超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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今回のお話はOI及び第五十五・五話で行われた、『超次元ゲイム ネプテューヌG 蒼と紅の魔法姉妹 -Grimoire Sister s-(橘雪華さん作)』とのコラボ編となっております。ですのであちらの作品及び、これまでのコラボへ目を通しておく事をお勧めします。
また、この時の時間軸は第百十六話の後という形となっていますが、ネプテューヌGの側の時間はまだ伏せさせて頂きます。


第一話 迷い込んだ先で

──あの時のように、始まりは偶然だった。意識して辿り着いたのではなく、偶発的な事態によってもたらされた結果。少なくともそこに、故意と呼ばれるものはない。

けれど、偶然とはどこまでを指す言葉なのだろうか。必然でないものは、全て偶然なのだろうか。そこに起こりうるだけの要素があったのなら、可能性があったのなら、狙っていなかったのであれば、それは偶然ではないのか。

……そんなものは、私には分からない。私にも、彼女達にも分からない。けれど、ただ一つ…たった一つ、言い切れる事があるとすれば……そこには、願いと約束があった。再会を望む、私達の願いと約束が。

 

 

 

 

ある物を片手にプラネタワーの廊下を歩く私。向かっているのはイストワールさんの私室で、理由はイストワールさんに呼ばれたから。

 

「イストワールさーん。いらっしゃいますかー?」

「はーい。居ますよ(・∀・)」

 

部屋の前に到着した私がノックをすると、すぐに声が返ってくる。呼ばれたのはついさっきだから、うっかり屋ではないイストワールさんが部屋に居るのは当然と言えば当然だけど…そこはまあ、所謂形式的なもの。

 

「お待たせしましたイストワールさん。本、持ってきましたよ」

 

中へと入った私が目にしたのは、ミニチュアな家具と普通の家具が混在する特徴的な内装。それは初見なら高確率で混乱を招く、けれど既に何度も訪れている私にとってはなんて事ない、イストワールさんの部屋。その部屋の中心にいるイストワールさんへと私は近付き…手にしていた『白い本』を彼女に見せる。

 

「ありがとうございます。そこの机の上に置いてもらえますか?(´・ω・)」

「ありがとうなんて、そんな…私が頼んで調べてもらってるんですから…」

「わたしとしても、少なからず興味を惹かれていますからね。わたしが知識と記録の検索で分からない事なんて、それ自体が珍しいものなんですから( ̄▽ ̄)」

 

指定された通りに本を置くと、早速イストワールさんは調査を開始。…と言っても今は本をぺたぺた触っているだけで、それは傍から見れば和むだけの光景。…勿論実際には解析とか情報の取得とかしているんだろうけど…。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……えと、イストワールさん…?」

「……?何です?(・ω・?)」

「あ、いえ…凄く集中している様子だったので、何か進展があったのかなと…」

「あぁ…これ、調べれば調べる程底知れなさを感じるんです。正直、わたしでも全容解析出来るのはいつになるか…(ーー;)」

 

三時間だとか三日だとか、調べ物をする際は三を基準(?)に目安を教えてくれるイストワールさん。そんなイストワールさんが三ヶ月でも三年でもなく、いつになるか分からないなんて、ほんとにこの本はなんなのか。

…と、いう思いが顔に出てしまっていたのか、イストワールさんは「あ、でも」と言って気になる事を言ってくれる。

 

「どこまで正確に出来るかは分かりませんよ?分かりませんけど…多分、これを使えばわたしも別の次元へと繋がるゲートを作れると思います(`・ω・´)」

「え…ほ、ほんとですか!?出来るんですか!?」

「ふふっ、ではやってみましょうか?(´∀`*)」

 

イストワールさんの言葉に、私のテンションは一気に上昇。でも、それも当然でしょ?私が調査を頼んでいたのは、また次元を超える為…再会の為なんだから。

 

「お願いします!…あ、何か手伝う事はありますか?」

「その必要はありませんよ。でも、強いて言うなら作ったゲートに入ろうとはしないで下さい。どの次元に繋がるか分からないどころか、ちゃんとどこかの次元に繋がっているかどうかさえ分かりませんから(ー ー;)」

