鈴木悟がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ピュアウォーター

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オーバーロードで一番好きなキャラはもちろんアインズ様です。


2017/9/4 玉座の階層とシューティングスターの効果を修正しました。

2017/9/18 アルベドの設定改変のとこを修正しました。


プロローグ

ここはナザリック地下大墳墓の中。10階層の最奥。玉座の間。

 

アインズ・ウール・ゴウンのギルドの印が書かれた真紅の大きなタペストリーの前に一つの巨大なクリスタルからくり抜かれた豪華絢爛な椅子があった。

 

そう、これは玉座である。

 

そして玉座に座る骸骨。アインズ・ウール・ゴウンのギルド長のモモンガはそこに座していた。その隣には美しい女性の従者アルベドがいた。

 

「なんでだぁーーー!なんで簡単に捨てられれる!」

 

彼は憤慨していた。

 

しかし主人であるモモンガの取り乱しようにアルベドは何ひとつ反応しない。

 

彼女はNPCである。ただのデータにしかすぎない。慰めたり話しかけるのも無理なのは当然である。

 

 

 

モモンガは孤独であった。

 

 

 

 

 

今日はユグドラシルというDMMORPG形式のゲームのサービス停止の日。

 

 

 

ユグドラシルが終わる日。

 

廃課金プレイヤーのモモンガにとっては訪れてほしくない最悪の日であり最後に引退した友人達と会える最優の日でもあった。

 

友人達と会えるはずだった。

 

 

 

引退した友人達にモモンガはあらかじめ再会したいというメールを送っていた。

 

しかし来たのは1人。

 

その1人である最後にあったエルダーブラックウーズのヘロヘロさんもブラック企業のプログラマーである彼は急な仕事が入ってしまいすぐに帰ってしまった。

 

モモンガにとってアインズ・ウール・ゴウンは心の拠り所であり絆。家族みたいなものであった。

 

だがメンバーは数年前から皆は現実を優先してしまい引退してしまった。

 

リアルは大事であることはモモンガは知っている。それはしょうがないことだとも知っている。仕事が忙しいことも、事件の捜査が理由で来れないことも、新作のエロゲープレイするので忙しいことも。

 

全部わかっている。

 

現実がひと段落したらいつかきっとみんな戻って来てくると知っていた。

 

そしてまた楽しい時間が始まるのも知っていた。

 

だから皆がいつでも戻って来られるようにギルドを1人で維持していた。

 

毎日ナザリックの維持費を稼ぐために狩場に赴いた。

 

体調が悪い日でも、深夜まで残業した日でも、上司に叱責された日も、

 

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日・・・

 

彼は仲間がいた居場所を守った。

 

けれど彼らは来なかった。

 

彼らが戻ることを知っていた。違う。そう思いたかっただけだ。それは妄想である。

 

モモンガは妄想であると知っていた。そう思いたかった。帰ってくると信じていた。

 

人はそれを希望と呼ぶ。

 

その希望は今日、見事に砕かれてしまった。

 

「わかっていたんだ・・・みんなはもう帰って来ないって。」

 

モモンガの心は絶望の色に染まっていた。

 

 

 

 

 

玉座に座っていたモモンガは隣にいるアルベドをふと見る。とても美しい女性でモモンガにとってはタイプの女性だった。

 

それ故か、感情の不安定なモモンガでも気になってしまった。

 

「作ったのはタブラさんか。設定魔だったよな覗いてみよう。」

 

モモンガはコンソールを開きアルベドの設定欄を見る。

 

「うわ!長い!」

 

あまりの情報量の多さに驚く。そして最後の文章に目が止まった。

 

「ちなみビッチであるって・・・タブラさん・・・」

 

モモンガはあまりに酷くて可哀想だなと思ってこの部分だけ変更しようと決めた。

 

変更内容は・・・

 

「モモンガを愛しているっ。よし!字数もぴったりだしこれでいいだろう。くふー!」

 

