超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第九十四話 新たな事態

ユニが単身四天王との戦闘に向かったと聞いた時、私は一瞬耳を疑って……すぐに居ても立っても居られなくなった。ユニを軽んじてる訳じゃない。四天王は私でも本気で戦わなきゃ負けるレベルの敵で、実際イリゼは一対一で戦った結果大怪我を負ったんだから、そんな相手にユニが一人で戦おうなんて無茶に決まってる。

教会を飛び出した私は、女神の姿でケイから聞いた場所へと直行した。間に合うかどうかとか、勝てるかどうかとかじゃなくて、ただただユニが心配で心配でしょうがなかった。もしユニが私や守護女神の皆と同じ目に遭うとしたら……そう考えるだけで、私は叫び出しそうだった。ただただ私は、ユニに無事でいてほしかった。

そんな思いで工場と直結した倉庫へ突っ込んだ私。壁をぶち破って、勢いそのままに滑り込みながら着地して、ユニの姿を見つけて…………そこから私は、何故か男の子を家に送り届ける事となった。

 

 

 

 

「……それで、お姉ちゃんにあの子を任せた後は少しブレイブと話して…それで、看取る…つもりはなかったけど、そんな感じになって…それで、帰ってきました…」

「……そう」

 

その日の夜、約束通りユニは私の下へ説明をしにやってきた。別に強要はしてなかったし、普通に椅子を勧めるつもりだったけど……ユニはそれよりも早く椅子に座る私の前に正座して、その状態で話し始めた。

それから十数分。ユニが話を終えた時、私とユニの立ち(座り)位置は変わっていない。

 

「…………」

「…う……その、あの…」

「…………」

「……勝手にこんな事して、ごめんなさい…」

「……はぁ…」

 

工場と倉庫へ向かっていた時、私はユニが無事でいてくれればそれでよかった。なんでこんな事を、という思いはあっても怒るつもりは微塵もなかった。……でも、無事だって分かって、心を落ち着けるだけの時間も置いたとなると姉として、女神としての怒りの感情が湧いてきて…けど先んじて正座をされてしまえば、こうも正直に謝られてしまえば、私も気持ちをどこへ持っていけばいいのか分からなくなる。

 

「…貴女はよくやったわ。結果論で言えば四天王の撃破達成だもの。戦果も戦果、大戦果よ」

「……それは、ありがとう…」

「でも、そこに至るまでがよくなかった。一人で行ったのもそうだけど、その後だって、話を聞く限りじゃ危うい瞬間や判断があったみたいじゃない。…一つ間違えばこうして帰って来られなかったかもしれない、って事は分かってる?」

「…分かってる。アタシ自身、最初から立場や戦略性より感情を優先しちゃってるって自覚はあったし…それがアタシの未熟さだって、理解もしてる」

「…………」

 

評価されても調子に乗らず、叱責されても言い訳をせず、私の言葉をしっかりと受け止めるユニ。その姿は姉として褒めてあげたいところだけど……それ以上に今は、その真摯さ真面目さが困りものだった。うぅ、こうも先に反省されちゃうと私も出鼻挫かれちゃうじゃない…でもかと言ってユニの反省無視して叱るのは理不尽だし……こ、こういう時だけはネプテューヌみたいな性格してる妹がよかったわ…!

 

「…って、それもそれでどうなのよ私……」

「え、何が……?」

「何でもないわ…取り敢えず自分の行いはちゃんと省みる事が出来たのね。……でも、一つ間違ってるわよ」

「間違ってる…?」

「さっきユニは感情を優先してしまった事を未熟だって言ってたけど、それは未熟でもなければ間違ってる訳でもないわ」

 

ユニの行動を知ってから、私は色んな感情が心の中に渦巻いていた。だから反省するユニの様子を素直に褒めてあげられなかったし、それどころか「もう少し言い訳とかしてくれれば…」なんて思っちゃったけど……それでも私は女神であり、ユニの姉。ユニがこんなに真剣な様子で話してくれてるんだから…私だって、そんな様子に相応しい態度でいなきゃいけない。

 

「感情は大切なものよ。どんなに合理的な人間だって、どんなに理性的な人間だって感情はあって、最後に人の心を動かすのは感情なんだから。だから、ある意味で感情を優先するのは正しい事なの」

