鈴木悟がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ピュアウォーター

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前編後編と言いましたができの良いところまで書けたので中編として投稿させていただきます。

あまり待たせるのも読んでくださる方によくないですからね。

ps:いつも応援ありがとうございます!誤字報告や感想とてもうれしいです!


一万回死ぬ予定の狼 2

「うぅ〜ん。もう朝か」

 

社畜であった鈴木悟の朝は早い。彼は目を覚ました。

 

「いてて・・・」

 

彼は床に毛布などのクッションを敷いて寝たためか体中が痛い。

 

床などとホームレスじみたところで就寝するのは、神様や先輩のベルを差し置いて新参者の鈴木悟にはソファやベットなどを占領するのはおこがましすぎるためだ。

 

まぁそれは鈴木悟自身の提案だったが。

 

「ベルはまだ寝ているのか・・・!?」

 

彼はベルが寝ているソファに視線を向ける。

 

なんてこった。そこにはヘスティアと一緒に寝ているベルがいる。それはまるで初々しいカップルのようだった。

 

羨ましい。リア充爆発しろ。

 

彼は心のなかでそう思った。

 

鈴木悟は女性経験はない。童貞だ。故に仲陸まじい男女を見ると反射的に妬んでしまうのだ。残念な男である。

 

「って相手はヘスティア様じゃないか。何を考えてるんだか・・・」

 

ベル・クラネルと鈴木悟はヘスティアのことは異性とは見ていないつもりである。神様なのだから。彼女と彼らは次元が違う存在だ。それに彼女の眷属になったからには長い付き合いになるのだ。関係を壊すようなことをしたくない。

 

だが彼女のおっぱいは魅力的だ。あれは凶器だ。あの柔らかさにはどの男もやられてしまうだろう。母性を感じさせる乳房はあの日の宿で体験した時から鈴木悟も虜である。しかし彼はヘソフェチだ。ヘスティアはそういった服を好まない。なぜだ。見せてくれ!扇状的なヘソを!みたぁああい!

 

 

変態の戯言は置いておいて。

 

 

しかし、彼は二人で仲良く寝ている彼らを見て変な感情をもった。先程の発作を除いて胸のざわつきを覚える。なんだろうか?この感じはまさか・・・

 

「嫉妬しているのか?俺は?」

 

それはまるで妹や弟にかかりきりで親にかまってもらえない兄みたいな感情だった。

 

彼は大人である。だが親に甘えることは経験してこなかった。だからこそか、彼女のファミリアの眷属である今の彼はヘスティアを母として見立ててしまったのである。ベルは弟みたいなものだ。彼も親と兄弟が欲しかったがまさかここまで想っていたとは。そのためか、小さい頃に感じるようなそれを今感じていたのであった。

 

「本当に何考えてんだか・・・」

 

彼は吐き捨てるように呟いた。

 

 

 

 

 

朝早く、ベルと鈴木悟は教会のホームを出てダンジョンに向かう。先日、ミノタウロスによって死にかけたが彼らには、特に鈴木悟には休養を取るという選択肢はない。それは生活費もあるが、ミアハに使ってもらったエリクサーの代金を稼ぐためだ。ヘスティアは気にしなくていいと言っていたが、彼は気がすまなかった。

 

「ぅ・・・サトルさん。お腹が空きました」

 

「慌ててホームを出るからだよ。ベル。俺はちゃんと朝ごはん食べたよ」

 

「だって〜神様が・・・」

 

なんかサトルさんの機嫌が悪い。たしかに上に乗っかってた神様に動揺した僕が焦って朝ごはん食べずにホームを出たのが悪いんですけど・・・っ!?

 

「視られている・・・」

 

「どうしたベル?」

 

ベルは誰かに観察される感覚に陥った。まるで玩具を見定める子供のような、それでいてガラの悪い男が女にゲスな色目を送る性悪な感じだ。

 

「サトルさんは感じないんですか?」

 

「いや。感じないけど・・・どうした?」

 

だが、鈴木悟と会話してるうちにその視線は全く感じなくなった。

 

「いや・・・なんでもないです」

 

「そうか・・・」

 

普段は変な言動をしないベルにこの時ばかりは疑問に想ったが、鈴木悟は深く突っ込まないことにした。彼は空気が読める大人だからだ。

 

ベルも昨日のことで疲れていたんだろう。疲れは労働の敵!俺も日本じゃ・・・あれ?日本ってなんだ?