普段なら大切にしてたギルドメンバーが作ったものを勝手に使ったり、改変しないはずのモモンガはこの時ばかりはサービス停止やらなんやらでタガが外れていた。

 

 

 

 

モモンガを愛している。

 

モモンガは自分で書いた文を見た。

 

 

愛している。

 

 

愛。

 

 

この言葉がモモンガの中身である鈴木悟の心にはとても深く刺さった。

 

鈴木悟は愛を与えられて生きて来なかった。両親はすでに死んでおり、兄弟もいない。

 

彼は現実では1人だった。愛に飢えていた。人との触れ合いが欲しかった。

 

そんな時ユグドラシルに出会った。

 

そこで彼は素晴らしい仲間に会い、強敵を倒しアインズ・ウール・ゴウンを作り、絆を育んで来た。

 

掛け替えのない素晴らしい時間だった。

 

そこに愛を感じていたからだ。

 

しかしそれはただのゲーム。

 

ゲームでの付き合いなど家族や恋人など愛に比べたら脆い。そして彼ら去ってしまった。

 

そんな脆い愛でも鈴木悟にはとても大事なものだった。たとえそれが一方的なものでも。

 

それがギルドの維持に掻き立てた。愛を、絆を守るために。

 

 

そして家族がいた場所を守るために。

 

 

家族?

 

 

 

「そうか、俺は家族が欲しかったんだ。」

 

 

 

彼は気づいた。自分が本当に欲しかったもの。ユグドラシルに求めていたもの。

 

 

ユグドラシルはゲームであり、唯の娯楽であって現実ではない。虚構だ。

 

彼が本当に欲しかったものはユグドラシルでは手には入らない。

 

彼は現実で頑張ってて手に入れるべきだった。

 

引退した皆だって、夢を叶えるため現実で頑張ったじゃないか。

 

俺は今まで何をして来た?何年を無駄にした?そこでなにを得たんだ?

 

鈴木悟は小卒である。そして近未来である日本においては貧困層であり、社会の替えのきく部品でしかない。貯蓄は全てユグドラシルの課金に使いほぼ無い。しかも世界は死の霧で満たされており、ガスマスクなしでは生きていくのも富裕層以外は困難な場所。

 

彼はきっと結婚もできず恋人もできず死んでいくだろう。

 

家族を作る。それは現実ではとても難しかった。

 

 

 

だからこそ彼はユグドラシルに固執した。

 

 

 

 

モモンガがアイテムボックスから指輪を取り出す。

 

それは流れ星の指輪。シューティングスターと呼ばれるものだ。

 

これは課金ガチャで手に入れられるアイテムでとても希少なもので、3回まで願いを叶えられる。いわゆる当たりアイテムだ

 

モモンガはその指輪を使う。

 

「さあ指輪よ。I WISH(俺は願う)!」

 

指輪が光りを放つ。

 

ー ギルドのメンバーを思い浮かべながら。

 

「俺に家族をくれ」

 

指輪にかしめてある3つ宝石の1つが砕け散る。

 

ー アルベドのような美女を思い浮かべながら。

 

「俺を愛してくれる人をくれ」

 

2つ目の宝石が砕ける。

 

ーそして日本ではない幸せになれる何処かを浮かべながら。

 

「俺を違う世界に連れていってくれ・・・」

 

3つ目の宝石が砕ける。

 

 

 

 

 

 

 

静寂が辺りを包む。なにも起きない。

 

 

 

 

 

 

この指輪はゲーム内での願いを叶えるアイテムである。この指輪の効果はランダムに選択肢が出てきてその中から1つ選ぶというものだ。その中から選ばなかった場合、無駄に消費される。

 

故にシューティングスターは力を発揮せずその輝きを失ったのである。

 

それにモモンガの願ったことは上位互換の願い事にゲーム運営会社が対応してくれるワールドアイテム。ウロボロスでも無理だろう。

 

 