「でも、感情だけで突っ走るのは…」

「そう、いけないのは感情だけで動く事よ。感情だけで動くのは、何も考えないで動くのと何も変わらないもの。……感情を行動の指針にしつつも、状況や先の展開を考えて動く指導者こそが真の仁君だって、私は思っているわ」

 

感情を排すれば、的確に正確に行動が出来るのかもしれない。でも感情の通う人の瞳にとって感情を完全に排した行動は、異質で、異常で……何よりも、冷たく映る。そしてそんな人間が君主だったらきっと国民は着いてこないし、私はそんな君主にはなりたくない。

 

「ユニ。私は女神だから戦うんじゃなくて、心が動くから戦うの。…貴女も、そうでしょう?」

「……うん。アタシは、アタシの望む道の為に戦った。そこに反省はあっても、後悔は無いよ」

「なら、その選択に自信を持ちなさい。……それに、あの男の子連れて行く間ずっとユニの事話してたのよ?格好良かった、凄かったって」

「そ、そうなの?……ちょ、ちょっと照れ臭いね、それは…」

「いいじゃない、小さくてもその子の気持ちはシェアになるんだから」

 

男の子の話を出すとユニは照れ臭いなんて言っていたけど…そう言いつつも頬はほんのり緩んでいた。誰かを助けて、その誰かに感謝される。それは特別な事じゃなくて、誰だって一度は経験しているありふれた事だけど、それが本当は凄く嬉しい事なんだって私は知っている。

ユニから話は聞いた。反省している様子も見えたし、私も女神として言うべき事はもう言えた。でも……

 

「…うん、さっき結果論って言ったけど結果は過程の上に成り立つんだから、結果論だからってどうこう言うのも良くないわよね……」

「…えっと…それは独り言…?」

「あ、え、えぇそうよ。気にしないで」

「そっか…」

「そうなのよ…」

「…………」

「…………」

「……?」

 

ちゃんと聞けたし言えた筈なのに、私の心の中に残るもやもやした気持ち。それを考えていたらユニに変に思われて、不審がられないように気を付けたら今度は不思議そうな顔をされて、いつの間にか雰囲気も変な感じに。そうなったのは間違いなく私のせいなんだから、私としては早くなんとかしなきゃって気持ちになる訳で……ほんとになんでこんなにもやもやしてるのよ…ユニは無事で、評価も注意も出来たんだから、もう心残りになる事なんて……。

 

「…………あ」

「あ?」

「……っ…え、えっとね…その…」

「お、お姉ちゃん…?」

「あのね、だからね……」

「う、うん。何があのねで何がだからねなのかはさっぱりだけど、アタシはちゃんと聞いてるよ…?」

 

一体どこに切っ掛けがあったのかは分からないけど、とにかくもやもやの理由が分かった私。それはユニに伝えておきたい事で、でも伝えるのは恥ずかしくて…わたわたわたわたとしてしまう。

 

「わ、私はねユニ…まだ一つ言っておきたい事があるのよ…」

「それは……?」

「それは……そ、その…えと…」

「…もしかして、言い辛い事なの?…それなら大丈夫だよ、お姉ちゃん。アタシは何を言われても、ちゃんと受け止めるから」

「そ、そうじゃなくて!…いや、でも全く違うって訳でもなくて……その…」

「…………」

「……う、うがーーっ!」

「えぇぇっ!?お、お姉ちゃん!?」

 

伝えたいという気持ちと恥ずかしい気持ちのせめぎ合いでオーバーフローを起こした私は乱暴に頭を掻き毟る。そして、その奇行でユニが軽く引いてる中、私はもう半ば勢いで……言った。

 

「…し…心配だったの!ユニに何かあったらって、凄く心配だったの!こんなに重要な事を私に一言も相談しないで、しかも勝ったとはいえ怪我をして……だからユニっ!」

「あ、は、はい!」

「……あんまりお姉ちゃんを心配させないでよ…」

「……うん、ごめんねお姉ちゃん」

 

