超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百七話 追い縋り続けたその先で

プラネテューヌの戦線に現れたマジック・ザ・ハード。彼女は真っ先にわたしへと攻撃を仕掛けてきて…それからすぐに、わたしとマジックの戦闘は開始した。

 

「ここに来たって事は…目的はプラネテューヌを落とす事ですか!?」

「さて、どうだろうな…!」

 

距離を保って中距離戦に徹しようとするわたしに対し、マジックは大鎌を構えて突っ込んでくる。こちらの射撃を避けるマジックは回避に無駄が一切なく、わたしは引き撃ちの性質上どうしても最高速度が出せなくて、距離は段々縮まっていく。

 

「プラネテューヌを落とす事が目的なら…いえ、どんな目的であろうと、ここは突破させません!」

「突破するかどうかは、貴様の決める事では…ないッ!」

「……っ!」

 

射撃の途切れた一瞬を突いて大鎌を振るい、斬撃を飛ばしてきたマジック。それ自体はM.P.B.Lの刀身で斬り裂けたものの、その間で一気に距離を詰められてしまった。

大上段から振り下ろされる赤い刃。即座の防御が間に合わないと思ったわたしは左手を突き出し、大鎌の柄に前腕をぶつける事で強引に押し留める。

 

「…流石に、この程度では終わらないか」

「当然、ですッ!」

 

片手と両手じゃ力の差は歴然で、しかもプロセッサで覆われていたって腕の痺れは免れない。だから敢えてある程度耐えたところで力を抜き、相手の力で降下しながら右手を振ってM.P.B.Lの砲口をマジックの眼前へ。そしてそのまま、躊躇う事無く発砲する。…だって、見た目は人でもマジックは四天王。躊躇いなんて持ったら、その時やられるのはわたしの方だから。

 

「だが、所詮は女神候補生…未熟者など恐るるに足らん…!」

「舐めないで下さい!貴女と同じ四天王を倒したのは、わたしと同じ女神候補生です!」

「それはブレイブとトリックの事か?…ふん、我はみすみす勝利を捨てる事などしなければ、今の貴様はただ一人だ…ッ!」

 

至近距離から放った光弾は、紙一重のところでマジックが身体を後ろに逸らした事で虚空へと消えていく。ならば、と続けてわたしは斬りかかるものの、それも避けられ同時にマジックの抜き手が強襲。でもそれは繰り出した蹴りで横から迎撃して、その勢いのままM.P.B.Lを持つ手で裏拳を叩き込んだ。

 

(…四天王が相手でも、ちゃんと戦えてる…わたしはあの時とは、違う…!)

 

初めてマジックの姿を見た時、わたしはマジックの…四天王の前に立つ事すら出来なかった。二度目の時は、お姉ちゃん達の救出で力を振り絞っていたから、まともに戦える状態じゃなかった。だからこうして対峙するのはこれが初めてだけど……マジックが恐ろしい程の強さを持っている事はよく分かっていた。

そのマジックと、わたしは今正面から渡り合っている。出し惜しみ無しの全力でやっとだけど、わたしは四天王と『戦って』いる。……それは、その事実は、もしこれがスポーツやゲームだったら、嬉しさで笑みを浮かべてしまいそうな位に嬉しかった。

 

「…姉がいなければモンスターに嬲り殺されていたであろう弱者が、今や曲がりなりにも我の前に立ちここまでやるか。……成る程、確かに貴様等候補生の戦果はまぐれでも、ましてや幸運のみによるものでもないようだ」

「…………」

 

裏拳を腕で受けたマジックは、反撃もせずゆっくりと後退した。だけどわたしはその動きを黙って見送る。…わたしの裏拳を受け止めた瞬間から、マジックの雰囲気は変化していた。多分それは…わたしを取るに足らない弱者ではなく、本気で戦うべき敵だと判断したから。

 

「…しかし、残念だなパープルシスター。如何に実力を伸ばしていようと、貴様が未熟者である事に変わりはない」

「……何が言いたいんですか」

「何が言いたい、か。…ふっ……それは我が目的を果たす上で、貴様と正々堂々戦う必要は微塵もないという事だッ!」

「な……ッ!?」

 

わたしの問いを受けたマジックは、口元へ薄い笑みを浮かべる。そして、軽く大鎌を振って……真下へ向けて急降下を行った。マジックが降下する先にあるのは…二人のファルコムさん。

