り裂き銃撃した傷へと刺突をかける。

一発一発に神経を張り詰めた攻撃を、立て続けに叩き込んだ。これだけでもかなりのダメージにはなっているけど、勿論これだけじゃない。わたしの全力は、こんなものじゃない。

 

「──ッ!ディーバッ!!」

 

くの字に曲がるマジックを上空へと残して、わたしは斜め下へと降下。ここだ、と思った位置で翼を全開まで広げて、身体全体と浮遊ユニットで射撃姿勢を作ってビームを照射。そのビームがマジックを貫いた瞬間一度照射を止めて、この時M.P.B.Lと身体に残った力の全てを振り絞って、もう一度マジックへ…文字通り全力全霊の一撃を叩き込む。

輝く紫の光芒が、マジックを飲み込みながら天へと駆け上がっていく。圧倒的な、それでいて神々しさも放つ光の奔流を、力が空っぽになるまで輝かせ続ける。そして、駆け抜けた果てに光が空へと溶け切った時……マジックは、地面へと落下した。

 

「はぁ…はぁ……」

 

さっきのわたしと同じように、マジックは落下し砂煙を立てる。それを見ながらわたしがゆっくり降下をすると、お姉ちゃんはわたしが同じ高度に来るまで待っていてくれて、それからわたしに寄り添ってくれる。そうしてわたし達は地面に降りて、頷き合って……砂煙が晴れた時、そこには身体が光の粒子へと変わり始めたマジックがいた。

 

「勝っ、た…勝ったん、だよね……?」

「えぇ、そうよ。…ネプギア、貴女が勝利を掴んだのよ」

「お姉ちゃん……」

 

消え始めたマジックを見てわたしがつい言葉を漏らすと、お姉ちゃんは優しく肩に手を置いてくれる。それはプロセッサで隔てられていても分かる程に温かくて、思いが籠っていて…わたしは言葉だけじゃなくて、笑みまで零してしまった。

それがちょっと恥ずかしくて、お姉ちゃんを見つめつつも頬を染めるわたし。それを見たお姉ちゃんは肩を竦めながらも微笑んでくれて、それが嬉しかったわたしは感謝の言葉を口にしようとして……

 

「……ふ、ふふふ…ふふふふふ……」

『……!?』

 

──その時、不気味な笑いが聞こえてきた。その笑いの主は……今正に消えつつある、マジック。

 

「…何がおかしいのよ…」

「…おかしいのではない…嬉しいのだ、狙い通りにいった事が…務めを、果たせた事がな……」

「狙い通り…?ど、どういう事ですか!?」

 

空を生気のない目で見上げながら、マジックはこれまでとは違った笑みを浮かべている。それに対してわたし達が浮かべているのは、困惑の表情。マジックが何を言っているのか、全然分からない。狙い通りって…倒されてるのに、狙い通りなの…?

 

「…気付いているだろう…残党の攻撃が、あまりにも粗末であった事を…今回の攻撃が、侵略としては雑過ぎであった事を……」

「…確かにそれは感じたわ。……やっぱり、この攻撃は陽動なの?」

「いいや…残党の攻撃は侵略でも、ましてや陽動でもない…そしてそれは、今回だけに限った話ではない……」

「な、何を言って……って、まさか…!?」

「え……お、お姉ちゃん…?」

 

暫くはわたしと同じような顔をしていたお姉ちゃんだけど、突然何かに気付いたような声を発して……それからお姉ちゃんの顔は、青ざめていった。でも、わたしはまだ分からない。分からないから…お姉ちゃんの表情も、理解出来ない。

 

「ふふふ…さぞ恐ろしかっただろうな…操られた残党に襲われた者達は…さぞ苦しかっただろうな…操られた者達は…さぞ、質の良い負のシェアを生み出してくれたのだろうなぁ……」

「負の、シェア…?…それ、って……」

「そう…残党支配の真の目的は、信次元に恐怖を…負のシェアエナジーを増やす事…我の行動すらも、目的は同様…そして、既に復活が進んでいた犯罪神様は…これまでの犯罪組織の活動によって復活の為の力を蓄え続けていた犯罪神様は……この戦いの決着を持って、復活を遂げる……!」

 

……その言葉を受けて、わたしもお姉ちゃんが顔を青ざめた理由を理解する。…それは、最も聞きたくもない言葉だった。これまでのわたし達の最終目標達成が、不可能になってしまった事を示す言葉だった。

ちらりとこちらへ目を動かしたマジックは、わたし達二人の顔から血の気が引いてるのを見て愉快そうな顔をする。消えていく中で、もう後僅かな命で、それでも笑みを絶やさない。

 

「…我が負ける事も、予想の範疇だった…まさか女神候補生に討たれるとは思っていなかったが…出来るならば、女神の一人でも道連れにしたいところだったが……これで犯罪神様が復活なされるのなら…この命が尽きようと、本望だ……」

「あ、貴女……」

「絶望せよ…そして、犯罪神様のお力でもって朽ちてゆけ女神……この世界の滅びは、最早決定事項だ……」

『……っ…』

「…あぁ、犯罪神様…貴方様の配下として、貴方様に与えられた身体で尽くせた事は、我にとって至上の喜びです……その上で貴方様の一部となれるのですから、もう言う事はありません……さぁ、犯罪神様…後は、貴方様の…思うが、まま…に……」

 

……最後はもう、譫言のようだった。満足そうな顔をして、呪詛の様な言葉を吐いて……それから至福に満ちた声音で、犯罪神に語りかけて……そして、マジックは消え去った。身体の全てが光となって、空へと登って消えていった。…その後に残ったのは、彼女が落ちた地面の跡だけ。……わたしもお姉ちゃんも、何も言葉を発さなかった。発せなかった。

 

 

 

 

────こうして、最後の四天王…マジック・ザ・ハードは倒された。四天王は、全員倒された。でも、マジックは言っていた。わたしの身体が、女神としての本能が感じていた。……災厄そのものであり、人災でもある犯罪神が、この時復活したのだと。




今回のパロディ解説

・某鬼の娘に仕える忍者集団
千年戦争アイギスに登場するキャラ、鬼刃姫及び彼女に仕える鬼刃集の事。魔人の力を身に宿しては暴走するマジック…うーん、それだと完全にギャグキャラですね。

・ニードルブレイザー
コードギアスシリーズに登場する兵器の一つの事。幾らブレイズルミナスの発展武装とはいえ、肘打ちで防御は難しいですよね。正にエース用の装備と言えるでしょう。

・「〜〜貴女が意地でも〜〜幻想を……」「────わたしが、ぶち壊しますッ!」
とある魔術の禁書目録(インデックス)の主人公、上条当麻の代名詞的台詞の一つのパロディ。これだとネプギアがマジックの顔を殴ったみたいに思えますね。

・この瞬間を待っていました
機動戦士クロスボーン・ガンダムの主人公、トビア・アロナクスの台詞の一つのパロディ。でもこの台詞は原作ではなく、ガンダムVSシリーズでのものらしいですね。

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