超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百三話 良い事と悪い事と

イストワールさんの奪還成功と、四天王トリックの討伐。途中想定外の事があったものの、ギャザリング城での作戦は完全勝利と言ってもいい程の結果を残して終了した。

 

「それでは、改めて…皆さん、この度は多大なるご迷惑をおかけしてすみませんでした。そしてこうして助けて下さった事を、心より感謝致します」

 

作戦を終えた私達が今いるのは、ルウィーの教会。いつものようにフィナンシェさんが淹れてくれたお茶で私達が一息ついていたところで、いつになく畏まった様子のイストワールさんがそう言った。そのあまりにも堅苦しい様に、私達は一瞬呆気に取られる。

 

「あの時は最善の方法だと思ったとはいえ、教祖たるわたしが敵の手に落ちるなどあってはならない事。ですので今後は同じような事のないよう…」

「ちょ、ちょちょちょっと待ってちょっと待ってイストワールさん!」

「…ラッスンゴレライ?」

「じゃないよ!私は一言目から芸人さんのネタパクるような性格してないよ!…そうじゃなくて、そこまで猛省するような事ではないですよイストワールさん…」

 

余計な茶々を入れてきたネプテューヌを一蹴して、イストワールさんに言葉を投げかける私。ネプテューヌは私がキレ気味に突っ込んだせいかちょっとしょぼんとしてたけど…今回は普通に余計だったんだから仕方ない。

 

「…そう、でしょうか……」

「そうですよ。確かに私達は一方的な要求をされましたけど八方塞がりだった訳じゃないですし、結果論ですけど四天王撃破に繋がった訳ですし。…それに、イストワールさんの選択は私達からしても最善だったと思いますもん」

「えぇ。こうして皆無事で帰ってこられたんだから、わたし達は畏まられるより素直に喜んでくれた方が嬉しいわ」

「イリゼさん、ブランさん……」

 

そう言ったブランの言葉に、救出組は勿論、私達の全員が同意しイストワールさんへと笑みを浮かべる。私達は誰もイストワールさんに迷惑をかけられたとは思ってないし、私なんかは無事だった事で心が一杯な位なんだから…ブランの言う通り、イストワールさんにはこれを負い目になんて感じてほしくない。そして、その気持ちはイストワールさんに伝わったみたいで……

 

「……では、先程の言葉に一つ付け加えますね。…助けてくれて、本当にありがとうございました。わたし、皆さんが助けに来てくれて、凄く嬉しかったです(*≧∀≦*)」

「うんうん、そう言ってくれた方が頑張った甲斐があるってものだよね。っていうかいーすん、教祖の自分が敵の手に〜…なんて言ったら、全員纏めて捕まったわたし達の立つ瀬がないって…」

「それは…な、なんというかすみません……(>人<;)」

「あ、謝るんじゃないわよイストワール…謝られたら余計に私達いたたまれないわ…」

「だ、大丈夫よお姉ちゃん!お姉ちゃん達がどんな思いであの選択をしたか、アタシ達は分かってるから!」

「ユニちゃん…多分それは更にお姉ちゃん達をいたたまれない気持ちにさせちゃう発言だと思うよ……」

 

イストワールさんが普段の調子に戻った事で、雰囲気もいつもの和やかさを取り戻す。……そう、私達の…私の大好きなこの空気感は、皆がこうしているから成り立つもの。誰かが欠けていたり落ち込んでいたりしたら、これに近い空気感は出せても同じにはならない。…だから、最後の四天王も倒して、犯罪神の復活を阻止したら、その時はまたパーティーメンバーや協力してくれた皆と集まりたいな。

 

「…そういえば、イリゼの表情もすっかり元通りになりましたわね」

「……?元通り…?(・・?)」

「あ、ちょっとベール!イストワールさんの前で言わないでよ!?」

「いいではありませんの、少し位話しても「駄目っ!」…むぐぐ……」

「イリゼさん、わたしのいない間に何かあったんですか?(´・ω・`)」

「い、いえ別に何もありませんよ!?えぇ特筆するような事は全く何も……」

「えー?イリゼさんちょっとあぶないかんじになってたよね?」

「うん、そんなかんじだった…」

「ちょぉっ!?ロムちゃんラムちゃん!?く、口封じするべき相手はこっちだったパターン!?」

 

……なんて思ってたのに、急転直下の衝撃展開。言わなくてもいい事を教えようとするベールに襲いかかり物理的に口封じするも、まさかのロムちゃんラムちゃんがカミングアウトだった。…あ、悪意はないって分かってるけど…無邪気さ故だって分かってるけど……だからこそ厄介過ぎる!