 

「わ……ッ!?」

「こっちに…ッ!?」

 

丁度モンスターを撃破した直後だった二人は、マジックの強襲に直前で気付いて後ろへ回避。初撃はそれによって凌げたものの、息つく間もなく追撃が走る。

 

「逃がすか……!」

「逃げるつもりは、ないよッ!」

「ほぅ…だが甘いッ!」

『あぐっ……!』

 

接近するマジックに、ショートカットのファルコムさんが空中で横薙ぎ。それを避けつつ背後に回ったマジックの斬撃はサイドテールのファルコムさんが防御するも、空中では踏ん張れないという事もあって二人まとめて叩き落とされる。

落ちた二人へマジックは更に追撃。…その最中でやっと、降下したわたしが割って入る。

 

「痛た…強さといい大鎌といい、九十層クラスかも…なんてね…」

「すみません!マジックはわたしに任せて陸戦をお願いします、なんて言っておいて…」

「気にする事はないよ、ネプギア!想定通りにはいかないのが戦いだからね!」

 

わたしがマジックの攻撃を受け止める中、跳ね起きた二人は走り込んで挟撃。マジックは二人を一瞥するように目を動かすと、さっきのわたしと同じように相手の力を利用して引き下がる。

 

「人にしては良い動きだ。だが、貴様等にもう用はない」

「……!また…ッ!」

 

下がったマジックはわたしを狙うでも二人を迎撃するでもなく、別の場所へ……モンスターや兵器と戦う別の人へと突進をかけた。

一度目は驚きで対応が遅れたけど、二度も同じミスはしない。わたしはマジックが振り返った瞬間に接近を始めて、同時にM.P.B.Lを連射する。

 

「また、弱い人を狙うんですかッ!」

「言っただろう、貴様と正々堂々戦う必要はないと」

 

射撃に気付いたマジックは、回避行動と同時に標的を変更。軽く大鎌を振り被った状態で国民の皆さんを狙うマジックに、わたしは一気に加速し背後を取って……

 

「い……ッ!?」

「…ふん、反応出来なければ楽に終わったものを」

 

……その瞬間、反転したマジックに斬り付けられた。急ブレーキが間に合ったわたしは、頭を斜めに両断されるという最悪の事態は避けられたけど…鼻先を刃が掠めて、その場所がじんわりと熱くなる。…あ、危なかった…もしマジックの咄嗟の判断に対応出来なかったら……って…いや、違う…。

 

(今が咄嗟の判断?…そんな訳ない。マジックはこれを狙ってたんだ…!)

 

咄嗟に行った攻撃にしては、動きも狙いもしっかりし過ぎていた。という事はつまり、この一連の動きはわたしを誘う為の罠。マジックは正々堂々戦う必要はない、と言ったけど……わたしと戦わないとも言っていない。

 

「……どうして、それだけの強さがあるのにこんな手を使うんですか!」

「有用な手段を取ったまでだ。それとも貴様は、強者は正攻法しか使ってはならないとでも言うつもりか?」

 

大振りな乱撃を繰り返すマジックに対して、わたしはカウンターを仕掛けるタイミングを探る。振りが大きいから一見タイミングは多いように見えるけど…そんなのマジックだって分かってる筈。そこへ安易に攻め込めば、きっと手痛い反撃を受ける事になる。

 

「味方を操る事にしても、この戦法にしても、それに対して負い目はないんですか!?そんな方法で目的を達成したとして、それで胸を張れるんですか!?」

「負い目?胸を張れる?…笑わせるな、女神候補生……そのような感傷など、そのような無駄な誇示など、犯罪神様の復活に比べれば何の価値もありはしないッ!」

 

何かのスイッチが入ったように声を上げ、至近距離から斬撃を放ってくるマジック。攻撃の重みが更に増し、正面から受ける度に強い衝撃が走ってくる。……それだけで、マジックがどれだけ犯罪神の復活に執着してるか伝わってきた。

 

(…でも、今マジックはわたしへの攻撃に集中している。だったら犯罪神絡みで挑発をすれば……)

「……浅はかだな」

「え……!?」

 