 

 

 

「あの・・・」

 

「「!」」

 

彼らは可愛らしい声に振り向く。それも素早く。すごい勢いでぐるんと顔を向ける様は異様だった。この童貞達は女性に敏感であったのである。

 

そこにいたのは綺麗な灰色の髪の15か16歳くらいの少女だった。かわいい。エプロンとカチューシャをつけていたためかどこかの食事処の店員かメイドだろうか?あとかわいい。

 

「うわっ!怖い!・・・ごめんなさい。ちょっとおどろきました・・・」

 

驚かしてしまったようだ。ごめんなさいと鈴木悟達は心の隅で謝った。

 

それにしてもなんだろうか?これはもしかしかして伝説に聞く逆ナン!?ならばこの波に乗るしかない!

 

そんなはずないだろうに鈴木悟は舞い上がっていた。

 

「すみません。こちらこそ可愛いあなたを驚かせてしまったようだ。ところで何の御用件で?」

 

鈴木悟はキリッとした顔で歯が浮くようなセリフを言う。何だこいつは。ロリコンか。そうだった。おのれペロロンチーノめ。

 

「は、はぁ〜。そちらの白髪の方がこれを落とされたので」

 

そんな気持ち悪い鈴木悟に愛想笑いをして彼女はベルの方を向く。

 

「え?僕ですか?」

 

ベルに彼女が差し出したのは紫色をした石。魔石だった。ベルは疑問に思う。

 

あれ?魔石は昨日、全部ギルドで換金したはずなんだけどなぁ。でも彼女は冒険者じゃないし・・・

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「もしかしてこれからダンジョンに向かわれるんですか?」

 

 

グゥ〜

 

そうですよ。と言いかけた時、ベルの腹は空腹に耐えきれず鳴った。

 

「・・・」

 

3人を沈黙が包む。ベルは顔が赤くなった。恥ずかしいっ!お腹の音を人に聞かれるなんて!しかも可愛い女の子に!

 

「ふふっ、お腹すいていらっしゃるんですか?」

 

「はぃ。恥ずかしながら・・・」

 

彼女はベルの答えを聞くと勤務しているだろうお店に入りダンジョンで食べるお弁当を持ってきて彼に差し出す。

 

お弁当を渡す。味によっては胃袋を掴んではなさないそれは、異性が意中の相手に愛情送る表現の一つだ。

 

「なん・・・だと?」

 

一見、カップルがするような行為は女性経験を渇望する男性には喉から手が出るほど羨ましいことだ。そのためか、それを蚊帳の外で見ていた童貞である鈴木悟の顔は死人のようだった。彼の心境はなんで俺じゃないんだ!朝ごはん食べなきゃ良かった!リア充爆発しろ!あと壁殴りたい。どこかにないかな〜という感じである。

 

つまり、ベルと少女の甘酸っぱくて青春のようなやり取りは彼には毒だったのであった。

 

「そ、そんな悪いですよっ」

 

「このまま見過ごしてしま「うわああああああああああああああああああああ」って。え?」

 

鈴木悟はこの場から逃げ出した。彼にはこの雰囲気が耐えきれなかったのだ。

 

「サトルさん!?まって〜!」

 

「冒険者さん。まだ話は終わってないですよ!」

 

鈴木悟を追いかけようとしたベルは目の前にいた可愛い女の子に手を掴まれる。

 

そして、残った二人は甘酸っぱい青春を再開するのであった。

 

 

 

 

 

ここはダンジョンの上にある天高くそびえる塔。バベル。その最上階に美の女神。フレイヤはいた。

 

「うふふ。いいわ〜あの子。魂が透き通って・・・美しい。あぁん。」

 

彼女はベルを視姦していた。それは先刻、彼の感じた視線の正体だった。

 

はぁ。はぁ。と鏡の前で息が荒く発情している女神のそばに筋肉隆々の男が立っていた。

 

その者の名は【猛者】オッタル。オラリオ唯一、最強のLv7の冒険者である。

 

彼は口元が唾液で湿っているフレイヤを見てこう思った。

 

ああ。よだれを垂らしてだらしない顔してても美しい・・・

 

オッタルはフレイヤの狂信者だったのである。フレイヤというだけで彼はなんでも受け入れるだろう。こいつらやばい。

 

 

 

 

美の女神は締まりがない顔をキリッとさせる。何か思うことでもあったのだろうか?

