超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
ギョウカイ墓場への、威力偵察。それが守護女神四人の公務復帰以降で最初の任務となった。
「いいですか?あくまで今回は威力偵察、惨敗であっても敗走であっても、とにかく情報収集が出来ればそれでいいんですからね?(´・∀・`)」
「はいはい。でも…かってしまっても、かまわんのだろう?」
「ラムちゃん、それはだめ…(ふらぐ)」
プラネタワーの会議室にて作戦の確認を行う私達。二度目の旅が始まる時、面子はイストワールさん含めてもたった五人だったからイストワールさんの執務室でも問題なかったけど…今の面子でまた執務室に集まったら、セルフ押し競饅頭になっちゃうよね。
「フラグはさておき、ラムの言う事も一理あると思いますよ?調子に乗るって事じゃなくて、あんまり目標を低くするのも良くないって意味で」
「ユニ、わたしの妹を評価してくれてるならそれは嬉しいけど…ラムはそこまで考えてはいないと思うわ」
「言ってみたかっただけなのかもね。…見た目とか武器的にわたしも言いたくなる事はあるし…」
元々私達のパーティーは会議的なものに合わない雰囲気だけど…新旧フルメンバーに加えて教祖の四人とマジェコンヌさんが入ると、いよいよもって雰囲気の締まりは何処へやら状態に。…教祖四人とマジェコンヌさんは基本真面目に会議をするタイプの人達だよ?でもほら、こういう状況って性格問わず人が増えれば増える程賑やかになるものだし…。
「…まぁ、あまり慎重になるのも得策ではないだろうな。及び腰が許されるのは劣勢側だけだ」
「えぇ、それは分かっています。…ですが、わたし達は経験した筈です。想定を遥かに超える事態によって、中核戦力を一気に失ってしまう事を」
『…………』
概ねユニやマジェコンヌさんの意見に同意してざわざわしていた私達だったけど……イストワールさんのその言葉には、全員が閉口してしまった。だって、その事を考えると慎重且つ堅実な策を取るべきだって思えてしまうから。こういう時、普段ならネプテューヌが明るく前向きな言葉で雰囲気を変えてくれたりもするけど…今回の作戦に守護女神四人は不参加(まだ戦える状態じゃないから)、つまりネプテューヌは私達をギョウカイ墓場に送り出す側となるからか黙ったまま。だから会議室の中は全体的に重い感じの空気になってしまって……そこで、イストワールさんがバツの悪そうな顔をして再度言葉を発した。
「えと…何も調子に乗るなと言いたい訳じゃないんです。ただわたしは功を焦る事はしない方が良い、と言いたいだけで…(>_<)」
「…分かっていますよ、イストワールさん。出来る事出来ない事をきちんと見極めて、戦略的な視点で判断を下せ…そういう事ですよね?」
「あ、まぁ…そんな感じです…( ;´Д`)」
「…って事だから、今まで通り油断と無理はしない、って方針でいけばいいんじゃないかな?」
「…そう、ですね。わたし達は想定外の事がどれだけ怖いのかよく知っています。だからこそ油断せずにいられる…そういう面もあるんじゃないでしょうか?」
分かっている。イストワールさんの言いたい事も、私達がどうしなきゃならないのかも。ネプテューヌ達が復帰したとはいえ、まだ戦線には戻れない以上…もう少しの間、私が頑張らなきゃいけない。大きな目的だった守護女神の奪還が達成されて、女神候補生の四人を中心に『何としても、一刻も早く進めなきゃ』という思いが若干ながらも後退してしまっているからこそ、私が指針にならなきゃいけない。
……と、思っていたけど…私の言葉に一番早く同意してくれたのはネプギアだった。…ちょっと前言撤回。私が思ってる程皆気が抜けてたりはしないみたい。
「ネプギアさんの言う通り、ですね。…それでは、実際の偵察に関してですが…」
「あ、ちょっと待っていーすん。わたし達は行けないにしても、今パーティーって結構な人数になってるよ?その全員で行くの?」