それはモモンガにもわかっていたことだ。

 

「はは、俺は本当に今までなにをして来たんだろうか」

 

 

 

俺は只々逃げていただけだ。

 

この世界に逃げていただけだ。

 

現実と向き合わず逃げていただけだ・・・

 

 

 

彼は椅子に生気が抜けたように力なく座る。

 

「うぅ、うぅ・・・」

 

彼のすすり泣く声が玉座の間を包む。

 

「ゔっー!ゔゔっー!ゔゔーーーー!」

 

そして魔王の嗚咽はナザリック全体を包んだ。

 

 

 

 

 

 

「心拍数の異常を検知。ゲームを強制終了します」

 

コンソールに映る文字と機械音声。

 

それは鈴木悟にとってそれは新たなる絶望を意味することだった。

 

 

 

 

 

 

 

「心拍数に異常を検知。ゲームを強制終了します」

 

無慈悲な声が鳴り響く。

 

「えっ!待ってくれ!」

 

モモンガは焦った。とても。

 

 

VR法で定められたゲーム会社に課せられた義務。それは

 

"脳波。眼球機能。心拍数などの身体の異常が出た場合、安全のためゲームを強制終了すること。"

 

ここまではいい。またすぐにゲームを起動させれば良いのだから。

 

しかしこれには続きがある。

 

"安全を確保するため、遊戯利用者は2時間の休息をとることを強制すること。"

 

ユグドラシルのサービス停止まであと15分。

 

つまりモモンガはユグドラシルの最後に立ち会えないのだ。

 

 

 

画面が真っ暗になったVRギアを鈴木悟は外す。

 

顔が濡れている。そうか、俺は泣いていたのか。

 

ユグドラシルにはもういけない。俺の全てが詰まった場所。

 

 

こんな形で引き離されるなんて夢にも思わなかった。

 

全てを急に失ってしまった。まるで拒絶されるように。

 

「俺はあっちの世界にも居場所はなかったんだな。」

 

今の彼はとても弱々しかった。

 

 

とても暗い部屋。彼の心を写すような暗さ。そこに鈴木悟はいた。

 

 

「俺はこれからなにをすればいいだろうか?」

 

「このまま生きる意味はあるのか?」

 

「俺はなんで生きているのか?」

 

誰かに問いかけるようにブツブツと喋る彼は不気味だった。

 

 

「俺は生まれるべきではなかったのか?」

 

 

 

誰も答えることはない。

 

 

 

もし彼に家族がいたら、

 

もし彼に恋人がいたら、

 

もしギルドのメンバーがそばにいたら、

 

もし彼がゲームから追い出されなければ、

 

もし"NPC"が自我を持って接してくれれば、

 

彼は自分の存在を否定しなかっただろう。

 

でもそれは"IF"のお話だ。

 

 

 

 

鈴木悟は玄関を開けてガスマスクを付けずに外に出た。

 

そうガスマスクを付けずにだ。それは死の霧が舞う世界では自殺行為だ。

 

彼はもはや生きる意味がわからなかった。

 

 

鈴木悟は死の霧の中を彷徨う。

 

「おい!見ろよ!あいつマスクしてないぞ!」

 

「あひゃひゃ!死んじゃうぞー」

 

「アレには近づかないでね。汚いから」

 

 

街中の人々は彼を奇異の目で見たり、蔑みの目で見る。

 

そこには助けようとする博愛の精神はなかった。

 

 

彼にとってもはやそんなことはどうでもよかった。

 

霧がとても心地よく感じる。

 

段々と手足の感覚がなくなって行くのを感じる。

 

23:59:45

 

目ももう霞んできた。

 

23:59:50

 

ああ。楽しかったなぁユグドラシル。

 

23:59:55

 

神様。もし願わくば次の人生は・・・

 

23:59:59

 

家族が欲しいです。

 

00:00:00

 

 

 

 

 

 

 

「願いは受理されました」

 

 

 

 


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