「は、はい…(ちゃんと繋がるかどうかさえ分からないって…じ、次元の狭間は勘弁……)」

 

興味本位で出来たゲートに入ってはいけないと言われた私は、何だかよく分からない内に次元の狭間へと飛ばされたハプニングを思い出す。…あれはあれで変えようのない大切なものを得たけど、また行きたいかと言われると答えはNOだよね…。

 

「…それでは、開いてみましょう……」

 

開かれた本に手を当てたまま、目を閉じるイストワールさん。集中力を削がないよう私が口を閉じ、真摯に見つめる中十秒、二十秒と時が経ち…数十秒、或いは数分経ったところで、イストワールさんと本の前の空間が、ぐにゃりと歪み始めた。

 

(……!これ…この先に、どこか別の場所が……)

 

生まれた異変はその歪みを深め、次第にその先が見えなくなっていく。上手く言葉には出来ない、でもここではない『どこか』と繋がりつつあるのを肌で感じて、私の鼓動はほんのり早くなる。

……そんな時だった。歪みの性質が、何か別の方向へと『歪み』始めたのは。

 

「……っ…これは、干渉されて…いや、作用し合っている…?」

「…イストワール、さん…?」

「…下がっていて下さいイリゼさん。一旦このゲートは閉じます…!」

 

何かおかしい事に私が気付いた次の瞬間、動揺混じりの声をイストワールさんが漏らす。その声は、続くイストワールさんの決断は、何か不味い事が起きているのだと如実に表していた。

その言葉を受けて、一度は後ろへ下がった私。でも、歪みの範囲が広がり、イストワールさんとの距離が縮まっていくのを見て……私の心は、大きく揺れる。

 

(このままいったら…イストワールさんが、飛ばされる…?)

 

それはあくまで、私の主観。確信のない、もしかしたらの話。でも確証がなくとも、そのもしもを考えるだけで、私は平常心じゃいられなくなる。だって、私にとって仲間は例外なく大切な人だから。それに彼女は、イストワールさんは……

 

「……っ!イストワールさん!」

「……!?イリゼさん!?」

 

歪みからイストワールさんを守るように、咄嗟に伸ばした私の手。その結果イストワールさんの前にあったもの、白い本へと指先が触れて……本が強い光を放ち始める。

 

「え……?」

 

見覚えのある輝きを目にした次の瞬間、私の中から力が流れ出ていく感覚に襲われる。そんな中、私の目に映ったのは目を見開くイストワールさんの姿で……

 

 

 

 

────私がイストワールさんの部屋にいたと断言出来るのは、そこまでだった。

 

 

 

 

気付いた時に私がいたのは、真っ暗で冷たい空間。光の全くない、深淵の様な場所。

 

「……っ…」

 

凄まじい速度で体温が奪われていく。その冷たさのおかげで私の頭は冴えていたけど、はっきり言って不味い。この冷たさは、非常に不味い。

 

(何、ここ…身体が動かな…くはない…?足首から先は動いて…何か柔らかい、でも押すと固くなる物に包まれてて……)

 

寒さで冷や汗さえも出ない中、生命の危機を感じた私の頭はフル回転。五感(視覚は機能してないけど)を駆使して情報を集め、自分が今どこにいるのかを推理していく。

暗くて、冷たくて、柔らかいけど固くなって、独特の音がして…水っぽくて……って、これは…これはまさか、私……

 

(──ゆきのなかにいる!?)

 

思えばネプテューヌは地面に刺さっていたという。思い出せば、確かラムちゃん以外の女神候補生は全員ルウィーで雪の中に突っ込んでいた。そして何より、私も一度敵に投げ飛ばされて雪の中に突っ込んだ経験がある。だから何か…特に雪の中に埋まるなんて、そうとも。よくある、よくある事さ……っていやいや、そんな事考えてる場合じゃない…!