「確かにそこは気になるところですわね。現状パーティーというよりレイド状態ですし」
「それはわたしも考えていました。なので暫定的に、ですが…今後は守護女神の皆さんを中心とした旧パーティー組と、女神候補生の皆さんを中心とした新パーティー組の二つに分かれた動きを基本とする、というのはどうでしょう?勿論状況に合わせて全員での行動やメンバーの入れ替え等もする前提で(・ω・)ノ」
やや寄り道気味だった話は本題に戻り、次の部分へ…いくと思いきや、また寄り道がスタートしてしまった。…けど、これは大事な事だね。物量は強さに直結するけど多いと多いなりの問題が発生するし、ある程度数が揃ってるにも関わらず毎回フル投入なんて下策もいいところだし。
変に複雑な編成をするよりシンプルな方が柔軟に動けそう、という事でイストワールさんの提案に同意していく私達。そんな中、おずおずと手を上げたコンパが質問を口にする。
「あの…わたしとあいちゃん、イリゼちゃんはどうするですか?」
「そういえばそうね…私達って言ってしまえば、新旧どっちにも属する『続投組』な訳だし」
「人数的にはボク達の方が一人少ないから…順当にいけば、一人は旧に、二人は新に…とか…?」
「新は女神が後衛寄りだから、イリゼは新の方に行くのも良さそうにゅ。そこら辺教祖の四人はどう考えてるんだにゅ?」
「わたし達としては『お三方に任せる』というのが総意ですが…その上で意見を言うとすれば、イリゼ様には新に、コンパさんアイエフさんは旧に…という形を推しますね」
「それが援護や支援を含めた戦力構成を考えた結果よ。…アタクシ的にはアイエフは新に行ってほしかったけど…」
「チカ、公私混同はよくありませんわよ?」
「お、お姉様がそれ言いますか…でも仰る通りです…」
「…じゃ、どうしよっか?」
周りの意見を聞きつつ私達三人は顔を見合わせる。どっちのパーティーも心地いいし皆信頼出来る人達だから、私は良い意味で「どちらでもいい」って言ってみると…なんと二人も同意見だった。……と、いう訳で…
「私はこっちに加入するね」
「うん…また、よろしく…おねがい、します」
「はいはーい。じゃ、これからもロムちゃんといっしょによろしくしてあげるわ」
「え?……ふふっ、宜しくされるね」
「貴女達はこっちになるのね。私達はもう少し安静にする事になるけど…また共に頑張りましょ」
「えぇ。まずは焦らず出来る事からやりなさいよね」
「無茶は駄目ですけど、もしそうなったらわたしが癒してあげるです!」
二度の旅で少しずつ勢力を拡大していった私達パーティー(通称ねぷねぷ一行又はねぷ子さん一行。新パーティーにネプテューヌはいないけど…代わりに『ネプ』ギアがいるもんね)は、この度二つのパーティーへと分裂する事になりました。…分裂って言っても現状だと一時合流していた一期生と二期生が元に戻っただけって感じだけどね、大体は。
「では、確認を再開します。直前になって何か言われても困りますから、意見や質問はしっかり今の内にして下さいね( ̄▽ ̄)」
『はーい』
チーム分けを終えた私達は、作戦説明を再開。威力偵察を行う私達の動きだけじゃなくその間の各国の動きや想定外の事態が起きた場合のプランなんかも確認して、私達は作戦を万全の状態へ。……後悔先に立たず。それを私達はよーく知ってるんだから、同じ轍は踏まないようにしなきゃ、ね。
*
翌日…作戦当日である今日、新パーティー組は突入の為ギョウカイ墓場へと来ていた。勿論戦えない守護女神の四人は来ていないし、犯罪組織残党が威力偵察中に動いた場合を考慮して旧パーティー組と、パーティー入りはせず独自に動くという事になったマジェコンヌさんはネプテューヌ達と一緒に待機している。…万一に備えた戦力があるって、それだけでも安心感が段違いだよね。
「それじゃ、入りましょうか」
「ルートは前回と同じ、だね?」
ファルコムの言葉に首肯し、私達はギョウカイ墓場の中へ。すると途端に私は不快感に襲われる。
