超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第九十五話 罠への襲撃

新たな事態に対し、集まってもらった三人が教会を後にしてから十数分。誰もいなくなった応接室で、わたしは思考を巡らせていた。

 

(……新興宗教としては壊滅した犯罪組織に、半数を失った四天王。皆の活躍でシェア率が回復し、あの作戦以降過熱状態を過ぎても尚好調なわたし達女神のシェア)

 

敵の力は武力としても影響力としても大いに低下していて、対するわたし達は戦力に大きな損害を出さずに最大限の成果を上げられていると言えるのが、今の状態。しかもそれはわたし達守護女神が殆ど関与せずに…どころか助けてもらう立場で進んだのだから、わたし達四人はもう感謝に感謝を重ねるしかない。守護女神でありながらむしろ『守られた』事や、ロムラムが知らない内に成長してしまった事は、正直言えばちょっと「むむ……」とも思うけど……流石にそれで拗ねる程子供じゃないわ。……でも、

 

(一方で犯罪神は復活に近付いていて、下衆故にこちらが手出しし辛い策も打ってきた。…まだ、四天王も残党も万策尽きた訳じゃない)

 

わたし達は優勢だけど、完全勝利には至っていない。単なる侵略戦争なら勝ったも同然だけど、この戦いはそうじゃない。わたし達の勝利条件と犯罪神側の勝利条件は違って、その勝利の先で為さねばならない事も全然違う。…だとするならば、それも踏まえて考えるとするならば……

 

(……真の勝利へ近付いているのは、本当にわたし達と言えるの…?)

 

 

根拠がある訳じゃない。わたしはどうも理詰めで考える癖があるから(……何?わたしが何か変な事を言ったとでも?)、悪い方向での可能性を模索し過ぎているだけかもしれない。でも、根拠も何もないからこそわたしの感じる不安が間違ってるとは断定出来なくて、この不安は世界の守護者たる女神の本能が感じさせている……のかもしれない。だったら、例え時間の無駄になるかもしれなくても、深くゆっくりと考える価値はある……と、そう考えていたわたしの思考を遮る、二つの影。

 

「こそこそ…こそこそ…」

「こそこそ…(こそこそ)」

「……何をしているの…?」

 

いつぞやのコンパの様なスタイルで部屋へと侵入してきたのは……ご覧の通り、ロムとラム。床の掃除がしたいのか、なんちゃって匍匐前進で入ってくる双子の妹を目の当たりにすれば…えぇ、どんな思考をしていたって遮られるわ…。

 

「わっ、もう見つかった…」

「しょけんごろし…(しょぼん)」

「初見殺しとはまた誰にそんな言葉を…で、それは何の遊びなの?」

「おねえちゃんに気づかれないようにちかづいて、ほっぺぷにってするあそびー!」

「でも、しっぱいしちゃった…ぷにって、したかった…」

「そ、そう…一応言っておくけど、こそこそは漫画的表現であって口で言う必要はないのよ…?」

 

なんともまぁ子供らしい理由にわたしは苦笑い。こんな二人が女神候補生…いつかわたしの後任として守護女神となるのかと思うと色々不安にもなるけれど、じゃあ成長して女神に相応しい性格となってくれる事を望んでいるかと言われれば……正直、素直に首を縦には振れない。…だって、わたしにとってはそんな二人が愛らしいんだもの。

 

「じゃあ、言わなければ…ぷにってできた…?」

「…残念だけど、言わなくても気付いたと思うわ」

「むむ…さすがおねえちゃん、つよい……」

「いや、今のはわたしじゃなくても大概気付くと思うけど…」

「扉開ける時点で音立てちゃってるもんねぇ」

「そういう事……って、なんで貴女まで居るの…」

 

残念そうな二人と呆れ半分で話していると、その中にしれっと混じってきた一つの声。二人のものより大分大人びたその声の主は……まさかのシーシャ。

 

「いやぁ、出歩いていたら二人と会ってね。折角だからお邪魔させてもらったのさ」

「…貴女、仕事は?」

「少し位不在にしていたってルウィーのギルドは機能不全になったりしないわ。これもブランちゃんの統治がしっかりしているからかな」

「わたしが言っているのは貴女個人の問題よ…後、ブランちゃんは止めて」

「え?…なら、ホワイトハートちゃん?」

「そっちじゃない…」

 

