鈴木悟がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ピュアウォーター

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今回ベートは死にます。ファンの方はすみません。

オーバーロード最新刊読みました。最後すごかったですね。二度見しました。


一万回死ぬ予定の狼 3

「あー。ここか!」

 

鈴木悟は上機嫌だ。そしてその声色はとても明るかった。

 

 

ヘスティアが『青の薬舗』でミアハと会談している時、鈴木悟とベルは『豊穣の女主人』の店先の前にいた。

 

 

鈴木悟は行きたかった遊園地に連れて行ってもらった子供のように嬉しそうだ。朝方、雰囲気が違っていたためかこの店を見かけたときはわからなかったが、ここは鈴木悟がこの世界にやってきた時にお腹を好かせた彼がお金がなくて入店するのを断念した飯処だった。

 

彼は今でもあの匂いを思い出す。初めて嗅いだ合成ではない本物の香辛料の匂い。とても新鮮な油で揚げるパチパチとした音と香ばしい香り。お酒も提供しているのか濃厚な葡萄酒や甘ったるいが嫌いじゃない匂いをさせた蜂蜜酒。

 

ヘスティアファミリアでの普段の食事は質素ながらも前の世界からは比べられないほど栄養満点で自然が味わえるものが多く彼の満足するものであったが、やはり富裕層が食べるような豪勢で贅沢な食事というのは一度食べてみたいものだ。

 

それにウェイトレスに可愛くてスレンダーな娘が多いと鈴木悟はベルから聞いている。

 

なんだここは。天国か。食事もうまくて目の保養にもなるなんて!なんて素晴らしい場所なんだ!そして店員さんと仲良くなって・・・テイクアウト?をしちゃって!ウヒョー!

 

童貞じみた妄想をしていた鈴木悟は鼻を伸ばしながらだらしない顔をしている。普段の冷静な彼からは考えられない。やはり女性とは男性を変える力があるみたいだ。

 

「サトルさん。気持ち悪い顔してないで入りますよ」

 

「っ!ああ!」

 

 

鈴木悟はベルに指摘されたためか顔を締まらせる。そして彼らは酒場の扉に手にかけて中へと入っていく。中に入るとヒューマンやエルフ、ドワーフ、猫人などでごった返していた。とても繁盛しているという印象を受ける。

 

「いらっしゃいませ!あ!ベルさん!」

 

配膳を終えたシルがこちらに気づいたいのか接客しようと近づいてくる。トテトテとこちらに駆ける様はとてもかわいい。

 

「約束通り来ましたよ。シルさん」

 

ベルは爽やかにニッコリと笑いながら言う。その笑顔はイケメンそのものだった。そのためかシルの顔が少し紅潮している。お盆で顔を隠して顔を赤くさせてる様子はとてもかわいい。だがそれを見ていた鈴木悟の顔は怖かったが。

 

「えーと。隣の方は朝叫んでどっか行った・・・確か名前はサトルさんですね!二人共来てくださって私、嬉しいです!今日はお二人とも楽しんでくださいね!」

 

そう言って、彼女は鈴木悟とベルをカウンター席に案内する。

 

シルは鈴木悟に対して元気に対応する。正直、キザっぽくて気持ち悪く、急に奇声をあげて何処かへ行ってしまったため鈴木悟の第一印象は彼女の中ではあまり良くない。しかし、彼女は接客業には慣れている。そういった感情は隠すことに長けていた。そのためか鈴木悟には嫌な顔をせず笑顔で接する事ができた。

 

カウンターのまっすぐ一直線に並ぶ席の端っこ。ちょうど壁際のL字になった場所に2人は案内された。そこは狭く2人が座れれば良いところだ。カウンター内側では壮齢に見えるドワーフの女将らしき人物がおり美味しい匂いをさせながら、料理を作っている。

 

 

 

席についた鈴木悟は手で顔を隠していた。ニヤニヤしていて、とても人様に見せれる顔ではないからだ。

 

 

うひょー!あんな可愛い子に名前覚えられた!これって脈あり!?まじ!?まじぃ!?

 

 

彼の童貞心は第三者からみてて残念なものだった。かわいそうに。脈ないよ。それ。

 

 

「あんたらがシルのお客さんかい?白髪の坊やは冒険者の癖して可愛い顔して・・・あんたどうしたんだい?手で顔を隠して。具合でも悪いのかい?」

 

女将が妄想にふけっている鈴木悟の心配する。その様子は純粋に彼を気遣っている様子だった

 

「いや!なんでもありません!元気です!」

 

鈴木悟は手を払いはっとした顔になる。その表情には恥ずかしさが少し見られる。

 

「そうかい。よかった。元気じゃなきゃ飯も入らねぇからねぇ。」

 

腕を組んだ彼女は続けて喋る。

 

「シルから聞いてるよ!なんでもあたし達を驚かせるくらいの大食いなんだそうじゃないか!じゃんじゃん食って!じゃんじゃんお金使ってくれよぉ!」

 

「「!?」」

 

鈴木悟とベルは顔を見合わせる。彼女の言葉に肝が抜かれたようだ。そして女将に顔をそむけながら内緒話をするように小声で会話する。

 