 

「あら。隣に居る彼の魂・・・」

 

フレイヤは魂の色を見ることができる。それと彼女の目の前にある鏡は外の風景を自由に見ることができる魔法具だ。

 

彼女が見ていたのは鈴木悟だった。

 

「何の変哲もない色なのに・・・」

 

鈴木悟の魂はそこら辺に居る普通の街人と大差がなかった。本来ならばフレイヤの興味を引くものではない。

 

「この黒い線みたいなのは何かしら?」

 

だが、鈴木悟の魂には普通ではないものがあった。それは黒い煙。それが線となって彼の魂に纏わりついていたのである。

 

フレイヤは凝視する。見たことないものだったからだ。

 

その線は次第に形を作り躯のようなものになる。フレイヤの視線は釘付けになった。

 

「不気味・・・何なのかしらこれは・・・」

 

そしてその頭蓋骨はカタカタと揺れ動き、言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 

ーおまえ、視ているな?

 

 

 

 

 

「フレイヤ様!」

 

刹那、フレイヤの前にバチバチと紫電が舞う。

 

バァアアン!と爆発音がバベルの最上階を包む。鏡は砕けちり、周りに物と血肉が撒き散らされた。

 

 

「フレイヤ様・・・ご無事で・・・」

 

ポタポタと水滴が落ちるような音がする。

 

彼女はオッタルが盾になったことで辛うじて無傷だった。しかし、オッタルは肩から背中にかけて爆破の衝撃によって肉がほとんどえぐられていた。その傷によって彼は死に体だ。

 

本来、Lv7のオッタルを傷つけられる存在はあまり多くない。オラリオの中でも精鋭であるロキファミリアの主力戦力達が全力で挑むことでやっと彼の体に攻撃が届くのだ。されども、先程の魔法によるものか分からない爆発は一発で彼を瀕死に追いやった。

 

これは逸脱したことである。

 

 

 

フレイヤはオッタルに被されながら鈴木悟の魂の色を思い出す。あの爆破の瞬間、彼の魂の色が変わったのである。

 

その色彩はまるで我々神のようでそうではない複雑で美しい色だった。それでいて、とても薄気味悪かった。

 

「ヘスティアはとんでもないものを拾ったわね」

 

フレイヤの凛とした声は瓦礫だらけの部屋に広がった。

 

 

 

 

 

 

「畜生!畜生!畜生!畜生!畜生!」

 

壁をガンガンと砕き殴る男性がいた。その光景は異様であり非生産的で哀愁が漂う。とても硬い材質のはずなのだが、彼の手は無傷だった。恩恵を受けたためか、彼の耐久が岩壁を上回ったのだ。そして力があるためか、拳を振り下ろすたびに壁がえぐれていく。

 

「うわ・・・またかよ」

 

「またぁ!?こわっ!きもいっ!」

 

「そっとしとこうぜ。みんなも関わらないようにな」

 

それはダンジョンの入り口から入ってすぐの一層エリアだったためか、他の冒険者がたくさん目撃されていた。

 

最近、割と頻繁に見かけるそれはダンジョンの珍名物になっていた。

 

冒険者には《壁砕き》ウォールクラッシャーと呼ばれている。

 

 

その男性の正体は、

 

「畜生!畜生!ベルの畜生が!!!」

 

鈴木悟だった。

 

 

幸いにも壁殴りをしている彼に顔は修羅のようであり、普段の温厚で人畜無害そうな雰囲気からかけ離れてて鈴木悟だと認識できなかった。

 

もし正体を知ったならば誰しもが、

 

「え?えぇ〜!?!?!?」

 

と反応するだろう。

 

 

 

 

「サトルさん〜〜〜先行かないでくださいよぉ〜」

 

