超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
ネプギアちゃんのことばをきいて、わたしもおねえちゃんに元気になってほしいって思って、ラムちゃんといっしょにおねえちゃんのへやに来たわたし。でも、わたしもラムちゃんもネプギアちゃんがゆうきをくれた時みたいなことばは思い付かなくて、だから……
「…え、と…ロム、ラム…?」
「ぎゅー…!」
「ぎゅー…」
わたしは右から、ラムちゃんは左からおねえちゃんをぎゅーってしてあげる。ぎゅーって、ぎゅーーって。
「……新しい遊び…?」
「ううん…」
「ちがうよ、おねえちゃん」
「じゃあ…誰かにわたしがどこかに行かないよう言われた?」
「それも、ちがう…」
おねえちゃんは、ちょっと困りがお。…でも、そうだよね…わたしだってラムちゃんやおねえちゃんがいきなりぎゅってしてきたら、うれしいけどなんでだろうって思うもん。
(どうしようロムちゃん…おねえちゃんまだあんまり元気になってくれてない…)
(うん…だから、次のさくせんやろ…?)
ぎゅーだけじゃ元気になってくれないかもって思ってたわたしは、ラムちゃんと…えっと…あいこんたくと…?…で話して、二人で考えてた二つ目のさくせんをていあん。ラムちゃんもすぐそれにさんせいしてくれて、わたしたちは一回おねえちゃんからはなれる。
「…満足したの?」
「…………」
「…………」
「……?」
「…じゃ、じゃーん!おねえちゃん見てみてー…?」
「お、おえかき…したのー…?」
「……何故に二人共疑問形…?」
わたしたちがおねえちゃんに見せてあげたのは、みんなとたびする中でかいたえのいちまい。…それ見せてどうするのって?…あのね、おねえちゃんはわたしたちががんばってかいたえを見せてあげると、うまくかけたわねって言ってにこにこしてくれるの。
「どう…?(どきどき)」
「あ…そ、そうね…いい絵だと思うわ。絵の中の貴女達の隣にいるのはネプギアとユニでしょう?四人の仲の良さがよく伝わってくるわ」
「でしょでしょ?ふふーん、これはわたしたちの中でもじしんさくなの!」
「うん…ネプギアちゃんとも、ユニちゃんとも…なかよくなれたの…」
二人でかいたえをほめてもらえて、どういうえなのか分かってもらえて、わたしもラムちゃんもすっごくうれしかった。うれしくなって、わたしもラムちゃんもにこにこになって、もっとほめてほしいなって思って……あ。
「ら、ラムちゃん…これ、ちがう…」
「…はっ!ほんとだ…うぅ、おねえちゃんの魔力すごい…」
「いや、わたしは何もしてないけど…」
「つ、次のさくせん…」
「お、おねえちゃんビスケットあげるー…?」
(また疑問形…というか、作戦……?)
おねえちゃんに元気にさせてあげようと思ってえを見せたのに、いつのまにか元気になってたのはわたしたち。あぅ…気を付けなきゃ、わたしたちがたのしいだけでおわっちゃう…。
ビスケットをあげたり、おねえちゃんがいないあいだにできるようになった魔法をおしえてあげたり、くすぐってみたり…わたしたちは考えてたきたことをぜんぶやってみて、とちゅうからはここで考えたこともめいっぱいやって、おねえちゃんを元気にさせてあげようとした。……でも、
「…二人共、何か辛い事があったの?」
『……っ…』
少しかがんで、下からわたしたちのかおをのぞきこむおねえちゃんは……わたしたちを、しんぱいしてくれてた。わたしたちはえんぎがへたっぴだから何かおかしいと思わせちゃったみたいで、おねえちゃんをしんぱいさせちゃった。
(ろ、ロムちゃん…どうしようロムちゃん…)
(そ、そんなかおしちゃだめ、ラムちゃん…)
ラムちゃんはだんだんあせってきちゃったみたいで、少し不安そうなひょうじょう。わたしもこのままじゃだめって気持ちがあって、その気持ちがわたしを不安にさせようとしてくるけど…がんばってがまん。だって、わたしとラムちゃんがそんなかおしたら、おねえちゃんはもっとしんぱいしちゃうもん。
「えと…お、おねえちゃん…」