「おい。ベル。どういうことだ?いつから俺たち大食漢になった?なんか怪しいぞ。金を余計に使わせる気だ」

 

「僕も初耳です!なんでこうなってるか知りませんよぉ〜」

 

彼らは小さな声で囁きながら嘆く。

 

「原因は絶対にシルさんです!女将さんだって言ってましたし!」

 

ベルの言葉によって彼らはそばにいた彼女に視線を向ける。シルは彼らの視線に耐えきれなかったのか目をそらす。その様子は隠し事がバレてしまった人に似ている。いや、そのものだった。

 

「ねぇシルさん。いつから僕たち大食漢になったんですか?そうに見えますか?細っこいし見えないですよねぇ!」

 

ベルは声を荒らげる。どうやら朝の話と違ったみたいだ。

 

「・・・えへへ」

 

「えへへじゃないですよ!!」

 

鈴木悟はベルとシルの言い合いを黙って見ていた。彼の佇まいはまるで子供の喧嘩を見ている親のようだった。

 

ーああ。ベルに責められて苦笑いしてるシルさんもかわいいなぁ。ぺろぺろしたいなぁ。

 

訂正。変態だった。彼はロリコンだった。おのれ!エロゲー好きのバードマンめ!

 

それにしてもかわいい女の子には甘い男である。童貞だからか。いつか美人局に捕まりそうである。

 

鈴木悟の妄想にふけていた間に彼らの言い争いは終わったみたいだ。どうやらシルに言いくるめられたのか、素直にベルは席に戻る。

 

「とりあえず食事しましょう。サトルさん」

 

彼らはカウンターに据えられてたメニュー表を手に取る。普通、オラリオにはメニューを書いた物がある食事処は少ない。置いてあるところは、よっぽどお客に気を使っているお店か高級店だ。

 

この『豊穣の女主人』は西のメインストリートの中では一番大きい酒屋にあたる。つまり、後者。高級なお店だ。

 

それ故に、彼らが食事の値段を見たときの顔は凄まじい後悔と焦りを感じる表情だった。

 

「なぁ、ベル。これ桁を間違えてないか?」

 

「奇遇ですね、サトルさん。僕もそう思いもいました」

 

普段の食事は50ヴァリス(お金の単位)あれば十分にお腹を満たせる。背伸びしてちょっと高いお店で食べても100ヴァリス程度である。がしかし、このお店が提示する値段はパスタが300ヴァリス、肉料理が500ヴァリス、今日のおすすめが850ヴァリス・・・

 

いつも彼らが食べている御飯の約6〜17倍の金額である。

 

鈴木悟は目を凝らす。だが数字は変わることはなかった。

 

「確かに間違ってないな。大きい店だししょうがないか。まぁ、でもお金はないわけでもないしなぁ・・・」

 

あんまり使いたくはないがと独り言を言う鈴木悟。確かにベル1人でダンジョンに潜っていた時に比べて今は鈴木悟も居るため、数倍は稼いでいる。その為、お金の心配はない。しかし、ミアハに払うエリクサーの代金もあるため無駄使いはできない。

 

「たまには贅沢も良いか」

 

めったに来ないお店で豪勢な食事を頬張るのも悪くない。むしろここはそういう場所だ。ベルだって昨日のことで疲れているだろし、おいしい栄養満点の食事も良いものだ。店員さんも可愛いし。よーし、それなら・・・

 

「ベル。今日は俺のおごりだ。好きなの頼め」

 

「良いんですか!?」

 

常識の範囲内でなとベルに鈴木悟は耳打ちをする。それは彼はいつもお世話になってるベルにお礼と年長者のとしての気遣いだった。

 

ベルはそれに遠慮したのか一番安いパスタを頼む。

 

「じゃあ、本日のおすすめと肉料理、パン。あと何か飲み物を2つください」

 

鈴木悟は彼が遠慮したためか、1人で食べるにしては多い量を頼む。それらはベルと一緒に分け合って食べるのためだ。それに同じ物をみんなで食べるのは楽しいことだ。家族ならなおさらだ。ことわざにもある。同じ釜の飯を食う仲だと。

 

 

「良い焼き加減だよ!食べなぁ!」

 

快活な女主人がカウンター越しに鈴木悟の目の前に肉の塊に根菜が添えられた皿がゴトっと置く。どうやら牛のステーキのようなものだ。

 

「おぉ・・・」

 

鈴木悟は口の中が唾液で溢れてくるのを感じる。こんな肉肉しい物を食べるのは初めてではないが滅多に食べれない。これはうまそうだ。

 

彼は手に持ったナイフとフォークで肉を切り分けていく。切り口から肉汁が溢れ出ていて、とても肉と香辛料の良い香りがする。ああ、この匂い。たまらない。

 

切った肉片を玉ねぎと醤油で作ったような焦げ茶色のソースにつけて鈴木悟は自分の口の中に持っていく。

 

 

う、うますぎる!あー!脂が口の中で溶けていく!あ!あー!