言った瞬間、すっと心のもやもやが消えていく。言ってみれば案外なんて事ない……訳がなくて、私は目を逸らしちゃう位恥ずかしかったけど…それでもやっぱり、言ってよかったと思う。気持ちはすっきりしたし…何より、横目で見えるユニは凄く良い顔をしていたから。

切り傷や打撲を身体の何ヶ所かに負っていて、入院レベルでこそないもののユニは少しの間怪我で苦労すると思う。でも、身体の傷はちゃんと治る。無傷でいられるのならそれがベストだけど……いつか治る傷で、大切なものを沢山得られたのなら、私はこの経験を…ユニの成長を、誇りたいと思う。

 

「…にしても、まさか貴女一人で四天王を倒しちゃうとはね…ふふっ、いつの間にかユニは私と互角に渡り合えるだけの力を付けたのかしら?」

「そ、そんな事ないよお姉ちゃん!確かに今日は本気の戦いだったけど、本気の殺し合いじゃなくて本気の覚悟のぶつけ合いだったし、アタシの切り札も耐え切られたし…最終的に倒せたのも、アタシが勝ったと言うよりブレイブが負ける事を望んだ結果なんだから、アタシは……」

「冗談よ、冗談。貴女が強くなってるのは間違いないけど…この程度で追い付かれる程、ブラックハートは甘くないわ。私は今も実力を伸ばし続けてるんだから、もし私に追い付きたいのなら、『もう』じゃなくて『まだ』の精神を忘れないようにしなさい」

「もう、じゃなくてまだ……そうだね。アタシ、その精神を忘れないわ」

 

もうここまできた、もうこんなに出来る、もう十分……そういう『満足』の思いが、人の成長を止めてしまう。自分がどれだけ成長したのか知るのは大切だし、過小評価で自分を追い詰める位なら満足した方がいいけど、より高みを目指すなら今の自分に満足しちゃいけない。……って、しっかり伝えるつもりだったけど、どうやらその必要はないみたいね。流石は私の妹なだけはあるわ。

今日は朝から精神を乱されに乱されて、日中はウイングユニットが壊れるんじゃないかと思う程の速度で飛んだり色々予想外の展開になったりと、かなり疲れた一日だった。…でも、また一歩犯罪組織の完全撲滅に近付いて、ユニの成長も大いに見られた一日でもあった。だから、私は思う。……今日は良い日だった、って。

 

 

 

 

 

 

「……ところでさ、お姉ちゃん…自分からやっておいて何言ってんだって話なんだけど…」

「何?」

「……そろそろ正座、崩してもいいかな…?」

「あ……」

 

 

 

 

ユニちゃんが四天王の一角を倒したって話は、その日の内にうちや他の国の教会へも伝わってきた。曲がりなりにもわたし達守護女神と渡り合った四天王を女神候補生のユニちゃんが、それも一人で倒したなんて聞いた時はそりゃ驚いたけど……それ以上にわたしは、それを聞いた時のネプギアの様子に驚いた。

 

「えぇぇぇぇっ!?ゆ、ユニちゃんが戦って倒したの!?す、凄い!ユニちゃん凄い!…あ、けど…ユニちゃん大丈夫なの!?大怪我とかしてない!?…そっか、してないんだ…良かったぁ……でもユニちゃん、ほんとに凄いなぁ…ちゃんとリベンジ果たしたんだ…ふふっ、なんだか自分の事みたいに嬉しいな……うん、ユニちゃんに負けてられないしわたしももっと頑張らなきゃ!」

 

……これが聞いた時のネプギアの反応だよ。わたしは怪我してないか訊かれた時に「う、うん。取り敢えず大怪我はしてないらしいよ…?」って言った位で、後はずっと独り言だったよ。そこにいた面子が全員「お、おう……」的な反応しちゃう位のテンションだったよ。…違うよね?別にネプギアは隠れてユニちゃんと付き合ってるとかじゃないよね?