「…今度は、何?」
「う…あ、その……」
「何か話したい事があるの?」
「んと…えっと…………お…」
「…お?」
「……おむね、おっきくなった…?」
「は……?」
「え……っ?」
なんとかしなきゃって思って、ひっしに考えて、でも思い付かなくて…けっきょくわたしは、うそをついちゃった。しかも……
「おねえちゃんおむねおっきくなったの!?いつのまに!?」
「え、い、いや…胸は相変わらず変化なし…って何が変化の無い胸だ!余計なお世話だってのッ!」
『ひぃっ!?』
「あ……ご、ごめんなさいロム、ラム…」
わたしがへんなことを言っちゃったせいでラムちゃんがびっくりしちゃって、それでおねえちゃんをおこらせちゃった。ひさしぶりにおこられて、わたしもラムちゃんもひっ…ってなって……けど、そのすぐあとにおねえちゃんが、すごくすごくしゅんとしたかおになって…わたしは、あんなことを言っちゃったのをこうかいした。……おねえちゃんを、元気にさせるために来たのに…これじゃ、ぜんぜんだめなのに…ネプギアちゃんとユニちゃんは、もっとちゃんとやれてるはずなのに……。
「…わ、わたしも…ごめん、なさい…」
「謝らなくていいわ……けど、代わりに一ついいかしら…」
「な、なに?」
「……悪いけど、今は一人にして頂戴…」
『……っ!』
ぽふん、とわたしとラムちゃんのあたまに当てられるおねえちゃんの手。おねえちゃんの手はあったかくて、やわらかくて、いつもはこうしてもらえるとふにゃって気持ちになるけど……今日は、心がずきんってした。
それは、おねえちゃんがいそがしい時とかつかれてる時とかにしてくれること。あそんであげられなくてごめんね、って時にやってくれる、おねえちゃんのやさしい気持ち。…でも、それをしてくれるってことは、おねえちゃんはやっぱりつらいんだってことで、なのにわたしたちにやさしくしてくれてるってことで、わたしが…わたしたちが、元気にしてあげなきゃなのに…いっぱいめいわくかけて、いやな気持ちにもさせちゃって、これっぽっちも元気になんて…させて、あげられなくて……
「…ふぇ…ふぇぇぇ……」
「え…ろ、ロム…?」
「ろ、ロムちゃん…」
「ふぇ…お、おねえちゃ…ごめ、んね…ぐすっ…」
「な、泣かないでロムちゃん…ロムちゃんに泣かれちゃったら、わたしも…わたし、も……」
「ら、ラムまで…二人共、どうしたの…?どこが痛いの…?」
なんにもおねえちゃんにしてあげられてないのがかなしくて、つらくて…気付いたら、ぽろぽろとなみだが止まらなくなる。同じ気持ちだったラムちゃんもわたしを見て泣き出しちゃって、それでまたおねえちゃんにしんぱいさせちゃう。だけどもう心の中がぐしゃぐしゃで、わたしたちはちゃんとなんてはなせない。
「ちがう、ちがうの…わたしたち、おねえちゃんに元気になって…ほしくて…」
「でも、ぜんぜん元気にしてあげられなくて…おねえちゃんに、つらそうなかおさせちゃって…ひっく…」
「え……じゃあ、貴女達はわたしと遊びたかったんじゃなくて…」
「ごめんね…ごめんね、おねえちゃん…」
「……ッ!ロム、ラム…っ!」
止まってくれない、わたしのなみだ。手でなみだをふくわたしとラムちゃん。ごめんなさいって気持ちしか伝えられなくて、それでもっとつらい気持ちになって、もっともっとなみだが出てきちゃって……そのうちにわたしたちは、おねえちゃんにだきしめられた。さいしょにわたしたちがぎゅーってした時よりもやさしい力で、つつみこんでくれるみたいに、ぎゅってされていた。
「…ぁ…おねえ、ちゃん…」
「二人は、そういう思いで…わたしの為に必死になってくれていたのね…ありがとう、ロム、ラム…」
「で、でも…でもわたしたち、なんにも…」
「その気持ちが嬉しいの…大切な妹が、愛する妹がわたしの為に頑張ってくれる…例えどんな事でも、その気持ちがあるだけでわたしは嬉しいわ…」