 

「は、はぁ…ではイリゼさん、その話はまた後程……( ̄^ ̄)」

「訊くんですか!?…うぅ、気になるなら私のいない場で第九十八話を読んで下さい……」

「メタ手段を頼る程嫌なんですね…はは……(^▽^;)」

 

最終的にイストワールさんには苦笑いをされ、ネプテューヌ達にはにやにやされ、ネプギアとユニには同情的な顔をされ、ロムちゃんラムちゃんはきょとんとしていて……なんというか、本当にいたたまれない私だった。さっきノワールもそう言ってたけど、これ絶対私が一番いたたまれないよ…分かるもん、間違いなく私が一番不憫だもん……。

 

 

 

 

三対一に加えてある意味お互いにとって相性の悪い相手だったからか、わたし達はほぼ無傷で戦闘を終える事が出来た。これは間違いなく僥倖で、戦闘結果としては最良レベルだと言ってもいい。

……でも、戦闘結果は最良でも…終わり方は、しこりの残るものだったと思う。

 

「……との事で、恐らく捕縛した残党の中で操られている者はいないと思われます」

「そう。でも一応全員に対処はしておいて。今はまだ顕在化してないだけの可能性もあるわ」

「そうですね。でしたら進行によっては…」

「えぇ、わたしも手を貸すし一度見に行くわ」

 

教会に帰還した数時間後。一休みしてから帰るらしい皆と別れ、わたしは作戦終了後の報告をミナから受けていた。

 

「…すみません、お疲れのところに仕事を増やしてしまって」

「構わないわ、この位。それに万が一の事があったら困るもの」

 

対処というのは、操られている人をその状態から解放する手立ての事。負のシェアエナジーによるものだという事を逆手に取り、正のシェアエナジーで相殺する事によって解放をするのがわたし達の導き出した救済手段。一応わたしやロムラムが手を貸さなくても解放(というより、解呪?)は出来るけど…当然シェアの扱いに長ける女神が行った方が効率は良い。……まぁ、それは片手間で出来る事じゃないから基本は任せるつもりだけど…最初はわたしも見に行くべきね。

 

「…それと、その前に少し寄り道してもいいかしら?」

「…と、いいますと?」

「ロムとラムに話があるの。二人の様子次第ではすぐ終わると思うけど」

「分かりました。…というより、ブラン様がお決めになる事なのですから、わたしに許可を求める必要はないのでは?」

「まぁ、それもそうね。じゃあ他に何か書類があればここに置いておいて」

 

そう言ってわたしは席を立ち、執務室を後にする。他人がいる状態で執務室を空ける形になったけど、ミナは悪戯とは無縁の人間だから問題ない。…というより、彼女が悪戯をしていたら病気か何かを疑うわ…。

 

「ロムとラムは部屋かしら……」

 

道中で会う事も考えて、軽く見回しながら歩くわたし。でも廊下でばったり会う事はなく、わたしは二人の部屋へと到着する。

 

「ロム、ラム。入ってもいいかしら?」

「あ、おねえちゃんだ」

「おねえちゃん、どうしたの…?」

「少し話が…って、あら…?」

 

ノックをし声をかけると、わざわざ二人共来て扉を開けてくれる。それを受けてわたしは部屋に入ろうとしたけど……そこで、部屋の中には二人の他にネプギアとユニもいる事に気付いた。

 

「あ、お邪魔してます」

「いや、ブランさんと一緒に教会へ来たんだから今言うのはおかしいでしょ…」

「う、言われてみると確かに……」

「あははっ、ネプギアってばおっちょこちょいねー」

「てんねん…?」

「ちょ、ちょっと間違えただけなのに凄い言われる…うぅ……」

 

ユニに指摘を受け、ロムとラムに弄られて軽くしょげるネプギア。そんな彼女達の足元(ネプギアとユニは座っているけど)には、魔導具や機械のパーツらしきものが色々と落ちていた。

 

「…お邪魔だった?」

「あ、いえ。アタシ達は遊…んでた訳じゃないですけど、やってたのは私的な事なんで。二人に用事があるなら席を外しますよ」

「そう?…じゃあ、少しだけいいかしら。出来るだけ早く終わらせるから」

『えー……』

「えー、じゃない。長い話をする訳じゃないんだから、我慢しなさい。それと、床のはそのままで構わないわ」

 

ぷくーっと頬を膨らませるロムラムとは対照的に、二人は嫌な顔一つせずに頷いてくれる。…ネプテューヌとノワールはしっかり妹を教育しているみたいね。ネプテューヌの方は反面教師になってる可能性もあるけど…。

