超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第九十七話 血塗れた救済

「えぇ、そうです。全職員に通達しておいて下さい。我々職員が手間取った事で手遅れになってしまえば、ネプテューヌさん達の奮戦が無駄となってしまいます」

 

女神達が犯罪組織残党の一団の迎撃を行う為リーンボックスへ集合した日の翌日。彼女等が戦闘を行う中、教会各部署の長を集めたイストワールは彼等に指示を出していた。

 

「イストワール様。その残党がいつ現れるかは…」

「分かりません、ですがいつ現れてもおかしくない事は事実です。なので皆さん迅速な通達を宜しくお願いします」

『はい!』

 

イストワールの言葉を受け、各部署長が会議室を後にする。そうして残ったのはイストワールと、コンパやアイエフ達パーティーメンバーのプラネテューヌ担当組。

 

「ふぅ…お待たせしました、皆さん

( ̄▽ ̄)」

「いや、それ程待ってもいないから大丈夫さ」

「ありがとうございます。…っと、コンパさんとアイエフさん。貴女方には現在皆さんのパーティーの一員として動いてもらっていますが、お二人は同時にそれぞれ衛生部と諜報部の職員。場合によっては他の職員の協力に回ってもらうかもしれないので、それは頭に入れておいて下さい

m(_ _)m」

「分かりましたです、いーすんさん」

 

事が事な為に普段よりも硬い表情を見せていたイストワールだったが、話す相手が半ば友人でもある面子に変わったからかその表情は幾分か柔らかに。同時に彼女の特徴とも言える顔文字も、彼女等との会話の際には復活していた。

 

「それで、話ってのはなにかしら?又は何でしょうか?」

「あ、今からの話は職員に対してのものではないので敬語で無くても結構ですよ。…皆さんも聞いての通り、残党は新たな手段でこちらにプレッシャーをかけてきました( ̄^ ̄)」

「構成員を操っての攻撃、だね。…随分と卑劣で厄介な事を考えたものだ…」

 

イストワールの話を聞くのは、コンパとアイエフに加えて二人のファルコム。二人は全く同じ反応を…とまではいかないものの、どちらも武の道を志す者として許せない、という表情を浮かべていた。

 

「わたしも同感です。そしてネプテューヌさん達はそんな人達を助ける為に、リーンボックスへと向かいました。…と言ってもここまでは、昨日ネプテューヌさんかネプギアさんに聞いていたかもしれませんが

( ̄▽ ̄;)」

「はいです。昨日ねぷねぷが、『わたしとネプギアが行ってる間プラネテューヌをお願いね!』って言ってたです」

「そうだったんですね。…今回の様な大部隊での侵攻はそうそうないでしょうが、これからも操られた人々を使って仕掛けてくる事はほぼ間違いありません。そしてそうなれば、ネプテューヌさん達はそちらの対処で他方にまで手が回らなくなってしまうでしょう」

「…だから、そうなった時あたし達に対応してほしい…って事?」

「その通りです。ゲリラ的に仕掛けてくる残党に対しては、物量より個人としての戦闘能力とフットワークの軽さが必要になりますから」

 

彼女等は女神の二人がリーンボックスに行った事に加え、先程の指示で操られた残党を助ける手段が女神であっても容易にはなし得ない方法なのだという事を理解していた。…だからこそ、彼女等は力強く頷く。

 

「そういう話なら、協力しない訳にはいかないね。ネプギア達が頑張っているんだ、あたし達ものんびりはしていられないよ」

「ですよね、ファルコムさん。仲間の為には、頑張らなきゃ…!」

「いつも何か困る度に頼ってしまってすいません。教祖としても個人としても感謝します」

「そんなに畏まらなくてもいいんですよいーすんさん。わたし達は、協力したくてしてるんですから」

「そうそう。それに、ねぷ子の『お願い』っていうのはイストワールの言う事も含めてだと思うもの。だから私達は最初から了承済みよ」

「皆さん……」

 

人知を超えた女神と言えど、全知全能ではない。世界の記録者たるイストワールも、結局は一個人。望む事、必要な事全てを自分だけで賄う術を彼女等は持たず……故に、自分達では手の回らない部分を補ってくれる、自らの願いに快く協力してくれる仲間がいる事を、イストワールは本当に感謝していた。

 

「…………」

『…………』

「……?」

「……え、いや…イストワール、話って…これだけ?」

「え?…えぇ、そうですが……(・・;)」

『…………』

「…………」

『…えぇー……』

 