 

 

彼はあまりの旨さに頭がうまく回らないため感想があー!としか思えなくなっていた。もはや食レポなど彼には期待できない。

 

日本でこんなうまい肉は貧困層では食えない。そもそも合成ではない肉塊自体を食えることがめずらしいのだ。その肉もまるで革靴の底のような硬さだ。とても食えたものじゃないが、それでも自然の物がなかなか食べれない鈴木悟にはご馳走だった。そんな彼がA5ランク相当の和牛のような肉を食べたのだ。それは衝撃だっただろう。思考が鈍るのもしょうがないのである。

 

「はぁ。はぁ。も、もう一枚食いたい・・・」

 

いつの間にかにベルのことはお構いなしにペロッと肉の塊を平らげてしまった彼は再度注文する。

 

料理が来る間、隣りに座っているベルが頼んだ料理を見る。彼はパスタを食べていたが半分も残っている。どうやらシルさんとの会話に夢中になって食べてないようだ。

 

はぁ・・・やはりこいつも男か。口説くの早いな。

 

ベルが食べてないならと鈴木悟はパスタを少し摘む。うまい!もういい。女がなんだ!それより飯だ!肉だ!

 

彼の心は食欲で支配されていた。

 

 

酒場が静まり返りヒソヒソとざわめく。扉から十数人程度の団体の客が来たようだ。あらかじめ予約していたのか、鈴木悟たちの対角線上の誰も座ってない大きな円卓に案内されていく。

 

その大所帯は種族がバラバラだ。エルフやドワーフなど仲が悪いと噂される人種もいる。だが彼らの醸し出す雰囲気は統一の取れた歴戦の戦士達だ。この酒場の中にいるものでは到底太刀打ち出来ないだろう。その団体の正体はロキファミリア。その幹部などの中心メンバー達だ。

 

その中に剣姫アイズ・ヴァレンシュタインがいた。

 

ベルは見惚れる。彼女に一目惚れしてスキルが発現したくらいだ。目が離せないのは当然だろう。だが彼はすぐに紅潮した顔を机に伏せる。恥ずかしいからだ。それでも腕の隙間から彼女を見る。まばゆい黄金は彼の心を魅了する。

 

 

 

「遠征お疲れさん!みんな!よっしゃー飲めー!」

 

糸目で無乳の女の子が声を荒げて宴会の指揮を取る。彼女の名前はロキ。ロキファミリアの主神だ。

 

彼女の合図でロキファミリアの宴が始まる。

 

 

彼らは酒を飲み。飯を食らう。そしてダンジョンでの出来事ことに談笑し、会話に花を咲かせる。

 

「そうだ!アイズ。”6階層”で起きたあの話を聞かせてやれよ」

 

酔いで気を良くした狼人。ベート・ローガはふと思い出したように喋りだした。

 

「遠征帰りによぉ、17階層から信じられないような奇跡が起きて俺らから逃げ出したミノタウロス!お前、6階層で五匹ぶっ殺しただろ?そんでさぁ、あん時いたトマトみてぇな野郎は笑えたよなぁ!なぁアイズ!はは!」

 

ベートは続けて”トマトみてぇな野郎”を侮辱し嘲笑する。周りの団員はまたベートの変な癖が始まったかと皆苦笑いしていた。

 

その”トマトみてぇな野郎”はベル・クラネルだった。それを聞いたベルは嫌な気持ちになる。机に伏せていた彼の表情は苦悶に満ちていた。

 

大事な家族でもあり同じ眷属のベルをバカにされて彼を大切に想っている鈴木悟は怒りを覚えて良いはずだ。だが現場を見ていなかったためにトマトのような状態が白いウザギみたいなベルと結びつかなかったことと、食事に夢中な鈴木悟にはベートの暴言は騒音としか聞こえなかった。

 

なにやら具合が悪そうなうつむくベルに気づいた鈴木悟は様子を伺うように本日のおすすめである揚げたナマズのような魚を切り分け小皿に盛り、ベルに差し出す。

 

「どうしたんだベル。これ美味いぞ。食うか?」

 

うつむきながら首を横に振るベル。鈴木悟は本当にどうしたものかと首をかしげる。

 

本当に具合でも悪いのか?飲み物は酒じゃないから悪酔いでもないしなぁ。良いもの食って胃がびっくりでもしたのか?う〜ん。わからん。しかし、あの狼男うるさいな。

 

 

狼男のこと、ベートは調子に乗って喚き散らしいる。それと対照的にまわりの仲間らしき人達は愛想笑いなどで冷ややかだ。彼は1人で暴走しているみたいだ。

 

鈴木悟は彼をかわいそうにと思いながら見ていた。おぼろげによく酒の席で人の悪口を言いまくって怒鳴り散らす日本でのクソ上司を思い出しながら。その上司はよく影で悪口をいわれ、スレも乱立していたほどだ。おそらくあの狼人もそうなるだろう。

 

そんなことを考えていると、ベートが座っている円卓に見たことある褐色の少女が視線に入る。

 

ーあ、あの子。初めてここに来てあっためっちゃ好みのティオナちゃん。あの子可愛い顔してLv5なんだよなぁ。すごいなぁ・・・まて初めてここに来た・・・?