(……っ…これは…)
負のシェアが充満しているギョウカイ墓場では、入る度にこの不快感を感じている。…けど、今回は前回よりも明らかにシェアの質も密度も高まっていた。それは私達にとってマイナス以外の何物でもない。
「…皆、少し急いで進むよ。前回と同じ感覚でいたら、私達女神以外の皆は何か不調が起きてもおかしくないから」
「それって、前に貰った皆の愛の結晶持ってても駄目なの?アタシちゃんと持ってきてるよ?」
「あ、愛の結晶じゃなくてシェアエナジーの結晶だから……こほん。前された説明通り、クリスタルは緩和してくれるだけだからね。不調感じたらちゃんと言わなきゃ駄目だよ?」
「…言わずに我慢したら、どうなるの?」
「分からない。けど…全員が後悔する事になるのは間違いないだろうね」
恐る恐る訊いてきた5pb.へ、私はそんな言葉を返す。…そう、もし負のシェアに汚染されて歪んでしまったら本人が後悔するのは間違いないし…周りもまた、気付いてあげられなかったって後悔すると思う。だから敢えて、私は不安を煽るような言葉を選んだ。
「…分かった。もし何か変だって思ったら、すぐ言う事を約束するよ」
「うん。…っと、そうだ…皆、聞こえてる?」
「聞こえてるよ〜」
「そっか、なら通信は問題なさそうだね」
私が声をかけたのはここにいる皆……ではなくインカム越しの待機組&教祖さん達。霊力的手法に頼らない科学技術のインカムなら、どんなにシェア密度が高くなろうと通信出来るとは思っていたけど…断定は出来ない以上、余裕のある時に確認しておいて損はない。そう思って確認をかけたのが、今の言葉だった。……んだけど…よく考えたらこれ、通信出来てなかった場合ここにいる皆から「……はい?」って目で見られてた可能性が高いよね…もう少し小声で言えばよかった…。
その後私達は侵入口付近に罠や伏兵が無いか確かめ、それから普段より少し早い歩速で墓場の奥へ。目的は威力偵察という事で隠密行動にはあまり固執せず、それより負のシェアによる皆への影響を考えた効率重視の移動を進めていく。
「…あ、ここってイリゼさんとジャッジが戦った……」
「前より、くずれてる…(ぼろぼろ)」
「時間経過で耐え切れず崩壊したんでしょうね…」
「こんなになるたたかいだったなら、わたし見てみたかったかも…」
途中私とジャッジが戦った場所を通った時、ネプギア達がそんな声を漏らした。確かに自分で見てもここは壮絶な状態になっていて、刃を交えてる最中は至上の戦いかの様に思っていたけど…今となっては自分で自分に呆れるばかりだった。…いや、一対一の約束そのものは今でもそれで良かったと思ってるけど…。
「…それにしても静かだね。モンスターもちらほら出てくる程度じゃないか」
「あ、じゃあアタシが賑やかしに歌ってあげよっか?5pb.も乗ってくれるならデュエットするよ?」
「そ、そうじゃなくてね…どこかに潜んでいるのかな…」
「こんな劣悪な環境で私達に気付かれず潜み続ける…常人には無理でしょうね」
ファルコムが思った事、ケイブが考えた事…それは私の頭にもあった。この静けさは…不可解だって。
あの戦いで負け、拘束を免れた犯罪組織の生き残りは各地に散っていき、その生き残りも十日前後で殆ど姿を現さなくなった。そこから私達は四天王が残存戦力をまとめて再起を図っていると推測し、本拠地であるここに大部分が集められてると思って今日威力偵察を実行したというのに……
(…とんだ見当違いだった、って事?でも、まともな戦力が残ってないのならマジックの余裕に説明がつかないし…)
「にげちゃった、のかな…?」
「突入の時点で気付かれてたならその可能性もあるわね…イリゼさんはどう思います?」
「あ…うん。…逃げたってのもあり得るし、もしかしたら一網打尽にされる危険を避ける為に戦力を分散させてるのかもね…ただでさえ少なくなった戦力を更に分けるっていうのは上策とは思えないけど…」
「うーん…あっ、くちぶえふいてみたらいいんじゃない?」