 

「それじゃあわたし達は廊下で待ってるね」

「ブランさんの話ちゃんと聞くのよ?」

「むー、言われなくてもわかってるわよ」

「わかってるもん…」

 

そうしてネプギアとユニは席を外し、部屋の中はわたし達姉妹だけに。

 

「さて、じゃあ用事だけど…」

「おはなしって、なあに…?」

「あ!もしかしてしてんのうたおしたからチャンピオンせん?」

「ふぇっ!?じゃ、じゃあ…おねえちゃんが、はんざいしん…だったの…!?(がくがく)」

「ほぇ?…えっと、あいつらがふっかつかせようとしてたのがはんざいしんだから…おねえちゃんがいちばんわるいやつなの!?」

「な訳ないでしょうが……それだとわたしは味方の筈の四天王に捕まってた事になるのよ?」

『あ、そっか……』

 

……わたしにとってロムラムは大事な妹だし、可愛い妹でもあるし、これからは『仲間』としてもっと頼りにしようと思っている。…でも、やっぱり思う。ネプギアとユニを見た直後だからこそ、尚更思う。……なんで二人に比べてこうも精神年齢が低い(身体もだけど)状態で生まれてきたんだろう、って。

 

「…二人共、誤解は解けた?」

「う、うん…」

「へんなこと言ってごめんなさい…」

「それはいいわ。…じゃ、改めて……ロム、ラム。貴女達は、トリックを倒せた事を今、素直に嬉しいって思えてる?」

『…………』

 

ラムの冗談(本人は本気なのかもしれないけど)をロムが真に受け、更にロムの反応をラムが真に受けてしまうという、幼さと仲の良さによる連鎖勘違いを解消してから本題に…トリックとの戦いが残したものに、わたしは触れる。

この事を口にした瞬間、二人の表情は僅かに陰る。落ち込んでる、とか触れてほしくない…って訳ではないようだけど…何かしら思ってるところがあるのは、事実のようね。

 

「どうなの?二人共」

「えっと…」

「それは…」

 

再度わたしが訊くと、二人は揃って口籠る。……二人が何かしら思ってるのは、分かってる。でも、わたしは二人の口から聞きたい。何を感じて、どう思ったかを。

 

「…………」

「…………」

 

二人は俯いて、口を閉じる。考えているのかもしれないし、わたしに話す為に言語化しようとしてるのかもしれない。ただ二人が真剣にわたしの言葉を受け止めたって事は伝わってきたから、わたしも静かに二人を待った。そして……

 

「……もやもや、してる…」

「…うん…わたしももやもやしてる…」

 

顔を上げた二人は、そう言った。二人らしいシンプルな、飾らない本心の言葉で。

 

「…だと思ったわ。もやもやしてるのは…」

「うん。あいつが、あんなことしたから…」

「…かばって、くれたから……」

 

……その言葉を聞いて、わたしは安心する。ざまぁみろだとか、死んでせいせいしただとか思っていなくて。トリックが自分達を庇ったんだって、理解していてくれて。…だったら、どうのこうの言う必要はない。後訊かなきゃいけないのは、一つだけ。

 

「……だったら、二人はどうするの?」

「え……?」

「どうする、って…?」

「二人はもやもやしてるんでしょう?それは、時間が経てばすっきりするものなの?」

 

わたしの問いに、二人はきょとんとした表情を浮かべる。でも、それは予想通りの反応。

 

「…すっきり、しないと思う…」

「なら、どうする?もやもやのままでいい?」

「…それは、いや」

 

ロムがわたしの言葉を否定し、ラムもそれに続いて首を横に振る。…となれば、次に二人が言うのは……

 

「…じゃあ、どうしたらいいの?どうしたらもやもやしたのが消えるの?」

「おしえて、おねえちゃん…」

 

全く同じ表情をして、わたしを見上げるロムとラム。わたしを頼り、澄んだ瞳で答えを求める双子の妹。そんな二人にわたしは答えを言いたくなる衝動に駆られるけど……それをぐっと堪え、代わりにわたしは首を振った。…それは勿論、縦にじゃない。

 

「…残念だけど、それは教えられないわ」

「えっ…な、なんで……?」

「おねえちゃん、おこってるの…?」

「違うわ、ラム。わたしが教えないのは、怒ってるからでも、意地悪をしたいからでもないの」

「それなら、どうして…?」

「…それは、二人が考えるべき事だからよ」

 

…わたしが答えてしまえば、それで話は終わる。でも、それじゃ意味がない。だって、目的は『正解』を二人が認識する事ではないから。

 