 

鈴木悟は疑問を覚える。何かおかしい。記憶が曖昧なのだ。それに昨日からやたらと記憶が抜けている感じがする。気のせいではない。

 

 

彼は自身の記憶が虫食いなことについて思案する。そのさなか、吠えていたベートは鳴りを潜める。その様子は言いたい言葉をためているように見えた。

 

 

 

「あのトマト野郎みたいな雑魚じゃ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 

 

ベートの声が酒場に響く。

 

 

 

ガタッ!椅子から乱暴に立ち上がる音がする。その言葉をきっかけにベルは酒場を出る。どうやらただ事ではないようだ。ベルの急な行動に鈴木悟はあっけに取られ、呆けている。だが彼はすぐに顔を締まらせ行動する。

 

「あ!ベル!すみません!後で勘定払うんで!」

 

鈴木悟はベルを追いかけようとして勢い良く酒場の出口に向かう。

 

 

 

 

 

「ミアかあちゃんの店でツケなんて肝の座っとるヤツやな〜」

 

その様子を見ていたロキの言葉は急な出来事で静かになった酒場の中に染み渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怖い・・・」

 

シル・フローヴァは小声で呟く。彼女は体を少し震わせていた。

 

シルは見てしまった。鈴木悟が気分良く人を蔑み暴言を撒き散らす狼人。ベート・ローガを見る目を。

 

その目は冷たい狂気で満ちていた。まるで人を人でない”汚物”としてみてるような・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴木悟はベルを探すために町中を走る。

 

 

「どこ行ったんだベルのやつ・・・」

 

 

あいつのせいだ。ロキファミリアの狼人。Lv5 冒険者。ベート・ローガ。あのクソ犬の言葉がベルの心を傷つけたんだ。

 

 

彼はギルドでよく調べ物をしたりしていたので上級冒険者である彼の名前も実力もある程度知っていた。情報は大事だ。それで生死を分けることもあるのだから。もちろん慢心しては意味がないが。

 

そのため、鈴木悟は彼に勝てないこともわかっていた。Lv5とLv1が戦ったらLvの低いほうが絶対負ける。ランクの差はそれこそ天と地の差なのだ。いくら才能があってステータスも高く、魔法も発現している鈴木悟でも勝つことは相当難しいだろう。

 

だから鈴木悟はベートの最後の言葉でベルが飛び出していたのに突っかかろうとしなかった。そして喧嘩を売ろうとしなかった。負けるからだ。それにそんなことよりもベルのことが心配だった。従って鈴木悟はベルを追いかけることにしたのである。

 

しかし、ベルがどこにいるか皆目見当がつかない。ホームか?路地裏か?ミアハ様のところか?それともダンジョンか?ダメだ。わからない。

 

鈴木悟は闇雲に町中を走る。ベル・クラネルを探すために。

 

 

「畜生!見つからない!どこだ!?」

 

長い距離を走ったためか彼の額から汗が吹き出ている。そして探し人が見つからないためか、その表情は焦りが見える。

 

「あのクソ犬のせいでベルが・・・」

 

足を動かしオラリオ中を走りまくる彼は自分の力のなさに嘆いていた。

 

 

 

家族さえ見つけることができない。家族を守ることもできない。そして傷を負わせたやつに立ち向かうこともできない。

 

俺は無力だ。ベルのことを気づいてやれなかった。ベルが何に苦しんでいるのもわからない。そしてあいつにだって敵わない。一発殴ることさえできなかった。

 

俺は弱い。力がほしい。力があればクソ犬をボコボコにぶちのめしてベルに謝らせるのに。

 

違う。そうじゃない。それだけじゃ足りない。俺にとって家族は、ベルとヘスティア様はいちばん大事なものだ。そんなことじゃ許せない。許せないんだ。

 

 

そう、力がほしい。もし力があるのならば、Lv5をぶちのめせる力があるならば、ベート・ローガを凌駕する力があるのならば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺してやるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!痛ってー!リヴェリアおろせー!」

 

ババァ!と喚くベートは同じロキファミリアのエルフの魔法使い、リヴェリアにどこからもってきたか丈夫なロープで、亀甲縛り?のような縛り方で店先に吊るされている。

 

「調子に乗りすぎだ。ベート。お前の言動はロキファミリアの威厳にも関わる。身をわきまえろ」

 

リヴェリアは凛とした声でベートに苦言を言い渡す。どうやら彼の暴言はやりすぎたみたいだようだ。そのため彼は彼女のお仕置きにあっていた。

 

 

「ふん。まったくあいつはロキファミリアに所属しているという自覚があるのか?」

 

「まぁまぁ。それくらいにしときなよ。リヴェリア」

 

団長であるフィンは彼女をなだめる。その様子は悪戯をした子供を怒る親をあやすように見える。

 

鈴木悟たちが『豊穣の女主人』を飛び出したあと、ロキファミリアのまだ彼らは酒場にいた。テーブルに座っている彼ら、特にフィンは先程の談笑の楽しい雰囲気と違って、真剣な空気になる。

 