ラブロマンスを繰り広げてきたベルは先行してダンジョンに入っていた鈴木悟の元に向う。

 

「うるせぇ!このラノベ主人公!」

 

「そんな!酷い!」

 

壁を殴りまくっている鈴木悟の元についたベルは暴言?に見舞われる。理不尽だ。

 

「あぁ〜またやってますね。はぁ。いつもこうじゃないのになんで・・・僕が悪いことをしたのかな?」

 

 

 

時たま、サトルさんはおかしくなる。僕は何回か目撃している。毎回思うが、何が原因で普段は冷静沈着な彼がここまで変わるんだろうか・・・一体何があったんだろう?

 

でも、安心した。いつものサトルさんだ。記憶を失っていてもサトルさんはサトルさんだ。

 

昨日の深夜、神様に呼び出されてサトルさんがユグドラシルについての記憶が失ったことを聞いた。その時の神様は小さい体を震わせていて、とても不安な顔だった。サトルさんのステータスの更新で何かあったに違いない。でも神様はそれについては何も言わなかった。そして明日、彼の様子を見てほしいと頼まれた。記憶を失ったことで悪い変化が起きるかもしれないからだと。

 

でもそれは神様の杞憂だったみたいだ。むしろユグドラシルの記憶があったときよりサトルさんは元気だ。それにあの記憶で死にかけた彼にとってそれを失ったことは良いことかもしない。たぶんそうだ。もうあの惨劇は訪れないのだから。

 

 

 

 

「いくぞ。ベル」

 

「はい!サトルさん!」

 

彼らはダンジョンの一層の奥深くへ行く。今回は昨日、ミノタウロスによって死にかけたためか、鈴木悟達は安全な入り口に近い浅い階層で稼ぐつもりだ。七階層まで潜れる実力がある彼らにしては慎重すぎるかもしれないが冒険者は冒険してはいけない。慢心などもってのほかだ。それに彼らは身をもってそれを体験したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「サトルさん〜。一緒にいきましょうよ〜」

 

「いやだ。誘われたベル1人で行けばいいじゃないか」

 

鈴木悟はソファの隅で体育座りをしている。その様子は駄々こねている子供のようにすねていた。

 

 

 

ギルドで魔石を換金した彼はホームへもどっていた。ベルは夕食を朝にであった可愛い女の子。シル・フローヴァ(なに!?名前を聞いただと!?)が働いている『豊穣の女主人』という食事処に彼女直々に誘われていた。羨ましい。

 

それに鈴木悟はギルドでベルの担当アドバイザーであるエイナ・チュールが彼と楽しそうに話しているのを見ていた。可愛い女性と話しているだけで嫉妬してしまう。

 

ー悔しい。俺の担当アドバイザーなんて男だよ。不幸だ。

 

だから、今日は色々と嫌な思い出が重なってしまった鈴木悟はふてくされていた。

 

「あ〜残念です。あそこの店員さんは全員若い女性なのに・・・」

 

若い女性?やめろ心を揺さぶるな。確かにシルさんは若くてかわいいかったけど、他はきっとそんなに綺麗じゃない。何度画像修正ソフト詐欺にあったか。

 

彼はおぼろげと上司に無理やり連れて行かれたキャバクラのことを思い出す。

 

ーあれ?こんな記憶あったっけ?なんだろう。

 

 

「しかもみんな可愛いらしいですよ。サトルさんが好きそうなエルフっ子や猫娘、それにスレンダーな子だって・・・」

 

「ガタッ!?」

 

顔をニヤニヤとしてるベルは鈴木悟を行く気にさせる言葉を言う。彼はもちろん鈴木悟の性癖を把握している。鈴木悟自身が熱く語ってくれたからだ。それにベルは1人で食べるよりみんなで食べに行ったほうが楽しいと考えていた。

 

「ベル」

 

「何でしょう?サトルさん」

 

体育座りをやめた鈴木悟は立ち上がり、真剣な雰囲気を醸し出す。

 

「一緒に行こうか」

 

その言葉を言った瞬間、鈴木悟の顔はニヘラ。とだらしなくなった。こいつ、下心丸出しである。

 