 

「んっ…ふ……」

 

もぞもぞと、雪の中で身を捩る私。捩って、もがいて、少しずつ隙間を作っていく。その内に脚の方にも余裕が出来始めて、そこから一筋の光が差して、それに希望を感じた私は更に身体を動かし続けて、そして……

 

「とっ…りゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ある程度の隙間が出来たところで力を振り絞り、私は雪の中から脱出した。私を埋めている雪の一角を崩すようにして、私は冷たい暗闇からの生還を果たす。

この時私は、清々しい気持ちだった。空気は澄んでいて、空は綺麗な青さで、雪の中に比べれば外は暖かくて、視線を前へと向けてみればそこには小さな女の子が二人。

 

「…………ん?」

 

自然と浮かんだ笑みのまま、私は固まる。目を何度か瞬かせて、もう一度しっかり見てみるけど…やっぱりそこには女の子が二人。…つまり、恐らく私はこの二人にばっちり今の一部始終を見られていた。というか、その二人は…ロムちゃんとラムちゃんだった。

 

「…………」

「…………」

「…あっ、いや…えーっと……」

 

ロムちゃんとラムちゃんは、変なものでも見るような目付きをしている。そして言うまでもなく、二人の見ている変なものというのは私。足首から先だけが雪から出ていて、それが暫く動いていて、突然一角を跳ね飛ばしつつ人が登場…なんて場面を見たら、そりゃそういう目もするよね…。…でも、よかった…別次元じゃなくてルウィーに飛ばされただけで……。

 

「…あはは、びっくりさせちゃってごめんね…でも大丈夫!ちょっとハプニングに見舞われただけだから!」

「へっ……?」

「…なれなれしいわね…」

「……あれ…?」

 

恥ずかしさを混じらせながら誤魔化しにかかった私。…でも、返ってきたのはよそよそしい反応。まるで、私の事をほんとにただの『変な人』としか思っていないような…そんな反応。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん…だよね…?」

「む、何それ。わたしとロムちゃんがわたしとロムちゃんじゃないなら誰だって言うのよ」

「ええっと、それは…誰だろうね、はは……」

「…行こ、ラムちゃん……」

「…うん、行こっかロムちゃん」

「あっ、ちょっ!ちょっと待って!」

 

私の返答を不審に思ったのか、或いは元々あった不審感が今ので後押しされたのか、ロムちゃんがラムちゃんの袖を引っ張り二人は帰ろうとしてしまう。…そこにはやはり、私を姉の友達であり共に旅をした仲間…という思いの籠らない瞳を浮かべながら。

 

「…こんどは何?」

「……私、二人を怒らせるような事した…?」

「…してない…(ふるふる)」

「じゃあ…もしかして、私の事…知らないの…?」

 

さっきは寒さのおかげで出なかった嫌な汗が、じっとりと私の背筋を伝う。まさかという思いで訊いて、その返答を…なんでそんな当たり前の事を、とでも言いたげな表情を見て……確信した。……ここはゲイムギョウ界ではあっても、信次元ではないんだって。

 

「…………」

「へんなの…これがフシンシャ、ってやつ?」

「かも…だから、早く行こ…?」

「……待って、ロムちゃんラムちゃん」

 

背を向け立ち去ろうとする二人を、再び止める。既に私へと不審感を抱いている二人へこれ以上話しかけるのは、二人からすればあまり気分のいいものじゃないと思うけど…仕方ない。ここで二人と別れてしまったら、それだけで私は手詰まりになりかねない状況なんだから。

 

「わたし達、もう行きたいんだけど…」

「…私、実は迷子なの。だから、教会に連れて行ってくれないかな?」

『迷子…?』

 

意識を切り替えた…というより切り替わった私は、話の狙いを大きく変更。…嘘は言ってない。だってここは私の知る場所じゃないんだもの。

 

「教会って、色んな情報が集まるでしょ?それに教会には、物知りで格好良い守護女神もいるでしょ?だから頼るなら教会かなって」

「ものしりでカッコいい…へぇ、お姉ちゃんの事はよくわかってるじゃない」

「まぁね、それに二人の事もよく知ってるよ?強くて可愛くて優しい、人気の女神候補生だってね」

「へ、へぇー…なによ、へんなやつだと思ったら案外良いやつじゃない。いいわ、ならこの強くて可愛くて優しいラムちゃんとロムちゃんが、教会につれてって…」

「ら、ラムちゃん待って…この人、だましてるかも…」

「へっ?…あー!あんた、わたしをだまそうとしたのね!」

 