「それにしても、7階層から6階層に登る階段であった人物何だったろうか?」

 

「あれは冒険者か?とても装備からしてそうは見えなかったな。武器も持っていなかったし」

 

フィンとリヴェリアの2人は奇妙な体験を思い出す。その様子を見ていたた同じ幹部のドワーフ、ガレスは疑問を覚える。

 

「なんじゃ?知らんぞそいつ」

 

「ああ、ガレスは現場にいなかったね。ちょうどいいみんなにも聞いてもらおう」

 

フィンは円卓についたメンバーにその人物について説明する。親指が折れたことも。

 

「なにー!?親指折れたぁ〜」

 

「そうなんだ。ロキ。もうリヴェリアに治してもらったから問題はないよ。でもこんなことは初めてだ。あれはヤバかった」

 

それを聞いたアイズは顎に手を置き何かを考えているようだ。他のメンバーは驚嘆しているのに対し、彼女の様子はちょっと浮いていた。

 

「どうしたんだアイズ。なにか気になることでも?」

 

「壁の裂け目・・・」

 

その言葉を聞いた皆は首をかしげる。彼女は続ける。

 

「6階層でミノタウロスを追ってたら・・・」

 

 

アイズが喋ろうとした時、漆黒が目に映る。酒場の雰囲気が変わった。新しく入ってきた人物に皆、視線が釘付けになったのだ。

 

 

「おいあれ、あんなやつ見たことないぞ」

 

「あの装備ただものじゃねぇな」

 

「あれ全部アダマンタイトか?」

 

ガヤガヤとその人物をみた人々は思い思いに感想を仲間内で話す。

 

 

その人物は黒い甲冑を纏い、二本のグレートソードを背負っている。鎧を着て特大剣を振り回すのはとても筋力がいる。それは普通の人では無理だ。おそらく彼は神の恩恵を受けた冒険者。おそらく装備の質が良いことから上級冒険者だと思われる。

 

だが、彼を知るものはここにはいない。不思議な事だ。高ランクの冒険者はギルドに周知され有名人が多い。それ故、名前さえわからないと言うのはおかしい。

 

彼は冒険者なりたてのボンボンか、違う国からやってきたのだろうか?しかし、前者ではあの重たいグレートソードを持つことさえ敵わないだろう。ということはやはり後者か?それとも・・・

 

 

「いらっしゃいませにゃー!席に案内しますにゃ!」

 

猫人のウェイトレスは彼に接客しようと声をかける。

 

「いや、食事と酒には用はない」

 

拒絶。彼の声は低く、とても冷淡だ。感情がない処刑人のような印象を受ける。

 

「先刻、飛び出していった者たちは私の知人だ。料金を支払っていなかっただろう?」

 

そう言って彼は腰のポーチから小さな袋を取り出す。

 

「これでいいか?足りなければもっと出すぞ?」

 

それを受け取った猫人、アーニャは中身を確認する。見たこともない金貨が一枚、二枚、三枚・・・合計100枚ほど入っていた。彼女は驚愕する。

 

おそらくこの金貨の価値は一枚、軽く1万ヴァリスを超える。いやもっと高いだろう。

 

アーニャはフレイヤファミリアに所属する上級冒険者であった。今は引退してこの酒場で働いているが。冒険者時代には高ランクの冒険者多いファミリアであったため、高級な装備をたくさん見てきた。そのため、それなりに目利きが良い。故にこのどこの国かわからない金貨の価値がおおよそであるがわかったのである。これはオラリオで使われているものとは金の純度が違う。

 

「多すぎですにゃ!この店のメニュー全部でも多いにゃ!」

 

金額が多すぎることに抗議するアーニャ。それに対する黒い鎧を着用している彼は彼女に背を向ける。

 

「そうか。それでは迷惑料として受け取ってくれ」

 

彼はそう言い捨てると、店先に吊るされていたベートの方へ向かう。

 

「なんだ?てめぇ」

 

情けない格好で軽口を叩くベートの前に立った彼は背にある二本あるグレートソードの一本を掴む。

 

「おい!何してんだおまえ!ぶった切るつもりか!?」

 

慌てるベート。彼は剣を振るう。ロープが切れて、ボトッと音がしてベートは床に落ちる。どうやら彼は見世物にされている狼人に対して哀れみを持ったようだ。

 

「ッチ!一応礼を言うぜ。名前なんていうだ?」

 

「・・・モモンだ」

 

彼の名前はモモン。神ミアハに鈴木悟にエリクサーの代金を払った謎の人物だ。

 

だが、モモンはベートに哀れみを持ったようではなかった。それの証拠にモモンはグレートソードの切っ先を目の前にいる狼人に向ける。

 

「貴様は彼が大事にしている人を傷つけた。お前には罰が必要だ。故に決闘を申し込もう」

 

ベートは話が飲み込めない。誰のことだ?文脈からするとあいつか?