 

「……ネプギアって、もしかして気持ちが昂った場合の暴走具合はわたしに引けを取らないのかな…?」

「突然貴女は何を言っているの…?」

 

正統派ヒロイン的な子だと思っていた自分の妹の、何とも言えない一面に思いを馳せていたところ、半眼で軽く突っ込まれるわたし。それを言ったのはブラン。更に言うと、わたしが今いるのはプラネテューヌじゃなくてルウィー。

 

「きっと主人公欲求がたまっちゃっておかしな事を口走ってるのよ。ここ数回は私とユニが担当してたし」

「その前はきちんと主人公をしていたというのに、ネプテューヌは強欲ですわね…」

「ちょっと!?根も葉もない勘違いでdisるのは止めてよ!?ノーモア憶測悪口!」

 

にやにやしながら言ってくるノワールとベールにわたしは憤慨。もう、わたしが普段ふざけまくってるからって『ネプテューヌには辛辣なボケをかましてもOK』みたいな風潮あるけど、そういうのよくないんだからね!ほら三人!ちゃんとわたしの地の文見て反省しなさい!

 

「いや、言いたい事があるならちゃんと口で言いなさいよ…どんな地の文の使い方してんのよ…」

「最近は皆普通に地の文読んでくるからって、地の文を読まれる前提の使い方するとは…しょうもない新境地を開いたわね、ネプテューヌ…」

「だって普通に言っても軽く流されそうだし…『わたしだって辛いものは辛いんだよ…?』的な言い方したらシリアスパートになっちゃって、読者さんから『シリアスは前話までと今回の前半でお腹いっぱいなんだけど…』とか思われちゃいそうだし…」

「ここぞとばかりにメタネタを重ねてきましたわね…やはり貴女、欲求不満なのでは…?」

 

……と、いつも通りにわたしは会話を混沌の世界へ。呆れつつも毎回反応してくれる辺り、わたしは幸せだなぁ…わたしはこうして話していられる時が、一番幸せかもしれないよ…。

 

「某若大将さんの物真似しなくていいから…ねぇブラン、そろそろ本題に入らない?」

「そうね。というか、ネプテューヌがいきなり変な事を言わなきゃもう入っていたわ」

「えー、わたしのせい?」

『貴女のせい(よ・ですわ)』

「ま、満場一致なんだ……ごめんなさい」

「分かればいいわ。…でもその前に、ノワール」

「何?」

「ユニの大戦果おめでとう。凄いわ」

「へっ?」

 

わたしが竦められた事で話は本題に…と思いきや、ブランが口にしたのはユニちゃんへの称賛。いきなりの褒め言葉にノワールが驚く中、ブランはわたしとベールへさっとウインク。わ、クールな表情でのウインク可愛い……と、思ったけどこれは……

 

(そういう事だね…!)

 

ブランとわたし(&ベール)はウインクを日常的にするような関係ではないし、何気なくウインクをする癖がある訳でもない。つまり、今のウインクは……合図!

 

「わたくしも四天王撃破は驚きましたわ。それも一人でなんですもの」

「え、あ……ありがと…」

「ネプギアも凄い凄いって言ってたよ、いやーノワールの妹は優秀だねぇ」

「そうそう、イリゼも言っていましたわ。怪我の具合的に考えると私より凄いんじゃ?と」

「へ、へぇー…皆そう思ってるの…ふ、ふふふっ…まぁ、それもそうよね。そう言ってくれるのはありがたいけど、凄いのはある意味当たり前の事なのよ。私の妹で、私という最高の手本が側にいて、しかも私直々に手解きをしていたんだもの。確かに状況が味方した部分もあるけど、やっぱり一番はこの私の妹であるユニの実力……」

 

 

((ほんとにノワールは褒めるとちょろい(なぁ・ですわ・わね)……))

 

自分が褒められた訳でもないのにとびきり饒舌になって、しかもところどころで自画自賛を入れてくるノワールを、わたし達三人は生暖かい目で見守る。うーん、一人で舞い上がってるノワールを眺めるのも悪くないなぁ……後何かネプギアと反応が似てるね。普段真面目な人ってスイッチ入るとこうなるのかな?