わたしたちをだきしめてくれるおねえちゃんの手はあったかくて、それだけでわたしもラムちゃんもしあわせだったけど…それじゃ、いやだ。ネプギアちゃんにゆうきをおしえてもらって、ラムちゃんとみんなといっぱいがんばって、ここまできたんだから……これでまんぞくするのは、いやだ。
ぐしぐしって、なみだをふく。まだかなしくて、つらいけど…おねえちゃんがぎゅってしてくれたから、もうちょっとがんばれる。一人だったらがんばれなかったかもしれないけど…ここにはラムちゃんがいて、おねえちゃんがいて…わたしが、いる。
「…おねえちゃん、こわい…?」
「…え……?」
「あそこに行くのは、こわい…?」
「……それは…」
「…………」
「……そう、ね…怖いわ。あんなに苦しい思いをしたのも、あんなに絶望に襲われたのも、これが初めてだから…凄く、怖いわ……」
おねえちゃんの手は、ちょっとだけどふるえてる。つよくてかっこいいおねえちゃんが、またふるえてる。…だからわたしは、もういちどおねえちゃんをぎゅってする。さっきおねえちゃんが、わたしたちのためにしてくれたみたいに。
「…だいじょうぶ。わたしたちが、いるから」
「貴女達が、いるから…?」
「…うん。おねえちゃん、わたしたちつよくなったの。あの時は、わたしもロムちゃんも足引っぱっちゃったけど…もう今はちがうわ。ロムちゃんは色んな魔法がつかえるようになったし、わたしも前よりずっとつよい魔法がつかえるようになったのよ?」
ききかえしに反応したのは、わたしと同じようになみだをふいたラムちゃん。ラムちゃんもまたおねえちゃんをぎゅっとして、わたしたちは二人でおねえちゃんへ気持ちをとどける。
「おねえちゃんには、わたしたちがついてるよ」
「だからねおねえちゃん、こわくってもだいじょうぶ」
「ロム…ラム…でも、わたしは貴女達の姉よ…そのわたしが、まだ小さい二人に頼るなんて…」
「…わたし、おねえちゃんの気持ち分かる。わたしも、ラムちゃんのおねえさん、だもん」
ラムちゃんとわたしとは双子だから、おねえちゃんとわたしたちとは少しちがうけど…それでも、わたしもおねえちゃん。だから、おねえちゃんの気持ちは分かる。
「わたし、ラムちゃんにたよるのいやじゃないよ?ラムちゃんはわたしにできないことがいっぱいできるし、わたしとラムちゃんはなかよしだもん。でも、たよってばっかりじゃラムちゃんがたいへんだから…その代わりに、いっぱいたよらせてあげてるの。…そ、そう…だよね…?」
「…ロムちゃん…せっかくロムちゃんいいこと言ってるのに、そこでしんぱいそうにしたらだいなしよ……」
「あぅ、そうかも…」
「でも、わたしもロムちゃんにはいっぱいたよってるわ。…おねえちゃん、おねえちゃんってたよるのはだめなの?わたしをたよってくれるロムちゃんは、まちがってるの?」
「…そんな事、ないわ…ロムがラムを頼るのは間違ってなんかいないし…わたしと違って妹を頼る事が出来るロムは、立派よ…わたしなんかよりも、ずっと…」
わたしたちのことをたよってほしい。それが、わたしとラムちゃんの伝えたいこと、わたしたちのねがい。
それを聞いたおねえちゃんは、少しかなしそうなかお。…それも分かるよ、おねえちゃん。わたしも「わたしなんか」って思うことあるもん。けど……
「…おねえちゃんも、りっぱだもん」
「うん。おねえちゃんも、りっぱ」
「……そう、思ってくれるの…?守護女神なのに怖いって思うわたしを、貴女達を頼れていないわたしを…」
『うんっ!』
おねえちゃんを二人でだきしめて、おねえちゃんのきんせいせきみたいにきれいな目を見つめて、わたしたちはふあんそうなおねえちゃんへ力いっぱいの気持ちでこたえる。おねえちゃんはりっぱだよ。だって、わたしとラムちゃんのだいすきな、わたしたちのおねえちゃんだもん。
「……そっ、か…わたしはロムとラムに、そこまで思ってもらえてたんだ…二人に、わたしは…こんなにも……」
「あ…お、おねえちゃん…」
「な、泣かないでおねえちゃん!まだつらいの?だったらもっとぎゅーって…」
「大丈夫よ…ロム、ラム…これは辛いんじゃなくて…嬉し涙だから…二人にここまで大切に思ってもらえてる事が嬉しくて出てる涙だから……」