いつ会ってもあっけらかんとしているシーシャは、やっぱり今日もあっけらかんとしていた。クールなわたし(……だから何?わたしは事実を述べているだけよ?)に穏やかなミナ、接し易いシーシャとそういう見方をすれば今のルウィー体制において丁度良い性格の人物ではあるけど……もう少し真面目さがあってもいいんじゃないかしら。…他の黄金の第三勢力(ゴールドサァド)が真面目かと言われれば微妙だけど…。

 

「おねえちゃん、いっつもブランちゃんは止めてって言ってるね」

「シーシャが何度言っても止めないからよ」

「…もしかして、わたしたちがおねえちゃん、って言うのも…ほんとはやだ…?」

「そんな事はないわ。貴女達はこれまでもそう呼んでくれて大丈夫」

「OK、その言葉しかと受け取ったよ」

「貴女達、にシーシャは入ってねぇよ…!」

「まぁまぁ落ち着こうよブランちゃん、ほらウルトラ上手に焼けたお肉をあげるからさ」

「よし、ロムラムちょっと席を外してくれ。こいつをギルドの執務室までぶっ飛ばす」

 

素手での格闘を基本戦法とするシーシャなら、拳で分からせた方が早いだろう…と思ってコートの袖を捲ったものの、すぐに慌てたロムラムに止められてしまった。……二人の優しさに助けられたわね…。

 

「全く…シーシャ、お茶は出すわ。だから用が無いならそれを飲んでさっさと帰りなさい」

「ごめんごめん、謝るからそう邪険に扱わないでよ。……何も用事が無くて来たんじゃないんだから」

「…ロム、ラム。ここに残ったお菓子は食べていいわ。だから他の部屋で遊んでいてくれる?」

「はーい。……あ、でももうあんまりない…」

「え?…ネプテューヌ、帰りがけに持っていったわね……」

 

来てくれた三人に出したお茶菓子は結構残っていた筈なのに…と思ってテーブルを見てみると、確かにかなり減っていた。そして思い返すと帰る時のネプテューヌのポケットは、妙に膨らんでいた気がする。……ほんとに本来はネプギアが先に生まれる筈だったんじゃないかしら…ネプテューヌとロムラムは精神年齢近そうだし…。

ロムとラムが応接室を後にし、入れ違いで三人へ出したお茶を片付けにきたフィナンシェへシーシャの分を頼んだところで、ここはわたしとシーシャだけに。わたしが視線をシーシャに送ると、彼女は座りながら首肯する。

 

「…けど、別に二人は居てもらっても構わなかったのよ?二人にだって女神の自覚がある事は、ブランちゃんも知っているでしょ?」

「えぇ、知っているしそれがわたしの捕まっている間に成長していった事も分かっているわ。けど……」

「けど?」

「だからこそ、今の二人は少し危ういわ。誰かの為に、守るべきものの為にって意思が先行し過ぎて、浅い思慮で動いてしまう可能性があるもの」

 

強い思いは諸刃の剣。普通ならば出せない力を引き出す鍵となってくれる事もあれば、思考力や判断力を鈍らせる障害になる事もある。そしてまだ二人は未熟である以上、何かあれば気持ちに振り回される可能性は十分に考えられた。

 

「…それはそうだね。流石ブランちゃん、妹の事をよく分かってるじゃないか」

「姉としてこれ位当然よ。…それで、本題は?」

「おっとそうだった。…少し、気になる依頼があってね」

「気になる依頼?」

 

これよ、と言って依頼書を取り出したシーシャ。何か変なところでもあるのかとわたしは早速目を通すものの…さらっと見た限りでは、別段おかしな部分はない。

 

「…普通の討伐依頼、ではないの?」

「それは、これを見てもそう言えるかな?」

「これは…別の依頼?これが何だって……」

 

新たに出された数件の依頼書(こちらは解決済みだった)を見ても、やっぱりおかしなところは見当たらない。口振りからして比較すれば分かる、って事だろうけど、比較したって不自然な点はどこにも……