国民の皆さんを狙おうとするマジックを、わたしへ釘付けにさせられる手段が見つかった。そう思いながらマジックの攻撃を受けようとした瞬間……マジックはわたしへ仕掛ける事なく通り過ぎ、再び皆さんへの強襲を開始した。…すれ違う瞬間見えたのは、嘲笑うような笑み。

 

「我が冷静さを失ったとでも思ったか。貴様程度の言葉に動揺するとでも思ったか。馬鹿め」

「……っ…だと、しても…!」

 

飛び回るマジックを追いかけて、その攻撃を阻止する。動きから狙いを推測して、追い縋って、それを何度も繰り返して……その内にわたしの意識が『味方への攻撃阻止>自衛』になると、そこを的確に突いてわたしの命を狙ってくる。

さっき、わたしはマジックと渡り合えてると思った。実際それは多分間違いじゃなくて、マジックがわざわざこんな回りくどい策を打ってくるのもその証拠。…けどそれは全てにおいての事じゃない。少なくとも…心理戦においては、まだまだマジックの方が上だった。

 

(わたしは負ける訳にはいかない…このままじゃジリ貧だったとしても、全力でわたしは喰らい付く…!)

 

幾ら優位に立たれたとしても、マジックだって完璧じゃない筈。今は劣勢だったとしても、マジックにとっての『想定外』が起こる可能性はゼロじゃない。突破口が開ける保証はないし、チャンスを待つ形ではあるけど……可能性がゼロじゃないなら、わたしはそれに賭けたい。そして、そのあり得るかもしれないチャンスを取り零さないように……わたしは、追い続ける。

 

 

 

 

相手の攻撃目標が分からないのは、防戦を行う上でかなり厄介な事。何をしたいのか、どこを狙っているのか分からなければ適切な戦力配置も出来ないし、迎撃も手当たり次第に潰していくしか手段はなくなる。

もし残党側がそれを狙っていたなら、それは悪くない策だと言える。だが、残党側の動きから察するに……これはそういう策じゃ、ない。

 

「…ふぅ…こいつ等を教会に運んでやってくれ。念入りの拘束も忘れるなよ」

「承知しました!ホワイトハート様は…」

「別の残党の制圧だ。わたしの国を荒らす奴等は、一人足りとも見過ごせねぇからな」

 

警察機構の部隊の言葉に頷き、その場から飛び立つわたし。次の場所へと向かいながら、インカムで教会へと通信をかける。

 

「ミナ、戦況はどうだ。こっちの被害状況と残党の増援はどうなってる?」

「現在は着実に鎮圧が進んでいると言った状態で、増援の姿もありません。被害状況は暫定的ですが、残党側が分散しているおかげか規模の割には少ないと思われます」

「そうか…」

 

聞こえてきた報告が自分達にとって都合の良いものばかりで、わたしは一先ず安堵。それと同時に増援と被害の状態から頭の中にある推測を進め、加速をしつつ指示を出す。

 

「…なら、手の空いた部隊には周辺の調査をさせてくれ。断定は出来ねぇが、残党の主目的は国を落とす事以外にあるかもしれねぇからな」

「分かりました。…ブラン様、休息は取らなくても大丈夫ですか…?」

「大丈夫だ、ってか今も国民が襲われてるかもしれねぇって状況じゃ休息とっても心が休まらねぇよ」

 

疲労がない、と言えば嘘になる。集中力維持の為にはある程度休息を取った方が良いというのも分かっている。…それでも、わたしは次の戦いへ向かう。まだ、休んでる場合じゃない。

 

(無理を通して道理を蹴飛ばす…じゃねぇが、わたしは女神だ。大変な時に踏み留まる胆力がなきゃ、国の守護者なんて名乗れねぇ)

 

何かあればすぐ連絡するように伝え、通信を切る。それからわたしは思考を一度クリアにし、次の場所でも素早く確実に無力化を進められるよう感覚を研ぎ澄ませて……

 

「す、すみませんブラン様!早速ですが新たな情報です!」

「ほ、ほんとに早速だな…で、何があったんだ」

「ギョウカイ墓場からの残党部隊に、例のMGが姿を見せた模様です!今はロム様ラム様が対応に当たっているとの事ですが……」

「……!」

 

切ってから数十秒と経たずに再開される事となった通信に、思わずわたしは面食らう。…が、それ以上にミナからの報告は衝撃的だった。

あのMGが出てきたという事は、奴が姿を現したという事。これだけの戦力をかけてきたというなら、奴が出撃してきてもおかしくはないが……まさかロムラムと交戦状態になるとは思っていなかった。