すーっと目からこぼれたなみだを、おねえちゃんはわたしたちみたいに手でふく。それで、すぐに手をはなして…わたしたちに、にっこりえがおを見せてくれる。
「…ありがとう、二人共。まだ怖い気持ちはあるけど、辛い記憶は消えてないけど…でも、二人のおかげで勇気が湧いてきたわ」
『おねえちゃん…』
「…成長したのね、本当に。……今なら、少しなら…二人を頼れそうな気がするわ」
「うん、うん…!わたしたちを、たよって…!」
「たよってくれたら、二人ですっごいかつやくしちゃうんだからね!」
くるしそうだったおねえちゃんが元気になってくれて、たよってくれるって言ってくれて、わたしたちの気持ちがとどいて…すごく、すごくうれしかった。少しだけはなれて、二人でおねえちゃんの両手をにぎってぶんぶんしちゃうくらいうれしかった。ゆっさゆっさされてるおねえちゃんはちょっと困ったかおで、でもたのしそうにしてくれているのもうれしくて…わたしもラムちゃんも、うれしいことでいっぱいだった。
「も、もう…そんなに乱暴にしたら取れちゃうわ…」
「とれたら、なおしてあげる…!」
「と、取れた場合の想定するのは止めて頂戴…ラムならともかく、ロムが言うとあんまり冗談に聞こえないわ…」
「じゃあ、わたしがなおしてあげるー!」
「ラムはロム程治癒魔法が得意じゃないでしょ…喜怒哀楽がころころ変わるのは相変わらずね…」
「それはおねえちゃんゆずりだもーん」
「だもーん(にぱっ)」
「うぐっ…はいはい……」
(あんまりそんなつもりはないけど)きどあいらく?…がころころかわるのは、おねえちゃんといっしょ。ときどきふあんになるのも、こわいって思うのも、みんなでいるとすごくうれしいのも…ぜんぶぜんぶ、わたしもラムちゃんもおねえちゃんも、いっしょだよ…♪
「…ロムラム、貴女達がここに来たのはわたしを元気付ける為?」
「うん、そーよ。…あ、でもじゃあわたしたち…もうやることないの?」
「そう、かも…どうしよう…」
「…じゃあ、他の絵も見せてくれないかしら?貴女達が描いた絵は、まだまだ沢山あるんでしょ?」
「え、見てくれるの!?」
「勿論よ。二人の頑張って描いた絵、もっと見たいわ」
「ほんと…!?」
うれしいことはこれでおしまいかな?…と思ったけど、そうじゃなかった。見てくれるって言われたわたしたちは、すぐにほかのえもとりにいって、ドキドキしながらおねえちゃんに見せてあげる。つらそうなおねえちゃんはもういない。ここにいるのは、いつもみたいにやさしくてかっこいい、わたしたちのおねえちゃん。うれしいことはいっぱいあったけど…やっぱり、それがいちばんうれしかった。…やったね、ラムちゃん。
*
いつも元気で、考えるより先に身体が動く少女ネプテューヌ。その快活さはネプテューヌにとっての魅力で、ネプテューヌを構成する重要な要素の一つだと思うけど…今日ばかりは、その明るさも曇っていた。
「わたしね、こんなにはっきり怖いって思ったのは初めてなんだ」
私がネプテューヌの部屋に入ってから数分。それまで何となく、これと言って特筆する事もないやり取りをした後…唐突に、ネプテューヌはそう言った。
「これまでは強敵と戦いになっても何とか勝とうって気持ちとか、やられると不味いなって考えしか浮かばなかった。ユニミテスにやられちゃった時だって、あぁわたし死ぬんだ…って思っただけで、怖いとは思わなかったんだ」
「…うん、分かるよ。多分恐怖を一切感じてない訳じゃないんだろうけど…他の感情の方が、ずっと頭に浮かんでくるよね」
「そう、そうなの。…だからわたし、今回が恐怖の初デビュー。一作目から累計すると軽々二百話超えてるのに、今回が初デビューって凄くない?」
「そう、だね……」
いきなり始まった自分語りに、いきなりメタ発言が飛び込んできた。…それだけなら平常運転のネプテューヌだけど、表情にも声にも張りはない。ネプテューヌっぽい事を言ってはいるけど、ネプテューヌらしさがない。