私の紡ぐ言葉に気を良くしたラムちゃんは、頬を緩めて案内をしてくれ……かけたところで、ロムちゃんに止められてしまった。…流石に二人一度に納得してもらうのは無理か……でも。

 

「騙そうとはしてないよ。だって今言ったのは事実でしょ?…ロムちゃんは、私を怪しいと思ってる?」

「…………」

「…じゃあさ、尚更連れてった方がいいんじゃないかな?私が危ない人だったら、放置したら駄目でしょ?でもだからってここでこてんぱんにして、その後怪しくない人だって分かったら、ロムちゃん嫌な気持ちにならない?」

「それは…うん……」

「なら、色んな人の意見を聞く為にも、連れて行った方が良いと思わない?教会には信じられる人、いっぱいいるでしょ?」

 

少し身を屈め、目線の高さを近くしてロムちゃんに問う。ラムちゃん程ストレートではないけど、ロムちゃんもまた素直な子。だから子供騙しなんて考えず、真面目に話せば分かってくれるし…って、この表現だとラムちゃんが子供騙しに騙される子みたいになっちゃうか…。

そうして二人の説得を試みた私。話す中で違う次元でも二人は二人なんだなと感じて……

 

「いい?おかしな事したら、かちんこちんにしてやるんだからね!」

「ちゃんと、見てるから…」

「うん。妙な事はしないって約束するよ」

 

……無事、私は教会へと案内してもらえる事になった。案内っていうか、連行っぽい雰囲気だけど…そこはこの際気にしない。

私は二人の半歩前を歩き、二人は後ろからどこを通るかの案内を出してくる。案内人が後ろなのは、私を見張る為らしい。

 

(…やっぱり、街並みも違う…気候や雰囲気は一緒だけど、色んな事が違ってる……)

 

飛ばされた先であるルウィーの公園から出て、見覚えのない道を通って、大通りへ。私だってルウィーの地理を完璧に把握している訳じゃないけど、大通りさえ分からないなら、もうここは私の知らない次元という事で間違いない。

 

「あらロム様ラム様、今はお散歩中かしら?」

「こんにちはーおばさん。今はへんな人をれんこー中なの!」

「あ、ちょっ……!?」

「まぁ、そうなの。ふふっ、大変ね」

「…あ、あはは……(よ、よかったぁぁ…この人私を『二人の遊びに付き合ってあげてる人』と思ってくれてる…)」

 

……途中公衆の面前で変な人扱いされてヒヤヒヤしながらも、私は教会へと向かう。つい知っている物を見つけようと私はしきりに見回していて、それでまた二人に変な目をされて……その内にやっと、教会が見えてきた。私の知る教会と似た外観を持つ、この次元のルウィー教会が。

 

「…あのおっきいのが、教会…だよ」

「だよね。二人共、案内してくれてありがとう」

「ほっといちゃまずそうだから連れてきただけよ。じゃあ中に……」

 

正面まで来たところで、私は二人へお礼を口に。それを受けたロムちゃんは無言で小さく頷き、ラムちゃんはツンとした態度で中に入ろうとして……二人は顔を見合わせた。

 

「……?」

 

そこから二人はひそひそと内緒話。内容は多分私に関する事だろうけど…流石にそれに聞き耳を立てる程私は子供じゃない。むしろ二人の内緒話というのはここの次元でも可愛らしいもので、答えが出るまで暫し気を休めてのんびり眺めていると……

 

「…迷子の人は、ここで待ってて…」

「ステイよステイ!まずお姉ちゃん達に話して、それから入れてあげるかどうか決めるんだから!」

「あ、うん…(ステイって……わ、私飼い犬扱い…?)」

 

身元不明の人間(私が女神って事には気付いてないみたいだし)を教会に入れるのは不味い、と思ったのか二人は私を残して中へ。そういうところに気が回る辺りここの二人もそれなりの経験積んでるんだろうなぁとか、でも私を一人にしちゃうのは二人らしいなぁ…なんて思ってたのが、この時の私。……けれど、数十秒程したところで衝撃的な声と単語が聞こえてくる。

 

「……なのよエスト。ミナちゃんよりちょっと背が高くて、なれなれしかったり途中でわたわたしてたりして…」

「迷子、って言ってたの…あ、まいこちゃんじゃないよ…?」

「ふぅん…迷子、ねぇ……」

 

中から微かに聞こえてきたのは、三人のやり取り。その内二人は今入ったロムちゃんとラムちゃんで…もう一人は、ラムちゃんとよく似た、でもどことなく違う声音の誰か。

……でも、私は知っている。その声の主を。会話の中に出てきた、その人の名前を。だって、それは…その子は……

 

(エスト、ちゃん……!?)