「経緯はどうあれ、相手の考えはどうあれ、トリックが身を呈して守ったのは貴女達二人。だからわたしは答えられないの。わたしが教えたら、それは二人の『思い』じゃなくなってしまうもの」

「…でも、むずかしい……」

「そうね、これはとっても難しい事よ。わたしだって、すぐに答えは出せないと思う。…だからね、ロム、ラム。焦らずに、無理せずに、二人でゆっくり考えてみて。そのもやもやの正体が何なのかを。どうすれば…ううん、どうしたいのかを」

「…わたしとロムちゃんでかんがえれば、わかるかな…?」

「きっとわかるわ、だって二人はわたしの妹だもの。それに、考えなきゃいけないのは二人だけど、誰も頼っちゃいけないとは言わないわ。もし相談に乗ってほしいならいつでもわたしは聞くし…貴女達にも、頼れる仲間がいるでしょう?」

 

微笑みを浮かべながら、わたしは二人の肩に手を置く。……答えまでは、求めない。答えは過程の果てに、二人が満足いくまで考えた結果として出てくる『おまけ』であって、わたしは二人がこれをよく考えてくれるのならそれで十分だから。半分は女神として問うておくべき事だと考えているけど、もう半分は単なる姉のお節介だから。

 

「…………」

「…………」

「…どう?頑張れそう?」

「…うん。わたしたち、がんばってかんがえる(ぐっ)」

「ちゃんとかんがえて、おねえちゃんがすごいって思うようなこたえを出してみせるね!」

「えぇ、期待しているわ」

 

身体の前できゅっと両手を握る二人の目は、やる気に満ち溢れている。…これは熱意を持って考える事というより、落ち着いてじっくり考える事だと思うけど…やる気になっている二人に水を差すのは控えるべきね。わたしは二人に考えるよう言ったんだから、考え方は二人の自由にさせてあげないと。

 

「…さて、と。ネプギア、ユニ、待たせたわね」

「いえ、お構いなく。それよりもういいんですか?」

「わたし達、もっと時間が必要ならまだ待ちますけど…」

「大丈夫よ、話したい事はもう済んだから」

「そうですか?じゃあ、帰るまであんまりないし出来るところまで……」

「…あぁ、そうだ二人共」

『……?』

 

部屋の扉を開き、廊下で待っていた二人を呼ぶ。そして二人が部屋へ戻ろうとする寸前、わたしは呼び止め……言った。

 

「……ありがとう、二人の友達になってくれて。二人は我が儘で五月蝿いと感じる事もあるだろうけど…もし嫌でなければ、これからも二人と仲良くしてくれるかしら?」

「…ふふっ、勿論ですよ。ロムちゃんもラムちゃんも、わたし達にとって大事な友達ですから」

「…二人とは色々ありましたけど…今は仲間ですからね。言われなくてもそのつもりです」

 

……ロムとラムは良い子だと思うけど、完璧には程遠い。子供らしさが可愛い時もあるけど、同じ女神候補生であるネプギアとユニにとっては鬱陶しいと感じるかもしれないし、周りに気を使って付き合ってるだけかもしれない。…そう不安になる心がわたしにはあったけど……部屋に入った時のやり取りを見て、そんな心配は不要だって確信した。わたし達とは違う形だけど、候補生の四人もまた仲がいいんだって。

 

「おねえちゃん、ネプギアたちと何はなしてるの?」

「こんどは二人に、おはなし…?」

「何でもないわ。それより、終わったらちゃんと片付けておくのよ?」

『……?はーい』

 

気持ちの良い返答をネプギアとユニから受けて、わたしはその場を後にする。今日は無事イストワールを助ける事が出来て、四天王トリックを討つ事が出来て、ロムとラムの成長と妹達が築いた絆を見る事も出来た。イストワールの件に関してはそもそも起こらないのが一番良い事だけど…それでも今日は、幸福な一日だったと思う。様々な事が良い方に転がって、望んだ通りかそれ以上の結果を得る事が出来た、幸福な一日…………

 

 

 

 

 

 

 

 

──だと、思っていた。

 

「…あ、ブランさん( ・ω・)」

「イストワール…?」

 

執務室に戻ろうと歩く中、角を曲がってきたイストワールと遭遇する。

 

「執務室にいらっしゃられなかったので探していましたが…今もお仕事中ですか?(・・?)」

「いえ、まだ仕事はあるけど今は違うわ。…何か用事なの?」

「はい。一つ、ブランさんに伝えておきたい事がありまして…( ̄^ ̄)」

 