「それかアクトコイアメ使ってみるのもいいかも!」
「ふ、二人は楽しそうだね…」
5pb.の苦笑気味発言に続き、私も突っ込みを…と思ったけど、止めた。今は負のシェアの影響力が増してるし、こういう状況下ではこれが精神安定剤になってくれたりするものだからね。
「イリゼさん、もしこのまま奥まで行っても何もなかったら…その時はどうします?」
「その時はその結果を持って帰還するだけだよ。詳細戦力が分からないのは残念だけど、いないなら仕方ないからね」
「…それって、何か怖いですね…」
「……?ネプギアちゃん、こわいの…?」
「うん、こんなに静かで敵の姿が見えないってなると、何かわたし達の予想もつかない事が進んでるんじゃないかって思えてきちゃって…」
「そ、そうなの…?(おろおろ)」
「あ…か、かもしれないって話だよ?それにほら、今はお姉ちゃん達も戻ってきたんだから何かあってもきっと大丈夫!」
「そうそう、今はわたしたちもつよくなったんだからだいじょーぶよ!」
残党や配下のモンスター、兵器なんかの姿が見えないのは不安要素だけど…皆がいつも通りであるおかげで私は悲観的にならずにいられた。いつも通りの私達なら、何かあっても対処出来る……そんな自信と安心感が、私の心にはあったから。
「皆、そろそろ最奥地に着くよ。そこで待ち伏せてるのかもしれないから、ここからは隠れながら移動するって事でいい?」
「構わないわ、私も同意見だもの」
「アタシもです。一応、狙撃の準備もしておきますね」
手招きで近くの大きな岩の背に皆を呼んだ私は、警戒しながら進む事を提案。とはいえ奥地は開けており、実際に隠れて進めたのはほんとに最初だけ。障害物がない場所じゃ隠れるもへったくれもないから、私達は早々に見つからないようにする事から攻撃されてもすぐ対応出来るよう神経を張り詰めておく事に切り替えて、慎重に進んでいく。……いくんだけど……
「……あっれぇ…?」
開けた場所の中央付近まで行っても尚、ギョウカイ墓場は静かなままだった。ここまでいくと、不安を通り越してただただ拍子抜けしてしまう。
「ここまで来てもいないなんて…ボク達、道を間違えてたりは…?」
「ない、と思うけど…まさかここは、別次元のギョウカイ墓場…?」
「そ、それこそないと思います…もう少し詳しく探してみます?」
「いや、見つからないって事は少なくともここに大規模な戦力はいないって事だろうし…あら?」
いないのか、隠れているだけか。いないのなら、どこに潜伏しているのか。いないのなら仕方ないとは言ったけれどこれじゃ流石に成果が薄いし、何があるか分からない…って気持ちは完全に行き場を失ってしまっている。けど野生のモンスター以外敵と言える存在もいないんだから成果なんて上げようもなく……と思っていたところで、周囲を見回していたユニが何か見つけたような声を上げた。
「ユニちゃん、どうかしたの?」
「ほら、あそこ…」
ライフルを下げ、ある方向を指差すユニ。その指の先へと私達が目をやると……
「……ぢゅー…なんでちょっと出ていた間にもぬけの殻同然になってるんだっちゅ…オイラへのサプライズを画策してるんだっちゅか…?」
……そこにいたのは、犯罪組織の一員ワレチューだった。それを見つけた私達は全員で顔を見合わせ…にやり、と笑みを浮かべる。
『…………』
「サプライズならいいっちゅねぇ…日々の苦労を労ってほしいものっちゅ…」
『…………』
「でも、犯罪組織に入るような奴がサプライズなんて……あ!なんだ、ここにいたんだっちゅか!おーい、どうしていきなり人が減ってるん…だ…ちゅ……」
『いらっしゃーい』
「…………」
『…………』
「……ワレチュー、逃げるっちゅーッ!」
「あぁっ、逃げた!皆、追うよ!」
私達の存在に気付いたワレチューは、暫し硬直して……逃走を図った。でもそうなるだろうなと思っていた私達は即座に追いかけ始め、常識的な身体能力というのを忘れてしまったトンデモ集団の名に恥じない速度でワレチューへと迫っていく。そして数分後……