 

──私が次元を超えてまた会いたいと思っていた二人の内の、一人なんだから。

 

「今のって、エストちゃんの声だよね…エスト、って言ってたよね…じゃあまさか、まさかここって……」

 

驚きと興奮で、鳥肌が立つ。気持ちの昂ぶりで、無意識に思考を口にしてしまう。

飛ばされてしまったと分かった時、私は酷い事故(私の軽率な行動にも問題があるけど)に遭ったと思った。自分が次元を超えてしまったと理解した時、心の内側から不安が湧き出してきた。…でも、今はそれを不幸だなんて思っていない。それどころかこれを幸運だと喜びたい位に、私の心はドキドキしている。…こんなにも早く、また会える事になるなんて…って。

 

(……まだかな…まだかな…)

 

勢いよく扉を開けて彼女の姿を見たいと思う気持ちを押さえ、扉が開かれるのを待つ。折角こんな幸運に巡り会えたのだから、ここで焦って更にロムちゃんラムちゃんからの印象を悪くする事もないと自分に言い聞かせ、じっと目の前の扉を見つめる。

そして遂に、その時がやってきた。まず扉が僅かに、本当に見ていなければ分からない程僅かに開かれて、それから一気に扉が全開になって…………

 

「……──ッ!」

「な……ッ!?」

 

人の域を超えた少女が、その手に持つ氷剣で斬りかかってきた。……それは、あの時の再現をするかのように。

 

「──あはっ、腕は落ちてないみたいね。おねーさん」

「……っ…挨拶が乱暴過ぎるよ、エストちゃん…!」

 

反射的にバスタードソードを抜いた私は、その場で脚に力を込めて防御。行動とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべる少女…エストちゃんと視線を交わらせ、次の瞬間互いに飛び退く。

 

「ちょ、ちょっとエスト!?何よいきなり!」

「ど、どうしたのエスちゃん…!」

 

教会の正面入り口のすぐ前へと着地したエストちゃんの隣へ、慌てた様子のロムちゃんとラムちゃんがやってくる。…でも、そりゃそうだよね。二人からしたら、突然エストちゃんが扉を全開にして飛び出したんだから。

…と、そこで私はこの状況が誤解を招きかねない事に気付く。

 

「あっ……お、落ち着いて二人共!私は二人が思ってるような事した訳じゃないから!」

「おちつく…?……あ…剣…!」

「エストも杖に氷の剣…って事は、あんたがエストをおそったのね!」

「うっ…だよね…そうなるよね…!」

 

先んじて弁明をしようとするも、お互い武器を手にしていた時点で時既に遅し。二人からしても今のは先にエストちゃんが仕掛けた姿が見えている筈だけど…仲間と謎の変な人とじゃ、信用の観点で差があり過ぎる。

けれど、別段慌てる必要はない。私が変な人からヤバい人にランクアップしたとしても、ここにはエストちゃんが…私を知っている人がいるんだから。

 

「え、エストちゃん…」

 

二人から厳しい視線を受ける私は、「お願い、誤解を解いて…」という思いを込めてエストちゃんを見つめる。するとエストちゃんは一瞬きょとんとしたような表情を浮かべて……それから「ふふん、まっかせて!」と言わんばかりの自信に溢れた笑みを返してくれた。それで私は一安心。…もう、某ガンダムマイスターさんばりの不意打ち上等スタイルもそうだけど、こんな誤解必至の状況で過激な事をするのは勘弁してほしい……

 

「エスちゃん…この人、知り合いなの…?」

「こいつ、エストを狙ってきたの!?そうなの!?」

「あぁ、うん。この人は……」

 