 

「……さて。お遊びはこの位にして、今度こそ本題に入らせてもらうわ」

「え……?お、お遊び…?」

「えぇ、お願いしますわ」

「ちょ、ちょっと待った!お遊びって何?ねぇ何?」

「ほらノワール、こうしてわたし達が集まってる間に残党が動いたら困るんだから、余計な事は言わない!」

「うぐっ…さっき散々ふざけてたくせに…!」

 

落とした後は引っ張り上げるし、持ち上げたら適度に落っことすのがわたし達クオリティ。……あ、そろそろ気になる人も多くなったと思うから言っておくと、今日は万が一に備えて守護女神組だけで集まってるんだ〜。だからネプギア達(と、いない候補生の代わりとしてリーンボックスに行ってるイリゼ)はお留守番なの。

 

「こほん。…今から話すのは、今後の戦況に大きく関わるかもしれない話よ」

『今後の戦況……』

 

声を揃えて言葉を反芻するわたし達。ノワールは勿論、わたしやベールもまだあんまり真面目モードになってなかったけど……その一言で、一気に思考が切り替わる。

 

「それが発覚したのが一昨日。うちの軍の精鋭、魔術機動部隊が残党の施設制圧へ向かった時の事よ」

「魔術機動部隊…聞いた事はありますわ。…となるともしや、その部隊が返り討ちにあったと?」

「…えぇ、その通りよ。でも、よく分かったわね」

「それは、まぁ……」

「……?」

 

話の先を読んだベールにブランは少し意外そうだったけど、わたしとノワールは同意見。そう思い至った理由が理由だからか、ベールはちょっと肩を竦めながら言葉を続ける。

 

「ほら、よくあるじゃありせんの。名の通った精鋭部隊やエリート集団は、大概咬ませ犬化するという展開が。例えるならば某ナイトオブラウンズとか」

「ASTとか」

「後原作のわたし達とか」

「……うん、まぁ…うん。別に噛ませの如くボロ負けした訳じゃないから、うちの部隊は…後ネプテューヌ、貴女の発言はただただ全員が悲しくなるだけよ…」

 

そこそこ特殊な名前してて、しかも精鋭なんて呼ばれてたらその時点で噛ませ犬の危険性があるもんね。…というのが、ブランを除く三人の頭に浮かんでいた事。だから何だって話なんだけどさ。

 

「まぁ、ならば噛ませではなかったとして…具体的には何があり、結果どうなったんですの?」

「何があったかと言えば残党の抵抗。結果は想定以上の被害を被り撤退した…というところよ」

「想定以上…死者は?」

「精鋭部隊よ、そう簡単に死者は出さないわ。…最も、重傷を負った隊員はいるけど…」

 

他国の事でも人は人。死者がいるのかどうか、いるならどれ位なのかは気になるし、ノワールが言ったその問いにブランが答えてくれた瞬間は一安心。でも、その安心は『取り敢えず良かった』の一安心でしかない。

 

「なら、敗因は?情報不足や戦術の不出来が原因、って訳じゃないんでしょ?」

「それなら今後の戦況に…なんて言わないわ。…これに関してわたしが話すのは、部隊長の報告した内容。だから主観的な部分もあるって事は頭に入れておいて」

 

ブランの言葉にわたし達は首肯。それを受けたブランは一拍置いて、その部隊長さんからの報告を口にする。

 

「…彼は言っていたわ。施設内の残党は、ある時から突然操られている状態になった、と」

「操られてる状態……あれ?部隊長さんは、操られてるみたいな、じゃなくて操られてるって断定したの?」

「そうよ。それに関してはわたしも気になったから訊いてみたら、残党がこう言っていたらしいわ。…身体が勝手に動く、自由が効かない、助けてくれ……って」

 

自分の身体は自分で動かせるのが当たり前で、寝てる時とか条件反射なんかを除けば勝手に動くなんてあり得ない事。なのにもし、その当たり前が通用しなくなったら…しかもそれが、敵の襲撃を受けたタイミングで起きたとしたら……。

 

「……もし操られてるなら、助けてあげなきゃ」

「そうですわね。自由意志に沿っての行動ではなく、何らかの方法で操られているならばそれは、戦わされているという事ですもの」

「でも、その為には操ってる存在を叩くか操られてる残党を無力化しなきゃいけないわ。精鋭が撤退させられたって事は、その操られてる人達は強いんでしょう?」

「えぇ。戦闘能力そのものは部隊の方が上だったようだけど、確かに常人を超えた強さだったらしいわ。けど、一番厄介なのはそこじゃないの」

「そこじゃない、と言いますと…?」

「…止まらない事よ。攻撃しても、負傷しても、押さえ付けても止まらない。……さしずめゾンビよ、それもどこぞの世界の身体のリミッターが外れてる…ね」

 