 

「トマト野郎のことか?」

 

ブンッ!その言葉を聞いたモモンはグレートソードを振るう。特大剣の刃は酒場の壁をいともたやすく削る。されど、ベートは当然のように持ち前の俊敏さで避ける。

 

「いきなりアブねぇぞ!てめぇ!」

 

剣を振り抜いたモモンは彼を見ながら殺気だす。彼は本気のようだ。

 

「こちとら武器もねぇっていうのによぉ・・・いいぜ。その決闘受けて立つ」

 

 

 

 

 

 

彼らは酒場の外へ行き、向かい合う。酒場にいた連中も喧嘩という娯楽のためか野次馬のごとく屋外に出る。その中にはロキファミリアの面々もいた。しかし女エルフのレフィーヤを除いて彼らは冷静だ。

 

 

「ベートさんが!装備もないのに危ないですよ!団長!」

 

「たぶん心配ないと思うが。レフィーヤ。そうだな、じゃあアイズ取りに行ってくれ」

 

わかったと返事をしアイズは北のストリートにあるロキファミリアのホーム『黄昏の館』に向かう。彼女の脚力と風の魔法ならば5分から10分の間で帰ってこれるだろう。

 

「団長、止めなくて良いんですか?」

 

ティオネが問う。それは自然なことだ。完全装備の戦士と無手の者が戦うのだから。

 

「彼は本気だ。彼の言うとおりならベートが悪い。そして、その覚悟を止める資格は僕らにはないよ。それに・・・」

 

フィンは親指をさすりながら続ける。

 

「ベートなら負けないさ。ティオネもわかっているだろう?」

 

「確かにそうですけど・・・」

 

 

 

 

 

 

ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!

 

 

特大剣が空を切る音がする。モモンが振り回すグレートソードはベートには当たらない。

 

「へっ!遅せぇええ!」

 

ベートは余裕の表情だ。愉悦さえ感じられる。正直、モモンの斬撃を見た外野の上級冒険者達は見掛け倒しと思った。腕力こそLv3相当だが、それに頼った剣の腕はお粗末だ。事実、この中に彼に”接近戦”で勝てる人物は多いだろう。

 

「喰らいやがれ!」

 

ガァン!ベートの蹴りがモモンの兜にクリーンヒットする。彼は一瞬よろめく。その攻撃は強烈だった。

 

「硬ってえなぁ。その鎧はアダマンタイトか?」

 

モモンの鎧には傷は殆ど無い。もし仮にLv5、それも体術が得意なベートの蹴りを食らったら並大抵の防具ではグシャグシャになるだろう。

 

風を切る音が聞こえる。ベートの武装を取りに行ったアイズが戻ってきたようだ。彼女は彼にそれを渡そうとする。

 

「ベート。これ・・・」

 

「いや、いらねぇ。今で十分だ」

 

ベートはそれを断る。なぜならモモンの攻撃は彼に一度も当たらなかったからだ。それに攻撃もものすごく硬い鎧とってもいくらかは通じる。しかも喧嘩だ。だから身につける必要はないのである。

 

「装備しろ。ベート・ローガ」

 

「なんだと?」

 

だが、この決闘において劣勢であるモモンは自分に不利になることを言う。それは愚かなことだ。勝ち目がゼロになるようなものだ。モモンは続けて喋る。

 

「私をもっと楽しませくれ」

 

その言葉は弱者が言うものではない。そしてその煽りはベートに火をつける。

 

「雑魚が調子乗るんじゃねぇぇぇええ!」

 

ベートは彼の武器である素早く足甲。フロスヴィルトを装備し、怒りに身を任せ連撃をモモンに叩き込む。

 

ガンァン!ガンァン!ガンァン!

 

金属がぶつかり合う音がする。モモンはベートの攻撃に身を任せているように動かない。そしてそれは1分ほどで止んだ。

 

「はぁ。はぁ。本当に硬てぇ。マジなんなんだそれ」

 

どうやら、ベートが装備している第二等級特殊武装でも完全にモモンの鎧を破壊することは叶わなかった。しかし、殴打のあとが生々しく残り彼の甲冑はボロボロだ。

 

 

「ふむ。この鎧がここまでダメージを受けるとは」

 

ベートの攻撃を受けたモモンは鎧こそ痛ましいが平然と立っていた。普通なら鎧越しの衝撃で重症を追うはずだ。

 

「貴様はやはりLv5の実力はあるな。そしてわかったことがある」

 

彼の様子は表情こそ見えないがベートを見下しているように感じる。

 

「お前は私に勝てない。雑魚だ」

 

「っ!なんだとぉお!」

 

ベートのこめかみに青筋が立つ。その言葉は彼の一番キライな言葉だ。

 

「雑魚はてめぇじゃねぇえかああ!!!っ!?」

 

刹那。彼の目の前に平たい金属の塊が飛んでくる。それはモモンのグレートソードであった。

 

もちろんベートはそれを躱す。彼にとっては朝飯前のことだ。

 

「クソ!舐めやがって・・・!?あいつ逃げる気か!?」

 

モモンは特大剣を投げた後、ベートに背を向け走り去っていった。まさかの敵前逃亡である。

 

「待ちやがれ!!」

 

ベートは彼の後を追う。それが罠だと知らずに。

 

 

 

 

 

 

「あー団長どうします〜?」

 