目を瞬かせるイストワールに対し、全員揃って拍子抜けの心持ちを言葉に表した四人。彼女等は心の中でこう言っているのだった。──たった数分で終わる話なのに、わざわざ指示の場に同席させてまで待たせたの…?……と。

実際のところそれは、指示を聞いてもらう事で説明を省こうとしたイストワールの考えなのだったが、その説明というのもあまり長くなるものではなく、普通に別のタイミングで集まってもらえばよかったのかも……と、彼女等の心情を暫く見つめた後に気付くイストワール。気の回らない事をしてしまったと思い、彼女がそれに関してお詫びしようとしたその時……

 

「い、イストワール様!ご報告があります!」

「…はい?(・ω・?)」

 

会議室の扉が開き、一人の職員が慌てた様子で中へと入ってきた。

 

 

 

 

操られている犯罪組織残党の人をどう助けるかは、リーンボックスに行く前から知っていたし、わたしもきっとそれに参加すると思ってた。だってその手段は、桁外れの身体能力がなければ実行出来ないもので、とんでもない人が結構いる信次元でもこれを出来るのは女神位じゃないかと考えていたから。…そう考えていたから、お姉ちゃん達だけでやると言われた時には、ユニちゃんと同じように素直にうんとは言えなかった。

でも、ノワールさんの説明と、お姉ちゃんの言葉でこれはお姉ちゃん達に任せるべき事なんだと分かった。お姉ちゃん達ですら…近接格闘限定で戦ったら、何度やったって勝てないであろうお姉ちゃん達ですら難しい事を、中衛が基本のわたしや後衛担当のユニちゃん、ロムちゃんラムちゃんが上手くやれる筈がない。出来たとしても、お姉ちゃん達だけで対処出来る範囲なら任せた方が残党の方々の為になる可能性が高い。…そうはっきりと理解出来る位にノワールさんの言葉はしっかりしていて、お姉ちゃんの「自分は自分の出来る事を」って言葉は自分のやれる事を頑張ろう、ってわたしに思わせてくれた。だから、わたしは……お姉ちゃん達が自分の戦いに専念出来るように、わたし達の戦いに専念しようって、そう思った。

 

「空中戦では、高度が高い方が有利なんですッ!!」

 

機関砲を連射しながら、わたしの背後に回り込む空戦型キラーマシン。キラーマシンが後ろから襲おうとしている事に気付いたわたしは、わざと真っ直ぐ飛ぶ事でキラーマシンの直線機動を誘発させ、加速したところで全力の宙返り。旋回性の低い空戦型キラーマシンは当然わたしの動きに着いてこれなくて、真上を取る事に成功したわたしはM.P.B.Lでフルオート。放った光弾の内一発がメインスラスターに直撃し、キラーマシンは黒煙を上げながらくるくると落下していく。

 

「あははははっ!これがあっとーてきかりょくよ!」

「ラムちゃんと、ネプギアちゃんの…じゃまはさせない…!」

「撃ち漏らしはアタシが片付けるわ!二人は思うように戦いなさい!」

 

横を見ればラムちゃんが、出し惜しみ無しの高威力魔法を次々放って地上の機体を爆撃している。後ろを見ればロムちゃんがわたしとラムちゃんの妨害をしようとしてくる機体を牽制して、ユニちゃんが大破や機能停止まで追い込めなかった機体をきっちり狙撃してくれている。わたしは対空、ラムちゃんは対地、ユニちゃんとロムちゃんは援護と支援という役割で戦うわたし達候補生チームは、殆ど四人だけで兵器部隊を相手にしていた。

 

(……っ!今一機…でも、一機だけなら…!)

 

わたし達の連携を掻い潜って…というより他の機体が壁になる事で攻撃を受けずに済んだキラーマシンが、生活圏の方へと向かってしまう。けど、次の瞬間そのキラーマシンに対して何発もの長距離砲撃が叩き込まれた。

今さっき『殆ど』って付けたのは、今みたいに突破してくる機体がどうしても出てきてしまうから。でもそんな機体は全部待ち構えていた軍人さん達が撃破してくれているから、わたし達は一機たりとも街の方やお姉ちゃん達の方へ逃す事無く殲滅を進められていた。

 

(ラムちゃんが対地攻撃を引き受けてくれてるから、空戦に集中出来る。ロムちゃんが横槍を阻止してくれてるから、わたしは考えた通りに動ける。ユニちゃんがトドメを刺してくれるから、わたしは無理せず戦える。…軍人の皆さんがいるから、突破されても安心出来る)

 