操られているから、普通の人間なら止まる事をしても無力化出来ない。操られているから、普通の人間ならかかる筈のリミッターが機能しない。……そんなの、そんなのって…

 

「…まるで、人形じゃん…操り人形じゃん……」

「全くもって同意見よ。早急に対策を立てて、他の残党も同じ状態になった場合の手段を…その状態の残党から人を守る為の方法を考えなくちゃいけないわ」

「だったら、調査も必要ね。最低限操られてる状態を解除する手段を見つけなくちゃどうしようもないわ」

「それが確立出来なければ…いえ、出来たとしてもおいそれと軍人や有志に戦わせる訳にはいきませんわね。…その状態は、死んでも変わらないんですの?」

「いや、流石に絶命した様子の残党は止まったらしいわ。……けどまさか、殲滅を視野に?」

「それこそまさかですわ。…ただ、訊いておく必要はあると思っただけで」

 

初めはいつも通り和気藹々としていた会話。でも気付けば笑ってなんていられない、重い話になっていた。……ううん、重い話なんて他人事みたいな表現は間違ってるよね。これは今実際に直面している事で、わたし達が解決しなきゃいけない事なんだから。

 

「…悪いわね、折角集まったのにこんな話で」

「気にしないでよ、ブラン。話してくれたおかげでわたし達も対策が考えられるんだし、こうして情報共有するのも仲間なんだからさ」

「薬物や人身掌握術の可能性もありますけど、話を聞く限りは魔法、或いはシェアエナジーを使った身体の支配と見るべきですわね。一先ずその方向で調査してみますわ」

「私もよ。一難去ってまた一難だけど…一難去ったのは事実だし、これが犯罪神や残った四天王の仕業なら、向こうはいよいよ手段を選ばなくなってきたって証拠でもあるもの。ここで気を抜かずに頑張らなきゃ」

「…そうね。でも……」

 

大変な事態だからこそ、協力してちゃんと考えて対応する事が大切。これまでの色んな戦いや経験でそれを知っているわたし達は、慌てずこうしてやるべき事の確認が出来た。前向きに考える事が出来た。……そんな中での、ブランの最後の一言。

 

「…ベールにまさか、なんて言ったわたしが言うのもどうかと思うけど…これは人に任せておける事態じゃなくて、現状分かっている無力化手段はただ一つ。……だから、わたし達は…その覚悟を持っておくべきだと、わたしは思うわ」

「……そうね」

「そう、ですわね」

「…大丈夫。だって皆、守護女神だから」

 

わたし達は、ゆっくりと頷く。元々覚悟を持ってなかった訳じゃないけど……改めて、決めておかなきゃいけない。──守る覚悟を。助ける覚悟を。その為に、やるべき事の覚悟を。




今回のパロディ解説

・「〜〜女神だから戦うんじゃなくて、心が動くから戦う〜〜」
Infini-T Forceの登場キャラ、南城二(テッカマン)と鎧武士(ポリマー)の名台詞のパロディ。これ二人が前半後半を言ってるんですよね、ヒーローらしい台詞です。

・某若大将、わたしは幸せ〜〜一番幸せ
俳優、タレント等の仕事を持つ加山雄三さん及び彼の曲『君といつまでも』内の台詞のパロディ。この台詞(曲)、かなり前のものだったんですね…。

・ナイトオブラウンズ
コードギアスシリーズに登場する、ブリタニア皇帝直属の部隊の事。もし戦ったのがアルビオンや聖天八極式でなければ、戦いの結果は変わっていたでしょう。

・AST
デート・ア・ライブに登場する、陸上自衛隊の対精霊部隊の事。こちらはスピンオフ含め噛ませというよりやられ役かもしれません。勿論善戦するシーンもありますけどね。

・「〜〜さしずめゾンビ〜〜リミッターが外れてる…ね」
これはゾンビですか?に登場するゾンビの事。流石にこれゾンの主人公や夜の王レベルの強さではありません。上限値は普通に100%ですし、痛みも感じます。

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