ティオネはフィンに抱きつきながらこの場の処理をどうするか聞く。だが、彼の様子が変だ。額には汗がにじみ出ている。まるであの階段での出来事の時のようだった。

 

「親指が震えている・・・」

 

彼の親指は震えて危険を知らせる。それも尋常じゃなく。つまり震えているということは、

 

「ティオネ!アイズ!ベートを追うぞ!彼が危険だ!」

 

 

フィンは即座に追撃に向いているメンバーを選び、ベートの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつらはいったい・・・」

 

「団長・・・」

 

 

しかし、ベートを追跡していた彼らを待ち受けていたのは3体の血管が浮かび上がった漆黒の鎧を着用したアンデッド。デスナイトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベートはモモンの後を追う。彼は東と南東のメインストリートに挟まれたダイダロス通りに入っていった。ダイダロス通りは複雑怪奇な貧困層が住む集合住宅地区で、罠を張るのに最適な場所だ。普通ならば誘われている段階で気づくはずだが、ベートは酔いと怒りで気づけなかった。

 

「どこにいやがるんだ!?そこか!?」

 

彼はどんどん複雑になる細い道を進む。時折、黒い影が見えベートを奥へと誘う。

 

そして彼は薄暗い路地へとついた。そこは人気が全くしない。石壁に囲まれ何かが起こっても誰もすぐには分からないだろう。

 

「・・・何だありゃ?」

 

ベートは暗闇の中、黒い金属の物体を見つける。それはモモンが身につけていた鎧だった。

 

「なんでこんなものがここに・・・」

 

ベートは疑問を感じた。あやしい。彼はここにきてようやく自分が誘導されていることに気づいた。

 

 

 

「やはり、お前の性格なら追ってくると思ったよ」

 

「っ!?」

 

背後から冷淡な声が聞こえる。この声知っている。モモンの声だ。ベートは振り返ろうとする。

 

 

 

「《心臓掌握》」

 

 

グシャリと彼の体の中で何かが潰れた音がする。ベートは何が起こったかわからず石床に倒れる。

 

「ぁぁ・・・」

 

彼の意識が薄れていく。彼は死にゆくさなか暗闇に浮かぶ赤い2つの光る眼球のようなものを見る。それがベートが見た最後の光景だった。

 

 

 

 

ベート・ローガは死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この剣。どこ製のかな?」

 

褐色娘の呑気な声が聞こえる。

 

酒場に残ったロキファミリアのメンバー。ガレス、リヴェリア、ティオナ、レフィーアなどはモモンがベートに投げつけた地面に刺さっているグレートソードを観察していた。

 

「こんな高級品を使い捨てのように投げ捨てるなんてもったいないですね」

 

「そうだな。確かに勿体無い。私の見立てではティオナのウルガと同等かそれ以上だな」

 

エルフ2人は素直な感想を言う。

 

「えー!ウルガと同じくらいの武器を使い捨てにするの!?あれすごく高かったんだよう!」

 

ちなみウルガとはティオナが使う大双刀のことである。アダマンタイトをふんだんに使ったそれはゴブニュファミリアの鍛冶師が不眠不休で鍛え上げないとできない一品でありすごく高価なものだ。しかし、彼女は前のダンジョン遠征で溶かしてしまったため人のことは言えないだろう。

 

「ガレス。ドワーフのお前はどう見る。ん?ガレス?」

 

リヴェリアはガレスに意見を聞くため話しかける。だが彼の様子がおかしい。彼の表情は信じられない物を見ているようだった。

 

「これは・・・あってはならない。こんなものあってはいけない。」

 

彼はドワーフだ。鍛冶屋ほどではないが武器の良し悪しは見分けられる。だから気づいてしまったのだ。この剣は構造がデタラメだと。まるで誰か武器に詳しくない者が描いた絵をそのまま形にしたようなグレートソード。つまりどうやって作ったかわからないのである。

 

確かにこれを見よう見まねで作る事はできる。だが、構造が合理的ではないため強度に問題が起きてすぐ壊れるだろう。だがこのグレートソードはモモンの剛腕に耐えた。

 

「これはまるで魔法じゃぁ・・・」

 

そう魔法である。これは鍛冶屋が作ったものではない。鍛冶屋の意味がなくなる。だからあってはいけないのである。

 

後日、彼らはこの剣を詳しく知るため鍛冶系ファミリアに持っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ〜ん・・・ここは?」

 

ベートは目を覚ました。周りは石床。石壁で覆われている。ここはオラリオではないだろう。ダイダロス通りのとは材質と色が違うからだ。そしてどうやら大きい部屋のようだ。無数の朽ちた人形達が隅なくある。それは不気味だった。

 

「おや。割とすぐに覚醒するのだな」

 

目の前に”綺麗な”漆黒の甲冑を着たモモンがいた。彼の手には神聖な雰囲気を醸し出す短杖があった。

 

「質問に答えとこう。ここはダンジョンの72層。ピグマリオンの居城だ」

 

ダンジョンの72層。それは人類の未到達領域を遥かに超えた場所。

 

「あの人形は気にしなくていい。階層主がいなければ動かない。もちろん私が倒したが」

 

 

 

階層主を1人で倒す。それも深層の。オラリオの最強のオッタルさえでも難しいことを目の前の男はやってのける。冗談じゃないか?