「離すっちゅ、女神共ォ!ぶっ飛ばすっちゅよぉぉぉぉ!」
「たいちょー、つかまえましたっ!」
「ました!(びしっ)」
哀れワレチュー、彼は私達に追い立てられ囲まれて、ごっこ遊びのテンションになったロムちゃんラムちゃんに取り押さえられていた。後、私を隊長に見立ててるみたいだった。……可愛い…。
「ご苦労、二人共。…しかし流石に鼠なだけあってすばしっこかったね」
「うんうん、このネズミは鬼ごっこしたら強そうだよね」
「離せっちゅ!それかせめて他の奴等にしろっちゅ!この二人の場合オイラの手足を虫の羽や脚感覚で捥ぎそうな気がするんだっちゅ!」
「む…イリゼさん、わたし今すっごくワレチューを退治したくなってきました」
「うん、友達を貶されて不愉快になる気持ちは分かるけど…今は我慢してくれないかな?こいつはただの下っ端じゃないみたいだし、連れて帰って情報吐かせるつもりだからさ」
「…って事だから、ちょっと黙ってなさいネズミ。じゃないと友達思いのネプギアはキレて四肢ぶった切ってくるかもしれないわよ?」
「ひぃぃぃ!か、勘弁してくれっちゅぅぅぅぅ!」
「そ、そこまではしないよ!?ユニちゃんわたしをヤバい人だと思ってるの!?」
捕虜という思わぬ成果に気を良くした私達は和やかムードに。ネプギアは気分を害していたけど、表情と声音から考えるに冷静さを失うレベルじゃなさそうだからまぁ大丈夫。…あ、因みに私が言った下っ端っていうのは言葉通りの意味の方で、変装が異常に上手な方ではないよ?
「と、とにかく拷問的展開は止めてくれっちゅ!そんな事したらそっちの評判が悪くなるだけっちゅ!」
「はいはい…さてじゃあワレチュー。私達は今から貴方を連行するつもりだけど…どうする?素直に従うならこっちもそれなりの扱いはするって約束するよ?」
「…証拠はあるっちゅか……?」
「証拠?じゃ、コンパに誓って約束するよ」
「ならオイラも素直に従うっちゅ!それなら信用出来るっちゅ!」
「あ…そ、そう……」
コンパの名前を出した瞬間、ワレチューの態度は一変した。敵を睨む組織の人間(ネズミ)から、恋い焦がれる一匹の男(雄?)に早変わりである。…ほんと、愛の力って凄いよね…ワレチューにとってコンパは神か何かなのかな、前に天使とは言ってた気もするけど…。
「…こほん。じゃ、そういう事だからワレチュー連れて帰ろうか」
「骨折り損になるかと思ったけど、これなら来た意味もあったものだね。さて……ん?」
「……?今度はファルコムさんが…どうしました?」
「いや…あんな靄、さっきはあったっけ?」
つい数分前にもあったような展開へ、再び質問をかけるネプギア。その時と同じようにファルコムは指をある方向へと向け、それを受けて私達が見ると…そこにあったのは黒──いや、闇色の靄だった。
「……ッ!ロムちゃんラムちゃん離れてッ!」
『え……っ!?』
私達が見た瞬間、突風に吹かれたかの様に物凄い勢いでこちらへと迫ってきた。その靄が何かとんでもなく不味いものだと察知した私は叫び、二人も私の声に反応して左右に飛び退く。その結果、闇色の靄の進路上からロムちゃんラムちゃんがいなくなって…ワレチューだけが、そこへ残った。
「ちゅっ!?な、なんっちゅか!?なんだっちゅ!?」
まるで狙っていたかの様にワレチューへと突撃する闇色の靄。それはワレチューへぶつかると同時にワレチューを覆い……彼の体内へと入り込み始める。
「うっ…か、身体の中に、入ってきた…?ぢゅっ!?な、何なんっちゅか、この力は…こ、この感情は……うぅぅぅぅ…ぢゅーーーーーーっ!!」
驚きと苦悶の混じった声をワレチューが上げる中、闇色の靄は入り込み続ける。そうして私達がそのあまりにも想定外な事態に唖然としている内に靄は全て入り切り……ワレチューは、絶叫した。
「い、一体…何が……!?」
「わ、わたしにも分からないよ…それに…巨大化してる!?」