 

「…戦いはどうなってる」

「一応はお二人が優勢との事です。ですが、情報から推測するに優勢は優勢でも、攻めあぐねてるのではないかと…」

「だろうな。だったら味方には下手に近付かないよう徹底させてくれ。周りを気にせず魔法をぶっ放せる状態の方が二人は勝ち筋が多い筈だ」

「…それは、自ら引き離す事でお二人自身がその状態を作り上げたようですよ?」

「…へっ、そりゃよかった」

 

二人の強さも思いも知った今のわたしは、強いといっても四天王クラスではないMG程度に負けるとは思っていない。ましてやその戦いで二人が自ら有利な状況を作っているのなら、二人の心配をする必要はない。…むしろ、心配なのは……

 

「……シーシャ、か…」

「…シーシャさんですか?」

「ちょっと、な」

 

怪訝そうな声で訊き返すミナに対し、わたしは説明を避けつつロムとラムにも通信をかける。…この戦いの後も状況が変わらないってなら、ミナにもこれは話しておくべきか……。

 

「ロム、ラム!そっちは大丈夫か!」

「あ、おねえちゃん!」

「だい、じょうぶ…!」

 

ロムとラムへ通信をかけた途端に、激しい銃撃音と爆発音が耳に響く。だが、当の二人の声ははっきりしていて、焦りや恐怖の感情は感じられない。

 

「そっか、ならそっちは任せるぞ。それと、シーシャから何か連絡があったか?」

「シーシャ、さん?…あった、けど…」

「てりゃぁぁぁぁっ!シーシャなら、さっきこっちに来るって言ってたわ!」

「うん…!にがさないで、って言ってた…!」

(…やっぱりか……)

 

案の定シーシャが向かっていると分かったわたしは、万が一に備えて正体を伏せたまま説明を…と思ったが、二人が攻撃の合間に言葉を返してくれている事に気付き、考えを改める。

二人が余裕のある戦いをしている訳じゃない事は、その声音から伝わってくる。だったら、まだるっこしい説明なんざしてる場合じゃない。

 

「……よし!ロム、ラム、シーシャがなんか変だと思ったらその時は守ってやれ!二人なら出来るよな!」

「守る?…うん、よくわかんないけどまっかせてっ!」

「まかせて…!」

「おう、任せたぞ!」

 

威勢の良い二人の返事を聞けて、わたしの頬は僅かに緩む。出来る事ならわたしが行きたいが、まだ行動可能な残党がそれなりに残っている以上、街を離れる訳にはいかない。…だから、わたしは二人に任せた。……任せるのも、女神の役目だから。

 

(わたしは、今のわたしが手の回らない事を二人に任せた。任せたんだから……)

 

 

「……目の前の務めは、尚更手を抜く訳にはいかねぇよな…ッ!」

 

翼の角度を変え、地上に向けて急降下。斜めの落下軌道で加速をかけながら、下方の残党へと狙いを定める。

早く無力化すれば、それだけ早く残党を助けられる。早くロムラム達のところへ向かう事も出来る。接触の直前にそう考えて、すぐにその思考も封をして……未だ暴れる残党へと、わたしは腕を振り抜いた。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……」

 

何回も何十回も、マジックは皆さんへと仕掛け続けた。その攻撃を、わたしは阻止し続けた。わたし自身への攻撃も、何とか凌いでいった。……だから今はまだ、この戦場でマジックに刈られた人はいない。

 

「よく耐えるものだ。多少の犠牲など、目を瞑ってしまえば楽なものを…」

「そんな事、女神はしません……!」

 

踊るように振るわれる大鎌の刃を、神経を集中して捌いていく。…戦闘開始直後より、マジックの攻撃はずっと重く感じる。

 

「どうせ犯罪神様によって滅びる世界だ、早く諦めるがいい」

「滅ぼさせなんてしません…わたしが、わたし達が…ッ!」

 

石突での刺突を避けて、流れのままに斬り上げをかける。それを身を翻す事で回避したマジックは、またわたしから離れていく。

 

「ならば、力尽きるまで苦しむがいい。その苦しみもまた、犯罪神様の糧となるのだからな…!」

 

四方八方にいる味方を守る為には、四方八方にいる敵を狙うマジックよりもずっと多くの体力を消耗する。例え一回一回は大した差にならなくても、それが積み重なれば決定的な差へと変わっていく。初めはある程度反撃が出来ていたわたしも、今は防戦をするので精一杯だった。

 

(させない…まだわたしは動けるんだから、諦めたりなんてしない……!)