すれ違いざまに主翼を斬り裂いて、撃たれるより先に機関砲を撃ち抜いて、複数機で迫ってきたら照射ビームで纏めて撃ち落とす。…そうやってわたしが大立ち回り出来ているのは、全部仲間がいるから。わたし一人で戦っていたら、もっと苦労してただろうし次々と突破されていた筈。そう考えると、本当に連携の力って凄いんだな…なんて思うわたしだった。…イリゼさん、イリゼさんの教えてくれた事は、ちゃんと活きていますよ。

 

「やっと目に見えて数が減ってきた…ラムちゃん!調子はどう?」

「ぜっこーちょーよ!でもシールド持ちばっかり生きのこったから、ちょっとペースおちるかも!」

「そっか、シールドか…ユニちゃん!わたしはいいからラムちゃんに火力支援をしてあげて!ロムちゃんにはその間少しだけわたしへの援護を増やしてほしいんだけど、大丈夫かな!?」

「うん、できる。ネプギアちゃん、任せて…!」

「分かったわ!アタシはシールド解除の瞬間を狙うから、アンタはもっと派手に戦いなさい!」

「もっとはでに?じゃあ、わたしのひっさつわざパート1を見せてあげるわ!」

 

わたしの周囲を駆け抜ける弾丸が消えて、代わりに魔弾や魔法の数が増えて、その数十秒後に地上で大爆発が巻き起こる。エネルギーシールドを有するキラーマシンはその爆発すら耐え切るけれど、爆発でレーダーもセンサーもまともに機能しなくなったところでユニちゃんの狙撃に対応出来る筈がなくて、反撃の為シールドを解除した機体の内の一機が光芒に貫かれて崩れ落ちる。キラーマシンの強固な盾も、わたし達の連携の前では時間稼ぎにしかならなかった。

 

「皆、お姉ちゃん達が目的達成するまで時間稼ぎを……ううん、達成するよりも先に殲滅するよッ!」

「えぇ、やってやろうじゃないッ!」

「みんなで、がんばる…!」

「わたしはさいしょから、そのつもりだもんね!」

 

女神候補生のわたし達に、お姉ちゃん達程の力はない。経験も精神も敵わないし、追い付く為にはまだまだ沢山の時間が必要になる。……でも、連携は…わたし達の絆は、お姉ちゃん達にもきっと負けていない。これだけは、負けてるなんて思わない。だから、わたし達は…皆を頼って、皆に頼られて……戦場を、飛ぶ。

 

 

 

 

相手を倒す事、相手を傷付ける事。それは戦いにおいてはどうしても避けられない事で、わたしはそれを何度も何度も経験してきた。でもわたしは記憶を失った後の今より記憶を失う前の時間の方が長いんだから、それを含めれば回数は本当に気が遠くなる程のものになると思う。

でも、その経験の大半はモンスターや兵器に対するもの。最近は人を相手に戦う事も多かったけど、その場合はいつも無傷か軽傷程度に抑えていた。だから、わたしも皆も人を傷付けるというのはモンスターや兵器に比べてずっと慣れていなくて……わたし達は傷付ける度に、心に罪の意識が染み付いていった。

 

「お願い、抵抗しないで…無理に動こうとしないで……」

 

振るわれた腕を掴むと同時に捻り上げ、相手が暴れるよりも早く肩の関節を外す。足払いで地面に倒し、両手での抜き手で両脚の腱を切断する。息つく間もなく片腕と両脚の機能を奪われたその人は絶叫を上げるけど……わたしはその人に、面と向かって謝る事すらしていられない。次々と襲いかかってくる残党は、その残党の味方を気遣う事すらさせてくれなかった。

 

「……くっ…!」

 

真横に跳んで複数方向からの攻撃を避け、一人を狙う状況を作る為に残党の連続攻撃を凌いでいく。指先のプロセッサは鉤爪の様になっているおかげで、角度と速度が足りていればほぼ確実に腱の切断を成功させてくれているけど……腱にしても脱臼にしても、神経を張り詰めていないと必要以上の怪我をさせてしまって、そうなれば傷付けられた人達はより一層痛みに苦しむ事となる。彼等がそれでも最小限の傷で済むか、それとも解放されてからも不自由な身体で生きていく事になるかは……わたし達に、かかっている。

 

(…でも、こんなプレッシャー…この人達の苦しみに比べれば……ッ!)