 

 

 

 

「ただいま〜ベル君!サトル君!」

 

 

「あ!神様おかえりなさい!」

 

「ヘスティア様。おかえりなさい」

 

 

バイトからヘスティアが帰ってきた。鈴木悟達がベル1人の時より稼いでくれるとはいえ、まだまだ懐は心許ない。それにミアハの件もある。恩は返すものだ。

 

「あ!今日外でサトルさんと一緒に食べるんですけど神様もいかがですか?」

 

「うぅ〜ん。行きたいけど・・・せっかくベル君に誘われてるのに〜。今日は先客があるんだ。ごめん!」

 

行きたかった〜とすごく落胆してるヘスティア。どうやらベルの誘いはタイミングが悪かったようだ。

 

「ヘスティア様。お土産買ってきますよ」

 

「ありがとう〜サトル君!」

 

鈴木悟は気を利かせる。自分たちだけが美味しいものを食べるのは気が引けるし、普段の食事は前にいた場所より質が良いとは言え、質素だ。ヘスティアには少しでもいい思いをしてほしい。それが彼の思いだった。

 

 

そして、ヘスティアに別れを告げた彼らは『豊穣の女主人』に向かった。

 

 

 

 

「さてと、ボクも行かなきゃ」

 

コートは着たヘスティアは紙の包みを持って西のメインストリートの外れへ向かう。袋の中身はガラス瓶が入ってるようで重みが伺える。

 

彼女の足取りは重い。その表情は何か張り詰めた様子だった。

 

 

歩くこと数分。ヘスティアは目的地である、医神ミアハが居るところ『青の薬舗』についた。

 

カランコロン。

 

彼女は薬品を売る店でもあるミアハのホームの扉を開ける。時刻が遅かったためか客はいない。それどころか女性の店員が本を読んで薬草か何かを弄っている。とても集中しているようだ。彼女の”白い右手”は植物の汁のせいか緑に染まっていた。

 

「今日はもう店じまいですよー」

 

どうやらもう終業時間だったみたいだ。だがヘスティアは薬には要はない。

 

「こんばんわ。ミアハは居るかい?」

 

「あ・・・ヘスティア様こんばんわ。ミアハ様なら奥に・・・あ。きた」

 

目の前の散らかっている机から目を離さない彼女は雑に対応する。普段ならケチではあるが面倒臭がり屋ではない彼女だ。よほど目の前の調合が大事なのだろう。それかとっても値段の高い特別な霊薬を鈴木悟に使ってしまったことで機嫌が悪いのだろうか?

 

ヘスティアの目的の神は声を聞こえたらしく、部屋の奥からやってきた。彼の名前は医療を司る神。ミアハ。ヘスティアの眷属である鈴木悟を救った神物である。

 

「やぁ!ヘスティア。こんな夜遅くにどうしたんだい?」

 

ミアハの様子はとても明るい。何か良いことでもあったのだろうか?雰囲気がヘスティア正反対だ。

 

 

「ちょっと相談したいことがあって・・・」

 

「お!そうか。じゃあ奥へ」

 

そう言って、ミアハは彼女を落ち着いて話せる場所へ案内する。

 

 

 

 

 

「ミアハなら記憶についても詳しいよね」

 

 

椅子に座ったヘスティアは記憶について医神に相談する。

 

彼女は鈴木悟のユグドラシルの部分とその周辺の記憶だけがすっぱりと消えたことに疑問を覚えていた。何か人為的なものを感じる。

 

 

そんな綺麗に消えるものなのか?その割にはボク達のことはしっかりと覚えているし。

 

それにあの文字。己を否定した。ということは自分で記憶を消したということじゃないのか。

 

 

 

「特定の記憶を消す方法?」

 

「そうなんだ。実は最近、親しい人で記憶を無くしちゃった人がいるんだ。それも一部分だけ。そして、その記憶は彼の重要なもの。だから知りたいんだ。」

 

親しい人か。ヘスティアもやっと男が・・・とヘスティアは鈴木悟の名前を出さなかったため彼は勘違いしていた。

 

言葉足らずだが、ヘスティアは鈴木悟の名前を出そうと思わなかった。彼にまた深入りさせて迷惑をかけたくないからだ。

 