 

「……いや、待った…」

「…………」

「…これ…この依頼だけ、妙に情報がしっかりしている…?」

「そういう事。モンスターの跋扈する場所での依頼…特に討伐依頼なんてそのモンスターに対抗する術のない人が出すんだから、詳細な情報を調べられる訳がない。にも関わらず情報がしっかりしているのは、不自然だよね?」

 

シーシャの言葉に、わたしは頷く。普段クエストを受ける際にはあまり気にしていなかったけど、考えてみれば情報はいつも大まかなもので、モンスターに関してはギルドや受注者側で推測しなければいけない事もそれなりにあった。それを加味して考えれば……確かに、不自然ね。

 

「…シーシャ、貴女はこれを偽の依頼だと思っているのね」

「その通り。恐らくこれは、受注者を誘き寄せる意図で出されたんだろうね。けれど依頼の出され方の傾向をきちんと理解していなかったから、偽造が甘くなってしまった…そうアタシは見てるわ。まぁ最も、比較無しで気付けるのなんてそれこそギルドの職員位だろうけど」

「…となると、この依頼の目的はクエストを達成してもらう事じゃなくて、受注者を騙して誘い出す事。…これ、普通ならギルドで破棄するのよね?」

「依頼主に連絡を取り、真偽を確かめた後に…ね。けれど連絡を取れば、その時点で依頼主は逃げてしまう可能性が高い」

「そうなれば、折角のチャンスを逃してしまう事になる。……わざわざ向こうから見せてくれた、残党の尻尾を」

 

依頼から分かる情報では、依頼主がどういう立場でどんな目的を持っているかまでは分からない。でもこんな回りくどい手段を使って、しかもモンスターに襲われる危険のある場所へと誘き寄せようとする奴なんて…犯罪組織の残党だとしか思えない。

 

「…ありがとうシーシャ。例えそれが罠だったとしても、分かっているなら対処も出来る。だからこの依頼、受注させてもらえるかしら?」

「勿論。…けど、ブランちゃんが一人で行くのは悪手じゃない?もしかしたらブランちゃんが来ていると分かった時点で逃げるかもしれないわよ?」

「なら、この依頼は誰かに任せろと?」

「誰かが油断させる為に先行して、交戦状態になったところでブランちゃんが出ればいいのよ。そしてここにはその協力者としてぴったりの人物がいる…そう思わない?」

 

そう言ってシーシャは自信有り気に胸を揺らす。……今絶対わざと揺らしたな…。

 

「…そうね、ここには性格の悪い支部長がいたんだったわ」

「お茶目な性格の支部長、と言ってほしいね。…それで、どうするの?もしアタシじゃ力不足だって言うなら、アタシは身を引く。けどもしそうでないなら…」

「…先行にはそれ相応の危険が付き纏うわ。その覚悟はある?」

「この顔が、覚悟ないように見える?」

 

わたしの恨みを込めた視線をシーシャは軽く受け流し、笑みを浮かべるシーシャ。彼女の顔は一見軽い気持ちで言っているようだけど……その瞳には、本気の意思が籠っていた。

 

「……分かった、先行役は貴女に任せる。…けど、どうしてこんな面白くもない役目を買って出るの?」

「最近は犯罪組織とその残党絡みでアタシも忙しくてね。だから身体を動かしてスッキリしたくなったのよ。で、どうせスッキリするなら誰かの役に立ちつつスッキリした方がより気持ちいいでしょ?」

「…なら、戦力として頼りにさせてもらうわ」

「えぇ、お姉さんに任せて頂戴」

 

スッキリしたいから。そんな趣味のスポーツをやるような感覚が、シーシャの口にした理由だった。……けれど、わたしには分かる。軽いノリで、あまり真面目さの感じられない彼女だけど、本当はついで感覚で言った理由の方が本命なんだと。そしてそれは、電話やメールでもいいのにわざわざ出向いてきた事から考えても間違いない。……全く、これでわたしをからかう癖がなければ申し分ないのに。