 

 

モモンは腰にあるポーチから一本の短剣を取り出す。刀身は赤く、炎が揺らめいている様な雰囲気を感じる。これは魔剣だ。

 

だが、彼のではない。それはベートの物だった。

 

「お前の荷物を漁った時に出てきた物だ。鑑定をしたら魔剣と出た。これは一体どういう風に使うのかな?」

 

モモンは魔剣をベートの前に放り投げる。それはカランカランと音を立てて石床に落ちる。

 

「使い方を教えてくれ」

 

ベートの顔つきが険しくなる。怒りの表情だ。

 

俺はこいつに舐められてる。本当にムカつくやつだ。ぶっ殺してやる!!

 

ベートは床に落ちた短剣を拾い自慢の健脚で一瞬にしてモモンに近づき、彼の兜のスリットへと刃を突き立てる。その瞬間、魔剣から炎が溢れ出す。兜の中への攻撃。それも業火と共にだ。普通の人間ならば即死だろう。

 

「なるほど、力を込めて振れば良いのか」

 

即死。その攻撃は普通の人間ならば即死なのだ。それなのにモモンは平然としている。もはや人間ではない。異常だ。だが、ベートはそれに驚く余裕はなかった。次の攻撃に移ろうとしていたのだから。

 

「うぉおおおお!」

 

ベートは溢れ出る炎をフロスヴィルトに吸収させる。彼の足甲は魔法を取り込んで蹴りの威力を大幅に強化できる。その一撃は下層の階層主ですら簡単に死滅させるだろう。

 

彼はその蹴撃をモモンの頭に放とうとしている。その攻撃は当たれば死を意味する。

 

 

バァアアアアアン!!!!

 

轟音が鳴り響く。もはや金属と金属のぶつかる音ではない。

 

 

 

「その足甲も特殊なものだったのか。魔法を吸収させるとはなかなかのものだ」

 

 

 

ベートは恐怖する。彼の渾身の一撃が効かないのだ。幾度も迷宮のモンスターを葬ってきた必殺の技。それが本当に効かないのだ。モモンは相変わらず平然と立っている。

 

「だが、やはり私を傷つけられないとは・・・ゴミアイテムだな」

 

モモンはベートの蹴りを行った右足の膝を掴む。その瞬間、ジュウと音を立てて腐り始めた。黒い瘴気が立ち込める。

 

「うあああああ!」

 

 

 

ベートは足搔く。そして腐っていく嫌な音は彼の耳に入っていく。

 

だがモモンの手は離れない。

 

 

魔剣を振り回して炎をモモンに振りまく。しかし、ベートの方が防具が薄かったため火傷を負った。

 

だがモモンの手は離れない。

 

 

拳を黒い兜に突き立てる。彼の手は硬い物を殴ったのだ。ぐちゃぐちゃになった。

 

だがモモンの手は離れない。

 

 

狼人としての本能か。ベートは噛み付く。彼の歯も硬い甲冑に負ける。拳同様に砕け散り彼の口元は血まみれだ。

 

だがモモンの手は離れない。

 

 

 

そして肉が溶けるような音は消えた。ベートは石床に尻餅をついた。

 

「あぁ・・・俺の足が・・・」

 

ベートの右足の膝から先はない。腐りちぎれたのだ。狼人であるベートにとって、足は彼の人生そのものだ。彼の心は絶望で埋め尽くされているだろう。

 

そのちぎれた足甲のついた脛を持っていたモモンはそれを空間に波立ててた波紋の中にし仕舞い込む。

 

「ゴミアイテムでもいつか役に立つだろう。それにこれからの実験にはこれは邪魔だ」

 

モモンの声は相変わらず底冷えするような冷たさだ。そこに哀れみや高揚感などの感情は感じられない。

 

 

「お前には魔法の検証に付き合ってもらう。そうだな・・・とりあえず一万回死んでみようか」

 

 

 

一万回死ぬ?一回死んでしまったらおしまいだ。モモンはふざけたことを言う。しかし、彼には冗談に聞こえない。ベートは見てしまった。ベートの攻撃によって欠けた兜のスリットから見えた赤い光。死んだはずの彼が最後に見た同じ光。

 

 

赤い眼光を。

 

 

 

 

「さぁ、始めようか。”実験動物”君」

 

 

 

 




Q リポーター「アインズ様。なぜベートが生きてるでしょうか?」

A アインズ様「ここに蘇生の短杖があるじゃろ?」



Q リポーター「アインズ様は魔法でどんな実験をなさるんでしょうか?」

A アインズ様「※○○○○○○○○○」

  リポーター 「ひぇぇ・・・・(絶望)」



※これをお読みなっている方は想像してみましょう。




お知らせ。

次回の更新は、実はダンまちはアニメしか見ておらず、原作は読んでません。なのでこれから読みます。そのため遅れます。これからもよろしくお願いします。


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