「いやー、困っちゃったよ。英雄の帰還的な鳴り物入りでの復活なのに、初っ端からこれだよ?もう少し後なら成長イベかもって思えるけど、このタイミングじゃねぇ…」
「…このタイミングで成長してもいいんじゃない?」
「いやいやここは大活躍して『前作主人公凄ぇ…』ってならなきゃ駄目でしょ。わたし的には両軍のエースを次々と撤退に追い込んで、新主人公もすれ違いざまに一撃与えちゃう位の事キボンヌ!…なのになぁ…」
「いやそれだとネプテューヌ第三勢力になるし新主人公はネプテューヌの妹だしそもそもネプテューヌは前作主人公じゃなくて後半からの続投主人公扱いだしキボンヌってちょっと古いし…とにかくボケを一度に入れ過ぎだから…」
意外とネプテューヌは普段から考えて発言をしているのか、それともおふざけが身に染み付いているのか…発言内容のネプテューヌっぽさは衰えない。…今のところは、まだ。
「わたしからボケを抜いたらただの元気で可愛い女神になっちゃうじゃん?…ってあれ?これだとわたし、ボケ無しでも魅力たっぷり?」
「過分に自画自賛が含まれてるね…っていうかこのやり取りは前にもやったような気が…」
「女神の自画自賛はパッシブスキルみたいなものだからいーのいーの。ところでイリゼ、今日はなんか突っ込みにキレがないよ?イリゼの突っ込みは基本余裕なさそうなのが魅力なんだから、もっとテンション上げていこー!」
「…私は、ネプテューヌが抱えているものについて話したいかな」
落ち着いて、宥める様に言った瞬間ぴくりとネプテューヌの眉が動く。でも、あからさまな反応を見せたりはしない。…そうだよね、先に抱えてるものについて触れたのはネプテューヌなんだから。
「…それ、聞いちゃう?」
「聞いちゃうもなにも、ネプテューヌだって聞いてほしいんでしょ?こっちから振った訳でもないのに怖い、って言ったんだから」
「それはそのすぐ後にネタにする事で、もう何とも思ってないってアピールにしたかったのかもしれない…とは思わない?」
「思わないね。ネプテューヌが何とも思ってない…なんて事はないって、顔見れば分かるから」
「そっ、かぁ…イリゼって、わたしの事よく見てるんだね」
「私から友達思いを抜いたらただの素朴で可愛い女神になっちゃうからね。…あんまり気にかけてほしくなかった?」
「ううん、そんな事ないよ。……うん、やっぱり…イリゼなら、大丈夫だよね…」
腕を組んで、その後後ろを向いて少しの間考え込むネプテューヌ。そうして、何か自分の中で納得がいったかの様な言葉を呟いて、そして……
「…………怖いよ…怖いよぉイリゼ…っ!」
──振り返った時、ネプテューヌの瞳からはぼろぼろと涙が溢れ落ちていた。最初からずっとそうしてしまいそうだったみたいに、それを抑え込んでいた心の壁が一気に崩れ去ったみたいに、秘めていた辛さを解き放っていた。
「わ、わた…わたし、怖くて…動けなく、なっちゃう位怖くて…皆も同じように怯えてて…ぐすっ…皆でも無理なんだって思ったら、もっと怖くなっちゃって…それ…でっ……」
「…分かるよ、ネプテューヌの気持ち。私もギョウカイ墓場でマジェコンヌさんとユニミテスを足止めし続けてた時の事を思い出すと、怖くなるから。それよりずっと過酷な状況に、私よりずっと長い間晒され続けていたネプテューヌ達がそういう感情を抱くのは当たり前だよ」
泣きじゃくりながら話すネプテューヌを、私はゆっくりと抱き寄せる。私よりも小さな、少女そのもののネプテューヌの身体。…いや、ネプテューヌだけじゃない。ノワールも、ベールも、ブランも、皆個人差はあるけど皆やっぱり『女の子』で、女神としての部分が100%じゃない。…だから、放ってなんておけない。私も女神だし、友達だし……何より、私も一度救われたんだから。
「ねぇ、イリゼ…わたしは、どうしたらいいの…?わたし、知らないよ…自分で記憶は取り戻さないって決めちゃったから…わたしには、こんぱに助けてもらってからの記憶しかないから…分からない、よぉ…っ!」
「…ネプテューヌ……」