その後シーシャは運ばれてきたお茶を一気に飲み干し立ち上がる。善は急げを身体で表すが如くの動きにわたしは苦笑しつつも同じく立つ。それからわたしはフィナンシェに事情を伝え、シーシャと共に応接室を後にした。

 

 

 

 

「…いたよブランちゃん。数は十数人…よりもうちょっと多いかな」

 

インカムから聞こえるシーシャの声。それを聞くわたしは現在誰かが作ったのであろうかまくらの中。教会を出てから約一時間後。わたしとシーシャは依頼にあった地域へと来ていた。

 

「武器と伏兵は?」

「武器は……出してないね、警戒させない為だろう。伏兵は今の距離じゃ分からない」

「了解よ。向こうにはまだ気付かれていない?」

「当然。だからブランちゃんもまだ来ないでよ?」

 

シーシャからの通信(前にわたし達へ配られたインカムは、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)へも配られていたらしいわ)には、彼女の声に混じって微かな足音も聞こえてくる。インカムからですらこの程度の音なら、まず足音で気付かれる事はなさそうね…。

 

(…別働隊らしき影は無し……)

 

かまくらから顔だけ出して、ぐるりと周囲を確認する。…わたしの場合、こうしていると子供が遊んでるみたいに見えてしまうのが少し癪だけど…もし別働隊がいて、その別働隊に気付かれてしまったら作戦が無駄になるどころかシーシャの身に今以上の危険が及ぶのだから、今はそんな事を気にするべきじゃない。シーシャが交戦開始するまで絶対に見つからない…それが、今のわたしがやらなきゃいけない最初の役目。

 

「…流石にこれ以上近付いたら気付かれるか…その前に、何か言っておく事はある?」

「そうね…貴女、結婚の予定は?」

「結婚?また急に何を……ってアタシに死亡フラグを立てさせる気!?ちょっ、ブランちゃん!?」

「シーシャ、声を殺さないと気付かれるわ」

「ぐっ…教会での事根に持ってたのね……」

「さてどうかしらね。…それより今ので十分肩の力は抜けた筈。…頼むわよ」

「……元々肩の力はそんなに入ってないって…でも、気遣い感謝するよブランちゃん」

 

会話越しに感じる、シーシャの小さな笑み。確かに彼女にそんな気遣いは不要だったかもしれないわね…とわたしが思う中、それまで聞こえていた足音が一瞬大きくなり……

 

「あら、こんな所に人がいるなんて意外ね。貴方達、そこで何をしているの?」

 

わたしに向けてではない、誰かに向けての声が発せられた。…十中八九、それは先程シーシャが目視した集団への言葉。離れた場所にいるわたしにも、状況に際して緊張が走る。

 

「……あぁ、ちょっと採取をしててね。そちらは…もしや支部長さんかな?支部長さんこそどうしてここに?」

「アタシはクエストよ。ここに討伐対象のモンスターがいるらしいんだけど…それらしきモンスターを見た人はいる?」

「へぇ、そういう事ね。…うーん…取り敢えず後ろの彼に訊いてみたらどうかい?」

「後ろ?アタシの後ろに人なんて……」

 

──その瞬間、一発の銃声が響いた。そして、わたしの記憶が正しければ……シーシャは銃を携行していない。

 

「……っ!シーシャ、大丈夫…!?」

「あ、危ない危ない…けどギリギリセーフ。一先ず一発目は…ねッ!」

 

恐らくそれは、後ろを向く為シーシャが背を向けたと同時に放たれた銃撃。口振りからして何とか反応出来たようで、わたしはほっとしたけど…すぐに第二第三の発砲音が響いてくる。

シーシャは鉄拳ちゃん同様武器は使わないという、中々チャレンジャーなスタイルだけど実力は本物。だから一般人が相手なら武装をしてても返り討ちに出来ると思うけど…相手の数が二桁となると、そう悠長な事も言っていられない。勝てるのかもしれないけど、楽観視している場合じゃない。

 

「逃げ回ってもいいから身の安全を最優先にしろ!すぐにわたしが向かう…ッ!」

 

それまで潜伏していたかまくらから一息で飛び出し、わたしは女神化。風圧で雪原の雪を舞い上がらせながら目的地へと猛進する。

 