 

偏差射撃でマジックの動きを邪魔しながら、自分を鼓舞して追いかける。…楽になったりなんてしない。守れた筈の人を見殺しにして、無理だからって断念して……そんな形で楽を得たって、わたしはそれを喜べない。今の苦しさより、犠牲を払う事の方がずっとわたしは苦しいから。

 

「わたしは、皆で勝つって決めたんだ…そして、その皆の中には……ここにいる人達の事だって、入ってるんですッ!」

「……っ!」

 

体力を振り絞り、突撃体勢で急加速。マジック諸共地面に突っ込む位の勢いで、わたしはマジックへと突進する。それに気付いたマジックは振り返り、大鎌を振るって…二つの刃が激突した。

 

「やらせません…わたしの手が届く限り、誰一人やらせません…ッ!」

「…そうか、そこまで言い切るのなら……」

 

空中でせめぎ合ったわたし達は、押し合いの末互いに後退。けど一瞬早く立て直したわたしはすぐにM.P.B.Lを振り被り、袈裟懸けをかけるべく確実な間合いへと踏み込んで……

 

「……その手が届かないようにするだけだ」

「……ッ!?」

 

わたしが振り下ろす刹那、マジックは手元に光るディスクを取り出し……そこからスライヌが現れた。

咄嗟にスライヌを斬り裂くわたし。そのスライヌは強くも何ともなくて、呆気ない程簡単に両断出来たけど……振り下ろした時点で、分かっていた。マジックは今の攻撃を潰す為だけに、このスライヌを呼び出したんだって。

 

「…残念だったな、パープルシスター。所詮は候補生に過ぎない貴様なぞに、それだけのものを守るだけの力はない」

「……っ!駄目ぇぇぇぇええええッ!!」

 

死神のように標的の前へ降り立ち、マジックは大鎌を振り被る。狙われた人は、マジックの存在に気付いてすらいない。今の距離じゃ、どうしたってわたしは間に合わない。……助ける事が、出来ない。

これから起こる事を見たくなくて、でも目を逸らす事も出来なくて、わたしは叫ぶ。その中で、マジックの大鎌は無慈悲に、ただわたしを陥れる為だけという理由で、その人の首へと振り下ろされ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

────その瞬間、天空から刃が飛来した。その刃によってマジックの攻撃は阻止されて、彼女は大きく後ろへ引き下がる。……マジックの攻撃を阻止した刃は、紫と黒が煌めく大太刀だった。

 

「この、武器は……ッ!」

「そう、その武器は…わたしの物よッ!」

 

着地と同時に見上げたマジックへ向けて、一人の女性が空から斬りかかる。……そう、大太刀を投擲し、狙われていたあの人を助けたのは……街で戦っていた筈の、お姉ちゃん。そのお姉ちゃんが今、大太刀サイズのエクスブレイドを手に持つように展開して、大鎌を掲げたマジックと斬り結んでいた。

 

「お、お姉ちゃん…どうして…!?」

「どうしてって…貴女から聞かなくたって、四天王が出てきたら報告なんてすぐわたしの耳に届いてくるわ」

 

宙返りしながらマジックから離れ、大太刀を回収しつつわたしと同じ高度にまで上がってくるお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんへ、わたしは驚きのままに疑問をぶつける。

 

「で、でも…街の中の防衛は……」

「わたし無しでも何とかなるレベルにまでしたから大丈夫よ。…まぁ、その為にちょっと無理はしちゃったけどね」

 

そう言いながら肩を竦めるお姉ちゃん。……お姉ちゃんの身体とプロセッサには、何度も攻撃を受けた痕が残っていた。そんな状態でフルスピードを出し続けたのが分かる位、お姉ちゃんの額には汗が滲んでいた。

 

「……ごめんね、お姉ちゃん…」

「え……?」

 

お姉ちゃんが無理してまで来てくれたと知って、それが分かるような姿をしているのを見て……わたしは胸が締め付けられた。…だってそれはきっと、わたしの為にした無理だから。