……記憶。その言葉に、私は一瞬胸を締め付けられる。私にとって記憶という単語は、一般的な意味の他に『存在しない過去』を意味する言葉でもあるから。今がある、友達がいるって思えるようになった今でも…過去を求める気持ちは、消え去った訳じゃない。
そして同時に私は気付く。常々自分の事を「ある意味で私が生きた時間はネプギア達と大差無い」と思っていたけど、積み重ねそのものと言える記憶を失ったままのネプテューヌもまた、私と似たような状態なんだって。その状態でずっと、記憶を取り戻さないと決めたあの日から頑張り続けてきたんだって。
「ネプギアの、お姉ちゃんなのに…皆、こんなしょうもないわたしの友達でいてくれるのに…だからわたしは、精一杯恩返ししたいのに…なのに…なんで、怖いって気持ちに負けちゃうの…っ!負けたくないのに…皆がいれば大丈夫って、いっつも思ってたのに…!」
「…無理に、勝とうとしなくたっていいんだよ」
「え……?」
そんな事を言われるとは思ってなかった、と言いたげなネプテューヌの顔。なんで、と答えを求めるネプテューヌの瞳。そんなネプテューヌの頭を安心させるように撫でながら、私は抱き締める。大事な、大切な友達を。
「それだけ怖かったって事だもん、辛かったって事だもん、仕方ないよ。…それに、ネプテューヌが怖いのは自分だけ?自分がまた辛い思いをする事だけが怖いの?」
「…違う…わたしは、自分も嫌だけど…皆にも、同じ思いはしてほしくない…!」
「ほらね。ネプテューヌは皆の事を思ってるからこそ、余計に怖いんだよ。辛さを知ってるから、皆の事を想像して恐怖が増幅されちゃってるんだよ。もし皆の事を思えば思う程、それに反応して恐怖も強くなるのなら…克服なんて、無理だよ」
「……っ…やだ…やだよ、そんなの…それじゃわたし、進めないよ…わたしは、乗り越えたいの…怖いけど、また前を向きたいの…なのに、克服は無理だなんて、そんなの…そんなのっ──」
「だから、ネプテューヌは私が守る」
強く強く、抱き締める。私の思いを伝えるように。怯えるネプテューヌの心が、崩れていかないように。
「ネプテューヌだけじゃないよ。ノワールもベールもブランも、ネプギア達もコンパ達もイストワールさん達も…皆々、私が守る。もう、ネプテューヌ達にあんな思いはさせたりしない」
「…イリ、ゼ……」
私がネプテューヌに伝えたい事は、初めから決まっていた。ネプテューヌにしてあげたい事は、決まりきっていた。……今度は、私の番だよ。
「覚えてる?ネプテューヌ。ネプテューヌが魔窟で私を救ってくれた時の事」
「…覚え、てる……」
「よかった。…あの時から、私は皆を守る女神だよ。あの時ネプテューヌが私を救ってくれたから今ここに私はいるし、だからネプテューヌには心から感謝してる」
「そんな、事…あれはわたしじゃなきゃ見つけられなかった訳じゃないもん…」
「だとしても、最初に見つけてくれたのはネプテューヌだよ。私に『今』を教えてくれたのは、ネプテューヌだよ。…これは私の気持ちなんだから、そういうものなんだって受け取ってよ」
昔話をしたって、今のネプテューヌの心に作用なんてしないかもしれない。…けど、理屈立てた言葉を並べるより、思いを乗せた言葉を紡いだ方がずっと相手に伝わる。それは理路整然とはしていなくても、気持ちはちゃんと届いてくれる。……そう、私は信じている。
「どんな事があっても、どんなに大変でも、私はネプテューヌを…皆を守る。どんなに苦しくても、どんなに絶望的でも、私は守り続ける。……私の今は皆がくれたものだもん、皆の為なら命だって惜しくないよ」
「…それは、駄目だよ…自分の命を犠牲にするなんて、絶対駄目…」
「うん、だからそれは気持ちの上での話だよ。私もネプテューヌと同じで、最高のハッピーエンドを迎えたいからね。…だから、私が勇気をあげる。前を向けるように、進めるように勇気をあげる。私は沢山のものを貰ったから、今度は私が返す番。…だから、受け取って。私の思いを」