 

 

 

 

 

「……出会ったばかりのわたしが戦う事になった、とっても危険な奴よッ!」

 

…………。

 

………………。

 

……………………。

 

 

 

 

「…………え"?」

 

──びしり、と私を指差し二人の誤解を解くどころか助長させたエストちゃん。その時のエストちゃんは……心から愉快そうな、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

その日わたしは、ブランさんと買い物に出ていた。今は買い物を終えて、二人でルウィー教会へと向かっている。

 

「悪いわね、買い物に付き合わせちゃって」

「気にしないで下さい。わたしも買いたい物がありましたから」

 

わたしが買い物に付き合った事に、他意はない。本当にただ同じタイミングで出掛けようとしていたから、なら一緒に…とわたしが言っただけ。…意外と偶然って、ありふれてるよね。

 

「…………」

「…………」

 

あまり多くの事は話さず、二人で並んで歩く。元々わたしは積極的に人と話そうとするタイプじゃないし、それはブランさんも同じだから、二人きりの時に静かな時間があるのは当然の事。でも、この静かさは嫌いじゃなくて…むしろ落ち着く感じすらあった。

そんな事を思いながら、歩く事十数分。教会の屋根が見えてきたところで…わたし達は、異変に気付く。

 

「…あれ……?」

「…人だかり、ね…どうしてここに……」

 

教会は元から人がそれなりに訪れる場所だから、見知らぬ人が周囲にいる事自体はおかしくない。…でも、今見えている人の数は明らかに普段より多い。まだ通る上で問題があるレベルではないけど…人だかりが出来ているなら、それには何か理由がある筈。

そう考えたわたしとブランさんが、歩く速度はそのままに周囲に注意を払い始めると……そこで教会の方から、戦闘音らしきものが聞こえてきた。しかもそれに混じって聞こえるのは、ロムちゃん達の声。

 

「……ディール」

「はい。戦いになるのであれば援護します」

 

わたし達は目を合わせ、そこから小走りで教会の前へ。まだ何が起きているかは分からない。ロムちゃんとラムちゃんが派手な魔法を思いついて、それを試しているだとか、エスちゃんが何か悪戯を行っているだとかの可能性も、まだ十分ある。

でも…もし大変な事が起きていたら。皆の身に、何かあったら。…その可能性が1%でもあるのなら、わたしは気を抜けない。抜ける訳がない。……大切なものを失うのは、辛い事だから。

 

(何が…何が起きているの……?)

 

そうして教会の正面に出たわたしとブランさん。一抹の不安を抱いてここまで来たわたし達は、人だかりを抜けて視界が開けた瞬間……そこで起きている事を、それぞれの目で目の当たりにする。

起きていたのは、やはり戦闘だった。女神化こそしてないものの本気な様子のロムちゃんとラムちゃん。何だか含みのある様子で戦うエスちゃん。そして、その三人と戦っているのは……三人の攻撃を何とか凌ぎながら、叫んでいるその人は…………

 

「────イリゼ、さん…?」

 

──ある時、ある場所で出会った…一度は敵対して、でも同じ目的の下協力する中で互いの事を知って、最後にはまた会おうと約束した人……遠く離れた場所の友人、イリゼさんだった。




今回のパロディ解説

・ゆきのなかにいる
Wizardryシリーズに登場する文章の一つのパロディ。そういえば、イリゼとエストの邂逅編でも同じネタのパロディがありましたね。無意識に意識してたのかもです。

・〜〜そうとも。よくある、よくある事さ〜〜
きつねのおきゃくさまにおける、きつねの心の声の一つのパロディ。昔絵本で、或いは国語の教科書で読んだ方も多いと思います。この文は記憶に残ってるんですよね。

・まいこちゃん
どうぶつの森シリーズに登場するキャラクターの一人(一匹?)の事。イリゼを親である原初の女神の下へ連れて行くとプレゼントが…貰えるのかもしれません。

・某ガンダムマイスター、不意打ち上等
機動戦士ガンダム00の登場キャラ、ロックオン・ストラトス(ニール)及び彼の台詞の一つの事。これは邂逅編のオマージュというより、またこうなるだろうという想像ですね。

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