「そう慌てなくても大丈夫よブランちゃん!幾ら数と距離で優位に立っていたって、この程度……よしっ!一人目KO!」

「馬鹿!モンスターや大型兵器引っ張り出してくる可能性もあるだろうが!」

「その時はその時、どっちにしろこっちは近接格闘しか出来ないんだから逃げ回るのも難しいしね!」

 

銃火器の連射音ばかりが聞こえる中、殴打の音が散発的に混じってくる。四方八方から撃たれる中で殴打による反撃をしている、というのは些かシュールというかサブカルチックというか…って、んな事はどうでもいいんだよ…!

 

「だったらせめて伏兵には気を付けろよ!後狙撃もな!」

「分かってる!でもこのペースなら、もしかするとアタシ一人で制圧も……あら?」

「…あら?あらって何だよ…?」

 

目的地までの距離も半分以上過ぎ、もうすぐ合流出来るという時に、突然シーシャは不思議そうな声を上げた。それまでとは雰囲気の違う声に加え、更には何故か銃声が一気に小さくなっていく。まさかもう制圧を?…と一瞬思ったが…それなら「あら?」の意味が分からない。

 

「い、いやね…アタシもよく分からないんだけど…なんか、急に皆止まった…」

「止まった?何だそりゃ、影真似の術でも使ったのか?」

「アタシ忍者じゃないんだけ……どぉぉっ!?」

「……!?こ、今度はどうしたシーシャ!」

 

わたしとシーシャが疑問を抱いていたのも束の間、虚を突かれたようなシーシャの声がわたしの耳に。更にそこから聞こえてくるのは連続した打撃音。

 

「な、なんか妙に機敏な動きをする奴が一人……じゃない!?わ、っととッ!?」

「だから何があったんだよシーシャ!おい!」

「ごめんブランちゃん!アタシにも分からないから自分の目で確かめて!」

「確かめてって……まさか…」

 

いまいち要領の得ないシーシャの言葉に困惑するも、わたしは情報を取りまとめ……ある可能性に辿り着いた。つい数時間前、重要な話として口に出したその事に。

 

「……っ…!しゃがめシーシャ!」

 

思い至った可能性を口にする前に、シーシャと敵の姿が見えてくる。ならばまずすべき事は救援。そう考えたわたしはシーシャの背に軸合わせを行い……シーシャがしゃがんだ瞬間、数人纏めて蹴り飛ばした。

 

「…助かったよブランちゃん…!」

「シーシャ!こいつらは操られてる!動きも常人のそれじゃねぇから気を付けろ!」

 

滑り込みながら着地し、端的に説明するわたし。混乱させないようもう少ししっかりと説明したかったが…敵はその時間を与えてくれはしなかった。

 

「ちっ…!おいテメェ!意識はあるか!自分の身体に何が起きてるかどこまで分かってる!」

「ひっ……!わ、分からねぇよ!急に身体が勝手に動き出して…ぁぁぁぁああッ!?痛い痛い痛い痛い痛いぃぃ!」

「な……ッ!?馬鹿止めろ!無理に動こうとするんじゃねぇッ!」

「だ、だから身体が勝手に動くんだ!離してくれッ!離してくれぇぇぇぇっ!」

 

殴りかかってきた一人の腕を掴み、逆に背中へ締め上げたわたしは情報を引き出そうと試みる。だが、そいつが……いや、そいつの身体が選んだのは…力尽くでの脱出だった。

幾ら身体のリミッターが外れているとはいえ、一般人と女神の間には天と地程の力量差がある。だからどんなに力を込めようが拘束が外れる訳がなく、にも関わらず無理矢理外そうとすれば関節に過剰な負荷がかかっていき…………ガクッ、と鈍い音が肩から響いた。

 

「……──ッ!ひぎゃあぁぁぁぁああああっ!!?」

「…嘘、だろ……?」

 

あまりの驚きに、わたしは腕を離してしまう。絶叫としか言いようのない叫びをあげる男と、だらんと下に垂れ下がったまま動かない男の右腕。……奴は、間違いなく脱臼していた。それも、自らの手で。

 