抱き締めたからって、物理的に何かが移動する訳じゃない。…でも、私は知っている。相手が大切なんだって思いが、それを相手に伝える事が、伝えられた相手の勇気になるって。思いが傷付いた心を癒し、救う為の力になるって。…それを教えてくれたのも、ネプテューヌだから。
「……まだ、ちょっと怖い…」
「なら、もう暫くこうしていてあげる。大丈夫だよ、私はいなくなったりしないから」
「…っ…イリゼ…イリゼ……っ!」
私の中を掴んで、私の胸元に顔を押し付けて涙を流すネプテューヌ。自分の思いを吐き出すネプテューヌを、私は最後まで抱き締め続ける。そして……顔を上げた時、泣き腫らしたネプテューヌの目元は赤くなっていたけど…その顔からは、曇りが少しだけど消えていた。
「……ありがとね、イリゼ…」
「気にしなくていいよ、ネプテューヌ。ネプテューヌは私の恩人で…友達なんだから」
ネプテューヌの前髪を軽く上げて、ネプテューヌの紫水晶の様に綺麗な瞳を見つめて、私は簡潔で…でも一番素直な気持ちを言葉にする。……友達だから、根底にあるのはこの気持ちただ一つ。
「…イリゼ、変わったね…初めて会った時と今とは、全然違う…」
「ふふっ、それも皆のおかげかな」
「……でも、ちょっと心配になるよ…イリゼはわたし達の存在に、比重を置き過ぎてる気もするから…」
「え……そう、かな…?」
「わたしの気のせいかもしれないけど、ね。…でも、心配だから…もしかしたらって思うから……」
すっ…とネプテューヌは私から離れる。離れて、大きく深呼吸をして、それで……
「……イリゼが無茶をしないように、しても大丈夫なように…わたしも、前に進むよ。イリゼが思ってくれるのにも負けない位…わたしだって、イリゼの事が大切だからね」
「…うん、私が何か危なかったら…その時は頼むね、ネプテューヌ」
……その時ネプテューヌが浮かべた笑顔は、取り戻した笑顔は…ネプテューヌらしい、私の大好きな笑顔だった。
これだけでネプテューヌが完全に立ち直れたとは思わない。私があげた勇気も切っ掛けに過ぎないだろうし、私の中で過去を求める思いが無くなった訳じゃないのと同じように、ネプテューヌ達の中でギョウカイ墓場での傷が残り続けてしまうのかもしれない。……でも、ネプテューヌなら、皆ならきっと大丈夫だって、私は信じてる。
「…お姉ちゃん、入ってもいいかな?」
「……ネプギア?」
それから約数分。ネプテューヌがちゃんと落ち着きを取り戻してきた頃、ネプギアが部屋へとやってきた。…その顔を見ただけで、分かる。ネプギアはベールの力になる事が出来たんだって。
「…お姉ちゃん、大丈夫?」
「…うん、大丈夫だよ。イリゼが勇気をくれたから…皆と前に進みたいって、思ったから」
「そっか…じゃあわたしは、一言だけ…えいっ!」
「わっ…ね、ネプギア…?」
私に頭を下げて、その後ネプテューヌの前まで行ったネプギアは、一言と言いつつネプテューヌを抱き締める。その行為に私とネプテューヌが驚く中、ぎゅーっとネプギアはネプテューヌをその手で包み込んで……
「……今のわたしはもう、お姉ちゃんの後ろを着いていくだけのわたしじゃないよ。だから……これからは、一緒に頑張ろうね」
「……うん。一緒に頑張ろっか、ネプギア」
私の思いと、ネプギアの思い。友達の思いと、妹の思い。これを受けて立ち直れないようなネプテューヌじゃない。私はそう信じてるんだから…これからは…ううん、これからも…皆で頑張ろうね、ネプテューヌ。
今回のパロディ解説
・〜〜ここにはラムちゃんがいて、おねえちゃんがいて…わたしが、いる。
機動戦士ガンダム00の主人公、刹那・F・セイエイの名台詞の一つのパロディ。高濃度圧縮シェアエナジーを全面に解放しそうですね、したらどうなるか謎ですか。
・「〜〜両軍のエースを〜〜一撃与えちゃう〜〜」
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、キラ・ヤマトの初介入時のシーンのパロディ。この後にネプテューヌは雪山でネプギアにぶっ刺され…たりはしません。