しかし、その問いにミアハは顔をしかめる。その様子は彼女に満足な答えを出せそうにないと言った感じだった。

 

「ん〜。記憶を消す方法はあるが、特定のと言うと難しいな」

 

そう言って彼はヘスティアにおおまかに記憶の消し方とその症状を伝える。その内容は望んだ記憶をなくすのは困難だというものだった。

 

「それに記憶は完全に消えるものじゃない。脳の何処かに残るものだ。本当に消滅させたいのならムネモシュネのような神がもつ記憶の権能か珍しい記憶操作の魔法を使わないと無理だろう。」

 

物理的に消すのならば脳を切除すればいい、その場合は廃人になってしまうが。とミアハは冗談を言う。

 

神の権能がなければむずかしいなんて。それにそんな魔法は習得してないはずだ。彼は記憶に消すのに本当に何をやったんだろうか。

 

二人共難しい顔をしてうーん。と考える。八方塞がりだ。その時、ミアハはヘスティアが手に持っていた紙袋に目が止まる。

 

「あ。これもミアハに聞きたかったんだ」

 

思い出したようにヘスティアは包みからエリクサーが入っていたと思われるガラスの瓶を取り出す。

 

「ヘスティア・・・これをどこで?」

 

それを見た彼は貴重なものを見るような目をしていた。

 

「ぎくっ!君の反応からするとやっぱりすごく高いのかな?」

 

「そうだな・・・前に教会での治療に使った霊薬と同等かそれより高価だろうな」

 

そう言って彼は部屋の隅にある木箱からヘスティアの目の前にあるテーブルに中身が入った同じ瓶を置いた。

 

その霊薬の色は血のように赤かった。

 

「エリクサーじゃなくて・・・血?」

 

「ちなみにこれはエリクサーじゃない。欠損や外傷など肉体を治癒することだけを極めたポーションだ。

 

効果はすごいぞ。なんせ神の力で作ったものに迫っているのだから。いや超えているのかもしれない!成分を調べているがわからないことだらけだ。未知だ!これを解明すればもっと良いものが作れる。はは!ナァーザもこの霊薬のおかげで腕が生えた。そのせいか彼女の薬制作に熱が入ってたよ。右手を動かすのもとても楽しそうだったよ。他にも・・・」

 

彼は世紀の大発見をした探検家のようにすごく上機嫌で喋る。あまりにも話したいことがあるのかミアハの口は中々止まらない。

 

 

 

ー確かに店番にいた彼女は確か義腕だったような・・・あ。さっき見た彼女の手は白かった。

 

「な、なんでミアハがこれを持っているんだい?」

 

「黒い甲冑を来た男性に貰ったんだ。君の眷属のサトル君を助けたお礼だと言ってな、3本貰った。それと見たことのない金貨をたくさん置いていった」

 

ミアハは困った顔になった様子で話を続ける。

 

「正直私が作ったエリクサーの代金にしては多すぎたんだが、彼は早々に立ち去ってしまった。彼の善意に甘えることにしよう。ナァーザも喜んでたしな」

 

ミアハはヘスティアに顔を向ける。

 

「だからもうお金のことは心配ないぞ。ヘスティア」

 

「っ!?」

 

ヘスティアはとても狼狽えている様子だった。とても代金を払ったことに感謝を覚えられない。その男性に心当たりがないからだ。

 

それは誰なんだ?黒い鎧?そんな人は知らない。不気味だ。なぜ貴重な物を渡す。なぜお金を払う?そいつはサトル君のなんなんだ?なんで彼が死にかけたことを知っているんだ?そいつがベル君を助けたのか?なんのために?どうして。彼女の心は疑問だらけだった。

 

 

「その人の名前は・・・」

 

ミアハは彼女の言葉に顔をしかめる。どうやらヘスティアの眷属かそれの知人だと思ったらしい。

 

「知り合いではないのか?」

 

「ああ」

 

ミアハはう〜んと顎に手を当てながら天井を見上げる。黒い甲冑を着た人物のことを思い出している様子だった。

 

 

「確か・・・”モモン”と言ってたな」

 

 

 


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