見た目も声音も妖精風のイストワールは、じっくり見ると気分が和んでしまいそうになる。…けど、彼女の雰囲気からわたしは、これから伝えられる話が決して和やかなものではないのだと察した。それに全員のいる場ではなく、わたし一人の時に話すというのも引っかかる。

 

「…何か、残党の不穏な動きがあったの?」

「…そう、ですね。残党絡みの話です。それも、ルウィーに深く関わる事柄です」

「……続けて」

 

イストワールの言葉から、彼女の十八番である顔文字が消える。…やっぱり、並々ならぬ話なのね…。

 

「わたしは短い間ですが、残党に捕まっていました。しかしトリックの趣味なのか拘束されるという事はなく、軟禁されている事を除けば客人の様な扱いを受けていたんです」

「知っているわ、その一片を垣間見たもの」

「そ、そうでしたね…こほん。…わたしが軟禁されていたあの部屋は、城の中核だからかトリックやあの場にいた残党以外にも様々な人物がやってきました。そして、その中で一人……気になる人物がいました」

「気になる人物…?」

 

わざわざそんな場所に軟禁したのは一体何故か。聞きながらわたしはふと思ったけど、それよりイストワールの話が気になって疑問を振り払う。…というか、トリックの事だからイストワールを近くにおいておきたかっただけの可能性が高い。

 

「…彼は、仮面を着けていたので断定は出来ません。しかし見えている部分や言葉遣い、それに雰囲気からわたしはある人物を思い出しました」

「……思い出したのは、ルウィーの住人の誰か…って、事?」

「そうです。そして、わたしの思い出した人物というのは……」

「…………」

「……ルウィーギルドの前支部長、アズナ=ルブです」

「……っ!」

 

……イストワールの言葉を聞いた瞬間、わたしはまさか…と思った。確かに彼は元々どこか胡散臭い印象のある人物だけど、個としての実力も組織の長としての能力もしっかりとある人間で、わたしや現支部長のシーシャだって一定の信頼を置いていたから。…でも、すぐにわたしも思い出す。

 

「…そう、言えば…最近彼は変な仮面を着けるようになったと聞いたわ…ねぇイストワール、その仮面って……」

「今はまだ同一の物かは分かりません。ですがイリゼさんは旅の中で彼と会っているようなので、形状の確認をしてみるつもりです。…ですが恐らく…わたしがギャザリング城で会った人物と彼は……」

 

最後までは言わず、そこで彼女は言葉を切った。…それは、曲がりなりにも味方である人物を疑う事への後ろめたさか、ルウィーの女神であるわたしへの配慮か。……でも何にせよ、これは確信がないから…と放っておける話じゃない。

 

「…ブランさん、彼の動向に注意しておいて頂けますか?信じたくはありませんが、彼は…アズナ=ルブは敵の可能性が、ありますから」

「……分かったわ。わたしが調査を行ってみる。それとこれは、断定出来るまでは他言無用にしてくれるかしら?」

「…はい。わたしもそのつもりです」

 

確証のない情報で混乱を招くのは避けたいし、独自の人脈を持つであろうアズナ=ルブならどこかから聞き付けてしまうかもしれない。…そう考えてわたしは他言無用を提案し、イストワールも頷いてくれた。

それからわたしはイストワールから会った人物の外見情報を聞いて、彼女と別れる。

 

「…………」

 

世の中何があるかは分からないもので、人の心もまた簡単には看破出来ない。自分と相手で考えている事が違うかもしれないし、自分には想像も付かない一面を相手が持っているかもしれない。……そう、頭では分かっているけど…

 

(…信頼出来ると思ってた人物がそうなると…やっぱり、心を乱されるものね……)

 

──人生は良い事もあれば悪い事もある訳で、某禁術でも使わない限り自分に都合の良い結果だけを選択する事なんて出来はしない。…でも、良い日だと思った直後に信じたくない事柄を聞く事になるなんて、幾ら何でも皮肉が効き過ぎている。……そう思う、わたしだった。




今回のパロディ解説

・ラッスンゴレライ
お笑いコンビ、8.6秒バズーカーの代名詞的ネタのワンフレーズの事。一応言っておきますが、イリゼの方はそれっぽく言ったりはしていません、悪しからず。

・「〜〜してんのうたおしたからチャンピオンせん?」
ポケットモンスターシリーズにおける、ポケモンリーグの基本仕様の事。原作では犯罪神がルウィー出身の設定がありますが、実はブランが黒幕…だったりはしません。

・某禁術
NARUTOシリーズに登場する瞳術の一つ、イザナギの事。このパロの時、実は水戸黄門のテーマソングも思い付いていました。勿論『人生楽ありゃ苦もあるさ』の部分です。

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