 

「…あの時、わたしが悲鳴なんてあげちゃったから、お姉ちゃんは不安になったんだよね。わたしがお姉ちゃんに『助けなきゃ』って思わせちゃったから、お姉ちゃんは無理をしたんだよね…わたしが、安心出来る位に強くなかったから……」

「……ネプギア…」

「…普段ならわたし、お姉ちゃんに無理しないでって言うけど…今は言えないよ。だって、今無理をさせちゃったのは、わたしが原因なんだから……」

 

助けに来てくれるのは、嬉しい。それは大事にされてるって分かるから。…でも、助けに来させてしまった事が、今は凄く辛かった。任された事を遂行し切れなかった事が、物凄く情けなかった。だからわたしは俯いちゃって、お姉ちゃんもそれを見て……

 

「…もう、次マジックに会ったら…って話をした時の元気はどこに行っちゃったのよ」

「あぅっ…!…え……?」

 

……わたしはお姉ちゃんにデコピンをされた。…指が鉤爪状になってるプロセッサのままでのデコピンだから、結構痛い…。

 

「ちょっと今のはマイナス思考をし過ぎよ。いつわたしがそんな理由で来たって言ったのかしら?」

「…い、言ってはいないけど…違うの……?」

「違うわよ、大違い。…わたしが来たのは、もっと単純な理由。ネプギアはわたしが四天王と交戦開始したって時に、自分が間に合う距離にいたらどうするの?」

 

牽制するような鋭い視線をマジックに向けながら、お姉ちゃんはわたしに問いかけてくる。…もし、お姉ちゃんがマジックと戦ってるって知ったら?…そんなの、当然……

 

「…その場所に行くに決まってるよ。だって行ける状態にある時なんでしょ?だったら行かない理由なんてどこにも……あ…」

「…分かったでしょ?わたしが来た理由は。…ネプギアが助けに来てくれるように、わたしだって助けにいく。ただそれだけの事なんだから、わたしのせいで…なんて言わないの」

 

…締め付けられていた胸が、すっと軽くなっていくのを感じる。解き放たれて、代わりに温かくなっていく。…お姉ちゃんは、落ち込んでいたわたしの心を一発で見抜いて、こんな簡単にわたしの心へ再び火を灯してくれた。……だから、わたしは思う。やっぱりお姉ちゃんは、凄いって。それと同時に思う。お姉ちゃんは凄い存在だからこそ…わたしも、負けてられないって。

 

「…さて、と。一応訊くけど、ネプギアは危ないから下がってなさい…って言われたら素直に聞いてくれる?」

「…ううん。勝つ為にわたしの指示を聞いてって事なら従うし、他の場所を任せたいって事なら素直に聞くよ。でも、そういう事ならわたしはお姉ちゃんの言葉でも聞けない。まだまだ未熟だけど、隣にはまだ立てないと思うけど……それでもわたしは、女神だから」

「そう……だったら下がれなんて言わないし、貴女を守る対象だとも思わない。…援護を頼むわ、ネプギア」

「うん、任せてお姉ちゃん!」

 

M.P.B.Lを構え直しながら、お姉ちゃんの言葉に頷く。お姉ちゃんの目は、この時わたしに向けてくれたのは…イリゼさん達『仲間』に向けるものと、同じ視線だった。

疲労はいつの間にか消えていた。本当に消えた訳じゃなくて、ただ感じなくなっただけだと思うけど…そのおかげで、わたしはまだ全力を出せる。お姉ちゃんと共に、マジックに立ち向かう事が出来る。勝利へと、突き進む事が出来る。

螺旋を描きながら突撃するお姉ちゃんと、高度を上げながら射撃をかけるわたし。──こうしてわたしとマジックとの戦いは、プラネテューヌの女神と四天王最後の一人の戦いとなって……再開した。




今回のパロディ解説

・九十層クラス
ソードアート・オンラインに登場するボスエネミーの一つ、ザ・フェイタルサイズの事。正確には地下迷宮での出来事及び台詞のパロディ、と言うべきかもですね。

・無理を通して道理を蹴飛ばす
天元突破グレンラガンの登場キャラの一人、カミナの名台詞の一つのパロディ。ブランなら蹴飛ばせそうな気もしますね。女神が道理蹴飛ばすのは不味い気もしますが。

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