 

耳にべったりとこびり付く悲鳴。腱を貫く度に赤く染まる自分の手。だけどそれは覚悟していた事。女神として、守るべきものの為に戦い続ける者として、そういったものを背負う覚悟でここに来ている。

けど、彼等は違う。望まない戦いを強いられ、無理な動きで身体を痛め、わたし達に傷付けられる彼等はわたし達よりずっとずっと辛い筈。その人達に比べれば、わたし達の辛さなんて…いや、比べる事すらおこがましい。辛いなんて思う事自体が間違っている。

 

「痛い、痛いぃぃぃぃぃぃっ!!」

「助けて…お願いよ女神様、わたしの身体を止めて……」

「あは…あはは、あはははは……」

 

苦悶の絶叫が聞こえる。涙を流し助けを求める声が聞こえる。生気のない乾いた笑いが聞こえる。そんな人達にわたし達が向けるのは、救いの手ではなく破壊の手刀。…こんなの間違っている。けど、今はこれでしか助けられない。

切って、外して、避けて。貫いて、捻り上げて、転ばせて。そうして戦っている内に、わたしの視界で緑の尾がたなびいた。

 

「あれは……ベール!」

「ネプテューヌ!?…いつの間にやら近付いてしまったようですわね…」

 

互いに相手を認識したわたしとベールは、一度合流して背中合わせに。それまでは次から次へと襲ってきた残党も、女神が二人集まり最大の死角である背後を狙えなくなったからか様子見するような動きを見せる。

一団に突撃した時わたし達は、全員分かれて交戦を開始した。それは誰かが無力化した残党を間違って攻撃しかけたりその残党が邪魔になったりするのを避ける為で、初めは極力他の誰かに近付かないよう戦っていた。なのにここまで距離が縮んでいたって事は……

 

「わたし達、随分と余裕を無くしてるみたいね…」

「当然の事ですわ。…まだ、大丈夫でして?」

「えぇ、ベールこそ大丈夫?」

「当然。それにこれはリーンボックスを守る戦いですもの、大丈夫でなくても戦いますわ」

「だったら良かったわ。…そうよね、これは守る戦いなんだから…」

「そう、これは守る戦いなのですわ…」

 

側面から飛び出してきた一人の腕をそれぞれで掴み、前のめりにさせつつ背後に回って二人同時に掌底。その一撃で両肩を脱臼させ、わたし達は再び一人に戻る。

大変な時、強敵が相手の時、わたし達はこうして互いに心配と鼓舞をする事によって心を奮い立たせていた。……でも今は、わたしもベールもいつも通りの声が出せなかった。

 

(やっぱり、ネプギア達に参加させなくて良かったわね…)

 

ネプギア達に対兵器を担当してもらったのは、勿論戦術面や合理性を考えての判断で、心の問題は判断材料に入れていない。…でも、それで正しかった。こんなの、女神の戦いじゃない。女神という存在に希望と憧れを抱いているネプギア達は、こんな戦いをするべきじゃない。

 

「…大丈夫、わたしは守護女神…平和と繁栄の守護者なんだから……!」

 

そんな思いで、わたしも皆も戦った。傷付けて、無力化して、救いの皮を被った暴力を振るい続けた。そうして気付けば、もう立っている残党の姿はまばらにしか見えなくなっていた。

 

「後少し…後、少し……!」

 

腱を切った指を抜き去り転ばせて正面に跳ぶわたし。もう四人の姿は見えている。見回しても残党の残りは十人未満。そんな中、わたしの一番近くにいた無力化前の残党は……髪の長い、優しそうな少女。

 

(こんな子まで……!)

 

わたしと正対した少女の顔は、恐怖に引き攣っている。それは操られている事に対してなのかもしれないし、自分が味方と同じ末路を辿るであろう事へ対してなのかもしれない。…けれど、どちらであろうとわたしはやらなきゃいけない。やらなきゃ、この子は解放されないのだから。

 

「ひぐ……ッ!?」

「少しだけ我慢して、すぐに助けてあげるから…!」

 

迎撃するかのように振るわれた蹴撃を半身で避け、その動きのまま片脚の腱を切断。相手が少女だからか一層の罪悪感を感じる中、それでも…とわたしは少女の両肩に手を伸ばす。大丈夫だって伝えたくて、少しでも早く解放してあげたくて、守ってあげたくて…………

 

「いやっ…助けて、助けて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……助けてよぉ、お姉ちゃぁん…!」

「────ッ!?」

 

──その瞬間、姉に助けを求める少女の姿が…ネプギアと重なった。

 

「がっ…、ぁ……!」

「やだ…もう、やだよぉ……!」

 

自分の手がネプギアを傷付ける為に伸ばしてるように見えて、止まってしまったわたしの手。その間に少女は動き…わたしの首が、少女の両手に掴まれた。そして、わたしは少女に首を絞められていく。

 

(このままじゃ、いけない…でも…でも、この子は……)

 