「…ブランちゃん、今のって……」

「……くそッ!もう少し戦ってみて、勢いが衰えねぇようなら撤退するぞ!いいなッ!?」

「……っ!了解した…!」

 

聞くに耐えない絶叫を上げながらも、激痛で顔を歪ませながらも、男はわたしへ襲いかかってくる。…男だけじゃない。この場にいる全員が、死を覚悟した戦士が如く突っ込んでくる。殴り付けても、蹴り飛ばしても、地面に叩き付けても止まらない。その狂気的な形相に、わたしもシーシャも気圧されていた。

 

(どうなってんだよ…なんでこんな事になってんだよ……ッ!)

 

もしかしたら、途中で操りが解除されるんじゃないか。完全な戦意喪失で、止まってくれるんじゃないか。……そんな淡い望みを抱きながら戦うわたしだったが、一向に奴等の突撃は終わらない。わたしはそんな状況でもまだまだ戦えるだけの体力があったが……シーシャはそうじゃない。今はまだよくても、いつまで続くか分からない。……ならば、ここは一度退くしかない。──そう思った、瞬間だった。

 

「うぉ……ッ!?」

「ほ、砲撃!?」

 

奴等が揃って後ろへ跳んだ瞬間、突如として駆け抜けた銃弾。だがその銃弾は、人間が携行出来る銃器から放たれるサイズではない。その驚きの中、反射的にわたしとシーシャが視線をそちらへ向けると……そこにいたのは、赤く巨大な人型の機械。

 

「あれは……例のMGか!奴まで出てくるのかよ…ッ!」

「……え…あの動き…」

 

モノアイを光らせ、機敏な動きを見せながら右腕部に持つ機関砲と頭部の機銃で弾幕を作る赤いMG。咄嗟にわたしはシーシャの前へと飛び出し、射撃からシーシャを守ろうとしたが……銃弾はわたし達の周囲に飛ぶばかりで、直撃コースには一度も入ってこない。一瞬パイロットはどこぞの二丁グレネード使いばりにノーコンなのかと思ったが、視界の端に映った光景でその意味を理解する。

わたしが見たのは、それまでとは打って変わって全力で逃げる敵の姿。…つまり、あのMGの狙いは……撤退の為の時間稼ぎ…!

 

「あくまで傷付ける気はねぇってか…味な真似でもしてるつもりかよッ!」

 

直撃コースに入れてこないとしても、敵は敵。ましてやそれが軍でも危険視されてる奴だってなら、のんびり眺めている理由はない。そう考えたわたしは魔力の光弾を作り出し、顕現させた戦斧で打ち込んだが…その瞬間にMGはスラスターを吹かし、機体を逸らして光弾を回避した。とはいえわたしも一撃でやれるとは思っておらず、機体を逸らせただけでも成果は十分。即座に地を蹴ったわたしは近接格闘を仕掛けるべく突進をかける……が、それよりも早くわたしの視界は煙に覆われた。

 

「ちぃっ!スモーク弾頭か…!」

 

視界が白で埋まる直前に見えたのは、腰から抜き放たれたロケットランチャーの砲口。これまた個人が携行出来る煙玉やスモーク弾とは桁違いの煙がわたし諸共視界を埋め尽くし……

 

「……っ…ブランちゃん、敵は!?あの赤い機体は!?」

「……逃げちまったよ、あのMGも一緒にな…」

 

……濃密な煙幕が晴れた頃、犯罪組織の残党であろう集団とMGの姿は…もうここには残っていなかった。




今回のパロディ解説

・ウルトラ上手に
モンスターハンターシリーズにおいて、高級肉焼きセットでこんがり肉Gを完成させた際のフレーズのパロディ。やっぱりシーシャはがっつり食べるんでしょうか…?

・影真似の術
NARUTOシリーズに登場する忍術の一つの事。敵の動きを止める技は古今東西の作品にあるので、別のパロディを使っていた可能性もありますね。

・どこぞの二丁グレネード使い
ソードアート・オンラインオルタナティブ ガンゲイル・オンラインの登場キャラ、フカ次郎こと篠原美優の事。当然MGの方は偶然ではなく狙って外しております。

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