靄が入り切った直後、ワレチューの身体は内側から靄が染み出しているかの様に闇色へと変色を開始。それと同時に巨大化も始まり…あっという間に私達はおろか、並みのモンスターすら比肩しない程の大型生物になってしまった。
巨大化し、それまでよりも野太い絶叫を放つワレチュー。入り込む最中は驚きの方が勝って唖然とするばかりの私達だったけど、ここまでくればもう分かる。今のワレチューは、先程飛んできた闇色の……負のシェアの輝きを放つ靄によって、汚染されてしまったのだと。
「……っ…イリゼ、一応訊くけど…この状況でもそれなりの扱いをする気は?」
「ある訳ないでしょ!?…っと…一先ずは無力化するよッ!」
「了解、なら…先手必勝!」
ケイブの言うまでもなさそうな質問に答えた瞬間…ワレチューは暴れ出した。その腕の一振りで今のワレチューは放置すると不味い存在だと判断した私は女神化し、長剣を携えながらバックステップ。同じく皆も下がる中、初撃を放ったのはユニだった。ユニの放った弾丸(恐らくはグレネード弾)は勢いよくワレチューの頭部へと飛び、着弾と同時に爆発する。
「ゆ、ユニちゃん一発目からヘッドショットなんて…容赦無いね…」
「一発目だからこそのヘッドショットよ!少なくとも手加減して自分や仲間が傷付くよりはマシだもの!」
「そ、そっか…ごめんねユニちゃん……って、嘘…!?」
直撃と爆発により、ワレチューは一瞬動きを止める。……が、爆発による煙を散らしながらワレチューが再び動き出した時、彼の頭部は傷一つ付いていなかった。
「……っ…ケイブ、ファルコム、私達で斬り込むよッ!」
「えぇ、分かったわッ!」
「三人同時攻撃なら…!」
今の一撃で無傷なんて、これまた想定外の事。けどだからって足を止めてる私達じゃなくて、私は二人と共にワレチューへと肉薄。私が胴を、二人は左右から腰をすれ違いざまに斬り裂いていく。…でも……
『な……ッ!?』
闇色の身体を斬りつけた瞬間、私の手には確かに斬った感触があった。現にワレチューの身体は斬れていた。けれど……ワレチューが傷付いていたのは、僅かな間だけだった。斬られた瞬間にその部位は再生を始め…あっという間に、元の無傷な状態へと戻ってしまっていた。
「さいせー…したの…!?」
「そんな…イリゼさん達の攻撃が、あんな簡単に再生なんて…!」
暴れ回るワレチュー。正気を失っているのか私達の方を見てもいまいち焦点は合っておらず、そのおかげで攻撃も距離を取っていれば当たる可能性は低い。…だとしても、それを差し引いても…そのあまりにも強い再生能力には、楽観視なんて出来なかった。
その中で、私は思い出す。過去にも一度この位強い再生能力を持っていた敵を。犯罪神の姿を模したと創造主が言っていた、あの空想の魔王の事を。
「……気を引き締めて、皆。この戦い、相当な長丁場になるよ…!」
長剣を握り直し、敵を見据える。何故靄が突然現れたのかとか、この全てが靄の能力なのかとか、分からない事はいくつかある。けど、今は奴を倒す事が最優先。そうして私は、余計な事を考えながら戦える程楽ではないだろう敵へと長剣の斬っ先を向け……突撃した。
今回のパロディ解説
・「〜〜かってしまっても、かまわんのだろう?」
Fateシリーズの登場キャラ、アーチャーことエミヤの名台詞(死亡フラグ)のパロディ。そういえばこのネタ、原作ではキラーマシンが言っているんですよね。
・くちぶえ
ドラゴンクエストシリーズにおける特技の一つ。口笛でモンスターを呼ぶって中々ぶっ飛んでますよね。モンスターは飼い犬か何かなのでしょうか…。
・アクトコイアメ
古代王者 恐竜キング 七つのかけらに登場するアイテムの一つの事。これ、覚えている人いるでしょうか?私はなんとなく思い出しました。
・「離せっちゅ、女神共ォ!ぶっ飛ばすっちゅよぉぉぉぉッ!」
とんねるずのみなさんのおかげでした内でのネタ、仮面ノリダーの主人公木梨猛の代名詞的台詞のパロディ。別にワレチューは改造されませんよ?その後暴走はしてますが。