片脚が動かない事が逆に首へと体重をかける形に繋がり、段々と息が苦しくなっていく。幾ら女神でも、無抵抗でこのまま絞められ続ければ流石に不味い。…でも、腕に力を込められない。込めようとする度ネプギアの顔がちらついて、この子を傷付ける事はわたしにとってネプギアを傷付けられる事と同じなんだと思ってしまって、どうしても少女を力で押さえつけられない。

分かってる。戦わなきゃいけないって。わたしは死んじゃいけないって。でも、どんなに頭で分かっていても心はそれに着いていけなくて、わたしは何も出来なくて、その間もどんどんわたしの首は締まっていって……

 

「……何やってるのよネプテューヌッ!」

「いッ……あぁぁぁぁッ!!?」

「……っ!げほげほっ…!」

 

次の瞬間、銀色の髪をたなびかせながらノワールが少女へと強襲した。背後から両肩を掴み、飛んだ状態で両膝を少女の背中に当て、僅かな時間も与えず一気に両肩を引き絞る。それだけで少女の肩は両方脱臼し、わたしの首から手が離れていった。

 

「の、ノワール……助かったわ…」

「助かったわ、じゃないわよ!貴女今、反撃しようとしてなかったわよね!どういうつもり!?」

「……この子が、言ったのよ…お姉ちゃん助けて、って…」

「それは……だとしても、無抵抗で良い訳ないでしょうが…」

 

わたしで身体を支える事が出来なくなった少女は脚の腱が切れている側に倒れ込む。その子に申し訳ないと思いつつもノワールに礼を告げると…見るからに怒った様子のノワールにわたしは叱責された。でも、そのノワールもわたしが少女の言葉を口にした瞬間表情に動揺が走る。…多分それは、ノワールにもユニちゃんという妹がいるから。……けど、ノワールの言っている事は間違ってない。

 

「…そうよね…ノワール、貴女の言う通りよ」

「……分かってくれたなら、いいわ」

 

顔を見上げて見ると、もう立っている残党はいなかった。広い草原に、もうすぐ夜の帳が下りる草原に、立っているのはその手を血で濡らしたわたし達だけ。

 

「…………」

 

誰も、何も言わなかった。勝利を喜ぶ声も、全員無事だった事に安堵する声も上がらない。……皆、そんな気分になれなかった。

 

「……無力化は済んだし、この人達を運ぼうか。軍だけじゃ全員運ぶのは大変だと思うし…」

「…そう、だな……」

 

心苦しい無言の中、ぽつりとイリゼが呟いた。その後それにブランが同意した。それを受けて、全員が近くの残党に…わたしは少女に手を伸ばす。────そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクククククク…ご機嫌は如何かな、女神の諸君」

『……ッ!?』

 

インカムから聞こえてきた、不快さを感じさせる声。このインカムからは、仲間内でしか使われていない物からは聞こえる筈のない、あり得ない声。……それは間違いなく、四天王トリック・ザ・ハードの声。

 

「な…なんで、テメェが……!」

「むふぅ、驚く幼女の声というのも中々乙なものだなぁ…それだけでもわざわざこの通信機を使った意味があるというものだ…」

「驚き一つに気持ち悪い感想抱いてんじゃねぇよ!質問に答えやがれッ!」

「おっと、これは失礼。何故我輩が連絡をかけられているか…それは、プラネテューヌの教祖の通信機が我輩の元にあるからだ」

「え……そ、それって…」

「あぁ、つまり……」

 

不可解な状況。不可解な発言。トリックから返ってきた言葉に、イリゼが反応して…恐らくはその瞬間、インカムの向こうで奴はにやりと笑みを浮かべて……言った。

 

「……プラネテューヌの教祖、イストワールは預からせてもらった。アクククク、アクククククククク……」

 

……わたし達が愕然とする中、わたし達の下へ来ようとしていたネプギア達も愕然とする中…インカムからは、至極愉快そうなトリックの笑いが響き続けるのだった。




今回のパロディ解説

・「空中戦〜〜なんですッ!」
ガンダム Gのレコンギスタの登場キャラの一人、マスクことルイン・リーの台詞の一つのパロディ。空戦型は旋回性に欠けるので、実際上を取るのは有利です。

・「〜〜わたしの〜〜パート1〜〜」
仮面ライダー電王の登場キャラ(イマジン)、モモタロスの必殺技のパロディ。ラムの事なので、割と適当に強い魔法を必殺技パート1、と言っているのかもしれません。

・「……何やってるのよネプテューヌッ!」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの登場キャラ、オルガ・イツカの名台詞の一つのパロディ。ネプテューヌは太刀使いですからね、これ最終決戦ではありませんが。

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